(これが、お兄ちゃんとの最後のエッチか……)
目の前で苦しみ続けるお兄ちゃんを見つめる。
物凄く悲しいはずなのに、私はひどく冷静だった。
(あと、3人くらい、お兄ちゃんの子供、欲しかったなぁ)
今の私の子宮には、魔道具が入っているから、お兄ちゃんの精子を貰っても、お兄ちゃんの子供を孕む事は出来ないだろう……。
お兄ちゃんとの最後のエッチで、お兄ちゃんの赤ちゃんが欲しかった。
お兄ちゃんが死んだら……私は、どうしよう……。
昨日までの私だったら、きっとお兄ちゃんの後を追って……。
でも、今は……。
(もしかしてお兄ちゃんは、こうなる事、わかっていてあんな事を言っていたのかな?)
『もしも、俺に何かあったら……俺の代わりにヒナを支えてあげてくれないか? これは、俺からの願いだ……』
お兄ちゃんがマリーGに言った言葉を思い出す。
私はマリーGに惹かれつつあった。
もちろん、お兄ちゃんの事、愛している。でも、お兄ちゃんが居なくなったら……。
(アイツと一緒に暮らすのも、悪くないかもね)
エッチは出来ないけど、マリーGと一緒なら、お兄ちゃんの死を乗り越えられるような気がした……。
「カオル! おねがい! 死なないで!!」
また、背後からクロちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえた。
(いけない……せっかくお兄ちゃんとエッチするのに、他の男の人の事を考えていたら、流石のお兄ちゃんも嫉妬しちゃうよね?)
私はお兄ちゃんとの最後のエッチをするため、最後の精子を貰うため、お兄ちゃんの唇に唇を重ねた……。
重ねた瞬間、涙があふれる。
「お兄ちゃん、挿れるね……」
「カオル! やだよ! 死んだらイヤだよ! 私の10人の赤ちゃんはどうなるの!?」
(クロちゃん、先にお兄ちゃんの精子貰っちゃうね……この後、クロちゃんもお兄ちゃんの精子を貰って、赤ちゃん、出来たらいいね)
「約束したじゃない! 嘘つき! カオルの嘘つきぃぃぃ!!」
私はお兄ちゃんのオチンチンをゆっくり、オマンコに挿れ……。
「……そんな約束をした覚えはないぞ?」
(えっ!?)
思わず身体が硬直する……。
お兄ちゃんがゆっくり目を開ける。
口には笑みを浮かべていた……。
私は涙があふれ、目の前のお兄ちゃんに抱き着く準備をする……。
「おにいちゃ……ッ!! ぐへっ!!!」
背後からとてつもない衝撃を受け、気付くと私はベッドから転げ落ち、ブザマに床に転がっていた。
「カオル! よかった! カオル~~!!」
「ちょっと!? クロ!! 大丈夫!? ヒナちゃん?」
ベッドの上から2人の声が聞こえる。
さすが(?)の私も堪忍袋の緒が切れた!
クロちゃんを思いっきり引っ叩いてやろうと私は立ち上がり、ベッドの上を見て……。
クロちゃんがお兄ちゃんに抱き着き、泣きながら胸に頬ずりしていた。
そんなクロちゃんの頭を、お兄ちゃんは笑いながら撫でている。
そんな2人を見ているユキちゃんは、涙を流しながら笑みを浮かべている。
そんな様子を見て、私はすっかり怒りが収まった。
(よかったね……クロちゃん……)
「お兄ちゃん……」
私もお兄ちゃんに抱き着こうとして……。
「ヒナ…………鼻血、出てるぞ」
私はズッコケそうになる……。
黒いリボンがクロちゃんの頭の上でいつまでも揺れていた……。
───
「ヒナ、ご、ごめんなさい……」
「クロちゃん、ヒナとお兄ちゃんの感動の再開が台無しだよ!」
「ヒナ、終わったぞ」
カオルがヒナちゃんの鼻に治癒を掛け終えた。
腕を組み、鼻息を荒くするヒナちゃんの前で、クロは萎縮している……。
「さて、鼻血も止まったし、お兄ちゃん……続きをしよう♡」
ヒナちゃんの言葉に、クロは悔しそうな顔をする。ヒナちゃんはそれに気付いているのだろうか?
