※この作品はR-18です。

ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡   作:形のない者

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第十七話/計略

 御船真瀬とエルシェ・リオハスとステラ・パレットとジジ・ヴァイオレットのハーレム濡れ場。そこにファルファラも加わって露天風呂に入る。そこで女性陣はツバメの巣を見つけた。露天風呂の軒先に皿のような巣が作られている。かわいく鳴くツバメの子たち。それを女性陣と共に眺めていた御船真瀬は、ツバメの巣の向こう側に広がる夜空を見て、不意に妙案を閃いた。

 

          §

 

 戦闘禁止期間が迫る。御船艦隊専用ドックの作戦会議室にて、“総提督”御船真瀬は編成と作戦を告げる。

 

 中型艦“総提督”御船真瀬

 中型艦“見習い副官”ファルファラ

 中型艦“参謀”カトリーナ・オーケルフェルト 異名は“切れた斧”“灰色の秀才”“灰色の頭脳”など

 

 小型艦“遊撃手”ジジ・ヴァイオレット 異名は“青い閃光”

 大型艦“狙撃手”ミハイル・スルコフ

 中型艦“狙撃手”エドガー・フェザーストン

 小型艦“観測手”ニコラ・ハドソン

 

 中型艦“切込隊長”槐新

 中型艦“料理人”ルチア・オリーヴェ

 小型艦“整備士”モニカ・ランドール

 小型艦“諜報員”藤本さち

 中型艦“化学者”ヴィエナ・アウッティ

 中型艦“護衛役”古謝椎奈

 中型艦“戦闘員”桃原咲亜矢

 

 “副艦隊のコンセプトは圧倒的な機動力”

 小型艦“副提督”ステラ・パレット 異名は“慧眼の鷹”

 中型艦“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルト

 小型艦“世話役”フロラ・パッソーニ

 

 小型艦“切込隊長”茅森漣

 小型艦“戦闘員”アレックス・ベーレンズ

 小型艦“戦闘員”ビビアナ・サリニャーナ 異名は“落葉の桜”

 小型艦“戦闘員”エルシェ・リオハス

 

 “副艦隊”のコンセプトは不明。なお、まだ正式に副艦隊になったわけではない。

 中型艦“副提督”青桐ガイル

 

 作戦説明。敵は本多艦隊とジュリオ艦隊。同盟は青桐艦隊。この中で最大の脅威は本多艦隊となる。策士同士の対決となるが、大局的に見れば意外と単純な戦局になるという。仮想戦局図は「御船艦隊vs本多艦隊」と「青桐艦隊vsジュリオ艦隊」であり、御船艦隊と青桐艦隊が勝利することで決着がつくのが理想的。仮に青桐艦隊が敗北した場合、ステラ副艦隊を向かわせる。本多艦隊との戦いでは、前回、本多艦隊が部隊を小分けにして海月艦隊とシャーロット艦隊を包囲殲滅したように、今回も再び包囲の陣形を敷いて攻めてくる可能性が高い。さらに包囲殲滅に加えて何かしらの計略を持ち出してくる可能性も視野に入れている。その上で御船真瀬は「作戦は以上」と締めくくった。そこで茅森漣は、本当は作戦を考えているくせになぜそれを教えてくれないのかと指摘する。理由は単純明快。敵が何をしてくるか分からない以上、臨機応変な対応を要求されるのは当然のこと。未知のまま理を詰めようとしても結果は決まらない。雨降って地固まる時を待つ……故に、作戦とは既知の部分のみ理詰めし、未知の部分では好機を狙うしかないのだ。

 

 そのとき槐新が言った。「真瀬。俺を副提督にしてほしい」その意図にわずかばかりの不信を抱いた御船真瀬は「今回の作戦に副提督は二人も必要ない。ステラ副提督だけで充分だ。新には、もし次の戦いで副提督が必要になった時にお願いするよ」と返し、却下した。そこで御船真瀬はなぜ副提督になりたいと思ったのか質問するがはぐらかされた。もしや槐新は“水を混ぜて魚を獲る”つもりで副提督になりたいと思ったのか……友を疑うのは信じたいがゆえ。槐新の終末派を勝たせるという意志は強く堅い。となれば手段を選ばない可能性が高い。それゆえ断った。御船真瀬は槐新が終末派に鞍替えした理由は知ったが、槐新の心の内までは分からない。いったい何を考えているのか。疑念は募るばかり。しかし悩んでいても仕方がない。戦闘禁止期間は今を以て終了した。

 

