※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【わかった! いっぱい食べて魔法少女になる!】千歳ゆま

 

 夜の新西区。人気のない薄闇通り。そこを歩く五人の少年少女。黒スーツに私服、制服と取り留めのない服装に身を包む集団は、静まり返った街と同じように一言も発さず帰路に就く。しかし少女たちは多くの疑問に苛まれていた。

 

 美国織莉子と名乗る魔法少女の複雑怪奇な陰謀詭計。戦闘中に聞いた“鹿目まどか暗殺計画”とはなんなのか。なぜそんなことをするのか。地球が滅ぶとか滅ばないとか。悪魔と美国織莉子の間だけで数百年くらい話が進み、まるで自分たちはウラシマ状態だ。

 

 聞きたいことは山ほどある。だが今の悪魔に声を掛けることは憚(はばか)られた。目の前の少年の体の中で、血が激しく沸騰しているような気がする。それは怒りを表す比喩ではない。むしろその後ろ姿は敗北感に満ちていた。悪魔の歩き方が早い。自分たちの体が一番前を歩く悪魔の背中に吸い寄せられているような気がする。そんな意味の分からない感覚が襲うせいで、なかなか口を出せないでいた。

 

 そのとき佐倉杏子の声が静寂を打ち破る。

 

「────ったく。この時間帯は嫌だね。あちこちから晩飯の匂いがしやがる。ハラが減ってしょうがない。おい悪魔。なんか奢ってくれよ」

「……! キョーコ! ゆま、もらってきた! これ、お菓子! 晩餐!」

 

 千歳ゆまは買い物袋からお菓子の箱を取り出して佐倉杏子に差し出す。だが佐倉杏子は聞こえてないのか、じっと悪魔の背中を目を細めて睨んでいた。千歳ゆまも佐倉杏子の視線を探して見やる。

 

 悪魔は答えない。

 次の瞬間、千歳ゆまが誘拐されてから押さえ込んでいた分を吐き出すように、佐倉杏子が怒号を張り上げて問いただした。

 

「おい! 無視すんじゃねぇ! 今回の件、いったいどういうことなのか全部説明しやがれ!」

 

 その大声に驚いた鹿目まどかと暁美ほむら。

 

「……キョーコ?」

 

 怯える千歳ゆまに気付いた佐倉杏子は我に返り、「大声出してごめん」と小さな頭を撫でる。

 

「────すまない。予知者との戦いは超直感を毎秒数十回は乱用する。故に戦闘後は全身の血液が沸騰し、心身と思考能力が一時的にダウンする」

「……じゃあ今はダウンが治ったのか」

「説明を始める。だが予知者との余韻が残っていて、どこから話せばいいのか分からない。頭の中に複数の未来の残像がまだ見えている。例えるなら夢心地というやつだ。できれば質問してほしい。でなければ何を話して、何を話していないのか区別がつかない」

「わざわざ質疑応答かよ……めんどくせぇ。だが聞くことはハッキリしてる。ゆまが攫われた理由は?」

 

 悪魔は夜空の月を見上げて答える。

 

「まどかを殺すため……なのは、さすがに状況的に理解しているよな。確認のためか? では一つだけ訂正する。──ゆまは攫われていない。接触してきた織莉子から言伝を頼まれたんだ。ありもしない言伝をな」

「なに?」

「あのね、キョーコ! ゆま、織莉子から聞いたよ! “夜の廃墟の街で晩餐するから美味しいもの買ってきてくれ”ってキョーコが言った通り、ゆま買い物してきた! でも晩餐はどこでするの?」

「なっ……あ、アタシはそんなこと頼んだ覚えはないぞ?」

「え? でも織莉子が言ってたよ? キョーコに、ゆまに伝えるように頼まれたって!」

 

 佐倉杏子はハッとする。

 

「そういうことだ。そもそも千歳ゆまは攫われていない。美国織莉子の嘘に騙されただけだ。佐倉にしては珍しい失態だな。それほど取り乱していた証拠でもあるが」

「……くそっ!」

 

 単純な方法で完璧に出し抜かれていた事に、佐倉杏子は激しい悔恨の念を抱く。

 

「後悔しても仕方がない。佐(・)倉(・)杏(・)子(・)が(・)取(・)り(・)乱(・)し(・)て(・)思(・)考(・)力(・)が(・)低(・)下(・)す(・)る(・)未(・)来(・)を予知されていたのだから」

