アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
正午前。北養区の山中。晴天の木漏れ日。獣道を歩く。
「たしか、この先に草原が広がっていて、大きな桜の木が一本ポツンと立っているんですけど……」
「この辺りは以前ほむらと来てなぎさと会った場所だが……草原なんてどこにもありそうになかったぞ。見渡すばかりの山岳ばかりだ。衛星写真から見ても北養区のどの山頂にも草原あるいは高原らしき地形はない」
「そうですか……」
「しかしウワサ空間ならありえる。本当に万年桜のウワサが在るなら姿を現すはずだ」
山林を抜ける。その先には山頂から見渡せる絶景が広がるはず。だが目に見えたものは漠々たる草原。その中央に一本の枯れ木が
「あ、悪魔さん……あれです! あれですよ! 私が描いた、
「……しかし、枯れているようだが……」
「それは……四人が集まらないといけなくて……」
「四人? ……そういえば“万年桜のうわさ”の内容をまだ聞いていなかったな」
すぐ迷子になる環いろはを引っ張って正しい方向へ連れて行くことに必死で聞き忘れていた。
環いろはは語る。
「────みんなで走り回れるような草原が広がる場所。そこにはみんなでお花見ができるような大きな桜の木が立っている。入院していた三人の女の子が元気になって退院した時、いつもお見舞いに来ていた一人の女の子と桜の木の下で再会する。すると大きな大きな桜の木は、四人の再会を祝福するように満開の花を咲き誇らせる────」
「…………」
「だから“万年桜”なんです。あと一年も生きられない三人の女の子が、せめて万年分は思いっきりはしゃいで走れるように……絶景の中で、幸福も命も将来も忘れて、ただひたすら笑い合えるように……」
それは一抹の原風景。空想の楽園。
永遠の意味を冠する万年。それに美しき輝きの意味を冠した桜を引き合わせて完成する絵画。
白いワンピースを着た四人の少女が笑い声を上げて草原を走る。
そんな幻を見た気がした悪魔だが、四人の少女のうち、知っている顔は環いろはのみだった。
「……なんでこのウワサは、オレたちの入場を許したんだろうな」
「え?」
「もしいろはの内容がそのまま反映されているなら、このウワサは敵ではないのかもしれない」
絶交ルールのウワサとは異なり、暗鬱な気配や嫌な雰囲気は皆無。むしろそういった負の概念とは無縁といった幻想地。
「……とりあえず桜の木の下に行ってみよう」
「そうですね」
大樹の下には四脚の白いイス。
不意に枯れ木の枝に芽が出て少量の桜が咲き散る。
「これは……」
「万年桜のウワサが反応しているのかもしれない。四人が揃ったら満開の花を咲かせるんだよな? 一人なら少しだけ花が咲くってことだろう」
環いろはは呼びかける。桜芽吹く大木に意思があるのかどうかは分からない。環いろはが描いたのものは草原と桜の木のみ。だが、もしこれがウワサであるのなら、何らかの反応が期待できるはず。
「────お願い、出てきて! 私が描いた万年桜のうわさ……ううん。万年桜のウワサ……!」
次の瞬間、枯れた巨木が明滅した。世界が白い光で満たされる。それが眼前に収束していき、神々しい光は人の形を纏って姿を現した。
「│…………│」
桜髪桜眼。白装束に身を包む絶世の美少女。
およそ人とは思えぬ美しさを放ち、女神とさえ形容できる美麗存在が無言で立ち尽くす。
「……っ!?」
「────いろは。こいつ、ほかのウワサと違って心が読める。つまり意思疎通は人間レベルで可能だ」
悪魔の超直感が働く。万年桜のウワサは純真無垢にもほどがある可憐な心象風景を有していた。彼女(?)は環いろはに強い関心を抱いており、守護・庇護・独占といった感情の色合いを見せる。それは子が親に向けるような、親が子に向けるような、大切な存在に向ける純粋な情動。
「少なくとも悪い奴ではない。おそらく四人をいじめる存在に対しては殺意なく殺す感情機構を備えているだけで」
「……?!」
「しかし向こうも戸惑っているようだ。しばらく話してみろ」
