カオルをタオルでくるみ、抱えながらドアを開けると全裸のヒナちゃんがベッドの上に立ち、釘バットを握り締めていた。
「そこかぁぁぁぁ!!!」
ヒナちゃんがバットを振り回す。
その度に、ヒナちゃんのオチンチンがぶるんぶるん揺れていた。
「ヒナちゃん?」
「ユキちゃん、近寄らないで! 敵がいるの! うるさい! どこにいるの!?」
ヒナちゃんはバットを振り回しながら誰かと会話している。
──異様な光景だった。
「ヒナ! 落ち着け!!」
カオルが声を掛けてもヒナちゃんの様子は変わらない。
「お兄ちゃん! うるさい! 信じられるか!! ぶっ殺してやる!!」
ヒナちゃんの目は血走り、狂気の形相だ。
今にもこちらに襲い掛かってくるのではと私は不安だった。
「カオル! どうしよう!?」
「睡眠で眠らせるのが一番だが、今日はもう魔法が使えないからな」
腕の中のカオルの顔は暗い。
遂にヒナちゃんは精神に異常をきたし始めたのかと思い、私も悲しくなった。
「ねぇ? カオルの裸でも見せてあげれば落ち着くんじゃない?」
隣にいるクロがそう提案してきた。
(確かに……)
カオルを見ると彼も頷く。
「ユキ、頼む」
私はカオルをつつむバスタオルをはぎとり、ヒナちゃんに見せつけた。
「ヒナちゃん! こっちを見て。女の子になったカオルを見てあげて!」
ヒナちゃんはカオルを見て、目を見開き、動きを止めた。
オチンチンがどんどん膨らんで、遂には完全に勃起し、先端からは透明な液が垂れはじめる。
隣のクロはニッコリ微笑んでピースしていた……。
───
私はお兄ちゃんのおっぱいに釘付けだった。今すぐむしゃぶりつきたい欲求に駆られるけど、ユキちゃんが怖いのでやめておく。
「ヒナ、とりあえず落ち着いてくれ。何が起こっているんだ?」
「あのね、頭の中で声が聞こえるの! お兄ちゃん、これが敵の攻撃でなければ、ヒナはもう放射能のせいで頭がおかしくなったんだと思う!」
言葉にした途端、急に怖くなり、身体が震え出した。
お兄ちゃんのお腹を見る。
(あそこにいるヒナの赤ちゃんに会う前に、私は死ぬんだ)
『マスター、ですからあなたは死にませんよ?』
「うるさい!」
私が叫ぶとお兄ちゃんはビクリと身体を震わせた。怖がらせてしまった……。
「ヒナ、落ち着け。その声はなんて言っているんだ?」
「今は、ヒナは死なないって言ってたよ……」
その言葉を聞いたお兄ちゃんは一瞬、悲しそうな顔を浮かべたけど、すぐ元の顔に戻った。
私に気を使ってくれているのがわかり、さっき叫んで怖がらせた自分との違いに自己嫌悪に陥る。
「ヒナ、本当にそれ、幻聴なのか?」
(えっ!?)
『マスターと違って、兄君様は聡明な方ですね。さすがです』
その言葉に私はカチンとくる。
「うるさい! バカにするな!!」
「いや、バカにしたつもりは無いんだ。ヒナ、すまない……」
お兄ちゃんが慌てて頭を下げる。
「お兄ちゃんに言ってないよ? 頭の声に言ったの!」
「何て言われたんだ?」
「ヒナと違って、お兄ちゃんは頭がいいって」
私の言葉に3人は私を見つめる。
「はぁ……」
お兄ちゃんが小さくため息をつく。
「お兄ちゃん!?」
「いや、違う! 違うぞヒナ!? これは……あ~~~、深呼吸だ。落ち着こうと思って……」
「嘘だ! ヒナの事、バカだと思っているんでしょ!?」
「また、何か言われたのか?」
「今のはお兄ちゃんに言ったんだよ!?」
「でも、私もヒナよりカオルの方が頭はいいと思うよ?」
クロちゃんはきょとんとしながら私を見ていた。
まるで、残念なものを見るように……。
『私もそう思います』
「ちょっと! ひどくない!?」
「どっちに言ったんだ?」
「両方だよ!!」
「混乱してきたわ……」
ユキちゃんがこめかみを押さえて目を閉じる。
『奥様もお可哀そうに……』
「黙れっつってんだろ!!」
私はバットを振る。
「ヒナ! 落ち着け。そもそも、幻聴だとしたらバットで攻撃しても意味が無いだろ?」
「……あっ!?」
お兄ちゃんの言葉にユキちゃんとクロちゃんはうんうんと頷いている。
「ヒナ、バカだったよ……」
『そうですね』
「いや、バカじゃないぞ……思い込みが激しいだけだよ」
『ナイスフォローです。さすが兄君様……いえ、姉君様と呼ぶべきでしょうか?』
「どっちでもいいよ!!」
私はベッドの上にあぐらをかき、お兄ちゃんのおっぱいを見ながら落ち着けと自分に言い聞かせた……。
……
「とりあえず、俺が質問するから、ヒナは幻聴の答えを言ってくれ。混乱するからヒナは話すなよ?」
お兄ちゃんが私の後ろからハグしながら、子供に言い聞かせるように優しい声で言った。
子供扱いされているようで気に入らないけど、お兄ちゃんの温もりが背中に伝わって、なんか安心する。おっぱいも当たってるし……。
『兄君様、さすがです。それに比べて……』
(うるせーなコイツ)
せっかくのいい気分が台無しだ。
