アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
序奏 跡終焉誦文 ディアヴォロ・スター・アリヴァンド ‐キュゥべえを連れた男の子のうわさ‐
【ねぇねぇ知ってる? キュゥべえを連れた男の子のうわさ】水波レナ
春の香り漂う桜並木の通学路。神浜市立大附属学校の制服を着用し、校則に従った鞄を提げる二人の少女は、夕焼けに燃える影を踊るように踏みあっている。それは青い水のように透き通った髪をした少女と、秋を思わせる茶髪の少女。ふと二人の甲高い笑い声が響き渡り、それに驚いた小鳥の群れが木の枝より音を立てて飛び立った。それを気にする素振りもなく、遊び疲れた少女のうちのひとりが、あるうわさをささやいた。
「ねぇねぇ知ってる? キュゥべえを連れた男の子のうわさ」
「えー、知らない。レナちゃん、聞かせて?」
「なんでもね。そいつは自分のことを“悪魔”って名乗ってるらしいのよ」
「へぇ~……なんで?」
「さぁ? そこまでは知らないわよ。ただのうわさだし。……ただ、その“悪魔”はね? 魔法少女と出会うと、その魔法少女を普通の人間に戻しちゃうんだって!」
青髪の少女は両手を牙のように掲げて、友人をおどかすように大声を上げた。どうやら悪魔という存在を獅子に見立てて怖がらせようと思ったらしい。
「…………」
対する友人は、その安直なおどかし方に一切の反応を示さず、何かを考え込んでいるようだった。いつもなら「ふ、ふゆぅ……!」とか腑抜けたこと言って縮み上がるのに、今回は無反応だったのだ。
「……。……あ、あれ? かえで……?」
「────あ、ごめん。ちょっと、考え事しちゃってて……」
「……っ。も、もー、なによ! これじゃあ私が恥ずかしいだけじゃない! 驚かせたんだから、ちゃんと驚くのが筋でしょう!?」
青髪の少女は赤らむ頬で腕を組み尊大に振舞うが、その内心は生まれたての子鹿のように震え上がっていた。
(び、びびった……ちょっと脅かしすぎちゃったかと思っちゃったじゃないのよ、もう……でもレナがせっかくおどかしたのに、それに一切の無反応ってのは、それはそれでなんかムカつく……)
そして対する友人は、そんな青髪の少女の気も知らず、真顔で率直な感想を述べた。
「えー。だってレナちゃんのおどかし方、そんなに怖くないんだもん」
「なっ────!?」
それから二人は不毛な口喧嘩に発展する。そして三人目の友人が手を振って合流し、肩をすくめて仲裁に入るまで、その舌戦は留まることを知らないだろう。
かくして《キュゥべえを連れた男の子のうわさ》は、この神浜市にも少しずつ広がりつつあった。
それは多くの流言飛語と混じり合い、うわさの本質を攪拌させつつ、放課後のチャイムが終末のラッパとして鳴り始める。
死ぬ気の悪魔は、魔法少女のすぐそこに。
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用語解説
【神浜市】近未来的な大都市。横浜と兵庫を足して2で割った感じ。また、人外同士の激闘によるガス会社の被害に思いを馳せれば、治安は冬木市とも言える。
【うわさ】それはただの噂。流言。デマ。尾ひれのついたホラ話。しかし多くの人びとがうわさを信じることで、集合的無意識がなんたらとなり、うわさが現実化してしまう。そんなうわさがあるらしい。エクメーネ。
【キュゥべえを連れた男の子のうわさ】魔法少女界隈で流行っているうわさのひとつ。内容が希少性抜群のため現在の人気度はナンバー1。「キュゥべえと契約を交わした男の子って居るのかな?」という疑問から発展した「魔法少年のうわさ」とよく絡んでうわさされる。ちなみにこちらの方がうわさの歴史は古いが情報の新鮮さと更新速度に欠けるため人気度はナンバー2止まり。魔法少女だってお年頃。乙女心は動天の中で安住の地を追い求める。エクメーネPとの距離を求めよ。
【悪魔】仏教では修行を邪魔する魔物とされ、一般的には悪を擬人化した存在とされる。本作では“不義へと誘う男”の事を表す。
【魔法少女】願いを叶える代わりにキュゥべえと呼ばれる存在と契約を交わして魔女と戦う宿命を背負った戦士のこと。