ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡 作:形のない者
アーク・ブルーアースの甲板にて。御船真瀬は、
「みんなの言い分は受け止めた。その上で“人類救出作戦”に協力してくれる者は名乗り出てほしい」
最初は静かだった。だが最初の一人が名乗り出てから流れは変わってくる。
「“副提督”ファルファラ。“総提督”御船真瀬の作戦行動に追随します」
「……ありがとう、ファルファラ。でも第十二回継承戦は終わったんだ。辰宮乙姫が勝利してね。だから俺はもう総提督じゃない。だからファルファラも副提督じゃないんだ」
「……それでも私にとって、マスターはマスターであり、御船真瀬は御船真瀬であり、ずっと貴方が私にとって、最高の総提督です」
「……ファルファラ……」
「“料理人”ルチア・オリーヴェ。私の“総提督”御船真瀬の人類救出作戦に全力で協力します」
「ルチア……!」
「ふふっ。だってほっとけないもの。それに私たちは元々、御船艦隊だから」
「そうだよ! “整備士”モニカ・ランドール! ルチアに同じく御船艦隊に配属しています!」
「そうともそうとも~! “諜報員兼観察者”藤本さち! 同じく御船艦隊の一員でっす!」
「モニカ……さち……」
「────“切込隊長”茅森漣。総提督に従うぜ」
「漣────あぁ、よろしく頼む。ありがとう」
「礼なんかよせよ。オレはフレッドを助けたいだけだ」
「……それでもだ。ありがとう」
「ぐっ……まぁそれに、真瀬はこんな無茶をする奴だから、ルチアの言う通りほっとけないよな! ほんと!」
「ははは……それについては弁解のしようもないな……」
「……はぁ。まぁこれは、惚れた弱みってやつでしょうかねぇ……。“副提督”ステラ・パレット。全人派への鞍替えを宣言します。“総提督”御船真瀬どの、人類救出作戦の開始命令を下さい」
「す、ステラ!? あなた、何を言って……!」
「ごめん、ジジ。実は前から考えていたんだ。私は本当に選民派でいいのかって。だから今まで、全人派が勝ったら……選民派が勝ったら……惑星ラメクはどんな社会を形成するのかな……なぁんて考えていたけど、なんか終末派が勝っちゃったから。もう派閥どころの騒ぎじゃなくなったな! って。だからかな。吹っ切れちゃった!」
「ふ、吹っ切れたって……そうです、か……ステラは、ずっとそんなことを考えて……私は友達失格ですね。あなたの悩みにも気付けなかった……」
「違うよ! 友達だから気付かせなかったの! 心配させたくなかったし、ジジには継承戦に集中してほしかったし! ……じゃ、そういうことだから。ごめんね、ジジ。────それでお兄さん。私も参加していいんですよね?」
「あぁ。ありがとう、ステラ……」
「……ふぅ。仕方ありませんね。では私はあくまで選民派として“総提督”御船真瀬の作戦行動に協力することをここに誓います。“青い閃光”こと“遊撃手”ジジ・ヴァイオレット、いつでも発艦準備万端です」
「ジジ……! いいのか……?」
「私の友達が戦地に行くと言っているのです。これを置いて一人だけ逃げることなんてできません。それに私は、御船真瀬の分の悪い賭けも、そんなに嫌いじゃないですよ?」
「ジジ……ありがとう」
「え、えっと! “世話役”ヴィエナ・アウッティ! 特に役には立ちませんが、ジジとステラの世話係として、私も一人で逃げ出す訳にはいきません! よ、よろしくお願いします! 総提督!」
「あぁ、ありがとう。ヴィエナ」
「……ふむ。このままでは終末派が勝ち、我が屋敷の家族とニコラとフロラが海の底に沈んでしまうというのか……なんと! それだけは避けなければならない! というわけで“総提督”御船真瀬どの! “金色の鋼”こと“最高の狙撃手”エドガー・フェザーストンが助太刀するぞ! 感謝するがいい!」