「っ……」

「ほかに質問は?」

 

 そこで暁美ほむらが口を開きかかるが、どうしても質問する勇気が出ない。

 その様子をチラリと見ていた鹿目まどかは俯き、勇気を秘めた拳を作って身を乗り出し問いかける。

 

「あの! どうして、ほむらちゃんは誘拐されて……あの人たちは、わたしを殺そうとしたんでしょうか……」

「……説明するまでもないことだと思うが、確認のためか。ほむらは単なる餌だ。まどかを殺すために選ばれた。攫う相手は誰でも良かった。まどかを殺す理由は単純明快。だがそれは佐倉とゆまがいる限り説明できない」

「はぁ!? ここまで巻き込まれたんだ! アタシにも聞かせろよ!」

「…………悩む。もう超直感(ブラッド・オブ・ボンゴレ)を働かせたくない。佐倉、ソウルジェムの真実は知っているか」

「ハァ? ソウルジェムに何があるって言うんだよ……」

 

 そこで暁美ほむらと鹿目まどかは気付いた。

 佐倉杏子はソウルジェムが魂であることや魔女化を知らない。

 

「…………ほむら。判断は任せる」

「えっ……私ですか!?」

 

 暁美ほむらはチラリと見やる。すると佐倉杏子と視線がぶつかり、あたふた。

 

「……無駄だ。アタシはここで絶対に聞き出す。ゆまが巻き込まれたんだ。収穫なしじゃ帰れない」

「それが佐倉にとって死に瀕する真実であってもか?」

「アタシの過去は知ってるだろ? 今更、どんなことでも怖気付かないさ」

「信じるぞ」

 

 悪魔は語る。

 

「鹿目まどかが殺される理由だったな。美国織莉子は未来予知で“鹿目まどかが魔女化して地球が滅ぶ未来”を視た。故に美国織莉子は世(・)界(・)を(・)救(・)う(・)ために鹿目まどか殺害計画を立てた」

『……っッ!?』

 

 三者三様の驚き。その内心を超(・)精(・)密(・)に(・)推し量る術を悪魔は持たない。だが凡人の心持ちで予想はできる。

 

 鹿目まどかは震えている。魔女化については知っていた。水波レナと秋野かえでの魔女化を見て。だが世界を滅ぼすほどの力はない。なぜ自分にそこまでの力があるのか。納得できるような説明が欲しい。なによりもしそれが本当なら……その心は耐えられるのだろうか。彼女だって平凡な少女。どんな運命力を持とうとも、気高く強かに見えようと、傷つかない英雄はどこにもいない。

 

 暁美ほむらは勘が良ければ自らのせいだと反省している。ループを繰り返すたび鹿目まどかの魔力係数が向上しているという話を今朝聞いたばかりだ。その時は意味がよく分からなかっただろう。だが鹿目まどかの魔女化で世界が滅ぶという話は、彼女の魔女化を目撃した暁美ほむらにとって、決して“ありえない”とは言えない。なぜなら鹿目まどかの魔女化した姿は、山のようにそびえる超巨大型魔女だったのだから。その威容はワルプルギスの夜を超える。

 

 佐倉杏子は魔女の正体が魔法少女だと知り愕然とする。だが悪魔はソウルジェムの真実と言った。それはどういう意味か。

 

「……思考力が戻ってきた。ここで全体の流れを一旦整理しよう。まず美国織莉子の予知内容では、鹿目まどかを殺したのは謎の白い男だった。まどかのソウルジェムを砕いて殺した。ソウルジェムは魂を具現化した代物だからな」

「……白い、男……?」

「だ、誰なんですか! その人は!?」

「……っ!」

 

 首をかしげる鹿目まどかと、追求する暁美ほむら。

 佐倉杏子は自分のソウルジェムを取り出し、それを乗せる手のひらが微弱に震えていた。

 一方の千歳ゆまは会話の理解に追いつかないでいる。

 

