※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【なんなの……? なんなのこれ……!?】黒江

 

「────────……………………?」

 

 ふと気付けば、黒江は真っ白な世界を漂っていた。

 

「────…………」

 

 そこは時が凍った世界。空間の流れが完全に停滞した空間。

 凍えた世界に一体の魔女がうずくまっている。とても寒そうだ。とても苦しそうだ。かなり痛がっている。すごく泣いている。見ていて痛ましいほどに助けを求めている。しかし音が響かない世界に泣き声は響かない。故に叫び声も聴こえない。

 

(魔女だ……逃げなきゃ……あぁダメだ……人を襲う前に倒さないと……あれ……でも……不思議と……恐怖は……ない……なんで……?)

 

 そこは黒江と魔女以外に一切の物質が存在しない世界。ふわふわと浮かんでいた黒江の体は何もない白い水面に着地する。両足から広がる波紋。それがうずくまっている魔女の足元まで広がる。すると魔女は来客の存在に気が付いて頭を上げた。

 

(……これは……夢……?)

 

 ────黒江と魔女の目と目が合う。

 瞬間、黒江の瞳から脳にかけて、莫大な情報が流し込まれた。

 

(────ッッッ!!?)

 

 それは濁流のように押し寄せる二つの記憶の渦潮。

 赤の他人の出来事だと達観しなければ、とても耐え切れない過去の絶望が嵐のように襲って来る。

 

『やっぱオレ、ダメダメだ……妹ひとり、ろくに守れなかった……やっぱりオレはダメ■■なんだ……』『そんなことないよ、■■くん。鉄パイプ持ってる不良の人たちに立ち向かえただけすごいよ。私とすずちゃんを守ってくれてありがとね!』『京子ちゃん……でもオレ、すずのほっぺ、あいつらにぶたせちゃったし……』『こんなのどうってことないわ! それよりお兄ちゃんはいつまでぐじぐじしてれば気が済むわけ? さっさと立ち直って! そしてあいつらに逆襲するわよ!!』『えぇ!? おまえ、まだ懲りてないのかよ……!?』『ふふっ……』

 

『そんな……無理だよ……剣道部の主将と一対一の決闘だって……? 変な因縁つけられちゃったなぁ……京子ちゃんと歩いてたのはデートじゃなくて不良に襲われたのを助けたからだし……はぁあぁ~……どうしよっかなぁ~……もう逃げよっかな……でもオレが勝たないと京子ちゃんが剣道部の主将の物になるって言うし……はぁ……マジどうしよう……。────でも、オレだって本気を出せば不良を倒せたんだ……いや、本当はオレが倒した一人以外、すずが倒したんだけど……でも、よし! やるだけやってみるか……!』『やっぱりお前はダメ■■だな! 不良グループを倒したと聞いていたが、やはりあれはウソだったのか!』『うぅ……痛い……竹刀ってこんなに痛いのかよ……!?』『────ッ! にゅ~! ちょっとお兄ちゃん! なによその体たらくは!?』『え……すず!? おまえ、小学校はどうしたんだよ!?』『え!? が、学校は……その……ちょっと学校より大事な用事があって、それが終わったらお兄ちゃんの学校が近かったから、寄ってきてあげたのよ!』『学校より大事な用事ってなんだよ!? そんなのあるわけないだろ!』『あるわよ! 人助けなんだから!』『人助けって……まさか、また何か危ないことしてるんじゃないだろうな!?』『……! そ、そんなことより、その無様な姿はなによ!? このまえ不良をコテンパンにした時みたいに頑張りなさいよ!』『あれは……すずがピンチだったから……でも今は先輩に変な因縁を付けられているだけだから……力なんてでないよ……』『────! ……で、でも、今は京子ちゃんのピンチでしょう!? お兄ちゃんの気持ちはその程度だったの!?』『……! そ、そんなこと言われても……勝てないものは勝てないし……』『っ……! あっそ! じゃあもう知らない!!』『……なんだよ、すずの奴……』『ねぇ、■■くん』『あ、京子ちゃん……ごめん……オレ……負けちゃった……』『ううん。そんなことどうでもいいの。それより■■くん。やっぱり■■くんってかっこいいね』『……え? な、なんで? オレ負けちゃったんだよ……?』『たしかに負けちゃったけど……でも、みんなを見てみて?』『え……?』『おい■■! あのダメ■■が不良に勝ったってホントかよ!?』『■■の妹さんと京子ちゃんが証人なら、きっとホントのことなのね』『すげぇな■■! お前はもうダメ■■じゃねぇよ! 少なくとも勉強はまだダメ■■だけどな!』『誰かの為なら力が出せるか……それもう漫画の主人公じゃねぇか!』『なんつーか、剣道部の主将は試合に勝って勝負に負けたって感じだな!』『ガビーン!?』『それに女の子を景品扱いとか普通にサイテー』『ガビガビーン!!?』『……でも……オレは勝てなかった……みんなは褒めてくれるけど、こんなのとても誇れるようなことじゃないよ……』『■■くん……』