「あぁ! エドガーがいてくれると心強いよ。ありがとう!」
「当然だ! 俺は御船艦隊の攻撃の要であるのだからな! ははは! そうだろうフロラ、ニコラ!」
「えぇ、そうですね。坊ちゃんは戦時中となっても相変わらずで何よりです。“世話役”フロラ・パッソーニ、ただいまより“総提督”御船真瀬さんの指揮下に入りました。よろしくお願い申し上げます」
「“観測手”ニコラ・ハドソン。右に同じく御船艦隊の指揮下に入ることを誓います。エドガー坊ちゃんの行くところ我々メイドもあり、ですから」
「フロラ、ニコラ……ありがとう」
「……そうなってくると、陰の大黒柱である“護衛役”が必要だよね? 古謝椎名。本日付で全人派に鞍替えします。ほら、私は家族だけでも救おうと選民派に入っていただけで、別に派閥は全人派でも良かった立場だから」
「古謝……そうだったな。ありがとう」
「もちろんそれだけじゃないよ。みすみす御船真瀬の旗艦を、先に辰宮乙姫に見つけられちゃったんだ。この失敗は絶対に取り返させてもらう。それが私の“忠義”ってやつだからね」
「え、えっと……! 弱さと影の薄さでは負けないよ!? “戦闘員”桃原咲亜矢! 右に同じ理由で全人派に鞍替えするかは分からないけど心は全人派でっす! それで、このままじゃ島のみんなが危ないんだよね? でも総提督に付いていけば大丈夫……ってことでいいんだよね? ね? ね!? それなら協力しまっす! 改めてよろしくお願いします!」
「桃原。ありがとう。安心してくれ。全ての島を巡って人々を回収しに行くつもりだ。それだけの力が方舟にはあるからね」
「……えっと、ジジが行くならビビも行く! “落葉の桜”こと“最強の戦闘員”ビビアナ・サリニャーナ! ジジが初めてデレた男の人である総提督さんに付いていくよ!」
「こ、こら、ビビ!?」
「ちょっとビビ。あなたねぇ……そんな軽々しく「わたしも戦争しに行くー!」ってガキみたいに決められても、元世話役のカトリーナお姉さんとしては非常に非常にすごくすごく困るんだけど……?」
「仕方ないよ姉さん。だって実際ビビはガキだし」
「こらー! カトリーナもクレーメンスも、ビビはガキじゃないもーん! だってこの総提督さんは継承戦で惜しいところまで行ったんだよ? 高波さえなければきっと勝ってたもん! ビビは悔しい! こんな終わり方は納得できない! だからビビも戦うよ! 継承戦は命を落とすこともあるってカトリーナ言ってたよね! それは怖いし嫌だけど、ここで頑張らないと終末派のせいでみんな死んじゃうんでしょ!? だからビビアナ艦隊の総提督として命じる! みんな! ビビに付いてこい! はい、これでみんな総提督の仲間になった! これでいいよね? “総提督”みふね……みふね……なんだっけ?」
「ははは。真瀬だよ。それと、ありがとう。ビビ」
「……つってもさ。こっからはルール無用の殺し合いなんだろ? そんなところにガキのオレたちが行っても……ビビアナはともかくエルシェは生き残れない。つまりこれは
「アレックス……その通りだ。おそらく終末派は命に代えても俺たちを止めに来る。そのためには血を流す覚悟をしなければならない。今からでも怖い者は降りていい。いや、降りるべきだ」
「……オレはビビアナ艦隊のメンバーが好きだ。だからオレはビビアナ艦隊だけでも守れる道を選ぶ。エルシェはどうすんだ?」
「わ、わたしは……っ……怖いし、降りたいけど……でも、ここで逃げたら、私の家族が海に沈んじゃう……だからここは、何が何でも戦わなくちゃならない……だから、あの、その……わたしはたとえ、お兄さんが宣戦布告をしなくても、きっとわたしが同じようなことをしていました。だから……“戦闘員”エルシェ・リオハス。いつでも戦う準備はできていますっ! はわわ……」
