※この作品はR-18です。

お兄ちゃんの子供が欲しい妹とそうでもない兄   作:猫見サイル

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74 お兄ちゃんが復活しました

(これが、お兄ちゃんとの最後のエッチか……)

 

 目の前で苦しみ続けるお兄ちゃんを見つめる。

 物凄く悲しいはずなのに、私はひどく冷静だった。

 

(あと、3人くらい、お兄ちゃんの子供、欲しかったなぁ)

 

 今の私の子宮には、魔道具が入っているから、お兄ちゃんの精子を貰っても、お兄ちゃんの子供を孕む事は出来ないだろう……。

 お兄ちゃんとの最後のエッチで、お兄ちゃんの赤ちゃんが欲しかった。

 

 お兄ちゃんが死んだら……私は、どうしよう……。

 昨日までの私だったら、きっとお兄ちゃんの後を追って……。

 

 でも、今は……。

 

(もしかしてお兄ちゃんは、こうなる事、わかっていてあんな事を言っていたのかな?)

 

 

『もしも、俺に何かあったら……俺の代わりにヒナを支えてあげてくれないか? これは、俺からの願いだ……』

 

 

 お兄ちゃんがマリーGに言った言葉を思い出す。

 私はマリーGに惹かれつつあった。

 もちろん、お兄ちゃんの事、愛している。でも、お兄ちゃんが居なくなったら……。

 

(アイツと一緒に暮らすのも、悪くないかもね)

 

 エッチは出来ないけど、マリーGと一緒なら、お兄ちゃんの死を乗り越えられるような気がした……。

 

「カオル! おねがい! 死なないで!!」

 

 また、背後からクロちゃんの泣き叫ぶ声が聞こえた。

 

(いけない……せっかくお兄ちゃんとエッチするのに、他の男の人の事を考えていたら、流石のお兄ちゃんも嫉妬しちゃうよね?)

 

 私はお兄ちゃんとの最後のエッチをするため、最後の精子を貰うため、お兄ちゃんの唇に唇を重ねた……。

 重ねた瞬間、涙があふれる。

 

「お兄ちゃん、挿れるね……」

「カオル! やだよ! 死んだらイヤだよ! 私の10人の赤ちゃんはどうなるの!?」

(クロちゃん、先にお兄ちゃんの精子貰っちゃうね……この後、クロちゃんもお兄ちゃんの精子を貰って、赤ちゃん、出来たらいいね)

 

「約束したじゃない! 嘘つき! カオルの嘘つきぃぃぃ!!」

 

 私はお兄ちゃんのオチンチンをゆっくり、オマンコに挿れ……。

 

「……そんな約束をした覚えはないぞ?」

(えっ!?)

 

 思わず身体が硬直する……。

 お兄ちゃんがゆっくり目を開ける。

 口には笑みを浮かべていた……。

 

 私は涙があふれ、目の前のお兄ちゃんに抱き着く準備をする……。

 

「おにいちゃ……ッ!! ぐへっ!!!」

 

 背後からとてつもない衝撃を受け、気付くと私はベッドから転げ落ち、ブザマに床に転がっていた。

 

「カオル! よかった! カオル~~!!」

「ちょっと!? クロ!! 大丈夫!? ヒナちゃん?」

 

 ベッドの上から2人の声が聞こえる。

 さすが(?)の私も堪忍袋の緒が切れた! 

 

 

 クロちゃんを思いっきり引っ叩いてやろうと私は立ち上がり、ベッドの上を見て……。

 

 

 クロちゃんがお兄ちゃんに抱き着き、泣きながら胸に頬ずりしていた。

 そんなクロちゃんの頭を、お兄ちゃんは笑いながら撫でている。

 そんな2人を見ているユキちゃんは、涙を流しながら笑みを浮かべている。

 

 そんな様子を見て、私はすっかり怒りが収まった。

(よかったね……クロちゃん……)

 

「お兄ちゃん……」

 

 私もお兄ちゃんに抱き着こうとして……。

 

「ヒナ…………鼻血、出てるぞ」

 

