※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

12 / 260
二重奏(デュオ) 環いろは編



二重奏(デュオ) 環いろは編
【なら譲れないモノを一つ作れ。それだけで人は強くなれる】悪魔


 

 悪魔を呼び止めた黒江だが、なぜそんなことをしたのか彼女自身にも分からない。

 

「……どうした?」

「いや……えっと、その……まだ、話したいことがあって……あ、キュゥべえのことではなくて、悪魔さんのことで……」

「……そうか。いいぞ。言ってみろ」

 

 黒江は意を決して質問する。

 

「その……悪魔さんは、キュゥべえのことを恨んで、憎んで、嫌っているはずですよね……? シャワーを浴びて落ち着いたら、少しだけ夢の内容を思い出したんです……。悪魔さんは、大切な妹さんと、好きな人と、好きになってくれた人を、一度に喪って────それなのに、なんでキュゥべえと一緒に旅をしているんですか……? それが私には、わからなくて……」

「……なに。単純なことさ」

「?」

「復讐とは手段を選ばないことだ。三人を救うためなら、オレはどんなに嫌いな奴とでも手を組むさ」

「────!」

 

 黒江はうつむく。それは奇しくも彼女の理想に近い覚悟だった。誰かの為に頑張る。誰かの期待に応えたい。そのために全力を尽くす。そんな人間になりたかった。

「……っ」

 しかし黒江は、その力を手放した。何も魔法少女じゃなくてもできることはあるだろう。それでも彼女が魔法少女という頑張りどころから逃げたことには変わらない。その事実が彼女の心に深く突き刺さっていた。

 

「……あの、悪魔さん。急いでいるんでしょうけど、少しだけ……少しだけでいいから……私の話を、聞いてくださいますか……?」

「……あぁ。当然だ」

 

 悪魔は待つ。黒江の言葉を。

 

「……私は、ずっと誰かの役に立ちたいと思っていました。でも私は今、それから逃げた……魔法少女の運命から逃げたんです……」

「……そんなことはない。別に魔法少女じゃなくたって……」

「わかっています。でも逃げたことに変わりはない……それで、その……私、恩返しがしたいんです。せめて、それくらいはしないと……私、たぶんこれから、心が折れたまま生きることになりそうだから────」

「…………」

「それで、その……悪魔さんはさっき、復讐のためなら手段を選ばないと、そう言いましたよね……?」

「……? あぁ。そのつもりだが」

「それなら、その……どうして、私に言わないんですか?」

「……?」

 

 黒江の要領を得ない言い回しに、悪魔は首をかしげる。

 

「あの、すみません。私も、まだ考えがまとまってなくて……ただ、あの……っ。だ……だって、やろうと思えば……私に魔女化の件は伏せて、キュゥべえに願わせればよかったじゃないですか。たとえば……妹さんを生き返らせたい、とか────」

「────!」

 

 次の瞬間、悪魔は怒りをあらわに鋭い目つきで黒江を射抜いた。

 

「バカを言うな。そうしたら、お前はまた怖い世界に逆戻りだろ」

「で、でも……」

「お前はお前の人生を歩め。もう魔法少女なんかになるな」

「…………っ」

 

 黒江の目尻に涙が溜まる。昨日今日の出来事で様々なことがありすぎて、色々なことを知りすぎて、もう彼女の許容量はいっぱいいっぱいなのだろう。それでも彼女はだ(・)れ(・)か(・)の(・)た(・)め(・)に(・)何(・)か(・)を(・)し(・)な(・)け(・)れ(・)ば(・)と思い至った。それは突拍子のない勢いの申し出であり、それゆえに断られたが、それほど彼女の精神は切羽詰っていると言えた。

 

(やっぱり私は……何もできない……誰からも頼りにされない……こんなんじゃ、魔法少女を辞められても、以前と何も変わらない……情けない……情けないよ……)

 

 それを見て察した悪魔は、うつむく黒江に話しかける。

 

「いいか、黒江。キュゥべえとの契約は、自分の人生を魔女狩りに費やすことだ。自分の人生を捧げるってことだ。そんなことをするのは戦う覚悟を決めた奴だけで構わない。無理にする必要はない。やりたい奴だけやればいい。たとえ自分以外に誰もできないことだとしても、それを理由に一人の女の子の人生が台無しになっていいわけがない。だからお前は、お前の人生を大事にするんだ。それがオレの願いでもある」

「……でも……私は……今のままじゃ……っ!」

「……!」

 

 変われない。変わりたい。

 そして悪魔は、目の前の少女のそんな思いを見抜いたのか、ゆっくりと近付いて矮小な肩に手を置いた。

 

「黒江。強くなりたいか?」

「……?」

「怖いことから逃げたくないか」

「…………」

 

 黒江はこくんと頷く。

 

「なら譲れないモノを一つ作れ。それだけで人は強くなれる」

「…………。……たったひとつだけで、いいんですか……?」

「あぁ。その一つがあれば、どんな怖がりな奴でも前に進めるさ。オレみたいにな」

「…………」

 

 少年と少女は見つめ合う。

 

「あ。かといって恩(・)返(・)し(・)は(・)譲(・)れ(・)な(・)い(・)も(・)の(・)、とか言ってオレのために願うのだけは無しだぜ。何も願わなくていい。願うってことは祈るってことだ。祈って何かが変わるわけでもない。それより歩くんだ。歩かなければ何も進まない。そして進む道を変えたい時こそ祈るんだ。こ(・)の(・)先(・)に(・)待(・)ち(・)受(・)け(・)る(・)ど(・)ん(・)な(・)困(・)難(・)を(・)も(・)突(・)破(・)で(・)き(・)ま(・)す(・)よ(・)う(・)に(・)って」

