※この作品はR-18です。

ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡   作:形のない者

23 / 30
第三章
第十九話/試練


《第三章》

 

 第十二回継承戦・三番目。いよいよ今回が最後の海戦となる。決戦の時だ。天変地異を知らせる浮雲のたなびき。暗雲立ち込めるは危険の前兆。その眼下に広がる無辺の冥海にて。そこはエリア23・セクター9・中央部の海岸沿いに建設された御船艦隊専用船渠(ドック)である。作戦会議室に集うアドミラルたち。その場にいない副艦隊所属のアドミラルたちは通信機の映像越しに作戦会議に参加する。

 

 まずは海域のマップを確認。次いで敵艦隊の名称と数を把握。途中、艦隊編成の報告を挟み、全体的な作戦を知らせる。

 

┌──┬───┬───┬───┬───┬───┬──┐

│■■                       │

│■■⑤          ■■■④     ①■ │

├■■■                   ■  ┤

│■■■  ②■■■■               │

│■■■    ■■■■◎             │

├ ■       ■■■■            ┤

│          ⑦■■■■          │

│            ■■■■⑥        │

├ ■                       ┤

│■③                     ⑧■│

│■                      ■■│

└──┴───┴───┴───┴───┴───┴──┘

 

《補足》

 □=海 ■=陸

 ◎御船艦隊専用ドック ①ステラ副艦隊専用ドック ②ファル副艦隊専用ドック ③青桐副艦隊専用ドック

 ④ルナ艦隊 ⑤ジャン艦隊 ⑥アル艦隊 ⑦辰宮艦隊 ⑧大崎艦隊

 

《詳細》

 

 選民派・ルナ艦隊 “総提督”ルナ・ティンデル アドミラル総数515名 

 選民派・ジャン艦隊“総提督”ジャン・ランヌ  アドミラル総数515名

 選民派・アル艦隊 “総提督”アル・ヴィルダ  アドミラル総数515名

 終末派・辰宮艦隊 “総提督”辰宮乙姫     アドミラル総数515名

 全人派・大崎艦隊 “総提督”大崎甜花、“悪魔副官”デビ太郎、“参謀剣豪”社野凛世、“切込隊長”小宮果穂、“遊撃手”芹沢あさひ、“青嵐の炎”風野灯織、“海色の戦乙女”浅倉透、“毒薔薇の聖母”田中摩美々、“瞬光剣士P”アスベル・ラント(ほかソフィ、シェリア、ヒューバート、パスカル、マリク、リチャード、ラムダetc)、“死ぬ気の船乗り”沢田綱吉(ほかリボーン、獄寺、山本、了平、ランボ、雲雀、クローム、京子、ハル、ビアンキ、イーピンetc)、“幻の美形”ライ、“漆黒の狂犬”マーヤ・ディゼル アドミラル総数570名以上

 

《艦隊編成》

 

 “本艦隊”

 中型艦“総提督”御船真瀬

 中型艦“参謀”カトリーナ・オーケルフェルト 異名は“切れた斧”“灰色の秀才”“灰色の頭脳”など

 中型艦“切込隊長”槐新

 中型艦“料理人”ルチア・オリーヴェ

 小型艦“整備士”モニカ・ランドール

 小型艦“諜報員”藤本さち

 中型艦“化学者”ヴィエナ・アウッティ

 中型艦“護衛役”古謝椎奈

 中型艦“戦闘員”桃原咲亜矢

 

 中型艦“切込隊長”海月結衣

 中型艦“副隊長”ヘレナ・シャノン

 中型艦“戦闘員”シャーロット・ソールズベリー

 

 小型艦“遊撃手”ジジ・ヴァイオレット 異名は“青い閃光”

 

 大型艦“狙撃手”ミハイル・スルコフ

 中型艦“狙撃手”エドガー・フェザーストン 異名は“金色の鋼”

 小型艦“観測手”ニコラ・ハドソン

 

 “副艦隊のコンセプトは圧倒的な機動力”

 小型艦“副提督”ステラ・パレット 異名は“慧眼の鷹”

 中型艦“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルト

 小型艦“世話役”フロラ・パッソーニ

 

 小型艦“切込隊長”茅森漣 異名は“赤い疾風”

 小型艦“戦闘員”アレックス・ベーレンズ

 小型艦“戦闘員”ビビアナ・サリニャーナ 異名は“落葉の桜”

 小型艦“戦闘員”エルシェ・リオハス

 

 “副艦隊のコンセプトは機能的な適応力”

 中型艦“副提督”ファルファラ

 中型艦“軍師”本多正信 異名は“大空の覇者”

 中型艦“参謀”クロエ・カルディナーレ

 中型艦“切込隊長”ペネロペ・ブルローネ

 中型艦“副隊長”ジュリオ・フェーデ

 中型艦“戦闘員”クリス・ベーレンドルフ

 

 “副艦隊”

 中型艦“副提督”青桐ガイル

 

 “アドミラルの総数”

 著名(ネームド)アドミラルの人員:30名

 無名(マリーン)アドミラルの人員:660名 振り分け‐本艦隊352名 ステラ副艦隊154名 ファル副艦隊132名 青桐副艦隊22名

 

《作戦》

 