「その男は去り際に『世界が滅んじゃったら世界征服できないじゃん?』と言い残して消えた。正直まどかを助けられる見込みはなかった。故に叛逆と逆転勝利の魔法を併用し、強引に既定路線(その未来へのレール)を破壊した。無論、織莉子は既定路線(その未来へのレール)を修復するため瞬間予知を多用する。予知者にとっては、目標となる未来のゴールが見えているなら、あとは瞬間予知を繰り返して、そ(・)う(・)な(・)る(・)よ(・)う(・)に(・)誘(・)導(・)すればいいだけだからな」

 

 悪魔は疑問の声色で語る。

 

「しかし白い男は織莉子の予知を裏切った。白い男はオレとの対決を後回しにしたらしい。『まだ君と戦う時じゃない』と言っていた。剣呑を避けて友情を探るような視線だった。奴が何者かは不明だ。夜の闇に紛れて顔もよく見えなかった。……ともあれ鹿目まどかを殺す役割を持つ白い男は撤退した。そのため織莉子はどれだけ瞬間予知しても既定路線の修復は叶わなかった。つまり白い男は“予知者の前提を覆す能力”を持っている。オレとの戦いを避けなければ鹿目まどかを殺せたのに、そうしなかったのは、おそらく奴も“予知に近い何らかの情報収集能力”を持っているからだ。それで美国織莉子を騙した。『ボクが殺すからこの既定路線で行こう』と言っておいて。白い男が織莉子の予知を裏切ったとは、そういう意味だ」

 

 白い男の考察は後回しでいい。そう言った悪魔は本題に戻る。

 

「つまるところあらゆる因果が収束した結果、織莉子は既定路線の修復が不可能となった。それでも未来予知を繰り返して活路を探った織莉子だが、そこで長期予知が暴発。織莉子自身の前提が覆って戦いは終了した」

「……前提が覆った?」

 

 暁美ほむらの疑問に答える。

 

「美国織莉子は新たな未来を予知した。それは“鹿目まどかが世界を滅ぼした未来”の後の話だ。鹿目まどかは魔女化したはず。だが鹿目まどかは魔法少女の姿で生きていた。そして鹿目まどかは世(・)界(・)を(・)救(・)う(・)手(・)助(・)け(・)をしてくれた。地球は救われてハッピーエンド。────おかしな時系列だ。そのせいで美国織莉子は分からなくなった。鹿目まどかを殺すのが正しいのか、生かすのが正しいのか」

「……あの人は、織莉子さんは……またわたしを殺しに来るのかな……」

「まどか……」

「それは“鹿目まどかを殺した未来”がどうなるのかによるだろう。予知者は結果論で語る。並行者は統計論で語る。読心者は感情論で語る。その点で言えば、感情を剥き出しにした織莉子が錯乱しない限り、ほぼほぼ無害だと考えていい。だが警戒はしておけよ」

「はい……」

「…………」

 

 そこで佐倉杏子が足を止めた。

 

「おい……それ、いつから知ってたんだ」

「……初めから」

 

 悪魔が答えた瞬間、佐倉杏子はギリっと奥歯を噛み締める。

 

「マミは知らないだろ、それ……」

「そうだな」

「じゃあアンタは、それを隠して……ずっとアタシたちと一緒にいたのか」

「……そうだが。何か思う所があるのか?」

「ふざけんな! ありまくりだろ!」

 

 佐倉杏子はどこか悔しそうに拳を作り、肩が震えていた。

 

「……キョーコ?」

「っ……ゆま、帰るぞ。夜は寒いだろ。なんで上着を着てないんだ」

「忘れた!」

 

 佐倉杏子は踵を返す。そこで悪魔が呟いた。

 

「みかづき荘の飯は美味いぞ。今から宿を見つけたら寝るのは深夜だ。ゆまの体にも負担がかかる」

「────」

「……秘密を隠していた奴と同じ屋根の下は嫌か? なら安心しろ。オレは野宿する」

「…………────っ。そんなんじゃねぇよ。アンタはフツーにしてな。これはアタシの問題だ」

 

 佐倉杏子は振り返って悪魔より先に進む。

 それをとたとたと一生懸命追いかける千歳ゆま。

 

「待って、キョーコ!」

「ゆま、今日はご馳走だ。みかづき荘ってのがどんなところかは知らねぇが、そこで一晩過ごすぞ」

「……! ご馳走! 晩餐!」

 

 それを見守る悪魔は、暁美ほむらに問いかける。

 

