目の前で、ヒナの首に牙を突き立て血を啜るオコメ。
俺は拳を握り締め、震える唇を噛んで必死に耐えていた。
何も、できない。
いや、何も、してはいけない。
──そう。先ほど、クロが言ったあの言葉。
『カオル。この先、何が起こっても……カオルは、何もせずに黙って見ていて』
オコメは、うっとりした表情でヒナの血を飲み続けている。まるで陶酔するかのように、目を閉じ──。
(ッ!?)
……その瞬間だった。
クロがチャイナドレスのスカートを腰まで捲り上げて四つん這いになり、そのままユキにお尻を突き出す。
顔は恥じらうように俺からそらしている。
ユキは分身に拘束されたまま、クロに脚を差し出す。
そのまま、股を思い切り開く。
無防備なその股間が、クロの前に晒されていた。
(……ユキ? 一体……何を……)
一瞬、悪ふざけかと思った。
だが……。
ボロボロになったユキの顔。
見るのも痛々しいが、その瞳には覚悟の色が宿っていた。
俺は、何もできない……いや、してはいけない。
固唾を飲んで、2人の行為を、ただ、見守るしかなかった……。
───
(最高、よ…………)
久しぶりに、ご主人様が“受け手”になってくださった。
しかも、ただの精子じゃない──ご主人様が愛する殿方の、血混じりの精子。
これを堪能できるなんて、何ヶ月ぶり?
最近はずっと、私が男根化して“撃つ”側だったから、嬉しくて嬉しくて……もう、心まで蕩けそう。
おかげで、擬似卵子と結合させて、ご主人様は無事に肉分身の出産を果たした。
ああ、あの感覚……。
分泌した幸福ホルモンの嵐にも揺るがず、ご主人様は冷静に戦闘を続けていた。
──さすが、私のご主人様……。
(ッ!?)
そのときご主人様から私に“命令”が下る。
『この精子を、他の子宮にも分けるのよ!』
(……え?)
本当は、全部私のものにしておきたかった。
でもまあ、他の子宮たちだって、この血と精子を味わいたいに違いない。
(……しょうがないわね)
私が行動に移そうとしたとき、ご主人様から、ふと不安の波が伝わってくる。
……ちょっとムッっとした。
私は、“最凶マンコ”。
この称号は伊達じゃない。
すべての男根は私の前にひれ伏し、
すべての蜜壺は私の前で蕩け、
すべての遺伝子は、私に捧げられる。
この程度の“任務”、余裕でこなしてみせるわ!
私は子宮口を細長く変形させ、膣口から伸ばす。
狙撃用の“精子弾”を装填し、膣の内圧と筋肉を調整する。
風速……良好。
照準……完璧。
ご主人様に息を止めてもらう必要なんて、もちろん──無いわ。
まぁ、元々ご主人様は息をしていないのよね……。
まずは、正面──四つん這いの“ご主人様のお子様”のクロ様。
プシュッ!
放たれた精子は、見事にクロ様の割れ目へと吸い込まれていった。
次──!
ご主人様が身体を捻り、次なる標的が視界に入る。
仰向けで脚を広げる、先ほど誕生したばかりの肉分身様。
プッシュウゥゥ……!
完璧な着弾。
(作戦完了! ……さぁ、続きを存分に愉しみましょうね♡)
誇らしさとともに、私はまた血混じりの精子たちを歓迎し、堪能し、愛でる至福の時間に戻っていった……。
───
(ああ……美味い……)
失禁の血が五臓六腑に染み渡っていく。
若く、健康的な──少なくとも今は──男の血を飲める機会なんて、そうそうあるものじゃない。
少々無理をして血を多く失ったせいか、たまらなく美味しい。
私は夢中で目を閉じ、首筋に唇を押し当てた。
(……ッ!?)
なにかが、股のすぐ下を通り抜けた。
一瞬の違和感。私は目を開ける。
(ッッッ!?)
失禁を拘束していた私の肉分身の、首から上が消えていた。
いや、正確には、崩れ落ちた直後だった。
白い灰がさらさらと舞っている。
私は慌てて口を離し、己の下半身へ視線を落とす。
──そこには、私の脚があった。
まっしろで、細く、美しい、自慢の脚。
けれどそれは、既に私のものではなかった。
切断された私の両脚が、花の上に落ちていた。
次の瞬間、激痛が私を貫いた。
叫ぶ間もなく、今度は肩に風が走る。
(ッ!?)
バランスが崩れる。
私は倒れ込むように、空中で仰向けになった。
空が見える。
雲一つない、青く澄んだ空。
私の愛するお方の、瞳と同じ色……。
いくら手を伸ばしても、決して届かない……。
意に反して、私の手が、空に向かって伸びる事はなかった。
私は、静かに、地面へと落ちていく……。
……けれど。
叩きつけられる衝撃は、来なかった。
代わりに背中と腰を包んだのは、熱く、硬く、それでいて弾力のある感触。
次の瞬間、視界いっぱいに広がる青空が──失禁の顔に塞がれた。
私の身体は、失禁の腕の中にしっかりと抱きとめられていた。
(……なぜ?)
