※この作品はR-18です。

お兄ちゃんの子供が欲しい妹とそうでもない兄   作:猫見サイル

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86 お兄ちゃんが魅了されました

 70階、試練の間の電光掲示板を見ている俺たちは固まっていた。

 

 “セックス(女性同士)”

 “0/1”

 

 掲示板にはそう、表示されている。

 

 どうしようと思ったが、男性である俺には、何もできない……。

 

「すまないが、俺に協力できる事は無さそうだ。3人で話し合ってくれないか?」

「わかったよ。お兄ちゃん……」

 

 俺はベッドの隣にあるテーブルの上を見る。何か置いてある。

 

 “ご自由にどうぞ”と書いてあるメモの上に小瓶が置かれていた。

 手に取り、ラベルを見ると、そこには“性転換薬”と書いてあった。

 女性が1人しかいないパーティーのための救済措置だろうか?

 

「カオル、決まったわ。私とクロで挑戦するわ!」

 

(ユキとクロか……まぁ妥当なところではあるな)

 

 クロはユキの肉分身だ。

 ユキもクロも、もう一人の自分とエッチをするのは、ヒナとエッチするより抵抗が無いだろう。

 

「わかった。ユキ、クロ、つらい目に合わせてすまない」

「ユキちゃん、クロちゃん、頑張って!」

 

 ユキはクロをベッドに座らせ、その隣に腰を下ろした。

 そして、ユキの肩を掴んで唇を近づけるが……。

 

「やっぱりダメ! ユキ、許して!」

 

 クロが両手で顔を覆って泣き出してしまった……。

 

「クロ!? どうして?」

「……だって、カオル以外とした事ないもん! 私の唇はカオル専用じゃないとイヤ!」

「そう言われても、女の子同士でエッチしないと試練はクリアできないのよ? 私たち2人でやるしかないわ!」

「じゃあ、キスはしないで……お願い!許して!」

 

 ユキが泣きじゃくるクロを宥めているのを眺めていると、隣に居たヒナが俺の右手を握ってきた。

 

「ヒナ、どうした?」

 

 無言で俺を見つめるヒナは不安そうな顔をしている。まるで叱られるのを恐れている子供のような表情だ。

 

「あのね、お兄ちゃん……ヒナがユキちゃんの事、す、好きだったら、お兄ちゃんはどう思う?」

「別にいいんじゃないか? ユキは家族も同然だし、お前たちは、もう姉妹みたいなものだろう?」

「お兄ちゃん、家族としてではなくて、もっとこう……恋人? ライクじゃなくて、ラブの方の好きだよ……」

 

 俺はヒナの言葉を聞いて少し考える……。

 

「姉妹愛って事か?」

「あ、ちがうの! 1人の女の子として、ユキちゃんの事を愛しているの。……気持ち悪いよね?」

 

 ヒナは俺の妻。ユキも俺の妻。俺は妻たちを愛している。

 そして、ヒナは俺の妻であるユキを女性として、愛している。

 

「それはヒナが、ユキを一方的に愛しているのか?」

「ううん、ユキちゃんもヒナの事、愛している……と思う……たぶん……」

 

 ヒナの声はだんだん小さくなっていった。今にも泣きそうな顔だ。

 俺はヒナの頭をそっと撫でた。

 

「いいんじゃないか? 気持ち悪いなんて思わないぞ」

「お兄ちゃん、でも、ヒナとユキちゃんがお兄ちゃん以外とエッチするんだよ? 嫌じゃないの?」

「赤の他人とエッチするのは嫌だが、俺は2人とも愛しているし、その愛している人同士でエッチするのは別に……。それにエッチして幸せか?」

 

 ヒナは無言で頷く。

 

「愛している人が幸せなら、それでいいじゃないか」

 

 俺の言葉を聞くと、ヒナは一筋の涙を流して微笑んだ。

 

「お兄ちゃん、ありがとう。……いってくる」

「ああ……」

 

 ヒナはベッドに駆け寄り、ユキにダイブして抱きついた。

 

 ───

 

 ベッドの上で絡み合うヒナとユキを、俺は興味深く観察していた。

 

(女の子同士だと、ああやってするのか……)

 

 お互いが想いあい、相手を優しく愛撫する、甘いセックスだった。

 

 右腕にクロが抱きついてくる。

 

