ノア×コード 叛逆のジェラルド 星舟や海兵どもが夢の跡 作:形のない者
総提督室のベッドルームにて御船真瀬と藤本さちの濡れ場。御船真瀬の様子を見に来たファルファラがその現場を目撃してしまい、男女の同衾についての知識をアップデートする。そして、いつか自分が
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翌朝。御船真瀬専用ドックの隣にある演習場では、茅森小隊とジジ小隊が火力と機動力を競い合っていた。なぜ二人がそんなことをしているのかというと、それは早朝の食卓まで話が遡る。茅森漣は今後の継承戦に向けて或る目標を定めていた。槐新が抜けた今、元々の御船艦隊のメインアタッカーとして、後から吸収されて入ってきたほかの艦隊にその座を奪われるわけにはいかない。しかし事実として現状のメインアタッカーは“青い閃光”ジジ・ヴァイオレットと双胴船フルンベルを有するエドガー・フェザーストンであることは誰が見ても道理である。そこで茅森漣はジジ・ヴァイオレットに小隊同士の演習を申し込んだ。対するジジは明らかに各下の相手と戦う気が起きず断ろうとしたが、茅森漣に「万が一でも俺に負けるのが怖いのか?」と煽られたことで受けて立つ。かくして茅森小隊はジジ小隊とぶつかり合い、今のところ十戦中十敗。
一方“整備士”モニカ・ランドールは毎回こっぴどく大破される茅森小隊のバトルアークの修理に忙殺されており、たとえ予備だからいくら使ってもいいとは言え仕事の多さに嬉しい悲鳴を上げていた。大量の汗を掻いて機関をいじくれる楽しさに笑うモニカの周囲には、沢山のメンダコ型作業用ロボットがバトルアークの高速修理に徹しており、かたやダンポオクトパス型造船作業用ロボットは特に造船に関する仕事がないので整備作業に参加していた。
ちなみに、それらロボットは“メカニック”モニカ・ランドールが設計した機械であり、バトルアーク関連の作業は一通り可能。その秘密はタコ型ロボットの八本の足にある。足の一本一本に個別のシステムが組み込まれており、あらゆる作業に対応しているのだ。タコ足がクリーニングロッド、ドライバーツール等に変形する変身バンクはメカニックならヨダレが出るほどの造形美である。なお彼らはタコ型ロボットゆえ体が柔らかく狭い機関部に入り込むことができる。よってわざわざバトルアークを全分解して機関部を取り出し修理する必要がなく、少しでも隙間があればそこから入り込み修理できるので作業効率の向上となり、かなりの時短に成功している。
さらに製作秘話として、モニカは彼らを作るにあたり莫大な費用が掛かるため真瀬に相談した結果、ノアに話が通ってカイン直轄の第四研究所──そこはファルファラが造られた場所でもある──にて、モニカの設計図を基に沢山のタコ型ロボットを量産してもらえた経緯を持つ。つまりタコ型ロボットはファルファラと生まれ故郷を同じくする兄妹みたいなものである。それに親近感を抱いているのか、今朝からずっとファルファラはタコ型ロボット・アルファ三号を腕に持って抱っこしていた。話を聞けばタコ型ロボット・アルファ三号とは既に友達になったという。
演習場にて十五度目の爆発。十度目あたりから嫌気が差してきたジジは一度やめようとしたが、茅森漣の嘆願であと五回だけ付き合うことにした。それも終わったのでジジ小隊は引き上げる。大破したバトルアークの上で歯を食いしばる茅森漣は、バトルアークの自動帰還機能によってモニカとタコ型ロボットが待つドックに送られていった。
演習を終えたジジ・ヴァイオレットは「まったく、無駄な時間を過ごしました」と言って自室に戻る。どかっと椅子に座り、小綺麗な机を前にして、パラパラとめくるは学校の教科書。継承戦の間でも義務教育期間中の児童は戦闘禁止期間の中で通信教育を受ける規約が存在する。通信教育のリモート講座は決まった時間で始まることがあり、ほかのアドミラルはその講座を受ける児童アドミラルの邪魔をしてはならない。しかし今はリモート講座を受ける時間帯ではなく、ジジ・ヴァイオレットは成績を落とさないため自発的に勉強を始めていた。
そこにステラ・パレットがノックして入室する。勉強中と気付いて引き返そうとしたが、ジジは簡単な問題を解いているから会話はできると言って入室を促す。しばらく他愛ない会話をしたあと、ステラは簡単な問題を解いていると言いながら、ジジが行き詰まっていることに気付く。そこで誰かに教えてもらったら良いと話すが、ジジは自力でやってみせると言って聞かない。ステラは食い下がる。たとえば総提督のお兄さん・御船真瀬なら教えてくれるかも。同じ総提督同士仲良くしようと説得。ジジは自分はもう総提督ではないし個人的に仲良くする必要はないと反論するが、なお食い下がるステラの「じゃあ成績が落ちてもいいの? 人に教えを請う素直さがないと一番にはなれないよ?」という煽りを受けて渋々承諾する。