「ほむら。随分と佐倉を魔法少女として信頼・評価しているんだな」

「……えっ?」

「織莉子と戦闘している時、ほむらは佐倉を知っていると直感していた。見滝原市と風見野市は近い。マミとも交友があることから、前回のループで佐倉と知り合い、魔女化の真実を知っても屈しなかったと見た。佐倉は悪ぶることで穢れの蓄積を抑えている節がある。だから魔女化について教えるかどうか、お前に判断を任せたんだ」

「……!」

「内心で即答だったから驚いたよ。自分の言葉では誰も信じてくれないと思いつつ、佐倉の性格上、この世界では佐倉と長い付き合いであるオレの言葉なら信じてくれるかも知れないと考察していた。その考え方は統計論そのものだ」

 

 悪魔は「そっちじゃないぞ」と先行く佐倉杏子と千歳ゆまに声を掛けて通りを曲がる。

 一方、ずっと俯いて何かを考えている鹿目まどかは、暁美ほむらに問いかけた。

 

「……ねぇ、ほむらちゃん」

「うん?」

「ほむらちゃんが転校してきて最初に会った時、色々なことを矢継ぎ早に話してくれたよね。魔法少女であること。過去に戻れること。歴史を変えられること。魔女化のこと。キュゥべえに騙されていること。あと、なんでかわたしに泣いて謝っていたよね。それで、わたし……ほむらちゃんの話は、ずっと半信半疑だったけど……絶交ルールのウワサとの戦いで、レナちゃんとかえでちゃんが魔女化したのを見て……ほむらちゃんの話は本当だったんだって思うようになってきたんだ。だから……あれ? ごめん。何を言いたいのか分からなくなっちゃった」

 

 鹿目まどかは困ったように笑う。命を狙われて一時間も経っていないのだ。思考がまとまらず混乱するのも無理はない。

 

「ううん……私の方こそ、ごめんね……だって今回の件は、私のせいかもしれないんだから……」

「────え? どういうこと? ほむらちゃんのせいなわけないよ」

 

 暁美ほむらは首を否と振る。だが怖くて、なぜ自分のせいなのか口に出すことができなかった。恨まれるかもしれない。怒られるかもしれない。まどかの性格上、そんなことするような子じゃないのは分かっている。けど罪悪感で押しつぶされそうになる。

 

(────今朝、悪魔さんとキュゥべえは確かに言っていた。“わたしがループを繰り返しているから鹿目まどかは強くなっている”って)

 

 なぜループを繰り返すたび鹿目まどかが魔法少女としても魔女としても強くなるのか理屈は分からない。たびたび悪魔とキュゥべえが口にしていた“魔力係数”というものが、その理屈に当てはまるのだろうか。なんにせよ、もしそれが真実なら、暁美ほむらは何か取り返しのつかない願い事を叶えてしまったのではないか?

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方がない。時限爆弾が作動したなら、タイムリミットが来るまでに、どの色のコードを切ればいいのかだけを考えろ」

「────っ!!」

 

 ふとした悪魔の脈絡のない呟き。

 その背中を目にした暁美ほむらは、自分の心が読まれた事を察した。

 

「…………?」

 

 その光景を眺める鹿目まどかは、ふと何かを思い出したように声を上げた。

 

「あっ! 忘れてた!」

「ひゃ!? まどか、どうしたの……?」

 

 鹿目まどかは悪魔の背中に語りかける。

 

「あ、あの! 助けてくれて、ありがとうございました! あのゆまちゃんって子も……わたしのせいで殺されそうだったから……」

「まどか……」

「礼には及ばない。お返しがしたければ、とにかく生き残ることだ。世界を救いも滅びもする力があると言われてもピンと来ないだろう。だが大きな力を持っているなら、それを人のために使いたいと思っているんだろう? ならやることは今までと変わらない。ちがうか?」

「────いえ! 変わりません」

 

 ならばよし。と言うように悪魔は「フッ」と笑う。

 やがて、みかづき荘が見えてきた。窓から漏れる明かり。漂う香ばしり匂いから察するに、今日はカレーライスのようだ。

 

「……! キョーコ! カレーライス!」

「杏子。オレが先に入る。知らない魔力パターンが来て家主(やちよ)が警戒しているはずだ」

「あいよ。──ゆま、これは久々のご馳走だ!」

「わーい!」

 