「クロは知っていたのか?」

「うん……黙っていてごめんなさい」

「いや、別にいいさ。2人に口止めされていたんだろ?」

「……うん」

「俺の方こそごめん。さっきの、本当は嫌だっただろ?」

「ううん、3人で話し合って、私、ユキとヒナの秘密を守るために、覚悟していたはずなのに……」

 

 ぽろぽろ涙をこぼすクロの頭をそっと抱き寄せて、ヒナたちの行為を見守る。

 

(隠す必要なんて無かったのに……。そのせいで、クロに悲しい思いをさせてしまったな……)

 

 2人の嬌声が聴こえる中、俺はクロを抱いたまま、頭を撫で続けた。

 クロの漆黒のリボンがゆっくり揺れていた……。

 

 ───

 

「ユキちゃん、赤ちゃん! ヒナ、ユキちゃんの赤ちゃんがほしいの!」

「ヒナ……あっ! あっ!」

 

 2人は抱き合いながら、お互いの身体を愛撫している。

 ヒナは涙を流してユキにしがみついていた。

 ユキはそんなヒナの股間に指を出し入れしているが、その顔は少し寂しそうに見えた。

 

 俺はクロの頭を撫でながら、2人の行為を観ている。

 

「赤ちゃん? ヒナはユキの子供が欲しいのか?」

「……うん。……昨日、そんな事を言っていたよ」

 

 言いづらそうに答えるクロの手にそっと手を重ねた。

 

「クロは気にする事ないぞ」

「でも……カオル、嫌じゃないの? カオル以外の赤ちゃんを産みたいって言っているんだよ?」

「別にいいさ。何より、ユキとヒナの子供なんて、きっとすごく可愛いぞ」

「ふふ。ヒナも同じ事を言っていたよ。やっぱり兄妹だね」

 

 クロは軽く笑って、俺の手を握った。

 俺はヒナとユキの子供を想像していた。男なら美男子だろうし、女なら美少女だろう。

 

「でも、無理だよね……2人とも女の子だもん」

「いや、そうでもないぞ……」

「えっ!?」

 

 クロは驚いて俺を見つめる。

 

 ……

 

「つまり、ユキの受精卵をヒナのお腹で育てれば……」

「そうだ。ヒナはユキの赤ちゃんを産める。もちろん、生まれた子はヒナの遺伝子を受け継いではいないけどな」

 

 俺は体外受精についてクロに説明した。

 クロは驚きながらも真剣に俺の話に耳を傾けていた。

 

「確かに、それが出来るなら、ヒナはユキの赤ちゃんを産めるね」

「ああ、だが、問題がある。クロ、気を悪くしないで聞いてほしい……」

 

 クロが無言で頷くのを見て、俺は心の中で悪いと思いながらも、自分の考えを伝える。

 

「ユキが言っていたが、ユキはもう排卵しないらしい。つまり、ユキの卵子を体外受精させるのは絶望的だ」

 

「……そうだね」

 

 クロは悔しそうに俺の手をギュッと握った。

 

「だから、ヒナがユキの子を産むのは無理だ。可能性があるとしたら……ヒナの卵子を体外受精させて、ユキのお腹に戻す事。ユキがヒナの子を産む事は理論上、可能なはずだ」

 

 クロは目を輝かせる。

 

「すごい! 2人に教えてあげようよ! 喜ぶよ!!」

「いや、ぬか喜びさせたくないから、2人にはまだ、黙っていてくれ。まず、この世界でそんな事が出来るのかわからない。それに……ヒナの卵子を取り出すのは難しいだろ?」

 

 俺はユキと絡み合っているヒナの下腹部を見る。クロもそれに気付いたようだ。

 ヒナの性器は俺以外受け付けない。もちろん、医療器具なども……。

 

「……難しいね」

「ああ、だが、希望が無いわけじゃないって事はわかっただろ?」

「……うん」

 

 クロは俯く。傷つけてしまっただろうか?