「────ありがとう、エルシェ」
「……これで自動的にアレックスも行くことになったわけだ。それじゃあ僕も行こうかな。“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルト。いつでも“総提督”と“副提督”の指示には応じられるよ。ハァ。これで僕もテロリストだ……」
「ちょ、クレーメンス、あんた……!」
「姉さんもそろそろ覚悟を決めなよ。こればっかりは楽して生き残れる道じゃないよ。御船艦隊から離れて船に乗っても、僕らがいないせいでビビアナたちを見殺しにしたらきっと後悔が残る。僕は楽して生きるより、さすがに友達が死ぬのを見過ごして生きるのは嫌だな」
「っ~~~~! だぁもう! 私だってそうよ! あぁもう腹を決めたわ! “参謀”カトリーナ・オーケルフェルト! 私たちを使い捨ての駒にしたらタダじゃ済まさないわよ、この大馬鹿総提督! 歴史に名を遺す大罪人として一生後悔してなさい!!」
「クレーメンス、カトリーナ……ありがとう。大丈夫だ。絶対に誰も死なせない。なぜなら俺が目指す戦いは、みんなを救うことなんだから」
「……はぁ。みんなを救うねぇ……それを本当に実現させるためには、一つも駒を無駄にすることはできないってことでいいんだよな? 総提督……。────“戦闘員”アレックス・ベーレンズ。ビビアナ艦隊として人類救出作戦に協力させてもらうぜ。かといって全面的に協力するわけじゃない。ヤバイと思ったら引かせてもらう。そのつもりでいろよ」
「アレックス……妥当な判断だ。成長したな」
アレックスは案外、頭の柔軟性が高い。相手の特徴を本能的に見抜く力が最初からあったことに御船真瀬は気付いていた。たとえば筆記問題だと、エルシェは引っ掛け問題に弱いが地頭はあるぶん、アレックスは地頭が足りないがひっかけ問題に引っかからない直感的才能が見え隠れしていた。その素養を伸ばすためには経験と知識が必要で、御船真瀬は時折アレックスを指南していた。そうすれば指揮官としての才能が伸ばせると判断したからだ。その思惑は成功していた。茅森漣と同じタイプの息つく暇のない連続攻撃を得意とする攻撃型アドミラルと思いきや、意外と相手の弱点を見極めて攻撃する技巧派アドミラルだったのだ。まさに隠れた逸材。そんなアレックスは本物の戦争を前にして危機感を抱いたことで、戦争の本質を直感的に捉えることにより、隠れた才能が開花した。その瞬間を目の当たりにした御船真瀬は、アレックスなら自分がいなくてもビビアナ艦隊を守り抜いてくれると確信を持って信頼を寄せる。
「真瀬くん……とんでもないことしちゃったね。海の翁が一千年前に生きていたノア=ブルーフィールドだということにも驚いたけど……ううん。今は驚いてばかりじゃいられない。いろんなことに驚いて泣いて笑うのは惑星ラメクに行ってからにしよう。というわけで“切込隊長”海月結衣、御船艦隊への配属を希望します。新くんの分の攻撃は任せて、真瀬」
「結衣……ありがとう」
「ではでは、“副隊長”ヘレナ・シャノンも、結衣ちゃんの副官参謀として付いていくしかありませんね~。“総提督”御船真瀬さん、よろしくお願いします」
「ヘレナ。ありがとう」