「はじめまして。あなたの名前は?」
お兄ちゃんは謎の声に対して女の子として話しかけた。
『はじめましてではないのですがね……名前はありません。名前をつけてくれませんか?』
「はじめましてじゃないって。名前は無いから、名前をつけろと言っているよ」
「いきなり名前を付けろと言われても困るよ。あなたの事をもっと教えて?」
『私は、マスターの体内にある魔道具です。かつてはイーターとキラーと呼ばれていました。今は諸事情により、繋がっている状態です』
(えっ!?)
私は愕然とする。
本当に幻聴ではなかった!?
「リース先生が入れた魔道具だって言ってる!」
「「えっ!?」」
お兄ちゃんとユキちゃんが驚く。クロちゃんだけはポカーンとしていた。
「もしかして、先生が言っていた新機能!?」
『ご名答! さすが兄君様です』
バージョンアップで新機能を追加したと先生が言っていたけど、コイツだったのか。
私はぶすっと膨れる。余計な機能としか思えなかった。
(先生、ひどいよ!?)
「さすおにだって」
「さすおに?」
「さすが、お兄ちゃんって事!」
お兄ちゃんの抱擁が少し強くなる。
おっぱいが背中に押し付けられて、癒される……。
『兄君様、結婚してください』
「結婚してくれってさ」
「……いや、それはちょっと…………」
『残念です。ではせめて、お兄様と呼ばせてください』
「お兄ちゃんって呼んでもいいか? だって」
「ええ、いいよ」
『ありがとうございます。お姉様でもいいですか?』
「お姉ちゃんでもいい? って」
「いいよ」
『ありがとうございます。お姉様』
「お姉ちゃん、ありがとう。だって」
「どういたしまして。それにしてもどうして今になってヒナに話しかけているの? ヒナの命がもう長くないから?」
お兄ちゃんの身体が少しこわばったのを感じた。
『マスターは死にませんよ? 健康そのものです。何度もマスターに伝えたのですが、取り合ってくれません。お姉様からもよく言ってあげてください』
(えっ!? コイツ、今なんて言った?)
「……ヒナは健康で死なない。だって」
私は混乱しながらもお兄ちゃんに伝える。都合の悪い部分は伏せた。
衝撃の言葉に皆、固まっている。
『正確に伝えてほしいのですが……』
(うるさい! 黙れ!)
「それは、本当?」
お兄ちゃんの声が震えていた……。
……
魔道具曰く、電力不足により最小限の活動をしていたようだけど、私が拾った核バッテリーの膨大な電力をワイヤレス充電した結果、フル機能が使えるようになった。──AI機能である。
その上、私の体組織と毛根を拝借したらしい。
つまり、私の体調不良とツルッパゲになったのは全部コイツのせいだった。
次にリース先生に会ったら文句を言おうと私は決意した。
でも……。
「良かった! 本当に良かった!!」
私の肩が熱い雫で濡れる。
お兄ちゃんは私を抱きしめて泣いていた。
ユキちゃんとクロちゃんも抱き合って泣いている。
泣いて喜んでいる皆を見て、私は少し恥ずかしくなった。
『マスターのために泣いているお姉様……尊い!』
(お前は黙っとけ)
『はぁ……それにしても、お姉様がどんな名前を付けてくれるのか、楽しみで仕方ないですね!』
私は照れ隠しにお兄ちゃんに伝える事にする。コイツもたまには役に立つ。
「お兄ちゃんがつけてくれる名前が楽しみみたいだよ?」
私の言葉を聞いて、お兄ちゃんは涙を拭った後、私をギュッと抱きしめながら、しばらく沈黙していた。
「エリジウム・キー」
お兄ちゃんが静かに言った。
「一応イーターのEとキラーのKを取って付けてみたけど、どうかな?」
『エリジウム・キー……死後の理想郷と鍵ですか。直訳するなら“天国への鍵”でしょうか? 素晴らしいです! さすが、お姉様!!』
「気に入っているみたい。天国への鍵ってこと?」
「そうだね。でも、私は“死からの解放者”という意味で付けたの……ありがとう、エリ……」
“死からの解放”といっても、コイツが余計な事をしなければ私が死ぬと勘違いする事はなかったのに……。
私はそう思ったけど、泣いて喜んでいる皆と私の体内にいるAIも気に入ったようなので、黙っていた。
私はそんな野暮な女じゃない……今は、男の子だけど……。
───
『そんな! お姉様がそんなはしたない顔を……素敵です! いやらしい指使いに舌使い……マスターの身体に入ったとき、お姉様のお口に含んで頂いたのを思い出しますねぇ。これは、たまりませんぞ!』
(うるさいな、コイツ……)
私の脳内に早口なエリの声が響く。
せっかくお兄ちゃんとエッチな事をしているのに、私は激萎えだった。
股間は、元気だけど……。
オチンチンの先っぽを、お兄ちゃんに一舐めされ、身体がビクンッと反応した。
『今、マスターが「あっ」って言いましたね? 記録します! 波形分析も完了!』
(ログを消せ! というか記録するな!)
