真っ暗な空間の中、俺は膝を抱えてうずくまったまま、ゆっくりと落ち続けていた。
なぜ、こんな所にいるのか。なぜ、落ちているのか。
わからないし、どうでもよかった。
何も見えないし、聞こえない。
ただ、落ち続けている事だけは感覚でわかった。
落ちていくにつれ、俺の中で何かが薄れていく。
もう、自分の名前すら、思い出せない……。
膝を抱えた腕に少し力を込める。
もう、このまま、消えてしまおう。
顔を膝に埋めて、ただ、落ち続ける感触に身を任せた……。
……
どれくらい経っただろう? 時間の感覚が判らない。
……ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
それは遠くから、まるで水の中で聞こえてくるようなくぐもった声だった。
(……誰だ?)
その声は俺の名前を呼んでいる気がする。何度も、何度も……。
声に引かれるように、俺は顔をあげた。
真っ暗だった空間に、小さな灯りが見える。
俺の方に徐々に近づいてくるそれは、白い、光の玉だった。
俺の傍らに来た光の玉が強く発光して、形を変え、やがて美しい少女に変わった。
「カオル……愛しているわ。私のそばにいてほしいの! いつまでも……」
そう言うと、少女は豊かな胸を俺の右腕に押し付けて、涙を流していた。
(……カオル?)
思い出した。カオル──それは俺の名前だ。そして、この少女の名前は……。
「ユキ……」
俺の言葉を聞いた少女は一瞬目を見開いて驚くと、すぐに嬉しそうに微笑んでから俺の右肩に顔を押し付けて泣き始めた。
「カオル……」
声と共に左手を握られた。
いつの間にか少女が俺の左手を握り微笑んでいる。
右腕に縋りついて泣いている少女と同じ顔。だが、どこか違う。
頭には漆黒のリボンが揺れていた。
「私、カオルのすべてが欲しいの。愛も、心も、身体も……赤ちゃんも……」
少女はそう言うと、自らの控えめな胸の上に、俺の掌を乗せる。
その頬は紅潮し、瞳は潤んでいた。
いつの間にか、落ちている感覚がもう無い。
底なしの暗闇に、どこまでも沈んでいく俺の身体は、ふわりと浮かび上がっていた。
2人の少女に挟まれて、俺は宙を漂う。
光りの玉が1つ、俺に近付いてきて少女を形作る。
また、別の美少女だった。
「お兄ちゃん、愛しているよ……ヒナの事も愛してね……」
そう言って、おれに口づけをした。
この少女の名前はヒナというらしい。
俺への呼び方からして、俺の妹なのだろうか?
気が付くと左右の少女は俺の手を握って笑みを浮かべていた。
その瞳はまるで、自らの子供に向けるかのような優しさに満ち溢れていた。
ヒナと名乗る少女は、口づけしながら、俺を優しく押し倒す……。
……
まるでガラス細工に触れるかのような優しさで、俺は彼女に抱かれていた。
彼女の行為すべてに、俺は身をゆだねる。
不思議と嫌悪感はない。むしろ、大切にされている、愛されているのを感じた。
それは俺の手を握る2人の少女からも感じる。
そして、いよいよ彼女の愛を受け取る時が来た…………けど……。
「お兄ちゃん、ごめん……ごめんなさい…………」
目の前の少女は、涙を流しながら俺に謝り、悔しがっていた。
上手く、出来なかったようだ。
俺は、その姿が滑稽で可笑しくなってしまった。
失敗したなら、また挑戦すればいい。
こんなものは取り返しのつかないものでも、なんでもない。
俺は、不器用でも、なんでもいいから、今はただ彼女の愛が欲しかった……。
「ヒナ、大丈夫だよ? さぁ、もう一度……」
俺の声を聞いた少女は驚き、目を見開く。
そして……彼女はもう一度俺に覆いかぶさる。
その瞳はもう、濡れていなかった。
彼女の愛が、俺の身体に入ってきた……。
心地よい熱と快感が、稲妻のように俺の身体を突き抜ける。
いつの間にか、ふわふわ漂っていた身体は3人の少女たちと共に徐々に上昇していった……。
どこまでも、どこまでも…………。
彼女の熱い愛が、俺の体内に放たれると──光が俺を包み込んだ………………。
───
開いた目に、スキンヘッドの男が映る。
