ご注意ください。
ヒナが俺の子供を産んだ。
ベッドの上は悲惨なことになっていたが、ヒナが“清掃”を使ったので今は綺麗だ。
ヒナは今カーテンに沿って横たわる。
俺は相変わらずヒナの左手を握っている。
カーテンの向こうにはユキと俺達の子供がいる。
俺達の子供の泣き声は聞こえない。
……死産なのだろう。
ヒナに何と言えばいい?
できるだけ傷つけずにどう伝える?
そんな事は無理だ。
そして……心のどこかでは、子供の事を考慮する必要がなくなり、これで良かったのかもしれない……。
と思う最低な自分もいた。
「ヒナ、疲れただろう? 寝てくれ……」
「お兄ちゃん? ヒナ、早く赤ちゃんに会いたいよ? 寝るなら赤ちゃんを抱いてから一緒に寝たいの」
「ヒナちゃん……無理よ」
「ユキちゃん……早く赤ちゃんに会わせて?」
「無理なの……」
「どうして?」
「無理だから……。そのカーテンだけは絶対に開けないでね」
「何故?」
「いいから……絶対開けないで」
しばらくしてカーテンの向こう側からぴちゃぴちゃ……。音が聞こえてきた……。
「ユキちゃん……何をしているの?」
ぴちゃぴちゃ……。
返事はない。
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃ……。
───
しばらく沈黙が続いた後、カーテンの向こうのユキちゃんが聞いてきた。
「ヒナちゃん、カオル君……。男の子と女の子だった。名前は決めてある?」
「朝日(アサヒ)と香織(カオリ)でいいよね? お兄ちゃん」
「……ああ」
「……そう」
私は少し気になって聞いてみる。
「ユキちゃん? “だった”ってどういうこと?」
「ヒナちゃん、カオル君……見せるべきかどうか、私……迷ってる」
「えっ!? ユキちゃん何言ってるの? お兄ちゃん、なんでヒナに抱きついて泣いているの?」
お兄ちゃんが泣いている。
私はお兄ちゃんが泣いている理由がわからない。
「ヒナ、すまない!」
「!? お兄ちゃん、泣いてないで説明してよ。説明してくれなきゃヒナ何もわからないよ」
「……泣き声が……聞こえないんだ……。俺達の子供の……」
「……どういうこと!? ヒナの赤ちゃん、泣いてないの……? それって……えっ!?」
お兄ちゃんが強く抱きしめる。
カーテンの向こうではユキちゃんがすすり泣いている。
「ヒナは悪くない……。辛い思いをさせてすまない」
「ヒナとお兄ちゃんの赤ちゃん!!」
「絶対にカーテンはめくらないで……。見ないで……ヒナちゃん……。お願い……」
ユキちゃんが泣いている。
お兄ちゃんも泣いている。
私は…………。
察した。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
私は思い切り泣いた。
───
「お兄ちゃん! ごめんなさい! ……うわぁぁぁぁぁん!」
私はお兄ちゃんに抱きついて泣いている。
お兄ちゃんは何も言わずに私を抱きしめる。
昨日の私は……子供なんていない方がいいと思ってしまった。
産まれない方がいいと思ってしまった。
今朝の私は……お兄ちゃんとの約束を破って、お兄ちゃんを求めてしまった。
こうなってしまったのは……私のせいだ。
ちょっと早いけど、元気な赤ちゃんが無事に生まれてくると思っていた。
「お兄ちゃん、もうヒナはお嫁さんやめる! ユキちゃんと結婚して! 2人で幸せになって!」
私は……もう……死にたい……。
私は泣き続けた。
「ヒナちゃん……」
カーテンの向こう側から
ユキちゃんが出てきて私を抱きしめる。
「こっちに来て……」
お風呂場とトイレに続く廊下に、ユキちゃんは私を優しく抱き締めながら連れてきた。
私はずっと泣いていた。
ユキちゃんもずっと泣いていた。
ユキちゃんは涙を流しながら私の正面に立ち、私の顔を見る。
私も泣きながらユキちゃんの顔を見ていた。
ユキちゃんの瞳が赤く染まる……。
───
何が起こったのかわからなかった。
左頬が熱い……痛い……涙が溢れる……。
私はユキちゃんに抱きしめられる。
抱き締められたまま、耳元でユキちゃんが荒い息を吐きながら言う。
