アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
早朝。悪魔は目覚める。ハーフソウルリングを確認。笹川京子のソウルジェムもある。
スマホを確認。
一階に降りる。台所では七海やちよが朝食を作っていた。
「やちよ。おはよう。行ってくる」
「あら、おはよう……いってらっしゃい」
七海やちよの心が読める。外に出て人とすれ違い、全ての生物に対して超直感が発動していると確認。ここは現実世界だと確信する。
「……悪魔。君の中で何が起きていたのか、説明を願えるかな?」
「キュゥべえ。……仮想空間のウワサに囚われて二日ほどデス・ゲームに付き合わされた。今それを潰しに行くところだ」
「道理で。ただ眠っているだけなのに、やけに君に因果の糸が絡まるから不思議に思っていたんだ。逆転勝利まで働いたんだよ?」
「知っている。おかげで危うく生き地獄を味わうところだった」
悪魔は《助太刀魔法》を行使。飛ぶ先は“赤い人”────普通ならウワサ空間に弾かれて終わるだろう。ウワサ空間を突破できたところで、当の本人から拒否される場合もある。巴マミの時のように。だが赤い人は拒否しない。彼女はむしろ“こちら側”だ。彼女もデス・ゲームに巻き込まれた被害者なのだ。悪魔の考察が正しければ、瞬間移動は上手く行くはず。
悪魔は転移した。降り立った場所は見知らぬ学校。街並みは工匠区だろうか。ウワサ空間の中に入り込むことができれば話は早かったのだが、おそらく赤い人の助力があっても、ウワサが潜む学校までの手引きが限界なのだろうと推測する。
「空間位相をこじ開ける」
炎圧最大。純度最高。透き通るような死ぬ気の炎が上空を穿つように放たれても、誰もが青天の霹靂としか思わない。
「構築でダイナマイトを作成。内部に分解をメインとした死ぬ気の炎を詰め込み、サブに硬化を含ませる」
開匣。嵐の腕固定型火炎放射器in髑髏印。悪魔の想いに呼応して作り上げられた最高級の死ぬ気の炎なら、たとえ魔法で生成したダイナマイトでなくとも、本物のダイナマイトではなくとも……代用は充分可能である。
「珍しいね。君がそこまで怒るなんて」
「────《
究極の一射が放たれる。それは上空を貫いて亀裂を迸らせた。ウワサ空間への孔が開く。
それに向かって飛び上がった悪魔は、ウワサ空間の全体像を把握。さらに炎圧を引き上げた。
コンタクトディスプレイが計測した現在の炎圧がヘッドフォンから流れ出す。
『────炎圧23万……24万……!』
「────《
怒りによって限界を超えた《
かくして“カラダ探しのウワサ”は業火滅却。消し炭どころの騒ぎではない塵芥と化した。
上空に高温が溜まったことで上昇気流が発生し雷雲が生じる。
それは悪魔の怒りを表すように、激しい雷鳴を響かせていた。
†
朝の栄総合学園・正門前。登校時間のため多くの生徒が行き交う中、悪魔は黒スーツ姿で待ち構える。霧の構築によって一般人にはこの学園の制服に見えているが、特定の人物にはありのままの姿で見えるようにしている。
「あっ」
「デビルボーイ」
登校中に偶然出会ったのか、御園かりんとアリナ・グレイが現れる。
「あのウワサは消した。もう誰も巻き込むことはないはずだ」
「……! ほ、ホントなの!?」
「あっそ。アリナには関係ないカラどうでもイイ」
興味関心のないアリナは正門を潜ろうとする。
「だが赤い人はそのままだ」
「……え? そ、それ、どういうことなの……?」
アリナは立ち止まり、聞き耳を立てる。
「そもそも初めから違和感があったんだ。ウワサは内容を語る。だがその中に“赤い人”は登場しなかった」
「えっ? でも……ウワサの内容にあった“ソレ”っていうのが、あの赤い女の子のことじゃないの?」
「フールガールにしては的を射ている。そもそも“赤い人”だって、アリナたちが勝手に名付けた固有名詞ダヨネ」
「では逆に考えてほしい。なぜウワサは名前をつけず“ソレ”と曖昧な言い方をした? なにより“カラダ探しは隠しルールのウワサ”では《今も あなたの後ろに…… ソレは成仏できず 怒ってる!》とあった」
「……成仏できず怒ってる? つまりどういうことなの?」
「勿体つけないで結論だけ語ってヨネ。アリナたちを遅刻させる気なワケ?」
ならばと悪魔は過程を飛ばす。