ここまでステラが強引にジジを御船真瀬と引き合わせようとするのは、ある狙いがあってのこと。ジジとビビアナはライバルであり、今回の継承戦ではどちらが強いか決着を付けようと約束していた。しかし御船艦隊に負けて吸収されたことでその約束は叶わなくなった。ジジとビビアナの約束を叶えさせたいと思っていたヴィエナ・アウッティは、賢いステラに意見を聞く。ステラも約束を叶えてあげたい気持ちは一緒だったので、ジジとビビアナが戦えるようどうすればよいか考えた。その結果、一つの策を閃いた。それは“総提督”御船真瀬のポイントを稼ぎ気に入られること。そしてジジ・ヴァイオレットが役に立つことを証明すること。そのために御船真瀬と仲良くなることで、ビビアナ艦隊との戦いではジジ艦隊の意見が通りやすくなるかもしれない。それを狙ってのことだった。
やや緊張するステラ・パレットは総提督室の扉をノックする。どうぞと言われて入室すると、ソファの上でくつろぐ御船真瀬がいた。ステラはジジに勉強を教えてほしい旨を伝え、もし忙しいなら退出しますと控えめに言う。しかし御船真瀬は快く引き受けた。当のジジは教えを請う態度ではなく、終始無言で御船真瀬の教えを聞き、問題を解いていく。一方ステラは美味しい紅茶を飲みつつ様子を見守る。やがてジジは全ての問題を解くことに成功し、微かに手応えを感じる。ステラはお兄さんの教えが良かったからだと言うが、御船真瀬は謙遜する。そしてジジは去り際ぼそりと「あ、ありがとう……ございます……」と礼を言ってそそくさと退出していった。ステラは友人の礼儀の無さに代わって謝るが、御船真瀬はその年齢なら可愛いものだと笑って許す。そして御船真瀬は「ところで」と話を変えてステラに問いかけた。ほかに勉強を教えてくれる人はいるだろうに、なぜ自分のところに来たのかと。ルチアや藤本なら二つ返事で教えてくれるだろうし、同じ仲間でジジの世話係でもあるヴィエナなら断るはずがない。それについてステラはちょっとした気分転換のつもりだったと誤魔化すが、御船真瀬は核心を突く。「大丈夫。ビビアナに対抗できるのは、今のメンバーではジジだけだ。二人の約束を抜きにしても、彼女以外に対ビビアナの適任者はいない。頼まれなくてもジジにはビビアナと戦ってもらうつもりだよ」……その言葉にステラは驚き、なぜ自分の目論見が見抜かれているのかと驚愕する。御船真瀬は不敵に笑い、そろそろ昼食の下ごしらえをすると言って総提督室を退出する。
ステラは推察する。御船艦隊には優秀な諜報員・藤本さちがいる。どこからジジとビビアナの約束が漏れたのかは知らないが、きっとその人が御船真瀬に報告していたのかもしれない。そして最後に「まさかプライベートなところまでは覗かないよね……?」と若干の不安と恐怖を感じつつ、ステラ・パレットは総提督室を後にした。
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日が暮れた頃。“総提督”御船真瀬によって作戦会議室に召集された全アドミラルは、今後の編成について指示を受ける。
御船真瀬が考案した編成は以下の通り。
“総提督”御船真瀬
“副官”ファルファラ
“切込隊長”ジジ・ヴァイオレット
“砲撃手”エドガー・フェザーストン
“料理人”ルチア・オリーヴェ
“整備士”モニカ・ランドール
“観測手”藤本さち
“副提督”ステラ・パレット
“護衛役”ヴィエナ・アウッティ
“切込隊長”茅森漣
“戦闘員”ニコラ・ハドソン
“戦闘員”フロラ・パッソーニ
この編成には多くのアドミラルが衝撃を受けた。中でも“副提督”ステラ・パレットの発表は物議を醸す。副提督とは総提督の次に強い権利を持ち、独断専行が許される代わり、副提督の副旗艦が撃破されれば、副提督の部隊が吸収されてしまうリスクを背負う。仮に副提督を決めるとしても、それが御船真瀬と関わりの深い人物であればまだ分かる。だが昨日会ったばかりのステラ・パレット、しかも派閥が異なる選民派に多くの権限を与えるなど聞いたことがない。これには茅森漣が動揺しつつ指摘し、ステラ・パレットも詳細な説明を求める。
御船真瀬は、ステラ・パレットを副提督に任命した理由について説明する。それは至極単純な理由だった。御船真瀬はステラ・パレットの将来性に期待している。藤本さちの調査によれば、彼女は要領が良く明朗快活な優等生である。だが普段はそれを隠しており年相応の子供として振る舞っている。能力を隠す理由は関係ないので問い詰めない。重要なのは彼女が優秀であるという点と、副提督としての素質があるという点である。
それでもステラ・パレットは納得できず、副提督の件を断ろうとする。しかしジジ・ヴァイオレットがそれを制した。実力を認められて何が不満なのか問われたステラは、うまく答えることができない。加えてジジが副提督に就くことを応援してくれるとは思ってもおらず、その衝撃で内心かなりの動揺が襲っていた。しかし最後には覚悟を決めて、総提督の期待に応えられるよう頑張りますと口にした。