 

(クロ、すまない。ユキと一緒で、お前も排卵しないのは知っているよ……)

 

「ねぇ、カオル、もしもだよ。ヒナの卵子を取り出せたら、ユキと一緒に私もママになってもいい?」

 

 クロはそう言うと、両手で俺の手を握り、顔を上げた。

 その瞳は輝き、頬は赤く染まっている。

 

「……いいけど、クロもヒナの子供が欲しいのか?」

「……ううん、私が欲しいのは、カオルの赤ちゃん。ヒナの卵子にカオルの精子を受精させて、私のお腹に戻してくれないかな? 私、カオルの赤ちゃんを産みたいの! お願い!」

 

 クロの顔は真剣だ。

 俺はそっとクロの頭を撫でる。

 

「いいよ……クロがそうしたいなら、すればいい。反対する理由はないさ」

「カオル、ありがとう! ……愛しているよ」

 

 クロが俺の胸に顔を埋める。

 俺は、クロを抱きしめた……。

 

「俺も愛しているよ、クロ」

「私、幸せ。これで、カオルの赤ちゃんを産めたら、幸せ過ぎて死んじゃうかも……」

「それは……困ったな」

 

 クロの身体の柔らかさを感じながら、俺はヒナとユキを見る。

 2人とも、お互いに愛を囁き合いながら、口づけし、抱擁しあっていた……。

 

 ───

 

「ユキちゃぁん! ヒナ、もうイキそう!」

「ヒナ! 私も! もう、限界……あぁぁん」

「一緒に! 一緒にイこう? ゆきちゃぁぁぁん!!」

 

 ヒナとユキはお互いの脚を絡ませ、股間同士を擦りつけ合っていた。

 結合部からクチュクチュといやらしい音が聴こえる。

 頬を染め、潤んだ瞳で見つめ合う2人は、とても幸せそうだった。

 

 

「……」

 

 俺とクロは2人を無言で観ていた。

 2人のセックスにあてられたのか、俺は現在、フル勃起していた。

 無性にセックスがしたい……隣のクロと……。

 この後、ボス戦があるから、無理やり頭を切り替えたが……。

 

 むにっ

 

 クロの胸が腕に押し付けられて……股間がまた反応するのがわかった。

 できるだけ、クロを視界に入れないように、ユキとヒナの行為を真剣に観る。

 

「イクッ! イッちゃう! あぁぁぁぁぁん!!」

「あぁぁぁん! いくぅぅぅぅぅ!!!」

 

 ヒナは脚を痙攣させている。

 ユキは大きくのけ反り、腰をガクガク震わせたあと、ヒナに覆いかぶさった。

 

「ヒナ、愛しているわ……」

「ヒナも……愛しているよ、ユキちゃん……」

 

 無事、セックスが終わったようだ。

 ファンファーレが流れ、ボス戦の音楽が流れてくる。

 

「クロ、ヒナを頼む。念のため、ユキも」

「うん、任せて!」

 

 ベッドの上、全裸で抱き合う2人を尻目に、俺はこの後の戦闘に備える。

 

 壁が、割れた。

 

 その先に居たのは、見た目麗しい、5人の女性だった。

 5人とも純白のドレスを着ている。まるで女神のような出で立ちだ。

 

「すばらしい!」

「美しかったわ」

「最高でしたわね」

「でも、汚らわしいオスが居るわ」

「あのオスのせいで台無しだわ」

 

 女たちは口々に言葉を発する。

 

「確かに、台無しね」

「勃起してるわ! 私、吐きそう! 誰かあのオスを排除してよ!」

「わかる! わかる! この美しい景色には不要よね?」

「何故、いるのかしら?」

「申し訳ないけど、死んで。どうぞ!」

 

 俺を睨みつけながら、女たちは次々と毒を吐く。

 

 ───

 

 ユキちゃんに抱かれて、私は夢見心地だった。

 抱擁を解き、感謝の言葉を伝えよう。

 

「ユキちゃん、ありがとう。とても気持ち良かっ……」

 

 私は、言葉を続ける事が出来なかった。

 私の上で、ユキちゃんは鬼の形相をしていた。

 瞳はルビーのように真っ赤に染まっている。

 

「ユキちゃん、どうし……」

 

 何故そんな顔をしているのか、聞こうとして、思い出した。

 私たちは試練の最中だった。無事、ユキちゃんとエッチしたので、試練はクリアしたはずだ。

 なら、今は……。

 

 我に返ると、部屋中に変な音楽が流れていた。今は、ボス戦中だ……。

 私は急いで起き上がり、ユキちゃんの目線の先に目をやる。

 綺麗な女の人たちが5人、立っていて、何かを言っている。

 

 耳を傾けると、どうやら、お兄ちゃんの事をボロクソに言っているようだった。

 

「や、やめて……」

 

