※この作品はR-18です。

少女と花嫁(裏)   作:吉月和玖

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皆様、いつもお読みいただきありがとうございます。

今回のお話は──
「笑顔の中に入りたくて」

これまでの流れの中でも、少しだけ視点を変えた回になっています。

誰かの隣にいること。
その輪の中に入ること。

当たり前のようでいて、簡単ではない想い。

今回の話では、そんな“心の動き”を中心に描いています。

エッチな展開ではありませんが、
この先の物語に繋がる大切な一歩でもあります。

もし読み終えた後に、

「この先が気になる」
「この関係を見届けたい」

そう感じていただけましたら、お気に入り登録や評価をしていただけると、とても励みになります。

それでは、本編をお楽しみください。


148(裏)⑪.笑顔の中に入りたくて

「ほら飛鳥、起きな。着いたよ」

「ん……んん……ふわあぁぁ~……」

 

ホテルを出て、今井家別邸へ向かう車内。

最初こそ飛鳥は上機嫌で話しかけてきていたが、

流石に朝からの疲れが出たのか、途中で眠ってしまっていた。

 

「うーん……もう着いたの?」

「そうだよ。だから言ったろ、朝からはやめとけって」

 

助手席で目を擦りながらシートベルトを外す飛鳥に、軽く苦言を投げる。

けれど──

 

「だって……♡あんなの見せられて我慢しろって方が無理でしょ♡」

 

返ってきたのは、悪びれもない笑顔だった。

……ほんと、こいつは

小さく息を吐きながら、車のロックをかける。

その瞬間──

 

「和彦さん!」

 

弾むような声。

視線を上げた先には、玄関から駆けてくる五月の姿。

そしてそのまま、迷いなく胸へと飛び込んできた。

 

「ただいま、五月」

「おかえりなさい、和彦さん──」

 

顔を上げたその瞬間、自然と距離が近づく。

触れるだけのつもりだった。

なのに──

 

「んッ……ちゅっ……♡」

 

思ったより深く、繋がってしまう。

 

「……っ、ちょ、ちょっと」

 

止めるつもりが、逆に甘えられる。

 

「ちゅっ…ちゅっ…ちゅるッ…♡はぁ…れろれろッ…和彦さあぁぁん…♡好きぃぃ~…♡れろれろッ…」

 

朝から、これはまずい。

しかも──

……見られてる

視線。

憂と葵の、静かな微笑み。

飛鳥の、呆れたような気配。

 

「れろれろッ…ちゅるッ…ちゅっ…♡あんッ…むうぅぅ…何でキスを拒むのですか!?」

 

止まりそうにない五月の両肩を軽く押して、キスを拒むと、案の定頬を膨らませながら五月は見上げてきた。

 

「朝からイチャつくのは良いのだけど、私たちがいること忘れてない?」

「はっ──!!」

 

忘れてたんかい!!

飛鳥の言葉に、五月は右手で口元を隠しながら驚きの表情で、周りを見ると、恥ずかしそうに僕の胸に顔を埋めた。

可愛すぎるっ!

 

「あ、そのまま抱きしめるのなしよ、和彦」

 

行動を読まれた飛鳥に釘を刺されたので、行く場を無くした僕の両手は宙に浮いた状態である。

五月はうるっとした目で見上げている。

何とも度しがたい。

 

「流石は飛鳥さん。二人を諫めるのに適している御方。無い、とは信じておりますが、あまりに和彦様がお優しく接しられますと、校内でもイチャつく可能性もなきにしもあらず、ですからね」

「はうっ…!」

 

憂の指摘に心当りがあった様で、僕の胸で五月が反応する。

 

「ふふふ…やはり、飛鳥さんに第二夫人を任せるのは妥当でしたわね」

「「第二夫人!?」」

 

憂の閉じた扇子を顎に当てて話す言葉に、僕と飛鳥は驚きの声をあげた。

え?序列制とかあったの?