(素直な子ね……私とは違って……)
「お兄ちゃん……ヒナが何か月我慢したと思っているの? お兄ちゃんの濃い~~精子をヒナのオマンコの奥に射精して♡」
クロは拳を握り締め、下唇を噛みしめている。目の前にいるヒナちゃんに、明らかに嫉妬していた。
「…………な~んちゃって!」
「えっ!?」
ヒナちゃんはクロに向かって、悪戯ぽく笑みを浮かべる。
一方のクロは、驚きで固まっている。
「さすがにクロちゃんとお兄ちゃんが結婚した夜なのに、クロちゃんより先にお兄ちゃんとエッチしようなんて思わないよ……クロちゃん、意地悪しちゃってごめんね! さっきの仕返しだよ♪」
「ヒナ……いいの? ヒナもカオルとエッチしたかったんじゃないの?」
「もちろん、したいよ? でもさぁ……」
ヒナちゃんがクロに抱き着き、クロの股間に手を伸ばす。
「あっ! ダメ!」
くちゅん♪
股間からは水音が聞こえた……。
「こんなに濡らしちゃって……クロちゃん、お兄ちゃんとエッチしたくてしょうがないでしょ?」
クロは顔を真っ赤にして、無言で頷いた。
「なら、お兄ちゃんにおねだりしてみせて?」
「えっ! は、恥ずかしいよ……あんっ! ダ、ダメ!」
恥ずかしがるクロの股間を、ヒナちゃんが悪戯したようだ。
「ヒナちゃん、わかった。だからもうやめて! お豆グリグリしないでぇ!」
「ん! わかればよろしい」
ヒナちゃんがクロの股間から手を放す。
粘液が糸を引いていた……。
「カ、カオル……私、カオルの赤ちゃんが欲しいの……これから、私のオマンコの奥に赤ちゃんミルクをいっぱい出して、1人目を作ろう♡」
私は、聞いていて、こちらが恥ずかしくなった……。
もしかしたら、クロと同じく今の私の顔も真っ赤なのかもしれない……。
「という訳で、お兄ちゃん、先にクロちゃんとエッチしてあげて。ヒナ、その次でいい♡」
「わかった……クロ、おいで……」
クロがカオルと身体を重ねる。
ヒナちゃんは無言で、ソファーに座る私の膝の上に、お尻を降ろした。
ぬちゅ……
ヒナちゃんの股間から溢れた熱い愛液が私の膝を汚す。
(ヒナちゃん……あの子のために……ありがとう)
私はヒナちゃんを抱きしめながら、クロの初夜を見守っていた……。
……
「いっ! …………あっ! がっ!」
様子がおかしくなったのは、前戯が終わり、カオルとクロが手を繋いでオチンチンを挿れるときだった。
カオルの下でクロが苦しみだし、涙を流す。
「クロちゃん!?」
「クロ! どうしたの!?」
カオルも戸惑っているようだ。心配そうにクロを見つめている。
「い……たい……すごく、痛いよぅ……」
「「「えっ!?」」」
3人同時に声を上げる。
「お兄ちゃん? クロちゃんとエッチしたんじゃないの!?」
「エッチしたぞ?」
「クロ? あなた、もしかして、カオルに無理やりお尻の穴に挿れられたの!?」
「おい! 俺はちゃんとクロのオマンコに挿れたぞ?」
「じゃあ……どうして?」
「……俺のチンポが小さすぎて、処女膜が破れなかったのかもしれない」
なるほど。確かにクロがカオルを貪った時に聞いた内容では、クロは全く痛がっていなかった。
という事は、クロは私が捧げられなかった処女膜を、カオルに捧げられる……。
「カオル……私、今でも後悔しているの! カオルに処女膜を破って貰えなかったこと……」
「ユキ? 俺はそんな事、全然気にしてないよ……」
「ううん、私が、カオルに破ってほしかったの……だから、思い切り破ってあげて。カオル、クロと私をカオルの女にしてぇ!」
「クロちゃん、耐えて! そこで諦めたら赤ちゃんが作れないよ!」
クロはカオルを見つめ、涙を流しながら微笑む。
「カオル、私、大丈夫だよ? 私の未開封オマンコをカオルのオチンチンで開封して! 私とユキの処女膜を、破って!」
「わかった。クロ、苦しい思いをさせてすまない、我慢してくれ……」
カオルがクロの股間に腰を埋め始める。
「あっ! あああぁぁぁぁぁぁ!」
クロはカオルと手を繋ぎながら、もう一方の手を彼の背中に回し、カオルにしがみ付く。