だらしなく開いた口からは涎を垂らし、イビキをかいていた。
(相変わらずだな……)
下半身の違和感に気付き、股間をまさぐる。冷たい、液体が指に絡んだ。
独特の手触りと粘り気をしている指を鼻先に持ってきて匂いを嗅ぐ。
精子だった。たぶん、ヒナの……。
どうやら、俺はヒナに抱かれたらしい。
腹に押し付けられているヒナの勃起した性器を指で触れた。
凶悪な大きさと太さだ。
(これが、俺の身体に挿れたのか……)
だが、俺の下半身に痛みは殆ど無かった。
ヒナは優しく俺を抱いたのだろう。
先端を軽く触れると、どんどん硬度が増してきた。
先走り汁が溢れる。
ヒナの顔を見ると、頬は赤く、少し苦しそうな表情をしていた。
口元の涎を拭い、そのまま、ヒナの性器の先端を触る。
先走り汁と涎が混ざりあった粘液で、ヒナの亀頭をゆっくりマッサージする。
熱と硬さがどんどん増してくる……。
人差し指で尿道口の周りを円を描くように優しくなぞる。
ヒナの息遣いがだんだんと荒くなり、指先にぴくぴく、痙攣し始めの振動が伝わる…………。
最初に感じたのは強烈な熱だった。
顔に、胸に、腹に……。そして、青臭い雄の匂い。
ギュッと目を瞑っていたヒナが目を開ける気配を感じ、俺は瞼を閉じる。
ヒナがもぞもぞと動き始めたのを確認してから、俺はゆっくり目を開けた。
「ヒナ、おはよう……」
ヒナは一瞬、驚愕の表情を浮かべた後、涙を流した。
静かに泣くその顔は男なのに、美しく思えた……。
───
「ヒナ、お前の赤ちゃんを守ってやれなかった。許してくれ……」
ヒナの逞しい腕を枕にして、俺はヒナの硬い胸に手を這わせる。
「お兄ちゃん、もういいの。エリが記録していたから、全部、わかっているよ……」
ヒナは天井を見つめたまま、静かに答えた。
俺たちの子供が死んだ理由は、ヒナには知られたくなかったが、もう既に知っていたようだ。
そして、俺があの子に何をされたのかも……。
「ごめん……」
身体を起こして、ヒナに軽くキスをした。
そのせいで、俺の体内にあった、まだ温かいヒナの種が零れてシーツを汚す。
今の俺は排卵していないらしく、次の排卵日もだいぶ先との事だった。
先ほどまで、俺は自分の身体を使って、ヒナの性欲処理をした。
女になった身体の方も、ヒナの身体を求めていたようだ。
ヒナの上に跨り、汗まみれでよがり狂う俺の体内に、ヒナは何度も何度も射精した。
文字通り、空になるまで……。
我ながら、はしたない姿を見せてしまったと、今は少し後悔しているのに……。
気付けば、ヒナの性器に指を這わせていた。
さっきまであんなに情熱的に俺の身体を蹂躙していたモノは小さく萎んでいた。
「お兄ちゃん、もう無理……勃たないよ…………」
ヒナの言葉を無視して、握って舌を這わせるが、いつまで愛撫しても元気になる事は無かった。
どうやら、本当のようだ。
「お兄ちゃん、どうしちゃったの? 男の子だった時より、エッチになってるよ? 1週間分の性欲が溜まっていたせいかな?」
ヒナは笑いながら、俺の髪を撫でる。
俺の心が壊れてから、もう1週間が経っていた。
その間の3人の様子を想像すると、申し訳ない気持ちで胸が張り裂けそうになる。
ヒナが起き上がり、俺にキスをすると、清掃をかけ始める。
「ユキちゃんとクロちゃんを呼んでくるよ。2人ともすごく心配していたから、たっぷり愛してあげてね」
そう言って、ヒナは寝室を出て行った……。
───
あれから、1週間の静養を経て、俺は体力を取り戻した。
静養と言っても、やっていた事は飲んで、食べて、愛し合って、眠っていただけだ……。
そして、この100階を調査したが、階段へ続く扉が試練の間への扉と同様、今までとはあまりに違い、異様だった。
全裸で絡み合う女神と男性、そして、その女神を背後から抱きすくめる骸骨。
最初に見た時は試練の間での出来事を思い出し、俺は気分が悪くなった。
そんな俺を隣に立つヒナが支えてくれた。
この先に何があるのかは不明だが、万全の準備が必要と俺たちは判断し、物資や薬、装備をこの階にある町で整えた。
