※この作品はR-18です。

ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡   作:形のない者

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第十六話/休暇3

 翌日。エドガー・フェザーストンはミハイル・スルコフに狙撃の仕方を教えてほしいと頭を下げる。御船真瀬も頼み込むと、ミハイルは総提督の命令であれば規約上従うしかありませんと言って狙撃の伝授をしてくれることに。かくして戦術の師・御船真瀬と狙撃の師・ミハイル・スルコフから教えを受けたエドガー・フェザーストンは、みるみると急成長。前回ビビアナ艦隊と決戦した時のように、次の作戦の要となる。

 

          §

 

 ある日のこと。御船真瀬たちと槐新は話をした。なぜ槐新は終末派に入ったのか。その理由を友達として話してほしい。槐新はまず仲間を裏切るような真似をしたことを謝罪してから語りだした。

 

 実は槐新には病気の妹がいた。その妹は余命短く、それでも希望を捨てまいと終末派に傾倒、サンタさんを信じるかのようにニライカナイの伝説を信じていた。それは終末派の妄言であると真実を告げられずにいた槐新は、もうひとつ嘘をついていることがあった。それは自分が全人派に所属していることである。それを知らない妹は毎日のように「お兄ちゃん。頑張って終末派を勝たせてね。それでわたしと一緒にニライカナイに行こうね。絶対だよ?」……そう口にしていた。しかし妹は継承戦の直前に他界。はたして妹の魂は本当にニライカナイに運ばれたのか。槐新は全人派に所属していることを隠し、本当は存在しないニライカナイはきっとあると言い張った。その嘘を貫き通せば、少なくとも妹は幸せに生き抜くことができると信じていたからだ。しかし本当にそれで良かったのか? 妹は何度も唯一の肉親である兄・槐新にお願いしていた。終末派を勝たせてほしいと。そして自分とニライカナイに来てほしいと。はたして優しい嘘の向こう側に妹の幸せは本当にあったのか? 妹に嘘をつき続けた罪悪感は槐新の心を蝕み、やがて彼女の死と同時に大きな後悔を遺した。かといって真実を告げればよかったなどと思う気持ちはさらさらない。それは自分が嘘つきの罪悪感から逃れたいがためにする行為だからだ。この場合の真実を告げる勇気は勇気ではない、ただの卑怯で臆病な逃げ口上である。自らの罪悪感から言い逃れようとして言う言葉である。故に槐新は、いっそのこと嘘を貫き通そうと思った。心は全人派、しかし体は終末派として妹の言葉を体現する。終末派を勝たせる。そして妹が眠りに就いた場所であろうニライカナイに自分も赴く。それが妹に対するあがない。そのために終末派へ入ったのだと────槐新は語りきった。

 

 それを聞いていた女性陣は涙をこぼす。御船真瀬は槐新にそんな妹がいたなんて知らなかった。親友だったのに。それに対し槐新は気にするなと言う。全人派のみんなと友達であることがバレたら、槐新も全人派であることがバレてしまう。だから妹を紹介しなかったのだ。とにかく妹の話はこれで終わり。そしてこれからも終末派として行動する決意は変わらない。そう告げて槐新は立ち去った。

 

 人にはそれぞれ想いがある。希望、覚悟、選民、理想郷、恩義、信念、恩人、知謀、再会、祈り、情愛、運命。あらゆるこだわりを胸に秘めて、海に出て戦い、理不尽に叫び、そして誰にも見えない悩みを抱えている。

 

 御船真瀬にも妹がいた。彼女は両親と共に海難事故で海の底に沈んだ。彼女も槐新の妹と同様、ニライカナイに導かれているのだろうか。聞けば御船真瀬の妹と槐新の妹は同い年だという。趣味も近く、明るい性格も相まって気が合いそうだ。もしかしたらニライカナイで友達になれているかもしれない。そんなことを思った御船真瀬は、ふとこんなことを考える自分が全人派にいて良いのだろうかと考える。もちろん全人派としてみんなを救いたい気持ちは変わらない。だが理想だけでは未来を語れない。故に力をつける必要がある。選民派は力こそ正義と謳った。選民派と似たような考えを持つ自分は、やはり全人派にいても良いのだろうか。そしてまた同様のことを考える。御船真瀬は齢十五である。悩むことは悪いことではない。それは答えを見つけるために考えている証拠であるのだから。それに軸はぶれていない。どのみち誰かを見捨てることができない御船真瀬は、悩める答えを見つけるために、最後の継承戦に勝たなければならないのだから。勝って、みんなを救う答えを見つけなければいけないのだから。

