※この作品はR-18です。

お兄ちゃんの子供が欲しい妹とそうでもない兄   作:猫見サイル

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77 最後の夜かもしれません

 笑みを崩さず俺たちを見据えるミカに薄ら寒さを感じながら、俺はミカに背を向ける。

 そして、ミカには聞こえないように3人に小声で話しかけた。

 

「俺は途中、意識が無かったから確認しておきたい。ここに来るまで、ミカの姿を見たか?」

 

 3人は黙って首を振る。予想通りだった。

 

「お兄ちゃん、あの人、1階で会ったのと同じ人だと思う?」

「わからないな。本人かもしれないし、もしかしたら別人かもしれない。……分身とか?」

 

 しまった! ……そう思った時にはもう遅かった。

 

 俺の“分身”という言葉に、クロは肩を震わせ、目を伏せた。

 ギュッと握られた拳は微かに震えている。

 

 クロと一緒に居ると忘れそうになるが、クロはユキの肉分身だ。

 

 そう、この言葉はクロにとっては地雷だった……。

 

 クロの様子に、胸の奥がチクリと痛む。

 階段を登る時だって、怖がる俺のために支えてくれたクロ……。

 

 俺の無神経な一言で彼女の存在を否定してしまったのかもしれない。

 俺にとってクロはただの“分身”なんかじゃない。彼女のいない日常なんてもう考えられなかった。

 

 クロの表情に胸が締め付けられる。この場が落ち着いたら、心から謝ろう。

 そう、決意した。

 

 しばらくの沈黙をユキが破る。

 

「私たちが昇ってきた階段とは別に、隠し通路で来たのかもしれないし、ヤダマンのように転移してきた可能性もあるけど、確かめようがないわね」

 

 ユキの言う事はもっともだ。

 今の俺たちは1階に戻る事はできないし、確かめようがない。

 

 ならば、会話で情報を引き出すしかない。

 

 俺は、身体をミカに向け、まっすぐ見つめる。

 ミカの笑顔は、背を向ける前と変わらず、仮面の用に貼りついている。その瞳は冷たい。

 まるで絵画のように、静かでどこか不気味な笑顔だった……。

 

 ───

 

「お前は、なぜここに居る?」

 

 笑顔のミカが口を開く。

 

「なぜ? ……私は案内人。ここに居ても不思議ではないでしょう♪」

「1階からどうやってここに来た?」

「秘密です♪」

「では……」

 

 その後も質問を繰り返すが、肝心な事には答えず、有効な情報は引き出せなかった。

 

「質問は以上でしょうか? では、改めまして、ようこそ、冒険者の宿へ♪ 泊まっていかれますか?」

 

 ヒナと顔を見合わせる。

 

「泊まるのにいくらかかるの?」

「お一人様、10ペロです♪ 4人ですので、40ペロですね♪」

(……ペロ?)

 

 どうやら、塔の内と外では通貨が異なるようだ。

 そして俺たちはペロという貨幣は持っていない。つまり、無一文だ。

 

「ペロはどうやって手に入れる?」

「モンスターを討伐するとか、宝箱から入手できますよ♪ あとは……」

「あとは?」

「殺して、奪い取る……とかですね♪」

 

 最後の言葉に、俺たちは言葉を失った。

 ミカは相変わらず満面の笑みだが、その瞳の奥には邪悪さが宿っている気がした。

 ヒナは気味悪そうにミカを見ている。

 

 その視線に気付いているのかどうかはわからないが、ミカは言葉を続ける。

 

「ペロの手に入れ方は分かりましたか?」

 

 その質問には誰も答えず、俺たちは無言で頷くしかなかった。

 その様子を見て、ミカは満足そうに目を細め、口角を上げる。

 

「では、お好きな方法でペロを手に入れてくださいね♪」

 

 ミカの様子に危険を感じた俺は、もうこの部屋に長居はせず、さっさと立ち去ることに決める。

 

 無言でヒナとクロの手を引き、開きっぱなしの扉から部屋を出た……。

 

 ───

 

 部屋を後にした俺たちはしばらく誰も口を開かなかった。

 俺の右手を握るヒナは不安そうに、クロは俯きながら左手を握っているが、その力は弱い。

 

 気まずい時間が流れる……。

 

「カオル、どうするの? 階段を登る?」

 

 ユキが静寂を破る。

 

「……すまない。今日はもう、登りたくない」

 

 暗く、薄気味悪い階段とそこで起きた出来事を思い出し、身震いする。

 もう、あんな目に合うのは嫌だった。

 

