※この作品はR-18です。

お兄ちゃんの子供が欲しい妹とそうでもない兄   作:猫見サイル

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88 男の子になります

 お兄ちゃんはバッテリーを手に取ったまま、固まっていた。

 

(もしかして……物凄いお宝だった!?)

 

 お兄ちゃんに褒めてもらえる……そう思い、私は嬉しくなる。

 力なく、お兄ちゃんの手が、私の目の前に垂れ下がった。

 バッテリーに何か書いてある。読もうとしたけど、すぐに諦めた。上下逆さで、読む事ができない。

 

 そして、文字の横にあるマークに気が付く。

 

(そういう……ことか……)

 

 我に返ったお兄ちゃんは、急いで部屋を出て行った。

 私に、何の言葉もかけずに…………。

 

(私って、本当、バカだなぁ…………)

 

 涙が込み上げてきて、私は、静かに泣いた。

 私が鼻をすする音だけが、部屋に響いていた……。

 

(お兄ちゃん、ごめんなさい。ユキちゃん、私は、ユキちゃんの赤ちゃん、産みたかった……本気だよ? クロちゃん、こんな私を看病してくれてありがとう……)

 

 3人に感謝した後、私はもうすぐ死ぬけど、今すぐ死にたくなった……。

 

 

 でも……。

 

 

 私は、今だから、今の私だから出来る事に気が付く。

 残された3人のために、私が出来る事をやろう。

 

 私は気持ちを切り替えて、考えを練ろうとするけど……。

 

 

『あんたみたいなバカな妹を持って、カオルちゃんが可哀そうだと思わない? 早く死んで、目の前から消えて!』

 

 猛烈な吐き気が込み上げ、私はベッドから顔を出し、ベッド横の床に向かって嘔吐した。

 吐き気が止まらない。

 嘔吐し続ける私の頭の中で「ピコン♪」と変な音が聴こえた。

 遂に、幻聴まで聴こえるようになったのだと私は察した……。

 

 ……

 

 漸く、吐き気が収まり、私は“清掃”で全てを綺麗に片付ける。

 

(これ、すごく便利だよね……)

 

 匂いまで消えてなくなるのは驚きだ。

 このスキルがあれば、汚部屋ともおさらば……。

 そして、よせばいいのにビチクアルの塔で出会ったマリーGの事を思い出してしまった。

 

『ボウズが死んだら、俺はデカ乳を第34夫人として娶るつもりだ!』

『デカ乳! 俺は待っているからな!!』

 

(アル中……ううん、マリーG……。アンタとの約束、守れそうにないよ。お兄ちゃんより先に、死ぬとは思わなかったなぁ……)

 

 私はお兄ちゃん以外とはエッチ出来ないし、私を娶っても、マリーGがつらいだけだろう。

 そう考えると、少しだけ、マリーGに対する申し訳なさが薄れた。

 

(私のほかに、いい人を見つけて……いやいや、私を娶る前に33人のいい人がいるはずだよね……)

 

 私は頭を切り替え、今度こそ、3人のために、残り時間の短い私がどう動くべきか、考え始めた……。

 

『ピー! ピィィィー!』

 

(うるさい!)

 

 また、幻聴だ。私は頭を振る。

 いつも感じる、髪の毛の感触を感じない。

 私の頭は、もう、ハゲ頭だ……。

 

 そんな私を……。

 

「お兄ちゃん…………」

 

 思わず、口に出していた……。

 お兄ちゃんは醜くなった私を抱きしめて、キスしてくれた。

 たぶん、私が元気だったら、エッチしていたと思う……。

 

『ピコーン♪ プルルルルル…………』

 

 幻聴を無視する。

 私が居なくなっても、お兄ちゃんにはユキちゃんとクロちゃんがいる。

 

 あの2人が居れば、何とかなるだろう。

 

 ユキちゃんは、お兄ちゃんを愛し過ぎて怖い、女の子だ。

 ちなみに、私がお兄ちゃんの次に愛している人でもある。

 

 クロちゃんは、お兄ちゃんの赤ちゃんを産み続ける、ユキちゃんに負けないくらいお兄ちゃんを愛している女の子だ。

 