失禁の表情は、怒りと憎しみに歪んでいる。
けれどその奥に、どうしようもない憐れみのようなものが滲んで見えた。
失禁は何も言わず、ゆっくりと歩き出す。
そして──まるで赤子を寝かしつけるかのように、私を、そっと……優しく……魔王様の花の上へと、横たえた。
花の香りが、全身を包む。
あの日嗅いだ──魔王様の匂い……。
もう二度と戻れない、あの場所。
もう二度と触れられない、あの人の温もり……。
私は、右肩に目をやる。
そこには、腕がなかった。
おそらく、左腕も……。
そしてようやく、私は悟った。
両腕と両脚を失った私は、ただ、この場所に横たわる事しかできない。
まるで、34階に作られた──地獄の木偶のように……。
私は、負けたのだ……。
───
女の人を見下ろす私の隣に、ユキちゃんが立っていた。
お兄ちゃんの治癒魔法のおかげで、ユキちゃんの顔はすっかり元通り。
あの、綺麗で優しい顔に戻っていた。
忍び装束を着ているので見えないけれど、全身の痣や切り傷も、きっとちゃんと癒えているだろう。
お兄ちゃんが、ユキちゃんの傷ついた身体を、そのままにしておくわけがない。
「ユキちゃん……ヒナ、怒ってるんだからね……。あんな無茶して……ユキちゃんに死なれたら、ヒナも、お兄ちゃんも…………」
そこまで言ったところで、喉の奥が詰まり、それ以上は言葉にならなかった。
私は、ユキちゃんの華奢な身体をそっと抱きしめた。
「……ヒナちゃん、ごめんなさい。カオルにも、同じことを言われたわ」
ユキちゃんはそう言って、私の頭を優しく撫でた。
ツルツルの頭皮に、ひんやり冷たい手のひらの感触が伝わる。
ふと、視線を前に戻す。
そこには、お兄ちゃんとクロちゃん。その後ろに、全裸の肉分身が二人──
一人は、クロちゃんの肉分身。
もう一人は、ユキちゃんが産んだ、**肉分身の“肉分身”**だった。
思い出すのは、クロちゃんが私に言ったあの言葉。
『私とユキがなんとかするから、ヒナは、あの女に隙を作って』
その指示に従って、私は自分の血を捧げた。
そして、その隙に──
クロちゃんと分身が、肉分身を産み、ユキちゃんを拘束する分身を撃破。
そして自由になったユキちゃんは、私を拘束していた分身を破壊して、女の人の両腕と両脚を切り飛ばした。
──その瞬間、刀の刃が、私の身体をかすめた。オチンチンもだ……。
ほんの少しのズレで、去勢。
下手すれば、命さえも落としていたかもしれない。
だから私は……怖かった。
少し──ううん、ほんとは、すごく怖かった……。
お兄ちゃんは歩を進め、横たわる女の人のすぐ横に立った。
「さぁ、話してもらうぞ。俺たちの子供……アスカとミユキはどこにいる?」
その目は冷たく、言葉は静かだが、確かな怒りを孕んでいる。
……返事は、無い。
ただ、風に揺れる花がさやさやと音を立てるばかり。
「……答える気は、無いか…………」
しばらく沈黙していたお兄ちゃんは、ゆっくりと右足を上げ、女の人のお腹に──。
(だめっ!!)