涙を流しながらも、口元には笑みを浮かべている。
愛する男に処女を捧げたクロの表情は、少女から女に変貌していた……。
───
クロの頭で激しく揺れ続けたリボンが、ようやく止まる。
クロは愛おしそうにカオルを抱擁していた。
「カオル……愛してる……」
「ああ、クロ……俺も愛しているよ……」
「赤ちゃん……出来たかなぁ……」
カオルとクロが離れると、膝からヒナちゃんが降りる。
私はクロの元へ向かい、彼女を抱き抱えた。
クロは精子がこぼれないようにするためか、自らの股間を手で抑えていた。
「クロ、次はヒナちゃんに譲ってあげて。今日は私と一緒に寝ましょう」
クロは拒絶する。
「いやだ、カオルと一緒に寝たいよ!」
「クロ、ごめん。お願い。私の言う事を聞いて。カオルとヒナちゃんを2人きりにしてあげて……」
クロを見つめ静かに言うと、クロは諦めたようだ。
無言でコクリと頷く。
「ユキちゃん! いいの? お兄ちゃんとエッチしなくて……」
「ユキ?」
「ええ、私は大丈夫よ。カオル、明日、楽しみにしているわ。2人ともおやすみなさい」
「ヒナ、おやすみ! カオル……今日はありがとう。おやすみ……愛してるよ」
私とクロは2人に挨拶をし、もう一つの寝室に向かった……。
……
「ユキ、ひどいよ! どうしてカオルから私を引き離したの?」
部屋に入るなり、クロが抗議の声を上げる。
「クロ、あなたにとってはせっかくの初夜なのに、ごめんなさい。でもね、理由はあるの……」
「……理由?」
首を傾げるクロをベッドにそっと寝かせる。
今から言う事は、確証があるわけではない。
これは直感だ……そして、この直感が当たっている気がしてならなかった……
「クロ、気付いていないかもしれないけど、あなたのお腹の中には新しい命が宿っているわ」
「えっ!?」
クロは目を見開き、私を見つめる。
まだ、自分では気付いていないのだろう……。
「私のお腹の中にカオルの赤ちゃんがいるの?」
クロは瞳を潤ませながら、私の顔を見る。そして嬉しそうに下腹部をそっと撫でた。
私は、その顔を見て、肯定も否定もできなかった。
「私、カオルの赤ちゃんのママになるのね……私、しあわs……!!!」
クロが苦しみ出した。
「お腹……お腹が痛いよ!」
「クロ! 頑張って! 気をしっかり!」
私はクロの頭をそっと撫でる
そして、クロの口に猿轡をはめた。
(クロ……ごめんなさい)
「ん~~~!! ん~~~~~!!!」
シーツを使って簡易カーテンを作り、クロのお腹の上で仕切った。
泣き、苦しみ、のたうち回るクロの身体を両手で押さえつける。
漆黒のリボンが揺れていた……。
……
数分後、クロは無事に産んだ……。
私はクロの口にはめた猿轡を外す。
「クロ、よく頑張ったわね……」
「ユキ……カオルの赤ちゃん、抱きたいよ? 抱かせて?」
「クロ……それは無理なの」
「えっ!? どうして? 私、カオルの赤ちゃんを産んだよね?」
「いいえ、あなたはカオルの赤ちゃんは産んでいないの……」
「嘘だよ!? 私はカオルに処女を捧げて、オマンコの奥にたっぷり赤ちゃんミルクを貰って、カオルの子供を妊娠して産んだよ? カオルの赤ちゃんだよ?」
クロの言葉に胸を締め付けられるが、心を鬼にする。
「クロ……ごめんなさい」
私はクロのお腹の上のカーテンを開けた。
「え!? ……嘘! 噓でしょ!?」
クロの瞳が見開く。
クロの股間の先には全裸のクロが無表情で立っていた。
そう、それはクロの肉分身だった……。
「クロ……ごめんなさい。私たちはもう、カオルの子供は産めないの……。カオルを愛している私たちが産めるのは……私たちの疑似卵子とカオルの精子で受肉した、肉分身だけなの……クロ、そんな身体にあなたを産んでしまった私を許して……」
クロの口にもう一度猿轡をはめる。
クロは……哭いた……。
……
ようやく落ち着いたクロから猿轡を外す。
クロは乾いた瞳で、私をじっと見る。
「ユキ……こうなること……」
「ええ、わかっていたわ。確証はないけど、予感はあったわ」
