※この作品はR-18です。

【おめでとうございます! あなたには『催眠能力』が付与されました! これからの人生もお楽しみください!】   作:エビノース志月

1 / 2
妹に催眠をかけてみる。

【おめでとうございます! あなたには『催眠能力』が付与されました! これからの人生もお楽しみください!】

 

 

 突然、そんな声が爆音で響いたので思わずビクゥ! と肩が跳ねた。すわ何事かと周囲を見るが、教室内で不審な挙動をしたのは一人だけ。そう、俺である。

 

 つまり、先程の言葉は俺にしか聞こえていないということだろうか。俺は羞恥に上る顔の熱をシッシッと払いのけるように現実逃避に及んだ。ちなみに顔の熱は払われてくれていない。現実逃避失敗である。もぞもぞと机の上で顔を埋めて小さくなる。恥ずいぜ。

 

 しかし、今のは何だったんだろうか。催眠……催眠……? 催眠って、なんだ?

 いや、わかる。わかるよ? 催眠術だろ? それはわかるし――正直エロいことしか思いつかない。

 

『声』曰く、俺にはその『催眠能力』が付与された、ということだが……空耳にしては、あんまりにも爆音だったんだよなぁ。

 

 幻聴にしてもおかしい。今だってちょっと耳キーンってなってるもんな。何? 音量設定おかしくない? でもそれくらいじゃないと空耳か頭おかしくなったかって思ってたような気がする。あと変な夢でも見たかって。

 

 今は昼休み。寝ていたつもりはないが半分寝ていたようなものだ。寝るフリね。そのままホントにいつの間にか寝入ってしまっていたのかと思ったが……そうではないような気がする。

 

 しかし、催眠。催眠能力なぁ……。エロ漫画とかにあるようなそれなら男の夢そのものだが、実際どんなものなのか。

 催眠術の技術を得たわけではない。どうやるかわからない。ファンタジー催眠術だろうか。いったいどうすれば『催眠』ができるのか……。

 

 催眠、洗脳、常識改変……うーん、実際使えるものなら使いたいが……『やっぱりただの幻聴でした』オチがいちばん怖い。想像してごらん。いきなり『あなたは俺のことが好きで好きでたまらなくやる』とか言い出すヤツ……いきなり何なの? ってなるじゃん。もう村八分よ。ただでさえ友達も……居ないことはないか。ないな。今のクラスには居ないが……これからほぼ一年、腫れ物を触るような態度でしか接されないと思うとそれだけでキツい。

 

 だから、まずは検証だ。いきなり能力を使ってみるなんてマネはできない。しかしなるべく早く使ってみたい。うずうずする。男の子だもの。

 

 となると、放課後……今日は俺が所属している同好会の活動日だ。俺と先輩だけの二人きりの同好会だが、だからこそ好都合だ。

 

 そう思っていたのだが。

 

 

「……どうしてアンタがここに居るのよ」

 

 

 妹とその友人らしき女子生徒が部室に居た。

 そう言えば仮入部期間中だった。しかし、それにしたって妹よ、どうしてお前がここに居るんだ。わざわざ俺が所属している同好会に来なくても――そう思うが、妹に俺の同好会について話したことなんてなかった。と言うか、そもそもここ数年ろくに話した覚えがない。

 

 そういや、妹の趣味もよく知らない。俺とは正反対な陽側の人間――クラスカーストでも上位の『遊んでる』女子。そんな雰囲気はあったが、だからこそウチの同好会に来るだなんて想像もしなかった。

 

 身内贔屓があるかもしれないが、顔はかなりかわいい方だと思う。これで俺と血が繋がっているわけだから驚きだよな。母さんも美人だが……逆にどうして俺はこうなんだ。親父の血が濃すぎる。遺影に向かって何度文句を言ったかわからないが、母さんを射止めたことは評価したい。あと金もな。

 

 俺の妹、日比野結衣はギャルっぽい女子だ。年は俺の一つ下。身長は女子の平均くらい。美少女だが、ちょっとキツめの目をしている。母さんはタレ目がちだから、そこだけは親父の影響を受けたのかもしれない。しかしそれでもめちゃくちゃにかわいいんだから『なんでだよ』と文句を言いたくなりもする。不公平過ぎるだろ。兄妹なのに。

 ただ、胸はそこまで大きくない。ないってわけじゃないが……良く言えば『すらっと』している。脚も細い。スカートも短い。そんだけ生脚をさらけ出しているとお兄ちゃんとしては心配ですよ。言っても聞かないってわかってるが。

 

 しかし、結衣……結衣か。催眠の練習相手にはもってこいの相手だが、結衣の友達が居るからな。複数人にも使えるものなのかもしれないが……検証するのは厳しいだろう。やめておく。

