アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
星月夜。みかづき荘の屋根の上。
そこで仰向けに寝そべる悪魔に、地上から跳び上がってきた暁美ほむらが声をかける。
「悪魔さん……体調が悪そうですが、大丈夫ですか……?」
「…………なんの用だ」
後頭部に手を組んで目を瞑る悪魔は、なぜか苛立ち混じりの声色で問い返す。
悪魔が隠しているのもあるが、それに気付かない暁美ほむらは沈鬱な面持ちで話し始めた。
「その……まどかが魔女化したら
「……あぁ」
鹿目まどかの魔女化した姿。それは救済の魔女。その性質は慈悲。
地球の生物を数週間かけて滅ぼす最悪の魔女。地球と同じサイズの球場結界を宇宙空間に作り出し、そこに地球の生命エネルギーを吸い上げている。いずれ遍く動物や植物は枯れ果て、魔法少女も魔女と化す。
「初めてまどかが魔女化した時、キュゥべえがそう言っていたんです」
「────、……」
「美国織莉子という人が、まどかを危険視するのも分かります。でも殺させない。私がまどかを守る」
「…………」
「私はまどかが生きててくれれば、幸せに暮らしてくれれば、それでいい。それだけでいいんです」
悪魔は目を開く。目に映るは一番星。そのほか二つの星が散り散りに見えた。
「前回のループで私は……“魔女にだけはなりたくない”と言ったまどかの願いを聞き入れて……撃ち殺しました」
「──……それを話して、何が言いたい?」
暁美ほむらは驚きの懇願を口にする。
「お願いがあります。まどかと悪魔契約を結んでください。まどかが普通の人間に戻れば、美国織莉子がまどかを狙う理由はなくなるし、地球が滅びるコトもなくなる。それに私は……まどかに普通の女の子として幸せになってほしい。それがまどかにとって幸せなのかどうかは、まだ聞く勇気がないから分からないんですけど────」
悪魔は身を起こす。
「そういうのは、まず本人に相談するべきじゃないのか?」
「それは……ただ悪魔さんが受け入れてくれるかどうかを先に聞きたくて……たぶんまどかは、話せば分かってくれると思うから……」
「……オレは必要とあらばいつでも悪魔契約を受け付ける。だが……暁美ほむら。お前は悪魔契約の儀式内容を知らない。おそらくまどかは、それを知ったら断ると思うぞ」
「……儀式内容。そういえば十咎さんも水波さんも秋野さんも、みんな悪魔契約で何をしたのかは教えてくれませんでした。百江さんは“お子チャマには早い”と言ってたし……。あの、いったい何をどうしたら、魔法少女を元の人間に戻すなんてことが可能なんですか?」
「知りたいか?」
アゴを上げて振り返った悪魔は、挑発的な視線で暁美ほむらを見下ろす。
「……っ!?」
悪魔の顔と体が熱を帯びているからだろうか。
なぜかは知らないがドキリとした暁美ほむらは、悪魔から妖艶な気配を感じ取る。
「……そうだな。ほむら。怒らないで聞いてほしいんだが、オレは今朝、ほむらの願い事を知ってから、ずっと気になっていることがある」
「?」
「願い事とは皮肉なモノでな。例えばの話《鹿目まどかを守りたい》と願ったら、宇宙は《暁美ほむらが鹿目まどかを守るためには、鹿目まどかには敵が存在しなければならない》と判断するんだ」
「────、…………っッ!?」
暁美ほむらのソウルジェムが明滅する。ザワザワとちりつく穢れが増幅する。
「ワルプルギスの夜。美国織莉子。これが鹿目まどかの敵だとするなら、暁美ほむらはその敵を
「────…………な、なんで……なんで、そんなこと言うんですか……なんで倒せないって……」
「なぜって……まどかの敵が居なくなったら、
「────────」
暁美ほむらの両目が限界まで見開かれる。
激しく明滅するソウルジェムは穢れをゴウゴウと言わせる。
「そんなに気にするな。単なる言葉遊びだ」
「……っ! …………、……────だ、だれですか?」
「……?」
「いえ、なんだか……いつもの悪魔さんじゃないみたいで……」
悪魔はそんなひどいこと言わない。……とは言い切れない。まだ一週間しか付き合いがない。だが急に気配が温和なモノから奇妙なモノへと変わったのは確かだ。あまりの変わりように驚いて一瞬、悪魔の姿をした別人かと疑ったが、当然そんなことはなく。えも言えぬ違和感が胸の
「……“いつもの悪魔じゃない”……か。死ぬ気モードはテンションマックス。
「……?」
「魔力発作は通常、命に関わる。魔力を供給しなければ突然死する病だ。だからだろうか。
「……あともう少しで死ぬって……ど、どういうことですか? 悪魔さん……!」
悪魔はふらりと立ち上がる。今にも転びそうな体の揺れ具合だ。
「っ……だからって、呪いのせいばかりにはできない。こればかりはオレの責任。別の魔力供給の手段を思い付かないオレの責任だ。死ぬ気の炎を魔力に変換して摂取しても自給自足の効率には限界がある……正直ジリ貧だ。いずれは枯渇する。隼人や凪、恭弥やなぎさは……“いつでもその役を買う”とは言ってくれるが……どうにも恥ずかしくて、いつも断ってしまう……」
突然苦しそうに胸を抑えて膝から崩れ落ちた悪魔。
それに驚いた暁美ほむらは駆け寄ろうとする。
「近寄るなっ。もう帰れ……っ!」
「えっ……でも……!」
大量の発汗。息せき切って屋根から飛び降りた悪魔は、屋根のヘリを掴んで窓を開き、自室に戻る。
「あ……!」
なんとも身軽な逃げ方だ。バタンと窓が閉められる。だが施錠する音が聞こえなかった。
「……どうしよう。魔力発作? もしかして病気なのかな……このまま放っておいて休ませてあげた方がいい……? でもあんなに苦しんでたのに……やっぱり、もうちょっと様子を見てからじゃないと……気になって放っておけないよ……」
暁美ほむらは屋根のヘリを掴んで飛び降り、窓をコンコンとノックする。返答はない。窓から覗くと半端にカーテンが開かれており、そこから白いベッドに倒れ込んで苦痛に顔を歪める悪魔の姿を目にした。床には血の跡があり、吐血した跡がある。
「────悪魔さん! 大丈夫ですか!?」
「────っ!?」
思わず窓を開けた暁美ほむらは颯爽と入室。苦しむ悪魔の背中をさすろうと触れた瞬間。
「やめ────」
「────っ!?」
魂が吸われる感覚に襲われた。
†