「でも、お兄ちゃん、まだ登り始めたばかりだよ?」

 

 少し厳しい口調のヒナは俺を見つめる。その瞳には非難の色が浮かんでいる。

 無理もない。俺たちが塔を登り始めて、まだ2時間も経っていないのだから……。

 

 ヒナの顔を見るのが辛く、俺は視線を床に落とす。

 クロの手が、俺から離れる……。

 

「ヒナ、今日はもう、やめない? カオルは怖い目にあって、参っているのよ。こんな状態で登ったら危ないよ!? ねぇ、ユキもいいでしょ?」

「クロちゃん!? ……でも……」

「クロの言う事も一理あるわね」

 

 クロがヒナとユキを説得している。

 俺は何も言う事ができず、先ほどまでクロと繋いでいた手をそっと握り締めた。

 その手の中に、クロの手の感触はもう、無い……。

 

 ……

 

 階段のある広間にシップーより譲り受けた、新しい恋人たちのコテージを設置した。

 扉を開け、部屋に一歩入ると後ろからは感激しているヒナの声が聞こえる。

 

 その声を聞きながら、俺は無言のまま寝室を目指す。

 扉を開け、寝室へ入ると、俺はベッドに倒れ込んだ。

 

 ヒナのはしゃぎ声を聞きながら、俺はゆっくり、目を閉じた……。

 

 ───

 

 新しい恋人たちのコテージでお風呂に入った私は今、クロと並んで寝室のベッドに腰かけていた。

 

 この新しいコテージには寝室、お風呂、トイレが2つずつある贅沢な作りだった。

 コテージに一歩入るなり、ヒナちゃんが感激し、はしゃいでいたのを思い出す。

 

 ヒナちゃんは今、カオルと同じ寝室に居るはずだ。

 もしかしたら、今この瞬間にも愛し合っているのかもしれない……。

 

「ユキ……」

 

 隣のクロが静かに話しかけるので声の方を向く。クロの顔は悲しみに沈んでいる。

 

「どうしたの、クロ?」

「私、カオルに所詮“分身”って思われているのかな……?」

 

 クロはそう言うと、無理やり作り笑いをする。

 その瞳から涙が一筋、こぼれた。

 

 私が両手を広げると、胸にクロが飛び込んでくる。

 私の胸で静かに泣き続けるクロの頭を撫でながら、背中を軽く叩く。

 

「馬鹿ね。カオルがそんな事、思っているはずないじゃない」

 

 泣きじゃくるクロに、私は静かに語りかける。

 

「クロ、カオルの事、嫌いになった?」

 

 クロは私の胸に顔を埋めながら、頭を振って否定する。

 

「嫌いになんてなれるわけないよ! 私、カオルの事、愛しているもの……」

 

 ……ああ、やはりこの子は。

 

「カオルにどう思われていてもいい! 私はカオルの隣に居られればそれでいいの!」

 

 ……どうしようもなく、私だ。……私自身だ。

 

 胸で泣きじゃくるクロを抱擁しながら、私は素直な私の分身……私自身を慰めた。

 クロの頭のリボンが目に付く。漆黒のリボンは小刻みに揺れていた。

 

 頭を撫でるのをやめ、そのリボンを指に巻き付け、くるくる回した。

 それに気付いたのか、クロは顔をあげた。涙でボロボロになり、鼻水まで出ている。我ながらヒドイ顔だ。

 

「せっかくの可愛い顔が台無しよ」

 

 クロの顔をハンカチで優しく拭いてあげる。

 その間、クロはずっとカオルから贈られたリボンをそっと撫でていた。

 私に触られたのが気に入らなかったのだろうか? 

 

「これでよし。少しは落ち着いた?」

「……うん」

「よかったわ。ねぇ、クロ、素直な気持ちで話して。あなたは今、何を望んでいるの? どうしたいの?」

 

 私の言葉にクロは目を見開くと、頬を赤く染める。

 そして私から視線を逸らすと、小さく呟く。

 

「カオルに会いたい……そばに居たいよ……」

 

 予想通りの答えが返ってきた。

 

(本当に素直ね……)

 

 目の前の自分に感心していると、寝室の扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「彼も、そう思っていたみたいね」

「えっ!?」

 

 私は立ち上がると、寝室の扉の前に立ち、鍵を外し、扉を開ける。

 扉の前に立っていたのはカオルだった。

 

「ユキ……クロと2人きりで話をしたい」

 

 彼は静かに、そして真剣な顔で私を見つめた。

 

「ええ、クロに聞いてみるから、ちょっと待っていて」

 