 

 

「ゆい、知り合い~? なんか機嫌わるめだけど……せんぱい、ゆいになんかしたんですかー?」

 

「す、すみません、先輩。わ、わたしたち、ただ、見学をしに来ただけで……」

 

 

 結衣の友達らしき女子生徒ふたりが言う。ふんふむ、この二人もレベル高いな。かわいい。ゆるい感じの女子と、なんか真面目そうな女子。……後の子はおとなしめなのに結衣と仲良いのか。いや、まあ、そういうこともあるだろうが……なんか意外だな。

 

 しかし、見学か。俺が所属している同好会の、見学……この子たちが?

 

 

「こんなトコを? いや、先輩――部長目当てか? あの人の知り合いとか」

 

 

 俺は先輩のことを考える。彼女繋がりだとすれば納得できないこともない。もっとも、あの人に関しては考えても仕方ないから『諦めている』と言ったほうが適切かもしれないが。

 

 

「それはこっちが聞きたいわよ。……なんでアンタがここに? まさか」

 

「そのまさかだな。俺はここの部員だ」

 

 

 結衣があからさまに嫌そうに顔を歪めた。どうしてそこまで嫌うかね。俺、そんなに嫌われるようなことした? 中学生に上がったくらいからめちゃくちゃツンツンしてるんだよな。お兄ちゃん悲しい。妹なんてそんなものだって? そうだとしても悲しいことには変わりない。

 

 

「……ゆーいー? ウチら、まだゆいとせんぱいのカンケーセーを聞いてないんですけど~」

 

「知らないわよこんなヤツ」

 

「兄妹だよ。俺は日比野正。こんな妹だが、仲良くしてくれてありがとうな」

 

「いえいえー。ゆいがこんなになってるのメズラシーし……おにーさんかぁ。なるほど、なるほど」

 

「何納得してんのよ」

 

 

 ゆるい女子に結衣が突っ込む。その拍子にゆるい女子の胸がふわりと揺れる。でかい。ブレザー越しにコレはかなりのものだとお見受けする。

 

 

「チッ」

 

 

 結衣に舌打ちされてしまった。視線がバレてしまっていたのかもしれない。しかしゆるい女子と真面目っぽい女子はきょとんとしている。気付いているのは結衣だけらしい。俺に対する警戒心強すぎるだろ。

 

 

「あー……部長はそろそろ来ると思う。それまでは俺しか対応できないが」

 

「はーい。よろしくおねがいします、おにーさん」

 

「よ、よろしく、お願いします……!」

 

「コイツに『お願いします』なんて言わなくていいわよ」

 

 

 それくらいは言われてもよくない?

 

 お兄ちゃんのことなんでも反発してくるじゃん。

 

 というか、俺が居るからって『ここを見学するのはやめておく』みたいな選択肢はないのね。

 

 ……そこまで嫌われてはいないって理解でいいのかな?

 

 って、それはポジティブ過ぎるかもしれないが。

 

 

 

      *

 

 

 

 あの後、結局先輩と二人きりになる機会はないまま帰宅時間になった。後輩が増えるかもしれないってこと自体は喜ばしいのかもしれないが、先輩と二人きりの時間を過ごせなくなると思うと少し悲しい。あと催眠を試せないのも。悔恨の念に堪えない。

 

 妹とも二人で帰ることになったからな。付いてくるなと言われても同じ家なんだから仕方ないだろ。道中会話があるわけでもないし。買い物のためにスーパーに寄ってもよかったが、今日のところは問題ないからな。

 

 何より、結衣と二人きりになりたかった。俺がシスコンってわけじゃなく――単に『催眠』の検証にはもってこいの相手だからだ。

 

 自宅という密室で試すことができるし、既に俺のことを嫌っている様子だったからな。どう思われても関係ない……ってわけじゃあないが、それほど悪い方向に転ぶことはないだろう。

 

 そう思えば、検証相手としてはこれ以上ないってくらいに打ってつけだろう。

 

 

 ということで自宅に帰り一休みしたところでリビングのソファに寝転ぶ妹に催眠をかけた。どうやって催眠をかければいいのか? わからなかったからとりあえず催眠〜かかれ〜って念じた。

 

 かかった。

 

 

「えぇ……」

 

 

 俺は引いた。こんな簡単にかかるの? 条件ゆるすぎるだろ。エロ漫画のスキルじゃん。それで俺が困ることはないしむしろ都合がいいんだが。

 

 妹はぼーっとしている。これが催眠状態……か? っぽい。よくわからん。この状態のときに暗示とかすればいいのか? 催眠について調べるか……いや、調べたところで俺の『催眠』と同じかどうかはわからないか。一回調べてみてもいいだろうが。

