※この作品はR-18です。

ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡   作:形のない者

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第二話/連戦苦境

 陽が照る海上の波浪。ジジ艦隊を吸収した御船艦隊の下に、観測手の役割を兼任する“諜報員”藤本さちから緊急の伝令が飛び込む。北方よりビビアナ艦隊が高速で接近中。加えて南方より桃原艦隊の艦影を確認するが動く気配はない。その情報を聞いた御船真瀬は即断で状況を把握する。おそらく桃原艦隊は漁夫の利を狙って様子見に徹している。御船艦隊とビビアナ艦隊が激突し、互いに疲弊した絶好のタイミングを狙って奇襲を仕掛けてくると見た。そこで御船真瀬は西南西より東北東に抜ける軟風を確認し、戦闘が苦手な代わり輸送艦の側面を担う中型艦の操艦者“料理人”ルチア・オリーヴェに煙幕弾の用意を伝える。古代兵法書にも“勝ち目のない時は逃げるに如かず”と記されている。御船真瀬は撤退戦の作戦を伝え、いざ御船艦隊は北方に向きを変え全速前進。ビビアナ艦隊とは短期決戦で激突し、敵の実力を把握しつつ、来た道の海峡を抜けてビビアナ艦隊からも桃原艦隊からも逃げ切る作戦を試みる。それはまさに走ぐるを上と為す計略であった。

 

 交戦開始。ビビアナ艦隊は小型艦二小隊を前線に出してかく乱に徹し、御船艦隊の艦隊速度を鈍らせた所に後方の中型艦二小隊が砲撃を加えてくる。その手馴れた連携は怒涛の攻撃となって御船艦隊を苦しめる。そこに旗艦ビビアナ・サリニャーナの小隊が急接近。ジジ・ヴァイオレットに匹敵する機動力で次々と小隊員のバトルアークを撃破していく。敵の猛攻に耐える御船艦隊は全速前進を維持。失速すれば次の瞬間には全滅している砲煙弾雨の中を切り抜けて、ビビアナ艦隊の中型艦二小隊に突っ込む。そこで御船真瀬は煙幕弾の使用を指示。白い煙が西南西の軟風に乗って東北東に流れていく。御船艦隊は濃霧に乗じてビビアナ艦隊との混戦を突っ切り、北方の海峡に到着。後ろを向けば白い霧が立ち篭めており、ビビアナ艦隊が追ってくる気配はない。おそらく霧を避けるため風上たる南方に逃げたのだろう。

 

 かくしてビビアナ艦隊を文字通り煙に巻き、桃原艦隊の漁夫の利も阻止した御船艦隊は、急いで中西部のドックに帰港する。そこには吸収して手駒にしたジジ艦隊がバトルアークの修復に当たっている。彼女たちと合流してバトルアークの整備・修理を急ぎ、次の戦闘に備える必要がある。戦闘禁止期間にはまだ早い。二度の連戦で痛手を被った御船艦隊は、束の間の休息を迎えることにした。その一方で茅森漣は懊悩していた。先ほど煙に乗じて旗艦ビビアナを討てば勝てたはず。その考えが頭から離れず、徐々に御船真瀬の消極的な作戦に嫌気が差しつつあった。

 

          §

 

 エリア23・セクター47・中西部海峡の沿岸・岩礁地帯にて。御船艦隊はジジ小隊の曳航を済ませたステラ小隊と合流し、岩礁地帯の裏に隠れてしばしの休息を取る。そこで御船真瀬はルチア・オリーヴェが作った美味なるサンドイッチを食べながら思案していた。ビビアナ艦隊は強力だ。彼女たちに勝利するためには機動力に優れた艦隊と攻撃力に優れた艦隊が欲しい。前者はジジ艦隊で事足りるが、後者は新たに艦隊を吸収しなければ、到底ビビアナ艦隊に太刀打ちすることはできないだろう。“諜報員”藤本さちによれば、ビビアナ艦隊には五名の著名な(ネームド)アドミラルが所属しているようだ。

 

