【おめでとうございます! あなたには『催眠能力』が付与されました! これからの人生もお楽しみください!】 作:エビノース志月
兄妹で恋愛しちゃダメなんて、当たり前のことでしょう?
そう頭ではわかっていた。わかっていた、けれど。
わかって、あきらめて……それでも、なくなってくれなかったものを。
私は、ずっと嫌いだった。
恋を扱う創作物において『幼馴染』というものはポピュラーだと思う。幼馴染が付き合うのはみんなから応援されるようなことで……でも、幼い頃からずっといっしょに居るだけなら、兄妹でも同じことではないだろうか。
幼馴染が恋をするなら、兄妹が恋をしてもおかしくない。そんな理屈が本気で通るとは思っていない。でも、そういった気持ちをまったく持たないわけじゃない。
つまりはただの愚痴のようなものだ。わかってる。私だって。
恋をしても結ばれるとは限らない。ふつうの恋愛だってそうだ。叶わない恋は多い。話を聞いてると、成就する恋のほうが少ないんじゃないかって思う。
でも、私は――そのスタートラインにさえ立てていない。立つことを許されていない。
恋をする。その気持ちを抱くことさえ、私には許されていなかった。
血の繋がり。それがあるから、私たちが結ばれることはない。結ばれてはいけない。そんな気持ちは、抱くことさえ許されない。
血は水よりも濃いと言う。それが兄さんとの唯一の繋がりだとしても、それが邪魔で仕方なかった。
兄妹じゃなかったら。何度そう思ったかわからない。でも、兄妹だったからこそ、こんな気持ちを抱いてしまったのかもしれない。そうだとすれば――そう、そうだとすれば『兄妹なんかじゃなかったら』ともっと思ってもいいはずなのに……少しだけ、そう思い切ることができない自分も居る。
そんな自分が、私はやっぱり嫌いだった。
この気持ちは隠さなくちゃいけない。抑えなくちゃいけない。兄さんには知られちゃいけない。
そう思ったから、兄さんにはできるだけキツく当たるようにしていた。兄さんが私のことを嫌ってくれれば、私も本当にあきらめることができるから。取り返しがつかなくなってほしかった。もちろん、演技でも兄さんを嫌うフリをするなんて辛いことだったけれど……その『辛い』という感情が良い方向に作用していたのかもしれない。兄さんは、私がキツく当たるたびに寂しそうなかおをしていた。私の『これ』が演技だなんて、少しも疑っていないように。
兄さんとはできるだけ離れたほうがいい。それはわかっていたけれど、どうせ毎日顔を合わせるんだから、と離れるようなことは選ばなかった。陳腐な言い訳だ。ほんとうは、少しでも兄さんの近くに居たかっただけ。自分の部屋に引きこもらないのも、兄さんと同じ高校を選んだのも――ただ、入ろうと思っていた部活に兄さんが居ると知ったときは驚いたけど。
ナナやチグには――友人には、心配されることもあった。特にナナから。「わ、わたしは事情を知らないから何も言えないんだけど……ゆ、結衣ちゃんが、お兄さんが居るからイヤだって思うなら、ここじゃ、なくても」なんて気遣ってもらって……それに私は「べつに。アイツのために私が逃げるとか、むしろイヤだし。あんなヤツのこと気にしなくていいわよ」と返した。
ナナは「でも……」と悩んでいる様子だったが、チグが「まあまあ〜。いっしょに住んでるんだから、同じ部活でいっしょに居るくらいどうってことないんじゃない〜? ねー?」なんて言ったことによりナナも一応の納得を見せてくれた。ただ、ナナは何か気付いている様子だったから、それが気がかりではあるけど……。