(ユキちゃんは、肉分身の性格に個体差があるって言っていたけど……)

 

 クロちゃんを見ていると、何故か昔のユキちゃんを思い出す……。

 

 

『☆#~%&@…………』

 

 幻聴が、私の思考を邪魔する……。

 ああ、私の頭はもう、ダメなのだろう……。幻聴が、止まらない……。

 

 私はノイズに惑わされながらも、ゆっくり、確実にロジックを積み上げていく。

 もう、残り時間は少ない……

 私に出来ることをしよう。

 込み上げる吐き気を抑えながら、私はこれまでの人生の中で一番、頭を使った……。

 

 ───

 

(ふざけるな……ふざけるな!!)

 

 俺は、恋人たちのコテージを出ると、コテージから一番離れた場所に、バッテリーを、ゆっくり、慎重に置いた。

 

 そして、急いで、恋人たちのコテージに戻る。

 

 フロアの中心にいるミカが何か言っているが、俺は無視した。

 

 バッテリーの説明書きに書かれていたのは“核バッテリー”の文字。

 そして取り扱い上の注意と放射能マークが記されていた。

 俺はこの忌まわしいアイテムを一刻も早くヒナから遠ざけたくて、多少の犠牲を覚悟した上で、運んだ。

 多少ではなく、致命的だったかもしれない……。

 それでも、ヒナの近くには置いておきたくなくて、体が勝手に動いた……。

 

 そのまま、コテージに入り、ユキ達がいる寝室を目指し、扉を乱暴に開けた。

 

「ユキッ!!」

 

 ユキは静かに人差し指を口元に立てている。

 

「やっと、クロが寝たところなの……起こさないで……」

 

「……すまない」

 

 ユキの肩に手を置き、寝ているクロを見る。

 安らかに眠るその顔に涙の跡があった。

 

「ユキ、話がある。ヒナの事だ……」

 

 ユキの手を引いて、俺は寝室を出た。

 寝室の外でユキに2~3質問をした後、ユキにお使いを頼む。

 俺の話を聞いたユキは思いもよらない速さでコテージを出て行った……。

 

 ……

 

 俺は、クロに添い寝していた。

 クロはいつの間にか、俺に抱きついて寝ている。

 一瞬、起きているのかと疑ったが、静かに寝息を立てて熟睡していた。

 気を張ってヒナを看病していたのか、余程疲れていたのだろう……。

 

 ユキは、お使いを済ませて帰ってくると、ヒナの元に向かった。

 もうしばらくしたら、交代しよう。

 

 クロの身体の柔らかさと、いい匂いに包まれながらこれからの事を考えていると、扉がノックされた。

 返事をするか、クロを引き剥がすか迷ったが、出来るだけ静かに返事をした。幸い、クロを起こさずに済んだようだ。

 

 扉が開き、ユキが入ってきた。

 俺たちの姿を見て、一瞬むっとした顔をしたが、クロがぐっすり寝ている事に気が付くと、ユキの口元に笑みが浮かぶ。

 

「カオルは、体調はどう? 大丈夫?」

 

 ユキが俺に顔を近づけ、小声で聞いてきた。

 その顔は不安そうで、微かに肩が震えていた。

 

「大丈夫だ。今のところはな……」

 

「そう、よかった……」

 

 ユキは安堵の表情を浮かべる。

 

「ヒナの様子は?」

 

「今は、少し落ち着いている。寝ていると思うわ」

 

「そうか。よかった……」

 

「カオル、クロの身体をお楽しみ中に悪いけど、少し、話せない?」

 

 俺はクロを起こさないようにそうっと引き剥がして、ユキと共にリビングに向かった。

 

 ……

 

 俺たちは2人並んでソファーに掛けた。

 

「カオル、ヒナちゃんはもう……」

 

「……助からない、だろうな……」

 

「……何とかできない!?」

 

 ユキの声は、震えていた。

 俺は、どう答えようか迷ったが……。

 

 

「無理だよ……」

 

 気休めを言ってもしょうがないと判断した。

 両手で顔を覆って、静かに泣き始めたユキの肩をそっと抱き寄せる……。

 