 全艦隊、出撃開始。御船艦隊とステラ副艦隊は包囲殲滅に対応した方円の陣を組んで中央海域に突き進む。途中、青桐艦隊と合流した御船艦隊は戦わずして吸収手続きを済ませ、青桐ガイルを副提督に任命する。そしてきびすを返した青桐副艦隊は、東南部海域にてジュリオ艦隊と激突。それを尻目に御船全艦隊は戦場へ向かった。

 

 

 

 一方その頃。終末派の“総提督”ジュリオ・フェーデは、前回の戦いで全人派の御船艦隊に見逃され、青桐艦隊にも無視された屈辱の怨嗟を晴らすべく、目の前で御船艦隊に吸収されて向かってくる青桐艦隊をぎったぎたのけちょんけちょんにしてやろうと猛り狂っていた。両艦隊の激突。そこで青桐艦隊の旗艦たる“副提督”青桐ガイルは一騎当千をうたいながら単騎単艦で吶喊し、早々に旗艦たる“総提督”ジュリオ・フェーデのバトルアークに撃破された。副提督の規約上、青桐副艦隊はジュリオ艦隊に吸収される。その報告は“総提督”御船真瀬にも届いただろう。あまりにもあっけない海戦の終結。これにジュリオ・フェーデはポカンとしていた。そこで青桐ガイルは要求する。「俺を副提督にしてくれ。でなきゃ反則行為をして継承戦から脱落する」こいつは何を言っているのか。明らかに青桐ガイルは継承戦に本気ではない。舐めている。ふざけている。そう感じたジュリオ・フェーデは、そのような不埒者は邪魔だから疾く立ち去れと激昂。しかしジュリオ・フェーデは“副官”クロエ・カルディナーレや“切込隊長”ペネロペ・ブルローネの助言により考え直す。その助言とは「青桐艦隊の損害は軽微。全体的なダメージは5%にも満たない。なぜなら旗艦だけが討ち取られたため。つまりこのまま青桐艦隊の残り95%を率いれば強力な戦力補充が叶う」……そのうまい話に乗った“総提督”ジュリオ・フェーデは、終末派が勝つためにも戦力は必要だと判断し、青桐ガイルを副提督に任命する。

 

 次の瞬間“副提督”青桐ガイルは、自身の大破したバトルアークを乗り捨て、部下のバトルアークを借りると言って乗り込んだ。それは互いのバトルアークを交換する行為であり、継承戦の規約上ルール違反ではない。そして“副提督”青桐ガイルは自身の艦隊を率いて刃を返すように御船艦隊に向かって進軍を開始した。それに“総提督”ジュリオ・フェーデは待ったをかける。ジュリオ艦隊の“副官”クロエ・カルディナーレの助言もあり、まさか青桐ガイルは先と同じように単騎単艦で突貫し、御船艦隊に討ち取られることでジュリオ艦隊のデータを御船艦隊に渡すつもりではないのかと。なんて姑息。なんて狡猾。それが全人派のやり口か。ジュリオ・フェーデは総提督の権限を使って単騎での突撃を禁止する。さすがに副提督といえど、総提督の強い意向には逆らえない。独断専行の役割を担っているとはいえ、トップの絶対的な命令には従う必要がある。それが継承戦の規約である。

 

 しかし青桐ガイルは笑った。あざ笑うように両目をカッと開き、ジュリオ・フェーデの緋瞳(ひどう)を射抜いて語らせた。青桐ガイルの特殊スキル・コード《絶対改竄》のギアスが発動する。先ほど“総提督”ジュリオ・フェーデは「“副提督”青桐ガイルの独断専行を禁ずる。決して単騎単艦で突撃してはならない」と命令した。だが青桐ガイルの特殊スキルを受けた瞬間、その命令を前言撤回し、こう命令し直した。「“副提督”青桐ガイルの独断専行を許す。必ず単騎単艦で突撃しろ」────それからしばらく。ジュリオ・フェーデが意識を取り戻したとき、既に青桐副艦隊は全速前進で御船全艦隊の下に向かっていた。ジュリオは周りからなぜあんな命令をしたのか聞かれるが、ジュリオにはその記憶がない。そこで“副官”クロエ・カルディナーレは聞いた話を語る。

 

 強力な脳波を持つアドミラルの中には特殊スキルを有する者は多くいるが、その中でも希少な逸材として「他者の思考に干渉する能力」のことを「コードギアス」と呼称し、それを操るアドミラルがいるという。マスターアドミラルの中にもコードギアスの持ち主と思われるアドミラルはおり、その力で継承戦を勝ち抜いたという噂話が巷では広まっている。それと同じ能力を青桐ガイルも持っていたのではないか。

