※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【カラダ探しのウワサ、リアルタイムアタック】

 

 零時ジャスト。強制転移の魔力を感知。四人の参加者は深夜の正門前に着地していた。

 

『────ッ!!?』

 

 直前まで椅子に座っていた悪魔とアリナは尻餅を搗く。ベッドで抱き枕を抱いて寝ていたのか御園かりんは横向きのままハッとし、もう一人の少女はスヤスヤと寝息を立てていた。

 

 立ち上がった悪魔は周囲を見渡す。暗闇の夜空。生い茂る木々。鋼鉄の正門。高い塀。敷地と校舎の形を見るに、そこは栄総合学園だと分かる。まさしく現実世界と遜色ない空間。だが間違いなく、そこは現実世界ではなくウワサ空間だろうと悪魔は推測する。

 

「っ……悪趣味なウワサだ。蘇生を保証する代わり、何度も殺す遊戯を考案するとは……いったい何が目的────」

 

 そこで悪魔は気が付いた。両手に嵌められたハーフソウルリングが存在しない。さらに片目の奥にある笹川京子のソウルジェムも存在しないことに気がついた。だが青音すずのグリーフシードだけは片目の奥の結界の中に存在している。しかしソウルジェムから捻出した魔力がなければ結界の展開維持ができず、青音すずのグリーフシードは悪魔の体外に放出されてしまうはずだ。となると水泳の魔女が持つ叛逆の性質によって、結界が解除されないように維持しているのだろうか。

 

 悪魔は焦る。最大の武器が奪われた事に。それはほかの魔法少女も同様だった。

 

「……ちょっと。アリナのソウルジェムがどこにもないんデスケド!」

「えっ……あ、ホントだ! わたしのソウルジェムもない! 魔法があればなんとかなると思ってたのに……!」

 

 ソウルジェムと肉体の限界距離は百メートル前後。つまり彼女たちが動けているという事は、百メートル以内にソウルジェムが存在する。そう判断して周囲を見渡した悪魔は、ほのかな影が被さっている違和感に気付く。そして頭上を見上げると、そこには凹凸のある青い水晶が浮かんでいた。巨大なクリスタルの中には、参加者のソウルジェムが封印されている。

 

 その時、彼らの中心に“ウワサさん”が出現した。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? カラダ探しは隠しルールのそのウワサ

 カラダ探しに巻き込まれた魔法少女は ソウルジェムを封印される

 変身できない! 魔力出せない! 魔法も使えず元の凡人に逆戻り!

 でもでも安心して頂戴 カラダ探しをしている間は活動距離に限界なし

 あとあと目と足なければ無事よ 動く屍は見つけた背後にソレを呼ぶ

 さてさてソレの正体とは!? ダレも知らないおとなりさん

 今夜も招待♪ 閉じ込めちゃお 恐怖の鮮度は変化にある

 希望と絶望のあいだには 必ずホラー言わんこっちゃない

 今も あなたの後ろに…… ソレは成仏できず怒ってる!

 キャーホラーイ!》

 

 忽然と姿を消すウワサさん。万事了解した悪魔は、まず全員の精神状態を確かめるため声を掛ける。

 

「かりん。大丈夫か?」

「だ……全然大丈夫じゃないの! こ、これから、かりん……ソレに殺されちゃうの!? 八つ裂きにされるの!?」

「落ち着け。作戦通りに行けば問題ない。鬼はオレが引きつける。鬼が複数入ればお手上げだが」

「もうダメなのー! アリナせんぱーい!」

 

 御園かりんは尊敬する先輩に助けを求める。その先輩は正門に近付いて帰ろうとしていた。が、結界に阻まれて外に出られない。

 

「チッ……コレ、同じ結界魔法使いのアリナにケンカ売ってるワケ?」

「先輩! 見えない壁を相手にケンカを売らないでなの! そんなことより助けてなのー!」

「うるさいフールガール! アリナはとっととこんなところから帰りたいんデスケド! まだ絵が途中だったのに……アリナがウワサに巻き込まれるとか論外なんデスケド……」

 

 そこで悪魔は違和感を抱く。

 

「論外?」

 

 その時、悪魔の疑問を遮るように、四人目の参加者のあくびが聴こえてきた。

 