私は咄嗟に駆け寄り、お兄ちゃんにしがみついて、女の人から引き離す。
「ヒナ! 離せ! どうして!?」
暴れるお兄ちゃんを腕の中で抑えながら、私は女の人に叫ぶ。
「アンタ! 質問に答えなさいよ!! 正直に言ってくれたら、命だけは助けてあげる! ……赤ちゃん、無事に産みたいでしょ!?」
「えっ!?」
お兄ちゃん、ユキちゃん、クロちゃんが、全く同じタイミングで声を上げる。
少し遅れて──。
「……えっ……?」
女の人が、戸惑ったように声を漏らした。
お兄ちゃんは暴れるのをやめ、静かになる。
私は小さく息を吸って、エリから聞かされた真実を口にした。
「……お兄ちゃん。この人……妊娠しているの。お腹の中に、赤ちゃんが居るんだよ……」
誰もが黙った。
誰の口からも言葉は出ない。
風に揺れる花の音だけが、やけに鮮明に聞こえていた……。
「……」
やがて。
その静けさを破ったのは、女の人の……小さな、すすり泣く声だった。
はじめは喉の奥で堪えていたその音が、徐々に震えとなって漏れ出す。
声にならない嗚咽が、花の香りと共に、風に溶けていった……。
───
『お前の排卵周期は、数百年に一度……しかも、卵子が受精可能な時間は1日も無い。お前の夫となる者は大変だな……子を成すためには、毎日数回、お前を抱く必要があるだろう……』
『はいらん? じゅせい?』
幼かった私は、その言葉の意味もよく分からず、ただきょとんと見上げていた。
すると、魔王様の掌が私のお腹から離れ、代わりに──頭を撫でてくださった。
それだけの事が、どうしようもなく嬉しい。
けれどなぜか、先ほどまで魔王様に触れられていたお腹の奥がじんわりと熱くなる。
もっと、ずっと……そこを触れていてほしかった。撫でていてほしかった。
『お前が子供を産むためには、たくさん愛し合わねばならん……そういうことだ。オコメよ、夫にしたい者はいるか?』
(……まおうさま……です……)
そんなこと、言えるはずもなくて──ただ、俯いて黙っていた。
すると、魔王様は優しく笑って、こう仰った。
『顔が赤いぞ。オコメよ、お前は美しく育つだろう……子供が産めるようになったら、意中の相手に想いを伝えろ。お前のように美しい娘に言い寄られて、袖にする者など、そうそうおらんさ……。さぁ、もう服を着ていいぞ』
そして、魔王様の手が、私の頭から離れてしまった。
(いや……行かないで)
心の中で叫んだ。
でも言葉にはできず、私はただ、素直に服を着直しただけだった。
──お腹の奥の熱は、まだ残っていた。
それが何なのか、あの頃の私には、分からなかった。
……
(……魔王様……)
遠い昔の、あの穏やかな日々が、ふいに脳裏をよぎる。
あの頃からずっと──私は、魔王様をお慕いしていた。
いつか純潔を捧げ、魔王様の子を授かる。それだけが、私の夢だった。
……魔王様の御前で、無残に純潔を散らされた、あの日までは──。
今でも──時々、思い返すことがある。
もし、あの時。
私がほんの少しの勇気を振り絞って、魔王様に想いを伝えていたなら……私の純潔は、魔王様に捧げられただろうか?
──もう、過ぎたことだ。
今さら悔やんだって、時間は戻らない。
残念ながら、私の最初は、魔王様のものにはならなかった。
それでも……それでも私は、せめて最初に産む子だけは……愛する魔王様の子を、この身に宿したいと願っている。
それが今の私の、ささやかな──夢だった。
こんな、ささやかな夢さえ──私には、叶えることができないのか……。
……いや、違う。まだだ。
希望はある。……種だ。
先ほど、私は確かに、魔王様の種を秘所に受けた。お腹の子は、魔王様の……そう、きっと……。
そう思い直した瞬間、背筋に悪寒が走った。
あの“悪魔たち”と交わる時は、必ず排卵中でないことを確認していた。そのはずだった。ずっと、そうしていた。
……けれど──
──10日前。あの夜。
あの日、勃起が犯される映像を見た私は……。ミカの指も、舌も、もう満たしてくれなかった。
酒も入っていた。心も熱も、空虚だった。
切ない蜜壺の“隙間”を、熱で埋めたくて──私は、あの部屋へ行った。
あの時……私は、確認していない。
そのまま、5人の悪魔と交わり……そして、肉分身を二人、産んだ。
あの時、三人目も産めそうな気がした。でも、産むことはできなかった。
当然だ。
三人目は、これまでのような“肉分身”ではない。
本物の命、本物の赤子なのだから……。
(死のう……)
もう、この世に未練は無い。
ようやく嗚咽が止まる。
あとやるべきことは、ひとつ──確かめること。
残念ながら、今の私にはそれを確認する術がない。
「……懐妊紋は、何色だ?」
「かいにん……もん? なんなの? それは?」
貧乳──あの小娘が怪訝そうに聞き返す。
勃起と失禁も、互いに顔を見合わせていた。
……まさか、誰も知らないのか。
「懐妊紋だ。妊娠していれば、下腹部に紋が浮かぶ。色で、種の由来がわかる……」
どうせ、あの悪魔どもの瞳と同じ、金色だろう……。
それなら、死ぬしかない。
私の言葉に、全員の視線が私の下腹部に集まる。
恥ずかしさなど、もはや感じない。ただ、何もかもがどうでもよかった。
「ユキちゃん! そこ! なんか光っているよ!? お腹のところがキラキラしてる!」
「……これが懐妊紋……色は──まるでこの──」
貧乳の言葉が耳に届いた瞬間、私は、身体の芯から雷を打たれたような衝撃に襲われ、身体から力が抜けて意識が遠のいた。
──薄れゆく感覚の中で、下半身から水音がする。
ジョロロロ……という、生温かく、現実的すぎる音だった。