 継承戦・三番目。今回が第十二回継承戦、最後の海戦となる。どの艦隊も今までの戦いで各派閥の艦隊を吸収しており戦力は巨大化している。その中で副提督を使用しているチームは御船艦隊のみ。戦力を小分けにするデメリットは各個撃破されることにあるが、そのぶん「各副艦隊が敵艦隊を倒して吸収すれば即戦力にできる」というメリットがある。今回はそれを有効活用するため、三正面作戦を行う。つまり三つのバラバラな場所で、それぞれが戦い勝利する作戦である。

 

 本来これは愚の骨頂の策である。古代兵法書においても「操軍において最も大事なことは自軍を一点に集中させること」と繰り返し記されている。では何度も繰り返し言い含めるのはなぜか。それは兵士ひとりひとりが脆弱だからである。基本的に兵士は弱い。単体では何もできない。単体で戦局を覆す《英雄》にはなれない。だが兵士が集まればそのぶん力を増す。割り箸一本を両手でへし折ることはできても、三本束ねれば折ることは難しくなる。束ねれば束ねるほど強固になる。

 

 しかし御船艦隊ではどうだろう。たしかに単体では弱い兵士は数多く存在する。だが単体で戦局を覆す英雄的存在はたしかにいる。ジジ・ヴァイオレット、エドガー・フェザーストン、ビビアナ・サリニャーナ、カトリーナ・オーケルフェルト、クレーメンス・オーケルフェルト、ミハイル・スルコフ、本多正信。どれも卓越した操艦能力や強力なスキルを武器にするアドミラルだ。彼らを適切な戦場に配置すれば、たとえ戦力が分散した状態でも勝てる見込みはある。

 

 そこで茅森漣が指摘した。わざわざまどろっこしい分散戦術をしなくても、みんなでまとまって戦うのじゃダメなのかと。もちろん全員で一致団結して戦った方がシンプルに強い。だがそのぶん御船艦隊は粒ぞろいなので、周囲の敵艦隊が共闘して囲い込んでくる恐れがある。よって、わざわざ戦力を分散させる目的は副提督の代理吸収もそうだが、周りからのヘイトを逸らす意図も含まれている。

 たとえば、そこに強い奴が一人いて、ほかに自分と同じくらいの強さが二人いた場合、まずは同じ強さの二人と協力して強い一人を倒そう……そう考えるのは継承戦においてセオリーとも言える。今回このセクターで最も強い勢力を有する存在は御船艦隊であるため、そういったセオリーを避けるために分散戦術を行う。

 

 続けて茅森漣が指摘する。「でも俺なら、そんな強い御船艦隊がばらけてきたら、副提督を各個撃破して吸収しようと思うけどな」まさにそこである。そういった茅森漣のような考えを見越して、“総提督”御船真瀬は具体的な作戦行動を告げる。

 

 ②ファル副艦隊は⑤ジャン艦隊とドックの距離が近い。そのため戦闘は避けられず、逃げることも難しい。よってここは思い切って正面衝突する。そして勝利した場合は御船艦隊との合流を急ぎ、旗艦さえ討ち取られていなければ敗走した場合も御船艦隊との合流を目指してほしい。

 

 ①ステラ副艦隊は◎御船本艦隊と④ルナ艦隊、そして⑥アル艦隊と距離が近い。おそらくルナ艦隊は旗艦・御船真瀬を真っ先に狙ってくるため、御船本艦隊はルナ艦隊と正面衝突する。その際、アル艦隊が横槍を入れて旗艦を掠め取ろうとしてくるだろう。それを防ぐためにステラ副艦隊はアル艦隊と正面衝突してほしい。

 

 最後に③青桐艦隊は、⑦辰宮艦隊に早々に吸収されるだろう。それでも大事な役割がある。辰宮艦隊は御船艦隊の生存を一隻足りとも許さず狙ってくる。たかがミジンコレベルの小規模艦隊でも逃さず“総提督”辰宮乙姫はたたきつぶしにくる。よって青桐艦隊は東へ逃げ続けて、できるだけ時間を稼いでもらいたい。もし辰宮艦隊が北上すれば②ファル副艦隊と⑤ジャン艦隊の戦いに横槍を入れて乱戦に持ち込まれる。それだけは避けなければならない。

 

 ちなみに全人派の⑧大崎艦隊については、既に御船真瀬が話(・)を(・)通(・)し(・)て(・)あ(・)る(・)。「御船艦隊は大崎艦隊と同盟を結び、共にアル艦隊を討つ。ルナ艦隊についてはステラ副艦隊が当たるため、御船艦隊はすぐに合流できる」「わかった」……というように。通信は指向性チャンネルを使用したため、◎御船艦隊専用ドックと⑧大崎艦隊専用ドックの直線上に位置する⑥アル艦隊は、その通信を傍受して対策を取っているはず。

 

 そこで茅森漣が指摘した。「それって嘘になるんじゃ? 実際のところ御船艦隊はルナ艦隊と当たって、ステラ副艦隊はアル艦隊とぶつかるんだろ?」その通り。つまり大崎艦隊に言ってアル艦隊が傍受した同盟条約は真っ赤な嘘である。だがそれは大崎艦隊も承知している。それはなぜ? 傍受される心配のない①ステラ副艦隊専用ドックの方から指向性チャンネルで通信を送り「先ほどの通信はアル艦隊を釣り上げるための嘘である」と知らせて、今ここで話している作戦と全く同じことを伝えているからだ。それにジュリオは「姑息なことだ」と不平を漏らす。御船真瀬も姑息な手段であることは認めるが、これは敵艦隊の集団安全保障作戦を回避するために必要なことであると説明する。やや言い訳がましいが、戦争における騙し合いとはそういうものだ。まさに遠きに交はり近きを攻む。