 一人目は“総提督”ビビアナ・サリニャーナ。桃髪金眼の小五女子。ジジ・ヴァイオレットとは同期にして同年齢、実力伯仲のライバルであるらしい。機動力に特化した小型艦を駆り、ジジに聞けば所有スキルは攻撃と回避のスキルを有するとのこと。おそらく火力ではジジと同規模だが、回避となるとジジを上回るのだろう。実際、先刻の撤退戦では、撤退することを悟られないよう攻勢に徹していたが、御船艦隊の猛攻撃の尽くを躱されていた。しかもおそらく回避スキルを使用されていない状態で完全回避されていた。卓越した操艦能力もさることながら、彼女もまたジジと同様、本能型のアドミラルであり、実力で総提督の座に就いたアドミラルなのだろう。選民派は実力主義なので力があるなら座学は問わない傾向にある。その逆もまた然り。おそらく知略に関しては参謀の務めなのだろう。

 

 二人目は“参謀”カトリーナ・オーケルフェルト。金髪紫眼のお姉さん。中型艦乗り。ビビアナの“世話係”で艦隊の料理担当でもある副官的立ち位置の知略型アドミラル。おそらく作戦の一切は彼女が仕切っている。知略での勝負は彼女との読み合いになるだろう。

 

 三人目は“工作参謀”クレーメンス・オーケルフェルト。青髪紫眼のクールな青年。中型艦乗り。知略型のアドミラル。カトリーナの実弟であり、サボリ魔であるらしい。

 

 四人目は“戦闘員”アレックス・ベーレンズ。赤髪碧眼の小四男子。小型艦乗りで本能型のアドミラル。

 

 五人目は“戦闘員”エルシェ・リオハス。黒髪紫眼の可愛い小五女子。小型艦乗りでアドミラルとしての実力は平々凡々。ただしビビアナ艦隊の練度は相当高く、その卓越した連携能力で撤退戦の際に苦労したように、いざビビアナ小隊とアレックス小隊と組めば決して侮れないアドミラルに化ける。実力の低さを経験とチームプレーで補うタイプのアドミラルと言えるだろう。ビビアナとは幼馴染であり彼女との演習を幾度も積み重ねていることから格上との対戦にも慣れているはず。ビビアナ艦隊の中では個人として突出したものはないが、ゆめゆめ侮るなかれ。

 

 そのとき一発の砲撃音が響き渡り、近くの海面に着弾して水柱を上げる。中型の双胴船(カタマラン)による牽制の砲撃に合わせて、御船艦隊の通信機から選民派を名乗る“総提督”エドガー・フェザーストンなる金髪青目の青年が声高々と宣戦を布告。御船真瀬は「まさか哨戒の網をくぐり抜けてこちらの位置を掴めたのか」そう聞くと、それは“副官”ニコラ・ハドソンによる斥候の賜物だとわざわざエドガーより自慢げに教えられる。そしてエドガーは貴族の誇りに則り、不意打ちや奇襲は卑怯ゆえ行わないと約束し、戦闘準備を整えて正々堂々と戦えと命じる。このまま混乱に乗じて攻め入るものと思っていた御船真瀬はエドガーの気高さに救われた。このまま奇襲を受けていたら全滅とまでは行かずとも大損害を被っていた。そうエドガーに聞こえるよう口にする。一方、エドガーに仕える二人の“世話役”ニコラ・ハドソンとフロラ・パッソーニは、せっかくの奇襲作戦が宣戦布告によって無為に終わったことを嘆くが、それでこそ誇り高い我が主君であると気を取り直した。そして御船真瀬はエドガー艦隊との正面衝突の形になったことに対して、苦(・)肉(・)の(・)策(・)だが岩礁地帯の地形を活かして戦うしかないと作戦を指示する。

 