 私はズッコケそうになる……。

 

 黒いリボンがクロちゃんの頭の上でいつまでも揺れていた……。

 

 ───

 

「ヒナ、ご、ごめんなさい……」

「クロちゃん、ヒナとお兄ちゃんの感動の再開が台無しだよ!」

「ヒナ、終わったぞ」

 

 カオルがヒナちゃんの鼻に治癒を掛け終えた。

 腕を組み、鼻息を荒くするヒナちゃんの前で、クロは萎縮している……。

 

「さて、鼻血も止まったし、お兄ちゃん……続きをしよう♡」

 

 ヒナちゃんの言葉に、クロは悔しそうな顔をする。ヒナちゃんはそれに気付いているのだろうか?

 

(素直な子ね……私とは違って……)

 

「お兄ちゃん……ヒナが何か月我慢したと思っているの? お兄ちゃんの濃い~~精子をヒナのオマンコの奥に射精して♡」

 

 クロは拳を握り締め、下唇を噛みしめている。目の前にいるヒナちゃんに、明らかに嫉妬していた。

 

「…………な~んちゃって!」

「えっ!?」

 

 ヒナちゃんはクロに向かって、悪戯ぽく笑みを浮かべる。

 一方のクロは、驚きで固まっている。

 

「さすがにクロちゃんとお兄ちゃんが結婚した夜なのに、クロちゃんより先にお兄ちゃんとエッチしようなんて思わないよ……クロちゃん、意地悪しちゃってごめんね! さっきの仕返しだよ♪」

「ヒナ……いいの? ヒナもカオルとエッチしたかったんじゃないの?」

「もちろん、したいよ? でもさぁ……」

 

 ヒナちゃんがクロに抱き着き、クロの股間に手を伸ばす。

 

「あっ! ダメ!」

 

 くちゅん♪ 

 

 股間からは水音が聞こえた……。

 

「こんなに濡らしちゃって……クロちゃん、お兄ちゃんとエッチしたくてしょうがないでしょ?」

 

 クロは顔を真っ赤にして、無言で頷いた。

 

「なら、お兄ちゃんにおねだりしてみせて?」

「えっ! は、恥ずかしいよ……あんっ! ダ、ダメ!」

 

 恥ずかしがるクロの股間を、ヒナちゃんが悪戯したようだ。

 

「ヒナちゃん、わかった。だからもうやめて! お豆グリグリしないでぇ!」

「ん! わかればよろしい」

 

 ヒナちゃんがクロの股間から手を放す。

 粘液が糸を引いていた……。

 

「カ、カオル……私、カオルの赤ちゃんが欲しいの……これから、私のオマンコの奥に赤ちゃんミルクをいっぱい出して、1人目を作ろう♡」

 

 私は、聞いていて、こちらが恥ずかしくなった……。

 もしかしたら、クロと同じく今の私の顔も真っ赤なのかもしれない……。

 

「という訳で、お兄ちゃん、先にクロちゃんとエッチしてあげて。ヒナ、その次でいい♡」

「わかった……クロ、おいで……」

 

 クロがカオルと身体を重ねる。

 ヒナちゃんは無言で、ソファーに座る私の膝の上に、お尻を降ろした。

 

 ぬちゅ……

 

 ヒナちゃんの股間から溢れた熱い愛液が私の膝を汚す。

 

(ヒナちゃん……あの子のために……ありがとう)

 

 私はヒナちゃんを抱きしめながら、クロの初夜を見守っていた……。

 

 ……

 

「いっ! …………あっ! がっ!」

 

 様子がおかしくなったのは、前戯が終わり、カオルとクロが手を繋いでオチンチンを挿れるときだった。

 

 カオルの下でクロが苦しみだし、涙を流す。

 

「クロちゃん!?」

「クロ! どうしたの!?」

 

 カオルも戸惑っているようだ。心配そうにクロを見つめている。

 

「い……たい……すごく、痛いよぅ……」

「「「えっ!?」」」

 

 3人同時に声を上げる。

 