 

『は、はぁ!? お、おま、おまえ……っ!? 今なんて言った!?』『だ、だから、お兄ちゃんのことが大好きって言ったの! 家族とか兄としてじゃなくて……ひ、ひとりの男性として!!』『ば、バカ! 声が大きいって……! それにオレたち兄妹だぞ!?』『でも血は繋がってないでしょ! 私は青音すず! でもお兄ちゃんは■■■■! ねっ! 苗字ちがうし!』『だ、だからって……でも……こ、困ったな……今度は恋愛ごっこでお兄ちゃんを困らせる気か……? まったく最近の小学生はませてんなぁ……』『────ッ! …………お兄ちゃん。京子ちゃんのこと好きでしょー!!!』『ちょ!? おい! そういうこと大声で叫ぶなよ!?』『私、絶対にお兄ちゃんの心を射止めてみせるから! 本気なんだからね!』『えっ……すず……もしかして、泣いてる……?』『泣いてない! ……それと、お兄ちゃんは私のこと、ずっと妹として見てくれていたんだろうけど、私からしたらお兄ちゃんは、ずっと一緒にいた異性の人なの! そこんところ、ちゃんとわかってからものを言ってよね! じゃ!』『あ、おい……! すず……!』

 

『■■さんやっほ!』『うわぁっ!? なんだ、ハルか……もしかして、すずから伝言でもあるのか……?』『いえ。今回は私用で来ました』『私用?』『……■■さん。すずちゃんから告白されましたか?』『えっ!? な、なんでそれを……!』『やっぱり。すずちゃんの雰囲気でわかりました。ハルは鋭いんです』『……だ、だからなんだよ……これは兄妹の問題だ。ハルには関係ないだろ……』『たしかに関係ありません。でも関係あります』『はぁ? なにわけのわかんないこと言って……』『すずちゃん。泣いてました』『!!』『つまり■■さんは、私の友達を泣かせたんです。私はすずちゃんの友達として、いくら愛する■■さんでも許せません!!』『……! …………』『だから■■さん。もう一回、ちゃんとすずちゃんと向き合って話してあげてください。これはハルからのお願いです』『…………。……わかったよ……オレも、このままじゃいけないってのは分かってたんだ……でも考えがまとまらなくて……どうすればいいのかわかんないんだ……』『そうですよね……だって■■さんは、すずちゃんのことを、本当にずっと妹として可愛がっていたのに……いきなりそれを一人の女性として見てほしいと言われても、正直びっくりですよね。……でも、すずちゃんからしたら、孤児の自分を養子としてもらってくれた家庭の長男なんですよ。頼りなさそうで頼りになる、かっこいい男の人なんです』『…………。そっか────ハル。ありがとう。オレ、ちょっと行ってくるよ』

 

『な、何よお兄ちゃん……私、いま忙しいんだけど……』『すず! 逃げないで聞いてくれ! オレ……今はすずのこと、家族や妹としてしか見れない!』『っ!』『異性の人として見ることは難しい。たぶんずっとできないと思う。でもオレは────!』『……!』『────オレは、すずのお兄ちゃんだから……だから、その……オレはすずのお兄ちゃんとして、絶対にすずを幸せにしてみせる!』『────っ!』『で、でも! あくまでお兄ちゃんとしてだからな!? そこんところは分かっとけよ!?』『…………。……な、なにそれ……意味わかんない! すずの幸せは、お兄ちゃんと結ばれることなんですけど!?』『いや、それはそうなんだけど……おかしいな……伝わらなかったかな……?』『……ま、まぁいいわ。今のところは、そうしといてあげる! なに考えてんのか分かんないけど……いつもみたいにふてくされて逃げないで、ちゃんと向き合ってくれたから……』『すず……ごめん……ありがとう……』