 

 

「しかし、こんな能力がポッと付与されるとか……ヤバくね?」

 

 

 こんなんいくらでも悪用できるだろ。俺だけが選ばれた人間――って線もあるが、他にも同じような人間が居る可能性はある。そう考えるとコワいな。でも、まあ……そんなもん、考えても仕方ないか。

 

 同じ『催眠』を持ってる人間が居たとしてもどうしようもない。『催眠』以外のこんな感じの異能を持ってる人間が居たとしてもどうしようもない。考えたってどうしようもないんだから、考えなくてもいいだろう。

 

 

「俺も悪用……まあ、うん。悪用、しないことはないよなぁ……」

 

 

 と言っても、検証する必要はあるだろうが。その相手が妹だ。

 

 うーん……どんな催眠をかけようか。そう思ってまじまじと妹の姿を眺める。

 

 ……改めて見るとホントにかわいいな、こいつ。美少女過ぎる。実は血が繋がってませーんとか言われても納得できるくらい美少女だ。

 

 そんな美少女を好き勝手できる。それが今の状況――だと思うが。

 

 

「さすがに、それはちょっとな」

 

 

 いきなり試すにはリスクが高すぎる。あと、これでも妹だからな。情がある。とは言え、妹でもなければ割と誰にでもエロいことをやりたいって思うくらいの薄いものだが、肉親は肉親だ。特別枠だな。

 まあ妹のことちょっとエロい目で見てる時点でどうなんだって話もあるが。

 

 とりあえず、今日のところは……結衣が嫌だろうと思うようなことをしてみて、どうなるか、か。

 

 普段の結衣なら絶対に聞いてくれないようなこと――例えば。

 

 

「俺のことを好きになれ〜……とか」

 

 

 ……効いた? 効いたのか? 

 

 わからん。ぼーっとしてるからな。一回催眠切るしかないか。

 

 催眠の解除もどうやるんだか……念じるだけでなんとかなるか?

 

 なった。

 

 

「……? なに見てんのよ」

 

「えっ……あー、なんとなく」

 

「は? ……チッ」

 

 

 きょとんとして俺を見て、少ししてから嫌そうに顔を歪める結衣。うん? なんか……催眠、効いてなくない?

 

 ただ、先程の催眠状態は嘘のように見えないし――そのことも覚えていない様子だ。

 

 なら、何か条件が……催眠状態を解除したから、とかか?

 

 ありそうだな。それか、もともとが嫌い過ぎて好きになったところでたかが知れてるとか――今まで嫌いだったのにいきなり好きだって感じても、頭ではそう思えない、とか?

 

 うーん……わからん。とりあえず、再検証――するには、ちょっと時間が微妙か。

 

 母さんが帰るまでに夕飯の準備だ。

 

 機会は何度でもある。焦らず、できるときにやればいい。

 

 

 

      *

 

 

 

 それからもしばらく先輩と二人きりになれることはなかった。妹とその友人が毎日のように見学に来るからだ。と言うかもう入部するんじゃね? って感じ。他のところ見なくていいの? って聞いても「いやー」って言われるし。いやーって。まあ新入部員は歓迎するべきなんだけど。でも先輩に催眠かけてみたいなぁって思うわけよ。

 

 ただまあ妹への検証が終わってないからな。実際催眠ってどうなんだろう。実感がない。絶対にやらないだろう動きをやってみせたらやってくれたが――鉄板だけど、三回回ってわんと鳴く、とかな。でも『俺のことを好きになれ』っていうのは全然効かない。そんなに俺のこと嫌いなん? お兄ちゃん泣くぞ?

 

 

「俺のことを好きになれ」

 

「俺のことが好きで好きでたまらなくなる」

 

「俺を見るとえっちな気分になってきます」

 

 

 みたいなこと言ってみたけどまったく効果ない。いつも通り。なんなん? お兄ちゃんどうすればいいかわからない。こういう暗示は催眠の対象外なんかねぇ……。

 

 そして――今日、俺は試しにこう言ってみた。

 

 

「あー……もう、いいよ。そんなに溜まってるなら、一回吐き出せ。『俺に対して我慢していることぜんぶ我慢するな』」

 

 

 その結果。

 

 

「兄さん、兄さん、兄さん、兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん――」

 

 

 俺は今、妹に押し倒されている。

 

 顔を赤らめ、瞳をとろんととろけさせて――結衣が俺の上に乗っかって、ぎゅううと痛いくらいに俺のことを抱きしめながらすりすりと顔を擦り付けてきている。

 

 どうしてこうなった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。