ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡 作:形のない者
それはある日のこと。御船真瀬は真面目な話があると伝えてエドガー・フェザーストンを総提督室に召喚した。結論から内容を告げる。エドガー・フェザーストンの中型艦フルンベルを改造しても良いか。その質問に驚いたエドガーはしばし悩む。なお回答期限は明日の早朝まで。考える時間が短くて済まないが、改造となると時間が掛かるため、次のセクターに移るまでの時間を考えるなら、明日が限界だという。エドガーは質問した。「それは勝利に必要なのか?」「……絶対とは言えない」「そうか……」しかし実を言うとエドガーの心は決まっていた。彼は今まで自らの師となる人物を探していた。そして、女性にだらしなく不甲斐ない所はありつつも戦術眼という点に置いては素晴らしい才能を秘めている御船真瀬に対して、エドガーは改造を許す代わり或る条件を告げる。
「承知した。フルンベルの改造を許す。ただしその代わり御船真瀬には私の師になってほしい」
「えっ?」
「私は貴方に対して謙虚に教えを請いたいことがある。それというのも、この書物を読んでくれ」
エドガーは古代兵法書・断章(その弐)を手渡す。
「これは……!」
「やはり知っていたか。さすがは総提督どのだ。結論から言えば、私はこの古代兵法書を持て余している。フェザーストン家の者としては恥ずべきことだが、いわゆる宝の持ち腐れという状態にある。そこで、私に足りない戦略的思想の部分を解決するため、総提督どのには私に戦術を教えてもらいたい。私はもっと強く在らなければならないのだ」
「……それは、なんのために?」
「無論のこと、我が屋敷に住まう人々を守り、我が家族も同然であるニコラ・ハドソンとフロラ・パッソーニの皆を、惑星ラメクに連れて行くためである! つまりこのエドガー・フェザーストンは、大切な人を命を懸けて守るために、今よりもっと強くなる必要があるのだ!」
その覚悟は真剣そのものだった。無意識にスキル・カリスマを発動していたのか、エドガー・フェザーストンの周囲には真紅のオーラが帯びていた。それに気圧された御船真瀬は、エドガーの中に眠る獅子の如き才能の片鱗を垣間見た気がした。
「……そうか。分かった。実は俺もエドガーとは、これからの継承戦を勝ち残るためにも、戦術について話をしたいと思っていたところなんだ」
「なんと。それは、つまり……」
「あぁ。俺から見たら、エドガーは可能性の塊だと思う。宝石の原石と言い換えてもいいかな。それを磨いたらどんな輝きが出るのだろうと思うのは、何もおかしな話じゃないだろう?」
「っ……しかし、私は選民派だぞ?」
「でも今は同じ御船艦隊の仲間だろう?」
そんな御船真瀬の言葉に、エドガー・フェザーストンは自らの視野が今まで狭く、なんと世間を知らなかったのかと反省した。
「総提督どの……っ。すまない、私は今ここで謝罪する。私は今まで全人派や終末派には愚か者しか居ないと思っていた。かたや理想論者、かたや妄想に取り憑かれた愚民……それは事実ではあるがあくまで全体像を見た時の話。全人派や終末派の中には、総提督どののような一廉の人物が居ることが分かり、私は視野が広がった。御船艦隊に敗北を期する時に、自らの視野の狭さに気付いたのだ」
「……そうだったのか。それじゃあエドガーは、今まで人を誤解していた分、人を見極める力を身に付けるといいんじゃないかな。偉そうな助言だけど」
「いや! 総提督どのは私より周りが見えている。派閥で人を見るのではなく、個人の心を知ろうといつも動いている。先日は痴情のもつれがあったようでうまくいかないこともあるようだが……それでも私は連日の総提督どのの働きを見て、貴方が人のために動ける人物であることを知っている。言ってしまえば人間性と能力性は、こうもハッキリと区別できるのかと驚いたくらいだ」
それは半ば褒めているようで、半ばけなしている発言でもあった。しかし事実を言われたに過ぎないので御船真瀬は彼の素直な感想を率直に受け止める。そして話を続けた。
「それではエドガー・フェザーストン。フルンベルの改造の条件として、君には戦術を教えよう。だけどフルンベルを何に改造するのか、君はまだ聞いていない」
「あ、あぁ……具体的に、どんな風に改造するんだ?」
「────砲塔を狙撃用に換装する。つまりエドガー。君には“狙撃手”の役割に転向してもらう」
それに目を見張ったエドガーは、しかし自らの操艦能力はお世辞にも高いとは言えず、フルンベルの高火力は元より技量の低さを補うために用意したものだと忸怩たる思いで告白する。十発撃てば二発当たる。そんな技量ゆえ、一発当たれば一撃で仕留められる火力を求めたがゆえに、フルンベルに行き着いた経緯を語った。
「なに。今は下手でも、後で上手になればいい。そのためにも狙撃の訓練を積んで欲しいが、残念ながらうちの艦隊には狙撃の心得を知る者がいない。だから狙撃手を艦隊に吸収するまでは独力で学んでもらう必要がある。既に狙撃用の中型艦は別途用意してあるから、しばらくはそれで練習してほしい」
「承知した! 総提督どのの仰せとあらば全力でやるまで! このエドガー・フェザーストン、家の名に懸けて総提督どのの期待に必ずや応えて見せよう!」