やがて、クロの視線は自分が産んだ肉分身に向けられる。
「カオルから引き離してこの部屋に連れてきたのも……」
「ええ、クロ、カオルは私の全てよ。私はカオルを悲しませたくないわ。……だから、カオルの知らないところで、あなたに肉分身を産ませた……。クロ……許してとは言わないわ。私は私の都合であなたを一方的に傷つけた」
「この子を……どうするの?」
悲しむクロの問いに答える。
「……このまま、消えてもらいましょう」
自分でも驚くほど、冷徹な答えだった。
私の答えを聞いて、クロはまた涙する。
「ユキ……ひどいよ……」
「ごめんなさい……カオルを悲しませたくないから、クロには泣いてもらうしかないわ……」
泣きじゃくるクロを見つめる……もう一つの選択肢を伝える覚悟ができた……。
そっと、右手に力を込める……。
「クロ、つらくて耐えられないなら……私があなたを今すぐ消してあげるわ」
クロの目が見開かれる……
「や、やだ……カオルと離れたくない……お願い! 消さないで!!」
「……そう……なら、耐えなさい!」
クロは隣の部屋にいるカオルに気を使っているのか、声を押し殺して泣いた。
私は、クロを抱きしめ、頭を撫で続けた。
クロの足元には肉分身が無表情でただ黙って立っていた……。
「このまま消えてしまう、この子がかわいそうだよ。一緒に寝てあげてもいい?」
「余計につらくなるだけよ? あなた、自分で言っていたじゃない? 起きた時、居なくなって、代わりに灰があったら、悲しむって」
「それでも、この子がかわいそうだよ……」
「……しょうがないわね。あなたの好きにしなさい」
クロは分身を抱きしめて、一緒にベッドに横になる。
私は2人にシーツを掛け、ベッドの傍らのソファーに座る。
「ユキは寝ないの?」
私は微笑む。
「私にとって、クロは子供、その子は孫のようなものよ……孫の顔をこの目に焼き付けておきたいの」
「ユキ、それ、私が言っていたセリフ……」
「そうだったかしら? ……クロ……分身とはいえ、出産して疲れているのだから、ゆっくり休みなさい」
「うん……ユキ、ありがとう」
目を瞑るクロの頭を優しく撫で、クロに抱きしめられている分身の頭も撫でる。
分身の表情は、相変わらず無表情だった。
……
静かに寝息を立てるクロと、目をあけたまま無表情の肉分身を見て、私は拳を握る。
クロ……この子には悲しい思いをさせてしまった。
予感はしていたけど、確信は無かった。でも、これでハッキリわかった。
クロは私と同じく肉分身を産む事ができる。
そして、クロ自身はそれを制御できない……。
(クロ……可哀そうな子)
もう一度、クロの頭をそっと撫でた。
「……カオル」
クロが小さく呟く……夢でも見ているのだろうか。
(クロ……あなたはこれから先、幸せと同時に、たくさん悲しむ事になるわね……)
クロの今後の苦難を思うと、私は涙を止められなかった。
クロの腕の中で、分身の身体は崩れ、やがてシーツの上には一握りの灰が残された……。
───
翌朝、クロは寝室から出てこなかった。
「疲れているみたい。昨夜のエッチが想像以上に負担だったのかもしれないわね……」
「クロは……大丈夫なのか?」
「本人に聞いてみて」
寝室の扉を開け、クロの寝るベッドの傍らに立つ。
俺の顔を見るクロの瞳は輝いているが、悲し気で元気は無かった。
「クロ、大丈夫か? 昨夜は無理をさせてすまなかった」
「ううん、大丈夫……。心配かけてごめんね……」
クロが両手を差し出すので、俺はクロにハグし、キスする。
「私がクロに付き添うから、今日は2人だけで出かけて」
「いや、いいよ。今日は仕事も休みだし、部屋でゆっくり過ごそう。ヒナ、いいか?」
「出かけるなら、みんな一緒がいいし、いいよ。クロちゃん、早く良くなってね」
「ヒナ、ありがとう。少し休んでいれば良くなると思う……」
クロとクロに添い寝するユキを残し、ヒナと共に寝室を出る……。
寝室を出る瞬間、クロの視線を感じた気がした……。
───
「お兄ちゃん、2人きりだね。どうしようか?」