悪魔は佇立して待機する。環いろはは歩みを進めて万年桜のウワサの前に近付いた。
「あ、あの……あなたが、万年桜ですか……?」
「│うん。私は“万年桜のウワサ”……いろは。あなたをずっと待っていた│」
万年桜は強く抱擁するように抱き締める。
それに驚いた環いろはは、ふと暖かな体温と香りよい桜の匂いを嗅ぐ。
万年桜は満足したのか離れる。そして無表情のまま問い掛けた。
「│それで、ういと灯花とねむは、これから待つの?│」
「……! やっぱり……私の記憶は間違っていなかったんだ……」
「│記憶? ……記憶といえば、灯花とねむは、いろはとういのことを覚えていなかった│」
「……え? ちょっと待って……灯花ちゃんとねむちゃんに会ったことがあるの!?」
「│ある。でも一度だけ。それきり来てくれない。半年も│」
「半年……ちょうど私の記憶から、ういたちが消えた時期と一緒だ……」
「│……? ういが消えたってどういうこと? ういに何かあったの?│」
「えっと……何から話せばいいか……それじゃあ私の身に起きた事を話すね……?」
環いろはは説明する。
蘇った記憶から推察するに、約半年前に環いろはの記憶が改変され、環ういに関する記憶が全て消されていた。姉妹で共有していた部屋は片方がガランと空き、その違和感は半年間ずっとあったが思い出せずにいた。そして先日、里見メディカルセンターに足を運んだ時、環ういのことを思い出した。小さなキュゥべえに触れて更に思い出し、調整を受けることでも失くした記憶を取り戻していった。
「│……つまり、いろはは記憶喪失だったの?│」
「うん。でも頭を打ったとかの記憶喪失じゃなくて、きっと何かの力が働いて記憶喪失になったんだと思う。だってそうじゃなきゃおかしいよ……」
「│そうだね。いろはとういの両親も、ういのことを忘れている。友達の灯花とねむも忘れている。でも原因が分からない│」
「……原因なんてどうでもいいよ。万年桜さん。万年桜さんは、三人が今どこにいるか知らない?」
「│灯花とねむは隠れた場所にいる。その場所を他者に教えることはできない。重要情報は
「ロック? それってどういう……」
「│あと、ういの居場所は知らない│」
「そう……それじゃあ、ひとつお願いがあるんだけど……」
環いろはは振り返り、悪魔と視線を合わせる。
「これからあの人に、ういの顔を見せることってできるかな?」
「│……? なんで?│」
「あの人、悪魔さんって言うんだけど、見た人の場所にテレポートできる魔法を持っているの」
本来は“友人の窮地に駆けつける”という言い方が正しい。
そのルールを破るためには叛逆魔法も行使する必要があるため、魔力の消費量はすこぶる高い。
「│……そういうことなら。たぶん、できると思う│」
「ほんと!? よかった……もし無理だったら、私の頭の中を相手に見せる魔法の持ち主を探さなきゃいけないところだったよ……」
「│……いろは。私の記憶を悪魔に見せれば、ういは来るの?│」
「それは……分からないけど。でも見つけ出すよ。だって私はういのお姉ちゃんだもん!」
意気込む環いろは。それに感化されたのか、万年桜のウワサはやる気を出す。そしてチラリと悪魔の方を見て言った。
「│悪魔……物騒な名前だけど、本当に信じていいの?│」
「え? うん。悪魔さんは命の恩人だし、戦い方を教えてくれた先生でもあるの。確かになんで“悪魔”って名乗るのかは分からないけど……れっきとした人間だよ。私が信頼しているから大丈夫」
「│……そう……。なら悪魔、こっちに来て│」
悪魔は歩き出す。
「│今から私の情報を、あなたの海馬に同期する│」
「混濁や逆流の心配は?」
「│たぶん、ない。やったことないから。でも予想成功確率は七割を超えている│」
「地味に不安な数字だな……まぁいい。見られて困る記憶もない。混濁が起きても万年桜のウワサの演算能力なら対処可能だし、こっちも対処法も持っている。事故が起きても危険はない」
「│それじゃあ始める│」
万年桜は両手を伸ばすと、悪魔の頬と首に触れ、後頭部に手を回す。そのまま引き寄せて目を閉じ、額と額を突き合わせた。