「お兄ちゃん? クロちゃんとエッチしたんじゃないの!?」

「エッチしたぞ?」

「クロ? あなた、もしかして、カオルに無理やりお尻の穴に挿れられたの!?」

「おい! 俺はちゃんとクロのオマンコに挿れたぞ?」

「じゃあ……どうして?」

「……俺のチンポが小さすぎて、処女膜が破れなかったのかもしれない」

 

 なるほど。確かにクロがカオルを貪った時に聞いた内容では、クロは全く痛がっていなかった。

 という事は、クロは私が捧げられなかった処女膜を、カオルに捧げられる……。

 

「カオル……私、今でも後悔しているの! カオルに処女膜を破って貰えなかったこと……」

「ユキ? 俺はそんな事、全然気にしてないよ……」

「ううん、私が、カオルに破ってほしかったの……だから、思い切り破ってあげて。カオル、クロと私をカオルの女にしてぇ!」

「クロちゃん、耐えて! そこで諦めたら赤ちゃんが作れないよ!」

 

 クロはカオルを見つめ、涙を流しながら微笑む。

 

「カオル、私、大丈夫だよ? 私の未開封オマンコをカオルのオチンチンで開封して! 私とユキの処女膜を、破って!」

「わかった。クロ、苦しい思いをさせてすまない、我慢してくれ……」

 

 カオルがクロの股間に腰を埋め始める。

 

「あっ! あああぁぁぁぁぁぁ!」

 

 クロはカオルと手を繋ぎながら、もう一方の手を彼の背中に回し、カオルにしがみ付く。

 涙を流しながらも、口元には笑みを浮かべている。

 

 愛する男に処女を捧げたクロの表情は、少女から女に変貌していた……。

 

 ───

 

 クロの頭で激しく揺れ続けたリボンが、ようやく止まる。

 クロは愛おしそうにカオルを抱擁していた。

 

「カオル……愛してる……」

「ああ、クロ……俺も愛しているよ……」

「赤ちゃん……出来たかなぁ……」

 

 カオルとクロが離れると、膝からヒナちゃんが降りる。

 私はクロの元へ向かい、彼女を抱き抱えた。

 クロは精子がこぼれないようにするためか、自らの股間を手で抑えていた。

 

「クロ、次はヒナちゃんに譲ってあげて。今日は私と一緒に寝ましょう」

 

 クロは拒絶する。

 

「いやだ、カオルと一緒に寝たいよ!」

「クロ、ごめん。お願い。私の言う事を聞いて。カオルとヒナちゃんを2人きりにしてあげて……」

 

 クロを見つめ静かに言うと、クロは諦めたようだ。

 無言でコクリと頷く。

 

「ユキちゃん! いいの? お兄ちゃんとエッチしなくて……」

「ユキ?」

「ええ、私は大丈夫よ。カオル、明日、楽しみにしているわ。2人ともおやすみなさい」

「ヒナ、おやすみ! カオル……今日はありがとう。おやすみ……愛してるよ」

 

 私とクロは2人に挨拶をし、もう一つの寝室に向かった……。

 

 ……

 

「ユキ、ひどいよ! どうしてカオルから私を引き離したの?」

 

 部屋に入るなり、クロが抗議の声を上げる。

 

「クロ、あなたにとってはせっかくの初夜なのに、ごめんなさい。でもね、理由はあるの……」

「……理由?」

 

 首を傾げるクロをベッドにそっと寝かせる。

 今から言う事は、確証があるわけではない。

 これは直感だ……そして、この直感が当たっている気がしてならなかった……

 

「クロ、気付いていないかもしれないけど、あなたのお腹の中には新しい命が宿っているわ」

「えっ!?」

 

 クロは目を見開き、私を見つめる。

 まだ、自分では気付いていないのだろう……。

 

「私のお腹の中にカオルの赤ちゃんがいるの?」

 

 クロは瞳を潤ませながら、私の顔を見る。そして嬉しそうに下腹部をそっと撫でた。

 私は、その顔を見て、肯定も否定もできなかった。

 

「私、カオルの赤ちゃんのママになるのね……私、しあわs……!!!」

 