「っ……わ、わたしも付き合ってあげていいんだからね! やってやろうじゃない人類救出作戦! ぶっちゃけ惑星ラメクに行きたい奴は行って、惑星ノアに残りたい奴は残ればいいのよ! 全人派は救ってほしそうな人しか救わないんだから、終末派はとっとと自分たちだけでニライカナイに行けばいいのに、人類を救うだなんだ言って無理やり心中させてくるんだからたまったもんじゃないわよ! こうなったらもう戦争よ! えぇ、御船真瀬が言うまでもなく私の方から吹っかけてやったわこんな戦争! だから────“戦闘員”シャーロット・ソールズベリー! ダメと言われても勝手について行くわよ! あとこの肩書きやめて! もっといいのちょうだい!」
「ありがとう、シャーロット。そんな君には大事な頼みがある」
「あっそ! ……えっ!? わ、私に、そんな大事そうな頼みって……なに?」
「君はマスターアドミラルのエリザベスと知り合いだったね。彼女に掛け合ってほしいことがあるんだ。全人派が所有する四隻の方舟だけで全ての島々を巡り、惑星ノアへの移住を希望する人類を掻き集めるのは至難の業だ。全てが集まり切る前に食糧が枯渇する。その食糧問題を解決するため、エリザベスの方舟は食糧艦としての役目を担っていたから、君の力添えで人類の掻き集めと食糧生産の配給を手伝ってやってほしいんだ」
「え、えっと……もうちょっと分かりやすく言ってくれない?」
「エリザベスさんに聞けばすぐに分かると思うけど……わかった。一応説明しておく。方舟はマスターアドミラルの脳波によって稼働する。これはバトルアークも同様だ。けれど実は方舟のエネルギーはアドミラルの脳波から生み出されるんだ。つまりエリザベスさんの脳波が生み出すエネルギーだけでは島々を回る航路だけで精一杯で、食糧艦として食糧を生産する設備が稼動しないんだ。つまりその食糧生産設備を、シャーロットの脳波によって稼働させてほしい。これは君の脳波が人並み以上に優れているからこそ頼めることなんだ。エリザベスさんにアドミラルとしての才能を見出されて全人派に勧誘されただけのことはあるんだよ、シャーロットは」
「な、なるほど……? とりあえず私のたぐいまれなる才能でエリザベス様を助けに行けってことね! わかったわ! それじゃあさっそく行ってきます! ……御船真瀬! ちゃんと帰ってきなさいよ!」
「あぁ。次に会う時は惑星ラメクだ。よろしく頼む。“
「イエッサー! わ、私の総提督! ────じ、じゃあね! またねー!」
シャーロット・ソールズベリーは真っ赤な顔をしてバトルアークで駆けていった。
「……ふむ。私は賛同できない。特に御船真瀬のやり口には、断固として反対する立場に在らなければならない」
「本多正信……」
「しかし彼の行いの是非、その罪の断罪は、惑星ラメクに着いてからでも遅くはない。それに本人もそのつもりだろう。逆賊の反英雄となるが、救済の聖英雄となるか……貴様の行く末を見させてもらう。“軍師”本多正信、選民派のアドミラルとして、御船艦隊との同盟を提案したい」
「は!? 本多正信さま、それは……!」
「クリス・ベーレンドルフ。あとは貴様の判断に任せる。まだ私を上官と仰ぐのであれば就いてこい」
「っ……正直、御船真瀬の愚行は断じて許されない行いです。その是非について後回しにし、本多正信さまが同盟を提案するというのは、また意外です……しかし……私は本多正信さまを信じます。それが私の判断です」
「良かろう。貴様はまだまだ未熟だ。御船艦隊の茅森漣とアレックス・ベーレンズに匹敵する発展途上のアドミラルだ。だからこそ見て学べ。────それで、御船真瀬。我が同盟、受け入れてくれるか」
「……! あぁ────その同盟、喜んで承知したい。……ありがとう、本多正信、クリス・ベーレンドルフ」
「ふん。礼を言われる筋合いはない。誰もが口にしないので、私が御船真瀬の罪について言及したが……かくいう私も再び戦術を披露する機会が得られて嬉しいと思っている残酷な女だ。故に今もこの場に残っている。────その点で言えば、なぜ