「ふわぁ……あれ? なんで私、こんなところに……」

 

 彼女の名は恵萌花。栄総合学園に在籍する女子高生である。彼女も魔法少女であり、水晶の中にソウルジェムが封印されているが、まだそのことに気付いておらず、寝ぼけ眼で周囲を見渡している。

 

「……! あ! あなたはいつぞやの救世主! アリナさん!」

「……ワッツ?」

「あ、あの、私のこと、覚えてません、よね……実は以前、魔女から助けてもらって────」

「知らない。悪いケド無駄話に付き合ってる暇ないカラ」

 

 アリナは自分を慕っているらしき少女を突き放すと、ズンズン校舎の昇降口に歩いていく。

 

 しょんぼりする恵萌花。アリナ・グレイの横暴ぶりに慣れている御園かりんは“分かる”と言いたげにそばに寄り添う。

 

「……恵萌花と言ったな。現状は理解しているか?」

「え? えっと……どちら様でしょうか?」

「……かりん。道中で説明しておいてくれ」

「わ、分かったの……」

 

 その時、昇降口の閉じられた扉が独りでに開かれた。悪魔は直感する。その奥から尋常ではない殺気と憎悪を感じる。ウワサは感情を持たないはず。故に超直感がウワサ相手には働かない。だが今回の敵は違った。明らかな“恨み”を以て、こちらを殺しに来ている。

 

「────どういうことだ」

「フールガールとアナタ。さっさとアリナに付いてきて。すぐにカラダを探して、こんなクソゲーム終わらせるんデスケド。──デビルボーイ、オトリ役ヨロシク」

「……了解した。一夜で終わらせるぞ。だが身体能力が一般人に低下している事は忘れるな」

「そんなの言われるまでもないんデスケド。バカにしてるワケ?」

「無駄口を叩く暇があったら中に入って探したらどうだ?」

 

 悪魔は先陣を切って中に入る。直後、異常に冷たい空気に触れて悪寒が走った。どんよりとして粘ついた気色の悪い空気。肝試しなんて一度もやった事はないが、もし深夜の墓場に足を運んだら、このような危機感を覚えるのだろうかと悪魔は苦々しく笑う。

 

 昇降口を抜けて廊下。前と左右に廊下が続いている。悪魔は懐からスマホを取り出してライトを付け、道行きを照らす。囮役を引き受ける以上、最初に鬼に発見されるのは悪魔でなければならない。それまでアリナたちは自由に行動ができない。

 

(……元々オレの身体能力は一般人並み。そこに逆転勝利の願い事によって、常時超(ハイパー)死ぬ気モードになっている。つまり魔法少女による身体能力低下のハンデが、実質オレには存在しない。これは大きなアドバンテージだ)

 

 悪魔は背後の三人に隠れろと手を振る。

 

「いいか。鬼を見たら振り返るな。安全のため鬼が居なくなっても振り返るな。細かいルールは分からないから検証しつつ確かめるしかない。もし振り返りたいなら45度ずつ振り返るんだ。それでダメなら45度の半分ずつ振り返るしかない。振(・)り(・)返(・)る(・)という細かな判定が分からない以上、あらゆる動作は慎重に行なえ」

「ま、待つの……! その検証って、失敗したらどうなるの……?」

「死にゲーって知ってるか? 死んで確かめるしかないゲームに、オレたちは巻き込まれてるんだ」

 

 悪魔は思う。

 

(オレは音ゲーや落ちゲーが好きなんだけどな……)

 

 そんなことを考えていると、どこからか女の子の歌声が廊下を響かせて聴こえてくる。喉が潰されているかのような不気味な声色。それは前方の廊下からヒタヒタと裸足で歩いてくる。色は赤。髪は黒。顔は汚れている。何で汚れているのか遠目では分からないが、ソレが近付くたび、思わず叫びたくなる容姿をしていたことに一同は絶句する。

 

『────っッ!!!?』

 

 全身が血に濡れた少女。体の線を隠す白いワンピースをふわりと着ているが、その純白は返り血で真っ赤に染め上がっている。そんな仮称・赤い人は、廊下の先に立つ標的(悪魔)を発見。