 私は、止めようとするけど、恐怖で蚊の鳴くような声しか出せない。

 その恐怖の根源は隣に居るユキちゃんだ。

 ユキちゃんは拳を握り締め、身体は震え始めた。

 

「ユキ、気にするな、放っておけ」

 

 お兄ちゃんの声が聴こえる。

 

「あのオス、命令しているわよ」

「命令すれば聞くと思っているところが野蛮なオスね」

「はぁ、これだからオスって嫌ですわ」

「そこの娘、そんな命令なんて聞く必要ないわよ」

「さぁ、その男を排除して、こっちにいらっしゃい。皆で愉しみましょう♡」

 

 女の人たちはユキちゃんに話しかけ始めた。

 

「ユキ! 聞き流せ」

 

「また、命令していますわよ」

「あの子、震えているわ!」

「怖かったのね。可愛そう」

「そうは見えませんわ? オシッコを我慢しているだけじゃないかしら?」

「あはは。私たちが怖い?」

 

 私は悔しくて、笑った女の人を睨みつける。

 

(えっ!?)

「きゃあ!?」

 

 女の人に雷が飛んできて、美しく、長い髪を焦がした。

 雷が飛んできた方を見ると、お兄ちゃんが掌を突き出していた。

 

「もう、限界だ。俺は、何を言われてもいい。だが、妻に対する侮辱は許すつもりはない!」

 

「わ、私の美しい髪が!」

「まぁ! 下品なオスね!」

「暴力反対! 野蛮人!」

「あんなオスと一緒に居るあの娘たちも大変ね。私たちの言う事も聞かないし……」

「死ぬべき! さぁ、皆様、殺しましょう♪」

「「「「ええ♪」」」」

 

 女の人たちが意地悪そうに口元に笑みを浮かべた。

 

「そっちがやる気になってくれて嬉しいよ。俺も暴力は反対だ」

「そうね。これから始まるのは暴力ではないわ」

「カオル、ヒナ、ユキ、この人たちには躾が必要みたいだね」

「クロちゃん……この人たちに躾は必要ないよ。もう、手遅れ」

 

 私はクロちゃんにそう答え、隣のユキちゃんを見る。

 ユキちゃんは、女の人達を睨みつけながら、笑みを浮かべている。

 もう、手遅れなのだと察した。

 

「暴力に訴える気?! 野蛮人ね!」

「頭の悪いオスと過ごすと、ああも愚かになるのね!」

「ハァ……どうして平和的解決ができないのかしら?」

「話し合いで解決したいものね」

「あんな頭の悪い人たちと話し合うなんて無駄よ。殺すしかありませんわ」

 

 女たちは好き勝手言っている……今のうちだけだ。

 こっちにはユキちゃんが居る。絶対に、敵に回してはいけない人だ。

 この後、ユキちゃんが大暴れするので、私は邪魔にならないよう動くつもりだった。

 

「お兄ちゃん、クロちゃん、少し離れようよ」

 

「悪いな、ヒナ。俺はもうこいつらを許すつもりは無い!」

「ヒナ、私は一歩も下がらないよ!」

 

 珍しくお兄ちゃんとクロちゃんも好戦的だ。

 

「許すつもりは無いですって! 聞きました? 皆様?」

「私たちが誰なのか知らないのね……可哀そう」

「頭悪そうですもの……しょうがないわ。生きている価値がないもの」

「よく見たら、この娘たち、大したことないわね。むしろ、ブス? ブスは死ぬべき!」

「私、実は最初からそう思っていましたの。見て、あの娘のリボン。ダッサ」

 

 クロちゃんのリボンを指差し、女の人が嘲笑している。

 私は、遂に怒りを爆発させた!

(ころしてや……)

 

 物凄い風圧を感じて、私は咄嗟に目を閉じた。

 目を開けると、クロちゃんのリボンをバカにした女の人が倒れていた。

 その傍らにクロちゃんが立っている。両手で、その女の人の首を抱えて……。

 

「綺麗な頭が、取れちゃったね……」

 

 クロちゃんは静かに言うと、その頭の髪の毛を掴み、隣の女の人に向かって、思い切り首で殴りつけた。

 

 ぐちゃ

 

 肉と肉がぶつかり合う、嫌な音が響いた。

 殴りつけられた女の人は歯が折れ、鼻血が出ている。

 

「わ、私の顔!」

「ブスになっちゃったね……」

 

 クロちゃんはもう一度振りかぶって、首を床に叩きつけた。

 