「え……!」
「…………」
近い。距離が近い。悪魔と環いろはの感想は同様のものだが、万年桜に人間らしい羞恥はないのか情報共有が始まる。
「│────可能範囲情報、譲渡権利許諾申請、
「────ッ!?」
刹那、悪魔の網膜にチラつく少女の顔。それは最初多くが欠けたパズルのようだったが、光速の速さでピースが埋められていき、永遠とも思われる悠然時間の中、環ういと思われる全身図が脳髄の深奥に刷り込まれていく。
「│────同期完了。対象損壊率:軽微……大丈夫?│」
「……っ」
悪魔は頭と目を抑えて片膝をつく。ただの一枚絵を見せてもらうだけでも直接脳内に叩き込まれると苦しいものがある。頭痛。耳鳴り。眼球震盪。視界明滅。胸が苦しく嗚咽。掻き回された脳漿は、アゴへのクリーンヒットをもらうに等しい衝撃だ。
「悪魔さん!」
駆け寄る環いろはは背中をさする。しばらくして悪魔が落ち着くと、フラフラと立ち上がった。
「……もう大丈夫だ。いろはと似ているな。妹さんは首の前で四つ結びするのが好きなのか?」
「────! ういの姿、見たんですね? 悪魔さん……!」
「助太刀魔法の準備をする。これから環ういの下へ飛ぶが……少し考えたいことがある」
「……考えたいこと?」
悪魔は万年桜の目を見て言った。
「環ういとは何者だ」
「│……人間。女性。11歳。小学五年生。宝崎市出身。里見メディカルセンター院内学校に在籍……│」
「里見灯花、柊ねむは?」
「│…………│」
「なるほど。では……魔女に類似する“ウワサ”を作ったのは環ういか?」
そこで環いろはは目を見開く。
対する万年桜の反応は簡潔だったが、問題はそのあとだ。
「│……違う│」
「では里見灯花、柊ねむか?」
「│………………│」
万年桜の反応は“無”だった。悪魔は溜め息をつく。
「これで確定だ。里見灯花、柊ねむの両名は“ウワサ”に関わりがある。ともすればウワサの元凶かもしれないな」
「……!」
「いろは。今のやり取りでおかしかった点を挙げてみろ」
「……万年桜さんは、ういのことについて答えられても、灯花ちゃんやねむちゃんについては口をつぐんだ点……ですか?」
「そうだ。万年桜は協力的だが、どうやら機密事項についてはウワサである以上どうしようもないらしい。だがその二律背反のおかげで完璧な裏が取れた。ウワサを作ったのは灯花とねむのいずれか、あるいは両方だ。憶測で語るなら、ねむは小説家と言っていたな? なら────」
そこで環いろはが待ったを掛ける。
「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに二人はウワサに関わっているかもしれませんけど……灯花ちゃんとねむちゃんは一般人なんですよ? あんな凶暴なウワサなんて作れるわけないじゃないですか……!」
「身内だからと言ってハッキリとした盲点を曇らせるな。さっき万年桜が意図を汲んでヒントを与えてくれたじゃないか」
「え……」
「万年桜。もう一度聞く。環ういとは何者だ。魔法少女か?」
万年桜は答える。
「│違う。
「では灯花とねむは?」
「│……………………│」
そこで環いろははハッとした。昨日、悪魔との修行の中で言われたショックな一言。
────既に魔法少女なんだ。肉体なんかゾンビみたいなものだろう。
────もはや人間とは異なる存在になってしまったことを理解しろ。
「最後に理屈を詰める。万年桜。わざわざ環ういのプロフィールに《人間》と足したのは、ただ生物学において霊長類という詳細を教えたかったからか? それとも別の意図があってのことか?」
「│…………│」
「えっ……なんで答えないの……? ういのことなのに……」
「必然、今の問いに返答すれば、灯花とねむが
環いろはは絶句する。
「灯花ちゃんとねむちゃんが、魔法少女……?」
「いろは。ともすれば瞬間移動した先で戦闘になるかもしれない。覚悟して行くぞ」
「────え?」
「ここまで情報を秘匿するんだ。何かしらの迎撃態勢を整えていると判断しておくのが妥当だろう」