 御船艦隊は緊急出動。茅森小隊と藤本小隊は先の二連戦で撃破された小隊員の修理が終わっていないため人数が減っている。その隙間を埋めるため合併し、茅森漣が隊長を務め、藤本さち含む隊員が配下に就く。戦闘地形は浅瀬で岩礁地帯。旗艦エドガーの中型艦は火力・耐久力に秀で、双胴船タイプゆえ横幅が広く安定性が高いため命中精度にも優れる。だが岩礁地帯という狭い地形に自ら入ってきたことは失策だろう。たとえ御船艦隊がヒットアンドアウェイ戦法で岩礁地帯から出てきては攻撃を加えて岩礁地帯に引き下がる行動を繰り返したからとはいえ勝利を焦ったか。エドガー艦隊は中型艦を軸としているのか大きなバトルアークが多い。地形を利用すれば小回りの利く小型艦で一方的に攻撃できると踏んだ御船真瀬は、さっそくその旨を伝えて作戦展開を開始する。

 

 迎撃に出たが岩礁地帯に阻まれて身動きが取れないエドガー艦隊は、しかし圧倒的なカノン砲の火力に物を言わせて一撃が轟く砲撃を繰り返す。そのあいだに御船艦隊の小型艦小隊は、岩礁の陰を活用して砲撃を掻い潜り、敵の小型艦小隊を撃滅していく。そして残るはエドガーの中型艦。それに追随する中型艦小隊を倒している余裕はない。旗艦エドガーに狙いを絞り、小型艦の機動力を活かして攻撃を回避しながら畳み掛ける。だがどんなに攻撃を加えても、旗艦エドガーの双胴船、メーカーは黄龍製のバトルアーク、その名もフルンベルは持ち前の耐久力の高さのせいか落ちることを知らない。まさに要塞のごとしバトルアーク・フルンベルを大破させるためには、現状の御船艦隊では圧倒的に火力が足りなかった。

 

 そこでフルンベルの砲撃が岩礁を破壊する。圧倒的な火力は地形をも変化させる。御船艦隊の盾となっていた岩礁が砕け散り、それが海面に散らばることで小型艦小隊の機動力が低下。その間隙を突いてフルンベルの砲撃が“戦闘員”ステラ・パレットを狙った。直撃すれば大破は免れない一撃。ステラは敗北の前に轟く一撃により命を落とす可能性が脳裏をよぎる。次の瞬間、青いバトルアークが颯爽と現れてステラの艦を弾き飛ばすように接触。そのおかげで砲撃は海面に没し、水柱を立てて、ステラとそれを助けたバトルアークの操艦者は無事でいた。助けに現れたのはギリギリで修理が完了した“切込隊長”ジジ・ヴァイオレット。岩礁の破片が浮かぶ海面の上において、障害物など無いかのように駆け抜ける青い閃光は、旗艦エドガーのフルンベルに高速接近してガトリングガンの掃射を浴びせる。御船真瀬は今こそ好機と見てジジに続けと号令を上げる。実力者であるジジ・ヴァイオレットの戦線復帰によって士気が高まった御船艦隊は、今まで押されていた分を押し返す勢いで怒涛の反撃を開始した。

 

 旗艦エドガーは敗北を悟る。だが敗北する理由が分からないエドガーに対し、彼の世話役であるニコラとフロラは教え諭す。敗因は過信。耐久力・火力・命中力ともに優れた高性能の中型艦フルンベルを過信し過ぎた。たしかに圧倒的な火力はその一撃だけで戦局を覆す。しかし覆された戦局を巻き返すのもまた軍師の仕事。エドガーの力押しに対して、御船真瀬は旋回性能の高い小型艦と岩礁地帯を利用したヒットアンドアウェイ戦法によってからくも打ち克った。エドガーは本能型のアドミラルではない。貴族の誇りが傲りを生み、未だ経験が足りず実力と頭脳が発展途上だった。その一方で貴族エドガー・フェザーストンは、この一戦で御船真瀬の戦術眼の素晴らしさを“経験”した。「なるほど……私に足りなかったものは知略だったか」スキル・カリスマを有していても、スキルでもなんでもない戦術眼によって敗北に追い込まれた。その事実を毅然と受け止めた旗艦エドガーは、ジジと茅森漣による怒涛の攻撃を浴びて、ようやく爆発する。旗艦の大破により勝敗は決した。アラートが鳴り響き、エドガー艦隊は継承戦規約に則り、御船艦隊に吸収される。

