「お兄ちゃん! もういい!」
戦闘の気配を感じて、私は治癒途中のお兄ちゃんの前に立つ。
お腹はまだ少し痛むけど、戦闘に支障は無い。
裸の女の人が3人、私たちに向かってきていた。
大きなおっぱいがぶるんぶるん揺れている……。
「クロ、ヒナとカオルをお願い! 1体はあなたたちに任せるわ!!」
そう言うと、ユキちゃんが3人に向かって走っていく。
「ユキちゃん!? 1人で2人を相手するのは無理だよ!?」
その背中に向かって、私は叫んだ。
とてもではないけど、無事に済むとは思えない。
ユキちゃんは振り向かず、3人に向かって跳躍した──その時……。
ズルンッ!
(えっ!?)
ユキちゃんの股間から赤黒い何かが飛び出して、地面に落ちた。
最初はウンチを漏らしたのかと思ったけど、徐々にそれが人型に変わり、全裸のユキちゃんがあらわれた。
それは、ユキちゃんの肉分身だった……。
「私とこの子で2体を止めるわ! その間に、1人を倒して!!」
ユキちゃんの飛び蹴りを1人が受け止める。
抜けてくる2人のうち、1人とユキちゃんの分身が対峙していた。
残った1人は、私たち目掛けて向かってくる……。
───
クロの盾により、オコメの攻撃が防がれ硬直した。
そこをすかさずヒナが攻撃し、オコメがバランスを崩す……。
「お兄ちゃん! 今だよ!!」
ヒナの声に、俺は慌ててオコメに向けて雷撃を放つが……躱される。
「くそっ!!」
体勢を立て直したオコメから俺を守るように、クロとヒナが俺の前に立つ。
「お兄ちゃん! らしくないよ!? 集中してよ!!」
「カオル……」
ヒナが振り返りもせずに、俺を叱咤する。
クロは盾を構え直すが、その声は泣きそうなくらいかぼそかった。
「すまない! わかってはいるんだ……」
視界の端に2人の少女の姿が映る。
全力を出すために、全裸になったユキと、その肉分身だった。
もう、どちらがユキなのかわからない。
2人とも全身のあちこち痣だらけで見ていて痛々しい姿だ。
その2人が、2人のオコメと死闘を繰り広げていた。
辛うじて俺たちに近寄らせないように耐えているが、明らかに劣勢だった……。
回し蹴りを喰らったユキか分身が、口から血を吐きながらオコメに飛びかかっていく……。
(ユキッ!!)
早く、目の前のオコメを倒して、加勢に行かなければならないのに、ユキの安否が気になって、戦いに集中できない……。
このままでは、ユキが…………。
「お兄ちゃん、しっかりしてよ!?」
そんな俺に気付いたのか、ヒナが目の前のオコメを警戒しつつも、振り向いて俺を睨みつける。
「ユキちゃんなら、大丈夫だよ! 信じてあげて! 今のヒナたちに出来る事は、このオコメを早く倒す事……なんだよ!?」
「カオル……ユキは死なないよ。死んだら、カオルが悲しむ……もの……」
2人とも最後は吐き出すように声を絞り出していた。
俺だけじゃない……ヒナも、クロも、ユキが心配なんだ。
傷つき、それでも立ち上がり俺たちのために闘うユキ……。
それに加勢したい気持ちを必死に耐えて、目の前のオコメを倒そうとしている。
(どうかしていたな……俺は……)
「悪かったな、2人とも……。さっさとこいつを倒して、俺は愛する妻の元に行く」
俺の言葉を聞いて、2人の身体がビクリと震えた。
「ずるいよ? お兄ちゃん……。ユキちゃんはヒナのお嫁さんでもあるんだから!」
「私にとって、とても大切な母親だよ!」
2人の言葉を聞いて俺は口元に笑みを浮かべ、オコメを睨みつける。
こんな軽口を叩けるんだ。俺たちはまだ、やれる!