御船真瀬はステラの判断に礼を言い、さっそく明日からはチームの連携を深めるために上記の編成で演習してもらうと指示する。そこで御船真瀬は茅森漣に声を掛けた。茅森漣は副提督の件について未だ納得がいっておらず、かつ自分だけが御船真瀬の部隊から外されて副提督の部隊に配属されたことに疑問を感じていた。降格処分を喰らわなかったことについても抗議したが、御船真瀬は失敗した分は次から取り返せばいいと言った。茅森漣は昨夜のことを思い出す。あの時は御船真瀬のことを信じると誓ったが、再び迷いが発生していた。そこにようやく御船真瀬の声が届き、茅森漣はハッとする。御船真瀬は呆としていた茅森漣の肩に手を置いて言った。「漣。副提督を死守してくれ。お前の力を信じてるぞ」……茅森漣は目を見張る。「今朝のジジ小隊との演習、見ていたぞ。お前は御船艦隊のメインアタッカー……いや、エースになるんだろ? それなら実力をつけろ。そして力を証明するんだ。そのためにも副提督の副旗艦が撃破されることがないよう、お前がしっかり守るんだ」……その一言で御船真瀬が、自分に何を期待しているのか気付いた茅森漣は意を決して返事をする。「……っ! わ、分かった! 任せろ!」……茅森漣の責任は重い。だがその重圧に負けず、きちんと周りを見て、仲間と話し、彼我を見る。いきなり副提督に任命されたステラの心境は如何許りか。それについて話す必要があるだろう。その上で自分には何ができる? 相手には何をしてやれる。茅森漣はその実、副提督を守り、彼女を引っ張るような役割が期待されていることを漠然とだが実感していた。
かくして編成会議は終了し、皆は自由行動に移る。呆然と廊下を歩くステラを見かねたジジは声をかける。いったい何を迷っているのか。一度副提督をやると決めたなら、あとはそれをやりきるだけでしょう。それにステラは弱音を吐く。なんで自分が選ばれたのか分からない。説明されても納得がいかない。やっぱりもう一度総提督と話して副提督については考え直してもらうと言って。そこに茅森漣が現れる。「お前、逃げるのか?」……それは茅森漣にとって、特に意味はない何気ない一言だった。しかし確実に煽っていると誤解したジジは、硬直するステラに代わって反論する。どうして喧嘩腰で掛かってこられるのか分からない不器用な茅森漣は驚くが、ジジの言葉よりステラの言葉を聞きたいと口にして返答を待った。ジジも押し黙り、ステラの気持ちを聞きたいと目でモノを言う。一方、廊下の角では“世話役”ヴィエナ・アウッティが静かに見守っていた。やがてステラは本心を語る。
ステラは幼い頃から優秀で周囲から期待されていた。しかし幼い時から賢かったからこそ、期待に応えられなかった時のことを容易に想像できた。大抵の人は期待するだけしていざ失敗に終われば簡単に捨てる。唯一慰めてくれるのは家族くらい。だんだんと他人の安易な期待を信用しなくなるのに時間は掛からなかった。それからステラ・パレットという少女は能力を隠して年相応の女の子らしく振る舞うことに決めた。そっちの方が気が楽だったから。その話を聞いた茅森漣は、彼女の半生について何かうまいことを言うことはできないが、自分の考えを口にすることはできた。
「真瀬は……たとえステラが副提督としての期待に応えられなくても、それであっさり見捨てるような男じゃない。それは俺が昨日、あんな大失敗をしても降格処分されなかった時点で分かることだ。だから真瀬は信じてもいい男だと思う」
その言葉はステラ・パレットにどれだけの響きを持って伝わったのか。自らの悩みを話すだけでも、どこか晴れやかな気分となったステラはぱっと笑顔になり、お話をしてくれてありがとうと礼を言う。
ステラとジジの帰り道。悪くない無言の徒歩の中、ジジが遅めの感想を口にする。
「まさかステラにそんな過去があったとは思いませんでした」
「あはは……今までこういうの、あまり人に話したことなかったから、なんか恥ずかしいな」
「そうですか。でも私はステラのことをちょっと知ることができて嬉しかったです」
「ジジ……。えっと、ところでジジ……なんでさっきからちょっと敬語口調なの?」
「あなたは今日から副提督になりました。ですので敬語は当然のことです」
「もう! そうやってまた無理して大人ぶらなくていいってば! 普通に話していいよ! それに……本当は“どうせ副提督を決めるなら、なんで自分じゃないのか”って思ってること、ちゃんと見抜いてるんだからね!」
「なっ……! べ、べつに、そんなこと思ってません!」
「え~、ほんとかなぁ? ジジは極度の負けず嫌いだからね~!」
「あ、ちょっとステラ! いきなり走り出さないで!」
かくして甲板に響くは、あどけない少女の笑い声。