アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
それは安直な考えだった。もし自分も芸術に挑戦すれば、アリナの関心を惹けるだろうかという幼稚な発想。無論、半端な気持ちでは反感を買うのは当然だ。故にやるなら徹底的に。しかし悪魔に芸術の心得はない。だが下手だからといって、酷評すれど情熱があれば貶すような真似はしない人物であることは、既に御園かりんを通して分かりきっている。しかし躊躇があった。やはりそのような下心があってはアリナにも芸術にも失礼ではないのか。目的のためとは言え、あまり気が進まない。せめて本心から“この芸術をやってみたい”と思えるようなモノがあれば良いのだが、相性の悪いことに悪魔はとんと芸術に興味がない。そこで素直に聞くことにした。
「なぁアリナ。オレに向いてる芸術ってなんだと思う?」
「……さあ? そんなのアリナが知るわけないんデスケド」
「やっぱまずは色々な物を見て回らなきゃな……」
「……そもそも、なんで芸術をやりたいワケ?」
悪魔は素直に話す。
「アリナと仲良くなれるかと思って」
「…………」
「もちろん半端にはやりたくない。そんな下心から始めたものは良くないってのは少し考えれば分かる。だからアリナとは関係なく、オレがハマれるモノがあればいいなと思ったんだが……。一口に芸術といっても数が多くて、何がいいのかも分からないし……」
挑戦したいが興味が半端なのでそもそも手が付かない。ダメダメな人間によくある典型例である。
「……芸術なんて分類に囚われてるようじゃダメダメだヨネ。アートはソウル。デビルボーイが成し遂げたい思いを込めれば、それが勝手にアートになるんデスケド」
「────オレが成し遂げたいこと……?」
それは────
「…………。……材料や画材は何がいいかな?」
「そんなのデビルボーイのやりたいことによるんデスケド」
「とりあえず巨大ロボや、家族の絵を描いてみたい。音楽なら歌謡曲が好きだけど……とりあえずアリナに近いモノがいいから、絵に関するものならそれかな」
「……。じゃあ絵画なワケ? オススメの店があるケド、アリナちょうど買いたいのあるから付いてくれば?」
やはり芸術関連になると面倒見が良くなるアリナ・グレイであった。
二人は画材店に赴き、そこでアリナから多くの画材を押し付けられるように買い占める。両手で抱えきれない量の画材を購入。これにより悪魔の財布はすっからかん。といっても結界魔法の使い手に近付くため、なけなしの金を温存しておいたので、計画通りの出費ではある。
「全部選んでくれたな。ありがとう、アリナ」
「三日坊主になったら二度とアリナの前に現れないでヨネ」
「成し遂げたいモノがあるんだ。三日坊主にはならないさ」
保存用匣兵器の中に画材を収納。絵はみかづき荘の自室で描こうかと悪魔は考える。
そうして画材店を後にした悪魔とアリナは、栄区の中でも高台にあり、海が望める広場に出た。
水平線に陽が沈む。もう夜になる時間帯だ。そろそろ別れを告げようかと悪魔は声を掛ける。
♪~シュガーソングとビターステップ~♪
そのとき時計台から門限のチャイムが流れたと思った途端、軽快な音楽が流れ始めた。すると広場に居た人たちが一斉に音楽に合わせてダンスを踊り始める。アリナも軽快なタップダンスで地を鳴らし、華麗に踊り始めた。驚く悪魔はただただ突っ立っている。それを見つけたアリナは呆れたように説明した。
「何を呆けてるワケ? ダンスもアート。インスピレーションの赴くままに踊ればいいダケなんデスケド」
「いや、思うままにと言われても……」
「ほら、いいからデビルボーイもやってみて」
悪魔は思い付くままに踊り始める。それはポップな音楽とはあまりにもジャンルが違う演歌のような踊りだった。
甘い曲に対して苦い踊り。
それを目にしたアリナ・グレイは思わず笑い飛ばす。
「アッハハ! なにそれ! 歌謡曲の聞きすぎなんデスケド!」
「なっ……アリナが思うままにやれって言うから……!」
「だからってジャンルまで違っていいとは言ってナイ。この曲はタップダンスが肝なワケ。せめてスタンダードなら分かるケド、ラテンですらナイとかアリエナイ。場違いで恥ずかしいからアリナの手を取って。アリナは天才だからダンスでも周囲の目を奪えるんデスケド!」
アリナが手を伸ばす。その上に悪魔が手を乗せた途端、世界は回りに回った。
悪魔の体はアリナにリードされて華麗に舞う。歌を歌い、一歩を踏み出す。
陽が水平線に落ちきって夜が訪れると、全ての街灯が点いて広場を熱く照らす。
そうして音楽が終わると、次の音楽が流れ始め、やがて全てのメドレーが終了する。
突然の拍手喝采。いつの間にか広場のダンスはアリナ・グレイの独壇場になっていた。
笑顔の観客が二人を取り囲む。ひとしきり踊って満足したアリナは汗をかいた顔でやりきった顔をしていた。
「これがアリナの実力ってワケ。じゃ、バーイ」
アリナは髪をかきあげて背中を見せる。
「あ、それと。昨日からダヨネ? アリナの思考を邪魔しない立ち回りを意識していたの。それだけはベリーグッド」
突然の褒め言葉。
どうやらアリナ・グレイは、彼女なりに悪魔の動向を見極めていたようだ。
「ラスト。競技ダンスは上手い奴がリードすれば、どんな下手な奴でもそれなりに上手く踊れるカラ、今ので自分にダンスの才能があるとか勘違いしないでヨネ」
悪魔を振り回して好き放題に踊り狂った後、アリナ・グレイは雑踏の奥に消えていった。
(……疲れた。でも悪くない一日だったように思う。まさか“日常”を思い出すとはな……この街、全てが新鮮すぎて“非日常”の言葉が似合うはずなのに……それでも一年前のことを思い出すのは、きっと
強烈とは魅力的。だが裏を返せば強烈とは
かくして別世界に来たかのような芸術の街・栄区の一日を堪能した悪魔は、静かで平穏なみかづき荘に帰宅する。出迎えてくれるは七海やちよと百江なぎさ。環いろはと暁美ほむらも集まっていた。
刺激的なのも調和的なのも、どちらの日常も捨てがたい。もしかしたらその両方のバランスを保つことが、人生を最大限に楽しむ秘訣なのかもしれない。
そう思いつつ匣兵器から画材を開匣した後、悪魔は倒れるように寝台に就いたのだった。
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