 大きく目を見開いた赤い人は遊び相手を見つけて喜んでいるのか、狂ったような笑い声を上げて走り出す。

 

「キャハハハハ!」

「きっ……きゃあああああ!」

 

 血を見た恵萌花の悲鳴。

 そちらに意識が向いた赤い人は真顔になる。が、悪魔の投げたスマホが赤い人の顔に当たって────

 

「アアア゛アアアア゛ア゛アア゛ア゛────!!!」

 

 ────怒り狂ったように眼球を裏返した。

 

「うわコワっ! でもごめん!」

 

 恐怖のあまり久方ぶりに通常テンションに戻りつつある悪魔は、怖さと謝罪を叫びつつ西側の廊下へ走り出す。

 

「ヨシ。今のうちに東側へ回るんデスケド」

「……っ……っ……!! せ、せんぱい……あ、あの人……死なない、よね……?」

「さあ? 逃げるの下手だったら死ぬんじゃナイ?」

「そ、そんな……。……あっ! せ、先輩! めぐみんが気絶してるの!」

「めぐみん? いつの間にあだ名で呼ぶ仲になっていたワケ? とりあえず置いてけば?」

「そ、そんなことしてたら、あの赤い人に殺されちゃうかもしれないの!」

「ならおんぶして連れ歩けば? アリナはイヤだからひとりで探すケド」

「そ、そんなぁ……!」

 

 かくして御園かりんは、膝が笑ってなかなか立てない中、気絶した恵萌花をおんぶして、どんどん先に進むアリナ・グレイを追い掛けた。

 

          †

 

 一方その頃。すぐ背後から甲高い声色で笑う赤い人に追い掛けられながら、悪魔は廊下を突っ走っていた。

 

「おい、お前! 名前はなんて言うんだ?」

「キャハハハハハハハハハ!」

「お前だけ超直感で心が読める! ウワサとは異なる存在なのか? それとも感情があるウワサなのか?」

「…………」

 

 情緒不安定。赤い人の心境は、その一言に尽きる。

 

(もしこいつがウワサならそれでいい……だがオレの超直感が“それは違うかもしれない”と警鐘を告げている。ならば彼女は幽霊なのか? いや、どちらかといえば悪霊か……だがオレは幽霊を見たことがないからな……比較の仕様がない。もし幽霊を見たことがあれば、超直感で“幽霊も心が読めるのか”とか、そういうことが分かったんだが……)

 

 しかし悪魔は考え直す。たとえ相手がウワサであろうと幽霊であろうと、どちらでもない存在であろうと。やるべきことは変わらない。

 

(外見年齢は九歳くらい……走る速度は年相応……だが妙だ。徐々に走る速度が上がっている気がする……こちらが疲れて減速しているわけではない……)

 

 刹那、赤い人の脚が膨張する。膨れ上がりはち切れる血管。その痛みで激怒した赤い人は、八つ当たりするように悪魔に飛びかかった。

 

「キャハハハハ!」

「なっ────!?」

 

 凄まじい跳躍距離を稼いで悪魔の頭髪を掴む。直後、九歳の少女とは思えない力で引っ張られると直感した悪魔は、死ぬ気の手刀で掴まれた部分の髪を切った。

 

「!」

「よし……そう来るなら遠慮は無しだ」

 

 悪魔は階段を登る。すると予想通り、赤い人は一足飛びで踊り場に跳び乗り、トテトテと走ると、また一足飛びで二階に到着した。

 

「────ど~くーのりょ~りーをく~わせ~るなぁ────」

 

 それは二階に到着した悪魔と同時。悪魔の背中に抱きついた赤い人は歌を歌い始める。

 

「悪いな……全てが終わったら、ちゃんと謝る」

 

 赤い人に抱き着かれている悪魔は、横を向きつつ塀の上に登り、45度回転。

 そう言って謝ると、背中から一階の階段に向けて落下した。

 

「ぐっ!?」

 

 約四メートルの落下。悪魔の体と階段の段差の間に挟まれて圧迫された赤い人は衝撃のあまり手を離す。直後、赤い人の束縛から解放されて起き上がった悪魔は後ろ向きに走り階段を登る。踊り場に到着すれば、あとは道なりに走って問題ない。そうして一気に最上階まで駆け上がった。

