アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
一方その頃。激戦で荒れ果てた植物園では、二人の幼い魔法少女が白いカイコガのような半魔女を見上げていた。
「……まさか
「宝石が砕かれている。中で眠っていた魔法少女を救出しに来たとしか思えない。でも誰が?」
「そんなことより回収の性質はちゃんと働いているの?」
「それは問題ない。灯花も常に魔法が行使されているのは分かっているだろう?」
「そうだけど念のため!」
言い合うように話す二人は、自動浄化システムに問題ないと分かり安堵。仕事に戻る。
「
「暇だからって寝てたんじゃないの!? みすみす侵入者を逃がすなんてありえない!」
ベージュ色の髪に茶色い眼を持つ角帽の魔法少女は、柊ねむ。
茶髪茶眼に洋風の衣装と傘を差した魔法少女は、里見灯花。
その二人に頭が上がらない二人の魔法少女は、同時にスタンド使いでもある。
「……! すみません……侵入してきたのは一人の魔法少女と、一人の人間の少年です」
「ハァ? 人間!? 一般人ってこと? そんなのありえない!」
「し、しかし……そいつ、スタンドを持っていて……」
「……ペルソナカードを奪われたのか。そういえば冬樹ヒュウガの持ち物からペルソナカード一枚が紛失したという情報が入ってきている。絶交ルールのウワサが潰されて間もなく、カラダ探しのウワサも潰されている。これは深刻な問題だね」
そこで里見灯花が激憤した。
「むぅ~~っ! いったいだれ!? わたくしがとっちめてやる! 名前は!?」
「魔法少女の方は“いろは”……少年の方は“悪魔”と……」
「どちらも聞かない名前だ。悪魔という名前はあだ名かい? 本物の悪魔なら面白いけど……」
「そんな非科学的な存在いるわけないじゃん! どうせ厨二病でしょ! スタンドを手に入れたからって偉そうに!」
「い、いえ、それが……少年の方は、魔法も使えるようで……」
「────なんだって? ますます興味が沸いてきたよ。いったいどういう存在なんだろう。記憶の中を覗いてみたいな」
「わたくしは殺してやること以外に頭が働かない! さっさと捕まえて処刑よ処刑! 魔法少女至上主義の世界に人間の男が逆らうなんて絶対にあってはならないんだから!」
「まぁまぁ灯花、落ち着いて。彼らはウワサを潰して回っているようだ。こうして名前も割れたことだし、次のウワサを壊してきた時に尻尾を掴めばいい。ウワサは幾らでもあるんだし」
「でもウワサを作るたびに、ねむの寿命は減っているじゃない!」
「それはそれ。世界を救う為には必要な代償だ」
そこで二人のスタンド使いが不和の瞳で見上げた。
それを目ざとく察知した里見灯花が冷徹に見下ろす。
「……なに?」
「い、いえ!」
「気持ちは分かるよ。世界のためと言いつつ、多くの人間と魔法少女を殺しているじゃないかって……そう言いたいんだろう?」
「め、滅相もございません!」
「それは必要な犠牲よ! もちろん複製魔法少女である、あなたたちも捨て駒でしかない! 魔法少女至上主義の世界は、魔法少女こそ頂点に立ち、複製魔法少女は二の次、人間は牛や羊といった家畜と並ぶ三番目に過ぎない。むしろ魔女のいない世界を作ろうとしているんだから感謝してほしいくらいだわ! ────なぜなら人類は魔法少女を焚き火として文明を築き上げてきた」
「火は神に値する。ならば魔法少女という燃料を使ってきた人類は、魔法少女をこそ“神”と崇めるべきだよね?」
「その“神”があなたたちという模造品を作ってあげたのよ? 感謝されることはあっても軽蔑される謂れはないわ」
「灯花。それは少し残酷ではないかな」
「なによ! ねむはどっちの味方なわけ!?」
「僕は魔法少女至上主義には些か懐疑的だ。管理社会も行き過ぎればディストピアだ。君のそれは度が過ぎている」
「度が過ぎたら何かあるわけ? わたくしは効率を追い求めているだけよ!」
「そのおかげで十年後には著しい発展を遂げているだろうが、結果こうして叛逆者を生み出し、損を生じさせている。何か言い分は?」
「ふん! 理想通りにいかないのは世の常よ! ねむは考えてるだけで実行者はわたくし! あれこれ指図していいご身分ね!」