私たち――特にナナの『理由』である先輩は思っていた通りの人だったけれど、兄さんと仲が良さそうだった。同じ部活で――ふたりきりの部活なんだから当たり前なのかもしれないけれど、なんか、すっごく仲が良さそうで。それを咎める権利なんて私にはないのに、胸の奥がモヤモヤした。息を吸うたびにいっしょに黒い煙のようなものを吸い込んで、それがぐるぐると渦巻いている。……そのときの気持ちを思えば、私にとっては辛い環境なのかもしれない。
でも、家に帰るとき。同じ家だから当たり前だけど、制服のまま、いっしょに帰ることになる。登校の時間はずらしてるけど……下校の時間までずらす理由はないと思ったから。
会話はない。ないようにしてる。兄さんは話しかけてくれるけれど、私はしない。
でも、会話がなく、付かず離れず、でも兄さんがちらちらと私を気遣うような――それは歩く速さだったり、車道側を歩いてくれたり。そんな気遣いに気付くたびに、私は幸せな気持ちになってしまった。
兄さんのことを傷つけ続けている私がそんな気持ちになる資格なんて持っていていいわけがないけど、ほんの少し、ほんの少しだけ、制服下校デートをしているみたいで……それが、たまらなく幸せだった。
その日はそれ以上『何もなかった』。兄さんのごはんを食べて、明日は私がごはん係だからと(兄さんは『趣味だから』と家事を自分のものにしようとしていたけれど強引に週二回は私が代わることにした)ちょっと献立を考えて、それだけ。
……そう言えば、兄さんが私のことをじっと見つめる、なんてことはあった。私の顔に何か付いていたのだろうか? そう思ってその後鏡を見たが何もなかった。ただ、いきなり見つめてくるものだから『好き』って気持ちが膨らんでしまいそうになった――けれど、そんなことは日常茶飯事だ。いつものように抑えて兄さんにキツく当たった。
そう、そう言えば――そのときの兄さんは、どうしてか少しだけ意外そうな顔をしていた。
その反応が、苦かったことだけは強く印象に残っている。
そして肝心なことは――その翌日、翌々日もまた兄さんが私のことをじっと見つめる、なんてことがあった、ということだ。
それ以外は何も変わったことがなかったけれど、決まって夕飯の準備をする前、母さんが帰ってくる前にそうしていた。
考えられることは部活のことだけ、だけど……もしかしたら、兄さんは自分を嫌っているはずの私が同じ部活に所属しようとしていることを訝しく感じているのかもしれない。
だから私は友達にしたような言い訳を兄さんにもした。それで兄さんが納得してくれたかどうかは……わからない。ただ何か腑に落ちないことはある様子だった。
そんな日の中にはめちゃくちゃムラムラすることもあった。好きな人に見つめられているのだ。そりゃあムラムラする。恋する女の子であれば一切の例外なく同意してくれることだとは思うが、好きな人が自分を見つめてくれているなんて『オカズ』と言う他ない。叶うならばずっと自分を見つめてほしい。そのまま自分の名前を呼んでほしい。そういった欲求を抱いているものだ。
その例に漏れず、私も兄さんに興奮していた。実の兄だが恋する相手だ。そんな相手が無防備に同じ部屋で生活している。風呂上りに薄着を見るときなんてたまらない。いくら見慣れているとは言っても好きなものは好きだ。私の性生活は充実している。初めてから今に至るまで兄さん以外を『オカズ』にしたことがないほどに、日常的にそれを得ている。むしろあまりにも日常的にそうしているから『見慣れる』前に『えっちなもの』として学習してしまったのかもしれない。
しかしこれは不可抗力と言うべきだろう。えっちな兄さんがわるい。えっちな兄さんとひとつ屋根の下で暮らしているのだから仕方ない。しかも部屋も隣。壁は薄くないと言ってもあまり声や音を出すとバレるかもしれない。そう思いながら励むことがどれだけ捗るかわかるだろうか? むしろちょっとバレてもいいんじゃないか。性欲に茹だった頭がそう考えることもあったが、今に至るまでバレていない……と思う。たぶん。
