ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡 作:形のない者
それはある日の総提督室。ジジは御船真瀬の下に来ていた。理由はジジが詳しく聞きたい話があってのこと。かつてジジは御船真瀬に問いかけた。なぜそこまで盲目的に仲間を信じるのかと。それに対し御船真瀬は答えた。
「以前なんの保証もないのに全幅の信頼を寄せられたことがある。そのとき不思議と思ったんだ。
その話を聞くため訪問していた。御船真瀬は昔の話をするのはあまりしたことがないからなんだか居心地が悪くて恥ずかしいと言いながら、こほんと咳払いして真剣に語る。それは第一回継承戦のこと。選民派の大艦隊を率いる“総提督”グレン・カーマインとの最終決戦の時。突如として“総提督”カイン=ローゼンクランツから“参謀”に任命された御船真瀬は、その信頼に応えたいと思った結果、なんとか期待に応えられた経緯を持つ。ジジに問われた時は、それゆえの発言だった。仲間への信頼は力になる。それにはまず信頼に応えたいと思う気持ちが必要だが、それはみんなの心の中に存在する。程度の差はあれ誰しも信じてもらうことは嬉しいはずだ。もちろん根拠のない信頼は重荷になって苦しい時もある。でもその苦しさと向き合い戦うからこそ人は強くなれると信じている。実際、茅森漣は命令違反を犯した上で大失敗を犯したのに、それでも御船真瀬から信頼されて何故と考え重荷に思ったことだろう。下手をしたら自信を喪失して潰れていたかもしれない。でも茅森漣にはあの状況から立ち直る根性があった。御船真瀬からの信頼に応えなければと決断し、苦しい思いをしてまで試行錯誤をやめず、結果クレーメンスとの戦いでは“副官”ステラを守り抜いた。これは茅森漣にとって大きな成長となったことだろう。
つまり仲間への信頼は試練なのか。そう問いかけるジジに「試練を与えるのが本命じゃない。言葉だけでなく態度の上でも“信頼している”という気持ちを確実に伝えるのが大事なんだ。けど君の言う通り試練の一面があるのは事実だと思う」と返す。その話を聞いたジジは「参考になりました。ありがとうございます」と言って席を立つ。
「はぁ~いい湯だった」
そこで驚くべき出来事が起きた。総提督室のバスルームにつながる室内廊下からステラ・パレットが現れたのだ。制服は着ているが肩からは湯気が立ちタオルを首に巻いている。明らかに風呂上がりのそれを見たジジは一瞬硬直する。「す、ステラ!?」「あ、ジジ」特に悪びれもなくジジの名を呼んだステラ。とにかく動揺するジジは説明を求める。なぜステラが御船真瀬の部屋で風呂上がり状態なのか。風呂に入りたいのなら自分の部屋のシャワールームを使えばいいのに。浴槽に入りたいのなら専用のバスルームに行けばいいのに。そもそも男女が同じ部屋で風呂とはいったいどういう了見なのか。ジジの質問攻めは止まらない。それに驚いた御船真瀬とステラは落ち着くよう言い聞かせるがジジの混乱は止まらない。御船真瀬とステラが説明する余裕もない。取り付く島もない。
「上がりました~」
「いや~あったまった!」
「やっぱ天然はいいねぇ」
「はい。最高です」
そこで更なる珍事が起きた。ステラが現れた廊下からルチア・オリーヴェと藤本さち、モニカ・ランドールとヴィエナ・アウッティが出てきたのだ。これにはジジも硬直を超えて放心する。そしてようやくジジが静まったところで御船真瀬が説明に入る。
「みんな露天風呂に入っていただけだよ。このドックでは総提督室のバスルームが外の露天風呂と繋がっているんだ。俺も初めて風呂に入ろうとした時は、そのあまりの広さに驚いたよ。近くに火山があるから、地元の人がそこから引いてきたみたいなんだ」
モニカが言う。「そうなんだよ。真瀬だけずるいよね! ほかのアドミラルはシャワールームだけだし、男女別に分かれているバスルームでさえここまで広くないよ!」
藤本が言う。「独り占めずるーい!」
「それを俺に言われてもな……このドックは貸してもらったもので、俺のものではないんだし……。まぁそういうわけで、最初は女性陣が一番風呂に入ることになったんだ。あれ、ジジは聞いていなかったのか?」
そこでジジは思い出した。そういえば先刻、自室で勉強中にビビアナが訪ねてきたが、勉強に集中したいので追い払ってしまった。そのときビビアナから「みんなで露天風呂に入るんだって! ジジも絶対来てね! ジジ来ないとビビ入らないからね!」と言われたような気がする。それを今の今まで忘れていた。そしてジジはとんでもない勘違いをした自分を恥じて御船真瀬とステラに謝罪する。そのままビビアナを誘ってくると言って赤ら顔のまま飛び出してしまった。皆からは事情を問われる。だがそこはジジの名誉のためにも黙っておいた方が良いと判断し、互いにアイコンタクトで黙秘権を同時行使した御船真瀬とステラだった。