 

          §

 

 ある日のこと。

 “切込隊長”茅森漣は弱いから指示に従えないとストライキを起こしたビビアナ・サリニャーナとアレックス・ベーレンズの暴挙が目に余った“世話役”フロラ・パッソーニは、弱いのが事実であるため強く出られない茅森漣に代わり、人に仕えることはどういうことかを言って聞かせた。その説得の勢いや恐怖の権化。いつもほわんとしており優しい雰囲気を醸し出すフロラ・パッソーニは、実は怒らせると怖かった。

 

 フロラ・パッソーニは語る。たとえ仕える主君が自分より不出来でも、人には得手不得手がある。なにより仕える者としては、その不出来な部分を成長させることが誉れであるとされている。自分もそのようにエドガー・フェザーストンに仕えてきた。そして、人を伸ばすことができない者は、自らを伸ばすこともできない。今、ビビアナ・サリニャーナとアレックス・ベーレンズは驕っている。傲慢は人を堕落に導く。バカなクソガキにも分かりやすく言うのなら、つまり茅(・)森(・)連(・)を(・)強(・)く(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)な(・)い(・)ビ(・)ビ(・)ア(・)ナ(・)と(・)ア(・)レ(・)ッ(・)ク(・)ス(・)は(・)弱(・)い(・)ということだ。なぜなら弱い人が弱い人を強くさせることなんてできるわけがないのだから。

 

 そんなことはない。ビビもアレックスも弱くない。そう訴えるビビアナに対し、フロラ・パッソーニは、ならば茅森漣を強くさせて自分が出来る人だと証明してみなさいと説教する。そうと決まれば話は早い。ビビアナとアレックスは茅森漣とついでにエルシェを連れて演習を繰り返した。ビビアナは直感的に「そこはこうするの! あぁもうなんでわからないの!? あれはこうするんだよ!」と教えることしかできないが、アレックスは教養があるようで「漣は障害物競争が得意だよな。それを伸ばせばいいんじゃないか?」と適切な助言を与え、エルシェは精神的支柱としての役割を果たすため、イライラするビビアナをなだめつつ、くじけそうな茅森漣に「わたしも一緒に頑張りますから」とメンタル面の助言を授けていた。

 

 それを眺めるフロラ・パッソーニは微笑ましいですねと満足げ。しかし、この一部始終を見守っていた“参謀”カトリーナ・オーケルフェルトは、まさか御船真瀬がフロラを世話役に据えたのは、ビビアナのストライキを見越した配置だったのではと思い、いや、考え過ぎかと失笑した。

 

          §

 

 それはある日のこと。

 食堂に集うアドミラルたちが、自分はこんなペットを飼っていた、あるいは飼いたいというペット談義を交わしている時、鳥の話題になった。鷹狩や鳥の帰巣本能の素晴らしさについて語り合う中、通りすがりのモニカ・ランドールは鳥型メカを作ったことがあり、今はシャットダウンして倉庫の中に保管されている旨を語る。ぜひ鳥型メカを見たいという意見が多かったので、モニカは鳥型メカを倉庫から持ってくる。その数は三羽。黄緑色のインコ型メカ、赤銅色のフクロウ型メカ、黒銀色のハヤブサ型メカ。このうちどれが一番かわいいか喧嘩になった時、昼食を作るため食堂に顔を出した御船真瀬が巻き込まれる。八方美人な御船真瀬は決めきれず、どれもモニカが作った大切なメカだから優劣は決められないと語る。その感想を嬉しがったモニカは、三羽の鳥型メカは偵察飛行が可能であることを示唆し、ほかにもオウム返し機能などを紹介していった。盛り上がる中、御船真瀬は全員分の昼食分を作り終えて、一同は鳥談義を切り上げて昼食を食べ始めた。