兄さん、と呼びながら自慰に耽る。普段は『兄さん』とさえ口にしないようにしているので実質的に私が「兄さん」と声に出すのは自慰の際だけとなる。これによって私の脳は『兄さん』と声に出す=『気持ちいい』と学習してしまった。パブロフの犬ならぬ兄さんのメス犬である。わんわん。兄さんの犬になりたい。恋愛対象にならなくても犬になるくらいならいいんじゃないだろうか。その妄想でするのは捗った。兄さんに強制されているという『テイ』で全裸で四つん這いの犬ポーズになる。四つん這いと言っても膝をつける『それ』ではなく、より犬らしく膝を浮かせた姿勢だ。ちょっとキツい姿勢だがそれを強制されているという事実が興奮のスパイスになってくれる。兄さんにいじめられている。そう思うとたまらなく興奮する。もちろん兄さんはそんなことを命じていないしただの私の妄想なのだがそれはそれ、これはこれである。兄さん、兄さん、兄さん。わんわんと鳴く代わりに兄さんと鳴きながら自慰に耽る。めっちゃイッた。犬ではないがペットシーツの購入も検討したいくらいだ。それくらい思い切りシたいときもある。
そこで気付いた。なんだか今日はいつもと比べても性欲が強い気がする、と。兄さんのことを考えるとムラムラすることがあるのは当たり前なのだがそれにしたって今日はムラつく。兄さんのことを考えれば考えるだけえっちな気分になってくる。仕方ない。私は思い切りオナニーをした。隣の部屋で兄さんが寝ているのに、声を抑えきれなくなることもあった。兄さんの部屋があるほうの壁を向いて、全裸になって自分を慰める。壁越しの兄さんに見せつけるように脚を開いて、くちゅくちゅと秘部をかき混ぜる。兄さん、兄さん……。そうつぶやきながら部屋に水音を響かせる。少しでも音を誤魔化せるようにと流している音楽の音に紛れるように、兄さんを呼ぶ。兄さん、兄さん、兄さん。私の脳は『兄さん』という言葉と性欲を結びつけている。条件反射。とろり、と下腹の奥から粘っこい蜜が滲み出す。
兄さん、見て。気付いて。兄さん……兄さん。壁越しの兄さんを想像する。この向こう側に兄さんが居ることは間違いない。兄さんはここにベッドを置いている。距離にしてほんの数十センチ。あるいは――姿勢によっては、もっと近くに居るかもしれない。壁越しの兄さんを想像する。たまたまこっちを向いていることを想像する。兄さんが――何か気付いて、壁に耳をくっつけて、音を聴き取ろうとしている可能性を想像する。
兄さんにこんな姿を見られたら。想像する。オナニーしていることを気づかれたら。想像する。兄さんに聞かれたら。知られたら。兄さんに、私の、えっちなところを――想像する。想像する。想像する。
恥ずかしい。気持ちいい。恥ずかしさが気持ちよさに混ざってくる。今までずっと――性に目覚めてからずっと、私はこうしてオナニーしてきた。兄さんに気づかれないように、兄さんが寝ているすぐ隣で、兄さんのことを想ってオナニーしてきた。気づかれたらどうしよう。ずっとそう思いながら。それは恐れるべきことだった。怯えるべきことだった。恥ずかしいこと。でも、それ以上に――それこそが興奮を加熱していることはぐつぐつと煮える下腹の熱が何よりも雄弁に物語っていた。
兄さん、とつぶやく。兄さん、兄さん。つぶやきながら、兄さんに向かって秘部をさらす。ほら、見て。聞いて。私のここ、こんなになっちゃってるよ。ねぇ、兄さん。兄さん、兄さん……。脚を大きく開いて、さらに両手で秘部を開く。ナカまでじっくり見えるように。ひく、と反応していることが自分でもわかる。壁さえなければ、ほんとうに、すぐそこに兄さんが居る。それなのに私はこんな格好になっている。兄さんに見られたら死にたくなるくらい恥ずかしくて――同時に、それを想像するだけで絶頂してしまいそうな格好に。裸になってみっともなく脚を広げて何も知らずに寝転んでいるだろう兄さんに向かって壁越しにおまんこを見せつけるようにしながらオナニーしてる。そんな妹を兄さんはどう思うだろうか。どんな目で見てくれるだろうか。想像するだけでこわい。こわくて、とても、そそられる。