「あの少女は“悪霊”だ。現実に存在する霊体。それをオレたちと同じように拉致したウワサは、その悪霊を“カラダ探し”というゲームの枠に組み込んだ。つまり彼女もオレたちと同じ巻き込まれた被害者ということだ。それで、これから彼女の墓に行こうと思っているんだが……どうする? どうせ午後まで部活はできない。午前の授業はサボって肝試しと行かないか?」
アリナは振り返る。数秒思案した結果、次は恐怖というテーマを題材にするつもりだったのか、ならば肝試しで何かインスピレーションを得られるかもしれないと思い、快諾した。
「場所は?」
「瞬間移動で飛ぶ。ウワサを潰したから解放されて元いた場所に戻ったはずだ。オレの肩に触れてくれ」
アリナは悪魔の肩に触れる。
「かりんはどうする?」
「えっ!?」
「当然ついてくるヨネ。本物の悪霊なんて二度と拝めないワケ。ネタ探しに最適なんじゃナイノ?」
「オレはアリナを誘おうと思ったから、別に無理強いはしないが……」
「────! そ、それじゃあ、かりんはお邪魔できないの……ふ、ふたりだけで楽しむといいの……」
「ハ? なに言ってるワケ? フールガールに拒否権なんかないんデスケド」
アリナに引っ掴まれた御園かりんは「やっぱりぃ!」と涙目になって叫ぶ。
悪魔は《助太刀魔法》を行使した。
†
深い森。頭上を覆う木の枝と木の葉。朝だというのに夜のように暗い森の中、眼前には一昔前の寺があり、寂れた墓場が広がっていた。スマホの地図アプリを開けば、現在位置は北養区の山間墓地であることが分かる。
「雰囲気はアルケド、一見してフツーの墓地ダヨネ」
「もう嫌なの……帰りたいの……絶対なにか出るの……!」
「寺がある。人が居るみたいだ。きっと住職だろう。話を聞いてみよう」
寺に声を掛けると柔和な顔をしたお坊さんが出てくる。こんな朝早くに若者三人が何用かと不思議がっているようだ。
悪魔は簡潔に問いかける。赤い人の特徴を述べて、これに当てはまる人が墓地に居ないかどうかを確かめる。
「う~む。それなりゃ“ロメオさんの妹”じゃないかなぁ~」
「えっ?」
「スージーさんと言ってね。北養区に別荘を持っていたイタリアの人で……まだこーんなに小さい女の子だったんだけど……嵐の日に館が燃えて、両親や執事、メイドの人たちが取り残される中、スージーさんだけが脱出できたんだ。豪雨の中、びしょ濡れになりながら、助けを呼ぶために下山して……でも館は森の奥、山の上にあったから、子供の足では下山に数時間かかる……それでお腹が空いたんだろうねぇ。唯一スージーさんが館から持ち出せたモノは、前日に兄ロメオの結婚相手となる女性から贈られた料理のプレゼントだったんだ。豪雨の中で下山し、体力も限界だったろうし、そのプレゼントを開けて食べたのさ……でもそこでスージーさんは“食中毒”に当たってしまったんだ! 食中毒は恐ろしいよ……そのせいでスージーさんは倒れてしまい、火事を知って駆けつけた救急隊になんとか拾われたんだけど……とき既に遅く、病院の中でスージーさんは死に際に“ロメオにいさんをとったビアンキを恨んでやる”と言ってこの世を去ったそうだ……なんともやりきれない悲しい話だよ……」
悪魔は目を伏せる。対するアリナは呆れたような目で遠くを見つめ、御園かりんは縮み上がっていた。
「そうか……そんなことが……」
「思ったよりフザけた話だったんデスケド」
「せ、先輩! そういうこと言っちゃダメなの!」
「ちなみに、そのスージーさんのお墓は────あそこだよ」
住職が指をさした場所に三人は振り返る。
するとそこには“赤い人”が立っていた。血まみれの顔と服でじーっとこちらを見つめている。
「ぎゃあああああっ!?」
「フールガールうるさいんデスケド」
「住職さん。見えますか?」
「はい? 何がですか?」
どうやら赤い人は三人にしか見えていないようだ。
悪魔は近付き、アリナが続こうとする。が、泣き叫ぶかりんがアリナの腕を引っ張る。しかし逆に引きずられてしまう。
「やぁ。害意は無さそうで助かったよ。正直、霊体と戦うのは骨が折れると思っていたからね」
「アリナも呪われるつもりで来たのに何もないから拍子抜けなんデスケド」
「成仏ぅうううううう! 成仏してくださぁあああいなのぉおお!!」
赤い人は俯く。悪魔は羞恥を直感。身を屈めて言葉を待つ。
「……その、あのね……? ……おにごっこ、たのしかった……」
「ぎゃあああ喋ったなのぉおおお!?」