 

「ア゛ァアア゛ァアァァ゛ァアア゛ア゛アア゛────ッッッ!!!!!」

 

 身の毛のよだつ怨声。赤い人の激憤するような大絶叫が学園中を轟かす。それを聴いた者はしばらく身動きが取れなくなるほどの恨みつらみが含有されている。だがそれに負ける悪魔ではない。世の理不尽に対して死ぬ気で呪っているのは悪魔も同じことだ。

 

「さっさと追いかけてこい。今夜はたっぷり遊んでやるぜ」

 

 ドンッ! ドンッ! ドンッ! と階段をひとっ飛びで跳んできた赤い人は、廊下の先で待っていた悪魔の背中を見つけて叫び、追いかけっこを再開する。しかし赤い人の走行速度は既に自動車並み。時速40kmに到達しつつあった。

 

(今夜は西側の校舎を捨てるか? できれば一夜でクリアしたい。魔法少女は自分が死んだと思い込めばソウルジェムが真っ黒に染まるか、魂に受けた衝撃のあまり割れてしまう。それを避けるためには疑似的な死の体験なんてさせてはならない。だがさすがにこの広さを一夜でクリアは……いや、そうだな。何事も死ぬ気で最善を尽くすまでだッ!)

 

 悪魔は教室に飛び込む。タックルしてドアを倒した悪魔は机の脚に靴を引っ掛けて倒し、赤い人の進路を妨害。悪魔の起床と赤い人は跳躍。悪魔は次々と机を倒し、赤い人の捕獲を避けていく。

 

「アァアアアアアアア!!」

「怒りっぽいと顔にシワができちゃうぞ」

 

 ものの十数秒でしっちゃかめっちゃかになった教室を後にし、悪魔は廊下に出る。

 

(死ぬ気で逃げながらカラダを探した────どうやら今の教室にカラダは無さそうだ。この調子で西側の校舎はオレが見てまわろう)

 

 次の教室に入り、同じことを繰り返す。

 

 また次の教室に入るが、そこで悪魔は直感した。

 

(──っ! やはり成長し、学習するタイプか……!)

 

 赤い人の心境が変化した。その腕が膨れ上がり、血管がはちきれて血を噴き出す。

 次の瞬間、振るわれた豪腕が一つの机に風穴を開けた。悪魔が次々と倒す机を全て払い除け、自らの道行を邪魔する障害物をぺちゃんこに潰しては殴り撥ね飛ばす。

 

「机や椅子程度じゃ物足りなくなってきたか?」

「キャハハハハハハハハハ!!」

「それなら次の逃げ方だ」

 

 廊下に出る。次の瞬間、赤い人の手がスルリと悪魔の腰に回ろうとした。刹那、悪魔は壁を背にして高速カニ歩き。赤い人の片手が腰に回りつつあるが、もう一つの片手がギリギリのところで届かず、なかなか歌を歌えない。

 

(背後に回り切るまでは歌を歌えない……どうやらウワサが決めたゲームルールはかなり厳格のようだ……しかし違和感は拭えない……コイツ、本当にウワサなのか……? 感情の噴出の仕方は、もはや人間のソレと比べたら常軌を逸しているが……“生々しい”という感想を抱く。それはウワサのような“機械的”の対極に位置する存在だ……この子はいったい、何をそんなに恨み、怒っているんだ……?)

 

 悪魔の直感は、赤い人がウワサではなく、本物の悪霊の類であることを確信しつつあった。

 しかし情けを掛けたところで殺されない理由はない。そして進行方向に曲がり角。

 

 北

西 東

 南

     │   │

     窓   │ 教室

     │   │

 ┌─壁─┘ ↑ 戸

 │       │

 窓   ┌───┘

 │ ↑ │

 

 このままでは曲がる時の減速で追い付かれる。今の腕力では引き離すのも苦労するだろう。そのとき赤い人は悪魔の服を引っ張って転ばそうとする。賢い奴だと思いながら、悪魔は壁を背にしたカニ歩きを突如やめて赤い人の掴みを振りほどき、全力を振り絞って北の壁に突撃した。

 

「!」

 