 

『ったく……すずの奴、門限の時間を破りやがって……おかげですずを見つけるまで晩飯が食べられないよ……いったいどこをほっつき歩いてんだ……』『■■くん!』『わっ!? きょ、京子ちゃん?!』『すずちゃんが帰ってこないってホント!? ■■くんのお母さんから聞いたの! 心配だから私も一緒に探すね! ■■くんは心当たりとかある?』『あ……』『……? どうしたの、■■くん?』『……いや、なんでもないよ。ただちょっと、必死な京子ちゃんを見ていたら、オレってホント馬鹿だなって気付いたんだ……』『え……?』『……うん。そうだよね。ちょっと、いやかなり楽観が過ぎたよ。もしかしたらどこかで危険な目に遭っているかもしれないのに……よし、一緒に探そう! でも大丈夫。見当は付いてるよ。たぶん公園にいるはずだ! あいつ何かあると、すぐその公園でブランコに揺られてるんだ』『そうなんだ。なら急いで迎えに行かないとね!』

 

『あっ! いたいた……ハルも一緒だったのか。おーい! すずー!』『すずちゃん! しっかりしてください! ど、どこが痛いんですか!? ハルの治癒魔法は、ちゃんと掛かってるのに……!』『アァアアアアアアアアアア────!!!』『え……? すず……? おい、すず! どうしたんだ!?』『ま、待って、■■くん……なに? あれ……』『え? 京子ちゃん? どうしたの?』『■■くんには見えないの……?』『な、なんだよ京子ちゃん……まさか幽霊とか見えたり? ってかそれより、早くすずのところに行かないと……!』『うそ……どうして……すずちゃんのソウルジェムが……グリーフシードになって……魔女が……っ!!?』『ハル! いったい何があった!』『え……■■さん!? 京子ちゃんも……! だ……ダメです! 来ないでください!! 早く逃げて!』『えっ!? な、なんで……。────ひっ!? な、なんだあの化物!?』『えっ……やっぱり■■くんも見えるの!?』『京子ちゃんが言ってたのってアレのこと!? ま、まずいよ……すずの上にあんな化物が……! は、はやく、早くすずを助けないと……!』『■■さん! 逃げてください!!』『えっ……ハルと、あの化物が、戦ってる……ハルってあんなに強かったのか……? いや、というか、あんな動き……人間じゃ……』『やぁ。君は魔女が見えるんだね?』『なっ!? 白いタヌキが喋った!?』『あ、この前の喋る猫ちゃん……』『やぁ笹川京子。まさかこの場に居合わせるとはね。それより……君には魔法使いの素質がないのに、途中からボクや魔女が見え始めたのはなぜだろうね? おそらくだけど青音すずの叛逆魔法のせいかな。あれは条理を覆す魔法だからね』『お、お前は何を言ってるんだ……? 魔法、だって……?』『それより笹川京子。ボクと契約して魔法少女になってよ。そうすればハルに加勢できる。今ハルが戦っている化物は魔女と言って、人を襲う悪い奴なんだ。この前も話しただろ? 君の願い事と引き換えに魔法少女にしてあげる。それで友達を守るんだ。ハル一人ではあの魔女に敵わない。彼も君もこのままではあの魔女に殺されるよ』『きょ、京子ちゃん! よくわかんないけど、明らかに怪しいよコイツ!』『そう思うかい? まぁ契約はいつでもいいさ。それより三浦ハルから逃げろと言われただろ? それに従った方が賢明じゃないのかな』『で、でも……すずが……』『青音すず? あれはもう死体だよ』『────は?』『魔法少女はいずれ魔女になる運命なんだ。だから今、三浦ハルは青音すずと戦っているんだよ』『……な、何を言ってんだよ、おまえ……わけがわかんないよ……あんな化物が、すずなわけ────』『キャアアアアア────!』『っ! ハル……!?』『ハルちゃん……!!』『三浦ハルは君たちを守りながら戦っている。つまり君たちは足でまといなんだよ。このままでは全滅する。それを避けたいのなら三浦ハルを見殺しにして逃げるか、今すぐボクと契約して彼女を助けるかだ。笹川京子』『……わ、わたし……』『……っ!? だ、ダメだ! 京子ちゃん!! だって今、そいつは言っただろ!? なんか、魔法少女は、いずれ魔女になるとかなんとか……こいつの話を聞いちゃダメだ! きっと悪魔だ! こいつは悪魔なんだよ!』