 

 そしてアル艦隊は、おそらく同じ選民派のルナ艦隊に「御船艦隊は大崎艦隊と同盟を組んで私の艦隊を倒しに来るから、ルナ艦隊は南下する御船艦隊の背後を突いてほしい。一緒に挟撃しよう」などといって共同戦線を張ってくるだろう。そこで御船本艦隊は、そのつもりで動いているルナ艦隊に奇襲を仕掛ける。

 

 作戦説明は以上。戦闘禁止期間が終了し、全艦隊は発艦する。本来は圧倒的に不利な状況と言われる三正面作戦を敢えて行うとどうなるのか。御船真瀬の戦術眼は、遥かな先を見据えていた。

 

          §

 

 御船艦隊は中東部海域に進出。北方より現れたルナ艦隊と激突。そこで敵艦の“総提督”ルナ・ティンデルが御船真瀬個人に向かって私怨の叫びをあげた。「御船真瀬! お前だけには絶対に負けない! 選民派の私が勝ってマスターアドミラルになって、おまえを惑星ノアに置き去りにしてやる!」

 

 御船真瀬とルナ・ティンデルは知り合いだった。というのもルナは、御船真瀬の親友イザヤの妹である。ルナは兄イザヤが死んだのは御船真瀬のせいだと思っており、それゆえ御船真瀬を憎悪し敵視している。しかしイザヤの死因は海難事故だ。しかもその海難事故で御船真瀬の家族も死んでいる。よって御船真瀬も同様の被害者である。自然災害を個人の所業と結び付けるのはあまりにも可哀想だ。しかしルナは否と叫ぶ。なぜならその海難事故を引き起こしたのは御船真瀬自身なのだから。それはどういうことか。アドミラルの脳波に詳しい者たちはハッと何かに気付く。

 

 人間はアドミラルとして覚醒する際“海の力”に目覚める。極端に脳波が増強し、周囲の自然(特に川や海といった水回り)に人知を超えた影響を及ぼす。つまり御船真瀬は家族と親友イザヤと旅客船に乗っている時にア(・)ド(・)ミ(・)ラ(・)ル(・)と(・)し(・)て(・)覚(・)醒(・)し(・)た(・)のだ。そして大半の人間は、いきなり覚醒した強力な脳波をコントロールすることはまず不可能であり、しかも覚醒した場所が水辺近くであれば何かしらの水難事故が必ずと言っていいほど発生する。────そう、旅客船を沈めた高波の正体は、御(・)船(・)真(・)瀬(・)の(・)脳(・)波(・)が(・)呼(・)び(・)込(・)ん(・)だ(・)人(・)為(・)的(・)な(・)災(・)害(・)なのである。

 

 そうは言っても御船真瀬に完全なる非があるわけではない。覚醒する時なんて誰にも分からないし、酷なことだがこれは運が悪すぎただけ。つまりやはり事故である。そう言って仲間たちは御船真瀬を庇うが、それを認めきれないルナ・ティンデルは兄を失くした心の痛みに耐え切れず、涙を流すことが特殊スキル発動の条件となり、復讐怒涛の勢いで御船艦隊を追い込んでいく。

「私のお兄ちゃんは溺れて死んだ! 御船真瀬に見殺しにされたんだ! だからアンタにも同じ苦しみを与えてやる! 特殊スキル(コード)・示指涙々(ししるいるい)のギアス!」

 ルナ・ティンデルの涙と共に発動した“海の力”は、周辺の海域に海面上昇を促し、大規模な高波を発生させた。それはルナ自身をも巻き込んだ自爆同然の攻撃だった。遠方から島一つを呑み込むレベルの高波が接近してくる。これに巻き込まれれば御船艦隊とルナ艦隊ともども無事では済まない。下手をすれば死亡者が多発する。高波到達まであと一分。“総提督”御船艦隊は恐怖絶死の鳥肌が立つ中、焦りを含む絶対命令を発令した。

「全艦、生存行動を命令する! これはルナ艦隊にも告げる命令である! 大型艦と中型艦は小型艦の盾となれ! 全てのアドミラルはライフジャケットを身につけろ! そしてバトルアーク内部に身を隠せ! 海に放り出されればバトルアークにぶつかって怪我……いや、死ぬ可能性が高い! 戦闘中止! 戦闘を中断しろ! 全艦、敵味方の区別なく、助けを求めている者を助けるんだッ!!」

 その必死の号令はほとんどのアドミラルに届いた。ただ“復讐の妹”ルナ・ティンデルだけは、中型艦を疾駆させて旗艦・御船艦隊に差し迫っていた。

「御船真瀬ぇえええ!」

 両者のバトルアークが激突する。ルナ・ティンデルは自らのバトルアークを放棄するつもりで跳躍し、御船艦隊のバトルアークに乗り込んだ。継承戦の規約上これはルール違反ではない。だが白兵戦は継承戦の中でもまれに見る出来事である。互いの身は結界サークルによって守られている。殺傷行為は不可能であるが、ルナはパーソナルウェポンを抜剣して、御船艦隊も銃剣を引き抜いて鍔迫り合う。