 ヒナが持っていたバッテリー、それは“核バッテリー”だった。

 ヒナの体調不良はおそらく放射線によるものなのだろう。

 

 バッテリーは既にユキにお願いして処分してもらった。

 まぁ、処分といっても、店に売り払っただけだが。

 ユキは吸血姫……アンデッドのため、放射線による身体への害は無いとの事だった。

 

『バッテリー残量ゼロで1ペロだったわ』

 

 お使いが終わって帰ってきたユキの言葉を思い出す。

 

 ……

 

「ごめんなさい……カオル、私のせいで!」

 

「ユキだけのせいじゃない……俺も共犯だ……自分だけを責めないでくれ」

 

 ヒナが“核バッテリー”を拾った時、俺とユキはコテージでセックスしていた。

 

 ポンコツな機械を相手に華麗に舞い、華麗に屠ったユキ。強く美しいその姿に俺は欲情してしまった。

 そんなユキに甘えられたら……俺の理性は見事に吹き飛び、ヒナとクロを残してコテージに戻り、お互いの身体を貪っていた。

 2人が居ない事をいいことに、今座っているソファーで、ユキは俺にしがみ付きながら、泣いていた。俺もユキも、いつもより燃えていた……。

 

 その頃だろう。ヒナが“核バッテリー”を拾ったのは。

 後悔しても、しきれない……。俺は、最低の兄だ……。

 

 そして、今も……。

 俺は欲情していた。今すぐ、ユキを抱きたい。愛し合いたい。股間が……熱い…………。

 これはきっと、愛情からではなく、一時の快楽を得たいだけなのだろう。

 ヒナを失う恐怖、その原因を作った自責の念。それらから現実逃避したいだけだ。ユキの身体を、本能のまま貪って……。

 

 俺は……本当に最低だ…………。

 

 ───

 

 行為が終わると、彼は私の胸に顔を埋めて、眠ってしまった。

 私は、そっと彼の頭を撫でる。下半身はまだ、繋がったままだった。

 

 動物のような、荒々しいセックスだった。

 私を抱く彼の顔が……私を抱いているのにとても悲しそうで、胸が痛んだ……。

 

 彼は、私の身体に満足したのだろうか? 今、彼が本当に抱きたいのは……。

 

「ヒナちゃん……」

 

 彼の妹であり、私の妹でもある、カオルの次に、私が愛している人……。

 その命が、もう尽きてしまう……。私の、せいだ……。

 

「カオル? ユキ……」

 

 声の方に顔を向けると、全裸のクロが立っていた。その顔には怒気が浮かんでいる。

 当たり前だ。

 ヒナちゃんが大変な時に、セックスしていたのだから……。

 

「クロ、言いたい事はわかるけど、ヒナちゃんの様子を見てきてくれない? 私は、カオルを寝室に寝かせてくるわ」

 

 クロは何も言わずに、ヒナちゃんの眠る寝室に向かった。

 私は、彼との繋がりを解く。私の身体は、彼の熱を失い、冷たくなっていく……。

 

 ……

 

「ユキ、ヒナの事、愛しているんだよね? そんなヒナが大変な時に、何しているの!?」

 

 クロの口調が珍しく強い。

 ヒナちゃんは、穏やかな顔で、ぐっすり寝ていたらしい。それだけが、救いだった。

 

「……カオルと、愛し合ったわ」

 

 クロが手を上げるが、私の顔を見て、止まる。

 

「ユキ……どうして泣いているの?」

 

「クロ……ヒナちゃんは、もう……死ぬのよ……」

 

「えっ!?」

 

 その場にへたり込むクロを私は抱えてソファーに座らせた。

 そして、“核バッテリー”の事を、クロに話した……。

 

 ……

 

「なんでそんなもの……どうしてヒナが……!」

 

 クロの怒りとも悲しみともつかない叫びが部屋に響く。

 そして、そのまま、顔を覆ってしまった。

 

「私のせいよ……私が、カオルを誘ってしまったから……。彼は、後悔しているわ。自分のせいだと、自分を責めている……。そんな彼に求められたら、断れない……。クロ、私は最低な女よ。愛している人が死にかかっているのに、愛している人が欲しくてしょうがないの……」

 

「最低だよ! でも、私も最低だよ! ヒナと一緒に居たのに、何も出来なかった! 守れなかった! ヒナ、あんなにユキの赤ちゃんを欲しがっていたのに!!」

 

(えっ!?)