 ぐしゃっ

 

 何かが潰れる音がして、首はもう、原型をとどめていなかった。

 

「わ、私の顔をよくも……」

 

 血の吹き出す口元を手で抑えている女の人は、言葉を途中で止めた。

 その顔には、縦に赤い線が入っていた。

 

「ブスは死ぬべき……だったかしら?」

 

 いつの間にか、ユキちゃんがその女の人の前に立っている。

 腰の刀に手をかけて……。

 

 ぽとっ

 

 女の人の、口元を抑える手から、指が落ちた。

 血を噴き出して、女の人は左右に分かれて、床に崩れた。

 

「有言、実行ね。見習いたいわ……」

 

 噴き出す血を浴びながら、ユキちゃんは冷たく言い放った。

 

「ひっ! ひいぃっ!」

 

 倒れた女の人の隣に居る人が、それを見て悲鳴を上げる。

 お兄ちゃんに、髪の毛を焦がされた女の人だ。

 

「な、何故!? こんなの聞いていませんわよ!?」

「それは、そうだろうな……」

 

 お兄ちゃんはその人に向かい、ゆっくり歩きながら、話しかけていた。

 

「やめて! 近寄らないで! 私をどうするつもりですの!?」

「わからないか……?」

「まさか! 私を無理やり!?」

「ああ、そうさ……」

 

 女の人の目の前に、お兄ちゃんが立つ。

 

「や、やめてください! 私は純潔! あなたのような醜いオスに犯されるくらいなら、死を選びます! 私にもプライドがあります!!」

「そうか……ユキ!」

 

 ユキちゃんが何かを投げる。

 それは、女の人の目の前。床に突き刺さる。短剣だった。

 

「なら、それを使え」

 

 お兄ちゃんが背を向けると、女の人は短剣を握って……。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!」

 

 お兄ちゃんの背中目掛けて、短剣を突き出した。

 

(お兄ちゃん!!)

 

 ヒュンッ!

 

 風切り音がした。いつの間にか、ユキちゃんは刀を鞘から抜こうとしている……。

 

「……燕返し」

 

 ユキちゃんは静かに告げる。

 

 チンッ♪

 

 刀が、鞘に収まる。私の勘違いだった。

 刀を抜こうとしていたのではなく、鞘に納めるところだったのだろう。

 

 ぽとっ

 

 女の人の腕から先は床に落ちていた。短剣を握ったまま……。

 

「痛い! 痛いわ!! 私の手! ……何故、私がこんな目にぃぃぃぃぃ!!!」

 

 女の人は取り乱し自分の手を拾おうとしている。

 

「手なんてどうでもいいでしょ? あなたは、自ら“死を選ぶ”と言った。その覚悟が嘘だったとしたら……」

 

 ユキちゃんが刀を抜く。

 

「今のあなたが一番、醜いわ!」

 

「お前みたいなブスがっ! 私に向かっ……」

 

 女の人に向かって振り下ろした。

 

 ぽとり……

 

 女の人の首が転がる……。

 

「……貴女のプライドは、何処へいったのかしら?」

 

 ユキちゃんは悲しそうな顔で、女の人を見下ろしている。

 

「プライドも、首も、地に落ちちゃったみたい……」

 

 クロちゃんはそう言って、ユキちゃんの隣に立ち、肩に触れる。

 2人とも、女の人の返り血塗れなのに、私は不思議と絵画のように美しく思った……。

 

(カメラでこの場面、収めたかったな……)

 戦闘中なのに、そんな風に、暢気な事を考えていた。

 

「ユキ、私のために怒ってくれて、ありがとう。嬉しかったよ」

「あなたのためじゃないわ。私は……私の家族を傷つける人が許せないだけよ」

 

 ユキちゃんは刀をブンッと振る。

 

 びちゃびちゃびちゃ

 

 女の人の血が、床に飛び散る。

 ユキちゃんの顔は真っ赤だ。それを見たクロちゃんはにんまり笑う。

 照れているみたい……可愛い……。

 

 残った女の人は2人。

 一人は、その場に崩れ落ちた。

 

「や、やめてください! 何でもします! 許してください!!」

 

 お兄ちゃんは、その人の前に立ち、困惑の表情を浮かべる。

 

「何でも……とは?」

「あなたのような不細工なオスとセックスして、不細工な子供を産みます! 産む機械になります! あなたの妻にしてください!!」

「そうか」

 

 お兄ちゃんは、女の人の前で掌を広げた。

 

「悪いが、これ以上、妻を増やす気は無い」

 

 轟音に思わず耳を塞いだ。女の人は真っ黒焦げになる。

 ユキちゃんとクロちゃんをバカにされたお兄ちゃんは、容赦が無かった。

 たぶん、私がバカにされても、同じ事をするだろう。

 

「あと、最初に言っただろ? 許すつもりは無い、と。もう忘れてしまったか? 頭、悪そうだな」

 

 お兄ちゃんの言葉は、女の人に届いたのだろうか?