 扉を閉め、クロの前に立つ。

 

「カオルよ。2人きりで話をしたいって。どうする?」

「えっ!?」

 

 クロの瞳は輝きだし、喜色満面だ。

 

「あら? 私はもうお払い箱?」

 

 悪戯っぽく笑みを浮かべて言うと、クロは頭を振る。

 

「会いたい?」

 

 今度は無言でコクコクと頷く。

 

「わかったわ。クロ、今日は私の番だったけど、譲るわ」

「えっ!? いいの?」

「ええ。思いっきり、彼に甘えていいわよ……でも、一緒に寝るのはダメよ? 終わったら、彼に出ていってもらうか、あなたが部屋から出なさい。理由は……言わなくてもわかるわね?」

「…………うん」

 

 クロは寂しそうな顔をするが、諦めたようだ。

 私はクロの頭を撫でる。

 

「いい子ね。じゃあ、カオルに伝えてくるわ」

 

 クロに背を向け、扉へ歩みを進めようとして「ユキ……」……クロの言葉に足を止め、振り返る。

 そこには幸せそうに笑みを浮かべたクロが居た。

 

「ありがとう……」

 

 その言葉に私は微笑みで返し、寝室の扉の前に立った……。

 

 ───

 

 ユキと入れ違いで部屋に入ると、クロはベッドに腰かけていた。

 こちらに背を向けているため、表情は見えない。

 

「クロ……」

 

 声を掛けると、クロは一瞬、肩を震わせるが、沈黙したままだった。

 

「クロ、そのままでいいから、聞いてくれ。先ほどは……すまなかった。クロの気持ちも考えずに、“分身”という言葉を使ってしまって……傷つけてしまった」

 

 沈黙するクロの背中に俺は頭を下げる。

 

「それから、階段ではありがとう。怖がる俺を支えてくれて、おかしくなった時に抑えてくれて、気絶した俺を運んでくれて……クロ、本当に感謝しているよ」

 

 クロは沈黙したままで、不安になってきた……。

 相当、傷つけてしまったようだ。

 日を改め、また明日謝ろう。

 

「クロ、本当にすまない。また明日、お休み……」

「待って!!」

 

 部屋を立ち去ろうとすると、クロの声が室内に響く。

 クロはゆっくり振り返る。今にも泣きそうな顔だ。

 

「お願い! 行かないで……」

 

 クロの声は震えている……。胸が苦しくなる……。

 

「カオル、あなたにとって私は、ユキの“分身”なのかもしれない。でも、それでもいいの。私、カオルのそばに居られるなら……だから、怒ってないし、悲しくなんてないよ」

 

 クロは微笑みながら、涙を流した。

 

「あれ? おかしいな? 涙が止まらないよ……」

 

 その言葉に俺はクロに歩み寄る。

 ベッドに座って涙を拭うクロの手を取る。

 

「カオル……?」

「俺はクロの事、ユキの“分身”だなんて思っていないよ。俺はクロの事を一人の女性として、愛する妻として大切に想っているよ。だから、そんな事を言わないでくれ……」

「カオル!!」

 

 クロは俺の胸に顔を埋め、声を上げて泣き出した……。

 俺はいつまでもクロを抱きしめ、頭を撫で続ける。

 撫でるたびに黒いリボンがふんわり揺れていた……。

 

 ……

 

 泣き止んだクロは俺の胸から顔を離し俺を見つめる。

 頬は紅潮し、瞳は潤み切っている。

 そこからはもう、言葉は要らなかった。

 どちらからともなく唇を重ねる。

 

 ヒナやユキと違い、俺の口内でぎこちなく動くクロの舌は新鮮だ。

 

「んっ……」

 

 柔らかい、クロの胸に指を這わせると、クロの口から短く、甘い声が漏れる

 乳房の先にある乳首は徐々に硬くなり、やがてピンと立つ。

 背中に回されたクロの手に、力がこもる。

 俺の右手を、クロが左手で握る。それを合図に、俺はクロをベッドの上に優しく押し倒した。

 唇を離すと、俺を見つめるクロの瞳から涙がひとしずく流れた。口には笑みを浮かべている。

 

(クロ、美しいよ……)

 

 クロの胸に顔を埋め、彼女の胸を口で愛撫した。

 舌で乳首をつつく度に俺の身体の下で、クロは身悶える。頭の上からは甘い声が聞こえる。

 その声に俺の股間は熱く膨らむ。亀頭はクロの冷たい太腿に押し付けられ、彼女の太腿を少しずつ温める。

 