 赤い人は好機と見て飛び込む。刹那、北の壁を蹴った悪魔は跳び上がり、西の窓側を向きつつ側転するように着地。直後、赤い人は顔面から北壁に激突した。赤い人は壁に跳ね返されて尻餅を搗く。そのあいだに後ろ歩きで廊下を曲がった悪魔は、45度、教室側に回転して進行方向に向き直り、再び走り出した。

 

「…………アァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛────ッッッッ!!!!!」

「悪い」

 

 赤い人の時速が100kmに到達する。もはや電車に匹敵する速度だ。そろそろ死が背後に近付いてくる。だが悪魔には秘策があった。

 

 悪魔は突如として足を止める。そこに突っ込む赤い人。体当りされればそれだけで即死。だが相手が悪かった。超(ハイパー)死ぬ気モードならば、この速度を相手に痛み分けで終わることができる。

 

「ごめん」

 

 悪魔は突っ込んでくる赤い人の顔面に全力の肘鉄をお見舞いした。死ぬ気と電車の交通事故。悪魔の腕が複雑骨折して鮮血を撒き散らし、赤い人は大きく吹き飛ばされる。

 

「づっ……!!」

 

 痛みをこらえて逃走。教室の中を覗き、カラダは無いと直感したら次の教室に向かう。

 やがて赤い人が起き上がる。二度も顔面に壁と肘鉄という攻撃が入った赤い人だが、当然のように無傷。トタトタと走り始めて徐々に速度が増していく。どうやら怒りのパワーに比例して速度が爆発的に上がるようだ。今は肘鉄のショックで混乱している。

 

(悪霊も混乱状態に陥る事があるんだな……)

 

 初めて知ったと感心する悪魔は、不意に開いた教室の中で直感した。

 

「────っ! やはりか!」

 

 悪魔は教室の教壇の下に“何者かの頭部”を発見する。それは放課後、悪魔たちに“カラダ探し”を頼んできた少女と瓜二つの顔をしていた。触れてみると温かい。生々しい感じがする。すぐに片腕と胴体の間に挟むようにして持ち上げる。

 背後で戸が開く音。赤い人が笑い声を上げて飛びかかってくる。

 

「!」

 

 悪魔は頭部を投げつけた。同時に教壇を蹴り倒し、窓方面に前に出て、疾走を開始。

 赤い人は顔面に“何者かの頭部”をぶつけられて視界を遮られる。直後、教壇に腹部をぶつけた赤い人は、即座に教壇を殴り飛ばす。

 

「教壇ではなく頭部を攻撃しなかったのが敗因だ」

 

 悪魔は前に出ていたが、疾走していた方向は廊下側だった。頭部の激突によって死角となった位置に走り込んでいた悪魔は、赤い人にぶつかって落ちた頭部の髪の毛を引っつかみ、45度旋回して廊下を走り出す。その先には階段。あえて立ち止まった悪魔。その背後に赤い人が抱きつく。

 

「────は~いてし~んでもし~らな~いぞぉ────」

 

 片手と口を使い、頭部の髪の毛を腕に結んだ悪魔は、塀の上に飛び乗って45度回転。再び背中から落下する。

 

「ぐあっ!」

 

 着弾のバウンドを利用し、赤い人の手をすり抜けて移動。だがその際、両脇腹を抉(・)ら(・)れ(・)た(・)。赤い人の凄まじい膂力が、悪魔の体を離すまいとした結果、その爪が深く食い込んだのである。

 

 そこで悪魔は気付く。肘鉄に使った腕から出血が止まらない。滔々と蛇口から水が注がれるような速さで血が流れている。それは両脇腹からも同じことだった。

 

(マジか。血小板(けっしょうばん)が仕事していない……ちょっとしたデバフ空間ってわけか……ひとつの傷が長時間後に命取りとなる……つくづく長生きさせる気のないゲームだな……どのみち生きて帰れる死にゲーとはいえ悪趣味が過ぎるだろ……)

 

 気付けば足がふらつく。血を流しすぎた。痛む腕を上げて滴る血をなるべく飲み込む。そこで学校の中庭が見える廊下に到着。窓を叩き割って頭部を外に押し出そうとするが、謎の結界に阻まれて窓の外にモノを送り出せない。それは悪魔自身もそうだった。