 真っ黒焦げになった女の人はそのまま、床に倒れ込んで、バラバラになった。

 

 残るは、1人。

 最後の1人は、呆然と立ち尽くしている。

 だけど、口元に微かに笑みが浮かんでいた。

 

「面白いわね。こんなことになるなんて、思ってもいませんでしたわ」

 

「……だろうな。お前は、どうするんだ?」

 

 お兄ちゃんが冷たく言い放つ。

 

「どうする、ですって? どうもしませんわ。私は美の女神……私の虜になりなさい! ……魅了!」

 

 女の人は胸をはだけ、お兄ちゃんに向かって笑みを向ける。瞳が妖しく輝いた。

 

「お兄ちゃん!?」

 

 お兄ちゃんの身体は硬直していた。

 女の人はお兄ちゃんの肩に手を置くと、ユキちゃんとクロちゃんを睨みつけた。

 

「さぁ、この娘たちを排除するのです!」

 

 女の人は勝ち誇ったような顔をしている。

 

「カ、カオル!」

 

 ユキちゃんの悲痛な叫び声が響く……。

 

「……その汚い手を退けてくれ」

 

 お兄ちゃんの声を聞いて、女の人の顔は驚愕の表情に歪む。

 

「バ、バカな……。何故、私の魅了が、効かない!?」

「さぁ、な?」

 

 お兄ちゃんは肩にある手を振り払うと、ユキちゃんとクロちゃんの前に立った。

 まるで、女の人から2人を守るように……。

 

「俺が、愛する妻たちを傷つける訳ないだろ? お前はもう、おしまいだ!」

 

 女の人に向けて、掌を向ける。

 

「私は、美の女神。美しい私を傷つけるなんて、許しません! 許されるわけがない!!」

 

「言いたい事は、それだけか?」

 

 お兄ちゃんが一歩踏み出す。

 

「ま、待ちなさい! こんなか弱い、女性を傷つけるつもりですか? 醜く、薄汚い、オスの分際で!!」

 

「その通りだ。よくわかっているじゃないか?」

 

 女の人が私の方を見て、口元に笑みを浮かべた。

 しまった! と思った時にはもう遅く、私の身体は、女の人に拘束されていた。

 

「ヒナ!」

「ヒナちゃん!」

「動くな! この娘がどうなってもいいのか?」

 

 私の背後から、ぞっとするような冷たい声が聴こえる。

 その口調はもう、先ほどまでの艶やかさも気高さもなかった。

 代わりに、むき出しの焦りと、底知れぬ憎悪が滲んでいた。

 

「妹を離せ。ヒナは……ただの、か弱い女性だぞ?」

 

「知るか! 薄汚いオスに暴力ブスども! よくも私に恥をかかせてくれたな!! この娘を使って、私を貶めた罰を受けてもらう!!」

 

「やめろ! 本当に取り返しがつかなくなるぞ!」

 

「ふふ。何を今さら。こんな惨めな思いをしたのは、生まれて初めて……。私をこんなに不愉快にしたのだから……もう、とっくに取返しなんかつかないのよ!!!」

 

 女の人はそう叫ぶと、私の胸を鷲掴みした。

 

「ッ!?」

 

 私を拘束する女の人の力が、抜けた。私は自由になる。

 お兄ちゃんとユキちゃんが駆けてくる。

 

 ブーーーー、プスッ!プスッ!

 

 変な音が聴こえて、酷い匂いがした……。臭い!何を食べているんだろう?