 

 いずれにせよジュリオ艦隊は戦うしかない。御船艦隊と本多艦隊の戦いを見守り、両艦隊が疲弊した所を突く漁夫の利戦法で勝つと方針を定め、彼らは進軍を再開した。

 

 まさに客を返して主と為す。敵に従属すると見せかけて反旗を翻した青桐ガイルの計略は奏功した。

 

 

 

 一方その頃。御船艦隊はあと一刻ほどで本多艦隊とぶつかるという時に衝撃的な報告を受けた。それは“副提督”青桐ガイルが討ち取られたという報告。こんな短時間で敗北するなんて有り得ないと騒ぐ周囲は青桐ガイルが裏切った可能性を指摘する。だが御船真瀬はまさか(水を混ぜて魚を獲る計略を使ったのか)と思い、青桐ガイルの真意を見抜いていた。ともかく前方には本多艦隊の艦影を確認。後方からは全速前進で青桐艦隊と、その更に後方からはジュリオ艦隊が迫っている。意図せぬ包囲と複数の敵に囲まれた恐怖は著しい士気の低下を招く。それを防ぐため“総提督”御船真瀬は、“副提督”ステラ・パレットに青桐艦隊の迎撃を任せる。青桐は副提督のため倒せば吸収できる。それは副旗艦ステラも同じため注意が必要だが、これは必要なリスクである。なぜなら副提督でなければ青桐を吸収できない。承知したステラ副艦隊は旋回、青桐艦隊に向かっていく。

 

 ステラ副艦隊は青桐副艦隊と激突する。そのとき青桐ガイルは単騎単艦で突撃し、容易くビビアナ小隊に討ち取られた。吸収手続きを踏む際、青桐ガイルはジュリオ艦隊の時と同様、再び副提督に任命してほしいと言い出す。ステラは通信機を使って御船真瀬に相談し、再び青桐ガイルを副提督に任命することに決めた。そこで青桐ガイルはジュリオ艦隊のデータを提出。その中には勤勉家なジュリオ・フェーデがコツコツと調査して収集した全人派や選民派の著名なアドミラルのデータが詰まっていた。一度艦隊の吸収手続きを踏めば、そういったデータが共有されてしまう。総提督は事前にデータを閲覧されないようロックを掛けることも可能だが、副提督はそのロックを解除する権限を持つ。そしてデータの中には古代兵法書の情報もあり、本多艦隊の弱点も記されていた。本多艦隊は今までの海戦において包囲殲滅を得手とするあまり、それ以外の戦術に不慣れな一面があるという。この情報が確かであれば……御船真瀬は思考を凝らす。

 

 そこで青桐副艦隊は返す刀で全速前進。ジュリオ艦隊を討ち取りに行く。吸収した後は合流するため、合流地点を教えてほしいと言い、ステラ副艦隊は御船本艦隊の下に戻って合流しろと告げた。それに従いステラ副艦隊はきびすを返す。

 

 

 

 一方その頃。ジュリオ艦隊は御船艦隊と本多艦隊の漁夫の利を狙っていたが、青桐副艦隊がステラ副艦隊に容易に吸収された場面を観測していた。これは“副官”クロエ・カルディナーレの予想通りである。狡猾な全人派であれば、“総提督”ジュリオ・フェーデのデータを活用して、このまま本多艦隊を叩きに行くはず。と思いきや青桐副艦隊はきびすを返してジュリオ艦隊に迫ってきた。それを見たジュリオ・フェーデは屈辱を晴らせる機会が来たと高笑いする。青桐艦隊に関するデータなどなくとも艦隊の練度や編成の様子を見れば、自ずと自他の力量差は判明する。一言で言えば青桐艦隊は弱小である。基本的な陣形の型も知らず、おそらく今まで青桐ガイルの強力なスキルだけで勝ち上がってきたのだろうと推測。海戦の本質は質と量である。艦隊として下位の部類の強さを相手に、中位の強さを有するジュリオ艦隊が負けるわけがない。

 

 かくして激突した青桐艦隊とジュリオ艦隊だが、その趨勢は膠着状態に近く、戦力差は互角に近かった。それに驚いた“総提督”ジュリオ・フェーデは叫ぶ。

「貴様、まさか今まで手を抜いていたのか!?」

 青桐ガイルは失笑しつつ返答した。

「たしかに俺は今まで“楽して勝てるに越したことはない”という信条で、ギアスに依存して勝ち上がってきた。だがな────仮痴不癲の計って知ってるか? バカのフリをしているとなぁ、自(・)然(・)と(・)バ(・)カ(・)が(・)ネ(・)ギ(・)し(・)ょ(・)っ(・)て(・)歩(・)い(・)て(・)く(・)る(・)んだわぁ……不思議だよなぁ?」