 

 かくして御船真瀬は、圧倒的な火力を誇るエドガー艦隊を手に入れた。しかし連戦に次ぐ連戦で御船艦隊のダメージは激しい。そこに“観測手”藤本さちの艦影発見報告が飛び込む。

 

          §

 

 “総提督”古謝椎奈が率いる艦隊が接近中。彼女以外に著名のアドミラルは存在せず、現状最弱の不戦生存者と言っていい。それでもジジ艦隊・ビビアナ艦隊・エドガー艦隊との三連戦で疲弊している御船艦隊は、ここで古謝艦隊と激突する道は得策ではない。仮に古謝艦隊と戦って勝利できても、そのあとに待っているビビアナ艦隊とは消耗した状態で戦闘する必要がある。戦闘禁止期間はもうすぐだが、その“もうすぐ”の間に疾風怒濤の速さで撃破される恐れがある。つまりここは戦わず戦力を温存する方がいい。そう判断した御船真瀬は、先ほどのエドガーが行った宣戦布告の逆を取ろうと発想する。何も特別なことではなく、単なる交渉である。

 

 御船真瀬は、先ほどエドガーが行ったように指向性チャンネルを使用し、ビビアナ艦隊に気取られないよう、古謝艦隊に限定して通信する。内容は「お互いに戦闘は避けるべき。その方が互いに利益がある」という申し出。しかし古謝椎奈はそれを罠と勘ぐって信じない。御船真瀬は信頼を勝ち取るためには何をすればいいかと質問。すると古謝椎奈は旗艦たる御船真瀬が単独で古謝艦隊の真横を通り過ぎれば信頼すると約束した。それはつまり、もし古謝艦隊が約束を破れば、御船真瀬の旗艦は討ち取られて御船艦隊は古謝艦隊に吸収されることを意味する。それでも御船真瀬は相手の提案に乗り、単艦で古謝艦隊の真横を通過した。

 

 古謝椎奈は呆れ果てる。そこで御船真瀬が施策したであろう罠の可能性を閃いた。古謝艦隊は未だ戦闘していないが、そのあいだ何もしなかったわけではない。四方八方に密偵を送り込み、情報収集に徹していた。そのため御船艦隊の著名なアドミラルは全て把握している。よって古謝椎奈は、ある罠を想定した。

 

 もしも御船真瀬が総提督の権限をルチア・オリーヴェに譲り、のちのちのことを考えて副官をステラ・パレットとエドガー・フェザーストンに任命したとする。その上で御船真瀬は副提督の権限を得て、今こうして古謝艦隊の真横を通過したとしたら、それは余りにも卑怯で姑息な手段である。そのような小細工をした上で信頼を得ようなど言語道断。そして御船真瀬が現在、副提督の役割に就いているかどうかを調べる手段はある。それは御船真瀬のバトルアークに接触し、最近更新されたデータベースを閲覧すれば、そこに現在の役割が表示される。古謝椎奈は、きっと御船真瀬は現在、総提督と偽って副提督の座に就いているはずだと信じて疑わなかった。

 

 しかし古謝椎奈の推測は大きく外れる。なんと御船真瀬は自らデータベースを提示し、そこには“総提督”の三文字があった。古謝椎奈は頭がイカれていると辟易する。そこで御船真瀬は彼女の考えを当ててみせた。副提督に扮していると思っていたのだろうが、ここで古謝艦隊と戦闘すれば、この先ビビアナ艦隊と戦う時の敗色は濃厚である。ならばここで古謝艦隊に討ち取られても負けるのが早いか遅いかだけだ。加えて御船真瀬は語らなかったが、この短時間の会話で古謝椎奈の心理を推理していた。彼女は御船真瀬をお人よしと思っているのだろうが、それは彼女もまた同じである。義に厚い人物であるため、ここで約束を違えるような人間ではない。故に誠実に徹し、自らデータベースを開示した。最後のひと押しとして「まさか俺は罠に嵌められたのか?」その一言が決め手となった。