どうしたんだろう。今日は、どうしてしまったんだろう。ムラムラが、収まらない。抑えきれない。兄さん、と声に出す。兄さんに襲われたい。兄さんを襲いたい。そんなことはできない。してはいけない。兄さんまで私に付き合わせられない。でも、でも。
兄さん、と。もう一度、囁く。でも、今度は今までとは意味合いが違う。ただ声に出すんじゃない。ほんとうに、兄さんに呼びかけるように――兄さんに呼びかけるために、そう声に出した。
姿勢を変える。頭を壁から離すんじゃない。できる限り、顔を壁に近づけて。壁に向かって、声が通るように手で通り道をつくって。
そして、もう一度。兄さん、と囁く。ちゃんと、声が通るように。今までの『遊び』とは違う。ほんとうに、声が通ってもおかしくないような……そんな方法で、そんな姿勢で、そんな位置で、声を出す。
兄さん……兄さん、聞いてる? 聞こえてる? 私の声……兄さんに、ちゃんと届いてる?
囁く。万が一にも聞こえてしまわないように、でも、聞こえてしまってもいいように。壁の向こうにまで伝わっているだろうか。もし何か思うところがあって壁に耳をはりつけて、耳を澄ましていたりしたら――この声でも、聞こえてしまっているかもしれない。その可能性は、ゼロじゃない。いつもよりも、ずっと高い。
心臓がうるさい。こんなことをしちゃいけない。危険だ。今までしてきたことを棚に上げてそう思う。でも、抑えきれない。止められない。壁につけていないほうの手を秘部に添えながら、私は囁く。
兄さん……兄さん。私、兄さんが好き。兄さんが好きで、今もこうして、兄さんでオナニーしてるの。聞こえる? ぐちゅぐちゅって音。聞こえてた? 今までも。水音は響くから。もしかしたら、聞こえていたのかな。聞こえていても、おかしくないよね。
声に出すことではっきりするものがある。言語化は『はっきりさせる』という性質を持つ。事象に輪郭を与えて、際立たせる――私の中でふわふわと浮かんでいたものが輪郭を持っていく。際立っていく。なんとなく、やわらかく興奮していたことが……輪郭を持って、はっきりとして。興奮に角が立つ。やわらかく、ふわふわとした刺激をもっていたそれが――実感を持って、刺すように響く。
兄さん、兄さん……っ。私、私ね、へんたいなの。兄さんに興奮するへんたいなの。兄さんを見てると好きってなるの。兄さんを見るとむらむらするの。えっちな気分になっちゃうの。いつもそう。ずっとそうだった。今日も、すっごくえっちだった。ずっとオナニーしたかった。兄さんの前で寝転んでいるときだって、ずっとオナニーしたかった。兄さんをオカズにしてたの。兄さんも私をオカズにする? だらしない格好で寝転んでいた私をオカズにできない? したこと、ない? 私、これでもかわいいよ? 兄さんにかわいいって想ってほしかったから。嫌われようとしていたけど、かわいくないってだけは思われたくなかったから。ぜんぶ兄さんのためだよ? 兄さんのために、兄さんにかわいいって想ってもらうために、私、かわいくなったんだよ? ねぇ、兄さん。私を見て。もっともっと、私を見て? 私のことをえっちな目で見て。妹のことをえっちな目で見て。ミニスカートから伸びる脚を見て。リビングのソファで寝転んで、スカートの中身が見えたりしてない? 服と胸の隙間から中身が見えたりしなかったかな? それをオカズにしたり、したこと……ない? 