※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【こいつ相手にジャンケンで勝てるわけないだろ!】佐倉杏子

 

 朝っぱらの水名区。中央通りから少し外れた小道にて。快晴の空気を肺いっぱいに吸い込み、瑞々しい雨後の香りを堪能する。通りを歩いて花を見ない道はない。のれんのように垂れ咲く藤としだれ桜。路傍に菜の花、花壇にチューリップ。見上げれば桜と梅の花。青空に影を切って飛び立つ青や黄色の小鳥。視線を落とせば鮮やかな蝶々が揺らめくように飛び交い、江戸の名残を残す街並みが延々と続く風景を目にできる。

 

 三車線の石畳の上を跳んで跳んで笑う多くの声。

 その笑い声に混じって百江なぎさも石畳を跳び、子供たちと先を行く。

 

「お兄ちゃんはやらないの?」

「……。いいだろう」

 

 名も知らぬ子供に声を掛けられた悪魔は、断れば寂しがることを直感したため、仕方なく石畳の上を跳んで行く。

 

「ほっ、やっ! ゆま、落ちるなよ! こういうのはな、リズムが大事なんだ!」

「と、っと! まって、キョーコ!」

 

 ふと向かい側から二人の少女が笑いながら石畳を跳んできた。かたや佐倉杏子、かたや千歳ゆま。佐倉杏子は後ろ跳びで軽々と石畳を踏み、千歳ゆまが転んでケガしないか見守っている。そのせいで悪魔の存在に気付いていない。

 

「お姉ちゃん危ないよ! このままじゃコ(・)ー(・)ツ(・)ー(・)ジ(・)コ(・)だ!」

「えぁ?」

「キョーコ、あぶない!」

 

 不意に佐倉杏子の背中が何かにぶつかる。転倒しそうになった体を支える腕。ちらりと見上げれば、そこには悪魔の顔があった。距離が近い。悪魔の胸元に抱き留められていた佐倉杏子は、自分の不注意で交(・)通(・)事(・)故(・)を起こした状況を理解して立ち上がる。

 

「うおっ、悪魔!?」

「奇遇だな」

 

 悪魔と佐倉杏子は三車線のうち左側の石畳を跳んでいたのでぶつかった。一方、百江なぎさは中央を、千歳ゆまは右側を跳んでいたためぶつかることがない。が、百江なぎさは悪魔が気になって、千歳ゆまは佐倉杏子が気になって足を止める。周囲の子供たちも交通事故(コーツージコ)が起きたとなれば、お楽しみのアレがあるため期待する。

 

「お姉ちゃん! お兄ちゃん! コ(・)ー(・)ツ(・)ー(・)ジ(・)コ(・)が起きたら、ジャンケンして負けた方が道を譲らないとダメなんだ!」

「はぁ!? なんだそのルール! こいつ相手にジャンケンで勝てるわけないだろ!」

「なるべく超直感は鎮めておく」

「イヤなら押し相撲やる?」

「そういう問題じゃねーけど……あぁもう。ジャンケンでいいよ! ほら行くぞ、最初はグー……」

 

 悪魔の超直感はコントロールが利かない。逆転勝利の呪い、潜在能力解放の作用で、強引に覚醒させた能力であるためだ。集中すれば加減は利くが、どのみち五割は読まれてしまう。それを知る佐倉杏子は、それでも悪魔にジャンケンを挑んだ。

 

『ジャンケン、ポン!』

 

 子供たちの掛け声に合わせて、悪魔はパー、佐倉杏子はグーを出した。

 

「がー! くそっ! ほら行けよ!」

「頭抱えて悔しがるほどか?」

 

 佐倉杏子は石畳から降りて道を譲る。悪魔は先を進み、見ず知らずの子供とコーツージコ。ジャンケンして負けてやり、道を譲って石畳を降りた。その先で千歳ゆまはジャンケンで負けて「あー!」と叫び、しくしくと泣きながら石畳を降りて佐倉杏子の胸元に飛びついた。

 

「キョーコ、負けた! ゆまも負けた! もうピョンピョンできない……?」

「んなことねぇだろ。また好きな石畳に乗って遊べばいい。みんなやってるだろ」

「キョーコはやらない?」

「あたしはもういーや」

 

