※この作品はR-18です。

ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡   作:形のない者

12 / 30
第八話/競争

 翌日。御船真瀬は調理室で下ごしらえをしようと食堂に向かうと、そこには机の上で電子端末を開き頭を抱える古謝椎奈がいた。どうしたのかと声を掛けると、古謝椎奈は選民派ランキングでDランクに降格したことを明かす。

 

 選民派ランキングとは、主に選民派に所属するアドミラルに対して、その総合能力を判定するために設けられている評価システムのことである。AランクからEランクまでの五段階評価でアドミラルの価値を決め、Cランク以上のアドミラルを《ランカー》と呼び惑星ラメクに連れて行く。それが意味することはDランク以下のアドミラルを切り離すという、文字通りの“選民”である。なお選民に際して、選民派が勝利した時のために他派閥のアドミラルも公平に評価しているが、ランキング表を見る限りやや全人派の実力者の名前が多く、終末派の中でも実力者と呼ばれる者の名前は除外されている傾向にある。どうやら“思想”の時点でも既に“選民”は始まっているようだ。

 

 Sランクは絶対的権力者。該当者例はグレン・カーマインなど。他派閥ならカイン=ローゼンクランツの名前が記されている。ほかにもマスターアドミラルとなった者の名前が表記されているあたり、Sランクはマスターアドミラル専用の地位らしい。

 Aランクは上位アドミラル。該当者例はジャン・ランヌ、アル・ヴィルダ、本多正信など。当然といえば当然だが、選民派における実力者の名前が表記されている。

 Bランクは中位アドミラル。該当者例はビビアナ・サリニャーナ、ジジ・ヴァイオレットなど。

 Cランクは下位アドミラル。該当者例はカトリーナ・オーケルフェルト、クレーメンス・オーケルフェルト、ステラ・パレットなど。ステラに至っては今回の“副提督”としての実力が評価されたのか前日までDランクだった地位から急激に昇格していた。

 Dランクは途上アドミラル。該当者例はエドガー・フェザーストン、アレックス・ベーレンズ、古謝椎奈、ヴィエナ・アウッティなど。

 Eランクは切捨アドミラル。該当者例は桃原咲亜矢、エルシェ・リオハス、ニコラ・ハドソン、フロラ・パッソーニなど。

 

 また、こういったランキング制度がある理由の一つとして、強者におもねる弱者の存在を切り捨てる効果が期待されている。選民派は強い。故に多くのアドミラルはこう思う。選(・)民(・)派(・)に(・)入(・)っ(・)て(・)い(・)れ(・)ば(・)自(・)分(・)と(・)そ(・)の(・)周(・)り(・)に(・)い(・)る(・)人(・)だ(・)け(・)は(・)生(・)き(・)残(・)れ(・)る(・)か(・)も(・)知(・)れ(・)な(・)い(・)。選民派代表シェーラ・カーマインは、そういった小(・)賢(・)し(・)く(・)生(・)き(・)延(・)び(・)よ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)弱(・)者(・)を切り捨てるために誤(・)魔(・)化(・)し(・)が(・)効(・)か(・)な(・)い(・)ラ(・)ン(・)キ(・)ン(・)グ(・)制(・)度(・)を導入した。無論、姑息な生存戦略で生き延びることができたのなら、それは弱者の中の強者である。そういった者はCランク辺りに入れておくのが妥当だろう。圧倒的な実力がなくとも知恵を凝らして生存を勝ち取る。それもまた強者なれば。だがあまりにもそういった輩が多いため、ある程度は“選民”しなければならない。それゆえのランキング制度である。

 

 古謝椎奈は語る。ランクの更新は選民派代表シェーラ・カーマインが所有する高性能AIによって全ての継承戦における海戦が監視されており、一度の海戦による勝敗の善し悪しで評価される。その勝利の仕方が良ければポイントが貯まり、その敗北の仕方が悪ければポイントが減少する。そして一定のポイントが貯まりきればランクが上がり昇格、減りすぎればランクが下がり降格する仕組み。そのため選民派は、たとえ同じ派閥の艦隊でも率先して戦い勝利を収めてポイントを稼ごうとするのだという。継承戦の形式上、最後は同じ派閥でも雌雄を決する必要があるとは言え、選民派同士で切磋琢磨と戦い合うのはランキングによる後押しがあったからだと分かる。

 

 そして古謝椎奈は、ビビアナ艦隊・撤退戦でも御船艦隊との決戦でも、大した活躍もなく敗戦したためポイントが減少し降格処分を受けた。これに彼女はあははと笑い「前回の継承戦でコツコツ貯めた分がパァになっちゃった」と無理な笑みを作る。そこで御船真瀬が言った。「それなら取り返せばいい。選民派は実力主義だ。このまま俺たち御船艦隊が勝ち進んでいけば、たとえ全人派の艦隊でも正当に評価する。それが選民派なんだろう? それならこれから勝っていけばいい。だから一緒に頑張ろう」────その言葉に瞠目した古謝椎奈は「君には敵わないなぁ」とうなじを掻いて少し泣きそうな笑みを見せた。

 

 古謝椎奈は思う。もしかしたら御船真瀬は、選民派ランキングの存在を知っていたから、あのとき古謝艦隊に停戦交渉を持ちかけてきたのかもしれない。実は選民派ランキングは、同じ選民派に負けた時よりも、全人派や終末派に負けた時のポイントの減り方が大きいのだ。それは勝利した時も同様で、選民派に勝った時よりも、全人派や終末派に勝った時のポイントの増え方が大きいのである。そのため古謝椎奈は、あのとき御船艦隊がジジ艦隊とエドガー艦隊を倒して消耗していたとはいえ、万が一にも負けた場合のことを考えた。そして大幅なポイントの減少を抑えるため、停戦交渉を受け入れてジジ艦隊と戦うことにした。もちろん負ける気はなかった。下手な負け方をすればポイントがさらに減少するからだ。しかし敗北は必至。その後、ジジ艦隊に吸収された状態で御船艦隊に勝利すれば、ジジ艦隊に負けた分を取り返せると判断していたのも一側面としては存在する。