 ジュリオ・フェーデは決して愚か者ではなかった。自らの力を謙遜し、彼我の実力差を正確に測れる“眼”を持っていた。しかし、それは未だ発展途上の“眼”であった。つまり経験が足りなかったのだ。まさにこ(・)こ(・)ま(・)で(・)罠(・)を(・)張(・)っ(・)て(・)確(・)実(・)に(・)殺(・)し(・)に(・)来(・)る(・)と(・)は(・)思(・)わ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)という想定の埒外の結果が、ジュリオ・フェーデに敗北の予感という疑念を縫い付ける。

 

 しかして決着は付いた。青桐艦隊が“切込隊長”ペネロペ・ブルローネの小隊を撃破し、旗艦ジュリオを討ち取った。吸収手続きの最中、ジュリオは「卑怯だぞ」と叫ぶ。それに青桐ガイルは「知らねぇよ。事情があるならいざ知らず、死にたいなら勝手に死ね」と言い捨てた。ジュリオはつくづく馬鹿にされた気分になる。そして青桐ガイルは、すぐに“副官”クロエ・カルディナーレを連れて中央部海域の戦場に向かいだした。

 

 まさに水を混ぜて魚を獲る。敵の内部を混乱させて判断を誤らせた青桐ガイルの計略は奏功した。

 

 

 

 一方その頃。本多正信は今一度、警戒するべきアドミラルを列挙していた。優れた戦術眼を持つ御船真瀬は言うまでもなく、副提督ステラ・パレットも慧眼だ。単騎で勝ち星を稼ぐジジ・ヴァイオレットも脅威的で、連携の取れたチーム戦術で各個撃破を狙ってくるビビアナ・サリニャーナ含む小型艦複数小隊も注意が必要だ。さらに狙撃艦を持つミハイル・スルコフやエドガー・フェザーストンも気を付けなければならない。火力に特化した槐新も中型艦を率いれば最強に等しい。しかし本多正信にはそれを打ち破る策がある。それは包囲殲滅。いかなる一点特化の技能を有した集まりであっても、計算され尽くした袋叩きには敵わない。ただし圧倒的な火力ならば、それだけで包囲殲滅を破ることもあろう。それで言うなら狙撃艦ミハイル・スルコフとエドガー・フェザーストンが天敵。しかし御船艦隊の艦影を見るに、その天敵は一人減ったようだ。大型艦は部隊の前にあるだけで前方の視界を塞いでしまう。よってミハイル・スルコフは最も後方に位置している。だが大型艦より小さく、視界を塞ぐ心配の少ない中型艦フルンベルは、その大型艦より後方に位置していた。あの距離からでは中型艦の射程距離を考えると、敵地まで砲撃が届かない。どうやらエドガー・フェザーストンより優秀な狙撃手たるミハイル・スルコフを獲得した御船真瀬は、まだまだ狙撃手として未熟であるエドガー・フェザーストンを後方に下げ、他の部隊の援護や護衛を任せたようだ。無論、乱戦に紛れてエドガー・フェザーストンを前線に上げて狙撃を仕掛けてくる可能性も捨てきれない。それには充分留意した上で事に当たるよう本多正信は部下に言い聞かせた。

 

 しかして御船艦隊と本多艦隊が激突する。遅れてステラ副艦隊も合流。本多艦隊は鶴翼之陣にて包囲殲滅を仕掛けてくるが、それを読んでいた御船全艦隊は方円の陣で対抗する。囲い込む戦術と、全方位を攻撃する戦術。互角の戦いは膠着を生み、どちらも一瞬の変化を待ち望んで、その好機を逃してなるものかと目を凝らす。そこにや(・)け(・)に(・)バ(・)ト(・)ル(・)ア(・)ー(・)ク(・)の(・)数(・)が(・)少(・)な(・)い(・)青(・)桐(・)副(・)艦(・)隊(・)が到着し、微力ながら援軍に駆けつけた。そこで本多艦隊は布石を発動する。配下の海月艦隊とシャーロット艦隊を差し向けて包囲殲滅の威力を底上げする。それを読んでいた御船真瀬は青桐ガイルに指示を飛ばす。「海月艦隊とシャーロット艦隊は、青桐艦隊だけが請け負え」それはあまりに無茶な命令だと茅森漣をはじめとする周囲から指摘が飛ぶ。が、青桐ガイルは「応」の一言で作戦命令を請け負った。