本多正信は睨むように問い掛ける。
「……私は選民派所属のジャン・ランヌだ。御船真瀬の暴挙は目に余る。なぜ潔く敗北を受け入れなかった。それを糾弾するため、私はアイリスに帰港せず、この場に立っている」
「“波濤を駆る戦乙女”ジャン・ランヌ……君の疑問に答えよう。それは
「間違っている? 何をだ」
「この継承戦そのものさ。人類の行き先を決めるのは個々人の判断によるものであるべきだ。もちろん、それではまとまりきらないから派閥が作られた経緯はよくわかっている。それでも全人派の御船真瀬は、ひとりひとりの“声”に応えたいと思ったんだ」
「……綺麗事だ。理想論だ。その野望を実現できないから、貴様ら全人派は理想に溺れる堕落人と呼ばれるのだ」
「もうそんなふうには呼ばせないよ。なぜなら実現するからさ。全人派は理想主義、選民派は現実主義と、よく言われている。だが、
「なっ……!? 貴様……取り消すのならば今のうちだぞ、今の言葉……!」
「ちょっとちょっと、ここで全人派だとか選民派だとかの思想議論をしている場合? 今は終末派が勝ったんだよ? このままじゃあ私の海賊団が海に沈められちまう。それを避けるためには、敵の敵は味方ってね! “正義の海賊団船長”アル・ヴィルダ! 御船真瀬の暴挙は私たち正義の海賊団の観点からすれば目に余るけど、今は手を取り合うしか生き残る方法がないとあっちゃあ仕方がない! 割り切りも大事さ! 時に正義は法を破る。破らなければ人の命が危ないのであれば、私は破るよ。そこまでルールに潔くはないんでね。なんたってルールは守るもんじゃなくて使うもんだからさ! これでも海賊なんでね!」
「アル・ヴィルダ……それはつまり、本多正信と同様、同盟を結ぶということでいいのか?」
「そういうことさ! で、ジャン・ランヌはどうするんだい? まさかここで戦うとか言わないよね? そんな無駄な時間はないよ。その場合はアル・ヴィルダの艦隊がお相手しよう! 私を置いて先に行け、ってやつだな!」
「……っ。御船真瀬」
「あぁ」
「私は前回の継承戦で、お前に敗北した。ずっとその雪辱を晴らしたかった。その機会がついぞ訪れなかったのは悔しいが……彼女の言う通り、今は言い争っている場合ではなかったな。謝罪する。────“総提督”ジャン・ランヌ。今だけは貴殿の人類救出作戦に加勢の意を示そう。でなければ大勢が死ぬ。それだけは罪の片棒を担いでも、阻止しなければならない大事だからだ」
「……ありがとう、ジャン・ランヌ。……だけど、大丈夫だよ。君との決着は、惑星ラメクで付ければいい」
「……!」
「みんなで生き残ろう。その理想を実現するために、俺たちはこうして手をつないだんだから」
そして最後の一人に視線が注がれる。彼女は御船真瀬を怨敵として、終末派の辰宮乙姫と共闘した仇敵。御船艦隊を敗退に追い込んだ危険人物。されど最後は辰宮乙姫に裏切られた。そんな彼女はどう答えるのか。そこで血を吐くジュリオ・フェーデが待ったをかけた。
「待て……僕も、連れて行ってくれ……」
「ジュリオ!」
「この僕を忘れて会議とは、面の皮が厚いじゃないか……たしかに僕は終末派だ。君たちにとっては敵になる存在だ……それでも信じてほしい。この体じゃあ、しばらく何もできない。あとは見届けるだけだ……この方舟の船室にでも放り込んでおいてくれればいい。そして、もしこの方舟が飛び立つようなら……あとは僕自身の問題、僕が決めるべき選択だ。それについて君たちに関与される謂れはない」
それはつまり自殺宣言だった。その意味を察した一同は息を呑む。彼は終末派として“個人の意思”により生死を決めると言い切った。それは今までの終末派にはなかった意思表明。ニライカナイに行けば人類は救済されるとうそぶき、故に全人類は海底へ沈むべきと謳って勧誘してきた終末派とは異なる、ジュリオ・フェーデだけの