 クロが苦しみ出した。

 

「お腹……お腹が痛いよ!」

「クロ! 頑張って! 気をしっかり!」

 

 私はクロの頭をそっと撫でる

 そして、クロの口に猿轡をはめた。

(クロ……ごめんなさい)

 

「ん~~~!! ん~~~~~!!!」

 

 シーツを使って簡易カーテンを作り、クロのお腹の上で仕切った。

 泣き、苦しみ、のたうち回るクロの身体を両手で押さえつける。

 

 漆黒のリボンが揺れていた……。

 

 ……

 

 数分後、クロは無事に産んだ……。

 私はクロの口にはめた猿轡を外す。

 

「クロ、よく頑張ったわね……」

「ユキ……カオルの赤ちゃん、抱きたいよ? 抱かせて?」

「クロ……それは無理なの」

「えっ!? どうして? 私、カオルの赤ちゃんを産んだよね?」

「いいえ、あなたはカオルの赤ちゃんは産んでいないの……」

「嘘だよ!? 私はカオルに処女を捧げて、オマンコの奥にたっぷり赤ちゃんミルクを貰って、カオルの子供を妊娠して産んだよ? カオルの赤ちゃんだよ?」

 

 クロの言葉に胸を締め付けられるが、心を鬼にする。

 

「クロ……ごめんなさい」

 

 私はクロのお腹の上のカーテンを開けた。

 

「え!? ……嘘! 噓でしょ!?」

 

 クロの瞳が見開く。

 

 クロの股間の先には全裸のクロが無表情で立っていた。

 そう、それはクロの肉分身だった……。

 

「クロ……ごめんなさい。私たちはもう、カオルの子供は産めないの……。カオルを愛している私たちが産めるのは……私たちの疑似卵子とカオルの精子で受肉した、肉分身だけなの……クロ、そんな身体にあなたを産んでしまった私を許して……」

 

 クロの口にもう一度猿轡をはめる。

 

 クロは……哭いた……。

 

 ……

 

 ようやく落ち着いたクロから猿轡を外す。

 クロは乾いた瞳で、私をじっと見る。

 

「ユキ……こうなること……」

「ええ、わかっていたわ。確証はないけど、予感はあったわ」

 

 やがて、クロの視線は自分が産んだ肉分身に向けられる。

 

「カオルから引き離してこの部屋に連れてきたのも……」

「ええ、クロ、カオルは私の全てよ。私はカオルを悲しませたくないわ。……だから、カオルの知らないところで、あなたに肉分身を産ませた……。クロ……許してとは言わないわ。私は私の都合であなたを一方的に傷つけた」

「この子を……どうするの?」

 

 悲しむクロの問いに答える。

 

「……このまま、消えてもらいましょう」

 

 自分でも驚くほど、冷徹な答えだった。

 私の答えを聞いて、クロはまた涙する。

 

「ユキ……ひどいよ……」

「ごめんなさい……カオルを悲しませたくないから、クロには泣いてもらうしかないわ……」

 

 泣きじゃくるクロを見つめる……もう一つの選択肢を伝える覚悟ができた……。

 そっと、右手に力を込める……。

 

「クロ、つらくて耐えられないなら……私があなたを今すぐ消してあげるわ」

 

 クロの目が見開かれる……

 

「や、やだ……カオルと離れたくない……お願い! 消さないで!!」

「……そう……なら、耐えなさい!」

 

 クロは隣の部屋にいるカオルに気を使っているのか、声を押し殺して泣いた。

 私は、クロを抱きしめ、頭を撫で続けた。

 クロの足元には肉分身が無表情でただ黙って立っていた……。

 

「このまま消えてしまう、この子がかわいそうだよ。一緒に寝てあげてもいい?」

「余計につらくなるだけよ? あなた、自分で言っていたじゃない? 起きた時、居なくなって、代わりに灰があったら、悲しむって」

「それでも、この子がかわいそうだよ……」

「……しょうがないわね。あなたの好きにしなさい」

 