 

「まあ、その辺りのお話は朝食の準備が出来ておりますので、そこで。では、改めまして──」

「「お帰りなさいませ、旦那様」」

「──っ!!」

 

話を打ち切った憂は、葵(・)さ(・)ん(・)と(・)共(・)に(・)両手を前で揃え、凛とした姿勢の礼で頭を下げてきたのだが、憂ならともかく葵さんまで『旦那様』って──

驚き五月を見ると、すーっと視線を外された。

流石は大人な葵さん。頭を上げた後の表情は妖艶な笑みそのものである。

 

「へぇ~…五月やみんなが認めたんだ。さぞかし、お母さんや文香さんは大喜びでしょうね」

 

状況把握を早速した飛鳥は、皮肉混じりに葵さんに向かって話しかける。が──

その葵さんと隣の憂の表情が微妙であったのだ。

 

「「??」」

 

その反応に、僕と飛鳥は不思議に思ってしまう。

 

「その……確かに私(わたくし)を含め、美海さんや紬さんはお喜びになられましたよ。それはもう、涙を流す程に…ただ──」

 

そこで僕と飛鳥は多少察してしまう。

何せあの常日頃から威風堂々としている葵さんが、扇を広げて口元を隠しながら申し訳なさそうに俯いているのだ。

 

・・・・・

 

場所は移って別邸大広間。

いつものように、長テーブルを二つ並べ、中央の片方に僕が座り、それを囲むように女性陣が座って朝食を食べている。僕の右にはいつものように五月が座り、左には芹菜が正面には紬さんが座っている。

周りでは、彩里を筆頭にメイド達がピシッと立っており、おかわりなどの対応を行っている。

てか、何で女性の使用人しかいないんだよ。

 

「あははは!それはさぞかし文香さんも悔しがったでしょうね。よく納得させられたわね」

 

飛鳥が食事を取りながら笑っているのは言葉の通り、母さんのある事情の事である。

実は美海さん達が僕と体を交える事について、五月が何点か条件を提示している。

その一つに僕がその女性と体を交える事に躊躇しないかである。

まあ、これは母さん以外であっても二乃達に対しても、五月という妻がいるなかで子どもまで作る事に未だに躊躇していないかというと嘘になる。

ただ、葵さん、美海さん、紬さんの三人の事情を聞いたら、放ってはおけないというのもある種の考えでもある。

 

「しかし、それでもあの母さんを納得させるとは…流石は五月だね」

「いえ…それがちょっと違いまして……」

 

僕が五月を褒めてあげると、申し訳なさそうに俯き加減に答えた。

 

「五月が断ったまでは良かっただけどねぇ〜…あのお母さんが簡単に諦めると思う?」

「まあ…たしかに、そうね……」

「もう!大変だったんだから!文香さん以外は納得してるのにゴネまくるんだもん」

「あはは…試合での闘気を受けた時以上に大変でしたよ…」

 

なるほど。そりゃ大変だわな。実家でもゴネる母さん止めるのに家族総出だからな。

そこには、僕と父さんがいなかった訳だし…

 

「最後は結局美海さんが抑えていただきました。自分で和彦様に女として見てもらえる様に頑張ればよろしいのではと」

 

流石美海さん。母さんの思考パターンを分かってらっしゃる。

父さんの抑止役がおじさんなら、母さんの抑止役は美海さんである

そういえば──ことりの抑止役は飛鳥だな……

一家総出での抑止役って……うち大丈夫なのだろうか。

憂の言葉を聞いて、我が吉浦家は大丈夫なのだろうか心配になってき、思わず五月の頭を撫でていた。

 

「?」

 

当の五月は分からず、ニコニコと笑顔を返してきた。

 

「んっんんっ…!和彦?」

 

おっと──

 

「どうしたのよ飛鳥。和彦が五月の頭を撫でるのなんていつもの事じゃない」

「甘いわよ二乃。今の和彦、五月の頭を抱きしめようとしてたのだから」

 

何故わかる!?