 

 それは梁を偸み柱に換う戦術。建物を崩すならまず梁を崩すべきだ。方円の陣を敷いている中で二つの艦隊を相手取る必要がある青桐艦隊は当然突出しており、円形は青桐艦隊の部分のみ歪み、方円の陣を崩す唯一の間隙となっている。もし本多艦隊の一部をそこに向かわせれば青桐艦隊を倒して方円の陣は崩壊し、一気に御船全艦隊を叩き伏せるかもしれない……それが魅惑の誘惑であることに気付いた“総提督”本多正信は我慢する。これは罠だ。建物を支えるのは柱である。本多艦隊にとっての柱は二本あり、それは“副官”クリス・ベーレンドルフと“切込隊長”海月結衣である。既に柱のうち一本を青桐艦隊に差し向けている今、残る一本も青桐艦隊に差し向けてしまえば、それは反対に本多艦隊の隙を晒してしまうことになってしまう。つまり御船真瀬の狙いは、本多艦隊の二本柱を青桐ガイルに押し付けることで、その間に手薄となった本多艦隊を叩くことにあると見た。そして、そんな御船真瀬の狙いを、なんとあの青桐ガイルは承知の上で押(・)し(・)付(・)け(・)て(・)も(・)ら(・)っ(・)た(・)。

 

 御船艦隊には策士が二人いる……本多正信は気を引き締めて、御船艦隊の計略の一つを見破った。し(・)か(・)し(・)そ(・)れ(・)こ(・)そ(・)が(・)計(・)略(・)の(・)一(・)つ(・)で(・)あ(・)る(・)。見(・)破(・)ら(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)自(・)体(・)が(・)計(・)略(・)の(・)一(・)つ(・)な(・)の(・)で(・)あ(・)る(・)。本多正信は柱の一本を差し向けることを躊躇した。それはつまり本多艦隊の動きがほんの一瞬硬直化したことを意味する。本多正信が次の指示を出すまでに生じたわずかな間隙。そんな微かな一瞬を突けるアドミラルは────常に集中し、じっと動かず、その時を虎視眈々と待ち焦がれていた狙撃手以外にいるだろうか。

 

 次の瞬間、真紅の砲撃が轟いた。海を叩き、空に水柱の花火を打ち上げ、陸の深部を響かせた轟沈必至の風雷砲撃こそ────“金色の鋼”エドガー・フェザーストンの雷鳴のごとし狙撃であった。“観測手”ニコラ・ハドソンの補佐もあり、同じく“狙撃手”ミハイル・スルコフの大型艦の背後に隠れた位置にて、死角より躍り出た黄金のフルンベル。そう、金色に改造された中型狙撃艦フルンベルが戦局を大きくひっくり返した。まさに海面がひっくり返ったかのように錯覚するほどの轟音と衝撃波。波打つ海上。哭くカモメ。浮き上がる魚群。一撃で大破した“副官”クリス・ベーレンドルフの中型艦バトルアーク。

 

 本多正信はまさかと叫ぶ。「暗かに陳倉に渡る……風雷益を模した計略か!」

 そして御船真瀬は号令一下「包囲殲滅に綻びが生じた! 今こそ“柱”を討て!」

 

 包囲殲滅に対抗するため全方位を攻撃していると見せかけて、実際は“副官”クリス・ベーレンドルフを狙っていた。エドガー・フェザーストンを攻撃射程距離から外れる最後方に配置したのは、ひとえに狙撃手の攻撃開始を悟られないようにするため。では、なぜエドガーのフルンベルは攻撃射程距離からの狙撃が届いたのだ。決まっている。“整備士”モニカ・ランドールの仕業である。本多正信は、もうひとりの要警戒人物を見逃していた。アドミラルとしての力量は下の下。伏兵としての経験は中の下。故に危険域や警戒域とまでは思わずとも、注意域までは想定していた。しかし、まさか────バトルアークを改造するとは!