「そうか。オレも楽しかったよ。でもいっぱい殴ったり蹴ったりしてごめんな……」
「ううん。おたがいさま、だから。……だってわたしも、へんなののせいで、たくさんのひとをころしちゃったし……」
「いい子なのォオオおおお! 誰だこんないい子を殺したのぉお! 成仏なのぅ!」
“へんなの”というのは“ウワサ”のことであろう。そのとき赤い人のお腹が鳴った。
それは空腹の合図でもあるが、同時にお腹を下していそうな腹痛の音でもあった。
「……おなか、すいた……おなか、いたい……キレイなもの、たべたい……なにか、くれる……?」
「えっ……しまったな……持ち合わせがないや……たしかに何かお供え物でも持ってくれば良かったな……すまない、気が利かなくて……」
「な、なんでも言って! すぐに買ってくるの! あ! ケーキとか食べようなの!」
「わたしケーキたべてしんだ」
「ごめんなさいなのぉおおおお!?」
恐怖のあまり泣き喚きながらも、御園かりんは赤い人もといスージーのため手を尽くそうとする。
そこでアリナが緑色のキューブを取り出した。
「これ、アリナが取っておいた糖分補給のラムネだけど」
「……! くれるの……?」
「好きにスレバ? アリナはいつでも食べられるから要らないダケ」
アリナは結界を解除して、スージーの手元にラムネを落とす。
それをパクリと食べたスージーは甘いのか、小さな両手でほっぺを押さえてにこにこと微笑んだ。
悪魔は直感する。スージーの中から未練が消えていくことを。
「……じゃあな。また機会があったら、今度は普通の鬼ごっこをしよう」
「────! うんっ!」
「かわいいなのぉ……でも血まみれなのはやめてほしいなのぉ……バイバイなのぉ……」
スージーの体が青く発光する。徐々に透けていく体。
最後にスージーは悪魔の体に抱きつくと、顔をスリスリとこすりつけた。
「おにいちゃん……ロメオにいちゃんの、つぎにカッコイイね。もしわたしがオトナだったら、ぜったいカレシにする!」
「そうか」
「ませてるネ」
「かわいいなのぉ……」
やがてスージーの体が消えかかる。そこでスージーは悪魔に耳打ちした。
「きをつけて。キケンなひとは、そばにいるよ」
「────」
その言葉の意味はアリナ・グレイに対して向けられていた。マッドアーティストゆえ危険なのは承知の上だが、それ以上の注意を払った方が良いという意味を悪魔は直感する。
「……消えた。これで成仏したワケ? ふーん……」
「よ、よかったの……最後に先輩のおかげで毒じゃないもの食べられて本当に良かったの……」
「…………よしっ。それじゃあ帰るか。ちなみに帰りは徒歩だから、そこは申し訳ない」
「ハ? ちょっとデビルボーイ、ふざけないデヨネ」
「こ、こんな山奥から徒歩なの……?」
「オレは魔法少女じゃない。魔法を使うのは生命力を代償とする。これ以上の魔法行使は、オレに“死ね”と言うようなものだ。ただしオレの背中に乗って移動することはできる」
『────?』
悪魔たちは住職に感謝して頭を下げ、その場を離れる。
そして悪魔はグローブから死ぬ気の炎を噴射して飛行。その背中に飛び乗ったアリナ。その背中には御園かりんが引っ付いている。
(さすがに二人は重いな……)
「ちょっとフールガール。これって魔法使いが使う魔法の箒ってヤツだヨネ?」
「さすがに男の人に乗るのはR指定が超えちゃうの! というか高すぎて怖いなのー!? これ本当に落ちないなの!?」
「落ちても魔法少女なら平気だろ」
高速飛行でぐんぐんと神浜市を横断する。参京区、中央区を超えて栄区に到着。栄総合学園の屋上に降りる。
「……。ま、これならギリギリ遅刻しないで済むヨネ」
「い、意外と楽しかったなの……! 先輩も途中から目がキラキラしてたの!」
「ハ? アリナがキレイな景色に目を奪われるのは当然なんデスケド。やっぱりアーティストには感性が大事ダヨネ」
アリナと御園かりんは空を飛んだ感想を語り合いながら屋上を去る。
青空を仰ぐ悪魔は疲弊のため息をついた。そこでDキュゥべえが忠告する。
「魔法を二回行使。死ぬ気の炎も大技を二発。神浜市を横断するほどの
「……そう、だな……少し、寝る……」
鉄柵に背中を引きずって滑り落ちるように座り込んだ悪魔は、そのまま深い眠りに落ちていく。
かくして漫研美術部G室の一行は、カラダ探しのウワサを倒し、赤い人もといスージーを成仏させたのであった。
†