「考えるのも大事なんだけどね。考えなしの誰かさんとは違って」
里見灯花と柊ねむの視線が激突する。
「なに? やるっての?」
「僕はいつでも受けて立つ」
「あわわ……模擬戦は訓練場でどうぞ!」
「ここではエンブリオ・イブに支障があります!」
「そんなこと分かってるわ! でも喧嘩してる余裕はないの。わたくしはもう行くわ!」
「僕も同様だ。……それと君たち、次はないよ。いいね?」
『は、はいっ────!』
里見灯花と柊ねむは立ち去る。堅牢な警備を仰せつかったスタンド使いとローブで顔を隠す魔法少女たちは、まるで二人の女王に忠誠を誓うが如く跪いた。
†
雨が降る夜の神浜市。新西区の路線を走る列車の中で、環姉妹は無言で座り、万年桜は見守るように佇立する。また、万年桜の姿は一般人には見えないようだ。
「│……元気出して、いろは、うい……│」
万年桜の声は届かない。それも無理はない。二人は自分の家に帰った途端、出迎えた両親に「おかえり、いろは」「あら、隣の子はお友達?」と言われたのだから。それでも必死に環いろはは何かを思い出さないかと説明したが、両親は困ったように首をかしげて互いの顔を見合わせる。見ていられなかった環ういは「もういいよ」と姉の袖を引っ張り、家を出て、今こうしてどこかへ向かっている。
「……ごめんね、うい。お姉ちゃんのせいで、余計に苦しい思いをさせちゃったね……」
「そんなことないよ。たぶんこうなるだろうって予想はしてたから。それよりお姉ちゃんこそ大丈夫?」
「うん……」
ガタンガタンと列車が揺れる。
そこで環ういが口を開いた。
「ねぇ、お姉ちゃん。魔女って、魔法少女の魂が暗黒面に堕ちた存在なんだよね?」
「……? 詳しいことは分からないけど……もしかしたら、そんな感じなのかもね……」
「それなら私の魂って、今どこにあるんだろう?」
「────え?」
魔法少女の魂は、それが具現化したソウルジェムである。
魔女の魂は、それが絶望で押しつぶされた魂の亡骸たるグリーフシードである。
であるならば半魔女の魂は、いったいいずこにあるのやら。
「……うい……!」
そんな怖いこと考えないでと環いろはは叫ぶ。
しかし環ういは純粋な好奇心で考える。
「お姉ちゃんは半魔女を見たことがあるんでしょ? 教えて」
「……えっと、ソウルジェムから魔女みたいなモノが出てきたのは一緒だけど……魔法少女と合体するようなタイプもあれば、魔法少女が乗りこなすようなタイプもあった……前者は冬樹ヒュウガって人で、後者は秋野かえでっていう魔法少女だよ」
「……なら私は後者に近いのかな。完全分離型。今ここにある私のソウルジェムは至って普通の状態。だけどそれはきっと、見かけは普通なだけで
「……っ!」
二度と環ういを取られてなるものか。環いろははギュッと妹の体を抱き締める。
「魂は欠けて、精神は模造品で、肉体は万全。悪魔さんの話によれば、肉体だけでも意識は発生するみたいだから、もし私の中に魂がなくても、こうしてお喋りは出来ていたんだろうね。……生命って不思議だ。どれかひとつやふたつが欠けても、互いに支え合って補い合ってまともに立っていられる。……こんなことを考えちゃうのも、今の精神構造がねむちゃんの作り物だからなのかな?」
環ういは考察を完了する。
やがて新西区の駅に到着。環いろはにとって降りた先で向かう場所は、一つしか思い付かなかった。
「────うい、万年桜さん。ここが“みかづき荘”だよ。やちよさんを紹介するね?」
「……賑やかだね。声がここまで聞こえる」
「いろはは、ここで活動していたの?」
「うん。たくさんの魔法少女が集まる場所で、やちよさんも不器用だけど優しいんだ。きっと二人を受け入れてくれるから安心して」
門扉を越えて、玄関扉を開く。夜の暗闇から一転、暖かな室内のライトに照らされて、環姉妹と万年桜は足を踏み入れた。
まず目に入ったのは、カウンターの席に立って踊る百江なぎさと、それを呆れたように見上げる悪魔。