 それよりもと言うように、佐倉杏子は声を掛ける。

 

「で、悪魔。こんなところで何やってんだ?」

「ウワサを調べてる」

「うわさぁ?」

「そういえば佐倉は知らなかったな。神浜市に限定して噂の内容が現実化する現象が確認された。オレの知る限り二体は既に潰したが、やちよによればまだまだ無数に隠れ潜んでいるそうだ」

「んだそりゃ。あーでも……なんかやちよがそんなこと言ってたような……どっかの魔法少女の仕業か?」

「オレはそう見てる。だがそのウワサ、魔女に匹敵する強さを持つ。一介の魔法少女が作り出したにしては強力すぎる。もしかしたら土地の信仰の力を借りているのかもしれない。神浜市は噂に尾ひれがつきやすいそうだからな」

「魔術的な実験場としては最適ってわけか。で、ウワサを倒したら何かあんのか?」

「犠牲になる人が減るだけだ」

「はぁ? グリーフシードみたいな報酬はナシってワケかい?」

「そうなる」

 

 ならば手伝う道理はない。獲物を奪う理由もない。

 

「んじゃ好きにやりな。あたしは関与しない」

「それは知ってる。気をつけろという話だ。……それで、そっちは朝食探しか?」

「あぁ。腹が減って仕方ねぇ。オススメの店はあるかい?」

「そんなものオレが知るわけないだろう」

 

 悪魔は食事しない。必然的に飲食店の知識は皆無。それは佐倉杏子も知っているはず。

 

「聞いただけさ」

「知っていても教えない。好きな店が万引きに遭うのは避けたいからな」

「どうでもいい店は万引きされてもいいって?」

「そうは言っていない」

 

 いつものやり取りをしていると、目の前で百江なぎさがジャンケンに負けて石畳を降りた。たたたと走って悪魔の下に戻ってくる。

 

「うわぁクマ吉ー! 九連勝目で負けたのですぅ! 惜しかったのですーっ!!」

「だからって──ぐふっ──腹に飛び込んでくるな……」

 

 悪魔に甘える百江なぎさ。

 それを見た佐倉杏子は、片腹に抱きつく千歳ゆまの頭を撫でて笑みを浮かべる。

 

「なんだ、アンタも子連れか!」

「子連れ言うななのです! なぎさは立派な大人なのです! むしろ女連れと言うべきなのです!」

「そうかい。なら、もちっと背がおっきくならないとな!」

「背丈の話は大人とは関係ないことなのですっ! でも伸びる方法があるなら教えるのですっ!」

 

 呵呵大笑。水車のかき混ぜる音。風車がカラカラと回る音。藤の小道を抜けると水名神社に到着する。

 

「ここだ。水名区の神社と言えば、まずは水名神社だろう」

「なぎさは先に行くのです!」

「あたしは暇だから付いていこうかな」

「ならゆまもいくー!」

 

 百江なぎさと千歳ゆまは階段を駆け上がって境内の中を走り回る。

 赤い鳥居を通った悪魔と佐倉杏子は、まっすぐ社殿に向かう。そこで誰かの名前を書いた絵馬を飾る七海やちよを見つけた。単に絵馬に名前を書くだけでは何も起こらないらしく、七海やちよはその場を後にする。

 

「────あら、あなたたち……」

「やちよ。情報を掴んだ。どうやら口寄せ神社のウワサは逢魔が時に現れるらしい」

「逢魔が時……夕方ってわけ?」

「逢瀬したいなら夜の暗闇に乗じて……ということもあり、夜でもいいそうだ。そっちは?」

 

 そして七海やちよは現代風の台座の前に立った。それはスタンプラリーの台。

 

「これ、ウワサとは直接関係ないかもしれないけど、一応やっておこうと思って」

「ウワサ空間への入場条件が分からない以上、やれることはやっておくってわけか。オレも一枚もらおう」

 

 七海やちよからスタンプラリーのシートを受け取る。唐紅の和風紋様。それは水名区の観光名所を回らせる為の内容だった。

 

 スタート地点から順に……元水名遊郭→お土産屋→水名氏庭園→神浜美術館→文化劇場→水名城→水名神社……とゴール地点までが記されている。

 