 クロは分身を抱きしめて、一緒にベッドに横になる。

 私は2人にシーツを掛け、ベッドの傍らのソファーに座る。

 

「ユキは寝ないの?」

 

 私は微笑む。

 

「私にとって、クロは子供、その子は孫のようなものよ……孫の顔をこの目に焼き付けておきたいの」

「ユキ、それ、私が言っていたセリフ……」

「そうだったかしら? ……クロ……分身とはいえ、出産して疲れているのだから、ゆっくり休みなさい」

「うん……ユキ、ありがとう」

 

 目を瞑るクロの頭を優しく撫で、クロに抱きしめられている分身の頭も撫でる。

 

 分身の表情は、相変わらず無表情だった。

 

 ……

 

 静かに寝息を立てるクロと、目をあけたまま無表情の肉分身を見て、私は拳を握る。

 

 クロ……この子には悲しい思いをさせてしまった。

 予感はしていたけど、確信は無かった。でも、これでハッキリわかった。

 

 クロは私と同じく肉分身を産む事ができる。

 そして、クロ自身はそれを制御できない……。

 

(クロ……可哀そうな子)

 

 もう一度、クロの頭をそっと撫でた。

 

「……カオル」

 

 クロが小さく呟く……夢でも見ているのだろうか。

 

(クロ……あなたはこれから先、幸せと同時に、たくさん悲しむ事になるわね……)

 

 クロの今後の苦難を思うと、私は涙を止められなかった。

 

 クロの腕の中で、分身の身体は崩れ、やがてシーツの上には一握りの灰が残された……。

 

 ───

 

 翌朝、クロは寝室から出てこなかった。

 

「疲れているみたい。昨夜のエッチが想像以上に負担だったのかもしれないわね……」

「クロは……大丈夫なのか?」

「本人に聞いてみて」

 

 寝室の扉を開け、クロの寝るベッドの傍らに立つ。

 俺の顔を見るクロの瞳は輝いているが、悲し気で元気は無かった。

 

「クロ、大丈夫か? 昨夜は無理をさせてすまなかった」

「ううん、大丈夫……。心配かけてごめんね……」

 

 クロが両手を差し出すので、俺はクロにハグし、キスする。

 

「私がクロに付き添うから、今日は2人だけで出かけて」

「いや、いいよ。今日は仕事も休みだし、部屋でゆっくり過ごそう。ヒナ、いいか?」

「出かけるなら、みんな一緒がいいし、いいよ。クロちゃん、早く良くなってね」

「ヒナ、ありがとう。少し休んでいれば良くなると思う……」

 

 クロとクロに添い寝するユキを残し、ヒナと共に寝室を出る……。

 寝室を出る瞬間、クロの視線を感じた気がした……。

 

 ───

 

「お兄ちゃん、2人きりだね。どうしようか?」

「そうだな……」

「エッチな事……する?」

「ヒナ、昨夜散々しただろ? まだ、欲求不満か?」

 

 ヒナは俺から目を逸らす。

 

「ごめん、冗談。するなら夜だね♡」

「お、おう……」

「……」

「……」

 

 

 無言の時が続く……少し、気まずい。

 ふと、閃いた。

 

「ヒナ、親方たちに会いに行かないか?」

「えぇ?」

「昨日はアクエリアンさんたちに捕まって、あまり話せなかったからな」

「それはそうだけど……」

「もう、ここに居られる時間も少ないからな。俺は親方たちには世話になったから、今のうちにゆっくり話したいんだ」

 

「……そうだね」

 

 ヒナは言い淀む。

 何か思う事があるのかもしれないが、俺は気付かないフリをする……。

 

「じゃあ、行くか」

 

 ユキとクロに声を掛け、俺たちは部屋を出た……。

 

 ───

 

「「デカ乳ママ!」」

 

 途中、サイクロプスのキュウの子供であるカイとキイ、キュウの妻のアールと出くわす。

 子供たちはヒナの胸にダイブした。

 

「こら、カイ……あまりデカ乳ちゃんを困らせたらダメよ? あら? あなたは?」

「カオル……ボウズですよ。アールさん」

「まぁ! 呪いが解けたのね!?」

 