 

 まさに無中に有を生ず。フルンベルを狙撃射程外に置いて無意味と思わせ油断させた所で、実際は狙撃射程内にあった有意味の狙撃で攻撃する御船真瀬の計略は奏功した。

 

 御船艦隊は敵陣の混乱に乗じて勝負を仕掛ける。青桐副艦隊は海月艦隊と激突し、ステラ副艦隊はシャーロット艦隊と激突し、御船艦隊は本多艦隊と激突する。包囲殲滅は局地戦へと姿を変え、変貌する戦局図は各個撃破の様子を示す。

 

 シャーロット艦隊、撃破。陣容は壊滅状態。

 青桐艦隊、撃破。副旗艦たる青桐ガイルだけは特殊スキルを使ってしぶとく生き残っており、御船艦隊と合流。

 

 すると自動的に残ったステラ副艦隊と海月艦隊が激突する形になる。どちらも消耗しており、趨勢は不明。そこで声を上げる“切込隊長”茅森漣がいた。ここで押し負ければ旗艦・御船真瀬が背後を取られる形になる。混戦だからこそ流れ弾で旗艦が討ち取られることを防ぐため、海月艦隊はここで確実に倒さなければならない。そう言って茅森漣は“落葉の桜”ビビアナ・サリニャーナ、アレックス・ベーレンズ、エルシェ・リオハスの小型艦三小隊を率いる。その際“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルトに岩礁地帯の形成を頼み込んだ。そこで三小隊はあることに気付く。今まで茅森漣は操艦能力が自分たちより劣っており、いつも三小隊の機敏な動きに付いてこれずにいた。しかし今は“赤い疾風”茅森漣として高機動小型艦三小隊をきっちり引率している。その理由に“慧眼の鷹”ステラ・パレットが気付く。茅森漣の得意地形は岩礁地帯。普通なら岩礁という障害物に邪魔されて速度が落ちるところを、茅森漣は減速せずいつも通りの速力を出せる。たとえ岩礁のせいでビビアナ含む高機動小型艦三小隊の速度が低下しても、連携において大事なのは速力よりも足並みを揃えること。岩礁地帯の中で茅森漣は減速せず、高機動小型艦三小隊は減速したことで、彼らの足並みはバランスよく揃い、彼らの連携能力が真価を発揮する。そして“赤い疾風”茅森漣が率いる高機動小型艦三小隊は、初めて噛み合った見事な連携により、旗艦・海月結衣の中型艦バトルアークを討ち取った。これは自らの得意不得意を知り尽くし、部下との連携を成功させた茅森漣隊長の成長の勝利である。

 

 そして御船艦隊と本多艦隊の決戦。旗艦・御船真瀬は大型艦を盾にしており、本多艦隊は旗艦を攻めきれず、かといって大型艦を落とせずにいた。しかし本多正信は包囲殲滅を破られた時のことを見越して、ある計略を敷いていた。それは適切な位置に配置した伏兵の存在。東西南北、あらゆる島に上(・)陸(・)さ(・)せ(・)た(・)ア(・)ド(・)ミ(・)ラ(・)ル(・)に山の頂上まで登らせて、その頂きにて狙撃ポイントに就かせる。無論、得物は手持ち武器(パーソナルウェポン)の狙撃銃。“狙撃手”ミハイル・スルコフが携帯するような大口径のスナイパーライフルを構えた狙撃手アドミラルが各地の山頂から狙いを絞っている。そして本多正信の号令一下に合わせて多数のバトルアークが撃ち抜かれた。まったくの意識外からの攻撃は痛恨となり、艦隊に動揺を生じさせて混乱を生む。まさか空から攻撃されるとは思うまい。続けて狙撃銃より威力の高い自動追尾型ミサイルランチャーが各地の山頂より白煙を昇らせて発射される。上空より飛来する小型ミサイルは数百に分裂して海面に着弾。多くのバトルアークに命中し、爆発は白煙を広げ、霧のように視界も遮る。だがそれは本多艦隊も同じこと────と思いきや、“総提督”本多正信の指示によって艦隊は後退していた。よって絨毯爆撃のようなミサイルランチャーの攻撃をまともに受けたのは御船艦隊だけだった。

 

 御船真瀬は敵ながらあっぱれと感心する。「さすがは“大空の覇者”本多正信だ」「くだらぬ異名で呼ぶな。だが……あぁ。私は鷹狩というものが好きでな。空から獲物を食い尽くす時の快感はえも言えぬ」……茅森漣は叫ぶ。「感心している場合か真瀬! おい本多正信、卑怯だぞ! アドミラルならバトルアークで勝負しろよ!」それに本多正信は生真面目に返す。継承戦においてバトルアークを使わなければ攻撃してはならないという規約は存在しない。故にこれもまた正しい攻撃の一つ。虚を突かれたからといって卑怯などとたわごとを抜かすのは弱者の戯言だ。そして、そういう奴ほど自らの奇策は卑怯と言わない。そう言った本多正信の視線は青桐ガイルに注がれていた。視線を感じた青桐ガイルは肩をすくめて知らぬ存ぜぬなんとやら。すまし顔でひょうひょうと受け流す。