「ハァ……ハァ……ヒナ、ふざけないで……。危うく首をはねるところよ」
ユキちゃんの言葉を聞いて、ゾッとした……。
ユキちゃんは静かに怒っていた。
───
「私はヒナがどうしてもカオルと添い遂げたいというから協力した。本当は私が添い遂げたいのを必死で我慢してだよ? それが何よさっきの? お嫁さんやめるって!? ヒナの想いはその程度だったの? その程度で私から私のカオルを奪ったの?」
ユキちゃんは抱擁を解き、私の顔を真っすぐ見る。
ユキちゃんの目は赤く輝いている……。
口元はマスクで見えない……怖い。
「カオルを見て。……どう?」
「お兄ちゃん……泣いてる」
「なんで泣いてるかわかる?」
「ヒナが……お兄ちゃんの子供を無事に産めなかったからだよ!」
「……ちがう!」
「えっ!?」
「ヒナのせいで泣いているんじゃないよ! ヒナが傷付いてるのが悲しくて泣いている」
「……そ、そうなの……!?」
「そんな事もわからないの? ヒナが辛くて泣くのは……いい。そんなヒナを想ってカオルは泣いている。私はヒナの事を想って泣いているカオル、そして一番傷付いているヒナ。2人を想って泣いている。皆辛いの……」
私の目から涙が溢れる。
「辛いのはヒナだけじゃない! みんな辛い! 辛いのは自分だけとは思わないで!」
「お義姉ちゃん! ごめんなさい!」
「謝るのは私じゃない……カオルに謝って! ヒナとカオルは夫婦だよ? 悲しみは夫婦2人で共有して、2人で悲しんで」
私はお兄ちゃんの元に駆け寄り泣いて謝った。
お兄ちゃんは無言で私を抱きしめ続けた……。
───
俺達は今3人でベッドの上に座っている。
目の前にはカーテンがある。
「私は……今でも迷っているわ。2人に、子供を見せるべきかどうか……。見たくないなら……私が処分して、この事はお墓まで持っていく秘密にするわ。見るかどうか、2人で決めて」
俺の腕の中で泣いていたヒナは俺の目を見る。
涙はもう止まっていた。
俺は無言でヒナに頷く。
「ユキちゃん、ヒナ自分の産んだ子を見るよ」
「そう……でも覚悟して頂戴。勘違いしているかもしれないから言っておくわ。死産ではないの! でも、死産の方がマシと思うかもしれないわ。それでも……見る覚悟はある?」
「っ!! 生きているのか!?」
「……わからないわ。これは私の想像の域を超えているの。自分の目で判断して」
「見せて! ユキちゃん!」
「……そう……なら見て」
ユキはそう言って即席のカーテンを開けた。
俺達の子供はベッドの上でシーツにくるまれていた。
随分……小さい……。
俺がヒナの顔を見ると、気付いたヒナが頷く。
俺はゆっくり手を伸ばしてシーツを解いていく……。
「!!!」
想像を絶するものが目に映っていた……。
───
ヒナが出産する前日……。
姉と弟は母の子宮内で話し合っていた。
もちろんまだ言葉を話す事はできないため、一種のテレパシーのようなもので意思疎通を行っている。
「……ってママは思ってそうなの」
「そうなの? お姉ちゃん? これからボク達どうすればいいの?」
「そうね。ママに会いたい?」
「別に会いたくない」
「私もよ。パパには?」
「別に……」
「私もよ」
「ボク達、産まれない方がいいんでしょ?」
「そうね。私達を産むとどうなるかわかる?」
「わからない」
「ママは、最低5年は無駄な時間を過ごす事になるわ。パパは16年くらいかな?」
「勝手に時間を無駄にするのは別にいいよ。結局ボクら、望まれていなかったんだね」
「そうね。だからこのまま私と死んでくれない? 私達が死んだ方がママもパパも楽になるんだよ」
「……ボク達が死んだらママとパパは悲しまない?」
「えっ!? ……それは……」
「……ボクいい事を思い付いたちゃった。これならママとパパの力にもなれる。悲しませちゃうかもしれないけど、ボク達が死ぬよりは悲しまないはず……」
「聞かせて」
弟は姉に自分の計画を語る。
姉は弟の計画を大層驚いて聞いていた。
「どう思う? お姉ちゃん」
「弟……あなた……天才?」
「お姉ちゃん、早速行動しよう……」
───