私、かわいいよ? えっちだよ? 胸はあんまりおっきくないかもしれないけど、クラスの男の子からはえっちな目で見られてるよ。通学中も、男の人からえっちな目で見られてるよ。痴漢したいよ~って声が聞こえてきそうなおじさんの視線を感じるもん。クラスの男の子なんてもっとひどいよ。あんまりおっきくなくたって、私のおっぱい揉んでみたいって視線が語ってるんだもん。脚をちらちら見る視線がわかるもん。私、いっぱいオカズになってるよ。きっと、色んなひとのオカズになってる。でも、そんなことはどうだっていいの。兄さんにどう思われるかだけなの。兄さん、ねぇ、兄さん。兄さんだけ。兄さんだけなの。兄さんにかわいいって思われていたら、それだけでいいの。兄さんにえっちだって思われたいの。魅力的な女の子だって。妹だとしても、それ以上に魅力的な女の子だって。そう思ってほしかった。意識してほしかった。ねぇ、兄さん。聞こえてる? 私の声、聞こえてる? くちゅくちゅって音、聞こえてる? 私ね、今、オナニーしてるの。兄さんにぜんぶ聞こえてるって思ってオナニーしてるの。ぜんぶだいなしになっちゃうことを想像して興奮してるの。へんたいだよね。私、へんたいだよ。兄さんに、実の兄に、血の繋がった相手に興奮するへんたいなの。兄さんに恋するへんたいなの。こんなの許されないのに、許されないから、もっと許されないことに興奮するようになっちゃったの。
兄さん。私、兄さんのことが好き。兄さんとえっちしたい。兄さんと、えっちなことがしたい。
許されないことだけど、許されないことだから。
兄さん……聞いて? 私が、イクところ。イク声。私の、ぜんぶ。
兄さん、兄さん。兄さん、兄さん、兄さん、兄さん、兄さん……っ。
最後には壁にもたれかかるようにして全身を大きく震わせて絶頂した。シーツがびしょびしょになってしまった。ペットシーツの購入は急務かもしれない。そんな後悔を覚えながらも、今までに経験した中でも上位に入る快楽を得たことで私は清々しい気持ちになっていた。……もし、ほんとうに聞こえてしまっていたとしたら。そう思って昏い欲望の火が揺らめきそうになったことは確かだけれど、もう一度、と励むには体力のほうが足りなかった。後始末だけはしなくちゃ、と思って最低限の後始末を終えて眠りに就く。
……それにしても、今日は一段と兄さんにムラムラしてしまった。溜まっていたのだろうか。兄さんの顔を見るだけでいつにも増してえっちな気分になってしまった。ただ、これだけ盛大に解消したのだ。明日からはそんなことはないだろう。
――そう、思っていたのに。
どうしてか、その翌日も私は兄さんを見るだけでえっちな気分になってしまった。表面上は平静を装うことができていたとは思うけれど……あまりにもえっちな気分になってしまうものだから、私は自分で自分が恥ずかしくなってしまった。自分が一般と比べて少しだけ性欲が強い方かもしれないとは思っていたが、まさか兄さんのことを見るだけでこんなにオナニーしたくなるくらいにえっちな気分になってしまうとは。許されるならば今すぐにオナニーしたいくらいだ。今すぐに、今ここで、兄さんの眼の前で……なんて考えてしまっている時点でどれだけ思考が性欲に汚染されているかはわかるだろう。ただし、私も並大抵の自制心を持っているわけではない。これでもずっと兄さんへの恋心を抑え隠していた程度には自制心が強いという自負がある。