『心外だな。歴史上、そう呼ばれたこともなくはないけど……ともあれ、もう全ては遅かったみたいだ』『す、すずちゃ────』『ハル!?』『ハルちゃん!?』『あぁ。三浦ハルのソウルジェムが砕けた。残念だな。絶望して魔女化してくれることを期待していたのに』『ハル! 起きろ! このままだと殺されるぞ!!』『三浦ハルは死んだよ。ソウルジェムは魂そのものなんだ。それを砕かれたら、あとに残るのは死体だけだ』『────…………な、なんだよ……なんだよ、お前は……!?』『あれ、そういえばまだ自己紹介をしていなかったね。ボクはキュゥべえ。君たちに希望を配る者さ』『ふ、ふざけるな! なんなんだよ! すずは死んだとか、ハルは死んだとか! ね、寝てるだけさ……京子ちゃんは逃げてくれ……オレが二人を連れて────ぐっ、ぐああ!?』『……■■くん?』『彼は今、魔女の口付けを受けてしまった。ああなっては自由意思を奪われて魔女の言いなりになってしまう』『■■くん、やめ……きゃ!?』『どうする笹川京子。彼は魔女に操られている。このままでは彼に首を締め上げられて窒息してしまうよ』『■■、くん……おねがい、やめ……』『呼び掛けても無駄さ。君が助かるためにはボクと契約して魔法少女になるしかない。それ以外にこの状況を切り抜ける方法はないよ。さぁ、なんでもいいよ。願いを言ってごらん』『っ……! ■■くん……■■くんは、だれかの、ためなら……すごく、つよく、なれる、の……』『……?』『だ、だから……キュゥべえ、わたしのねがいを、かなえて……っ』『あぁ。お安い御用さ』『ッ────■■くんを、逆転勝利させて……! すずちゃんを、魔女から人間に戻せるような、力を与えて……ッ!』『────! ……あぁ。君の願いは叶えられた』『────!? あ、あれ、オレ、何をして……』『ごほっ! ゴホッ!』『京子ちゃん!? あ、ウソだ……まさか、オレ、京子ちゃんの首を……オレが……?』『■■くん……良かった……元に戻って……』『そんな……京子ちゃん……その衣装、まさか、本当に魔法少女に……?』『うん。これしか方法が無かったから……それより、■■くん。一緒にすずちゃんを助けよう……!』『……っ! だ、だけど……だけど、すずは、もう……』『────笹川京子。魔女の攻撃が来るよ』『っ!? 危ない■■くん!』『うわぁ!?』『や、やぁあああ!』『京子ちゃん! 無茶だ!!』『あぁ。無茶だね。笹川京子はあの魔女には絶対に勝てない』『は……? な、なんでだよ……』『彼女は呪いのような願いを叶えてしまった。そういった願いを叶えた魔法少女は、往々にして戦闘用の固有魔法を持たない傾向にある。仮に戦える力を持っていたとしても、あの魔女はシンプルに強い。叶わぬ恋心を秘める絶望……それはどんな感情エネルギーより強いものだ』『……!』『キャアアアアア!』『きょ、京子ちゃん……!!』『君は見ているだけかい? 彼女は君に希望を託したんだ。“逆転勝利”の希望を願ったんだよ。そしてもし本当にそんなことが可能なら……ぜひ見せてもらいたいものだ。ボクは少しだけ興味がある』『……そ、そんなこと言ったって……オレに何ができるんだ!? 何もできないよ! あんな化物に敵うわけがない! そうだ……だから逃げないと……!』『くっ……! きゃあ……!』『京子ちゃん! 逃げるんだ! お……オレが囮になる! すずとハルを連れて逃げてくれ!!』『……! ■■くん……わかった!』『…………』『お、おい! 化物! こっちだ! お、お前は人間を襲うんだろ!? ならまずオレを襲え! き、京子ちゃんたちのところには、い、行かせない────!?』『……やはりね。これは驚いた』『な、なんでオレを無視して……そっちは京子ちゃんのところ────あぁ、そんな……やめろ! やめろぉおおおおおおお!!?』『えっ────?』『────。う、う、うわああああああああああああああああああ……!!!!!』『……笹川京子の肉体は原型を留めないほど木っ端微塵に潰されて消滅した。まるでゾウに踏み潰されたアリのようだ。ああなっては脳回路も回らないから自発的な肉体の再生は不可能だ。あまりにも一瞬のことだから自分が死んだことにも気付いていないだろう。