そして、いよいよ明日の朝、俺たちは扉の先に進む。
今夜は100階で過ごす、最後の夜だ……。
……
「あの扉の先に進んだら、もう戻れない気がするんだ」
ヒナに腕枕されながら、俺はヒナの頭を撫でる。
スキンヘッドが手に吸い付き、意外と良い撫で心地だ。
背後から俺を抱きしめるユキの手に、力が籠る。
「カオル……怖い?」
ユキの静かな声は、僅かだが震えていた。
「怖くないと言ったら、嘘になるだろうな……」
そう答えて、ヒナを撫でていた手を、ユキの手にそっと重ねた。
俺の乳首から唇を離して、クロが俺を見上げる。
「カオルでも、怖い事があるんだね?」
そう言ったクロの口からは微かにミルクの香りがした。
「あるよ。俺は……誰かを失うのが怖いんだ」
そう言ってそっとクロの頭のリボンを撫でると、クロは気持ちよさそうに目を細めた。
「ヒナが守るよ。ユキちゃんもクロちゃんも、もちろん、お兄ちゃんも」
天井を見つめながらヒナが静かに呟く。
「だからさ、お兄ちゃん……アスカとミユキちゃんを取り戻してさ、この旅が終わった時、もう一度ヒナの赤ちゃんを産んでくれないかな? ヒナ、お兄ちゃんにヒナの赤ちゃんを産んでほしいんだ」
「ああ、産ませてくれ……」
俺の言葉を聞いたヒナが俺に軽くキスをした。
クロは俺の胸に、ユキは俺の首筋にそれぞれ口づけする。
「みんな、愛しているよ……」
3人の体温を感じながら、俺は目を閉じた……。
ヒナのぬくもりが、俺の頬に伝わる。
クロの小さな手が、俺の胸を撫でる。
ユキの柔らかい胸が、俺の背中に押し付けられる。
心地よい温かさと冷たさ、感触に包まれながら、俺の意識は深く沈んでいく。
明日、扉の先で何が起こるのかはわからない。
だが、今この瞬間だけは確かに言える。
──俺は、愛されている。
そして俺も、この3人を心から愛している。
明日の夜も、3人と愛し合って、一緒に寝たい。
拳を握り締めたところで俺は意識を手放した……。
───
「準備はいい?」
暗闇の中、ヒナの声が聞こえる。
「ああ、頼む」
扉が開く重い音が響く。
ユキの手をギュッと握ると、ユキも握り返してきた。
「カオル……もう、目を開けていいわ」
おそるおそる目を開けると、扉の先は1本の長い通路だった。
通路の先に光が見える。
轟音が響き、背後の扉が閉まった。
「ダメね。開かないわ」
扉を調べたユキがため息をつく。
もう、先に進む以外の選択肢は無かった。
「ユキちゃん、先頭をお願い。くれぐれも罠には気を付けて。クロちゃんはお兄ちゃんと並んで。私が殿をつとめるよ」
ヒナの指示に俺たちは無言で頷いた。
俺が考えていた指示と全く一緒で、それが頼もしく嬉しい反面、少し寂しい。
感慨に耽っている俺の手をクロが握る。
「カオルの事は私が守るよ」
そう言って胸を張り微笑む。
「ああ、クロ、頼むよ。ヒナの事も……」
「お兄ちゃん! 今のヒナはお兄ちゃんより全然強いんだから、へーきへーき♪ と言いたいところだけど、わかってるよ。調子に乗っている時が一番危ないって……」
そう言って両手で自らの頬を叩くヒナの成長ぶりに、思わず涙がこぼれそうになり、天井を見上げた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「……すまない。少し、天井を観察させてくれ。ヒントがあるかもしれないから……」
涙でぼやける視界で、俺は天井の石の数をしばらく数えていた……。
……
長い通路の先は行き止まりだった。そして、地面には巨大な魔法陣が桃色の光を放ちながら怪しく輝いている。
「……罠ではなさそうね。おそらくどこかに転移する魔法陣だと思うわ。危険が無いか、私が先に一人で進むわ」
そう言って立ち上がり、魔法陣を踏もうとするユキの手を取る。
「カオル?」
「ユキ、離さないでくれ……」
ユキは俺の顔を見つめ、笑う。
俺の空いた手を、クロが両手で握る。
ヒナはユキの空いた手を握る。
「みんなで一緒に行こう。この先がたとえ、地獄だったとしても……」