「私は元水名遊郭から始めるわ」

「それならオレは逆走するか」

 

 七海やちよは立ち去り、悪魔はゴール地点たる水名神社のスタンプ・赤い鳥居の“ゃ”を押す。

 

「なんかメンドーなことしてんねぇ」

「ウワサは“ルール”に縛られているみたいだからな。ルール通りにこなさないとお目通りも叶わない」

「力尽くで突破は無理なのかい?」

「ウワサ空間の位置さえ分かればそれも可能だろう。今はその位置を割り出す為に動いている」

 

 悪魔はスマホで地図アプリを開きながら水名神社を後にする。

 佐倉杏子は大声で千歳ゆまと百江なぎさを呼び戻し、悪魔に追随。

 

「クマ吉! どこに行くのですか?」

「ここから近いのは……水名城か」

「お城ねぇ……そんなもん見たところで腹は────」

「キョーコ! ゆま、お城見たい! お姫様も!」

 

 佐倉杏子は溜め息をついて悪魔たちとの同行を継続。

 再び石畳の小道に戻り、百江なぎさと千歳ゆまは子供たちに混じってけんけんぱを始めた。

 

          †

 

 水名城周辺。大勢の観光者が城を見上げて露天を行き交う。広場は憩いの場でもあるようで緑の丘の上に座る人もいる。活気で賑わう城下町に訪れた悪魔一行は、そこで騒がしい三人を見つけた。

 

「なははのなはは! 見て見て! ランボさんの一発芸! ロシアンルーレット!」

 

 自らのアフロ頭に拳銃を突きつけたランボは空打ち四発、銃声一発。

 

「なのに生きてるー! ギャハハギャハハ!」

 

 アフロ頭のモジャモジャ髪の毛を貫通していく弾丸。その流れ弾が誰かに当たらぬよう白騎士の魔法少女が瞬間変身、レイピアで弾丸を慣れたように斬り捌く。

 

「なんの! 私にだって一発芸はございますとも! 今から腹芸をお見せしますっ!」

 

 正座。つま先を立たせて膝をつき、股を開く。短刀を取り出して左腹に当て、冷や汗一滴。さぁ覚悟。

 

「イエスハラキリー!」

「腹芸ってそういう意味じゃないでしょ!!」

 

 美凪ささらの高速ツッコミが炸裂する。頭をはたかれて短刀を蹴落とされた竜城明日香は痛いと泣く。

 

「えー見たかったハラキリー。ねぇやっぱり痛いの? 死(ち)ぬの?」

「昨晩練習しましたがとても痛かったです」

「あなたたち公衆の面前でホント……いい加減にしなさい!!」

 

 竜城明日香とランボの天然ボケが炸裂し、その全てに的確なツッコミを入れていく美凪ささら。それを見守る通りすがりの外国人は不思議と拍手喝采。何かの寸劇と勘違いしているのか、ランボが落とした角の中にちゃりんと硬貨を入れていく。

 

「あ、待って! これそういうのじゃないですから! えーと、えーと、英語でお返しするには……!」

「おっ! ランボさんお小遣い沢山あるじゃないですか! これならいっぱい食べ歩きできますよ!」

「? なんでランボさんの角の中にお金たっぷり? まいっか! わたあめ食べたーい!」

「だから勝手に動くなぁ! 明日香ぁ! 羅宇らんっ! あなたたちは一度自分たちの所業をじっくりと────!」

 

 ふと、その漫才三人衆の前に、キランと目を光らせた佐倉杏子が立ちはだかる。

 

「よぉクソガキ。あたしの知らないところで天然漫才のシノギやるたぁ随分と立派になったもんだなぁ?」

「……っ!!? あ、あかいろオバケ……ッ!!」

 

 佐倉杏子の顔を見た途端、ランボの顔が青ざめる。

 

「その金あたしに寄越せや。マフィアなら上納金って言葉くらい知ってんだろ? ヤキ入れるぞ?」

「は……はい……!」

 