それが幸運だったかな。ソウルジェムが砕かれていない。いやしかし……さすがは叛逆魔法の使い手だ。青音すず。君は魔女になってさえ人(・)を(・)襲(・)う(・)ル(・)ー(・)ル(・)に逆らうのか……いや、それも少し違うかな? もしかしたら青(・)音(・)す(・)ず(・)の(・)兄(・)だ(・)け(・)は(・)殺(・)さ(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)に(・)し(・)て(・)い(・)る(・)のかも────』『そ、そんな……京子ちゃん……ハル……すず……ウソだ……ウソだよこんなの! こんなの現実じゃない! ありっこない!! これは悪夢だ! オレは悪夢を見ているんだ! そうだろう! 早く起きろよ! こんな、こんなことがあっていいはずがない────ッ!!』『……これは潮時かな。たとえ叛逆の性質を持っていようとも、それを常時使用し続けるのは不可能だ。いずれ彼女も兄を殺すだろう。それと逆転勝利の願い事は不発か……笹川京子の魔力係数は良好だったけど、やはりそこまで大きな願い事は叶えられなかったようだ。無駄に終わってしまったね』『……! ……おい。どこに行くんだよ……』『次の魔法少女候補を探しに行くのさ』『っ……無駄、だって……? 京子ちゃんは、オレを助けるために願い事を叶えてくれたんだ……』『……それがどうかしたのかい? ボクを引き止める理由にはならないと思うけど』『……い、今に見てろ……京子ちゃんの願い事は、無駄じゃなかった……』『……何を根拠にそんなことを? まさか特攻するつもりかい? 止めはしないけど、それこそ命の無駄遣いだ』『うるさい! オレは、オレは────!! うおおおおお!』『はぁ……人間の思考回路は、本当にわけがわからないよ』『うわぁあああ!? っ、痛い……なんか、緑色の石みたいな破片が手に刺さった……ぐっ、くそぉっ……! あぁ、ダメだ……化物が来る……ここでオレは死ぬんだ……何もわからないまま、よくわからないまま、大切な家族も守れず、大好きな女の子も見殺しにして、そんな二人を大切にしてくれた友達も助けられなくて────あぁ、ちくしょー……こんなことになるのなら、最初から死ぬ気で頑張れば良かった……そんなことしたところで、何も結果は変わらなかっただろうけど……。…………────それでも、だからって、こんなの……イヤだよ……諦め、られるかよ……!!』『……おや、これはどうしたことだ。彼の右手から緑色の炎が……あれは、まさか三浦ハルのソウルジェム……砕かれた破片を拾っていたのか……』『うおおおおおおおおお────!!』『……今度は額から橙色の炎……?』『ぐあああああ!? ぐっ……! ……っ!? あ……これは、京子ちゃんの……』『……笹川京子のソウルジェムを拾ったら、今度はその手に藍色の炎が灯った……まさか、この現象は……』『……やっぱり、京子ちゃんの願いは無駄じゃなかった……オレに何ができるのかはわからない。でも────こんなところでオレは死ねない! オレは託されたんだ! すずを救うために! それまでオレは────死んでも死にきれねぇ!!』『────死ぬ気の炎。19世紀ごろのイタリアにて、古代種オルツォからの指南もあり、とあるマフィアが開発したソウルジェムの加工技術。ソウルジェムをリングに加工することで魔法少女以外の生物でも魔力を使えるようにした、マフィア界の禁断の産物……しかし、その中でもリングを使わずに魔力に近いエネルギーを扱える者がいた……その人物は額に炎を灯したと言われている。……待てよ。ここは並盛町だ。たしか彼はマフィアのボスを引退したあと、この国に渡航したと記録にある。……彼の苗字は、たしか……そうか。そういうことだったのか。君は────あの男の子孫だったのか……』『うおおおおおおおおお! 死ぬ気ですずを止める……ッ!!! そして死ぬ気で死ぬ気をコントロールする……ッッ!! 勢いに任せるだけじゃダメだ! もっと! もっと死ぬ気でやらないと死ぬ! うおおおおおおおおおお!! これがオレの、超(ハイパー)死ぬ気モードだ────行くぞ。歯を食いしばれ、すず』