4人同時に魔法陣に乗り、ヒナが深呼吸した。
「転移!!」
周りの景色が真っ白に染まる。
そこは見渡す限り真っ白な空間だった。壁は無く、厚さ10センチほどの平べったい大理石のような巨石で出来た階段が螺旋状にはるか上空まで続いていた。
壁が無く、落ちたらひとたまりも無さそうだが……。
「見えない不思議な力が働いているみたい。落ちる心配は無さそうね」
ユキが懐からクナイを取り出し、何もない空間目掛けて投げた。
階段の縁、中空でクナイは止まり、階段の上に落ちた。
「今は落ちる心配は無いかもしれないけど、この先も同じとは限らないし、注意していこう。隊列はさっきと同じで」
「ええ、ヒナちゃん、任せてちょうだい」
ヒナとユキの言葉に、俺とクロは真剣な顔で頷く。
ここまで来て、油断して命取りになる展開はごめんだ。
……
もう3時間は階段を登り続けている。
モンスター等があらわれないのは幸いだが、一向に頂上が見えない。
見上げると上空に無数の階段が続いていた。
見下ろすと無数の階段が見えない所まで続いている。
そして、俺と手を繋ぐクロの様子がおかしくなってきた。
最初は少し歩みが遅れる程度だったが、遂には一歩も動けなくなり、ガクガク震えていた。
「クロ? 大丈夫か?」
俺がクロの肩を叩くと、そのまま、その場でへたり込んでしまい……。
「やっ!! カオル! 見ちゃダメ!!」
クロは涙を流しながら、俺の顔を見上げた。
白い大理石の上、クロが腰を下ろしている場所に黄色い水たまりが出来ていた。
クロは下半身をよじって、その水たまりを隠そうとするが、それはどんどん大きくなっていく。
クロは声をあげて泣き始めた……。
……
「クロちゃんが高い所ニガテだったなんて、意外だったよ……」
ヒナがおんぶしているクロに話しかけていた。
クロの顔は真っ赤だった。
クロはあのあと、ヒナにおんぶされた状態で2度も失禁してしまい、今では目隠しをしている。
「ユキは、平気なのか?」
「え? ……ええ、平気よ?」
心なしか、顔色がすぐれず、足元がふらついているように感じたため、俺はユキの隣に立ち、手を繋ぐ。
「無理はしないでくれよ?」
「うん……カオル、ありがとう……」
そう言ってユキは嬉しそうに笑みを浮かべた。
「ううう……カオルにオシッコ漏らすところ、見られた……」
背後から、クロの声が聞こえる。
「クロ、気にするな。ヒナなんて全然気にしてないだろ?」
「ちょっと!? お兄ちゃん、それじゃヒナがいつもオシッコ漏らしているみたいじゃん!!」
「事実だろ?」
黙ったヒナを見て、ユキが笑う。
そんなユキを見て、ヒナは顔を真っ赤にしていた。
「そういうユキちゃんだって、結構お漏らししてるよね?」
ユキも黙ってしまった。
「さぁ、進もう」
心なしか、ユキの足取りが軽くなったような気がする。
……
あれから、さらに5時間は登ったのではないだろうか?
漸く、最後の段に俺たちは立った。
「やっと……着いたね」
肩で息をしながら、ヒナがその場に座り込む。
さすがのヒナもクロを背負っての階段踏破はこたえたらしい。
ユキにも疲労の色が見える。俺の脚ももう、限界だった。
最後の段は今までの試練の間があった階と同じくらい広く、正面に巨大な扉が見える。
「クロちゃん、目隠しを取っていいよ。もう、下は見えないから」
ヒナの言葉を聞くと、クロはおそるおそる目隠しを外した。
「ヒナ、私のせいでごめん。ありがとう」
「いいよいいよ。気にしないで、クロちゃん」
ヒナは笑いながら、その場で大の字になって寝そべる。
「今日はここで泊まろう。クロ、肩を貸してくれないか? 扉だけ調べておきたいんだ。2人はここで休んでいてくれ」
「いいよ、カオルおんぶしてあげる」
クロが俺の目の前でしゃがみ込む。
悪いと思いつつも、俺の脚も限界だったため、好意に甘える事にした。
クロにおんぶされて扉に近付いた瞬間──
「あっ!?」
俺の下腹部が熱く火照り、俺はクロの背中で失禁していた……。
「これで、おあいこだね」
俺に向かって振り返ったクロは笑みを浮かべていた……。