教室で帰り支度をしている
「ユキ、この後予定あるか? 付き合ってほしいんだが」
「え?」
顔を真っ赤にしたユキが隣に来て小声でささやく。
「ちょっと! 場所をわきまえてよ! こんなたくさん人がいるところで告白なんて……」
(告白? あー、コイツなんか勘違いしているな……)
「すまん、言葉が足りなかった。買い物行くからよければ付き合ってくれ」
「買い物? ……なるほど、そういう事ね」
(どういう事だよ???)
ユキは勝手に納得したらしい。
「いいわ。カオル君に付き合ってあげるわ。どこに行くのかしら?」
「ユキ、ありがとう。サンキューモールに行くつもりだ。少し遠いから早速行くか」
───
すっかり日が暮れた中、私達は並んで帰宅途中だ。
来月迎える妹の誕生日プレゼントを選びたいけど、どんなものを贈ればいいかわからないから、私の意見を聞きたい。
……ということだったみたい。
「随分、妹想いのお兄ちゃんね」
「そうか?」
「そうよ。ひなちゃん、可愛いし、何でもできるし、モテるでしょうね?」
「おう。料理以外は自慢の妹だ」
(シスコンめ……)
「ユキだって可愛いし、勉強もスポーツも得意、料理も上手だからモテそうだけどな」
「っっっ!? そ、そんな事ないわっ!」
(可愛いって言われちゃった……可愛いって言われちゃった♡)
気恥ずかしくてしばらく無言で歩く……。
「結局、何も買わなかったわね」
「まだ時間はあるからゆっくり選ぶさ。その時はまた付き合ってくれないか?」
「いいわ。でもカオル君からのプレゼントなら、何を貰ってもひなちゃんは喜ぶんじゃないかしら?」
(私も……だよ)
「そうか? でも、俺センスあんまり良くないしな」
「そうかしら?」
「それより、思ったより遅くなってしまったな。こんな時間まで付き合わせて悪かったな」
「謝る必要はないいわ。……わ、私も今日のデート楽しかったし……」
「デート!?」
「男女で買い物してお茶してこんな遅い時間に並んで歩いて帰る……
デート以外の何物でもないでしょう?」
(これで手を繋げれば完璧なんだけどな)
「……そうか」
もうこんなところまで来てしまった。
彼と一緒に居られる時間はあと10分くらいね……。
(もっと一緒に居たい……な)
「ユキ、少しだけ遠回りしてもいいか?」
「いいわよ」
(やったー)
家から5分ほどのところにある小さな公園に私達は来た。
公園内に2つあるベンチの1つに並んで座る。
軽く雑談したあと、カオルが立ち上がり無言で手を差し出す。
「……ん」
彼の手を握り私も立ち上がる。そして彼と向かい合った。
「……」
「……」
無言の時が過ぎていく……。
私は緊張とドキドキで彼の顔をマトモに見る事ができない。
「ユキ、俺はユキに伝えたい事がある」
(やめて……)
「ユキ、俺、ユキの事が……」
(お願い……やめて……その先は言わないで……)
心臓の鼓動が激しい……。顔も熱い……目頭も……。
私は10日前にしたある約束の事を考えていた……。
───
「私、好きな人がいるの。だから……ごめんなさい」
家から5分ほどのところにある小さな公園のベンチに座り私は物思いに耽っていた。
告白してきた男子は既に去っていた。
(告白なら学校でもいいじゃない! なんでわざわざこんな家から近い公園で!?
カオルに見られたらどうするのよ!!)