「ッ!!」

 

 クロのひんやりした指が、俺のチンポを握る。

 胸から口を離してクロの顔を見ると、クロは無言で頷き、股を広げた。

 そして、亀頭の先を自らの股間に宛がう。亀頭の先端にぬるぬるした愛液を感じる。

 俺はもう我慢できなくなり、ゆっくり、クロの体内にチンポを埋めていく……。

 

「ッ!!」

 

 クロの身体は一瞬硬直する。顔を見ると、歯を食いしばり、苦悶の表情を浮かべている。

 

「クロ、まだ、痛むか?」

「……うん、少し。でも大丈夫、カオル……きて……」

 

 股間から離れたクロの手が俺の背中に回され、優しく撫でられる。

 俺は腰に力を入れ、徐々にクロの体内を押し進んでいく。

 やがて、俺のチンポはクロのオマンコの中に全て収まった。

 

 クロはのけ反り、涙を流す。その口元に笑みを浮かべながら……。

 

 ……

 

 クロの頭の上で激しく揺れるリボンを見ながら、俺はタイミングを伺っていた。

 身体の下では、クロが身悶えている。俺の右手はクロの左手としっかり繋がっている。

 下半身も繋がり、お互いへ快感を伝えあっていた……。

 

「んっ……」

 

 クロの甘い声が漏れる。

 その声で俺の股間は、彼女の体内で膨らむ。

 

 

『カオルの精子を飲んでみたいの……最初は上のお口にちょうだい……』

 

 

 先ほど耳元で囁かれた、クロの言葉を思い出す。

 クロのオマンコは狭く、俺のチンポをキュウキュウと締め付ける。

 もう、そろそろだろうか……。

 

 全身を快感が駆け巡り、射精感が高まる。

 クロの体内でどんどんチンポが膨らむ。

 

 クロもそれに気付いたのか、俺を見つめて無言で頷く。

 

 もう、限界だ……。

 俺は急いでクロのオマンコからチンポを抜く。

 クロは大きく口を開けた。

 

 急いでクロの口にチンポを咥えさせようとするが……。

 

(あっ!)

 

「きゃあっ!」

 

 クロが口に咥える直前で暴発する。

 亀頭の先端から勢いよく放たれた精子が、クロの顔と髪の上に振り注いだ……。

 

「ごめん! クロ……俺、なんてことを……」

 

 精子が目に入ったのかクロはギュッと目を閉じている。

 口元に、鼻に、目に、前髪に、シーツの上に広がる輝く銀髪に、無残にも俺の精子が飛び散っていた。

 俺は大切な人を自らの欲望で汚してしまった嫌悪感と同時に、湧き上がる征服感に自己嫌悪する。

 

 クロは目の上の精子を右手で拭うと、その指をゆっくり口に含む。

 

「これが、カオルの赤ちゃんの素の味……」

 

 小さく呟いた後、目を見開き、慌てる。

 

「リボン! カオルのリボンは!?」

 

 その言葉に俺はクロの頭のリボンに目をやる。

 俺が贈った漆黒のリボンは幸い、精子は掛かっていなかった。

 

「クロ、リボンは無事だよ。本当にすまない」

 

 俺の言葉を聞き、クロは安堵の表情を見せる。

 

「よかった……」

 

 クロは左手でそっとリボンを撫でる。

 その薬指には、俺が贈った指輪に埋め込まれた黒い石が輝いていた。

 

「クロ、ごめんな……」

「ううん、大丈夫。カオル、落ち込まないで。私、全然気にしてないよ」

 

 顔の精子を拭った指を舐めながら、クロは笑みを浮かべる。

 

「カオル、もう一回ちょうだい。今度こそ、お口の中に精子ちょうだい♡」

 

 クロは俺の右手を握り、股を広げる。

 その中心には、クロのピンク色のオマンコが愛液に塗れ、ヌラヌラ輝いていた……。

 

 ───

 

「イクッ! クロ!」

「んっ! きてっ!」

 

 俺は限界までクロの股間に腰を押し付ける。

 クロの体内の一番奥で膨らみ、精子を放った。

 

 クロは満足そうに身体を震わせていた……。

 俺にしがみ付くクロが耳元で、辛うじて聞こえる程度の声量で愛を囁く。

 その声で最後の一滴を、クロの体内に注ぐ。

 

 クロの体内への2度目の射精が終わり、俺の身体は気怠さに包まれる。

 

 ……

 

 行為が終わり、俺たちはしばらく抱擁しあっていた。

 

「カオル……あったかいよ……」

 