 

『────これは驚いたよ。■■■■。まさか笹川京子のソウルジェムを使って封印結界の魔法を開発し、魔女を結界の中に閉じ込めて封印するとは……さらにプラスの魔力とマイナスの魔力を仕分けることで、魔女を封印した結界の中にあるプラスの魔力をゼロにしてしまった。よって今や結界の中は絶対零度の空間になっている。全ての分子が停止してしまっているから、これでもう魔女は動けない。……素晴らしいよ。君はマクスウェルの悪魔になったんだ。しかも君は戦闘中、三浦ハルのソウルジェムの破片を使って、魔女の攻撃を完璧に防御していたね? 硬化の性質を持つ魔力の存在を知っていたのかい? いや知らなかったはずだ。……いやはや、一切の魔法の知識なしで、こんな芸当ができるわけがない。そこで思うに逆転勝利の願い事とは、もしかして君の潜在能力を解放する方向に働いたんじゃないかな? というのも君が見せた驚くべき奇跡の連続は、君が持っている血統のことですべての説明が付くんだ。それは────超直感(ブラッド・オブ・ボンゴレ)。つまり■■■■。この結果は笹川京子の願い事だけじゃない。君の血統があってこその成功……勝利だったんだよ。まさに逆転勝利だ。本当に素晴らしい結果を見せてくれたね。正直、見直したよ』『────関係ない。オレは……結局、だれも守れなかった……』『そうだね。君の親しい女の子はみんな死んだ。でも、そのおかげで君は生き残っている』『……?』『笹川京子は希望に満ちあふれた願いを叶えたつもりなんだろうけど────それは君にとって呪いにも等しい願いとなっていた。なんせ笹(・)川(・)京(・)子(・)が(・)死(・)ん(・)で(・)彼(・)女(・)の(・)ソ(・)ウ(・)ル(・)ジ(・)ェ(・)ム(・)が(・)君(・)の(・)手(・)に(・)渡(・)ら(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)ら(・)、(・)君(・)は(・)魔(・)女(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)青(・)音(・)す(・)ず(・)を(・)止(・)め(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)んだから』『────ッ!!?』『つまり笹川京子の死は必要だったんだ。これで彼女の願いは完璧に叶えられ────ぷぎゅ!?』『お前……お前は……! っ────!?』『……おや。力尽きてしまったか。無理もない。ただの人間が魔法を乱用したんだ。その生命力は枯渇寸前のはず……早く救急車を呼ばないと。ここで彼を死なせるわけにはいかない。だがまさか結界魔法と叛逆魔法の併用で第二種永久機関の雛形を開発するとは思いもしなかった。本来エネルギーは形を変換するたびにロスが生じる。宇宙全体のエネルギーは目減りしていく一方だ。だからボクたちは熱力学の法則に縛られないエネルギーを探し求めてきた。それが魔法少女システムと魔女化サイクルによる宇宙の延命だったんだけど……彼が生み出した熱量を仕分ける魔法は、エネルギーの変換時に一切のロスが生じない。つまり完璧に無駄がない。もしこの魔法を拡張する方法が見つかれば宇宙の永続的な維持だって可能だ……その上で魔法少女システムと魔女化サイクルにより宇宙のエントロピーに逆らい続ければ宇宙の拡大だって可能となる。……ん? なんで今、ボクの体は震えたんだ? 特に痛みは感じていないはず。何か物体が衝突した形跡もない。……まさかとは思うが武者震いというやつかな? さすがにそれはないか』

 