飛鳥の言葉に全員の視線が向けられる…

 

「はっはっは…な…何を言ってるのかな飛鳥は……」

「和彦さん。流石に動揺し過ぎで、私でも分かりますよ」

 

左から芹菜さんの申し訳なさそうな声がかけられ、万事休す。

 

「はぁぁ…別にイチャつくな、とは言わないわ。けど、貴方。最近五月を甘やかせ過ぎよ。自重しないと、このままじゃ学校でも同じ事して、怒られるわよ」

 

ため息つきつつ、呆れ気味に飛鳥は食事を続ける。

図星なのにぐうの音も出ない。

 

「でも、よく気づいたね。今のカズヒコさんの行動パターン…」

「もう聞いたらしいから隠すつもりはないけど。これでも恋人のふりを何年も続けてきたのよ。あの人の行動パターンなんてわかるわよ」

「まあ、みんなもすぐ慣れるよ。何せ、プライベートのお兄ちゃんなんて単純だから」

 

三玖の質問に気に止めない飛鳥の言葉。それに覆いかぶせる様にことりが皮肉を続ける。

 

「あっははは…こりゃ、私たちで学校でも目を光らせとかないとね。最近の五月ちゃんってば、言葉遣いはまだしも、昔みたいに甘えん坊になりつつあるからね」

「たしかに」

「そこは同意…」

「あー……五月には悪いけどそこは私も同じかな…」

「そんなぁ~…」

 

僕の行動には、ことりや飛鳥、結愛が敏感ではあるが。五月については、流石は五つ子。他の姉妹にバレバレの様である。

 

「え、えっとぉ~…時に紬さん」

「は、はい!」

 

話題転換のためにここは紬さんに助け船を出してもらおう…

 

「紬さんのご事情も伺いました。しかし、自分で言うのも何なのですが、自分の今の立ち位置もご主人の風俗通いと何ら変わらないと思いますよ。それでも、僕と?」

 

まさか自分に話が振られるとは思はなかったのか、紬さんは驚きの顔で橋を加えてこちらを見ている。

そして、橋を御膳の上に静かに置くと、俯き加減に逆に僕に問い返してきた。

 

「和彦さんこそ良いのでしょうか。その…こんなおばさんを相手にするなんて…」

 

なるほど、僕が女性として抱くことに躊躇するなら許されないというところを気にされているのだろう。

けど──

 

「紬さんは十分にお綺麗ではないですか。勿論、美海さんや葵さんも僕には勿体ないと思えるほどの美人です。歳の事を気にされているのであれば、気にしないでください」

 

僕が紬さんをまっすぐに見ながら伝えると、ばっと顔を上げながら、ツーっと左目から涙を流していた。

美海さんに迫られた時にも思ったけど、葵さんといい紬さんといい大人の魅力が妖艶で困るくらいなんだよね。

周りが年下であったり、唯一の大人である芹菜さんも経験がないからか、そういった魅力には差を感じている。

まあ、最近はキスや本番は無いとはいえ、エッチな事をしているからか、たまに今までに見たことがない妖艶な魅力を感じる時があるんだよね。

 

ギュッ…!!

 

「いたっ…!何?二人して!?」

 

そう。僕のお腹を五月と芹菜さんの二人が両方から摘んできたのだ。

 

「別に。悪かったですね。私たちが子どもで」

「ふふふ。私の母にまで色目を使うなんて、流石に私もどうかと思います」

 

ここにいる女性陣には心を読む力の持ち主で溢れているのか…

そう思ってしまう程身震いしてしまう。

目の前の紬さんは、嬉しさと恥ずかしさに苛まれいる様で、照れた顔をしており、またそれも歳上ながら可愛く感じる。

それに、両腕でもじもじとすると大きくて放漫な旨が両腕で挟まれ、アピールしてくるのだ。

こんなの男として見過ごせないだろ。

 

「和彦さん、鼻の下伸びてるよ」

「え!?」

 

結愛の言葉に思わず鼻を左手で触ってしまう。

これって何で指摘されるとそうしてしまうのだろう…

 

「ふーん…」

「そうなんだ…」

 

三玖と二乃の言葉を皮切りに、周りからジト目の視線が向けられる。

そんな中──

 

「プッ…ふふふ…」

 

ここに来て初めて紬さんが微笑んだ。

 

「和彦さんからの質問はこういう事ですよ」

「へ?」

 

紬さんの言葉に不思議に見てしまった。他の皆も一緒である。

 

「すみません。急に」

 

そんな事を気にもせず、紬さんは流れていた涙を左指で拭いながら微笑んでいる。

 

「…確かに今の和彦さんは、最愛の奥様である五月さんがいるにも関わらず、他の女性と体の関係を持とうとしている。ましてや子どもまで…でも、今の和彦さんの周りは笑顔で溢れてます。奥様である五月さんも含めてです」