 

 そして御船真瀬は現状の打開策を考える。上空攻撃の回避に専念すれば隣接する敵バトルアークに狩られる。かといって上空攻撃を無視すれば良い的だ。四方八方プラス直上からの攻撃。これに対応しながら本多艦隊を相手にするのは厳しすぎる。よってここは旗艦・本多正信を討ち取りたいが、それも中型艦から構成される防衛隊が邪魔をして狙うのが難しい。狙撃で仕留めようにも、陸地からの援護射撃がミハイルやエドガーの狙撃を効果的に妨害している。理想的な流れは陸地からの攻撃をやめさせること。だがそれは海に出ている以上、不可能だ。まさか陸地に向かって砲撃するわけにも行かない。民間人も暮らしている以上、それは規約違反となる。

 

 まさに万事休すか。その時だった。副旗艦・青桐ガイルが大声を上げる。「御船真瀬ぇ! 約(・)束(・)は(・)守(・)っ(・)た(・)ぜぇ!」────その号令一下が響いた瞬間、陸地からの攻撃がピタリと止んだ。本多正信はいったいどういうことかと狼狽する。その間隙を突いて御船真瀬は最後の号令を飛ばした。「陸地からの攻撃が止んだ! 次またいつ攻撃が始まるか分からない! それまでに本多正信を倒せなければ俺たちの負けだ! 全員! 一気呵成にたたみかけろ! この数分が最後の戦闘だ! ケリをつけるぞ!!」全アドミラルは応ッと雄叫びを上げて気合いを入れ直す。

 

 一方その頃。各地の山頂では“副提督”青桐ガイルの命令によって動いていた多数のアドミラルたちが、本多正信の部下たちと交戦していた。その中には“副官”クロエ・カルディナーレもいる。全員パーソナルウェポンの銃剣を撃ち奮って戦っており、アドミラルの肉体は結界サークルが守っているため命の危険は少ない。

 

 継承戦においてアドミラルの敗北は二通り存在する。それはバトルアークの大破と結界サークルの破壊である。いずれも“撃破”と呼び、バトルアークが大破しても別のバトルアークがあれば戦闘は続行可能。だが結界サークルは換えが効かないため交換は不可。戦闘禁止期間が訪れるまで結界サークルは回復しないようになっている。

 

 舞台は戻り。各地の山頂で白兵戦が行われているとの情報が入ってきた本多正信は、まさかと御船真瀬と青桐ガイルを見やる。

「青桐。俺の願いを聞いてくれたのか」

「そりゃあアンタ。かの“大空の覇者”を撃ち落とす作戦を聞かされちゃあ、黙って無視はできないだろぉ?」

 かつて御船真瀬が青桐ガイルに願い出たこと。それは「本多正信がもし上空攻撃を仕掛けてきた場合、それを妨害するためのアドミラルを各地に向かわせてほしい」────その旨の依頼だった。それを聞いたが故に青桐艦隊の兵数は少なかった。

 

 一方の本多正信は、もちろん青桐艦隊におけるアドミラルとバトルアークの数が少ないことは気付いていた。だが少ない理由は、ジュリオ艦隊との戦いで撃破されたバトルアークが多く消耗したのか、あるいは伏兵として配置しているものとばかり思っていた。その判断は間違いではない。なぜなら青桐艦隊が本多正信の伏兵を見抜くことなど不可能なのだから。

 

 本多正信は高速思考の末に、青桐艦隊が本多正信の陸地伏兵を妨害できた理由を当ててみせる。

「“狙撃手”ミハイル・スルコフの入れ知恵か。御船真瀬は狙撃手として優秀なミハイルから「もしこの海域で戦闘するなら狙撃手として絶好のポジションはどこか」と質問し、私の伏兵がいるであろう予想ポイントを煮詰めていったのだろう。そして青桐艦隊は吸収した際のデータ共有で伏兵予想ポイントの図面を入手した。しかし────それでも不可能だ」

 何が不可能なのか。本多正信は克明に語る。

「仮に伏兵の大まかな位置を予測することができても……東西南北の島々にある、いくつもの山脈の頂上の中から、ひとつ残らず本多艦隊の伏兵を見つけ出して、遠隔支援を妨害する……そんなことは不可能だ」