 

(くそっ……あくまでフィールドは校舎内ってことか……中庭には入れるが……正規のルートでしか入れない……窓から窓を飛び越えるような真似は許さないってことか……それなら階段からの飛び降りはどうなんだ────いや、そんなことを考えている場合じゃない。中庭に放り出せば誰かが見つけて拾ってくれると思ってたが……どうする)

 

 そこで悪魔は気付く。そもそもカラダはどこに運べば良いのかと。集めろとは言われたが、それは一箇所に同時に集めろという事なのか。頭が回らない。背後から赤い人の笑い声と足音。思考能力の低下が苛立ちを募らせる。疾走を再開。

 

(血液不足だ……何分稼げた……? そもそも死んだら本当に生き返って再ゲーム開始となるのか……? だが逆転勝利が働いていないということは、命に危険が迫っていないということだ……故に確信していた……そうだ。今更わかりきったことを考え直すんじゃない……無駄な思考だ……くそっ……考えにとりとめがなくなっている……そろそろ限界か……)

 

 既に体内の血液の三割を流してしまった。通常なら卒倒してもおかしくないところを、悪魔は気合だけで我慢している。しかも走るという激しい運動。それが恐怖も相まって心臓が脈打ち、血液の流出を著しく促す。

 

(よくできたゲームだ……)

 

 赤い人が背中に抱きつく。────次の瞬間、その気配が忽然と消えた。

 

「……は?」

 

 理由を考えた悪魔は直感する。────誰かが振り返った。

 それは事故か? あるいは、それとも────

 

          †

 

 “カラダ探し”開始から十分が経過。広大な校舎から三つのカラダを正門前に持ち帰ったアリナ・グレイは、水晶を見上げて舌打ちをする。

 

「どこに集めればいいのかと思ったら……水晶にくぼみがある……あれに投げ入れろってワケ? どう考えても無理なんデスケド」

 

 そうボヤくと、アリナが抱えている三つのカラダが自動的に浮かび上がり、大水晶のくぼみに当てはまった。

 

「……なるほど。ここに持って帰ればそれでいいワケ。ならそうと早く言ってよね。あとは北側の校舎と……デビルボーイが頑張ってる西側の校舎だヨネ。とりあえず北側に行こう」

「あ、アリナ先輩……よくそんな気持ち悪いモノ持てるの……」

「ハァ? そもそもフールガールがその使えないポンコツをおんぶして歩いてるから持たせられないんデスケド。意外とカラダって重いワケ。アリナに重労働を強いたぶん、次はフールガールが持ち運んでヨネ」

「えぇ!?」

 

 アリナ・グレイは校舎に戻る。そこで御園かりんが問いかけた。

 

「で、でも……先輩、すぐに三つのカラダを見つけたの……スゴイの……もしかしてどこに何があるか分かってたの?」

「ハァ……これだからフールガールは……イイ? 人間のカラダを八つに分けた。となれば部位にもよるけど大きさはある程度の見当がつく。腕や足なら細長いものが入るポイント。頭部や胴体なら丸いものが入るポイント。そうやって当たりをつけて、それらが入りやすいポイントを重点的に探していけば、わざわざ全部ひっくり返すように探すまでもなく、ドンピシャで見つけられるのは当然なんデスケド。まぁ細切れにされていたらクソゲー決定ダケド……つまりこのゲームは良心的ってワケ。かなりイージー」

「そ、そうなの……? わたしには、とてもイージーで良心的とは思えないの……」

「それはフールガールがフールだからに決まってるデショ」

「ひどいの先輩……」

 

 しかし御園かりんは、やはりアリナ・グレイは天才だと感心した。もしかしたらゲーム主催者の思考さえ読んで、カラダの隠し場所に見当を付けていた可能性さえあるかもしれない。ともあれこの調子ならすぐに終わりそうだと思った。が────

 

「……でも、すぐ終わるのはつまらないヨネ……」

「────え?」

「ちょっとフールガール。アリナ振り返って見るから、アナタどっか行ってて。死にたくなければ」

「……っ!?」

 

 御園かりんは驚愕する。こ(・)の(・)人(・)は(・)ま(・)た(・)そ(・)ん(・)な(・)事(・)を(・)言(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)の(・)か(・)と。