『────ハッ!? ここは……病院……? ……そうだ、すずは!? 京子ちゃん! ハル……!』『速報です。昨夜、並盛町の公園で三人の女子生徒の死体が発見されて────名前は『笹川京子』『三浦ハル』『青音すず』────死因は原因不明で警察は事件の線で調査を────』『……う、うそだ……あれは悪夢じゃなかったのか……!?』『やぁ■■■■。ようやく起きたのか』『……!! お前は……たしか……』『ボクはインキュベーター。キュゥべえとも呼ばれているよ』『……なんでオレの前に現れた』『なんでって……君が有用なサンプルだからだよ』『……お前……お前は……お前がみんなを……! 殺してやる……っ!!』『おっと。そう来るかい? なら追いかけっこだ。話は屋上でしよう』『はっ、はっ、はっ……! 待て! インキュベーター!!』『ここなら人気もない。君が狂人扱いされて精神病棟に入れられるのは困るからね。一般人にはボクの姿は見えないんだ』『……お前に、色々と聞きたいことがある』『それはボクも同じだよ。あれから君のことは色々と調べさせてもらった』『黙れ。オレの質問に答えろ』『……随分な性格の変わりようだね。まるで人格が変わったような……それともテンションが変わっただけかい? 二重人格というわけではないようだけど……キュ!?』『オレの質問にだけ答えろ。オレは────お前を許さない……ッ!!』『……それが質問かい? 少しは落ち着けよ。これでもボクは対等に接しているんだ。君の超直感は非常に便利だ。これからボクと一緒に宇宙の維持のため────』『お前はッ!! 願いが叶えられると調子のいいことを言って、女の子を騙して、殺して回っているんだ!!』『……それは正しくない解釈だ。ボクはきちんと合意を取った上で……』『お前には感情がない。だが学習する機能は持っている。どれだけの時間、人類を見守ってきたのかは知らないが……お前らはオレたちを利用しているだけだ。対等だと? いつでも地球人は滅びても構わないと思っているくせに、何が対等だッ!!』『……おかしいな。君がそこまで知っているわけがない。まさかそれも超直感というやつかい? それでボクたちのやり方まで見抜けるものなのか? 潜在能力の解放とは、ただ目覚めさせるだけじゃなくて、一種の到達点にも至らせるのか……思ったより笹川京子の願いは強力だったようだね。まぁそれは、君が昨夜気絶する瞬間、笹川京子のソウルジェムと三浦ハルのソウルジェムの破片を封印結界に包んだ時点で予想はしていたけどね。あれ、ボクが回収すると踏んでいたんだろ? だからボクに取られまいと、自分の目の中に隠したんだ』『お前らの好きにはさせない』『……ふむ。まぁ今はそれで構わないさ。ボクを殺す気満々に見せかけて、君は意外とクールな奴だ。君の目的のためにボクが必要であることがちゃんと分かっている』『…………』『今度はだんまりかい? なら勝手に憶測で語らせてもらうけど、君の目的は青音すずと三浦ハルと笹川京子を生き返らせることだ。違うかい?』『……そうかもな』『……へぇ。少し含みがあるようだったけど、それは気のせいかな』『忘れるなインキュベーター。オレはお前らを許さない』『復讐というやつかい? ちなみにどうやって?』『今に見ていろ。お前らの視点を引きずり下ろしてやる』『……? まぁ、何はともあれ、これで協定は締結かな? それなら、これからよろしく、■■■■』『────。その名で、呼ぶな』『……?』『オレは……悪魔だ。もうなりふり構っていられない……オレの目的のためなら、もう手段は選ばない。だから、もう、その名は名乗らない……』『……よくわからないけど、何か心境の変化があったんだね。詳しくは聞かないよ。興味ないから。それでは改めて、よろしく悪魔』『あぁ。せいぜいオレを利用するつもりでいろよ。インキュベーター』『肝に銘じておくよ。マクスウェルの悪魔』『マクスウェルは付けるな』『そうかい? 君の魔法にピッタリなのに』『握り潰すぞ』

 

 ────記憶の濁流が収まる。

 

 それは、圧倒的な憎悪だった。

 圧倒的絶望。圧倒的後悔。そして圧倒的な復讐心。

 

(なんなの……? なんなのこれ……!? 今の、誰かの記憶のような光景は……もしかして、悪魔さんの過去……?)

 

 黒江の意識が覚醒に近付く。悪夢から醒める時だ。

 

(色々な人の声が聞こえてきたけど……映像はノイズだらけで……細かくは分からなかった……断片的なものしか見えなかった……でも、あれだけはハッキリと見えた。────魔法少女のソウルジェムが濁りきった瞬間、それがグリーフシードになって……魔女になった……っ!!)

 

 魔女の手が黒江の体を掴む。

 

(いや……やめて……)

 

 ────笹川京子のように押し潰される。

 そう思った次の瞬間、黒江の魂は水(・)泳(・)の(・)魔(・)女(・)の手元から、叛逆魔法によって解放された。

 

   †

 

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