 ガクブルと震えるランボは角を差し出し、その全額を佐倉杏子に没収される。中学生が五歳児に恐喝。そんな絵ヅラ的に最悪なカツアゲの一部始終を目撃した悪魔だが、特に言うことは何もない。一年前から知っている光景。いつものことである。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! この竜城明日香の前で五歳児を相手にカツアゲとは許せません! 勝負ですっ!」

「アンタだれさ? いっちょこの金で豪勢に奢ってやろうと思ってたんだがねぇ……クソガキはわたあめか。──ゆまは何がいい?」

「ゆまはタイヤキー! あそこにお店があるー!」

「そうかい。なら、なぎさは? そこの白い奴も」

「なぎさはチーズならなんでもいいのです!」

「え、私ですか!? 私は特に……」

「そっか。そんじゃあ行くか!」

 

 佐倉杏子はランボのアフロ頭を鷲掴んで連れて行く。その後ろに続く千歳ゆま、百江なぎさ。取り残された竜城明日香はポカーンと佇み、美凪ささらは厄介者(ランボ)が連れ去られたことに安堵する。そんな二人へ悪魔が声をかけた。

 

「佐倉とランボのことなら気にするな。旧知の仲だ」

「────はっ! 名君!? なぜここに!」

「なんだその呼び方」

「お忘れですか!? あなたはこの私の切腹を止めてくださった名君ではございませんか!」

「それならオレよりもっと名君な奴が隣にいるけどな。たしか……」

「あ、美凪ささらです。お久しぶりです……」

 

 美凪ささらの丁寧なお辞儀。悪魔も会釈で返す。

 

「それより随分とランボに懐かれてるみたいだな。遊んでくれて礼を言う」

「はいっ! 毎日遊びに来てくれるので、こちらも嬉しくて楽しい限りですっ!」

「私は心労がマッハだけどね……ところかまわずモジャモジャ頭から取り出した拳銃ぷっぱなすわ手榴弾投げるわ……バズーカを自分に向けて撃ったかと思えば女性の十年後ランボさんが出てきて性別関係なくナンパを始めたり、男性の十年後ランボさんが出てきて私たちにナンパを始めたり……ホント、とんだクソガ……こほん。元気な五歳児の魔法少女です」

 

「ささらには頭が上がらないな。オレが許したと言って、あとでランボが持っている銃器は全て没収してもいいぞ」

「あ、はい……そうさせていただきます……」

「確かに豆鉄砲や爆竹とはいえ、五歳児のランボさんや周りの人には危険ですからね!」

「明日香……お前にはむくと同じ波長を感じる……」

「明日香あんた、今までランボに何発撃たれたと思ってんの……まぁその全てを躱して薙刀で斬り落としてたけど……だからって偽物と思い込むのはやめてほしいわ……」

「え!? もしかして私また思い込んでしまって何かにまっしぐらだったのですか!?」

 

 絶妙に話が通じない天才少女はさておき。

 悪魔はウワサについて問いかける。

 

「ひとつ聞きたいことがあるんだが。口寄せ神社のうわさってのを知らないか? なんでもいいんだが」

「はて? 申し訳ございませんが、私にはとんと……」

「私も知りません。そのうわさが何か?」

「いや、知らないならそれで構わない」

 

 悪魔は礼を告げて佐倉杏子たちの下に向かう。が、その傍らになぜか竜城明日香が追随してきた。必然、監視役として美凪ささらも同行する。

 

「……なんだ?」

「我が名君! もしや水名観光ですか!?」

「……どうしてそう思った?」

「だってスタンプラリーのシートを持っているではないですか! そういうことなら、この竜城明日香にお任せを! 名君の忠実な家来として、粉骨砕身の働きをお見せ致しましょう!」

 

 純朴に親切心で張り切る竜城明日香。

 それを断れば落ち込む未来を直感し、悪魔は仕方なく受け入れる。

 

「……分かった。しかし控えめに頼むぞ」

「……! ありがとうございます! では水名の良いところを余すことなくお伝えしますね!」

「観光案内か。それなら私も手伝いたいな。水名のイイところ知ってもらいたいし」

 

 悪魔たちは露天広場に到着。

 そこではたい焼きやどら焼き、たこ焼きや焼きそばを買い漁る佐倉杏子たちの姿があった。

 