 クロの柔らかい身体を全身で堪能する。

 このまま、2人抱き合って朝まで寝ようと思っていた時、急にクロは瞳に涙を浮かべる。

 

「クロ!?」

「カオル……ごめんね。本当はカオルと一緒に寝たいけど、今日はユキと一緒に寝る約束をしていたの。ユキを呼んできてくれる? カオルがここで寝たいなら、私が部屋を出ていくよ」

 

 クロと一緒に寝られない事に寂しさを感じるが、クロの意志を尊重するため、俺はクロの言葉に従う事にする。

 

「クロ……」

 

 クロに軽くキスして抱きしめた。クロも素直に俺の口づけを受け入れ、抱擁する力を強める。

 キスが終わり、身体を離そうとするが、クロの力は緩まない。

 

「クロ?」

「ごめん、ユキを呼んできて……」

 

 クロの力が徐々に弱まる。

 まるで、離れたくないように思えたが、俺の勘違いだろうか? 

 

 クロと身体を離し、俺はユキを呼ぶために寝室の扉の前に立った。

 

「カオル……おやすみなさい」

「おやすみ、クロ」

 

 背後から掛けられたクロの声は、どこか寂しそうだった……。

 

 ───

 

 ヒナちゃんと抱き合いながら余韻を楽しんでいると、寝室の扉がノックされた。

 カオルとクロの行為が終わったのだろう。

 

「ヒナちゃん、また明日ね。おやすみ」

「え!? ユキちゃん、今日はヒナと一緒に寝ようよ」

「ごめんなさい。クロと一緒に寝る約束をしていたから……」

 

 ヒナちゃんと身体を離し、頭をひと撫でした後、私は寝室の扉を開けた。

 扉の前にはカオルが立っていた。その表情はもの悲しそうだ。

 

「カオル、どうしたの?」

「クロが……ユキを呼んでいる」

「そう……すぐいくわ」

 

 部屋を出ようとする私の腕をカオルが掴み、私は身体を硬直させる。

 

「ユキ……クロは大丈夫なのか?」

「……ええ、大丈夫よ」

 

 クロを心配する彼の優しさに感謝すると共に、そこまで彼に心配されるクロに微かに嫉妬した。

 反射的に、彼に抱き着き、キスをしていた……。

 

 しばらく、彼の舌を堪能し、唇を離す。

 

「カオル、明日は私を抱いて。そして私と一緒に寝て……いい?」

「ああ……ユキ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 カオルが寝室に入った事を確かめて扉を閉めると、私は急いでクロのいる寝室へと向かった。

 寝室の扉にノックするが、返事は無い。

 扉を開けると、ベッドの上でクロがお腹を押さえてのたうちまわっていた。

 苦悶の表情を浮かべながら、必死に声を押し殺している。

 手の下にあるクロの下腹部は少し膨らんでいる。もう、限界のようだ。

 

「クロ、もう少しだけ我慢して!」

 

 私は急いで駆け寄り、クロの口に猿轡をはめる。その瞬間、クロは私にしがみ付く。

 

「んっ!! んんん~~~~~!!」

 

 お腹の膨らみは徐々に股間へと移動していく。

 しがみ付くクロの力が強くなり、私は懸命に彼女の背中とお腹を優しくさする。

 

「ん~~~~~~!!!」

 

 ずりゅん……

 

 クロの股間から拳大の塊が産み落とされ、それは徐々に大きさを増し、クロの姿へと変わっていく。

 

「ん~~~、ん~~~~」

 

 クロは涙を流しながらその様子を見ていた。

 私は、クロの口から猿轡を外す。

 

「クロ、よく頑張ったわ……」

「ユキ……私、カオルの赤ちゃんを無事産んだよ。2人目……」

「そうね……」

 

 クロを抱き寄せ、頭を撫でる。

 クロは私に抱きしめられながら、自らが産み落とした肉分身を愛おしそうに見つめていた。

 そのクロの股の間には、彼女の肉分身が無表情のまま、膝を抱えて丸まっている……。

 

 その光景を見ながら、私はあと何度、この子の出産に立ち会わなければならないのだろうとぼんやり思考していた……。

 

 ───

 

「数が多すぎる! ……睡眠!」

「クロは大蝙蝠を! ヒナちゃん、行くわよ」

「うん!」

 

 眠っている蛇女にユキとヒナが襲い掛かる。

 その間、俺とクロは巨大な蝙蝠をヒナたちに近寄らせないように足止めする。

 