悪魔は深呼吸して体調不良を整える。
そのあいだ環いろははずっと下を向いて考えていた。
「……二人が魔法少女……それじゃあウワサは、魔法少女になった灯花ちゃんやねむちゃんが作ったって、悪魔さんは言いたいんですか……?」
「オレはねむが作ったと思うがな」
しかし環いろはは信じられなかった。絶交ルールのウワサ。カラダ探しのウワサ。そんなひどいウワサを“あくまで物語として”考えつくことはあっても、実際にそれを作って多くの人を巻き込むだろうか。
「……ねむちゃんは、そんなひどい子じゃないと思います……」
「だそうだが、万年桜。人間の普遍的な善悪基準、いわば現代人のモラルで言えば、柊ねむは“悪人”に入るか? それとも条件付きで“悪人”に入るか?」
「│…………│」
「────なるほどな。典型的なカワイイクソガキだ。フラットな状態であれば我が道を行く。そのための行動指針として社会的な善悪は考慮しない。しかし大切な人がいれば、その人を優先する良心はある。いや、それは良心というより……半ば……」
悪魔は超直感で万年桜の内心分析を直感する。たとえ相手が答えずとも反応さえ見せれば答えが読めてしまう。そして反応さえ見せない事は動物である以上不可能。万年桜は機械に近い“ウワサ”であるが、人間的な側面が強調されて作られた存在であるためか、どうしても問われれば反応を持ってしまう。
「なんにせよ行けば分かる。だが現在の環ういの生死が不明である以上、多少は覚悟しておけよ」
「……ッ!!」
環いろはの不安が増す。もし助太刀魔法が不発に終わったら? 考えたくない。
その不安は緊張感を増していき、ちょうど戦闘に適した緊張感の高まりの辺りで悪魔が言った。
「いろは、肩に触れろ」
「……はい」
悪魔は《助太刀》と《叛逆》魔法を行使。一本の青い魔力の刀を作成する。
念じるは環うい。彼女の下に馳せ参じて危機を救う。
瞬間、青い閃光が二人の身を包み、視界が晴れる────目に映るは植物園のような屋内。
そして眼前には、カイコガのような巨大な像が立っていた。
「……なんだ、ここは……? ういはどこだ?」
「────」
悪魔は気付かない。否、気付くのが遅れている。スマホを取り出して地図アプリを開くが圏外。直後、眼球に痛みが走る。笹川京子のソウルジェムが明滅し、魔女反応を知らせてきた。
「──ッ! 魔女だと!? こんな時に……! どこだ? どこにいる? いろは!」
「……目の前です」
「──なに?」
「……あの……カイコガのような巨像が……
悪魔と環ういは目を見開いて白い巨像を見上げる。
それは静かに眠っていた。羽化する時を待つサナギのように。
「……これが、魔女だと? それにしては大きすぎる……大型魔女だ……いや、だが待て……そしたら……!」
悪魔は歯噛みする。即座に振り返って環いろはのソウルジェムを確認。濁りが沸々と増している。彼女も勘付いていた。それも悪魔より早く。────その魔女の正体を。
悪魔は環いろはに深く考える暇を与えないため語気を強くして命令する。
「────いろは。調べるぞ。証拠を見つけるんだ」
「…………」
悪魔はバトルグローブを開匣。炎噴射で飛び上がる。カイコガのような魔女は首に宝石を飾っていた。次の瞬間、悪魔は我が目を疑う。その宝石の中に────先ほど知ったばかりの顔が、棺に入るように眠っていたのだから。
「────!? いろは! すぐ来い! 居たぞ! ういが!」
「────ッっ!?」
茫然自失としていた環いろははハッととして跳び上がり、魔女の体をよじ登って宝石の首飾りに近付く。
「これは……普通の魔女じゃない。前例がない。だがオレたちは絶交ルールのウワサの時、確かに奇妙な現象を見たはずだ。それは“半魔女化”……つまりこれは、そういうことなんじゃないのか……?」
魔女の首飾り。その赤い宝石の中に眠る環うい。それは虚像でも幻像でもなく、確かに肉体が入っているように見える。魔女化したなら肉体と
加えて、もし宝石の中から環ういを取り出したら、環ういと白いカイコガのような“半魔女”はどうなるのだろうか。判断がつかない前に判別がつかない。