 

 クロの言葉に、私は耳を疑った。

 確かに、試練の間でヒナちゃんとエッチしたとき、そんな事を言っていたけど……。

 

「クロ? その話、もう少し詳しく聞かせて頂戴」

 

 クロは泣きじゃくりながら、話し始めた。バッテリーを拾う時のヒナちゃんの様子を……。

 

 ……

 

「ははは」

 

 クロの話を聞いて、私は乾いた笑い声をあげる。

 そうか、そうだったのか……。

 

 漸く、腑に落ちた。そして、安堵した。

 彼に、責任は無い……全部、私が悪い……。

 

 ヒナちゃんは、バッテリーを拾った時、浮かれていたそうだ。

 

 “いつか、私の赤ちゃんを産んでほしいわ”

 

 私が気まぐれで言った言葉。ちょっと気分を盛り上げたかっただけなのに……。

 ヒナちゃんは生まれてくる娘の名前まで考えていたようだ。

 

 どれだけ浮かれていたのだろう? 拾ったバッテリーの注意書きすら見落とすくらい?

 

 そうか……私が、ヒナちゃんを殺したんだ……。

 そして、これはそんな私への罰だ。

 

 訝し気に私を見ているクロに向かって、私は笑顔で話しかけた。

 

「クロ……ごめんなさい。あなたから、大切なものを奪ってしまうかもしれない……その時は……私を殺して」

 

「ユキ!? どういう事? 大切なもの?」

 

「私たちは、アンデッドだから放射線の害は受けないわ。でも、人間のヒナちゃんは違う。…………カオルも……」

 

「嘘……でしょ? 噓でしょ? カオルも!?」

 

「今のところ、症状は出ていないみたいだけど、時間の問題かもしれないわ」

 

 私は私のせいで、愛する人を失う。2人とも……。こんな残酷な罰が、あるのだろうか……。

 

 無性に、ヒナちゃんの顔が見たくなって、私は泣いているクロを置いて、フラフラとヒナちゃんの居る寝室を目指した……。

 

 ……

 

 躊躇しつつも、出来るだけ静かに寝室の扉をノックした。

 

「は~い!」

 

 いつものような返事が返ってきて、少し驚く。

 

「ヒナちゃん? 私よ」

 

「ユキちゃん? どうぞ♪」

 

 扉を開けると、ベッドの上に上体を起こしたヒナちゃんがいた。

 頭からすっぽりと布を被っている。目の位置には穴が2つ開いていた。

 

「ごめんね。驚かせた?」

 

 私は、その場で立ち尽くしていた……涙が零れた。

 

「ユキちゃん、泣かないで? ハグしてよ……ユキちゃんが嫌じゃなければ……」

 

 私は、ヒナちゃんにそっと飛びついて抱きしめた。

 

「嫌な訳、ないでしょ……」

 

「ユキちゃん……愛してるよ……」

 

「私もよ……ヒナ、愛しているわ……キスしていい?」

 

「しょうがないなぁ……目を閉じてね」

 

 目を閉じると、布を脱ぐ音が聴こえて、ヒナちゃんの方から私にキスされた。

 お互い、舌を求めあう。ヒナちゃんの温かい舌を味わい、私は欲情していた。

 我ながら、最低な女だ……。

 

 そんな私に気付いたのか、ヒナちゃんは唇を離す。

 

「これ以上は、エッチしたくなっちゃうから、ここまでだよ……」

 

 そしてまた、布を被る音が聴こえた。

 

「もう、目を開けていいよ……」

 

 目を開けると、布を被ったヒナちゃんが目の前にいた。

 心なしか、息が荒い。

 

「ヒナ、苦しい?」

 

「うん? ああ、興奮して息が荒いだけだよ。ヒナも、ユキちゃんと今すぐエッチしたいから……」

 

 ヒナちゃんも同じ気持ちだったと知り、少し、救われた気がした。

 

「ユキちゃん、お兄ちゃんとエッチしたでしょ?」

 