「それと……ルナ・ティンデルだったか。お前は、
「────は?」
「お前は実の兄を御船真瀬に見殺しにされたと言い張っていたが……僕にはどうもそれが信じられない。なぜなら彼は誰かを見殺しにするような性格じゃないからだ。短い付き合いだが、それだけは胸を張って信じることができる。だから君はもっと、彼と話をするべきだ」
「……なによ、それ。アンタに私の何が分かるって言うのよ!」
「わからないさ。だからこうして話をしようと言っているんじゃないか。でも僕にはこれ以上話す気力が続かないし、なにより君が話すべき相手は僕じゃない。もし僕の命を以ておとなしくしてくれるというのであれば、この命を差し出そう。それが御船真瀬に対する僕なりの謝意と感謝だ。まさか終末派の最高幹部たちが暗殺を実行するなんて思いもしなかった。まさか何もない僕に何かを作ろうと手を差し伸べてくれるなんて思いもしなかった。だからこそ……御船真瀬に、チャンスを……、────」
そこでジュリオ・フェーデは意識を失う。失血が激しい中、しゃべりすぎて体力を使い果たしたのだ。それを見たルナ・ティンデルは歯噛みする。もはやパーソナルウェポンも奪われて戦えない身。女の腕では御船真瀬の隙を突いて殺そうにも一撃で仕留めるのは難しい。手こずっている間に捕まってしまう可能性が高い。つまり詰みである。彼女に選択肢はない。これからは御船艦隊の面々に監視されながら、同じ船に同乗することになる。そこで御船真瀬が全員の意思を知ったことで、いよいよ人類救出作戦の作戦会議を執り行おうと声を上げ────
「う゛ぉ゛お゛おい! オレを忘れんな、テメェらぁ!」
突然、アーク・ブルーアースの艦内に通じる扉が蹴り開けられて、中から青桐ガイルが甲板に飛び出してきた。その両肩にはクロエ・カルディナーレとペネロペ・ブルローネを担いでおり、両手を縄で縛ったミハイル・スルコフを足蹴にして蹴飛ばした。
「青桐!?」
「よぉ真瀬ぇ! ミハイルたちは無力化したぜ! ギアスの力に掛かればざっとこんなもんよ! 本物の戦士じゃない若造のアドミラルどもに遅れを取るかってんだ!」
青桐ガイルは、狙撃銃と銃剣とナイフを持つ三人の暗殺者を相手に、艦内という密閉空間で白兵戦を強いられ、これに完全勝利して戻ってきた。その事実に目を見張る一同は、なぜ青桐ガイルはそこまで強いのかと疑問に思ったことだろう。
「なぜなら俺様はアーク・キャンサーの元マスターアドミラルだ! ま、それは
「なに……!? 青桐、それはいったいどういう……!」
そこでジェラルドがあごひげをさすり、懐かしい旧友に挨拶するように微笑んだ。
「ほぉ……ガイルよ。おぬし、記憶を取り戻したのか」
「応よジェラルド! 久しぶりだな! テメェの救済宣言のギアスに掛かったおかげで全部を思い出したぜ!」
青桐ガイルは語る。彼は地球時代、上官にミケーレ・マンフレディを持つ中華連邦出身のロイヤルガードに所属するナンバーズであり、ナイトメアフレーム・ガルドメアを愛機としていた。なんて話しても御船真瀬たちにはちんぷんかんぷんだろう。要するに彼は、地球時代におけるアーク・キャンサーのマスターアドミラルとして選ばれた、ジェラルドの戦友であったのだ。あれから一千年。ギアスユーザーは不老不死ゆえ、その外見は若いまま。そして青桐ガイルは惑星ノアに着いたあと、自分の絶対改竄のギアスによって自らの記憶を書き換えた。自己の記憶を改竄した理由は、惑星ノアで過去を忘れて愉快に楽しく暮らすため。しかし先ほどジェラルドが行使した救済宣言のギアスを受けた時に記憶改竄が解除された。すると地球時代に培って肉体に染み付いた戦闘技術が知識と記憶と共に思い起こされ、閉鎖空間のCQC技術でミハイル・スルコフたちの無力化に成功したという。ちなみに青桐ガイルの家族の話は真実である。といっても彼の家族は地球時代を生きた人間であるため、惑星ノアに移住したあと半世紀を生きて天寿を全うした。