 

「ヒナ!? 無事か?」

「うん……大丈夫だけど……」

 

 私はお兄ちゃんの胸の中に飛び込んで涙を流した。

 

「お兄ちゃん、怖かったよ!!」

「ヒナ、すまない。油断していた……」

 

「死んでいるわね……これ、ヒナちゃんの……」

 

「うん……ヒナの、迎撃おっぱい……最高出力で使った……」

 

 私はユキちゃんに答えた。

 女の人を見ると、失禁していた。前も後ろも……。

 自分の排泄物に塗れて、死んでいた。

 ユキちゃんが汚物を見るような(実際、汚物なのだが)目で女の人を見下ろしていた。

 

「そう……彼女らしい、不様な最後ね……。それにしても、カオル、何故“魅了”が効かなかったの?」

「さぁ? 俺も、わからない……」

「あ、あのね!?」

 

 クロちゃんを見ると、気まずそうな顔をしている。

 どうしたのだろう?

 

「早く、カオルとエッチがしたくて、私、使っちゃった……」

「使ったって、何をよ……」

「……魅了。さっき、ユキとヒナがエッチしている時に……」

 

 そう言うと、クロちゃんは目を閉じて笑みを浮かべ、小さく舌を出す。

 そんなクロちゃんを見て、私は呆れを通り超して、笑みを浮かべた……。

 

 ……

 

「それにしても……口ばかりで大した敵ではなかったわね。彼女たちは、何がしたかったのかしら?」

 

 ペロに変わっていく女の人達を眺めながら、ユキちゃんはお兄ちゃんに尋ねた。

 血塗れだったユキちゃんとクロちゃんは、私の“清掃”でもう綺麗になっている。

 

「ユキの言う通り、口だけで何もしてこなかったよね。結局はただの見せかけだけってこと?」

 

 クロちゃんが冷静に言うと、ユキちゃんも頷く。

 

「彼女たちはあれで満足だったのかもしれないな。相手を支配する事で、自分たちは常に安全圏。そりゃ、過信もするだろう。おそらく、今まで殴られた事もなかっただろうな」

 

「お兄ちゃんをボロクソに言っている時のユキちゃん、すごく怖かったよ……」

 

 お兄ちゃんの言葉に、私は思いだして、身震いする。

 でも、心は晴れやかだった。スッキリしている。

 もう、ペロに変わり始めている女の人達を見て、これが「ざまぁ」なんだなと、そう、思った。

 

「これは、俺の想像だ。彼女たちは、自分を守るために他人を傷つけることを選んだんだろう。怖かったのかもしれない。弱さを隠したくて必死だったんだ。美の女神と言っていたが、俺は美しさを感じなかった。むしろ、他人を貶めて自分を持ち上げる醜さを感じた。確かに、周りを落とせば自分は浮き上がるだろう。相対的にな」

 

 お兄ちゃんの言葉が長すぎて、私は話半分に聞いていた。

 あー、また、始まった。そう、思っていた。

 

「カオル、難しくて、わからないよ? 何が言いたいの?」

 

(クロちゃん、ナイス!)

 お兄ちゃんはクロちゃんの頭を撫でる。

 

「彼女たちより、クロ、お前たちの方が美しいよ。俺の美の女神だ」

 

 そう言ったお兄ちゃんの顔は真っ赤だ。クロちゃんは嬉しそうに微笑む。

 

「カオル、ありがとう。さぁ、早く帰って、エッチしよ♡」

 

 お兄ちゃんの手を引っ張るクロちゃんの前に、ユキちゃんが立ち塞がった。

 瞳は何故か、まだ真っ赤だ。怖い。

 

「クロ? よくも私のカオルを魅了してくれたわね? 覚悟は、出来ているんでしょうね?」

 

 私は、ユキちゃんの言葉を聞いて、そっと部屋を出た。

 お兄ちゃんも、そそくさと部屋を出ていた……。

 

 部屋の中から、クロちゃんの助けを求める声が聴こえてきたけど、たぶん、気のせいだろう……。

 

「クロ、ユキ、ペロの回収は任せた。あとは、2人でゆっくり話し合ってくれ」

 

 お兄ちゃんは2人に声を掛けると、平然と歩き出す。

 お兄ちゃんは鬼だ……。鬼いちゃんだ……。

 

 鬼いちゃんの背中を追いかけようとして……

 

(あっ!?)

 

 忘れ物に気付き、部屋へ引き返した。

 ユキちゃんたちを視界に入れないようにしながら、忘れ物を回収し、部屋を出て鬼いちゃんを追いかける。

 

 クロちゃんの悲鳴が聞こえてきた時、私は心の中で手を合わせた……。

 

(クロちゃんが、成仏しますように……)

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