ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡 作:形のない者
御船艦隊の食堂では一日に一回、好きな食べ物をリクエストすることができる。基本的に順番制だが、ジジやビビアナ、茅森漣やエドガーは“今日これが食べたい”という理由で対決。その決着を付けるため、モニカの提案でフラッグレースをすることに。フラッグレースとは演習の一環であり、バトルアークに乗ってフラッグ目掛けて海上を疾駆し、どちらのチームが先にフラッグを奪取するかを競うゲームである。フラッグの周囲はバトルアーク進入禁止エリアが有り、つまりそこからは水泳勝負となる。水泳に自信のあるジジ・ヴァイオレットは勝利を確信するが、このゲームは一人では勝てない。三人でチームを組んで戦術を練り戦う必要がある。ゲームといえど演習の一環。仲間との連携がカギを握る。そこでジジは仲間に頼るという行動に慣れていなかったのか、ステラやヴィエナを誘うことができなかった。誘う直前まで言っても声をかけることができず、理由は迷惑かもと考えていたからであった。そんな不器用なジジを見かねてステラとヴィエナは自ら手伝うと声をかける。ジジは本当に良いのかと聞くと、二人は仲間だからと返した。
そして始まるフラッグレース。トーナメント制で進むゲームは白熱を見せていき、決勝戦ではジジ艦隊とエドガー艦隊が残る。ジジは御船真瀬を通して仲間を信じることの強さを学び取り、二人にエドガーの相手を任せて自らは撃破されたバトルアークから海に飛び込み長距離水泳を開始。それを悟られないようステラは見事な指揮でヴィエナと共に戦い、エドガー艦隊にジジの存在を悟らせない。やがてエドガー艦隊がジジの姿を見つけた時には全てが遅かった。バトルアークが戦う海の横を泳ぐのは危険行為だがルール違反ではない。きちんと安全を取って迂回し、ステラも敵砲撃の射線を常に意識していたので、流れ弾に晒されることもなかった。エドガー艦隊の裏を掻いたジジ・ヴァイオレットは得意の水泳でフラッグを手に取り、ゲーム終了。今晩の献立はジジ・ヴァイオレットの大好物であるハンバーグに決まった。
夜の食堂。大好きなハンバーグを一枚も二枚も三枚も食べるジジ・ヴァイオレットは、御船真瀬の作るハンバーグは今まで食べたどのハンバーグより絶品だと語る。そしてぼそりとお礼を言った。御船真瀬はお礼の意味を図り損ね、今回はジジが自分の力で勝ち取ったハンバーグなんだからお礼を言う必要はないと言うが、ジジはそうではないと目を見据える。ジジは仲間との信頼について語る。今回は自分の意見を押し通さず、ステラやヴィエナの意見を聞いて反映した結果、勝利できた。もちろんステラやヴィエナの意見が間違っていたら結果は違っていた。それでも二人の意見を参考にすると決めて最後に判断を下したのは自分自身。たとえ失敗しても二人に落ち度はない。その上でジジは仲間を信じることの難しさを語る。今までは総提督としての責任ゆえ自分が引っ張る必要があると思い、確固たる信念で正しい道を歩んでいるものと思っていた。しかし時には他者の意見を聞かねば、以前のように御船艦隊に敗北することが分かった。そこで御船真瀬は「俺だって何が正解なのかは結果が出るまで分からない」と言い、あまり考えすぎるものではないとジジに言う。ジジはうまく言えないが、それでも御船真瀬の“仲間を信じるということ”について少しだけ分かった気がすると語る。それに少し嬉しそうな顔をした御船真瀬は「ハンバーグ。おかわりするか?」と問いかける。それに頷いたジジ・ヴァイオレットは、ハンバーグは別腹と言わんばかりに極上のハンバーグを食べ尽くした。