「えっ!?」

 

 ヒナちゃんの言葉に、私は固まる……。

 

「お兄ちゃんの匂いがした……妹が大変なのに、お兄ちゃんもエッチだね。でも、元気そうで、よかったよ……。ユキちゃん、クロちゃんを呼んできてくれないかな? 大事な、話しがあるの……」

 

 ヒナちゃんの真剣な言葉に、私は頷くしかなかった……。

 

 ……

 

 私はクロと並んでベッドの上に座っていた。

 目の前には、布をすっぽり被ったヒナちゃんがいる。

 

 隣のクロは、落ち着かない様子だ。悟られないように注意しているのだろう。

 カオルからは、ヒナちゃんには内緒にしてほしいと言われていたから、クロにもその事は伝えてある。

 

「まずは、謝らせて……この度は、申し訳ありませんでした」

 

 ヒナちゃんがベッドの上で土下座した。

 私は、意味が分からなかった……。

 困惑している私たちをよそに、ヒナちゃんは言葉を続ける。

 

「ヒナのせいで、お兄ちゃんを危険な目に遭わせた。お兄ちゃんは死ぬかもしれない。ヒナ、死んで責任を取ります。申し訳ありませんでした」

 

「ちょっと待って!? ヒナちゃん……あなた……」

 

 ヒナちゃんが頭を上げ、私に顔を向ける。

 

「知ってるよ。放射能でしょ? お兄ちゃんがバッテリーを見た時、ヒナ、見えちゃったの……放射能マークが……」

 

 ヒナちゃんは、もう既に知っていた?

 

「ヒナちゃん、私のせいで……ごめんなさい!」

 

「ユキちゃん? どうしてユキちゃんのせいなの?」

 

 ヒナちゃんが首を傾げる。

 

「私があんな事を言ったから……私がカオルを誘って、エッチしていたから……」

 

「ああ、関係ないよ。ヒナ、何か書いてあるな~とは思ったけど、面倒で読まなかっただけ。物凄いお宝かもしれないから、あとでお兄ちゃんをびっくりさせようと思って、黙ってたんだ……。……だからこの話はもう、おしまい!」

 

(嘘だ……!)

 

「ヒナちゃん、本当の事を言って!」

 

 自分の声が震えていた……。

 

「全部、本当の事だよ……そういう事に、しておいてくれないかな……ヒナからのお願い……」

 

 ヒナちゃんの声も震えている……。ヒナちゃんは、自らの命がもう長くない事を知り、全ての責任を負うつもりなのだろう。カオルと私とクロのために。自らが死んでも生き続けていく、私たちのために……。

 

 恐らく、泣いているであろうヒナちゃんに、私はそれ以上追及する事ができなかった……。

 

 しばらく無言だったヒナちゃんは、私たちに最後のお願いを告げた……。

 

 ……

 

「わかったわ……クロも、いい?」

 

「……うん」

 

 ヒナちゃんの最後のお願いを聞いた私は、承諾した。決行は、今夜……。

 

「ありがとう。ユキちゃん、クロちゃん……」

 

 ヒナちゃんは静かに、私たちにお礼を言う。その声はどこか寂しそうだった……。

 

 ───

 

 目を覚ますと大きな胸が俺の顔を包み込んでいた。

 

「おはよう、お兄ちゃん……」

 

 それはヒナの胸だった。声の方をみて、少し驚くが、すぐに受け入れる。

 布を被ったヒナが、丸まり、縮こまっている俺を優しく包み込んでいた。

 

「お兄ちゃん、ヒナのせいでごめんなさい。お兄ちゃんもユキちゃんもクロちゃんも、何も悪くないよ。ヒナが全部悪いの。悪い子のヒナにバチが当たっただけだから、自分を責めないでね……」

 

 ヒナは母親が子供に言い聞かせるように、優しく言葉を紡ぐ。

 

「ヒナ、何を言って……」

 

 ヒナは俺の唇に、人差し指を当てた。

 もう何も言わないで……そう言いたいのだろうか……。

 

「お兄ちゃん、ヒナの命、もう長くないの知っているよ。覚えている? “こわいほうしゃのう”」

 

 “こわいほうしゃのう”

 

 放射能を浴び、狂暴化した動物が人間を襲う映画を一緒に観たヒナが、夏休みの自由研究につけたタイトルだ。確か、ヒナが小学校3年生の時だっただろうか?