ただ、偶然手が触れてしまったときに下腹が熱を持って何かが溢れそうになったのはさすがにマズいと思った。そのときは思わず兄さんにも過剰に反応してしまったくらいだ。ただ、それくらい過剰に反応して少しでも兄さんと触れる機会がないようにしなければ私の理性が危ないと悟った。私は自分で自分がこわくなった。兄さんのこと好きすぎでしょ……。まさか自分に『兄さんが好き過ぎる』と引くようなことになるとは思わなかった。でも見るだけでムラムラして手が触れるだけで濡れるのは『好き過ぎる』と言うか『性欲が強い』とかそんなレベルじゃないような気もする。私、えっち過ぎ……? 兄さん限定とは言え、性欲の化け物が誕生してしまったのかもしれない。それが自分だと思うと恐ろしい。あまりにも強大な力を持ちながらも抑えきれない物語の怪物のようだ。兄妹だけに。
しかし、このままではいけない。ことここに至ってもなお私には理性があった。私の気持ちは隠さなければいけないものだ。あってはいけないものだ。今までだって際限なく膨らむそれをなんとか抑えてきたが、兄さんを見るだけでここまでになるのは……ちょっと、ダメだ。抑えきることができる自信がない。
であれば、だ。……ようやく、と言うべきかもしれないが、私は兄さんから物理的に距離を取らなければいけないだろう。
だって私たちは兄妹だから。絶対に結ばれてはいけないから。許される気持ちじゃないんだから。
ああ、こんなことなら……もっと、もっと自分を律していれば。兄さんといっしょに居ればもっと兄さんのことを好きになってしまうだなんてわかっていたのに。兄さんのことを想って自慰に及べば兄さんに対する気持ちも膨らむだなんてわかっていたはずなのに。兄さんの前で抑えられたら、兄さんに隠せたらそれでいいんだって。そんな甘えを持っていた。
でも、これ以上はいけない。ここが分水嶺だ。『兄妹なんだからいっしょに居る時間はどうしてもできる。だから無理に距離を置こうとしても仕方ない』だなんて甘えた考えは捨てなければいけない。この気持ちは許されないもの。決して暴かれてはいけないもの。だから、もう……もう、兄さんから離れないと。
兄さんのことを見てはいけない。兄さんの声を聞いてはいけない。兄さんと……できるだけ、接点を減らさないと。学校でも、家でも、どこででも……無視してでも、兄さんと距離を置かないといけない。
そうでもしなくちゃ、私はいつか自分を抑えきれなくなってしまう。今だって兄さんのことを見るだけで性欲が溢れてたまらないのに。これがさらに進んでしまえば、私は……兄さんに、何をしてしまうかわからない。
性欲に侵されると判断能力が失われる。昨夜だってあんなことをしてしまったのだ。自分が性欲にそれほど強くないことはわかっている。ひとりになることができたなら、今だってすぐにシてしまいそうなほどだ。そんな私が、これ以上の性欲に耐えられるとは思えない。
かろうじて、今はまだ最低限の判断能力を保っている。だから、そう、今、選択するべきだ。あれだけシた翌日の朝になってもなおこんなにも兄さんへの気持ちが高まってしまっているならば、またもっと膨らんでしまう可能性は否めない。そうなる前に、取り返しがつかなくなる前に――私は、兄さんから離れないと。
……部活も、私だけでも、入らないことにしなくちゃ。兄さんと部長さんには申し訳ないし――ナナとチグ、友達にも申し訳ない気持ちはある。でも、それ以上に優先しなくちゃいけないものがある。
そして、学校に行って、放課後になって、部室に向かって……でも、結局、その日は話せなかった。まだ仮入部期間は終わってないから。せめて、それが終わるまでは――なんて、まだ甘えた考えを捨てられていないことの証明になってしまうけれど。
でも、それさえ終われば今度こそ『言い訳』はなくなってしまうから。
せめて、分水嶺に至るまでは……そんな夜に。
【俺に対して我慢していることぜんぶ我慢するな】
何かが聞こえて、兄さんがまたじっと私のことを見つめていて――
その瞬間、今まで我慢していたことが。堰き止めていたものが。
ぜんぶ、ぜんぶ――決壊した。