「ユ~キちゃん!」
「!?」
振り返るとニコニコスマイルのひなちゃんが居た。相変わらず可愛いわね……。
「ユキちゃん、一人でこんなところでどうしたの?」
「ちょっと……ね。今帰り?」
「うん! それにしても、ユキちゃん相変わらずモテモテだね~!」
「……もしかして見てた?」
「ごめんね。見ちゃった……」
「この事、カオル君には……」
「お兄ちゃんには内緒にしておく。貸し1つだよ?」
「……ありがとう」
「どーいたしまして! ……でもね……」
ひなちゃんが私の隣に座り、微笑みながら言う。小悪魔みたい……。
「一度、貸しを清算させてくれないかな?」
「清算?」
「うん、ユキちゃんへの貸しは今のを含めて11個。10個はお兄ちゃん関係、残りの1個はお姉ちゃん関係だね」
「わかったわ。私、何をすればいいのかしら?」
「ユキちゃん、そんな怖い顔しないで? せっかくの可愛い顔が台無しだよ? ユキちゃんにはね……私と1つ約束をしてほしいの」
「……約束? 何かしら?」
「カンタンな約束だよ。ユキちゃんはモテるし告白されるのもしょっちゅうだと思うけど、今日から10日間は誰から告白されてもフッてほしいの。もちろん、自分から告白するのもダメだからね?」
ニッコリ笑いながらひなちゃんは言った。
妙な約束だなと思ったけど、ひなちゃんとのこの約束はしないわけにはいかない。
「わかったわ。今日から10日間、誰から告白されてもOKしない。私からも告白しない。これでよいかしら?」
「うん! 約束だよ!」
ひなちゃんは夕日を浴びて私の目を真っすぐに見つめて微笑む。
その姿に見惚れてしまうが、何故か少し怖いとも思った……。
「ユキちゃん、そろそろ帰ろう?」
「……そうね」
ひなちゃんがベンチから立ち上がり、無言で手を差し出す。
私はひなちゃんの手を取って立ち上がり、手を繋いだまま2人で家路についた。
ひなちゃんの手は驚くほど冷たかった……。
───
本来なら今日は人生最高の日だったのに……。
あの約束のせいで人生最低な日になるのだろう……。
「ユキ、俺、ユキの事がずっと好きだったんだ……。俺と付き合ってほしい!」
私は嬉しさと共に深い悲しみに襲われた。
自然と涙が出てくる……。これは嬉し涙? 悲し涙?
私、どうしてあんな約束をしてしまったのだろう?
カオルのためならどんなことでもできるし、誰との約束も破れる。
……でも、ひなちゃんとしたあの約束だけは“絶対に”破る事は出来ない。
───
ユキは俺の腕の中で泣いていた。
告白して泣かれるとは思っていなかったため、俺はどうしてよいかわからず、ただハグしていた。
(メッチャいい匂い……胸もちょっと当たってるし、ヤバっ!)
最近、欲求不満だった俺の息子がどんどん元気になる。
(ユキにばれないようにしないと!)
少し腰を引き、ユキを抱きしめる。
……
…………
………………
ようやく泣き止んだようだ。ユキが顔を上げる。
頬には涙の跡……綺麗だ…………。
「ユキ? 答え……聞かせてくれないか?」
言った瞬間、ユキの瞳に涙が溜まる。
そして…………
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
ユキは俺の唇に自分の唇を重ねていた。
思いがけない唇の感触に俺の息子はフル勃起だ。下着とスラックスに抑えつけられて少し痛い……。
唇を離してユキが真っすぐ俺の目を見る。
(キスしたんだ。しかもユキの方から……。OKって事だよな……)
「ごめんなさい!」
「えっ!?」
瞳から涙を零しながらユキが頭を下げる。
(えっ! これ絶対OKな流れだったよな!? なんで???)
頭を上げたユキは無理やり笑顔を作る。
「悪いけど、少し一人になりたいから先に帰るわ……。さようなら」
そう言うと足早に立ち去ってしまった。
残されたのは俺とフル勃起の息子だけだった……。
───
(カオル、傷つけちゃったよね? でも……しょうがないよね。私はひなちゃんとの約束だけは破れないもの……)
彼と別れ、帰路についた私の足取りは軽かった。
カオルの告白と今夜の事で頭がいっぱいだった。
(父さんと母さんは明日の朝まで帰ってこないしご飯は何を作ろう?
いや、時間が惜しいからコンビニで済ますのもアリね。
今夜は特別な夜になりそうだし奮発してちょっと高いアイスを買うのもいいわね)
この感動と興奮……今夜は最高の体験ができそうね。
今夜は最高の夜になる……この時まではそう思っていたわ……。