 

 どういう訳か、ヒナはもう、自分が放射線を浴びている事に気付いていたようだ。

 

「お兄ちゃん、ごめんなさい。ヒナ、物凄いお宝だと思って、お兄ちゃんをびっくりさせたくて内緒にしていたんだ。ちゃんと読めばよかったよ……」

 

 そう言って、ヒナは俺の頭を撫でる。

 

「お兄ちゃんまで危険な目に遭わせてごめんなさい。幸い、お兄ちゃんには症状が出ていないみたいだから、それだけは本当に良かった。ユキちゃんとクロちゃんも約束してくれたよ。お兄ちゃんがツルッパゲになっても、今までと変わらずお兄ちゃんを愛してくれるって。ヒナは……そんなお兄ちゃんを愛せるか、自信が無いなぁ……」

 

 ヒナは軽く笑った。

 

「お詫びって訳じゃないけど、ヒナ、明日、男の子になるよ。お兄ちゃん、いいよね? ヒナ、このまま死ぬんだから、どうせなら皆の役に立ちたいよ……」

 

「ダメだ! ヒナ、なんとか治す方法が「無いよ……」」

 

 俺の言葉をヒナは静かな声で遮る。

 

「60日以内の死亡率は100%……お兄ちゃんより、ヒナの方が放射能は詳しいよ? ヒナは放射能博士だもん……」

 

 俺は、何も言えなかった。

 

「お兄ちゃん、ヒナから最後のお願い。ヒナは明日、試練の間で男の子になるから、お兄ちゃんは男の子になったヒナを抱いて、試練をクリアして欲しいの。今夜は、ヒナが女の子でいられる、最後の夜だから……」

 

 ヒナの声は震えていた。泣いているのだろう……。

 

「最後に、女の子として、ヒナの事を愛してください。お兄ちゃん、愛しているよ……」

 

 俺はただ、ヒナを抱きしめる事しか出来なかった…………。

 

 ───

 

 俺は今、試練の間に向けて、歩いている。

 ヒナの両隣には俺とユキが立ち、3人で手を繋いでいた。

 

「最後に、お兄ちゃんとユキちゃんとエッチできて、ヒナは幸せだったよ……」

 

 布を被ったヒナの声は明るい。それだけが救いだった……。

 昨夜、ヒナは俺、ユキの順に抱かれていた。そして最後に……。

 

『ユキちゃん! ユキちゃんのオチンチン気持ちいいよ! ヒナの膣内で思いっきり射精して! ヒナにユキちゃんの赤ちゃんを孕ませて!!』

 

 その言葉を聞いて、俺は、ユキと、抱き合っているだろうヒナの一番奥に射精した。

 

 ヒナとの最後のセックス、俺たちは目隠しをして、行為に及んだ。

 

『こんな布を被ってセックスするなんて、ヒナちゃんが可哀そうよ。私たちが目隠しをしましょう』

 

 ユキの提案に俺は快諾した。

 ヒナ以外は全員が目隠しをして、行為に及んだ。

 ヒナはたぶん、ユキに膣内射精して欲しかったのだろう……。ユキの子供が欲しいと言っていたから……。

 

 

「クロちゃんもありがとう。クロちゃんの指と舌、すごく、気持ち良かった……」

 

「私は、ヒナの苦しみを、軽くしてあげたかっただけだよ……」

 

 昨夜はクロも、ヒナのためにとヒナを愛撫していた。

 

『私はお姉さんだから、ヒナのためなら……』

 

 俺は目隠ししていたので、クロがヒナに何をしたのかは知らない。

 だが、クロはクロなりに、ヒナを想い、ヒナのために何かをしてあげたかったのだろう。

 心の中でそっと、クロに感謝する。

 

 ヒナは、皆に愛されていた。なのに……

 

(試練のために、男になり、男として死ぬのか?)