「ルナ! このままでは俺たちは海に放り出される! 頼むから自分の命を考えてくれ!」

「うるさい! お兄ちゃんを見殺しにした奴が、命だなんだと抜かすな!」

 高波が迫る中、刻一刻を争う事態に対し、御船真瀬は覚悟を決めて最後の命令を発した。

「全艦、衝撃に備えろ────!」

 

 空を喰らうような圧倒の高波が到達。それは御船艦隊とルナ艦隊に覆いかぶさって万物を薙ぎ払い、一息に呑み込むように全てを浚っていった。

 

          §

 

 円錐の陽が射し込む海中にて。意識を失ってもなお、結界サークルは溺死や圧死から守ってくれる。結界サークル内部に残存する酸素と空気圧が二人の命を繋ぎ留める。御船真瀬とルナ・ティンデルはゆっくりと水底に沈んでいき、やがて沈没船の甲板に背中をあずけた。そして自動的に開かれるハッチ。エアロックの空洞に向かって水流が発生し、二人の体はふわりと浮かんで水の流れに従い吸い込まれていく。やがてエアロック内の海水が排出され、沈没船の内部に通じる方のエアロックが開かれる。御船真瀬は朦朧とする意識の中、その先から歩いてくる老人の姿を見た。

 

          §

 

 御船艦隊とルナ艦隊の激突から数時間が経過した頃。御船真瀬は目を覚ました。使い古されたという表現には合わないボロ切れのようなソファの上で寝ていた御船真瀬は、その傍らにルナ・ティンデルの寝顔を見つける。そこで老人の寂れた声が船内に響いた。

「先刻の高波は人為的に引き起こされたものではない。さすがにその娘のギアスがあっても、あれほどの高波を起こすのは無理がある。よって先の高波は遅かれ早かれ両艦隊を襲っていた。つまりその娘は高波の矛先を御船真瀬、お前に向けたに過ぎない」

 御船真瀬は問いかける。あなたは何者なのかと。

「わしは“海の翁”という」

 それは海月結衣と青桐ガイルの話に聞いていた名前だった。ということは、この沈没船は────

「第十三隻目の方舟、アーク・ブルーアース……」

 ともかく御船真瀬は助けてくれた礼を言う。そしてみんなと合流するためにはどうすればよいか考える。

「なに。結界サークルを使って海上に向かい泳いでいけば良い。だが彼女を背負って行くのは少しばかりキツイだろう。彼女が目覚めてからでも良いと思うがね?」

 そうはいかない。聞けば高波に襲われてから数時間が経過しているという。御船艦隊とルナ艦隊はどうなったのか。まさか高波にさらわれて……そこで御船真瀬は嫌な想像を起こすより先に、みんなの無事を確かめるため手足を動かした方が良いと悟った。御船真瀬はルナがまだ気絶している間に出発しようと考える。そこで海の翁に振り返り、海月結衣と青桐ガイルが探している旨を伝えた。できれば二人に会わせたいため、海の翁も連れて行きたいと話す。

「いや、わしはこの方舟を置いていくことができない。なに、そのうちまた会えるさ」

 

 海の翁の正体は謎に包まれている。沈没船の中で何をしているのか。どうやって生きているのか。全ては未知のままだが、今は継承戦に勝ち残ることが先決だ。御船真瀬はエアロックに近付く。そこで気密扉一枚を隔てた先から水流の音を聞き、排水の音を聞いた。────誰かが外から入ってきた。海の翁は言う。「考えられる来客としては、おぬしらの救助隊くらいか」

 

 排水が完了してエアロックが開く。そこで御船真瀬は安堵を覚える面々を目にした。槐新、モニカ・ランドール、藤本さちである。その後ろに海月結衣、青桐ガイルがいて、さらにミハイル・スルコフ、クロエ・カルディナーレ、ペネロペ・ブルローネ、ジュリオ・フェーデも並んでいた。

 

 彼らから事情を聞けば、東方より襲った高波によって御船本艦隊とルナ艦隊は西方の海域に流されたあと、とても強い引き波によって各アドミラルは各地に散らばってしまった。同時期、ジャン艦隊と交戦していたファル副艦隊は高波の余波に巻き込まれて戦闘を中断、両艦隊は仕切り直しの撤退を強いられた。そこで“副提督”ファルファラは、高波によって大打撃を受けた御船本艦隊とルナ艦隊の救援要請を受け取って、すぐにそこへ向かった。そして的確な指示による懸命な捜索活動と救助活動により、御船本艦隊とルナ艦隊、全員の発見と救出に成功。現在ファルファラは総提督代理として御船艦隊を率いており、ルナ艦隊とは一時的な停戦交渉を確約させている。ルチア・オリーヴェは医療班として高波によってダメージを受けたアドミラルたちを敵味方の区別なく治療しており、ほか動けるアドミラルは依然として継承戦は継続中のため、哨戒班を組織して専守防衛に当たっているという。ただ唯一問題なのは、旗艦・御船真瀬のバトルアークがまだ見つかっていないこと。バトルアークが沈めば継承戦の規約上、敗北となるが、まだ御船艦隊は敗北したという報告を受けていないため、おそらく今もまだ旗艦・御船真瀬のバトルアークは海の上を漂流していると思われる。しかし御船真瀬はそんなことより、全員が無事であるという報告に心の底から安堵していた。それは自分たちも同じであると、御船真瀬の身を案じていた槐新、モニカ、藤本さちも、ようやくの安心を得る。

 