「お嬢ちゃんたち可愛いねー! 今日は観光かい? ちょっと多めにサービスしてあげるよ!」

「おっマジかおっちゃん! サンキューな!」

「さんきゅーなっ!」

 

「ヘイおじさん! この焼きそばにパルメザンチーズを注ぐのです!」

「注(・)ぐ(・)!? できれば素材の味を楽しんでもらえるとありがたいんだけど……」

「問答無用なのです! 焼きそばはチーズを飾るための添え物に過ぎないのですっ! そんなのではチーズ免許皆伝には程遠いのですよ! 出直して来いなのです!」

 

「ヘイお待ち! 白くてふわふわであまあまな美味しいわたあめだよー!」

「……! ありがと! おじさん、ランボさんの専属わたあめ職人として雇ってもいいぞ! はい十円玉!」

「ひゃ、百円なんだけど……まぁいっか! もってけ泥棒! その代わり全部食えよ!」

 

(あいつら好き放題やってんなー……)

 呆れ果てる悪魔。

 

 やがて近場の木組みテーブルに落ち着いた一同は軽めの朝食を取る。

 そこに悪魔と竜城明日香、美凪ささらも座った。

 

「ん? 結局あんたらも来たのか。ほらよ、食うかい?」

「いえ、私たちは……」

 

 そこで竜城明日香のお腹がぐぅと鳴る。それに美凪ささらは目を見張り、くすりと微笑む。

 

「明日香。遠慮しなくてもいいんじゃない?」

「……そうですね。では遠慮なく、是非いただきます!」

「私も、朝食後だけど少しなら」

 

 佐倉杏子から紙パックを渡された竜城明日香と美凪ささらは、つまようじを突き刺し、とろけるようなたこ焼きを一個ずつ口に運ぶ。

 

「あくまー!」

「どうしたランボ」

「熱くて食えない! ふーふーして!」

「……寄越せ」

 

 たこ焼きの芳しい香り。悪魔の腹がキュルキュルとしぼむが我慢する。中を切って空気を送り込み冷まし、それを一つ一つ繰り返して全体が冷めてきたらランボに手渡す。

 

 悪魔の腰からガタガタと物音。開匣されたナッツとチーズは、佐倉杏子から分けられた食べ物の匂いをくんくんと嗅いで食べ始める。「ガフ!」「キュー!」同時に悪魔は周囲を霧の炎で覆い、ナッツとチーズの姿を一般人の目から隠した。

 

「む! 子ライオンとハリネズミとは! 我が名君は珍しいペットを飼っているのですね!」

「かわいいねー……触っても大丈夫かな……? 名前はなんて言うんですか?」

「ライオンがナッツ。ハリネズミがチーズだ」

 

 それからしばらく。お祭りのような食事を済ませた一同は満腹。

 

「はぁ。もう腹いっぱいだ。食った食ったぁ……」

「キョーコ! 全部おいしかったね! また食べたい!」

「なぎさは食べ過ぎたのです……朝ごはんを食べた後ということを忘れていたのです……」

「なぎさはチーズのことになると目がなくなりすぎだ」

 

 悪魔のツッコミ。

 そこで竜城明日香と美凪ささらは思い出したように口を開いた。

 

「そういえば名君」

「普通に悪魔と呼べ」

「では悪魔名君!」

「……。なんだ?」

 

(諦めた……!)美凪ささら心のツッコミ。

 

「ぐっ……何やら不服そうな面影を検知! それではロードはどうか!?」

「なんで急に英語?」

「くっ……となればやはり我(・)が(・)君(・)しかない、か……でもそれは些か恥ずかしい……!」

「違いが分からない」

「こほん。では悪魔殿!」

「なんだ」

 

「うわさについて一つ思い出したことがあるのです! 口寄せ神社なるものとは異なるのですが、鉄火塚のうわさというものなら知っておりまする……!」

「なんで明日香、芝居がかった言い回しなわけ……? でもそれなら、私は覗き見城下町のうわさっては聞いたことがあるわ」

「詳しく聞かせろ」

「では鉄火塚のうわさとは! 水名区の墓地にて供養された人をバカにすると焼けた手が出てきて塚の中に引きずり込んでくるという怪談話です! ただし“あなたのおかげで村が救われました”と感謝すると消えてくれるそうです!」