オコメの分身は無表情のまま、静かに構えた……。
真っ白な肌にすらりと伸びた手と脚。
豊満は胸を惜しげもなく晒していた。
その美しい身体を見ても、今は何とも思わない。
(ユキ、待っていてくれ……)
下腹部が疼くのを感じた。
女性の身体になってから、初めて、俺はユキを抱きたいと思った。
いつもは一方的に抱かれ、与えられていた快楽を、ユキにも与えたい。
俺はユキと、愛し合いたい。
「行くぞ!!」
俺たちはオコメ目掛けて、駆けた!
───
そこから、お兄ちゃんの動きが、確実に良くなった。
私の金棒を受け止めた女の人の横腹に、火の玉が当たる。
「クロッ!」
女の人目掛けて、クロちゃんが突進して盾で弾き飛ばす。
私は女の人が着地しそうな場所に駆けよる。
横目で女の人を見ると、空中で私の向かって手を突き出して掌を向けていた。
(しまった!?)
魔法だった……。目の前に、青白い光が広がる。
ダメージを覚悟して防御姿勢を取った……痛くない!?
気が付くと、私の身体の周りに淡くゆらめく魔法壁がある。お兄ちゃんが、守ってくれた!
「ヒナ、油断するな!」
そのまま金棒を振りかぶって、バランスを崩して着地した女の人を思いきり殴りつけた。
確かな手ごたえがあり、女の人が膝をつく。
チャンスだ!
「お兄ちゃ……」
私が言うまでもなくお兄ちゃんは次の魔法を放ったので、私は急いで飛びのく。
天から雷が一直線に、女の人の上に落ちた。
目の前が真っ白になり、肉の焼ける嫌な臭いが漂っていた。
どさりと倒れた黒焦げになった女の人の首に向かって、クロちゃんが大きな盾を突き立てた。
首と体が離れる。
黒焦げの女の人はそのまま、灰になって崩れた。
クロちゃんが産んだ肉分身と同じだった。
「念には念を、入れないとね……」
「ああ、そうだな……」
クロちゃんとハイタッチするお兄ちゃんの顔は、赤くて少しエッチに感じた。
もしかして、お兄ちゃん、発情している!? 戦闘で興奮しちゃったのだろうか?
(今はそんな事考えちゃダメ!)
私は頭を振って雑念を追いやる。
「お兄ちゃん!」
「ああ、ユキを助けよう!」
向こうで戦うユキちゃんたちに向かって、お兄ちゃんは走り出す。
その背を追いかける私は、ぷりぷり揺れるお兄ちゃんのお尻を見つめていた。
股間が熱くなる。
この戦いが終わったら、めちゃくちゃエッチがしたい……お兄ちゃんさえ、よければ……。
少し硬くなったオチンチンの感触に、私は思わず笑いそうになった。
(本当に……戦闘中に興奮するなんて、私もとんだ変態だね……)
でも──
いつ、誰が死んでもおかしくない。そんな状況の中で、私は、生きている証を……お兄ちゃんやユキちゃんと分かち合いたいのかもしれない……。
胸の奥がきゅっと締めつけられて、足がもっと速くなる。
(ユキちゃん……無事でいて!!)
ユキちゃん。お兄ちゃんの次に、私が愛する人。
その人のもとへ、全力で走った……。
───
目の前のオコメと殴り合っていると、突如、死角から気配を感じ、飛びのく。
もう一人のオコメの回し蹴りはなんとか直撃を免れたが、受け止めた左腕は、もう感覚が無い。
目の前に、2人のオコメが立っていた。──という事は……。
横目で分身を見る。
分身は花の上に倒れていた。
両腕も両脚も、変に折れ曲がった状態で、それでも、立ち上がろうとしている。
その顔は苦痛に歪んではおらず、相変わらず無表情であるのが唯一の救いだ。
責める気は無い。むしろ、よくここまで抑えていてくれた。
(ありがとう……戦うためにあなたを産んだ私を、許してちょうだい……)
心の中で、分身に感謝しながら、私は自分の状態を確認する。
左目は、腫れあがった瞼のせいでもう見えない。
左腕も、先ほどの攻撃を受けて使い物にならない。
幸い、脚はまだ動く。右腕も少々痛いが、問題ない。
あとは、全身の打ち身、擦り傷、切り傷、打撲──身体中痛いが、こんなものはどうでもいい。
私は、まだ戦える……。
次にオコメたちの様子を見る。
向こうだって無傷ではない。私と、あの子との戦闘で身体中、傷だらけだ。
そしてオコメたちの後方には、本物のオコメが立ち、私を睨みつけていた。
背筋を伸ばして立っているが、その顔は青ざめ、ステッキを握る手も震えている。
身体を時おりふらつかせて具合が悪いのだろうか?