 前方からは蝙蝠の羽ばたく音が、背後からは肉を切り裂くような音と、じゅぽじゅぽという水音とそれに合わせて蛇女の嬌声が聞こえる。

 

 ……

 

 無事、戦闘が終わり、ユキとクロは身体を休めていた。

 ヒナと俺は床に散らばる“ペロ”を拾い集めている。

 モンスターを倒すと、その体は崩れ、この塔内での通貨である“ペロ”に変わるようだ。

 ミカの言っていた通りだった。

 

「お兄ちゃん! ちょっと来て!」

 

 ヒナの元に向かうと、ヒナは前方を指さしていた。

 その指の先には、ボロボロの服を着た白骨化した死体がある。

 恰好からして、男性の冒険者だろうか? 

 

 俺は死体の前でしゃがみ、手を合わせる。

 この世界にどんな宗教があり、この行為が正しいのかは不明だが、目の前の死体の冥福を祈った。

 

 振り返ると、ヒナも俺と同様に手を合わせていた。ヒナの目が開く。

 

「お兄ちゃん……この人……」

「運ぶのは無理だし、火葬するにも、貴重な魔法を使う訳にはいかないな。このままにしておくしかないだろう……」

「……そっか」

 

 俺は死体の懐を漁る。ヒナはその行動に驚いたのか、目を丸くしている。

 

「お兄ちゃん!?」

「ヒナ、軽蔑するか? でも、これも俺たちが生き残るためには必要だ。この人も咎めはしないさ」

 

 懐から取り出した革袋をヒナの前に差し出す。

 ヒナは革袋に“清掃”をかけてから、受け取った。流石に、死体から奪った物をそのまま手にするのはイヤなようだ。

 

「ヒナ、もしも俺が命を落としても、死体を運ぼうなんて考えるなよ。そんな状態でお前たちが危険な目に遭う事を俺は望んでないからな」

「お兄ちゃん……」

 

 俺の言葉にヒナが目を見開く。

 非情かもしれないが、大事な事なのでヒナに心の準備をさせておきたかった。

 

「俺が死んだら、ユキとクロに俺の血を飲ませてやってくれ。持ち物を回収した後はそのままにしていいからな」

「お兄ちゃん、ヒナ、お兄ちゃんを残して進むなんて嫌だよ!」

 

 ヒナは辛そうに俯く。その姿を見て、俺は少し考える。

 

「じゃあ、シップーから貰ったアイテムで俺を燃やしてくれ。きっと骨も残らず灰になるだろう。その灰は花畑にでも撒いてくれ。俺の命はその花たちを咲かせるために捧げるよ」

「お兄ちゃん、ヒナ、寂しいよ」

「マリーGがいるだろう? 会いたくなったら、2人でその花畑に来たらいい。お兄ちゃんはヒナのために綺麗な花を咲かせるからな」

 

 ヒナが胸に飛び込んできたので、背中に手を回し、優しく頭を撫でてあげた。

 ヒナは胸の中で嗚咽を漏らす。

 その様子をユキとクロが心配そうに見つめていた……。

 

 ……

 

 踊り場に出たので壁を照らす。

 壁には10F/9Fと刻まれていた。

 

「次が10階だ。気を抜くなよ」

 

 俺の言葉に3人は頷く。

 5階まではモンスターが出なかったが、その先、6階からはモンスターがひっきりなしに襲い掛かってきた。

 幸い、モンスターは弱く、俺たちが苦戦する事は無かったが、この先もそうとは限らない。

 

 油断や慢心が最大の敵であることを俺はラノベやアニメから学んでいたので、気を引き締める。

 こんなところでヒナ、ユキ、クロを失う訳にはいかない! 

 

 俺は先頭に立ち、階段を登る。不思議と恐怖は感じない。

 5階でクロを抱いてから、それまでに感じていた恐怖は感じなくなっていた。

 俺はこのモンスターだらけの不気味な階段を進む恐怖よりも、愛する妻たちを失う恐怖の方が大きいとどこかで気付いたのだろう。

 その事を気付かせてくれたクロには感謝しかない。

 

「カオル、危ないよ? そんなに先行しないで?」

 

 背後からのクロの言葉に俺は足を止める。

 言ったそばから、俺はハイになっていたようだ。両手で自らの頬を叩き、気持ちを切り替える。

 

「ありがとう、クロ。ヒナ、ユキ、大丈夫か?」

「うん。ちゃんと後ろにいるから大丈夫」

「私が背後もちゃんと警戒しているし、ヒナちゃんも守るわ。カオルたちは前方だけ集中して」

 