そして御船真瀬は提案する。そういえば明日からテスト期間がある。もしテストに備えて予習したいのなら総提督室に来るといい。また勉強を教える。それにやる気を促すためジジの大好きなハンバーグも用意しておくよ。テストの成績が良かったらお祝いのハンバーグも用意する。もちろんただのハンバーグじゃない。どれも違う味付けをしたハンバーグだ。その提案に釣られたジジ・ヴァイオレットは仕方なしと言いたげに承諾する。決してハンバーグが目当てなわけではないが、そこまで言うならハンバーグを食べるため予習して、テストで高成績をおさめてハンバーグを食べてやろうと。
§
後日、ジジ・ヴァイオレットは百点の答案用紙を持って総提督室の戸を叩こうとした。しかしすんでのところで異様な感情に気付く。なぜ自分はこんなにウキウキで御船真瀬に会おうとしているのかと。無論それはハンバーグを食べるためである。そのためにはテストで高成績をおさめたことを知らせる必要があり、その証拠として答案用紙を見せる必要があるだけ。だが今の自分は明らかに“御船真瀬に褒めてもらう”ということのために総提督室の戸を叩こうとしていたことに気付いて困惑する。もちろん“ハンバーグを振舞ってもらうため”という気持ちもあるが、そのことが今の今まで頭からすっぽり抜け落ちていたことは事実。これはどういうことなのだろうと理屈屋のジジは考え込む。そこで総提督室の中から話し声が聞こえてきた。話題の内容は不明だが声からして御船真瀬とステラ・パレットだ。最近ステラは頻繁に総提督室に出入りしている。副提督として総提督と共に戦術を練る必要があるのだろうが、どうにもそれだけではない気がする。────それはなぜ? 考えても分からない。そんなジジの背後に白い少女が立った。
「どうしたの? マスターの部屋に入らないの?」そんなファルファラの一言で肩を飛び上がらせたジジは、驚かせないでくださいと注意する。淡々と謝罪するファルファラ。でも何が悪かったのか分からないという。とにかく背後からいきなり声を掛けるのはやめるよう言うと、理由が判明してファルファラは納得した。彼女は少女型アンドロイド。外見は作り物なだけあって女性でも見とれるほど華奢にして美麗。いわゆる美少女という部類に入るタイプの人間だ。いやアンドロイドだ。否、どちらでも構わない。ファルファラに用件を問われたジジは答案用紙の件を告げることが恥ずかしく思い、その場から逃げるように立ち去ろうとする。そこで総提督室の扉が開き、中から御船真瀬が出てきた。部屋の前で話し声がしたから誰か確かめようと出てきたらしい。御船真瀬に声を掛けられて逃げるチャンスを逃したジジは、ファルファラの「彼女はマスターに用事があるみたい」と言ったせいでさらに逃げ口上をなくしてしまう。そうして総提督室に通されたジジは、ファルファラとステラの前で答案用紙を御船真瀬に渡すという屈辱を味わった。
「どの教科も百点満点……すごいじゃないか、ジジ! 教えた俺も鼻が高いよ。よく頑張ったね」その褒め言葉に満更でもないジジ。ファルファラも「ジジはアンドロイド? ミスのない人間は珍しい。誰しもミスはある。それでもジジは全問正解した。これはすごいこと」と、少々発言はズレているような気はするが褒められた。加えてステラも「やったねジジ!」と褒めてくれる。あまりにも褒められすぎて有頂天になる反面、一気に冷静になったジジは謙虚に振る舞う。「私は要領が悪いので、全ては総提督のおかげです」その発言に疑問を持った御船真瀬とファルファラに対し、ジジのことをよく知るステラが説明する。ジジは本当に要領が悪く、物事を直ぐに覚えられない意外な弱点があった。だが同時にジジの努力家な一面がその弱点を克服することも多かった。バトルアークの操艦能力も最初は才能の見込みなしと言われていたが、実際は陰でひたすら練習していたからこその実力であることをステラは自慢げに語る。言ってしまえばビビアナが天才型だとしたら、ジジは秀才型だ。最初はドべでも努力で一位になる。それができる努力の天才……などとジジの良いところを列挙する中で、当人が恥ずかしくなってきたのかステラに黙るよう命令する。そして今の話を聞いた御船真瀬は納得した。