食事を終えて二人がデザートにりんごの蜂蜜焼きを嗜む中、不意にウェイトレスの装いのくすんだ金髪の少女が声を掛けてきた。
「あら?ごめんなさい?質の悪い宿屋で」
「いや‥そんな事はない‥」
「‥とてもおいしかった」
どうやら先程の会話を聞かれていたらしく、空いた皿を下げるに際して彼女は、嫌味を一言この場で吐いてみせた。
「こっちの子は随分と良い子だね。貴方とは違って」
「勘弁してくれ‥。これで構わないだろう?」
「これって‥。うふふ‥。ありがとうございますっ。身体拭く布とお湯、お部屋に置いておきますねっ。どうぞごゆっくりっ」
これに応じて辟易とした表情で受け答えたヘルゲイは、懐から本来の代金よりも上乗せしたチップを店員の手に握らせた。
すると彼女は先程の不愉快そうな面持ちから途端、雰囲気をパアッと明るく勝気な笑みを浮かべると、弾んだ声で態度を一転させた。
「‥げんきん」
「まぁ、あんなものだろう?」
次いで溌剌とした調子で踵を返したウェイトレスは、浮ついた軽やかな足取りで、再び厨房へと帰っていった。
そんな女の背をじっとりとした目で眺めながらシャーロットは、少しばかり呆れた素振りを露わとした。
そして、シャーロットはその大粒の宝石の如き美しい瞳を僅か伏せると共に、再びヘルゲイに向き直り言った。
「ごめんなさい」
「急にどうした?」
「あなたにばかり、たよってしまっているから」
「なんだそんな事か。そんなもの一向に構わんさ。何せ君と会うまではロクな使い方をしていなかったからな」
「おさけ?」
「ああ。今考えると本当に阿呆な事をしていたと自分でも思うよ」
「‥そう。でも、いまはちがう」
「勿論それも君のお陰だ」
ヘルゲイの言葉は歴とした事実であり、彼は以前酒浸りであったが、シャーロットとの出会いを介して心に余裕を持つ事が出来た。
その為断酒を続ける事にいとも容易く成功し、今となっては一滴たりとてアルコールを嗜む機会は無かった。
そしてこれも彼自身の言の通り、シャーロットとの関わり合いを持ったのを機に、なるべく酒を嗜まない様にしようと心掛けていた。
だからこそシャーロットの慈愛を与えられたのも相まってそれにヘルゲイは、これまでにない充実感を覚え、それで完全なる禁酒を果たしたという塩梅だった。
「さて、と。そろそろ部屋に行こう」
「‥ん」
すると話している内にシャーロットが眠たげに瞳を胡乱にさせているのを前にして、ヘルゲイは会話を切り上げた。
これに応じてシャーロットは頷いたかと思うと彼女はヘルゲイの無骨な五指に手を絡ませてきた。
どうやら手を繋ぎたい様で、その姿は何処か怜悧な雰囲気を身に纏う昼間とは対称的に、甘えたい素振りが目立つ年相応の少女そのものの振る舞いだった。
「らくらい?」
「ああ、随分酷い嵐だ」
と、不意に階段を登るに際して踊り場にある嵌め殺しの窓に視線を遣った丁度その時の事だった。
シャーロットとヘルゲイが二人仲良く手を繋いで、穏やかな空気が流れていたのも束の間、唐突に地響きのような音がこの場へともたらされた。
そして輝きに満ちた次の瞬間には一枚のガラスを隔てたその向こうには一筋の黄金が天から地へと迸る光景があった。
「みられてる」
「‥何処だ?」
「ここにはいない」
「取り敢えず一度部屋に行こう」
「‥ん」
屋外の嵐が降り頻り、雨音が屋根を叩く音を背にしてシャーロットは相変わらず無表情のまましかし、驚くべき言葉を言い放った。
これにはたちまち弛緩していた雰囲気は再び張り詰めて、ヘルゲイの鋭い眼光が辺りを巡る。
そしてシャーロットを腕に抱いてすぐさま階段を駆け上がると、予約した部屋の中に滑り込む様にして入った。
次いで後ろ手に扉を閉めると、依然警戒した素振りでシャーロットに問い掛けた。
「ここに居ないとは一体どういう意味なんだ?」
「せつめいがむずかしい」
「すると魔術の類か?」
「ちがう‥。けど、それでかまわない」
─つまりは似たようなものか。
そうヘルゲイはひとまず納得すると共に、結局シャーロットにその概要の解説を求めた。
其処には無論シャーロットを困らせる意図があるわけではなく、理解出来ずとも知っておく必要があったからに他ならない。
「成程。君にはそれが分かるという事か‥」