 

(まぁその予想も当てが外れて、御船艦隊と共闘する流れになったけど……あれはさすがに驚いたな。ポイントを優先するなら御船艦隊をあの場で裏切るような形で倒すこともできた。でも……やっぱり人情には人情で応えたくなっちゃうよね。困ったなぁ……。一時の感情に流されてDランクに降格処分……これじゃあ島のみんなに合わせる顔がないよ……)

 

 はたして御船真瀬は本当に、古謝椎奈がCランクであることを知っていて、その心理を巧みに突いてきたのか。古謝椎奈は少し怖くて聞けない。それにこれは、さすがに過大評価が過ぎる。そのとき御船真瀬が聞いてきた。好きな料理は何かと。どうやらお人好しで有名な彼は、落ち込んでいる自分に料理を振る舞ってくれるらしい。とことん、義理人情に篤い男である。

 

 御船真瀬は、古謝椎奈の好物であるイチゴ味のかき氷を振る舞う。そこに桃原咲亜矢がやってきてソフトクリームを注文する。古謝椎奈と桃原咲亜矢はかき氷とソフトクリームどちらが美味いか言い争いをしながら、その美味しさに舌鼓を打った。そこで御船真瀬は選民派ランキングを確認したいと言って情報端末を借りる。

 

 御船真瀬は“ルナ・ティンデル”の名前を検索。彼女は現在Dランク。ポイントが貯まっているため、このまま行けばCランクに昇格するだろう。いや、彼女の執念なら短期間でBランクに駆け上がることも夢じゃない。

 ほかにも仲間の名前を検索する。

 ルチア・オリーヴェはEランク。しかし料理人としてはCランクなので、アドミラルではなく料理人として腕を鍛えるなら惑星ラメクに行けるだろう。

 モニカ・ランドールはEランク。しかし整備士としてはAランクなので整備士としてなら確実に惑星ラメクに行ける。

 藤本さちはEランク。諜報員としてもDランクであるため惑星ラメクに行けない可能性が高い。

 茅森漣はEランク。まだ子供なのもあり、ほかに取り柄もないので切り捨てられる可能性が高い。

 そして槐新はBランク。思想項目に関しては継承戦直前に終末派へ鞍替えしたことから未知数のため保留されている。

 

 それから御船真瀬は友人の海月結衣やシャーロット・ソールズベリーの名前を検索しようと思ったが、ふと気分が悪くなって端末を置いた。危うく投げつけるところだった端末を最後の我慢で抑えを効かせた御船真瀬は、やはり選民派は間違っていると思うようになる。能力のある者を重宝するのは当然だ。しかし能力の無い者を助けもせず切り捨てるのは────うまく言えないが、それは違う。もし選民派が勝利すれば、少なくとも藤本さちと茅森漣は惑星ノアに置いていかれる。その先に待つのは死だ。みんな大切な仲間。そういった感情も殺して選民した先の未来は本当に明るいのか。選民派代表シェーラ・カーマインは演説で言った。世の不条理を打ち壊すために一度世界のルールを変える必要があると。たしかにそれで何かが変わり、悪かったものが良くなることもあるだろう。だが、御船真瀬はその世界に身を置きたくないと強く思う。不意にノア=ローゼンクランツの笑顔が脳裏をよぎる。家族のように大切な少女の存在。もし彼女を惑星ノアに置き去りにするような事態になったら────御船真瀬は嫌な気分になり胃がムカムカする。

 

 一応、選民派は実力者として認められたアドミラルに指名権を与え、その家族や友人を連れて行くくらいの“温情はある”と言っている。それならカイン=ローゼンクランツがSランクに選ばれているので、彼が最愛の妹のノアを指名しないわけがない。少なくともノアは助かるはずだ。それでも、もしノアと似たような子がいて、その子にカインのような頼れる人や自分を助けてくれる人がいなければ────? 御船真瀬の脳裏によぎるは終末派のアドミラルたる辰宮乙姫の歪んだ顔。全てに絶望した者が漂流する場所が終末派……それで言うなら、家族を失った自分も終末派に行っていた可能性が高い。でもそんな自分をノアやカインは助けてくれた。人は助け合うことで成長できる。それを選民派は否定している。だから全人派は終末派も見捨てず、見殺しにせず、命を懸けて救いたい。

 

 全人派、選民派、終末派。どちらが正しいのかは分からない。それでも御船真瀬は、料理の匂いに釣られて食堂に集まってきた仲間たちを見て、み(・)ん(・)な(・)で(・)料理を食べた方がやっぱり美味しいと思った。理由なんてそれだけだ。大した義も語れず、大きな目的もないけれど……み(・)ん(・)な(・)で(・)生(・)き(・)た(・)い(・)……たったそれだけの理由で全人派として戦う意義はあると改めて思い直す。

 

 御船真瀬は端末を返し、考える機会を与えてくれてありがとうと礼を言う。これからも悩む時はあるだろう。迷う時もあるだろう。それでも御船真瀬は最善を尽くして勝利を掴むことを誓う。誰も死なせない。それを実現させるためには、いったいどれだけの覚悟が必要なのかと、漠然に思いながら。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。