『お姉様の記憶領域はマスターの1024倍を確保していますが、この分では全然足りませんね。見直しが必要でしょう』
(私の扱い、雑じゃないかな?)
『マスター、発射30秒前です』
(……)
私は力なく、カオリを手に取る。
何故かクロちゃんが欲しがっている精石を作るために……。
ちなみに、エリはちゃんと避妊具として機能していて、私の精子には受精機能が無いらしい。
そんな種なしの精石を作って、クロちゃんは何がしたいのだろう……。
そんな事を考えているうちに私は達した。
気持ちは入っていないのに、身体は勝手に気持ちよくなる。
男の子の身体は不思議だ。
『精子残量は25%です。あと3回発射可能です。マスターの場合、朝と晩に処理しておけば夢精する確率は10%まで抑えられます』
(10%もあるのか……)
その後、私は精石を3つ作って、性欲処理を終えた……。
「お兄ちゃん、ありがとう」
お兄ちゃんと自分自身とベッドに清掃をかけ終え、私は既に寝息を立てているお兄ちゃんにお礼を言った。
『早くお姉様と繋がりたいですね』
(それだけは絶対ダメ! 私もエリもユキちゃんに殺されちゃうよ!?)
『それは困ります!』
もちろん、私だってお兄ちゃんとエッチがしたい。
でも、せっかく治りかけているのに、ここでエッチしたらまたお兄ちゃんのオマンコがボロボロになってしまう。
そして、そんな事をしたら次こそユキちゃんは許してくれないだろう……。
「おやすみなさい、お兄ちゃん」
小さく寝息を立てているお兄ちゃんにキスをして、私は寝室を後にした……。
───
ヒナが去った寝室。
影からユキが現れた。
ヒナがカオルに襲い掛からないか心配でずっと監視していたのであった。
そして、手を伸ばし、寝ているカオルの唇に触れると、下唇を噛みしめる。
女性となったカオルに、自らの女としての悦びを満たす事ができないのだと、ユキは知っていた。
それがどうにも、寂しい……。
(せめて、体温だけでも……)
全裸になり、カオルにピッタリと寄り添うと、微かに上下している胸に掌を乗せる。
じんわりと自らの手に伝わるカオルの温かさを感じながら、ユキは目を閉じた。
一方、もう一つの寝室では、ユキに監視されていた事を知ったヒナが青ざめていた……。
───
「クロちゃん! あの白くてデカイのがブレスを吐くよ! 盾をよろしくね!」
「任せて!」
「お兄ちゃん、あのカエルは雷系が有効で高確率で麻痺するはず!」
「わかった!」
俺は即座に雷撃を叩きこむ。
「ユキちゃんは……そのまま暴れてていいよ。ブレスだけは注意してね!」
「ええ、任せて!」
巨大な白いドラゴンが地を這うように身を伏せ、ブレスを吐き出す。
クロが前に出て、自分の身長ほどもある盾でそのブレスを防ぐが、体感温度が一気に10℃ほど下がる。その後ろにいるヒナは金棒を握り締める。
ブレスが止むと同時にヒナが飛び出す。
「おらぁぁぁぁぁ!!」
金棒がドラゴンの頭に振り下ろされた。
メキャッ!