 ────しかし、何かがおかしい。おかしいのはピリピリとした空気感。まるで今から剣呑な戦いが始まるかのような異質な空気を御船真瀬は敏感に感じ取っていた。それは槐新も同様である。安堵するあまりよろめいた御船真瀬を受け止めるため槐新が肩を貸す。そのとき御船真瀬の耳元に小声で囁いた。

(真瀬。結衣と青桐、そして終末派の様子がおかしいことに気付いているか)

(……あぁ。気付いている)

(こいつらの殺気は継承戦に対するものじゃない。だって俺たちは派閥は違えど今は同じ御船艦隊だ。なのに青桐とミハイル・スルコフは腰のパーソナルウェポンに手を添えて臨戦態勢の構えを取っている。結衣もそうだ。クロエとペネロペも様子がおかしい。唯一、呑気な顔をしているのはジュリオくらいだ。真瀬はこれをどう思う?)

(…………わからない。ただ、何かがヤバイことは分かる)

(だよな……俺もだ)

 

 槐新は御船真瀬を抱き起こし、適当な掛け合いをする。それで小声での会話を誤魔化すつもりでいた。しかしひそひそと話していたことを見逃すミハイル・スルコフではない。彼女は海の翁に向かってコツコツと靴音を鳴らして接近、不意に青桐ガイルがパーソナルウェポンに手を置いた瞬間、事態は一変した。

 

 パーソナルウェポンの銃剣を向け合う海月結衣とペネロペ・ブルローネ。そして青桐ガイルとクロエ・カルディナーレ。あっと驚くモニカ・ランドールと藤本さちとジュリオ・フェーデは何が起きているのか分からず混乱している。一方、槐新に肩を貸してもらっている御船真瀬は、何も分からないなりに先見の明とも言える推測の予感で先回りして、ミハイル・スルコフと海の翁の間に割って入った。

 

「……そこをどいてください。“総提督”御船真瀬さん。終末派の最高幹部である私、ミハイル・スルコフは、そこのご老人に用があるのです」

 

「……その割には穏やかな雰囲気じゃないな。まるでこれから殺し合いでもするかのような瞳の尖り具合だ。この老人は俺とルナの命の恩人でもある。手荒な真似をするというのなら、こっちも黙ってはいない。それに継承戦規約において一般市民に対する暴力行為は当然、反則だ。たとえ海底の中でも継承戦の運営管理を担うAIエムザラの目は届いている。考え直せ」

 

「考え直せ……ですって? まずそこのご老人は《一般市民》などという安い存在ではありません。彼こそはロタス教の発端となった諸悪の根源。救済の元凶。一千年前に死んだはずの亡霊。“海の力”の“達成人”にして、もはや人の身を逸脱した不老不死の英雄。かの旧約聖書に記される人物と同じ名を騙る存在────名を、ノ(・)ア(・)=(・)ブ(・)ル(・)ー(・)フ(・)ィ(・)ー(・)ル(・)ド(・)と申す傑物なのですから……」

 

          §

 

「ノア=ブルーフィールド……だと?」揺らぐ声で驚きの名を口にしたのはジュリオ・フェーデだった。彼は何が起きているのか分からず、上官であるミハイル・スルコフに詳細な説明を求める。この話は長くなるため省こうと考えていたミハイル・スルコフは、しかし海底の沈没船という暗(・)殺(・)に(・)は(・)好(・)都(・)合(・)の(・)舞(・)台(・)に、これ以上の邪魔者は現れないと判断して、無知なる者共に歴史を語った。

 

 地球時代。海面上昇によって陸地を逐われつつあった人類は、十三隻の方舟に乗り込んで惑星ノアに移住するという壮大な地球脱出計画────作戦名:Paradise Immigration(パラダイス・イミグレーション)を打ち立てた。しかし人類は一致団結とは行かなかった。各国は方舟の建造に表向きは協力していると見せかけて、水面下では惑星ノアに移住した先で国家の衰弱を回避するため足の引っ張り合いをしていたのだ。富、利権、名誉、民族、国家、イデオロギー。地球時代の負の遺産とも呼ばれるそれを根こそぎ惑星ノアに持っていくつもりだった各国の首脳陣は、やがて戦(・)争(・)を(・)始(・)め(・)た(・)。

 

 半ば奇襲も同然に戦争を始めて右(・)の(・)ナ(・)プ(・)キ(・)ン(・)を(・)手(・)に(・)取(・)っ(・)た(・)存在は神聖ブリタニア帝国だった。彼らは宇宙探査機の調査結果から「一千年後に惑星ノアも海面上昇が起きる可能性がある」という情報を絶対のものとして確信すると即座に行動を起こした。一千年後に海面上昇が起きて、また別の惑星に移住するのであれば、きっとその時は方(・)舟(・)の(・)所(・)有(・)権(・)こ(・)そ(・)が(・)世(・)界(・)を(・)牛(・)耳(・)る(・)鍵(・)に(・)な(・)る(・)と考えたのだ。そのため各国共同で進められていた十三隻の方舟の建造が完了した途端、神聖ブリタニア帝国は突如、全世界に向けて攻撃を開始、十三隻の方舟を奪い始めた。これが第一次方舟大戦の始まりである。

 

 そのあたりの歴史を語ると夜が来てしまうため割愛。この戦争の決着は、ゼロと呼ばれる仮面の男が、悪逆皇帝ルルーシュを討ち取ったことで終息した。この事件をゼロ・レクイエムという。その後、人類はゼロを中心として一致団結し、十三隻の方舟を並列稼働させることに成功した。