「そうだな……」
「エッチな事……する?」
「ヒナ、昨夜散々しただろ? まだ、欲求不満か?」
ヒナは俺から目を逸らす。
「ごめん、冗談。するなら夜だね♡」
「お、おう……」
「……」
「……」
無言の時が続く……少し、気まずい。
ふと、閃いた。
「ヒナ、親方たちに会いに行かないか?」
「えぇ?」
「昨日はアクエリアンさんたちに捕まって、あまり話せなかったからな」
「それはそうだけど……」
「もう、ここに居られる時間も少ないからな。俺は親方たちには世話になったから、今のうちにゆっくり話したいんだ」
「……そうだね」
ヒナは言い淀む。
何か思う事があるのかもしれないが、俺は気付かないフリをする……。
「じゃあ、行くか」
ユキとクロに声を掛け、俺たちは部屋を出た……。
───
「「デカ乳ママ!」」
途中、サイクロプスのキュウの子供であるカイとキイ、キュウの妻のアールと出くわす。
子供たちはヒナの胸にダイブした。
「こら、カイ……あまりデカ乳ちゃんを困らせたらダメよ? あら? あなたは?」
「カオル……ボウズですよ。アールさん」
「まぁ! 呪いが解けたのね!?」
しばらく、アールと歓談していると……。
「おい? カイ、今何て言った? ぶん殴るぞ!」
「望むところだ! デカ乳! 俺の奥義を喰らえ! はぁぁぁぁ!」
「デカ乳ママは僕が守る! ……でも、痛そうだから避ける!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
ヒナが消し飛んでいた。もちろん、子供の遊びだ。
そんな様子を俺とアールは微笑ましく見ていた。
「仲、よさそうですね。俺も小さい頃はああやって遊んでいましたよ」
「ウチの子たちはすっかりデカ乳ちゃんに懐いちゃって」
アールが笑い、俺も笑みを浮かべる。
ヒナは子供たちにモミクチャにされていた……。
「アールさん!」
「ええ! ボウズさん、どうしたの!?」
俺は、ずっと気に掛けていた事を、この際なので聞く事にする。
俺の真剣な表情に、アールは驚いている。
「祭り会場に囚われていたアールさんの事を、俺は親方に話しました。その結果、キュウと結ばれましたが、アールさんはそれでよかったのですか?」
アールは俺を見つめ、一つ目をパチパチと瞬かせる。
ヒナの断末魔が聞こえる。次は全身骨折のようだ。
「ボウズさんがそんな事思っていたなんて、知らなかったわ。……私は今、最高に幸せよ」
「そう、ですか。よかったです」
アールの言葉を聞き、俺は心が軽くなるのを感じた。
俺の心配は杞憂だったようだ……。
「ボウズさんは優しいのですね。アクエリアンさんが言っていましたよ?」
「あのヘンタ……アクエリアンさんが?」
「ええ、“同志は老女好きの風上にも置けないヤツだが、根はいいヤツだよ。ただ、女性の趣味はどうかと思う”……だって」
(ほぼ、悪口じゃないか……)
俺はヒナを見る。
ヒナは胸をブルンブルン震わせ、お腹に手を当て、崩れ落ちる。
「こ、こんなところで……私が負ける……なんて……」
崩れたヒナの頭を、アールたちの子供が踏みにじる。
アールは急いでそれを止めた。
(女性の趣味は、だと? ……俺の妻は最高だぞ? アクエリアン……)
やられたフリをしたヒナが起き上がり、カイたちとじゃれあい、笑っている。
目の前に広がる光景は平和そのものだ。
ヒナと子供たちの笑い声はいつまでも響いていた……。
───
「見違えたな……ボウズ。で、何の用だ?」
「これといった用事は無いよ。昨日はあまり話せなかったからな」
「そうか……まぁ、座れや。アイツらも呼ぼう」
ウタマロは懐から魔石を取り出す。
「親方、さっき会ったからキュウは呼ばなくていいよ。今頃、アールさんと……」
「お、そうか?」
ヒナの言葉に、先ほど、フル勃起させながらアールと去っていったキュウを思い出す。
親方は魔石を使ってヤダマンを呼び出す。マリーGとは連絡が取れないようだ。
「ヒナ、すまないが、アル中を呼びに行ってくれないか?」