 

 御船真瀬は古謝椎奈との心理戦を制した上で無事帰還する。仲間から、特に茅森漣からは、あそこで古謝椎奈が約束を破れば御船艦隊は吸収されていたと激昂されるが、御船真瀬は勝算あってのことだと語る。しかし茅森漣は危険な賭けだったことは事実だと指摘し、御船真瀬のやり方により強い不信感を抱いていた。

 

 そこに古謝椎奈の通信が届く。南方よりビビアナ艦隊が接近中。御船艦隊は北方に遁走すれば戦闘禁止期間まで追いつかれることなく逃げ切ることができると教えてくれる。そこで通信は途切れた。古謝艦隊とビビアナ艦隊の実力差は明白だ。現状の海域において最強と最弱の組み合わせ。御船真瀬は義に厚い彼女を見捨てることができなかった。それだけではない。ここでビビアナ艦隊が古謝艦隊を吸収すれば更に手ごわい敵となる。それを防ぐためにも古謝艦隊を助ける意味があると言って、御船艦隊は全速前進。選民派の古謝艦隊の援護に向かった。

 

 茅森漣は指摘する。そもそもビビアナ艦隊の追撃を避けるために、古謝艦隊と戦っている暇がないからこそ交渉したというのに、これから古謝艦隊を助けるためにビビアナ艦隊と戦うのは筋が通らない。それに御船真瀬は「義には恩で報いたい」と返す。それにやりようはある。決して義に駆られただけで助けに行くわけではない。仁義に無謀で応えることこそ失礼なことだ。せっかく御船艦隊を見逃してくれた古謝艦隊のためにも、御船真瀬の頭の中には多くの策略が止めどなく巡っていた。

 

          §

 

 夕焼けに照る海上のさざなみ。御船艦隊は古謝艦隊と合流する。古謝椎奈は彼の人の好さに微笑んで共闘の提案を受諾。ネームドアドミラルの編成は御船真瀬、ファルファラ、ルチア・オリーヴェ、モニカ・ランドール、藤本さち、茅森漣、ジジ・ヴァイオレット、ステラ・パレット、ヴィエナ・アウッティ、そして古謝椎奈を加えた十名となる。それら十隊長に続く隊員ことマリーンアドミラルの総数は三十名ほど。

 

 対するビビアナ艦隊の編成は、ビビアナ、カトリーナ、クレーメンス、アレックス、エルシェ、桃原の六名。どうやら桃原艦隊は漁夫の利を狙って失敗したあと、ビビアナ艦隊に吸収された模様。そしてマリーンアドミラルの総数は三十名ほど。

 

 数の上では御船艦隊の方がわずかに優っているが、実力の上では圧倒的に負けている。これは戦闘禁止期間が告げられるその時まで持ちこたえる耐久戦になる。御船艦隊は機動力の高い小型艦小隊を横並びに配置して前線に送り出し、そこを防衛ラインとして混戦に持ち込む。後続の中型艦も横並びに配置して、防衛ラインを保つ小型艦小隊を援護する陣形を如く。それは地球時代の艦隊陣形における二重式の単横陣である。

 

 御船真瀬は旗艦ビビアナと同程度の実力を持つジジを当てる。ビビアナとジジは今回の継承戦でどちらが強いか決めようと約束していたらしい。そのためビビアナはジジに気を取られている。ジジほどの実力者であればビビアナを抑えることはできるだろう。そのあいだにほかの艦隊を抑えて時間を稼ぐ。そのために反航戦と呼ばれる交戦体形を維持させる。それは敵味方が常にすれ違うように撃ち合う戦い方。互いに相手に向かって走るため交戦時間が短く済み、引き波によって旋回に時間が掛かるため次の交戦までの時間も稼げる戦法である。特に時間を稼ぎたい御船艦隊には打って付けの戦法であり、あとはこのまま戦闘禁止期間が到来するまで辛抱強く耐えたいところ。