かくしてエドガー・フェザーストンは“砲撃手”から“狙撃手”に転向するため、その日から演習場で毎日のように長時間の狙撃訓練を積み重ねていった。その結果、彼の上達に向かう心が脳波に影響して、第二スキルの開花が時を待っていることは、未だ誰も知らなかった……。
§
それから休戦日が終わるまで、各々の動向を書き記す。
ファルファラは、副官としての務めを果たすため御船真瀬の戦術講座を受けていた。
ニコラ・ハドソンは、主あるエドガー・フェザーストンが狙撃手に転向すると聞いて、自らは狙撃手の狙撃を補佐する
フロラ・パッソーニは、あるとき御船真瀬から「子供の世話はできるか」と聞かれ、エドガー坊ちゃんに仕えた経験を活かせばそれなりにはと答えたが、なぜそんなことを聞かれたのか理由は聞けずじまいだった。
古謝椎奈は、御船真瀬に宣言する。ビビアナ艦隊との戦いの折、御船艦隊は派閥が違うのに援軍として助けてくれた。それは御船真瀬が全人派として全ての人を救おうと本気で考えているからこそ出来る勇気であると悟った。そんな御船真瀬のアドミラルとしての気高さと能力を見習って、自分も誰かを助けられるようなアドミラルになりたいと誓う。その話を聞いた御船真瀬は、古謝椎奈の中型艦を防御に特化した護衛艦に改造するのも良いと発想した。
ビビアナ・サリニャーナは、すぐに優しくて美味しいご飯を作ってくれる御船真瀬に懐いたものの、その無邪気さが御船真瀬の琴線には触れなかったのか、かつての痴情のもつれのような事態に巻き込まれることはなく、天真爛漫に日々を過ごしていた。そんなある日、御船真瀬から、よくわからないことを言われる。「身内びいきのようになってしまうが、ビビアナは強くて頼れる女の子だから、これからは漣のことをよろしく頼む」と。ビビアナは特に茅森漣と接点はないため、どういう意味かと考えるが、すぐに別のことに興味が向かったビビアナは、特に深く考えることはなかった。
アレックス・ベーレンズは、休戦日の間ずっと茅森漣に喧嘩を売られて演習に付き合っていた。アレックスの方が実力は上で、正直茅森漣との戦いはつまらない。だが茅森漣は格上と戦いまくることで着実に実戦経験からなる腕前を上げていっており、アレックスはそのうちライバルになるかもしれないと思う。そんなある日、御船真瀬から声を掛けられる。「アレックスは知略に興味はあるか?」あまり考えることが得意ではなく、何事も直感に頼るアレックスは得意ではないと答えた。だが苦手とは答えなかった。御船真瀬は一人で勝手に納得した様子で礼を言い立ち去る。それを見送ったアレックスは首をかしげていた。
カトリーナ・オーケルフェルトは、自らが楽して生き残る確率を上げるため御船真瀬に古代兵法書・断章(その参)を見せることにした。御船真瀬との戦術談義は程々に済ませ、基本的に参謀としての役割は御船真瀬に一任すると断言した。が、御船真瀬はそれを許さず、のちのちカトリーナはとある副艦隊の“副官参謀”として必死こいて働かなくてはならなくなる。
クレーメンス・オーケルフェルトは、総提督たる御船真瀬に呼び出されて、工作参謀としてどこまでできるかよく話し合った。彼の特殊スキル・地形変化は、御船艦隊の切り札になってもおかしくない。そのため御船真瀬の参謀になってはくれないかと相談される。正直サボりたいクレーメンスは迷ったが、規約上、全力で尽くすのが決まりなので、まぁ程々に頑張りますよと承諾した。
§
休戦日・最終日。明日からセクター21で継承戦の続きを執り行う報告があった。それに際して御船真瀬は艦隊を再編成し、それの報告を行う。
中型艦“総提督”御船真瀬
中型艦“見習い副官”ファルファラ
中型艦“参謀”カトリーナ・オーケルフェルト 異名は“切れた斧”“灰色の秀才”“灰色の頭脳”など
小型艦“切込隊長”ジジ・ヴァイオレット 異名は“青い閃光”
中型艦“狙撃手”エドガー・フェザーストン
小型艦“観測手”ニコラ・ハドソン
中型艦“料理人”ルチア・オリーヴェ
小型艦“整備士”モニカ・ランドール
小型艦“諜報員”藤本さち
中型艦“化学者”ヴィエナ・アウッティ
中型艦“護衛役”古謝椎奈
中型艦“戦闘員”桃原咲亜矢
“副艦隊のコンセプトは圧倒的な機動力”
小型艦“副提督”ステラ・パレット 異名は“慧眼の鷹”
中型艦“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルト
小型艦“世話役”フロラ・パッソーニ
小型艦“切込隊長”茅森漣
小型艦“戦闘員”アレックス・ベーレンズ
小型艦“戦闘員”ビビアナ・サリニャーナ 異名は“落葉の桜”
小型艦“戦闘員”エルシェ・リオハス
“アドミラルの数まとめ”
この編成に関する反応は様々。特にビビアナは自分より格下の茅森漣に従うことに文句を言った。だが総提督の決定は絶対である。周りも何か考えがあるのだろうと推測していた。しかし茅森漣も、自分がかつてのビビアナ艦隊の主力を率いる編成に納得が行かず質問する。それに御船真瀬は答えた。「これが現状、最善だ。俺の読み通りなら、みんな今回の戦いで今よりもっと強くなれる」
しかして編成会議は終了し、作戦会議は翌日に執り行われる。皆は戦いの日々が始まることに緊張しつつ、太陽と月が巡る時をただひたすら待ち続けた。
§
第1.5章・完