 しかし実際、陸地からの支援攻撃は、そのことごとくが中断されている。本多正信が配置した伏兵のポイントは八つ。その八つとも所在を見破られて、今まさに交戦中だとでも言うのか。

 

 その疑問に御船真瀬が答えた。彼は艦隊を率いて旗艦・本多正信を護衛する中型艦の陣容を次々と撃破しながら語りだす。

「鷹さ」

「……は?」

「高さとも言う。いや、ダジャレのつもりはなかった。……こほん。要するに鳥を偵察に使ったのさ。一応エムザラに確認した結果、鳥型メカはアドミラルの脳波によって稼働する性質上、パーソナルウェポンと同じ扱いを受けるため、継承戦の規約上ルール違反ではないと言われた」

 故に、これは卑怯ではない。そう言いたげに青桐ガイルは嫌な笑みをこぼす。そして御船真瀬の両肩と頭に三羽のメタリックな鳥が留まった。それは前日にモニカ・ランドールが披露した鳥型メカである。それにカメラを内蔵することで、戦闘禁止期間解除と同時に島々の上空を飛び回ってもらい、逐一データを取得していたのだろう。

「継承戦は海での戦いが全てじゃない。時に陸で戦う必要もあるし、空で戦う必要もある。それは今までの継承戦もそうだった」

「……そうだな。それを卑怯とは言うまいよ。こちらも調教した鷹を使って上空を偵察していた。だから戦闘禁止期間内に青桐ガイルが御船真瀬と接触していたことも突き止めていた。いやしかし……鳥型メカときたか……どうやら、そちらの人材は豊富なようだな、御船真瀬」

「あぁ。俺の仲間はすごい人ばかりだよ」

 

 “青い閃光”ジジ・ヴァイオレットの一撃により、旗艦・本多正信が討ち取られる。まだ多数の護衛艦が残る中で、防衛網の合間を縫って接敵、ひしめく中型艦がもたらす強い引き波の上を安定して走り、速射砲の連撃で仕留めた操艦能力の高さは卓越見事の一言。

 

 かくして御船艦隊は本多艦隊を吸収した。第十二回継承戦・二番目が終了する。御船艦隊は振り返る。本多正信は戦闘員として強くはないが、戦術家として弱くはない。そして卑怯な振る舞いをしない上、シンプルにすごいアドミラルである。まさか白兵戦に優れたアドミラルを島々に配置して狙撃させるとは、今までの本多正信の戦法と継承戦のデータから容易に予想できても、それを食い止めるのは難関と思っていた。しかし目には目、歯には歯という。そのように空には空、鳥には鳥。一つの妙案が難敵・本多正信の計略を打ち崩した。それは誇っていいことだと彼女自身に言われて、御船真瀬は勝利と自信の実感を得る。

 

 そこで青桐ガイルが言った。「御船真瀬。ぶっちゃけ今回の勝因はなんだ?」

 その質問に御船艦隊は答えた。「もちろん。仲間が頑張ってくれたおかげさ」

 

「……仲間への信頼ね。見事な反間苦肉だな」

 それは皮肉だった。つまり青桐ガイルはこう言っている。御船真瀬は青桐ガイルを仲間と思って信用していない。今回実績を積んで信頼を得られただろうが、それでもあくまで“同盟者”としての付き合いを崩さないだろうと、御船真瀬との壁を感じていた。

「まぁそれでもいいさ。というかそっちの方がやりやすい。心の底から信頼されても困るしな。オレにはオレの目的があるんでね」

「まるで結衣みたいなことを言うんだな」

「あぁ。なんせオレも結衣も目的は同じだからな」

 御船真瀬は首をかしげる。ともあれ勝利の余韻に水を差すのは無粋だ。青桐ガイルは一足先に御船艦隊専用ドックに帰還する。

 

 その後ろ姿を見送る御船真瀬は、勝利に喜ぶ仲間たちとは対照的に、今後の展開を憂いでいた。青桐ガイル。彼は問題児だ。彼は各派閥の是非について討論したがり、時に相手を見下すような発言をする。そのため反感を買いやすく、人柄的にもあまり良いとは言えない。つまり青桐ガイルは御船艦隊の空気を悪くし、その結束に亀裂を入れる存在である。いずれ彼のせいで艦隊が崩壊する危険性もはらんでいる。そうならないよう、みんなには仲良くしてほしいが……さて、どうなることやら。継承戦を勝ち抜くためには、ただ戦いに優れているだけではダメだ。人間関係こそ強さの基盤。それを知る御船真瀬は、次なる試練が訪れたことを察していた。

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