 しばらく、アールと歓談していると……。

 

「おい? カイ、今何て言った? ぶん殴るぞ!」

「望むところだ! デカ乳! 俺の奥義を喰らえ! はぁぁぁぁ!」

「デカ乳ママは僕が守る! ……でも、痛そうだから避ける!」

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 ヒナが消し飛んでいた。もちろん、子供の遊びだ。

 そんな様子を俺とアールは微笑ましく見ていた。

 

「仲、よさそうですね。俺も小さい頃はああやって遊んでいましたよ」

「ウチの子たちはすっかりデカ乳ちゃんに懐いちゃって」

 

 アールが笑い、俺も笑みを浮かべる。

 ヒナは子供たちにモミクチャにされていた……。

 

「アールさん!」

「ええ! ボウズさん、どうしたの!?」

 

 俺は、ずっと気に掛けていた事を、この際なので聞く事にする。

 俺の真剣な表情に、アールは驚いている。

 

「祭り会場に囚われていたアールさんの事を、俺は親方に話しました。その結果、キュウと結ばれましたが、アールさんはそれでよかったのですか?」

 

 アールは俺を見つめ、一つ目をパチパチと瞬かせる。

 ヒナの断末魔が聞こえる。次は全身骨折のようだ。

 

「ボウズさんがそんな事思っていたなんて、知らなかったわ。……私は今、最高に幸せよ」

「そう、ですか。よかったです」

 

 アールの言葉を聞き、俺は心が軽くなるのを感じた。

 俺の心配は杞憂だったようだ……。

 

「ボウズさんは優しいのですね。アクエリアンさんが言っていましたよ?」

「あのヘンタ……アクエリアンさんが?」

「ええ、“同志は老女好きの風上にも置けないヤツだが、根はいいヤツだよ。ただ、女性の趣味はどうかと思う”……だって」

(ほぼ、悪口じゃないか……)

 

 俺はヒナを見る。

 ヒナは胸をブルンブルン震わせ、お腹に手を当て、崩れ落ちる。

 

「こ、こんなところで……私が負ける……なんて……」

 

 崩れたヒナの頭を、アールたちの子供が踏みにじる。

 アールは急いでそれを止めた。

 

(女性の趣味は、だと? ……俺の妻は最高だぞ? アクエリアン……)

 

 やられたフリをしたヒナが起き上がり、カイたちとじゃれあい、笑っている。

 目の前に広がる光景は平和そのものだ。

 

 ヒナと子供たちの笑い声はいつまでも響いていた……。

 

 ───

 

「見違えたな……ボウズ。で、何の用だ?」

「これといった用事は無いよ。昨日はあまり話せなかったからな」

「そうか……まぁ、座れや。アイツらも呼ぼう」

 

 ウタマロは懐から魔石を取り出す。

 

「親方、さっき会ったからキュウは呼ばなくていいよ。今頃、アールさんと……」

「お、そうか?」

 

 ヒナの言葉に、先ほど、フル勃起させながらアールと去っていったキュウを思い出す。

 親方は魔石を使ってヤダマンを呼び出す。マリーGとは連絡が取れないようだ。

 

「ヒナ、すまないが、アル中を呼びに行ってくれないか?」

「えっ!? ヒ、ヒナが? …………わかった」

 

 ヒナが早足で部屋を出ていく。その顔は少し赤かった。

 入れ替わりに、ヤダマンが部屋に転移してきた。

 

「ボウズ! 無事呪いが解けたっスね? 嫁さんたちは?」

「おかげ様で無事に解けたよ。死ぬかと思ったが……。今日はヒナだけ連れてきた。今、アル中を呼びに行っているよ」

「そうっスか。デカ乳が、アル中をねぇ……そういや、聞いたっスよ? オニも嫁さんにしたって」

 

 ヤダマンはニヤニヤしている。

 

「あっしは羨ましいっス! ボウズには3人も嫁さんがいるのに、あっしはゼロ……不公平っス!」

「おめぇはまず、恋人を作らなきゃな」

「アニキはコルガがいるから、いいっスね」

 

