※この作品はR-18です。

お兄ちゃんの子供が欲しい妹とそうでもない兄   作:猫見サイル

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105 魔王

「うわっ!?」

 

 ユキちゃんの言葉に反応するように、女の人がビクリと身体を震わせ、全身を小刻みに痙攣させたかと思うと──次の瞬間、じわりと股間から黄金色の液体が染み出してきた。

 

「きゃっ!?」

 

 私は慌てて飛びのく。幸い、作業服にはかからなかったけれど、さっきまで立っていた場所に咲いていた白い花に、それは無惨にも降り注いでいた。

 

「ちょっと!? なにお漏らししているのよ、汚いなぁ!」

 

 思わず大声を上げるが、女の人はまるで壊れた人形みたいに、ピクリとも動かない。

 

「ヒナちゃん……たぶん、もうなにも聞こえてないわ」

 

 ユキちゃんがそう言いながら、おそるおそる彼女に近づいていく。私もつられるようにして歩み寄ると、女の人は白目を剥き、口の端には白い泡がこびりついていた。

 

「……死んでるの?」

 

「気絶してるだけみたいね」

 

 女の人の胸元にそっと置いていた手を離しながら、ユキちゃんが静かにそう告げる。

 

「おしっこ漏らして気絶って……そんなにショックだったのかなぁ」

 

 私は、ぽつりと口にした。

 

 私だったら、どんなショックを受けたら、こんなふうになってしまうんだろう?

 おしっこを漏らして、気絶するくらいの……そんな、心の奥底をズタズタにされるような出来事。

 私は、考える。想像を膨らませていく。

 

 ──たとえば……。

 

 お兄ちゃんの子を授かって、幸せの絶頂にいたとする。お腹を撫でながら、「これは、お兄ちゃんとの愛の証だ」なんて思っていたのに……。

 もしも、もしも……DNA鑑定の結果、それが──お兄ちゃんじゃなくて、私に乱暴した、あの大嫌いな男の子供だったとしたら……。

 

 そんなの、ひどすぎる。

 そんなの、耐えられない。

 ……私だって、きっと……その場で、足元を濡らして、気絶してしまうかもしれない。

 

「ヒナちゃん? 大丈夫? 顔色がよくないわ」

 

 ユキちゃんの声に、私ははっと我に返る。

 

 視線を落とすと、足元には女の人が横たわっていた。

 

 ──この女に、アスカは攫われた。

 私の大事な子供。まだ一度も、母乳をあげられていない。

 

 ユキちゃんの子、ミユキちゃんも、連れて行かれた。

 許せない。殺したいくらい、憎いはずだった。

 

 なのに──。

 

 女の人は、手足を切り落とされ、白目を剥き、口から泡を吹いていた。失禁までして、哀れな姿で気絶している。

 

 胸の奥が、ぐっと苦しくなった。見ていられない。

 

 私は、そっと手をかざして彼女の股間に清掃をかける。花びらに飛び散った尿もひとつずつ清めていく。

 

 やがて、あたりからはもう尿の匂いは消え、ただ、花のやさしい香りだけが残った……。

 

 ───

 

「見事だ! オコメよ……よくやった。これで我が望みが叶う!」

 

 謁見の間。私は跪き、玉座に鎮座する魔王様を見上げていた。

 その隣には、手枷と足枷をはめられた“勃起”が転がっている。かつては男であったが、今や貧相な身体の娘であった。

 

「その娘を、私の寝室へ連れていけ。身を清めておくように」

 

 魔王様の側に控える、あの忌々しい女が無表情で頷くと、勃起を無理やり立たせて引きずっていく。叫び声が謁見の間にこだまし、やがて静寂が戻った。

 

「ふふふ……今宵が楽しみでならぬ。オコメよ、褒美として、お前の望みを一つ叶えてやろう。よく考えておけ」

 

 玉座の上で、魔王様の体の一部が誇らしげに動いた。それはまるで、戦利品を前にした覇王の昂ぶりのようだった。

 

 私は魔王様に頭を垂れた。

 かつての私なら、勃起の態度に怒りを覚えたかもしれない。だが、今は違う。何の感情も湧いてこない。

 

 勃起はただの“道具”にすぎない。

 私の任務を果たすための駒。私の望みを叶えるための犠牲。魔王様の欲望のはけ口となる蜜壺。

 

「ありがとうございます。……魔王様、もう一つ、ご報告がございます」

 

「ふむ……言ってみよ」

 

 私は静かに立ち上がり、背筋を正す。ゆっくりと上着を脱ぎ、床に置かれたステッキの隣に畳む。

 タイをほどき、スラックスを脱ぐ。ボタンを一つずつ外しながら、私は魔王様の瞳から目を逸らさなかった。

 その間、魔王様は一言も発さず、ただ静かに、私の動作のすべてを見届けていた。

 

 やがて私は、一糸まとわぬ姿となる。冷たい石床の感触が足元から伝わる中、私はゆっくりと下腹部に視線を落とした。

 そこには、魔王様の瞳と同じ、妖しくも気高い色の光が、懐妊紋として淡く揺らめいていた。

 