 

 多くの小型艦が行き交い、すれ違い、一瞬の攻撃を浴びせては外す。互いに向かい合うということは相対速度が互いの艦船の合計になるため、そのぶん命中力の低いバトルアークや命中精度の低い操艦者は敵艦に攻撃を当てるのが難しくなる。御船艦隊のモニカ小隊、藤本小隊、茅森小隊、ステラ小隊を相手に戦うビビアナ艦隊のアレックス小隊とエルシェ小隊は、かたや自分の攻撃が全然命中しないことにイライラし、かたや相手が時間稼ぎをしていることに気付いていた。そしてアレックスとエルシェの小型艦二小隊は攻めあぐねるものの、そのコンビネーションによって御船艦隊の小型艦四小隊と互角のまま戦い抜く。

 

 そのとき茅森小隊が突出して旗艦ビビアナに向かっていった。突如として崩れた防衛ラインに焦る御船真瀬は戻るよう指示するが、茅森漣は「今ビビアナはジジに集中している。その隙を突いて倒す!」と豪語して独走する。御船真瀬は速やかな判断を急かされた。現状の防衛ラインにおいて茅森小隊は最も戦闘力が高い小隊である。たとえモニカ小隊や藤本小隊が撃破されても茅森小隊がいればなんとか防衛ラインは維持できる。槐新に次いで攻撃の主力であった茅森小隊を欠いては防衛ラインを維持できない。そのため速やかに茅森漣を連れ戻す必要があると判断して、御船真瀬はモニカと藤本に茅森漣を連れ戻すよう指示する。

 

 高速機動の戦闘を繰り広げる旗艦ビビアナと青い閃光ジジ。互いの実力は伯仲しているが、ビビアナは不満が溜まっていた。それは先程からジジが逃げてばかりでいるからだ。しかしジジは“総提督”御船真瀬の指示に従い、ビビアナを抑える任務を請け負っている。それを無視するような命令違反は許されない。よって二人は延々と続くかのように思われる熾烈な追いかけっこをしていた。そこに茅森漣の砲撃が届く。ジジは防衛ラインの崩壊を招く真似をして何をするつもりだと質問すると、茅森漣はジジと違いビビアナを倒すと豪語する。そこで旗艦ビビアナは攻撃と回避のスキルを同時使用。ジジとの対決を邪魔された腹いせに一発の砲撃音を轟かせる。それは確実に敵艦の急所を射抜く一撃として、茅森漣のバトルアーク……否、彼を庇ったモニカ・ランドールのバトルアークに命中した。一撃で大破したモニカは結界によって爆発から守られたものの戦闘不能状態に陥る。そこに藤本さちが到着し、茅森漣に戻るよう言い含めるが、その隙を突くようにビビアナの第二射が飛ぶ。たった一撃で藤本さちのバトルアークは大破し、戦闘不能。茅森漣はビビアナの強さを思い知って敗北が脳裏をよぎる。ジジがビビアナの気を引こうとするが、好敵手との戦闘を邪魔されたビビアナにもはや敵は無し。次々と砲撃を飛ばし、モニカ小隊の残党を撃滅、続けて藤本小隊の残党も撃滅し、逃げる茅森小隊も一隻ずつ確実に潰していく。茅森漣は後悔した。自らの分を弁えない行動のせいで御船艦隊が敗北する未来を想像する。選民派に負けてしまえば、茅森漣は友達を惑星ラメクに連れていけない。負けるわけにはいかないと叫ぶが、その声には多くの恐怖が混じっていた。そんな臆病者に負けるわけないとビビアナは笑って最後の一撃を浴びせる。茅森漣のバトルアークは爆発して大破。ほんの数十秒足らずで小型艦三小隊が全滅し、御船艦隊の防衛ラインは完全に崩壊した。

 