「ジジが頑張り屋さんなのはなんとなく分かっていたけど、今ようやく理解できた気がするよ。勉強もバトルアークでも一位になりたかったのか」……選民派では一番になれなければ意味がない。そう教わったからこその努力であるとジジは謙虚に語る。そこでファルファラが言った。「ジジはすごい。でもステラもすごいね」「え、わたし?」驚くステラ。なぜならステラはジジの頑張りを見ていた。それを知ってもらえるのは、きっと嬉しいことだと思うから────それに同感したジジは、やや気恥ずかしそうに、改めて、ステラに面と向かって感謝を告げる。「それなら今の言葉、ヴィエナにも言わないとね!」そんなステラの笑顔にほころんだジジは「はい」とだけ返す。
そしてジジが高成績をおさめたということは、即ちお祝いハンバーグの時間である。御船真瀬は総提督室の奥にあるキッチンルームで作ってくると言い、ファルファラもそのお手伝いのため付いていく。せっかくだからステラも一緒に食べることになり、ジジ含め二人はソファルームで待機することに。しばらくの無言空間。不意にジジが問いかける。ステラは総提督室で何をしていたのか。ステラは世間話と答えるが、ジジは疑問を持つ。副提督として戦術を練っているのでは? ステラが言うには戦術会議、否、戦術講座は当然存在するが何もそればかりではない。ただ御船真瀬と一緒に過ごす時間が暖かくて楽しいのだと話す。それにはジジも同意せざるを得なかった。家庭教師のように振る舞う御船真瀬から教えを受ける中で、糖分は頭の回転に良いからと休憩時間はお菓子を振る舞われ、紅茶は絶品で、特に世間話はしなかったが悪くない時間を過ごした気がする。今回だって全教科百点満点が嬉しくて、つい御船真瀬の所へ走ってしまっていた。ふとそのことを口に出してしまったジジは「な、なんでもありません。い、今のは流してください……」と赤面する。しかしステラは流さなかった。その赤面も見逃さなかった。ステラは親友に対し軽く意地悪するようににやけながら畳み掛ける。なぜ流す必要があるのか。ジジは御船真瀬のことをお兄ちゃんのように慕っているのでは? 仲がいいことは良いことだ。ジジはうかがう。「そ、そうでしょうか……? 彼が兄のよう、というのは違和感がありますが……たしかに彼は年上ですが、私は妹になったつもりはありません」……ではどういう気持ちで御船真瀬を見ているのか。ステラは乙女の心境へ攻め込むように問いかけた。それにすぐさま答えられなかったジジは頭がパンクしそうになる。御船真瀬のことをどう思っているか。ただの総提督だ。それ以外に答えはない。だがなぜか言えなかった。理由は不明。ただ
そこに救世主ハンバーグの匂いが漂ってくる。御船真瀬とファルファラの特製お祝いハンバーグ。それを頬張った四人は同じように頬を膨らませて至福のひとときを共にした。
§
お祝いハンバーグ会を終えたジジとステラは廊下を歩いて帰路に就く。そこでクレーメンス・オーケルフェルトとすれ違い、軽く会釈して挨拶を交わした。クレーメンスは用事があるのか会釈を返してどこかへ赴く。そこでジジがステラに問いかけた。
「そういえばステラは、あのクレーメンスというアドミラルと戦って倒したと記録にありましたが……その話、まだ詳しくは聞いていませんでしたね」
ジジはクレーメンスとの戦いを聞きたがる。それについてステラも語りたいと思っていたのか、良い機会だと思って語り始めた。
「実はね。私がクレーメンスさんに勝てたのは、ジジのおかげなんだ」