「肉体と肉体の白兵戦において、わしはガイルに勝てたことが一度もない。それほどの武術の達人じゃよ、あいつは」
「そういうテメェは随分と老けたなぁ!? あれか、ギアスの効力を使いすぎて不老不死の不老能力が欠落したのか? まぁ何はともあれ今までご苦労なこった! まさかアーク・ブルーアースを海底に隠して、虎視眈々と様子を窺っていたなんてよ!」
「海底に沈んで動けなかったのは事実だ。もうわしに方舟を動かす力はない。故に方舟を継承できる存在を待っていた……」
「おいジェラルド。大崎甜花はどこいった? まさか同姓同名の別人ってわけじゃないだろう。なんせあの小娘も地球時代におけるアーク・カプリコーンの元マスターアドミラルなんだからよ」
「彼女は先手を打つため先に出立した。もとより彼女はこの世界の人間ではない。気にするだけ無駄じゃ。彼女のことは忘れろ」
「……ここが○ー○の世界ねぇ……ま、たしかに“俺たちの物語”には、あまり関係ない立ち位置かもな、大崎甜花は」
閑話休題。終末派の刺客は捕縛し、青桐ガイルは生還した。御船艦隊の全員が揃った今、御船真瀬は作戦概要を告げる。
§
一方その頃。全人類統一議会本部アイリス周辺は大騒ぎだった。ノア=ブルーフィールドを名乗る謎の声。それに続いて第十二回継承戦に参加していた御船真瀬が勝手に“第十三回継承戦”の開催を宣言した。それはもはや戦争行為の宣言。テロ行為の布告であった。問題なのは、これを真に受けた大勢の人々が総出で危険な海域に漕ぎ出し、アイリスに停泊する十二隻の方舟に乗り込むため一直線にこちらを目指していること。アイリスに辿り着くまでに多くの死人が出るだろう。アイリスの許容人口を超えればその時点で人口飽和し社会システムは崩壊する。終末派の言うニライカナイを待つ前に、人類は自滅の一途を辿る可能性が高い……その演算結果をひょうひょうとエムザラは算出していた。
いつものように“全人類統一議会議長”ノア=ローゼンクランツを軸とする各派閥の会議を開いている時間はない。
全人派代表にしてマスターアドミラルたるカイン=ローゼンクランツは、御船真瀬の“声”に従い、各エリアを回って惑星ノアの島々を全て巡り、方舟に乗りたい者を回収し、最終的にアイリスの港で集合する最適の航路をエムザラに演算させる。その間に他の全人派マスターアドミラルに召集をかける。エリザベス、ルルーシュ・ランペルージ、枢木スザクが集合し、各自、四隻の方舟に乗艦。アーク・タウラス、アーク・リブラ、アーク・サジタリウス、アーク・キャンサーを時計回りの螺旋航路で出航した。
その一方で。選民派代表シェーラ・カーマインは決断を迫られていた。終末派が勝利した以上、潔く敗北を認めて惑星ノアと共に沈む……それが死を覚悟した人間の取るべき姿である。だが同時に、可能性があるならば戦争という愚行を犯してでも生存を勝ち取りたいと思うその醜悪極まる姿さえもまた、人間の本質であると悩んでいた。なぜなら自分たちだってそうやって生き延びた。元弱者の強者。それがシェーラ・カーマインの正体。誰かを蹴落とさなければ生き残れなかった社会で生き抜いて勝ち残った存在。だが、だからこそ、二度と同じ過ちを犯さず、潔く負けを認めてルールを遵守し、この星と共に沈むのが、獣同然の人として、最後の誇りなのではないか。それこそが黄金の精神なのではないか────?