 恐るべきビビアナ・サリニャーナの実力。だが感心している暇はない。御船真瀬は中型艦小隊を前に出すことで時を稼ぐ間に古謝艦隊に撤退を促す。しかし古謝椎奈は中型艦を中心とした艦隊なので機動力がなく、今ここで逃げても追い付かれて殲滅されると判断。そこで古謝椎奈は全艦を率いて中型艦による横一列の鉄壁を作り、御船艦隊を狙うビビアナ艦隊の進路を塞ぐ。それは恩には恩を返す彼女なりの返礼であった。御船真瀬は旗艦だけでも撤退するよう提案するが、一隻でも居なくなればその隙をビビアナ艦隊に抜けられると言って、最後まで盾として尽くすことを語る。そこにアレックス小隊とエルシェ小隊が高速接近。牽制の小型艦なき寸胴の中型艦など当てやすい的でしかない。小型艦二小隊の砲撃を受けてあっという間に壊滅していく古謝艦隊は、最後に旗艦・古謝椎奈が討ち取られたことで勝敗決着のアラートが鳴る。しかしビビアナ艦隊は戦闘禁止期間まで時間がないことから、吸収の手続きを後回しにして御船艦隊に襲撃を仕掛ける。その襲撃には“参謀”カトリーナの指示で旗艦ビビアナも加わり、小型艦三小隊に加えて、今(・)ま(・)で(・)特(・)に(・)動(・)き(・)を(・)見(・)せ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)中(・)型(・)艦(・)三(・)小(・)隊(・)までもが前線に出てくる。今まで御船艦隊はビビアナ小隊、アレックス小隊、エルシェ小隊を抑えるだけでも精一杯だったのに、ここでカトリーナ小隊、クルーメンス小隊が参加したことで絶体絶命の窮地に陥る。

 

 水平線に沈む太陽。同時に夜の帳が下り、灼熱の海は暗闇の海へと様相を変える。

 

 御船艦隊は時間稼ぎを徹底する。中型艦のルチア小隊を配置して敵の攻撃を防ぎ、ひたすら後退していく。そこで突然、小型艦三小隊が身を翻した。その動きには見覚えがある。先刻の撤退戦で戦闘した際、小型艦でかく乱し、こちらの艦隊速度を鈍らせた所に中型艦の砲撃が飛んでくる連携戦法だ。一度見た策は記憶し、二度同じ技は喰らわない。御船艦隊は砲撃の回避を指示。ルチア小隊は的確なタイミングで回避スキルを使用して砲撃の雨を躱す。もし御船艦隊の指示がなければルチア小隊は今の砲撃で全滅していただろう。そこで中型艦二小隊がルチア小隊と交戦。その隙を突いて小型艦三小隊がルチア小隊を抜け、御船艦隊に高速接近する。御船艦隊は最後の中型艦となったファルファラ小隊に指示を出す。このまま前に出て可能な限り敵艦を抑えろと。それは実質、撃破されに行けと言っているも同然の命令だった。しかし防衛ラインが崩壊した以上、多大な犠牲を払ってでも旗艦は守らなければならない。戦闘禁止期間さえ迎えれば大破した旗艦以外のバトルアークは修理できる。最後の一秒まで時を稼ぐため、ファルファラ小隊は旗艦の周囲に展開し、円形の陣形を作って“総提督”御船艦隊とその旗艦を守り抜く。

 

 ビビアナ艦隊の小型艦三小隊の猛攻を受けて、ファルファラ小隊は既に壊滅の危機にある。その前線ではカトリーナ小隊とクレーメンス小隊の牽制を務める小型艦のジジ小隊とステラ小隊、そして壁を務める中型艦のルチア小隊とヴィエナ小隊が戦っており、手が離せない状態。中型艦二小隊を相手に艦隊四小隊で当たらなければ抑えられないほどの強敵だ。それなのに旗艦ビビアナ含む小型艦三小隊の猛攻をファルファラ小隊がその身一つで受けなければならない。下手をすれば操艦者にも甚大なダメージが行く。御船艦隊はある程度の時間稼ぎが完了した段階で“副官”ファルファラに一時撤退を命令する。しかしファルファラ小隊は損壊率70%を超えても盾となり続けた。旗艦が撃破されれば即敗北。それだけは避けなければならない。継承戦の定石から逸れた対応ではないはずだ。たとえ命令違反だとしても、ここで旗艦・御船艦隊を死守する。その思いひとつで猛攻を凌ぐが、そこに旗艦ビビアナの砲撃が届く。ファルファラの中型艦は大破寸前。そこにトドメの一撃が飛ぼうとした────次の瞬間、旗艦ビビアナは背後からの攻撃を察知して全力回避行動を取る。自らの小隊を置いて単艦駆けつけてきたのは“青い閃光”ジジ・ヴァイオレットであった。ビビアナさえ抑えればなんとかなる。その希望的観測を信じてジジはビビアナを引き付ける。その間にもファルファラ小隊はアレックス小隊とエルシェ小隊の猛攻をギリギリの所で凌いでいた。