そう言うとジジは「私は何もしてません」と返すが、それでもステラはジジをお手本にしたから勝てたと断言する。ジジは誰よりも責任感が強い。そのせいで他人の意見を聞かないきらいがあるけど、それは自分を強く信じているからそうなっちゃっているだけだと話す。本当は周りの人をよく見ており、総提督としての務めを果たしていた。あるときステラが訓練生として家族と離れて暮らす中、夜の海を見つめて寂しがっている時にジジはわざわざ気を遣って声を掛けてくれた。そのときジジは「ホームシック等で落ち込んだ顔をしている部下は何人か見ていますので察しはつきます。そういう時は寂しい現状ばかりを考えるのではなく、惑星ラメクで家族と平穏に暮らしている未来を見据えましょう。過去ばかり見ていても仕方がないですから」と助言してくれた。そこでステラはジジのことを誤解していたことに気付いた。誰の意見も聞かず自らの決断を優先して戦っていたのは、何も身勝手だったからではなく、小五にして総提督としての務めを果たそうとしていたが故の勇猛であり、誰の意見も聞かないのは自らの芯をぶらさないため。そして自らの決断を優先していたのは、それは優先ではなく自らの決断を信じていたため。それもこれも部下に勝利を捧げるために……そんな責任感が彼女に強さをもたらし、突き動かし、されどある意味では追い詰めていたのかもしれないと。
ともかくジジ・ヴァイオレットという少女は、こうと決めたらとことん行く。普通なら誰かに意見されたら迷いが出てくる。自分の決断が正しいのか不安になってくる。その対処法として自分を信じる強さをジジは修得した。その強さを知ったからこそ、ステラは副提督としてクレーメンスと戦っていた時、何度も自分の作戦は通用するのかと悩み迷ったが、継承戦では一瞬の迷いが命取り。そのたびジジのことを思い出して勇猛果断に実行した。つまりジジを参考にしたおかげでクレーメンス・オーケルフェルトの石兵八陣を攻略することができたのだ。そう語る。それに対してジジは「こうと決めたらとことん行くせいで、仲間の意見を信じることができず、間違いに気付かぬまま御船艦隊に負けましたが……まぁ、そんな自分が反面教師になったのなら良いことです。多少は自分の失態が報われました」と話す。何も終わったことでそこまで自省しなくても……とステラは思ったが、そういったことに気付いて反省できるのもジジの強さであることを口にした。加えて「それを言うならジジの決断を修正できるだけの意見を言えなかった自分にも落ち度はある」と話す。そうして二人は互いの良いところを褒め合い、かつ互いの悪いところについては反省会を開きつつ、よく語り合うことで
「なんか、今の私たちなら、あの時の御船艦隊に勝てそうだよね」
「そうですね。私の決断力とステラの頭脳があれば、ヴィエナの経験豊富な冷静さも相まって相乗効果は抜群です。まぁ御船艦隊に負けた今、ジジ艦隊のことを話しても無意味です。なにより私たちにこんな成長をもたらしてくれたのは、ジジ艦隊を倒したその御船真瀬というお人好しなんですから、やはり無意味な想定です」
「あはは。たしかに! だったらやっぱり、真瀬さんには感謝しないとね!」
廊下にて二つの笑い声が響き渡る。それも収まった頃ジジが質問した。
「ところでステラはいつから御船総提督のことを名前で呼ぶようになったのですか?」
「え? えーっと……副提督に任命されて、戦術について教えてもらえるようになった時くらいかな……?」
「どちらから名前呼びを勧めたんですか?」
「私の方から勝手に呼び始めたよ?」
「か、勝手にですか……以前から思っていましたが、ステラは年上に物怖じしませんよね……」
「ジジは年功序列とか結構気にするもんね~。おかげで最初は私やヴィエナにあまり心を開いてくれなかったし」
「あ、あれは心を開くというかなんというか、距離感を測りかねていただけであって……!」
「あはは! わかってるわかってる! 気を遣ってくれてたんだよね? でもそれが逆に傷つけることにも気付いた。そんなジジが大好きだよ!」
「だ……!? す、ステラ……もしかしてからかっていますか!?」
「えへへ。ごめんなさい、ちょっと意地悪しちゃったっ」
ステラは気恥ずかしくなったのか走って逃げる。それを怒って追い掛けるジジ。その後も二人は深夜になるまで一緒にいた。話すことが尽き、特に語ることがなくても。共に在ることが心地よいということに、ジジもステラも気付いたから。