 頼もしいユキの言葉に深く感謝しつつ、隣のクロと共に一歩を踏み出す……。

 

 ……

 

 その後、何度かモンスターに襲われたが、幸い難なく勝利し、俺たちは階段を登り切った。

 目の前には豪華な扉があり、その上には10Fと刻まれている。

 

「この扉の先が10階だ。準備はいいか?」

 

 3人とも真剣な表情で頷く。

 俺は扉を開けた。

 

 扉の先は5階と同様に開けた正方形の空間が広がっている。

 また5階に戻ってきたのでは? と思うほどだが、5階とは決定的な違いがあった。

 

「あれは!?」

 

 クロが隣で小さく呟く。

 分厚い絨毯が敷き詰められた部屋の中央に見覚えのある人影がある。

 真っ黒な衣装に身を包むその人物はミカだった。

 

「無事10階に到達できたようですね。すばらしい♪」

 

 ミカは脇に漆黒のステッキを挟み、軽く両手を広げる。

 俺たちを讃えているつもりだろうか? 相変わらず、口元には不気味な笑みを浮かべている。

 

「さぁ、封印を解いて、先に進みましょう♪」

 

 ミカの背後の壁には巨大な扉がある。

 その高さはこの部屋の天井近くまであり、扉全体に緻密な彫刻が施されている。

 その彫刻は美しい女性が男性に背後から抱きすくめられており、それを祝福するように周りを様々な動物と花々が飾っている。まるで宗教画のような雰囲気だった。

 しかし、扉全体は黒い瘴気に包まれ、一目でこの扉が禍々しい物と判る。

 とても近付く気にはならない代物だ。

 

「それとも、しばし休息を取りますか? この階には町もありますよ♪」

 

 ミカが右手で指さす。その指が指す壁にも扉がある。その扉は薄汚れており、スラムを連想させるようなみすぼらしさだ。

 あの扉の先に、町があるのだろうか? 

 

「封印を解くにはあちらの扉の先の部屋へお進みください♪ あなた方を試練が待ち受けているでしょう♪」

 

 ミカが町へと続く扉とは向かいの壁を指さす。

 その壁には白銀色の扉が眩い輝きを放っていた。

 

 封印を解くか、町へ行くか。その2択のようだ。

 

「あの扉の先に進んで、試練には挑戦せずにこの部屋に戻る事は可能なのか?」

 

 俺は、封印を解くための扉を指さしてミカに聞く。

 

「秘密です♪」

 

 ミカは表情一つ変えずに答える。

 最悪、試練をクリアするまで戻れないと捉えても良さそうだ。

 

「町に行って、この部屋に戻る事は可能なのか?」

「ええ、可能です♪」

 

 予想に反し、ミカは素直に答える。

 

「少し相談しても?」

「ええ、構いませんよ♪」

 

 ミカの返事を聞き、俺たちは少し話し合う事にした。

 

「どう思う?」

「私は試練の扉に進むのがいいと思うわ。さっさと先に進みたいもの」

「町に寄ってもいいんじゃないかな? 入手したアイテムの鑑定もしたいし……」

 

 ユキとヒナで意見が割れる。

 クロに目を向けるが、クロはどちらの意見を推すか決めかねているようだ。

 

「一先ず、扉の前まで行ってみるか。何か判断材料が見つかるかもしれない」

 

 俺の言葉に3人は無言で頷く。

 まずは、試練の扉の前へ俺たちは立つ。

 

「ッ!?」

 

 扉の前に立った瞬間、俺はしゃがみ込む。

 

「お兄ちゃん!?」

「「カオル!!」」

 

 俺の異常に気付いたのか、3人が声を上げる。

 

「フフフ……」

 

 後方からはミカの含み笑いが聞こえる……。

 

「お兄ちゃん……」

「ヒナ! 下がれ、俺に近寄るな!!」

 

 心配そうに近寄るヒナを俺は拒絶する。

 ヒナは一瞬身体を震わせ、その場に立ち尽くしていた。

 

「ユキ! すまない! ヒナとクロを俺から遠ざけてくれないか?」

「ええ、わかったわ……」

 

 ユキはヒナの手を引き、もう片方の手はクロと繋ぐ。

 そのまま、俺から2人を引き離し、少し離れた壁際に2人を連れていく。

 

「カオル! これでいい? 私はどうすればいいの?」

「ユキ、ゆっくり、俺のそばまで来てくれ!」

 

 ヒナとクロは不安そうに俺を見ている。

 ユキは慎重に俺の方へと歩みを進める。

 

「……カオル」

 