 千歳ゆまは嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる。

 その可愛らしい姿を見て、つい少女たちに笑みがこぼれる。

 

「ただいま帰った。やちよ、客人がいる。もてなしてくれ」

「……薮から棒に何よ。もてなすも何も、あなた何様なわけ? それにあなた一度帰ってきたはずよね……なんでまた玄関から現れるわけ?」

 

 七海やちよのツッコミ。正論でしかない言葉に悪魔は淡々とした説明で返す。

 

「鹿目まどかが美国織莉子・呉キリカという魔法少女に殺されかけた。助けに向かった所で旧友と再会してな。こちら佐倉杏子だ。連れ子は千歳ゆま」

「連れ子言うな。変な誤解されるだろ……」

「ゆまはキョーコの子供じゃないよ! トモダチだよ!」

「すまない。言い変えよう。みなしごの保護者とみなしごだ」

 

 悪魔は千歳ゆまを“みなしご”と言った。

 そこで佐倉杏子は、悪魔が千歳ゆまの経緯を知っていることを察する。

 

「……アタシが見せた幻……思い出したのか?」

「ん? なんのこと────あぁ……なるほど。だからゆまの所に《助太刀》できたのか。いや、覚えてないよ。だが……まさか封印しているはずの闇属性の魔力を使うとはな……それほどゆまが大事だったというわけか」

「ばっ……! そんなんじゃねぇよ!」

「キョーコ?」

 

 佐倉杏子は本来、闇(・)属(・)性(・)の(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)である。ほかには微弱だが火属性と無属性の魔力も使用可能。つまり佐倉杏子は三つの魔力を使いこなす、高い才能を有している。

 しかし佐倉杏子の家族が、彼女を残して一家無理心中をしてから、佐倉杏子は《幻惑魔法》や《必殺魔法(マギア)・紅霊幻分身(ロッソ・ファンタズマ)》を封印した。それは闇属性の魔力を封印することに等しい。なお槍の柄に魔力を込めて関節を増やし武器を伸ばしたりするのは、ただの魔力操作である。もし増殖魔力を解放すれば、現在の比ではない万里の長城のような槍を作ることも可能だろう。ともあれ封印以降はサブの火属性と無属性の魔力だけで、佐倉杏子は一線級の魔法少女として数多の戦場を駆け抜けてきた。

 

 本来の力を封印しつつ、百戦錬磨の魔法少女として活躍する。その実力はまさしく強者。……魔法少女の中でも“最強”と悪魔が位置づける、かの巴マミも太鼓判を押すほどの“圧倒的な強者”である。

 

「……話は分かったわ。要は魔法少女に襲われて危険だから、鹿目さんを預かってくれって話ね。では客人は?」

「同様だ。佐倉はゆまを人質に取られて、鹿目まどかを殺せと命令されていた。またゆまを人質に取られるのは避けたい。一晩だけでいいから保護を頼みたい」

 

 七海やちよは溜め息をつく。

 

「……いいわ。自由にくつろいで。ただし散らかさないように」

「おっ。意外と話の分かる奴じゃん。アンタ名前は?」

「七海やちよ」

「佐倉杏子だ。これ食うかい?」

 

 佐倉杏子はポケットからうんまい棒を取り出して渡す。

 いきなりの贈り物に目を見張った七海やちよは、やがて首を横に振る。

 

「これから夕食よ。おやつは後」

「そうかい。確かにその通りだ」

「それより気になることがあるんだけど。あなたたち服が汚れ過ぎよ。お風呂沸かしてあるから入ってちょうだい。そんな汚い姿でうろつかれたらたまったもんじゃないわ」

「そりゃあ悪うござんした。着替えはあるのかい?」

「……たしか倉庫にしまってあるはずだから、それを取り出すわ。環さん、ごめんけど彼女たちを風呂場に案内して?」

 

 環いろはは「あ、はい。分かりました」と席を立ち、佐倉杏子と千歳ゆまを風呂場に連れて行く。

 七海やちよは家の物入れに向かい、リビングには悪魔、鹿目まどか、暁美ほむら、百江なぎさ、リリスが残された。

 

「色々と考えることがあるだろう。今夜はゆっくり休め」

 

 悪魔は自室に去る。そこで暁美ほむらが言った。

 