 ──これは、誇り。勲章。私だけの、証。

 

「……子を、授かりました。……魔王様の……御子です」

 

 言葉にした瞬間、喉が震えた。感情ではない。緊張でもない。ただ、それが“真実”であることに、身体が自然と反応しただけ。

 

「なん……だと…………?」

 

 玉座の上で、魔王様の身体が揺れる。魔王様がゆっくりと立ち上がり、鋭い視線を私の身体に突き刺すように向ける。

 

 その眼差しは、疑いではない。動揺でもない。──ただ、獣が本能を呼び覚ます時のような、沈黙と緊迫の混合物だった。

 

 一歩。魔王様が近づく。

 また一歩。石の床に響く足音が、私の心臓と同じリズムを刻む。

 

 目の前に立つ魔王様は、ゆっくりと私の下腹部に手を置かれた。

 その手の温もりが、私の奥、子宮へと優しく染み込んでくる。

 

 ──あの日と、同じ温もり。

 

「でかしたぞ! オコメよ!!」

 

 魔王様が高らかに声を上げ、私の身体を力強く、けれどもどこまでも優しく抱きしめてくださった。

 堪えていた涙が、堰を切ったようにこぼれる。

 

「……種、私の種だな?」

 

「…………はい。魔王様の……種です」

 

「お前の排卵周期と、受精可能時間を考慮すると……これは、奇跡だ。お前が私の子を孕んだのは──奇跡だ! この子は、我が奇跡の御子だ!」

 

 抱擁の中、魔王様の体温がじわりと上がっていく。

 その熱が、私の身体にも、心にも、じんわりと伝わってきた。

 

「……私は……オコメは、魔王様の御子を授かって……幸せ者です……」

 

 私の言葉に、魔王様が抱擁を解かれる。

 ──いや……もっと、抱いていてほしいのに。

 

 未練の混じる私の想いを断ち切るように、突然、両肩が熱く包まれた。

 魔王様の両の手が、私の肩をしっかりと掴み、そのまま私の顔を覗き込む。

 

「もっと、よく顔を見せてくれ。……我が妃となる、女の顔を」

 

(私が……妃……魔王様の……)

 

 身体が、心が、幸福の奔流に包まれる。

 どこか遠くから鐘の音が聞こえた気がした。

 私はそのまま、意識の岸辺からふわりと浮かび、ゆっくりと気を失った。

 

 ……

 

 目を開けると、ぼやけた視界の中に、四つの顔が浮かんでいた。

 

 勃起。失禁。貧乳。そして、その肉分身。

 

 ……ああ、そうだ。

 あれは──夢だった。

 私が思い描いた、輝かしい夢。見事に魔王様の命にこたえ、魔王様の御子を宿し、妃として選ばれるという、尊き幻。

 

 そして私は、戻ってきた。

 

 惨めで、汚れて、すべてを失ったこの現実へ。

 唯一の希望は、お腹に宿る魔王様の御子だけ。

 再び、頬を涙が伝う。声も出せない。ただ、溢れるだけ。

 

「気がついた?」

 

 失禁が、私の顔を覗き込みながら声をかけてくる。

 その表情には、意外にも憐みがあった。優しさ、とまでは言えない。けれど、残酷なものではなかった。

 

「アンタがどんな辛い目にあったのかはわからないけど……正直に答えてくれたら、命だけは助けてあげる。……赤ちゃんも、産みたかったら産めるよ」

 

 その声は、どこか遠くから聞こえるように感じた。

 

 現実に戻りきれていない私に、届くか届かないかの距離で、失禁は続けて話していた。

 

 ──なんて、素敵な提案なのだろう。

 

 私は魔王様の下を去ろう。

 もう、あの方の世界には帰れない、無能な私はもう、用済みなのだから。

 人知れず、身を隠し、この子を産んで育てていく。

 

 愛する魔王様との間に授かった、奇跡の子……。

 そう、できるものなら。

 

 ──でも、それができるのは、私が五体満足だったらの話だ。

 

 命が助かったとしても、私はここから動けないし、離れられない。

 いずれ、魔王様はこの哀れな姿になった私を見つけてくださるだろう。

 

 そして、私は、“魔王様の命を果たせられなかった女”として、周りから蔑まれる。

 私だけならどんな不名誉な肩書きでも受け入れよう……でも……。

 

 この子を“魔王様の命を果たせられなかった女”の子とするのだけは許容できない。

 私が尊敬し、敬愛し、愛している魔王様の子が、そんな風に呼ばれるのは許される事ではない……。

 

 ならば、いっそ──。

 

 この命を、私の中で終わらせるしかない。

 この子が、“魔王様の失敗”と呼ばれる前に。

 “命を果たせなかった女”の影を背負わされる前に。

 私が、私の手で──この奇跡の子を、守る。

 名も与えず、顔も見ずに……私と共に闇に墜ちてしまえば魔王様の御子は、永遠に“純粋なる奇跡”のままでいられる。

 そうだ、それが……最も美しい、最も忠実な選択。

 