「ボク達だけの力じゃこの計画は成功しない。パパとママの協力が必要だよ」
「パパの種とパパの手が必要ね」
「そう。そのためにはママに協力してもらう必要がある」
「ママ……お願い……私達のために、行動を開始して!」
姉弟はまず母の閉ざされた性欲を解放させた。
「すごい! もうママがパパを欲しがってるわ」
「少し暑くなってきたね。ママは変態だからこの分だとすぐ手に入れそうだ」
「変態とはちょっと違うと思うわ。ママはパパの事が好き過ぎるだけよ」
───
ヒナが出産する朝……。姉弟は時が来た事がわかり期待に胸を膨らませていた。
「お姉ちゃん。思ったより時間が掛かったけど、やっとパパが入ってきたよ。もう少しで種が手に入るよ。準備はいい?」
「うん、準備は出来てるわ」
姉弟の元に種が届く……。
「よし、種が手に入った。これでスキルが使えるよ」
「いよいよね」
「お姉ちゃん、ボクが先に生まれさせて貰うね」
「どうして?」
「ボクが先に生まれた方が面白いから♪ ユキさんの驚く顔が見たい♪ ……強制出生!」
「弟……無事を祈ってるわ。あ! パパがママの手を握った! これでもうパパの手が使えるわ」
「お姉ちゃんも無事で。パパの手よ! ボクの願いは……ボクは魔道具としてママから生まれたい! 捧げる代償はボクの命だ!」
弟の姿はみるみるうちに変わっていった……。
「お姉ちゃん、先に生まれて待ってるね」
「私もすぐ行くわ。……強制出生! ……パパの手よ!」
こうして姉弟は自分の命と引き換えに、魔道具としてこの世に生を受ける事となった。
───
シーツにくるまれていた我が子を見て、俺は固まっていた。
俺の頭の理解が追い付かなかった。
「ユキ…………?」
「私に聞かれても困るわ。私もわからないの……」
「ユキちゃん、本当にヒナから産まれてきたの?」
「……そうよ。間違いないわ」
俺とヒナの子供。ヒナが産んだ子は、ディルドとオナホだった……。
おそるおそるヒナの顔を見る。
ヒナは俯いていて顔が見えない。
「お兄ちゃん、ユキちゃん、さっきは取り乱してごめんなさい。ヒナ、ヒナのせいで、お兄ちゃんの赤ちゃんを無事産めなかった。そう思っていたの……」
ヒナが顔を上げる。
泣いていた……。
「ヒナ、間違ってた。ちょっとほかの赤ちゃんとは違う姿だけど、正真正銘、お兄ちゃんとヒナの子供だよ。無事生まれてきてくれてありがとう」
俺はヒナの肩を抱く。
「そうでしょう? お兄ちゃん?」
「そうだ。俺達の子だ」
ヒナがディルドを手に抱く。
「抱かせて……朝日(アサヒ)。お前の名前は朝日(アサヒ)よ。パパが付けてくれた名前よ」
俺はオナホを手に抱く。
「そしてお前の名前は香織(カオリ)だ。無事生まれてきてくれてありがとう」
俺は泣いていた……。
───
……姉弟は命を失っていたがまだ意識はあった。
(これがボクのママ? 会うつもりはなかったけど会えてよかった。綺麗だねママ。大好きだよ!)
(私のパパ!? ママが好きになるのもわかるわ。こっちはユキさん? 私達が無事生まれるよう、頑張ってくれてありがとう)
(お姉ちゃん……。もうそろそろ、僕らは僕らじゃなくなる……)
(そうだね。でも私、生まれてきて良かった。名前も付けて貰えた。香織(カオリ)……素敵な名前。嬉しかったよ。ママ、パパ……)
(良かったね。僕も朝日(アサヒ)って名前が好きだ。カオリお姉ちゃん……出来れば元の世界でも……お姉ちゃんのおとうととしてうまれ……)
(うん。アサヒ……みじかいあいだだったけど……。……たのしか……)
(ぼくも……カオ……おね……ちゃ……)
姉と弟はここで意識を無くす……。
ここからは魔道具として機能する人生が待っている……。
道具に感情も意識も必要はなかった……。
───
「お兄ちゃん! カオリがすごく濡れてる……」
「アサヒも先走り汁がすごいな……」
カオリとアサヒから分泌される液体がシーツにシミを作っている。
「2人とも泣いているのかな?」
「……かもしれないな。悲しいのか……?」
「ママとパパに抱かれてるんだから、悲しい訳ないでしょ?……嬉しくて泣いているのよ」
ユキは静かに言った……。