「そう。みえる」
どうやらその言の通り、シャーロットが語るにはいま現在ヘルゲイには悪魔の目が付き纏っているそうなのだ。
そしてこれに対処するその方法も、修道女見習いであるシャーロットは知り及んでいるらしい。
「まさかそんな事をされていたとはな。気付かなかった‥」
─俺も落ちたという事か‥
現役を退いて久しい己だからそれも致し方無いのかもしれないが、けれどヘルゲイはその自分自身の不甲斐なさに否応にも自嘲せずにはいられなかった。
「おはらいをする」
「それをすればその悪魔とやらが消えるのか?」
「そう」
「ならば君に全て任せよう。俺はどうすれば良い?」
「ん」
ヘルゲイとて無論少女に頼るのは大の大人として情けない限りであるが、生憎この手の魔術やらは特段専門外であった。
だからこそシャーロットの指示に淡々と従い、その内容に耳を真摯に傾けた。
「てつだってほしい」
「ああ、でも本当に良いのか?」
「ん」
するとシャーロットは予め部屋に用意されていた木桶を指差して、ヘルゲイを上目遣いで見上げた。
そして言われた通り、ヘルゲイは木桶に納められているお湯に備え付けの布を濡らすと、それを手にしてシャーロットと向かい合う。
なんでも儀式を始める前に自らの身体を清める必要があるらしく、何とそれをヘルゲイに任せたいとシャーロット自ら申し出たのだ。
と、同時に次の瞬間にはヘルゲイの真正面に佇むシャーロットは、ワンピースの肩紐をストンと自ら床へと落としてしまった。
応じて必然的に、未だ歳幼い少女の純白な穢れなき肌が外気へと曝け出される事と相なった。
「ッ」
「‥どうしたの?」
「‥いや、気にしないでくれ」
途端、己の眼前に露わとなったシャーロットのあまりに美しい肢体を目の当たりとして、その何処か神秘的ですらある裸体にヘルゲイは息を呑んだ。
当然ながら彼とて幾度も女の裸など見飽きるほどに目にしてきたし、数え切れない程にその手で触れてきた。
そう、ヘルゲイの冒険者という常に死の淵を彷徨い、命の危険と隣り合わせな職業柄、いつ死ぬとも知れないそんな最中、女で欲望を発散するのは日常であった。
とはいえエルルとの婚約を交わしてからは、一度もヘルゲイは自らの欲望で娼婦との関係を持った事はない。
故に異性の肌を見るのは久方ぶりというのもあろうがそれが相まってか、シャーロットのその美貌に違わぬ未だ幼いながらにして艶かしい裸体は、これまでに無い衝撃をヘルゲイへともたらした。
それも娼婦などという売女に抱く欲情とは異なり、心底から込み上げてくるその形容し難い感情を称するのであれば、最早崇拝の念と称した方が正しいだろうか。
─俺は何を考えているんだ
否、本来であればヘルゲイは女体というものに飽きていたからこそ、その虚しさから逃れるため、エルルと婚約を交わしたという側面があった。
にもかかわらず、この様なシャーロットの様に己よりも遥かに歳下の少女の裸体に対して見惚れるなどと、あってはならない話だ。
ましてやシャーロットの身体は依然として未熟性で尚且つ成長途中にある。
その為腹部は子供特段でふにふにとした柔らかな脂肪が乗っているし、未だ陰毛などの毛さえ生え揃っていないのだ。
とはいえ無論太っていると言うわけではなくどちらかといえばその年齢に反して痩せている方であろう。
ヘルゲイの知るこの齢の少年少女はもっと小太りな体型の者達が多かった。
だがシャーロットは全体的に見れば顔立ちもほっそりとしているし、その美貌は何処か儚げな印象を受ける。
ただ、太腿はワンピースを着ていた時は気付けなかったが思いの外太く、そしてシャーロットの肉体において一番特筆すべきは、その重量感のある乳房だろう。
明らかに全体的な痩せ型の少女の身体では、完全な半球を描く乳房は如何しても目立ってしまっていた。
ただしそれは自らの重みで垂れる様な事はなく、しっかりと乳房の先端にあるピンク色の鮮やかな突起はツンと上向いていた。
そうシャーロットという少女は依然幼い年齢でありながら、その平均に反した形の良い豊満な乳房を誇っていた。
とはいえその様な自身の身体などには毛程の興味もないとでも言わんばかりにシャーロットは惜しげもなくヘルゲイへと自らの肢体を晒していたのであった。