 

 が、そこでまた事件が起きる。カギ爪の男なる人物が「世の中から争いをなくす」と謳いながら武力による世界征服を目論見、惑星破壊兵器「プリズン・プラネット・デストロイヤー」を開発、それを使用した地球の破壊と再創造を企んでいた。しかしカギ爪の男の同志たちは別の思想を抱いている者が多く、その大半が「地球と共に終わること」だった。つまりカギ爪の男が有する組織は、惑星ノアへの移住を拒否する人間たちで構成されていたのだ。なおこれについて各国は、当初より「地球に残りたい者は残ればいい。その自由意思を尊重する」との声明を発していたが、カギ爪の男が惑星破壊兵器を持ち出してきたので、彼らという組織を無視できなくなった。各国は惑星破壊兵器に対抗するため、方舟の隕石破壊機能等を応用して建造した高度的大戦闘駆動機械・ヨロイを開発して戦いに送り込んだ。そして熾烈な戦いの末、無名の復讐者によってカギ爪の男は討ち取られた。これが第二次方舟大戦の終結である。

 

 立て続けに起きた二度の方舟大戦を生き延びた人類は、ようやく十三隻の方舟に乗って宇宙に飛び立とうとしていた。しかし、まだ問題は起こり続ける。神聖ブリタニア帝国が残した悲惨極まる戦災者……それからなるカギ爪の男の同志たちは指導者を失った途端に暴走を始め、惑星破壊兵器なき今、どうにかして全人類と無理心中を図るため、惑星ノアへの移住を希望する市民を人質に取って方舟の出航を遅らせようとした。各国は民衆の声もあり、人質救出作戦を諦めずことができず、海面上昇により全ての陸地が失われるその瞬間まで人質を救うため戦った。刻一刻と迫る地球水没までのタイムリミット。それまで人質を救出することができなければ方舟は出航する機会を逃して全人類はお陀仏だ。それを避けるためにはどうしても人質を切り捨てる作戦限界時刻を設定しなければならなかった。自分たちを見捨てないでと叫ぶ人質たちの声。

 

 そして、ここからが終末派にとっての本題である。

 

 いよいよ刻限が迫る中、もはや人質を見捨てる以外に道はない……そう各国が判断した時、全人類を代表して一人の青年が立ち上がった。彼の名はジェラルド。エリア6の出身で上官ミケーレ・マンフレディに仕えるロイヤルガードの一員。ナイトメアフレーム神虎を愛用機とし、名誉ブリタニア人でもあるという激動の半生を送った人物。そして仮面の男ゼロとも親交篤く、カギ爪の男とも戦った、まさに二度の方舟大戦を生き抜いた准尉海兵であり、第十三隻目の方舟たるアーク・ブルーアースの最高AIノイアからコードギアスを授かったマスターアドミラルである。

 

 そんなジェラルドは全人類に向けて「俺は旧約聖書に記されるノアである」とうそぶき、人としてのジェラルドの名を捨て、神としてノア=ブルーフィールドの名乗りを挙げた。その“名を騙る”こと自体が、彼の特殊スキル(コード)・絶対救済のギアスの発動条件だった。

 

 絶対救済のギアスは「地球と共に終わりたい」と願う同志だけでなく一般市民にも効力を発揮し、同志たちは人質と共に方舟に乗り込み、同志たちのように暴徒にはならなかった(そして地球に残りたいと願っていた)善良な一般市民までもを方舟に乗せてしまった。そうする以外に人質を助ける解決策がなかったとはいえ、ジェラルドもといノア=ブルーフィールドが行ったこの蛮行は、はたして善か悪か。無論、身勝手に過ぎる悪逆非道な行いである。そうミハイル・スルコフは主張する。人の思考の自由を奪い、強制的に方舟に乗り込ませた。これを悪と言わずなんと言おう。かの旧約聖書に記される聖英雄ノアは、きっと自由意思を尊重したはずだ。自由意思を奪って方舟に乗り込ませたジェラルドがノアの名を騙るなど言語道断である。

 

「そして惑星ノアに到着したとき、ノア=ブルーフィールドは方舟を操艦するために必要なエネルギーである“海の力”を使い切った。すると絶対救済のギアスの効力が途切れる。そこで「地球と共に終わりたい」と願っていた者たちは我に返り、なぜか惑星ノアに連れて来られた事実に憤り、発狂し、悲嘆に暮れ、絶望に打ちひしがれた。愛する地球と共に終われなかった無念! 静かに息を引き取る最期の平穏を奪い去ったノア=ブルーフィールドに対する憎悪! その憤怒が、ロ(・)タ(・)ス(・)教(・)の(・)元(・)祖(・)と(・)な(・)っ(・)た(・)! ニライカナイを信ずるのも、全てはノア=ブルーフィールドに対する怨嗟がゆえ!」

 

 この歴史的事実は《ロタス教聖史書》にのみ記されており、その恨み骨髄は一千年に及ぶ時の渦の中でも脈々と語り継がれてきた。

 ただし絶対救済のギアスについて、その記述を読むことを許されるのはロタス教の教主と一部の最高幹部、一部の敬虔な神官海兵のみである。それゆえ御船艦隊に所属する終末派の面々の中で、未だ新参であるジュリオ・フェーデだけはそれを知らなかった。また、ロタス教は今後二度と同じ結末にならないようギアスの所持者を要警戒しており、ギアスの所持者は不老不死となる運命ゆえノア=ブルーフィールドはまだ惑星ノアのどこかで生きていると確信。よって彼の暗殺計画をずっと画策してきていた。まさに一千年の悲願。復讐。それが今、成就されようとしている。