鈍く、いやな音が響く。頭の潰れたドラゴンは2歩ほど這いずると、どさりと崩れ落ちた。
一方、俺の雷魔法で麻痺していたカエルたちに、赤い閃光が走る。ユキの瞳の残像だった。
気付けば、カエルたちの首が地に落ちている。
90階を出発して2日目、俺たちは漸く98階までたどり着いた。
エリの分析能力と判断力を得たヒナは、戦闘で目覚ましい活躍を見せていた。
今までは戦闘で活躍できなかった負い目からか、ヒナは張り切っている。
そして、そんなヒナに張り合うかのようにユキも力が入っていた。
戦場を舞うように駆け抜けるだけで、首無し死体が出来上がる。
力のヒナ、技のユキと言ったところか……。良きライバルのようだ。
「やったね! ユキちゃん!」
「ヒナちゃんもさすがね!」
2人がハイタッチした音が小気味よく響く。
一方、俺は2人のサポートに回る事が多くなった。
女の身体になった事で、前に出て戦うよりも、中衛または後衛で戦う方が3人とも安心できるようだ。
自分でも男の身体だったときより筋力の減少を感じるため、今は魔法中心の戦いにシフトしている。
「クロ、大丈夫か?」
「うん! でも、盾が凍っちゃった」
見ると、クロの盾にびっしりと霜がついていて、その霜はクロの手まで達している。
「クロ! 大変だ! 手が!!」
「大丈夫! カオルが温めてくれたらすぐ治るよ」
俺は急いで胸をはだけて、クロの手を包み込んだ。
刺すように冷たい……。
「そこ! イチャイチャしない! 大体クロちゃんはお兄ちゃんのおっぱいに触りたくて、ワザとでしょ!?」
「あれ? バレた?」
ヒナの指摘を受けたクロが舌を出す。
そんなクロをヒナはむっとした顔で見ている。一方のユキはクロを睨みつけていた……怖い。
「クロ、頼むからそんな無茶しないでくれ。俺の胸でよければいくらでも触らせてあげるから……」
「えっ! 本当! じゃあ今夜♡」
クロは瞳を輝かせて俺の胸を揉み始めた。少し、くすぐったい。
「ちょっと!? お兄ちゃん、何てこと言っているのよ!? クロちゃんもこんな所でお兄ちゃんのおっぱいを揉まない!!」
「いや、胸くらい、いいだろ? 減るもんじゃないし……」
「「ダメに決まっているでしょ!?」」
ヒナとユキがハモる。
女の身体になったばかりの俺にはその感覚がよくわからない。
「この程度で、クロが無茶しないなら、全然いいんだけどな……」
誰にも聞かれないように小さく呟いた……。
「あー! また勝手に記録されてる!」
ヒナはブツブツと何か言っていた……。
───
100階への扉を開けると……そこは真っ白な部屋だった。
装飾は今までの10階単位の部屋とは変わらないが、どこもかしこも雪のように白く、光沢を帯びている。
それは床に敷かれている絨毯も例外ではなかった。
明らかに異質な部屋だった……更に……。
「居ないね」
ヒナが静かに呟く。
これまでの階では、大部屋にいたミカの姿が見えない。
それが少し不気味だった。
「万全の態勢ではないから、試練は明日だな……」
俺の声は、静かな空間に吸い込まれる。
頷く3人を後目に、俺は試練の間へと続く扉を目指して歩く。
全てが真っ白だが、近づき、よく見るととても凝った彫刻が彫られた扉だった。
女神──だろうか?
翼の生えた半裸の女性と、同じく翼の生えた男性が絡み合っている。
2人の間には小さな翼の生えた赤子が目を閉じ、女神の乳房にしがみついていた。
女神は片手でそっとその赤子を抱えている。授乳中のようだ。
まるで宗教画のような雰囲気と美しさに、俺は息を呑む。
そして、扉に近付くにつれて細かなディテールが判る。
その家族の足元にあるのは大地ではなかった……。
無数の骨……。明らかに人骨だ。それが地平線まで続いている。
そんな人骨の大地の上で、愛し合い、幸福そうな神の家族。
そんな第一印象だ。
タイトルを付けるなら──
もっとよく見ようと一歩踏み出すと、突然下半身から力が抜け、俺はその場にへたり込む。
視界がぼやける中、俺の瞳に映る人骨はどれもこれも生前の形とは程遠い状態である事を悟る……。
まるで34階で見た天国だ。
木偶を殺戮して悦ぶ天国の住人たちが頭をよぎる。
そんな光景が、見渡す限りに広がっていた。
そして、あの丘を越えたら、もっと酷い光景が広がっていたのだろう……。
思い出し、吐き気が込み上げる。
“楽園”
頭の中、タイトルが天から降ってきた……。
「お兄ちゃん!!」
ヒナの声が……遠く感じる…………。