「へいクマ吉! なぎさの新魔法を見るのです! なぎさのソウルジェムをよーく見ているのですよ! 現在穢れが三割溜まっているのです! やちよに連れ回されたストレスなのです! だけどやちよがおやつに買ってくれたカマンベールチーズをなぎさが食べることで────なんと! 見るのです! ソウルジェムの穢れの具合が二割に低下したのです!」
「いやそうはならないだろ。チーズで穢れを浄化なんか聞いたことないって」
「でも実際になっとるのですッッ!! なっとる! やろがい! なのですっ!!」
次に目に入ったのは、頭の上に乗って髪をいじりまわすランボと、困り顔で面倒を見る暁美ほむら。
「ほむらぁー! 髪ほどけー! メガネもとれー! いつものかっちょいー変身を見せろー!」
「変身って……そんなことしたことないよ……わわっ!? お、落ちちゃうから降りてきて~!」
最後に窓際で正座し、洗濯物を折りたたむ七海やちよと、それを手伝う鹿目まどか。その近くでモフモフの衣類に飛び込んで遊ぶナッツとチーズとリリスがいた。
「ごめんなさいね、手伝わせちゃって」
「いえ! 雨に濡れる前に取り込めて良かったです!」
「ガフ!」「キュ?」「モッキュ!」
そんなみんなに向かって、環いろはが声をかける。
「ただいまです。あの、やちよさん……」
「おかえり、環さん。悪魔から話は聞いているわ。妹さん、見つかって良かったわね」
「……! はいっ!」
七海やちよの柔らかな笑み。
環いろはは妹の肩を押して紹介する。
「こちら、妹のういです! こっちはウワサの万年桜さん。それで、やちよさん……非常に言いにくいんですが……」
「……悪魔の言う通りね。ご両親の記憶が戻らなかったんでしょう? ご両親にとっては、いくら環さんの頼みでも、見ず知らずの子を家に置き続けるわけにも行かないだろうし……仕方ないわね。みかづき荘にようこそ、環さんの妹さん。そして万年桜」
「……よろしくお願いします……」
「│よろしく。私はいろはとういと同じ部屋がいい。悪魔は危険だから遠ざけて│」
「えっ、万年桜さん……!?」
洗濯物を畳み終わった七海やちよは立ち上がる。
「随分な立場からの物言いね。とはいえ空き部屋も少なくなってきたし、環さんには二人用の部屋に移ってもらいましょうか。ウワサであるあなたは家具とか必要?」
「│必要ではない。ただ大きなベッドだと嬉しい。一緒に寝たい│」
「ま、万年桜さん……?! 本気で言っているんですか……?」
「│私はいろはとういが好き。灯花とねむと五人で寝られればベスト│」
そういうウワサであるのだから仕方がない。
無表情で好意を伝えられた環いろはは戸惑い、環ういは特に感想なし。
「ハァ……いよいよ大所帯になってきたわね……」
「今更じゃないか? それは」
七海やちよの溜め息に悪魔が突っ込む。
「悪魔とリリスと万年桜は監視。なぎさと妹さんは保護。あとは日帰りが多数でしょ……環さんと暁美さんはよく泊まるけど」
「それで“多くなった”程度の認識なのか。さすがは下宿屋出身だな」
「感覚が狂ってるって言いたいわけ?」
「誤解だ。なんだかんだ言って面倒見がいいと言うつもりだった」
それには環いろはも同意する。七海やちよは煙に巻くように衣類を収納するため廊下の奥に去る。
かくしてみかづき荘に環ういと万年桜が加わった。
†
一方その頃。舞台は戻り、静まり返った植物園にて。
誰にも気取られないように、幸福の魔女は“本体”を守護するため鳴動していた。
自らの体に飾り付けられた宝石から八つを選び取り、それを神浜市の夜空に解き放つ。
それは
錬金術師の間ではアーティファクトとも形容される、魔女から生み出されし魔法の道具。
その日の夜、神浜市の星空を八つの流星が駆け抜けた。
目的は環ういを守るための“
いずれ来たる戦いの日に備えて、幸福の魔女は“本体”を守護するため羽化を待つ。
†
深夜。皆が寝静まった頃。悪魔を探して庭に出た環いろはは、ふと夜空を見上げて心が躍る。
「────あ、流れ星……」
素敵な星空だと感動する。だが今は悪魔にお礼を言わなければならない。
「悪魔さんのおかげでういが見つかった。改めてお礼を言わなくちゃ……」
その悪魔がどこにも見つからない。魔力パターンは近くにあるのに見つけることができない。まさか姿を隠しているのか。そう思うほどには近くに反応があるのに発見できないでいた。