(あの様子なら、今の私でも勝てそうだけど……)
オコメに辿り着くには、目の前の2人を倒す必要があるが、それは流石に厳しい。
目の前の2人をどう倒すべきか思案する……いや、防戦でカオルたちの援軍を待つべき?
クロに作戦は話した。あとはクロが来れば私たちの……。
「ユキッ!!」
「ユキちゃん!?」
愛する人の声。そして、その次に愛する人の声。
思わず、振り向く──途中で気が付く。
(しまった!)
もう、遅かった。
私は、最悪のミスを犯してしまった……。
寒気がする……私は、ここまでかもしれない…………。
(カオル! ヒナちゃん……)
身体が拘束されても、顔は自由だ。
なら、私は何をすればいい?
私は精一杯の笑みを浮かべる。
2人の姿を目に焼き付けたいのに、もう、涙が溢れてぼんやりとしか見えない。
(ごめんね! カオル! ヒナちゃん……ほんとうに、ごめんなさい……)
私は、クロとアイコンタクトする。
クロが、小さく頷いた気がする……。
(あとは……まかせるわ)
その直後、私の身体に激痛が走る……。
願わくば、もう一度……カオルの精子を……。
───
(クッ!?)
バランスを崩して倒れそうになるのを、なんとか踏みとどまった。
私のステッキの一撃を受けた貧乳が苦悶の表情を浮かべる。
ここまで私の分身と戦ってきたこの女。
分身の一体は足を引きずっている。
よくぞここまで追い詰めたものだと、敵ながら賞賛に値するだろう。
なのに……。
貧乳の頬は染まり、内股を擦っている。
殴られて悦ぶ変態なのだろうか?
……いや、待て。
あの目は、陶酔と恐怖の混在。
苦痛に快楽を混ぜてくるとは……なるほど、だから強い訳だ。
(ッ!?)
また、眩暈と吐き気に襲われる。
私の身体は一体どうしてしまったのだろう。
血が足りない……血が欲しい……。
「武器を捨てろ! この女が、どうなってもいいのか?」
私を睨みつける奴らに向かって、そう言い放つ。
悔しそうに歪む勃起と失禁の顔を見て、私は満足する。
私の、勝ちだ。
「私が人質になるから、ユキちゃんを解放して!」
失禁はそう言うと、手に持った武器を花の上に放り投げた。
魔王様の花の何本かが折れ、腹が立ったがまあいい。
私にとっては好都合だ。
「……いいだろう。但し、条件がある」
「条件!? 何よ?」
「お前の、血を飲ませろ!」
私の言葉に、貧乳の分身と勃起の目が見開かれる。
「ヒナ、やめろ!」
「そうだよ! 約束を守ってくれる保証は無いよ!?」
失禁はしばらく目を閉じ、考えるそぶりを見せる。
「ヒナちゃん……やめて…………」
隣から拘束されている貧乳の力ない呟きが聞こえる。
それが合図だったのか、失禁が目を開く。
その表情に覚悟と決意が見えた。
「いいよ。その条件、飲むよ」
「ヒナッ!?」
「あいつを拘束しろ」
足を引きずる分身にそう命じ、私の前に拘束された失禁がやってきた。
「アンタに血を飲ませたら、本当に、ユキちゃんを解放してくれるんでしょうね?」
「ああ、約束しよう」
本心だった。
お前たちはもう、用済みだ。
苦痛から解放するために死を与えよう。
あとは、勃起を魔王様に渡せば…………。
晴れて私は、魔王様の寵愛を得られる……魔王様の子、お世継ぎを産める……。
目の前の失禁の首筋に牙を突き立てた。
血の味が、口いっぱいにひろがり、少しずつ、体力が回復してくる。
(魔王様、オコメはやり遂げました……私に魔王様の子を産ませてください……)
私は勝利の美酒を味わっていた……。