 

「クロちゃん、ヒナはそれでも、嬉しかったよ……最後に、クロちゃんにも愛して貰って……」

 

 ヒナの声は穏やかだ。体調は良いらしい……。

 

 試練の間に、着いた……

 

 電光掲示板を見る……。

 

 “セックス(男性同士)”

 “0/1”

 

 昨日と変わらない、表示内容……。

 

「お兄ちゃん……いってきます」

 

 ヒナは俺の唇にそっと自らの唇を布の上から重ねた。

 

「お兄ちゃん、ヒナは男の子になるけど、必ず、抱いてね。ユキちゃんとクロちゃんのために試練をクリアしなきゃ、ヒナ怒るからね……」

 

 ヒナはそう言うと、性転換薬を手に取り、ユキと供にトイレを目指す。

 ユキの手には浣腸の器具があった……。

 

 俺は、2人の姿がトイレに消えたのを見送り、クロを見つめた。

 

「クロ……頼む」

 

「……うん」

 

 クロは俺の目を目隠しで塞ぐ。

 

 

『男の子になったヒナを観たら、お兄ちゃんは抱く気がなくなるかもしれない……』

 

 

 昨夜のヒナの言葉が、頭の中で反芻する……。そんな事、あるのか?

 

 そのまま、俺はベッドに腰かけてヒナを待った。隣にはクロが座り、俺の手を握っていた。

 

「クロ、ありがとう」

 

 俺が声を掛けると、クロはギュッと俺の手を握る。

 

「カオル、私、カオルのためなら何でもできる……そう思ってるけど……ヒナはすごいね」

 

「……ああ、自慢の妹だ……」

 

 俺は、クロと手を繋ぎながら、2人を待っていた…………。

 

 ───

 

「ユキちゃん、こんな事お願いしてごめんね」

 

「いいのよ……痛くない?」

 

「……うん」

 

 浣腸が終わり、今私はヒナちゃんのお尻の穴をほぐしている。

 全て、ヒナちゃんの指示によるものだ。

 何故そんな知識があるのか聞いたところ、アナルセックスをしていた知人から聞いた知識との事だった。

 

「だいぶ、ほぐれてきた気がするわ」

 

「うん、でもきっと、痛いだろうな……」

 

「ヒナはアサヒちゃんとカオリちゃんを産んだんだから、きっと耐えられるわ。大丈夫よ……」

 

「そうだよね。ユキちゃん、ありがとう。もういいよ……」

 

 私はヒナちゃんのお尻の穴に入れていた3本の指を抜くと、ゴム手袋をそのまま脱ぎ捨てた。

 

 ヒナちゃんは体勢を整え、私の目の前に正座で座る。私も正座して向き合う。

 頭には布を被っただけで全裸。私も全裸だった。

 豊かな胸の前に両手で性転換薬を握っている。それはまるで、祈っているかのようだった。

 

「ユキちゃん、ヒナはそろそろ男の子になります。いままでありがとう。ヒナが男の子になっても今まで通り、愛してほしいな」

 

「私は、ヒナが死ぬまで……いいえ、死んでからもずっとヒナを愛し続けるわ」

 

「ありがとう……ユキちゃん。最後に、キスしてもいい?」

 

「ええ、してちょうだい」

 

 ヒナちゃんは頭から被った布を取った。

 その下からあらわれたのは、もう頭には髪がほとんど残っていないものの、健康的な頬の色のぷるんとした唇の愛くるしいヒナちゃんの顔だった。

 

「醜いでしょ?」

 

「そんな事、ないわ」

 

 私は目を閉じ、唇を突き出す。

 ヒナちゃんの柔らかくあったかい唇が、私の唇に触れて離れた……。

 

 目を開けると、ヒナちゃんが目の前で微笑んでいる。

 

「あまり時間もないし、もう、飲むね」

 

 そう言うと、ヒナちゃんは薬の蓋を開け、一気に飲み干した。

 

「あ……がっ……ぐぅぅぅあぁぁぁぁ!」

 

 ヒナちゃんは目を見開き、苦しそうに顔を歪める。

 私の視界は涙でぼやけ始めた。

 

(早く、終わって……ヒナちゃんを解放して)

 

 目の前で徐々に男性の身体に変わっていくヒナちゃんを、私は目を逸らさず、見守った……。

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