「あの……悪魔さん。あとでお話があるんですけど……」

「……────了解した」

 

 鹿目まどかは聞く。何を話すのかと。

 それを暁美ほむらは、今朝の修行と絡めて誤魔化した。

 

          †

 

「かぁー! 風呂上がりのカレーライスは美味いなぁ!」

「うまーい! キョーコ、あーん!」

「ん? あーん」

 

 七海やちよから桃色と黄緑のパジャマを貸してもらった佐倉杏子と千歳ゆまはガツガツとカレーライスを食べる。その食べっぷりに驚く暁美ほむら。「お行儀が……」と気にしつつも苦笑いで微笑む鹿目まどかと環いろは。気にしないようにしているのか押し黙ってスプーンを進める七海やちよ。そして毎度恒例、机を叩いた百江なぎさの抗議が飛ぶ。

 

「なぜチーズカレーではないのですか!」

「はいパルメザンチーズ。粉かけて食べなさい」

「よっしゃあなのです! でもカレー成分の方が多いのです! 気に食わないのです!」

「だからって山のように振りかけるのだけは、もう止してね」

 

 その光景を眺めるリリスは、食卓の上に飛び乗って環いろはの皿から匂いを嗅ぐ。

 

「リリスも食べたい?」

「モッキュ!」

 

 一口分け与えた瞬間、リリスはとろけ落ちそうなほっぺを支えて美味しさに喜んだ。

 それを見た佐倉杏子が不思議そうに問いかける。

 

「なんだぁそのキュゥべえ? 随分とちっこくなっちまってるじゃないか」

「あ……これは、私にもよく分からなくて……以前は小さなキュゥべえって呼んでたんです」

「へぇ……モキュモキュ言ってるけど喋れないのか? 珍しいキュゥべえもいるもんだな」

「モキュー?」

 

 食卓の団欒。

 そこで鹿目まどかは、無意識に千歳ゆまのことを見つめていた。ふと二人の視線が合う。

 

「?」

「あ、ごめんね。えっと……わたしのせいで危険な目に遭わせてごめんね? 本当は、もっとちゃんとした場所で謝りたかったんだけど……」

「……もう気にすんなよ、そんな昔のこと。ゆまが人質に取られたのはアタシの失態だ。アンタが気にするようなことじゃない」

「……?」

 

 千歳ゆまは鹿目まどかと佐倉杏子の顔を交互に見やる。

 やや静まる食卓。それを察してか、環いろはが聞いた。

 

「あの……ゆまちゃんって何歳なのかな? 小学一年生くらい?」

「そんな小さな子を人質に取るなんて、ひどい魔法少女ね」

「…………」

 

 環いろはと七海やちよの言葉に、千歳ゆまはどうしようかと黙り込む。

 そのとき階段から足音がした。悪魔が降りてきたのだ。

 

「悪魔さん」

「…………」

 

 悪魔の顔色が悪い。発熱しているのか紅潮している。見るからに具合も悪そうだ。

 それを目にした環いろはは驚いて席を立つ。

 

「えっ……どうしたんですか、悪魔さん? そういえばやちよさんが、熱があるって……」

「やめときな。今の悪魔には近付かない方がいい」

「────え?」

 

 佐倉杏子の言葉の意味が理解できない環いろはは困惑する。

 そのまま悪魔はフラフラと玄関に近付く。まさかその体調で外に出ようと言うのか。思わず止めようとした環いろはの行動前兆を直感した悪魔は、百江なぎさに語りかける。

 

「そうだ、なぎさ」

「ふん?」

「お前とゆまは同い年だから、仲良くしてやってくれ」

 

 悪魔は外出する。まるで魔法少女たちを避けるように。

 一方、悪魔の衝撃発言を受けた一同は固まっていた。

 

 そこで七海やちよが問いかける。

 

「ねぇ、なぎさ……あなた、年は?」

「なぎさは大人だから年齢なんて無いのです」

「あのねぇ……」

 

 そこで鹿目まどかと暁美ほむらは、二人の外見年齢を比較する。

 

「なぎさちゃんは、小学校高学年くらい……だよね?」

「うん。でも、ゆまちゃんは……どう見ても……」

 