 

「ニライカナイの信ずる発端、絶対救済のギアスにあり────ゆえに、私はノア=ブルーフィールドを殺します。“総提督”御船真瀬さん。どうかその優しさで同情してくださるのなら、そこを退いてください」

 

          §

 

「それはできない」御船真瀬の第一声はそれだった。ミハイル・スルコフは理由を問う。「人殺しは、許さない」たかがそれだけの理由で対立する道を選ぶと? ミハイル・スルコフは呆れて物も言えなくなった。「……御船真瀬さんらしいですね。もし安易に復讐を否定でもしていたら、次の瞬間には撃ち殺していました」そこでジュリオ・フェーデが待ったをかける。たしかにノア=ブルーフィールドは終末派にとって憎むべき存在だ。しかし関係のない御船真瀬たちまで巻き込んで殺し合うことではない。よってここは矛を収めるべきだと説得する。それに苛立ったペネロペ・ブルローネは「あーあー! これだから生真面目なお坊ちゃんは────嫌いなんだよねぇ!」と叫び、海月結衣の隙を突いて走り出して、隠し持っていたナイフでジュリオ・フェーデの脇腹を突き刺した。「ジュリオ!?」御船真瀬の叫び。次の瞬間、青桐ガイルとクロエ・カルディナーレの白兵戦が始まる。“狙撃手”ミハイル・スルコフは至近距離でスナイパーライフルを構えて照準を覗き込み、御船真瀬とノア=ブルーフィールドの二(・)枚(・)抜(・)き(・)を狙った。そこで槐新が狙撃銃をはたき落としに掛かる。勇気を振り絞った一歩はミハイル・スルコフの狙撃を邪魔して弾道は逸れた。船内の跳弾。ミハイルと槐新の白兵戦。ペネロペはジュリオの腹部からナイフを抜き取り、ノア=ブルーフィールドに迫る。御船真瀬は銃剣で立ち向かいペネロペと戦闘を開始。海月結衣はノア=ブルーフィールドを連れて避難を始める。あわあわと怯えていたモニカと藤本さちは、うめき声を上げるジュリオを見つけて、彼を助けるべくその体を引きずって戦闘空間からなるべく離れる。

 

 そこで青桐ガイルが絶対改竄のギアスを発動。ミハイル・スルコフに青(・)桐(・)ガ(・)イ(・)ル(・)が(・)ノ(・)ア(・)=(・)ブ(・)ル(・)ー(・)フ(・)ィ(・)ー(・)ル(・)ド(・)で(・)あ(・)る(・)と思い込ませることに成功。そのように記憶や視覚情報を改竄した。このためミハイルは青桐ガイルを殺すべく追いかけ始める。ミハイルがギアスに掛けられたことを知ったクロエとペネロペは、ミハイルを助けるため助太刀に向かう。こうして終末派の刺客三人を釣り上げることに成功した青桐ガイルは「しばらく船内を逃げ隠れして撒くから、その間にお前らはジェラルドを連れて逃げろ!」と叫ぶ。御船真瀬と海月結衣は、まさか青桐ガイルは自分を犠牲にしてでも自分たちを逃がすつもりなのかと心配するが、それを察して青桐ガイルは言った。「思い出せ。俺がここにいるってことは、真瀬の指示通り、時間稼ぎどころか辰宮艦隊から逃げ切ったってことだぜ? 俺の逃げ足をなめんなよ! じゃ、またな!」

 

 青桐ガイルが敵の気を引いているうちに合流した御船真瀬(気絶しているルナ・ティンデルをおぶさっている)、槐新、海月結衣、モニカ・ランドール、藤本さち、ジュリオ・フェーデ。その中でも腹部の刺し傷によってケガが激しいジュリオは、このまま海に出れば結界サークルがあっても血を流しすぎて死ぬかも知れないと槐新は推測する。そこでモニカが「ところでなんでさっき、ペネロペのナイフに結界サークルが反応しなかったんだろ?」と疑問を抱く。それは簡単なことだとジュリオは答えた。「完全に油断していた。まさかアイツが僕を刺すなんて思わなかった……」結界サークルは任意発動である。一度発動すれば常時展開しているが、その時のジュリオは継承戦ではないので完全に結界サークルを切っていたのだ。沈没船に乗り込むために結界サークルを使っただろうに、排水が済んだエアロックから出てくる時にわざわざ結界サークルを切るあたり、いちいち細かく真面目な青年である。

 

 御船真瀬は手早く止血を済ませてジュリオの肩を担ぐ。「生きて帰るぞ」……その言葉を聞いたジュリオは、刺されたショックにより青ざめる顔と、朦朧とする意識の中、ぽつぽつと自らの考えを明かし始めた。

「僕は惑星ノアと共に沈みたい。僕にはもう、何も残されていないから」

 御船真瀬はエアロックに向かって歩きながら、隣のジュリオに問いかける。「……本当に何もないのか?」

「あぁ、何もない。僕の家族は海に沈んだ。僕だけを残してニライカナイに旅立った。僕もニライカナイに行きたい。でも死ぬ勇気がないんだ。なんで両親は僕を一緒に連れて行かなかったんだろう……? だから終末派は、死ぬのが怖い臆病な僕にとって、最後に残された救済のしるべなんだ……」