 

微笑みを崩さず、紬さんはまっすぐとした姿勢で僕達の周りを見渡している。

 

「私は昔から和彦さんのファンです。でも、私だってファンだから体を許す程プライドが低い訳ではありません。主人以外の男の人になんて考えたことありませんでした。でも…」

 

そして紬さんはもう一度僕の周りの女性達の表情を一人一人、しっかりと見て続けた。

 

「羨ましかったんです」

 

その言葉のあと、

ほんの一瞬だけ、場が静まった。

 

「最初の和彦さんと五月さんの婚姻の話の後の昼食時。あの時の娘の笑顔や他の女性達との和彦さんのやり取り。その後の試合などでの皆さんの空気を見ていたら、ああ羨ましいなって思ったんです。そこに文香さんと葵さんから話が出てきてそれに乗った、という事です」

 

一息つくかの様に、そこで紬さんがお茶を飲む。

 

「そうですか…」

 

柔らかな笑みを向けると、会ってから初めてではないかという程の清々しさが滲む笑顔を、紬さんから返された。

 

その後はいつもの様に賑やかな朝食が終わりを迎えた頃──

 

「そういえば、葵さんは玄関で挨拶したらすぐに本館に戻ったみたいだね。お仕事?」

 

食後に彩里が用意してくれたお茶を飲みながら、憂に疑問を投げかけた。

 

「お仕事。と言えばそうではありますが。現在、今井家では吉浦夫婦に立花夫婦をお呼びした身。そのようなお客様をほっとくなど、今井家として致しかねます。お母様は今井家代表として、両夫婦の朝食にご同行してらっしゃるのです」

 

僕の問いに、憂は落ち着いた様子で凛とした姿勢でお茶を飲んでいる。

 

「本来であれば、現当主であられる薫様がご同席のご予定だったのですが…生憎と仕事が立て込んでおりまして。今も出張で祖父も一緒にお出かけになられております。後、芹菜さんのお父様もですね」

「父は、現在の会社から引き抜きという形で薫さんの秘書の様な仕事につくことになりましたので。今は達郎さんの元で必死に勉強しているとか」

 

綾那の補足に、隣の芹菜さんは右人差し指を顎に当てながら上向きに話している。

 

「何でも主人はえらく薫様に気に入られたようでして…」

「あながち、二人とも女好きで気が合ったんでしょ」

「ちょっ!二乃!」

 

紬さんの説明に、二乃が皮肉を口にすると一花は慌てて注意する。

 

「良いんですよ、一花さん。ほぼ当たりですから。昨夜もお楽しみだったと達郎さんから連絡があったそうです」

 

そこに紬さんが賑やかに話すのだから、空気は一気に落ちてしまった。

 

「あ、皆さん気にしないでくださいね。それでも、前のお仕事のお給料の五倍の収入になりましたし──」

「ご、五倍ですか!?」

 

落ち着いた様子で話す紬さんの話の内容に、僕は驚きの声をあげてしまった。

 

「え、ええ。お陰で家計は大助かりですよ。私も和彦さんの空手練習のビデオ撮影でお金をもらえてますしね。そ…それに……これからは、寂しい時は和彦さんに愛していただけますし…♡」

 

僕の声に紬さんは驚きの表情でいたものの、すぐに微笑みの表情へと変わり、最後には妖艶な笑みを僕に向けていた。

人の幸せは、本当に人それぞれだ。

だからこそ──

簡単に否定なんて、できるはずもなかった。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

今回のお話は、
それぞれの“選ぶ理由”や“心の在り方”に焦点を当てた回でした。

誰かの中に入りたいと思う気持ち。
それを受け入れる側の想い。

どちらも、簡単なものではありません。

だからこそ、この一歩がどんな意味を持つのか──
この先の展開で少しずつ描いていければと思っています。

そして、この流れは次の話へと繋がっていきます。

もし今回のお話を読んで、

「続きが気になる」
「この関係の行方を見たい」

そう思っていただけましたら、お気に入り登録や評価をしていただけると嬉しいです。

皆様からの反応が、物語を続ける大きな力になっています。
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