 そこで佐倉杏子が険しい顔をする。今まで年齢は興味がなかったので聞かなかった。今しがた「そういえば聞いていなかったな」と思うくらいだ。しかし共に過ごすうち漠然とした違和感には気付いていた。確かに外見年齢は小学一年生か二年生くらいだ。その割には言動が幼すぎるきらいはある。しかしある程度の漢字は読めるようで、意外と計算もできる時があった。そういう場面に出くわすと、佐倉杏子は「ゆまは意外と賢いな」と褒めるだけで、直視することを避けてきた。

 

「…………」

 

 千歳ゆまはモジモジとする。切ない。やるせない。できれば隠していたかった。いつも本当の年齢を言うと周りを不幸にする。親戚という人からは嫌な目を向けられたり、見知らぬ人からは泣かれたり、でも泣く割には助けてくれなかったり。そのくらいは経験則で分かってきた。でも今ここにいる人たちはきっと違う。みんな優しい。だからこそ、その優しい気持ちを落ち込ませないために、千歳ゆまはだんまりを決め込んでカレーライスを食べる。

 

 キョーコは食べることは生きることと言っていた。だから食べる。食べて食べて大きくなる。そうすればみんなの目は変わる。千歳ゆまは佐倉杏子から生き方を教えてもらっている最中だ。もっともっと成長して、佐倉杏子を守れるような強い人にならなくては。

 

「キョーコ! ゆま、魔法少女になりたい!」

「なっ────お前まだそんなこと言ってんのか!? いいか、魔法少女は魔女になるんだぞ!? ゆまはあんな化け物になりたいのか? お前の両親も殺したんだぞ?」

「ゆまは、キョーコを守りたい!」

「……っ! ────だったら、もっともっといっぱい食べてでっかくなれ! それだけで……アタシは充分だよ……」

「……わかった! いっぱい食べて魔法少女になる!」

「だーかーらぁー!」

 

 佐倉杏子は「だめだこりゃ」と目元を覆って椅子に海老反りになる。

 対する千歳ゆまはガツガツと食べる。小さな体に栄養を取り入れるため。佐倉杏子を守れるようになるため。

 それを見ていられなくなった七海やちよは席を立ち、台所に行って水を替えに行った。

 

「やちよさん?」

 

 七海やちよの様子がおかしい。それを察して環いろはが歩み寄る。

 

「……栄養失調による発育不良よ」

「え……?」

「風呂場にパジャマの替えを持って行ったとき、あの子の体、傷だらけだった。タバコを押し付けられたような痕もあったわ。あれはどう見ても虐待された痕よ」

「……っ!?」

「でも佐倉さんがやったんじゃない。だってあんなに懐いているんだもの。きっと日常的に両親から虐待を受けていたんだわ。そして今聞いたでしょう? ゆまの両親は魔女に殺された。そこを佐倉さんが拾ったのよ」

「……それじゃあ、こういうことですか? ゆまちゃんは、ろ(・)く(・)に(・)食(・)べ(・)物(・)を(・)食(・)べ(・)さ(・)せ(・)て(・)も(・)ら(・)え(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)って……」

「……それ以外に……ちょっと考えつかなかった」

 

 過度な栄養失調による成長ホルモンの不足。故に千歳ゆまの体は成長できず低身長のままだった。

 

「……ういは小学五年生なんです。病弱だから平均身長より少し低くて143cm……ゆまちゃんは130cmくらいかな……」

「…………」

 

 よく死ななかったものだ。七海やちよは冷蔵庫から牛乳の紙パックを取り出す。

 それを食卓に持っていくと“ドンッ!”と力強く千歳ゆまの前に叩き下ろした。

 

『────!?』

「大きくなりたいんでしょ? なら飲みなさい!」

「……! うん! ありがとう! お姉ちゃん!」

「“七海やちよ”よ。また“みかづき荘”に遊びに来なさい」

「うん!」

 

 そして団欒の食事は終わり、寛ぐ時間が訪れる。

 リビングのソファに座る千歳ゆまと百江なぎさはテレビをつけて一緒に見、その傍らで佐倉杏子はボーッと過ごす。鹿目まどかは、環いろはと七海やちよに、いったい何があって命を狙われたのかを──自分の魔女化が地球を滅ぼす云々は伏せて──簡単に説明しており、暁美ほむらは話があるからと外に出て悪魔を探しに行った。

 

          †

 

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