「そうか。でもそれなら……どうして作ろうと思わないんだ?」

「……え?」

「何もないなら、作ればいい。大切なものを、もう一度」

「……なんで、そんな厳しいことを言うんだ。僕はもう疲れたんだ。全人派はそういうところだぞ……ノア=ブルーフィールドもそうだ……生きることを強制するな……」

「……そうだな。それでも俺は、みんなと一緒に生きて行きたい」

「それは……独りが怖いからか?」

「あぁ。もし世界で一番の恐怖があるとすれば、それは孤独だと思う。だから俺は、もし独りになろうとする人がいたら、その人の孤独は尊重するけど、何かの助けにはなりたい。孤立させたくない。全人派はともかく、俺の主張はこんな感じかな。それでジュリオは今、どうしてほしい?」

「……ほっといてくれ」

「……わかった。必ず生きて連れて帰って、しばらくほっとくよ。でも御船艦隊(うち)にはルールがある。それは夕食だけは必ずみんなで同じメニューを食べることだ。だから夜になったら食堂に来てほしい。そしてまたみんなでご飯を食べよう。きっと美味しいから」

「……っ。気に食わないなぁ……君は人の心を盗み見ることができるのかい? 君の戦術眼とは、そういうものなのか……?」

 

 相手の言葉に惑わされず、相手の本心を見抜き、自分の心という名の手を差し伸べる。それができなければ全人派の主張は滑稽な理想論に堕落する。人を知り、他者を知る。それができてはじめて、人は人を助けることができ、他者を救うことができ、時に導き、導かれ……それが全人類の救済に必要な能力であると、御船真瀬は思っている。

 

「────汝、隣人を愛せよ」不意に海の翁ことノア=ブルーフィールドもといジェラルドが口にした。

 

          §

 

 それから御船真瀬たちはエアロックから外界に離脱。海面に浮上し、バトルアークに乗ってファル副艦隊への合流を急ぐ。これからどうするか。まずはジュリオの治療が先決だ。次にミハイル・スルコフたち終末派の暗殺者が再来した場合を想定する。最後に継承戦における立て直しをどうするか。あれこれと考える御船真瀬。その眼前に、最も恐れていた《結末》が、病んだ笑みとともに姿を現した。

 

「やっほ。御船真瀬くん。やっと会えたね……」

 

 彼女は終末派の辰宮乙姫。その背後には辰宮艦隊を率いているが、やけに数が多い。ふと艦隊の最前列に並ぶ人物の顔ぶれを見れば、そこには“波濤を駆る戦乙女”ジャン・ランヌ、“海賊を討つ正義の海賊団船長”アル・ヴィルダの姿があった。

 

「ルナちゃん。もう起きていいよ。君との作戦、うまく行ったから」

 

 ずっと御船真瀬の背中で気絶していると思われていたルナ・ティンデルがむくりと起き上がる。彼女は御船真瀬の両手を後ろに縛り付けるよう押さえ込み、銃剣を喉元に当てて抵抗を牽制した。

 

 その状態で辰宮乙姫は語る。辰宮乙姫は、同じ御船真瀬を愛したい(殺したい)者同士、ルナ・ティンデルと手を組んだ。ルナ・ティンデルは残念ながら御船真瀬をどうしてか殺したいみたいだけど、辰宮乙姫は御船真瀬に感謝しているから、二年前の恩返しがしたいとずっと思っていたことを話す。そして辰宮乙姫は恩返しのために、航海士の技能を活用して、海面上昇の統計から高波が来る時刻を分単位で推測し、それをルナ・ティンデルに告げておいた。そしてルナ・ティンデルがスキルを使って高波の矛先を操り、御船本艦隊の戦場を荒らさせた。そして御船本艦隊、ステラ副艦隊、ファル副艦隊が体勢を立て直している間に、高波の余波を受けて撤退を強いられたジャン艦隊を奇襲の形で倒して吸収。南回りの航路では青桐副艦隊にまんまと逃げられたけど、その航路の途中にいた大崎艦隊を倒して吸収。予想通り高波の範囲からギリギリ逃れていたアル・ヴィルダの艦隊は撤退を強いられていたため、その隙を突いた奇襲により倒して吸収。残るは御船艦隊とルナ艦隊のみ。あとはルナ艦隊と共闘して旗艦・御船真瀬を討ち取る。最後にルナ艦隊とは正々堂々と決着をつけるつもりだったけど……「どうやらその必要もないみたいだねぇ」

 

 “総提督”辰宮乙姫が指鳴らしで合図を出すと、彼女のバトルアークの隣に見覚えのある中型艦が二隻、寄せられる。それは旗艦・御船真瀬のバトルアークと、旗艦・ルナ・ティンデルのバトルアークだった。

 

「バーン!」

 

 辰宮乙姫のパーソナルウェポンにより、既にボロボロだった二隻のバトルアークは大破、真っ赤な爆発を引き起こす。

 

「きれいな花火……これを真瀬くんと一緒に見たかったんだよね……」

 

 かくして第十二回継承戦・三番目。最(・)後(・)の(・)総(・)提(・)督(・)として勝ち残った辰宮乙姫が継承戦の勝利者となり、第十二番目の方舟たるアーク・ピスケスのマスターアドミラルとなる権限を勝ち取った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。