 

「や、やめるの先輩! 先輩は、もっと自分を大事にしてほしいの! そう言ったはずなの!」

「…………だからどうしたワケ? これ死んでも生き返れるゲームなんデスケド?」

「そ、そういう問題じゃないの! そ、それに今、あの人が頑張ってるし……」

「それアリナの好奇心に関係あるワケ? 一緒に死にたいならイイケド……じゃ、やってみるネ」

「だ、ダメなの! アリナせんぱ────」

 

 アリナ・グレイが振り返った瞬間、その目の前に赤い人が現れた。

 直後、赤い人の手刀がアリナ・グレイの首から上を撥ね飛ばす。

 

「────ヒッ……!」

 

 膝が震えてスカートの中が生暖かく滴る。吐きそうになって恵萌花を落としてしまうと、背後にスルリと赤い人が抱きついてきた。

 

「────ど~くーのりょ~りーをく~わせ~るなぁ────」

「……っっ!!? い、イヤなの! ヤダ! たすけて! わ、わたし、死にたくないの!!」

 

 目の前に広がるは血の海。アリナ・グレイの首なし胴体。すると上からアリナの首が降ってきた。死を体験できて喜ぶような狂気的な笑顔に緑色の髪が掛かって血しぶきに濡れている。

 

「イヤァアアアア! せ、せんぱい……っ!!」

「────は~いてし~んでもし~らな~いぞぉ────」

 

 赤い人の歌は十節ほど続いた。その後、御園かりんの胴体が強力に抱き締められてへそと背中がくっつく。口から大量の血を吐き出した御園かりんは激痛の中、血の海に倒れた。次の犠牲者は気絶している恵萌花────赤い人は歌を歌う。痛みは一瞬。眠り姫は静かに息を吐き取った。

 

          †

 

 数分後。悪魔は壁に寄りかかりながら進み、頭部を抱えて昇降口まで降りてきた。カラダを集める場所と言われて想像できるのは、なんらかの分かりやすいモニュメント。しかし西側の校舎にそれらしきものはなかった。説明不足の無責任なゲームという感覚はないため、きっと自分たちに見落としがあると考えた悪魔は“灯台下暗し”のことわざを思い出して思考をリセットする。

 

 そもそも血を流しすぎて考えすぎる知能が無いことが功を奏した。水晶。思い付くのはそれくらいしかない。既に覚えていることを思い出すので精一杯だった悪魔は、一秒後に昏倒しそうな頭と体で正門前に辿り着く。

 

(────マッドアーティスト、と呼ばれるわけだ────)

 

 アリナ・グレイの惨殺された死体を見て事態を把握した悪魔は、御園かりんと恵萌花が丁寧な殺され方をしている事に違いを発見する。

 

(振り返れば、おそらく抵抗の余地なく惨殺される……歌い終われば、どれだけ抵抗していても絞め殺される……)

 

 頭部がふわりと浮かぶ。これで四つ目のカラダを回収し終えたことを、ほか三つのカラダが納品されているのを見て悪魔は悟る。

 

(これで半分……さすがに一夜でクリアするのは難しかったか……まぁ死に瀕する痛みには慣れている。アリナ・グレイ程度の殺され方なら我慢できる……というか、瞬殺なのが優しいくらいだ……拷問の方がキツいからな……)

 

 悪魔は膝をつき、我慢ならず横に倒れる。地面に向かって血を吐き出す。このまま一気に虚空の夜空を見上げれば瞬殺されるのだろうか? そう考えて悪魔は、アスという名のキノウに希望を託し、仰向けになって大の字となった。

 

 次の瞬間、赤い人が悪魔の腹の上に乗っかっていた。赤い人の手刀が悪魔の心臓を貫いて袈裟斬り。胴体を斜めに切り裂く。しかし悪魔は絶命できない。逆転勝利が半端に発動した。生命力を強制的に魔力に変えて破損した内臓を修復する。

 

(やめろ────生き地獄を味あわせるつもりか……京子……)

 

 悪魔は制止を願うと、逆転勝利の願い事の効力は停止、じきに絶命。

 

 かくしてカラダ探しの一夜が終了した。

 

          †

 

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