 

 それは特にとりとめもない日常の一端。とある一日の談話である。

 

          §

 

 ある日、青桐ガイルが御船艦隊専用ドックに着港した。戦闘禁止期間なのに現れた理由はなぜか。青桐ガイルはひょうひょうと語る。「別に戦闘が禁止なだけで、遊びに来るのは禁止されていないだろう?」そして青桐ガイルは手っ取り早く目的を語る。

 

「今回の継承者が終わるまでの間……いや、仮に第十三回目となる最終継承戦が執り行われる時も、必ずこの青桐ガイルを“副提督”に任命すると約束するなら、次の海戦で軍門にくだってやる。もし約束を破れば俺は反則行為をして継承戦を降りる。その際、罰則を受けるのは俺と、俺を監督する役割を持つ“総提督”の御船真瀬……お前だ」

 

 茅森漣は言う。これは罠かも知れないと。御船真瀬は青桐ガイルの本当の目的を確かめたかったが、彼はそれを語らず誤魔化す。ただ「海月結衣なら何か話してくれるかもな。お前ら仲が良いって聞くから」とだけ答えた。ともかく青桐艦隊は戦力として申し分ない。次の海戦で彼の助けが得られるのなら、より確実に本多艦隊と戦える。しかし茅森漣が言うように罠かも知れない。彼の考えは底知れない。まさか全人派なのに選民派に与するとも思えないが、先日の海戦で本多艦隊と交渉し、その目論見が見破られた時のように、御船艦隊の軍門にくだってデータを読み取り、その後わざと本多艦隊に吸収されて御船艦隊のデータを渡すかも知れない。その可能性はゼロではない。なぜなら青桐ガイルは継承戦で全人派が勝つことよりも、必ず副提督の役割に就ける方法を模索しているようだった。何が狙いなのか不明だが、継(・)承(・)戦(・)に(・)対(・)し(・)て(・)本(・)気(・)で(・)は(・)な(・)い(・)ことだけは確実だと御船真瀬は思う。

 

 御船真瀬は決断した。青桐ガイルを副提督にする。理由は先の戦いで本多艦隊を牽制し、御船艦隊を助けてくれた恩を返すためである。「やっぱり恩返しが理由か。ほんとアンタお人好しだな」青桐ガイルは呆れたように笑い、交渉締結だと言って帰路に就く。

 

 そうして青桐ガイルが御船艦隊専用ドックから出航する時、御船真瀬が現れた。青桐ガイルは「見送りかい?」と聞くが、御船真瀬の顔色はただの見送りとは思えないほど真剣だった。疑問符を浮かべる青桐ガイルに対して、御船真瀬は願い出る。

「ひとつ頼みがある」それを聞いた青桐ガイルはやはりと頷いた。「おや? 交渉は締結したと思っていたが……ここに来て交換条件か?」しかし青桐ガイルの予想は外れた。「いや、交渉は締結で構わない。つまり頼みというのは、ひどく個人的なお願いなんだ」目を開いて驚く青桐ガイルは、つくづく御船真瀬がお人好しだと知って笑いをこらえきれなくなる。「まぁとりあえず、そのお願いとやらを言ってみな。聞くかどうかは約束できねぇけどな」「聞くさ。君だって自分の申し出が御船艦隊にとって割(・)に(・)合(・)わ(・)な(・)い(・)とは思っているんだろう? だから君は受ける。君はそういう男だ」つまり御船真瀬は、青桐ガイルは意外と律儀である。そう言っている。それが気に食わない青桐ガイルは、御船真瀬の目論見を当ててみせる。「違うな。俺がそういう男だからじゃない。俺が受けざるを得ない状況になるんだ。なぜかって? きっとアンタは、そういう男だから」────視線に火花が散る。戦術家と陰謀家の駆け引き。やがて御船真瀬は願い事の内容を口にした。それに口だけは「了解。総提督のご命令とあらば」と返した青桐ガイルは、上空に舞う鷹の鳴き声を背に、自らのドックに帰っていった。

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