「……? 悪魔さん? かくれんぼですか?」
なぜその発想に行きつのかと悪魔は困惑する。
「えっと……たしかこういう時のために作った方がいいって、やちよさんに言われて開発した魔法があって……
────《
それは魔力の桜吹雪により、あらゆる魔力を妨害する阻害魔法。本来は魔力探査などを妨害するための魔法だが、それを応用して悪魔の霧の炎を消し去った。
すると先程まで動いていなかったはずの揺り椅子が揺れており、そこに悪魔が座っていた。
「あ、悪魔さん! そんな分かりやすいところに!? 全然気付きませんでした……」
「……どうしてこんなことのために魔法を使うんだ。魔力の無駄遣いだ」
魔法を使われては、死ぬ気の炎だけではどうしようもないため、悪魔は悪態をつく。
「あの、どうして隠れてたんですか?」
「いろはには関係ない。オレはもう寝るぞ」
悪魔は避けるように屋内に戻る。その横顔はサウナに入ったばかりかのように火照っていた。息遣いも荒い。それは環いろはにとって見慣れた病人の顔だった。
「……! 悪魔さん、また体調が悪いんですか!?」
「…………何度か魔法を使ったからな。魔力を持たない人間は生命力を代償にして魔法を使うしかない」
「……っ!?」
「当然の摂理だろ。だからと言って気に病むことはない。好きでしたことだ」
悪魔はフラフラと階段を登っていく。
環いろはは自らの無知さを悔いながら追いかけた。
「あの、悪魔さん……私、考えてみれば当然のことも気付かずに……ごめんなさい……」
「お前が頼まなくてもオレから志願していたよ。それより付いてくるな」
「改めてお礼をさせてください! といっても特に思いつかないんですけど……何か悪魔さんの力になれそうなことってありますか? 今回は私が助けられたんです。修行もつけてもらったし……だから今度は私が……!」
「不要だ」
バタンと扉が閉められる。どちらかといえば締め出された勢いだった。実際ガチャリと鍵が閉められる音が廊下に響く。
「悪魔さん……」
悪魔は寝室に閉じこもってしまった。
「気分が悪そうだったけど、大丈夫なのかな……? あと機嫌も悪そうだったけど……でも悪魔さんは好きでしたことって言ってるし、怒っているわけじゃないんだよね……?」
ともあれ今は話せる状況ではないと理解。仕方なく寝室に戻る。
阻害魔法の効果時間が終了。花散る桜が消え去る。すると、それまで魔力パターンの感知をオンにしたままだった環いろはは、ふとした違和感に気付いた。
(────あれ? 悪魔さんの魔力パターンが……庭に……?)
環いろはは悪魔の寝室の扉に手をかける。それは簡単に開かれた。
(うそ……鍵を閉められたはずなのに……しかも部屋の中に悪魔さんがいない……まさか!)
階段を駆け下りた環いろはは庭に出る。
そこには揺り椅子に揺られる悪魔が座っていた。その顔は熱く苦しそうに悶えている。
「悪魔さん! もしかして私の阻害魔法を逆に利用して、ずっと幻覚を見せていたんですか……?」
確かに霧の炎による構築効果は、阻害魔法によって解除された。しかし魔法とは概念。本人の意思を阻害するモノを解除する、という能力なら、本人の意思を阻害しないモノを用意すればいいだけのこと。
先ほどの環いろはは悪魔の姿を見つけるために魔法を行使した。ならば霧の炎で作り出した悪魔の姿を見せれば、少なくともその時点での環いろはの意思には反しない結果となる。故に霧の炎で作られた悪魔の姿は、桜吹雪に当たっても消えることがなかった。
魔法とは願いの力。虚を突かれれば意外と脆い。もし今の悪魔に意識があるなら、次のように
────阻害魔法ではなく、自らの意思が介在する余地がない、万能の解除魔法にしろ……と。
「でも、どうしてそんなことを……」
それもこれも
悪魔の霧の炎に一杯食わされた環いろはは、しかし魔力パターンの探索を続けていたおかげで見破ることができた。
悪魔は椅子の上で大量の汗を流し、呻き声を上げて苦しんでいる。
「まずは熱が何度なのか確認しないと……」
悪魔の額に手のひらを当てる。
それがどういう意味かも知らないで。
†