 幸い、私が死ねば、懐妊紋は消える。

 魔王様も、わざわざ私の死体をあらためる事はしないだろう。

 

 死体は、そのまま打ち捨てられるだろうか? ──でも、願わくば……。

 

 私は横を見る。目の前には魔王様の花が咲き乱れ、優しい香りに包まれていた。

 

 ここに私の墓をたて、たまに会いに来てほしい……。私と、この子に……。

 

 涙が止まった。

 身体の震えも、呼吸の乱れも、すべてが消えていた。

 

 私は、風が止むのを待ってから、目の前の勃起たちに向けて口を開いた。

 

「……殺せ」

 

 その場に、静寂が落ちた。

 

 誰も動かない。誰も、言葉を返さない。

 まるで、この世界が止まったかのようだった。

 

 勃起が、目を見開く。失禁が、息を呑む。貧乳とその肉分身が顔を見合わせた。

 誰かが震えていた。

 でも、それは私ではなかった。

 

「私を、殺せ。……この子ごと」

 

「……わかったよ」

 

 口を開いたのは、失禁だった。

 

「無理やりレイプされて、望まない赤ちゃんが出来て、絶望して死にたくなるの、ヒナはわかるよ。でも、ヒナはそれでもアンタには生きていてほしいんだ。生きていれば、アンタは愛する人の赤ちゃんを産むチャンスもあるはずだよ……」

 

(レイプ? 望まない子? こいつは何を言っているんだ?)

 

 言っている事が理解できず、混乱する私を無視して失禁は言葉を続ける。

 

「お腹の子に罪が無いのはわかるよ。産みたくないけど、自分の赤ちゃんを殺す事もできない。そんな事をするくらいなら……一緒に死ぬ気なんでしょ? だから、ヒナたちがやってあげる。アンタの赤ちゃんだけを殺すから、アンタは死ぬことないよ……」

 

(えっ!?)

 

 一瞬、思考が停止したが、すぐに動き始めた。

 

「ちょ、待っ……」

 

 声にならない声を出す私を無視して、失禁が私を抑えつける。

 

「暴れないで! 大丈夫、すぐに済むから……ユキちゃん、お願い!」

 

 失禁はそのまま強引に私に口を開かせる。

 口の中に、液体が飛び込んできた。

 

 失禁は私の口を強引に閉じ、私はその液体を飲んでしまう。

 驚くほど甘く、優しく、どこか懐かしい味だった。

 

「催淫剤よ……身体の力が抜けて、リラックスできるわ」

 

 私に説明する貧乳の股間から、男性器のようなピンク色の肉塊が伸び、脈打っていた。

 その先端からは、白濁色の液体が滴り、糸を引き花の上に落ちている。

 

 あれを私に飲ませたのだろうか……。

 

(あっ!?)

 

 腹の奥、子宮が、熱い──いや、焼けるようだ……。

 

 初めて、魔王様に身体を触られた時。

 魔王様を想って、自らの身体を慰めていた時。

 魔王様を想像しながら、悪魔たちと身体を交えた時。

 

 今まで幾度となく感じてきた疼きが、今、私の身体中に広がっている。

 

 私は、初めて魔王様“以外”で発情していた。

 身体が言う事をきかない。

 口は乾いて動かず、目の焦点は定まらない。

 下半身が脱力し、股間が湿り出したのがわかる。

 ふらつき、ぐるぐると回る景色の中で、遠くから声が聞こえた。

 

「これは、私が愛する人と繋がるための大事な器官なの」

 

 遠くから聞こえる少女の声は、冷たく、それでいてどこか濡れていた。

 

「私はあなたの事を許さない。でも、私の愛する人があなたを救いたいと願った。だから……これはそのための処置よ」

 

 言葉の意味が、理解できない。

 でも──彼女たちがこれから何をしようとしているのかだけはわかった。

 

 誤解だ。これは、全部──誤解なんだ。

 

(違う……! この子は、魔王様──私が愛する人の……!)

 

 必死に叫ぼうとしても、喉がひゅうひゅうと空気を漏らすだけで声にならない。

 

 貧乳が私の股間の前に腰を下ろし、両太腿を掴んで私の股を広げた。

 

 私の股間にヌルヌルした冷たい何かが当たった瞬間、私の身体に衝撃が走る。

 

 軽く、達してしまったのか、下半身がピクピク痙攣していた。

 

「これから、これをあなたの体内に入れて、胎児を摘み取るわ。すぐに済むから大人しくしているのよ……」

 

(いやだ! やめて! この子を私から奪わないで! 誰か! 誰か……!)

 

 ぬちゅ……

 

 股間から水音がした。

 

(やだ! オコメから赤ちゃんを奪わないで! 魔王様の……赤ちゃんを……)

 

 何かが、私の股間をこじ開けはじめる。

 

 助けて──まおうさま…………オコメを、たすけて……。

 

 そのとき。

 

 天を裂くような轟音と風圧が私を襲い、私の身体が宙に舞う。

 

 魔王様の瞳と同じ色の青空が私の視界いっぱいに広がっていた……。

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