「うい……!! 悪魔さん……! ういが魔女の宝石の中に……っ!! なんでこんなところに……っ!」
「判別がつかない。これは魔女なのか? 半魔女なのか? どちらの要素もある……強いて言うなら“限りなく魔女に近い半魔女”か……? だとしても判断がつかない。ういを宝石の中から取り出せば────魂の在り処はいったいどうなる?」
悪魔と環いろは、そしてカイコガの半魔女と環ういを見上げるリリスは、じっと座って尻尾を振っていた。
「っ……!」
次の瞬間、環いろはがナイフを取り出して何度も宝石に突き刺す。宝石に傷がつくが割れる気配はない。
「待て、いろは。やめるんだ……気持ちは分かるが後先を考えろ!」
「でも! ういが目の前にいるんです……!!」
「取り出してういが死んだらどうするつもりだ!?」
「────っ!」
状況の全てが不明。その中で行動に移すのはただの無謀だ。そう悪魔は諭す。
「だが時間がないのも確かだ。おそらくここは誰かの本拠地。しかも
「え……?」
「こんな植物園に半魔女がデカデカと立つものか? これは明らかに保管されている。管理されている。セキュリティは……内部まで用意されてはいないのか。ひとまず侵入がバレることは無かったが、もしバレたら戦闘は避けられない。あまり大きな物音は立てるな。仮に宝石からういを取り出すとするなら一回で成功させろ。方法を考えるんだ。たとえ死んでも、とっくに死んでいても、死ぬ気の零地点突破で凍結保存する。……本当に取り出すのが正しいのなら、な」
「……っ」
環いろはは悩む。妹を見つけた喜びと嬉しさと、妹が魔女化している可能性の恐怖で思考が落ち着かない。死んでいるのかも生きているのかも分からない中、むやみに宝石の中から助け出せば、むしろ死なせてしまう可能性もある。だが同時に助かる可能性もある。自分の現状認識では確率は五分五分。だが真相を突き止めれば、そんな危険な確率に挑む前に対抗策が打てる。だからと言ってここで指をくわえて何もせずにはいられない。真相を突き止めている間に環ういがどうなるのか分からない。ここが何かの組織だというなら、環ういはどうして保管されているのか。そもそもなぜ環ういは魔女みたいになっているのか。まさか魔法少女になったのか。
なぜ、どうして、わからない。そんな言葉が環いろはの脳内を掻き乱す。
「っ……うい……どうすれば、あなたを助けられるの……?」
「……」
悪魔は床に下りて周囲を警戒する。下手に動けばセキュリティの網に引っかかるかも知れないため、最初に降り立った地点から大きく離れることはできない。とりあえず周りを見て分かったことは、出入り口は魔女の正面にある大扉だけと知る。
「モキュ!」
「……? リリス?」
ふとリリスは“たぶん大丈夫!”と言っているかのように鳴く。
「…………なぜそう言える? お前もアレは初めて見たんだろう?」
「モキュ……モキュー!」
「……“そうだけど”“助けたい”……? 勘弁してくれ……それならいろはを手伝ってやったらどうだ」
「モッキュ!」
「“びっくりしていたら置いて行かれた”……? なら自分で行け。お前なら登っていけるだろう」
リリスは困ったようにその場をくるくると回る。どうやらカイコガのような魔女に触れたくないようだ。
その時、頭上の環いろはから声が飛ぶ。
「悪魔さん! 私の
「そんなことして、ういまで砕けたらどうするつもりだ?」
「大丈夫です! 実は悪魔さんに修行を付けてもらったあと、魔女と戦う中で色々と身についてきたんです! 具体的には修得魔法について、少しコツが掴めてきたんです!」
「ほう。修行の成果とやらか。ではお手並み拝見と行こう。だが約束しろ。ういの救出
「はいっ! それで構いません!」
環いろはは飛び降りる。
その時だった。空を切る弾丸のような何かが、悪魔の背中から心臓を貫き、左胸から鮮血を迸らせて突き抜けていったのは────
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