 

 いよいよ大詰め。ファルファラ小隊の全滅が間近であるとの報告を受けた旗艦ビビアナは回避スキルを使用し、青い閃光たるジジを引き離す。スキルの効果で一時的にジジより機動力で勝ったビビアナ・サリニャーナは、御船艦隊の旗艦に狙いを絞った。対する御船艦隊も照準を旗艦ビビアナに絞る。ここまで来れば旗艦同士の対決。どちらの一撃が命中し、どちらが先に大破するか。一瞬の勝負を分けるは技量。それは圧倒的にビビアナ・サリニャーナの方が上であると知りつつも、御船真瀬はもはや策もなく力もない身で最後の足掻きを見せようと覚悟を決める。いざ西部劇の決闘もかくやの直線上。高機動の小型艦を駆るビビアナを捉えるより早く、鈍足な中型艦を駆る御船真瀬の方が先に捉えられた。轟音の一撃が発射される。暗い海を照らす火球。放物線を描く一閃を瞳に映す御船艦隊は敗北を悟る。しかしそうはさせまいと一隻の中型艦が躍り出た。損壊率98%────それでも機関部が生きている限り、バトルアークが動く限り、ファルファラは最後まで使命を全うしようとビビアナの火球に飛び込んだ。爆発。花火のように炸裂する火花。損壊率100%をオーバーしたバトルアークはサークル状の結界を超えて操艦者にもダメージが届く。ファルファラの右腕はひどく傷んでおり、やや黒ずんで焦げていた。御船真瀬はファルファラの名を叫ぶ。

 

 そのとき全バトルアークから警報が鳴り響いた。戦闘禁止期間に入ったことを知らせるアラートである。全てのバトルアークは一切の砲撃を禁じられ、引き金(トリガー)はロックされる。演習の際に一時的に解除することは可能だが、今ここで解除すれば規約違反として即座に継承戦から脱落する。そのような真似をするアドミラルは存在しない。

 

 御船真瀬は交戦中止の指示を出し、全員に向けてこの厳しく辛い耐久戦を耐えてくれたことについて痛く感謝する。そしてファルファラの容態を確認するが、彼女はローゼンクランツ家が開発した少女型アンドロイドなので、この程度の損傷は問題ないことが分かる。それでもケガはケガであると御船真瀬は心配し、急ぎドックの治療室に急ぐ。その一方でビビアナ艦隊は古謝艦隊の吸収手続きを済ませてドックに帰港していった。御船艦隊もボロボロの状態で帰港する。バトルアークには機関部が動く限り低速移動が可能で、自動的にドックに帰還してくれる機能が存在する。その点、ファルファラの中型艦は機関部もろとも完全破壊されたため、誰かが曳航しなければならない。その役目をジジ・ヴァイオレットが引き受け、御船艦隊は中西部のドックに帰港する。

 

 かくして勝利はできずとも敗北は避けられた御船艦隊は、戦闘禁止期間のあいだにバトルアークの修理や演習、作戦会議など、やることは沢山あるが、ひとまずは全人派として継承戦を生き抜けたことを喜ぼうと語る。しかしとある少年は、今回の作戦における自らの失態について、今にも泣きそうなほど苦しい顔をしていた。

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