そこで彼女の双子の弟にしてマスターアドミラルたるグレン・カーマインが名乗りを上げる。現在、選民派のマスターアドミラルのうち二名、夜明けのヴァンとレイ・ラングレンが殺人未遂の罪により拘留中。最後の一名、シャルル・ジ・ブリタニアは招集に応じず行方不明。つまり選民派の方舟はグレン・カーマインの一隻しか動かせない。この状況で選民派にできることはなにか。そもそも何もできずとも、何かをやろうとする気概はあるのか。グレン・カーマインは問い掛ける。
「……私は選民派代表として、正々堂々と、そして毅然としていなければならない。いくら終末派の勝利が心情的に受け入れられないからといって、御船真瀬の戦争行為を容認し、これに賛同、しかも味方することは絶対に許されない。そうなれば惑星ラメクに行った先で、また似たような事が起きる。一千年の平和を打ち破れば勝利できる歴史が証明されれば、惑星ラメクは無法地帯となる。それを避けるためには、我々選民派は全人派の御船真瀬を討たなければならない」
「……しかし、姉さん。我がライバルにして全人派代表のカイン=ローゼンクランツからは、我々カーマイン家に向けて協力要請が届いています。同時に終末派代表のアリア・ロタスからは継承戦を冒涜した罪深い全人派を共に討とうという志願書が届いています」
「あぁ、きっとそう来るだろうとは読んでいた。しかし私は……惑星ラメクの明日を見る者として、ここで戦争行為を認めるわけにはいかないんだ」
「では、終末派の全人派掃討作戦に協力すると? 俺はそれでも構いません。いまさら子供のように地団駄を踏んで泣きじゃくる全人派には失望した。我が好敵手カイン=ローゼンクランツは、私の手で討ち取ります。命令があれば、今すぐにでも……。……姉さん?」
「っ……ふぅ……。────翌朝を見て、今宵を逃せば、朝日は昇らず、月夜も廻らぬ……。グレン、我が双子の弟よ。貴様の本意はなんだ」
「────! ……俺は……俺は、姉さんを死なせたくありません。俺は死んでもいい。だが、姉さんだけは……」
「……そうか。そう言ってくれるか。しかし我々は選民派として選ばれた人の命を背負う責務があるッ! 私情に流されてはならぬ! 故に────討つぞ、全人派を。今より選民移民派は終末派に協力して全人類移民派……否、ただの逆賊の徒に落ちた無法者どもを成敗する! これは戦争だ! これに負ければ無法を許す社会が形成される! それだけは避けなければならない!」
「承知! グレン・カーマイン、発艦します!」
そこで驚くべき報告が入ってきた。拘留中の夜明けのヴァンとレイ・ラングレンが牢屋より抜け出して脱獄したとの情報が入ってくる。かくて事態は急展開の様相を見せ始めていた。
その頃。ロタス教の教会・大聖堂にて。終末派代表アリア・ロタスはマスターアドミラルの召集をかけた。それに応じたのは辰宮乙姫のみ。ほか三名のマスターアドミラルであるクー・クライング・クルー、ミハイル・ギャレット、ファサリナは招集に応じず行方不明。アリア・ロタスは、これには困った参ったと首を傾げていた。
「仕方ありません。選民派代表シェーラ・カーマインさんも全人派掃討作戦に参加してくれるみたいですし、そろそろ私も海に出て加勢するべきでしょうか……?」