 俺の肩にユキの手がそっと置かれ、俺はその手に自らの手を重ねる。

 ひんやりしたユキの柔らかい手の感触が伝わる。

 

「ユキ、2人には内緒にしておいてくれ」

 

 俺はユキに今の状況を知らせるため、もう一方の手で覆い隠していた股間を見せつける。

 股間にはテントが張っている。絶賛フル勃起中だった……。

 

「ッ!? カオル、これって……」

「生存本能(チンコレーダー)だ。この先は危険だ! あと、あの2人に知られるのも危険だ。今夜、搾り取られるという意味で……」

「それで、どうするの?」

「ユキ、誤魔化すために俺をおぶってくれないか? 急な体調不良という事にしておこう」

「なるほど……いいわ」

 

 ユキの手が俺の肩から離れ、俺の前にしゃがみ、背中を見せる。

 俺はユキの首元に手を回し、ユキは俺の尻の下に手を添え、そのまま立ち上がる。

 俺を背負ったユキがゆっくり歩きだす。

 

「ユキ、すまない……重くないか?」

「平気よ……それより、カオル、あったかいわ」

 

 ユキの声は弾んでいた。

 

「特に一箇所はあったかいを通り越して、熱いわね。火傷しそう……」

 

 振り向いたユキは微笑む。俺は急に恥ずかしくなったので話題を変える。

 

「幼児化していた頃を思い出すよ。こんな風にユキにおんぶされてボットンベリーに向かったな」

「そうね……あの頃のカオル、可愛かったわ」

「今は?」

「今? 可愛くはないわね……」

「そうか」

「……かっこいいよ。カオル、大好きだよ」

 

 小さく呟かれた最後の言葉は、どこかクロを思わせた。

 ユキに回した手に少し力を込める。

 ヒナとクロはもうすぐ先に居るため、2人に聞かれないように俺はユキの耳元で囁いた。

 

「俺も……ユキ、愛している……」

 

 お尻を支えるユキの手に力がこもるのがわかる。

 股間が膨らむ。今夜、ユキを抱くのが待ち遠しくてしょうがなかった……。

 

 ……

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ、少し立ち眩みしただけだ。何らかの精神攻撃だったのかもしれない。ヒナたちが無事でよかったよ」

 

 心配そうなヒナに俺はスキル発動中である事を伏せるために適当な事を言う。

 うまく誤魔化せただろうか? 

 

「うん、ヒナは大丈夫だよ。クロちゃんも大丈夫だよね?」

「私も大丈夫。カオル、本当に平気なの?」

 

 心配そうに俺を見つめるクロに、つい本当の事を打ち明けたくなるが、面倒を避けるため、必死に耐えた。

 

「次はあっちの扉ね」

 

 ユキが俺をおぶったまま歩き出し、みすぼらしい扉の前に立つ。

 

「なんか……くさいね」

「うん、この匂い、どこかで嗅いだことあるような?」

 

 クロは露骨に嫌な顔をし、ヒナも鼻と口を覆う。

 ヒナの言葉に、確かに嗅いだ事のある匂いだと記憶を辿る……。

 

「豚小屋みたいだな」

「それそれ!」

 

 ヒナも同じものを想像していたのだろうか? 少し大きな声で答える。

 ボットンベリーの恋人たちの宿で見た豚小屋。

 そこには性欲を発散する事ができず、おかしくなった人々が裸同然で詰め込まれていた。

 そこにあったのはうつろな目、目、目……。

 

 思い出して背筋が寒くなる。

 とても、この先に行こうという気にはならなかった……。

 

「ヒナ、嫌な予感がする。町に行くのは止そう」

「うん、今すぐアイテムを鑑定したい訳じゃないしね。でも、じゃあどうするの?」

 

 口には出さなかったが、町から戻る事が可能なのをあっさり肯定したミカも気になった。

 あれは、罠かもしれない……。

 

 封印を解くには、あの危険な部屋に進むしかない。

 俺は、決断した。

 

「少し早いが、今日はここで一泊する。明日の朝、封印を解くためにあの部屋に進もう」

「ヒナちゃん、クロ……明日は危険な戦いになる事が予想されるから、そのつもりでいて。今夜が、皆で過ごせる最後の夜になるかもしれないわ」

 

 ユキの言葉にヒナとクロは少し驚くが、すぐ真剣な顔になり静かに頷く。

 

「ええ! 挑戦しないのですか? つまらないですねぇ♪」

 

 背後から聴こえる、能天気なミカの言葉が静かな空間に響いていた……。

 

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