「覗き見城下町のうわさは、水名城の城下町をぐるっと見て回ったあと、自分の足の間から街を覗くと古い街並みを見ることが出来るんですが、あまり見すぎると向こうの住人にされてしまう、というそうです」

 

 その話を聞いた悪魔は、さっそく実践する。席を立ち、地図アプリを開く。水名区の墓地は多数あるが、検索すると墓地の由来として水害の話がサジェストされる。先に話した“鉄火塚のうわさ”に関連して出てきたのだ。どうやら昔、新西区と水名区の広い範囲にわたって洪水が起きたそうだ。その犠牲者を祀る墓地が城の近くにあるらしい。

 しかし今は口寄せ神社の方が先決であるため、新たなうわさの調査は後回しだ。

 

 そうやって検索している間に城下町に降りた悪魔は、先ほど見て回った小道が条件に入るならウワサが出てくるかも知れないと思い、深く屈んで自らの足の間から街を逆さまに覗いてみる。多少、周囲の視線が恥ずかしくはあるが、人命が懸かっているとなれば気にしてはいられない。

 

「悪魔殿! 私も助太刀いたす!」

「あ、こら明日香! そんなはしたない……!」

 

 竜城明日香は周囲の目も憚らず股の間から街を覗く。だが何も見えない。それは悪魔も同様だった。

 

「────何か条件があるのか、はたまた単なる噂話に過ぎないのか……明日香。もし協力してくれるなら、うわさの内容を集めてやちよに報告してくれ」

「やちよさんですか? あの西の代表の? 承知っ! この腹心、竜城明日香にお任せあれ!」

「明日香……あなた昨日、時代劇でも見たの?」

 

 やがて佐倉杏子、千歳ゆま、百江なぎさ、ランボが合流する。

 そこで佐倉杏子が興味深そうに、竜城明日香を見て言った。

 

「なぁ悪魔。なんかそいつ、アンタの右腕の……なんだっけ。アイツに似てるよな」

「隼人のことか? 妙に一意専心な忠義に関しては……確かに。天然な部分は、どちらかというとむくに似ているがな」

「明日香、あのアホ隼人に似てるってよ」

 

 鼻くそをほじるランボの指摘。

 そこで竜城明日香は“右腕”という言葉に反応する。

 

「悪魔殿の右腕……? それはつまり懐刀! 信頼する家臣!? そんな……悪魔殿! 私という右腕がありながら、ほかの右腕がいるのですか!?」

「いや、ありながらも何も……もうツッコミもめんどくせぇよ……」

 

 頭をかく悪魔は、つと本来の目的を思い出す。

 

「そうだ、スタンプ」

「はっ! 確かに忘れていました! スタンプはお城の中です!」

「中に入れるのか?」

「一階部分の、そのまた端っこの広間だけですが!」

 

 水名城に入場した悪魔は列に並び、唐紅のシートを台座に載せる。

 

「あっ! なぎさがやりたいのです!」

「ランボさんも! ランボさんも!」

「ランボは次な……」

 

 指を咥えるランボを抱える悪魔。

 百江なぎさがスタンプ・赤い城の“じ”をひと押し。

 

「次は文化劇場なのですっ!」

「それならこちらでございます! 案内しませう!」

「明日香……昔の江戸言葉どころか、平安時代まで飛んでるよ……」

 

 美凪ささらの体をよじ登ったランボは「さぁ進めー!」と号令を発する。それに合わせて駆け出す竜城明日香とナッツ、百江なぎさもチーズを抱き上げて頭に乗せて駆け出す。

 

「……歩け……」

 

 懇願するように呟いた悪魔は是非もなしと追いかける。

 

「ゆま、お腹いっぱいで走れない……」

「それなら肩車するか? 気分が悪くなったら教えろよ」

「! キョーコ、肩車! 嬉しい! する!」

 

 よっこいしょと千歳ゆまを肩に乗せて立ち上がった佐倉杏子は「軽い軽い」と走り出す。

 両手を広げて全身に風を感じる千歳ゆま。

 

 かくして一行は城下町を駆け下りて、水名区の文化劇場に赴いた。

 

          †

 

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