 2人の掛け合いは続く。

 聞いていて、心地いい。これがもうすぐ聞けなくなると思うと、少し寂しい……。

 

 ……

 

 マリーGとヒナが合流し、俺たちは他愛もない雑談をしていた。

 ヤダマンと親方の冷やかしに、ヒナは恥ずかしがり、時には開き直り、時には怒る。

 マリーGも恥ずかしそうにしているが、時折、悲しそうな表情を浮かべていた。

 

「で、ボウズ、いつ発つんだ?」

 

 ウタマロの言葉に、それまでの騒がしい雰囲気が静まる。

 ヒナはツラそうな顔で俺を見つめる。

 

「休みの明日に準備をして、明後日の朝、朝礼で皆に挨拶したらビチクエルに向かうつもりだ」

「そうか」

「寂しくなるっスねぇ~~」

 

 ウタマロの表情は変わらない。

 ヤダマンはあからさまに残念そうな顔をしている。

 マリーGはただ黙って、ヒナを見ていた。

 そんなマリーGの視線に気付いたのか、ヒナは俯く。

 

 パンッ! 

 

 ウタマロが自らの膝を叩くと、立ち上がる。

 

「帰らずの塔だか何だか知らねぇが、ボウズ……戻って来いよ……」

「ああ……もちろんだ」

「さて、湿っぽい話はおしまいだ。酒でも飲もうや」

 

 

 酒が入ると、また、明るい雰囲気に戻った。

 ウタマロもヤダマンも陽気に笑う。

 マリーGとオレンジジュースを手にしたヒナも笑い合っている。

 俺は、初めて飲む酒の苦みと、この場の温かさをじっくり味わっていた……。

 

 ───

 

「……楽しかった、なぁ」

 

 ウタマロたちと別れ、ユキとクロの待つ部屋に戻る途中、ヒナが月を見たいと言い、塔の上階に俺たちは居た。

 頭上には星空が広がっている。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「……ああ、少ししか飲んでないし、俺はユキとは違うよ」

「ユキちゃん、前にワインを飲んで、ベロベロに酔っぱらってたよね。あれは、笑えたなぁ」

「ヒナ……」

「なぁに? お兄ちゃん?」

 

 ヒナはキョトンとした表情で俺を見つめる。

 

「キスくらいしたか?」

「なっ! 何言っているのよ!」

「そ、そうか……すまん……」

 

 顔を真っ赤にするヒナに謝罪した瞬間……

 

(!?)

 

 俺の唇に、ヒナが唇を重ねる

 ヒナの背中に手を回し、しばらく、ヒナの唇の柔らかさとヒナの身体の温かさを堪能した。

 夜風がヒナの髪を揺らす……。

 

「お兄ちゃんの……バカ……」

 

 唇を離すと、ヒナは小さく呟く。

 

「お兄ちゃんが生きているうちは、ヒナはお兄ちゃん一筋なんだからね!」

「そうか……ヒナ、俺に何かあった時は……」

「……わかってる。……お兄ちゃんが死んじゃうなんて想像もしたくないけど、その時はアル中に支えてもらうよ……」

「そうしてくれると、俺も安心して成仏できるよ」

「お兄ちゃんが成仏しちゃうなら、やめようかな? お化けでもいいから、お兄ちゃんにはヒナの傍にいてほしいよ……」

「勘弁してくれよ……安らかに眠らせてくれ」

「ヒナだけじゃなく、お兄ちゃんの大好きなユキちゃん、クロちゃんもすごく悲しむよ? ユキちゃんあたりは、お兄ちゃんが死んだらゾンビにして復活させるかもしれない……だからね……」

 

 ヒナは俺を見つめて満面の笑みを浮かべる。

 

「お兄ちゃんは死んじゃダメだよ」

 

 ヒナが俺の手をギュッと握る。

 

「……ああ、約束するよ」

 

 俺もヒナの手を握り返す。

 

 月の明かりに照らされるヒナは、美しかった……。

 

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