「えっ!? ヒ、ヒナが? …………わかった」
ヒナが早足で部屋を出ていく。その顔は少し赤かった。
入れ替わりに、ヤダマンが部屋に転移してきた。
「ボウズ! 無事呪いが解けたっスね? 嫁さんたちは?」
「おかげ様で無事に解けたよ。死ぬかと思ったが……。今日はヒナだけ連れてきた。今、アル中を呼びに行っているよ」
「そうっスか。デカ乳が、アル中をねぇ……そういや、聞いたっスよ? オニも嫁さんにしたって」
ヤダマンはニヤニヤしている。
「あっしは羨ましいっス! ボウズには3人も嫁さんがいるのに、あっしはゼロ……不公平っス!」
「おめぇはまず、恋人を作らなきゃな」
「アニキはコルガがいるから、いいっスね」
2人の掛け合いは続く。
聞いていて、心地いい。これがもうすぐ聞けなくなると思うと、少し寂しい……。
……
マリーGとヒナが合流し、俺たちは他愛もない雑談をしていた。
ヤダマンと親方の冷やかしに、ヒナは恥ずかしがり、時には開き直り、時には怒る。
マリーGも恥ずかしそうにしているが、時折、悲しそうな表情を浮かべていた。
「で、ボウズ、いつ発つんだ?」
ウタマロの言葉に、それまでの騒がしい雰囲気が静まる。
ヒナはツラそうな顔で俺を見つめる。
「休みの明日に準備をして、明後日の朝、朝礼で皆に挨拶したらビチクエルに向かうつもりだ」
「そうか」
「寂しくなるっスねぇ~~」
ウタマロの表情は変わらない。
ヤダマンはあからさまに残念そうな顔をしている。
マリーGはただ黙って、ヒナを見ていた。
そんなマリーGの視線に気付いたのか、ヒナは俯く。
パンッ!
ウタマロが自らの膝を叩くと、立ち上がる。
「帰らずの塔だか何だか知らねぇが、ボウズ……戻って来いよ……」
「ああ……もちろんだ」
「さて、湿っぽい話はおしまいだ。酒でも飲もうや」
酒が入ると、また、明るい雰囲気に戻った。
ウタマロもヤダマンも陽気に笑う。
マリーGとオレンジジュースを手にしたヒナも笑い合っている。
俺は、初めて飲む酒の苦みと、この場の温かさをじっくり味わっていた……。
───
「……楽しかった、なぁ」
ウタマロたちと別れ、ユキとクロの待つ部屋に戻る途中、ヒナが月を見たいと言い、塔の上階に俺たちは居た。
頭上には星空が広がっている。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「……ああ、少ししか飲んでないし、俺はユキとは違うよ」
「ユキちゃん、前にワインを飲んで、ベロベロに酔っぱらってたよね。あれは、笑えたなぁ」
「ヒナ……」
「なぁに? お兄ちゃん?」
ヒナはキョトンとした表情で俺を見つめる。
「キスくらいしたか?」
「なっ! 何言っているのよ!」
「そ、そうか……すまん……」
顔を真っ赤にするヒナに謝罪した瞬間……
(!?)
俺の唇に、ヒナが唇を重ねる
ヒナの背中に手を回し、しばらく、ヒナの唇の柔らかさとヒナの身体の温かさを堪能した。
夜風がヒナの髪を揺らす……。
「お兄ちゃんの……バカ……」
唇を離すと、ヒナは小さく呟く。
「お兄ちゃんが生きているうちは、ヒナはお兄ちゃん一筋なんだからね!」
「そうか……ヒナ、俺に何かあった時は……」
「……わかってる。……お兄ちゃんが死んじゃうなんて想像もしたくないけど、その時はアル中に支えてもらうよ……」
「そうしてくれると、俺も安心して成仏できるよ」
「お兄ちゃんが成仏しちゃうなら、やめようかな? お化けでもいいから、お兄ちゃんにはヒナの傍にいてほしいよ……」
「勘弁してくれよ……安らかに眠らせてくれ」
「ヒナだけじゃなく、お兄ちゃんの大好きなユキちゃん、クロちゃんもすごく悲しむよ? ユキちゃんあたりは、お兄ちゃんが死んだらゾンビにして復活させるかもしれない……だからね……」
ヒナは俺を見つめて満面の笑みを浮かべる。
「お兄ちゃんは死んじゃダメだよ」
ヒナが俺の手をギュッと握る。
「……ああ、約束するよ」
俺もヒナの手を握り返す。
月の明かりに照らされるヒナは、美しかった……。