「……はい」

「それじゃ、説教臭くなったが、これで最後だ。誰かに願いを叶えてもらうと、必ずその見返りが返ってくる。キュゥべえに願ったら魔法少女になってしまったように。だから自分の願いは仲(・)間(・)と(・)叶えろ。決意も覚悟も勇気も足りないなら尚更だ」

「…………。……」

 

 最後に悪魔は黒江の頭を撫でると、その手を引いて寝室を後にする。廊下を渡り、エレベーターが来るまで待つ。その少しの待ち時間に退屈したのか、ちらちらと悪魔の横顔を見ていた黒江が話しかけた。

 

「あの……夢の中で見た悪魔さんって、申し訳ないですけど、なんかすっごく頼りなくて、なよなよしてて、ダメダメだった気がするんですけど……今は、別人みたいですね……?」

「……そうか? それほど雰囲気が変わったって意味なんだろうけど……これは単なるテンションの違いだ。常に冷静なまま死ぬ気じゃないと生き残れない世界に、オレは飛び込んだんだから。そういう意味では……もうオレは、あの頃のオレには戻れない」

「……いえ、そうでもありませんよ。根っこは変わっていないと思います。悪魔さん、意外と抜けていますし」

「……オレ、抜けてるのか?」

 

 エレベーターが到着したチャイムが鳴る。エレベーターに乗り込んで、ドアが閉まる時。悪魔は思い出したように口にした。

 

「あ、そうだ。黒江、額にキスをしてもいいか?」

「────はっ!? な、なんでですか……?」

「悪魔の口付けだ。額への口付けは“祝福と友情”を意味しており、その主な効果に“魔女避け”がある」

「魔女避けと言うと……魔女に遭遇しなくなる、とかですか……?」

「そうだな。ある意味では逆の意味になるがマーキングみたいなものだ。嫌なら付けないが……どうする?」

 

 黒江は少しのあいだ考えると、やや視線を逸らして腕をかき抱いた。

 

「……お願いします……」

「わかった」

 

 悪魔の唇が、ギュッと目を瞑る黒江の額に優しく触れる。同時にチンと音が鳴り、エレベーターは一階に到着。顔が赤い悪魔と黒江はロビーを横切って自動ドアを潜り、早朝の歓楽街に出た。白んだ青空。小雨が降っている。

 

「よし、じゃあな黒江。ここで聞いたことは他言無用だぜ。特に魔女化については、ほかの魔法少女には話すなよ」

「……? なんでですか?」

「魔女化の条件は絶望することだ。こんな話を聞いて絶望しない奴がいるか? 人殺しになりたくなければ、ここで聞いたことは胸に秘めることだ。そして二度とキュゥべえと契約するな」

「…………」

 

 黒江は「お世話になりました」と頭を下げる。そして無表情のまま家路に就いた。

 その後ろ姿を見送った悪魔は、ひと仕事終えたと溜め息をつく。

 

「……危うい子だな。なぁキュゥべえ。彼女はどういう子なんだ?」

「まず自己評価が低いね。他人と比較して自己嫌悪している。嫉妬や羨望の念も強い」

「魔女化には打って付けの精神性ということか。願い自体も“好きな人と付き合いたい”という、よくあるものだったしな」

「でもすぐに別れたそうだよ。どちらが先に別れを切り出したのかは分からないけど、きっと自分に自信がない存在とは一緒に居たくなかったんじゃないかな。君だってさっきは苛立って怒鳴りつけたし、やはり一緒にいると何か不快感を覚えることがあるんじゃないのかい」

「そこまでは思ってない。ただ自己犠牲の精神が強いのが危ういと思ったんだ」

「……それ、君が言えることかな?」

 

 悪魔は駅に向かって歩き出す。住宅街に向かった黒江とは反対方向だ。

 

「ところでキュゥべえ。お前は感情が分からないと言うが、統計的に理論立てて人間の感情や言動を説明づけるのがうまいな」

「急になんだい?」

「感情的に振る舞う演技が巧みだと言っている。多くの人間を観察してきたのだから、それをトレースして親しみやすくするのは当然の交渉戦略か」

「そんなの当たり前じゃないか。なぜか人間は無機質な生き物を忌み嫌う。マネキンで言う不気味の谷の現象に近いのかな。人間にとって可愛らしい動作と喋り方を身に付けておけば、向こうから勝手に親近感を抱いてやって来るからね。この方法を見つけてからは契約しやすくなって非常に作業が楽になったよ」

「…………」

 

 悪魔は腹が立っている。

 しかしキュゥべえは、それを統計的に察することはできても、それを感情的に理解することはできない。

 

「なぁキュゥべえ。お前たちはこれからも、自分たちの目的のためだけに、人類を利用するのか」

「何を言うんだい。これは宇宙全体の問題だ」

「そうだな。だが残念ながら、人類はまだその位置に立てていないんだよ。それを考慮せずに譲歩しているだと? 笑わせるな」

「なんだい。後悔するくらいなら最初から契約なんて応じなければ良かったんだ。希望を願えばそれと同じくらいの絶望が返ってくる。等価交換の法則は、魔法少女の願い事でも変わらないよ」

「ならその等価交換の法則を説明してから契約を迫れよ」

「迫ってはいないけど、きちんと忠告はしたさ。それでも彼女たちは願った。ということは彼女たちが愚かなだけなんじゃないのかな」

「そうだな。小学生や中学生なんてみんな愚か(ガキ)だ。そして、その愚かな所に付け込むのが、お前らのやり口だ」

 

 その掛け合いは、悪魔とキュゥべえにとって日常とも言える言い合いだった。このような口喧嘩を毎日繰り返しては、悪魔はインキュベーターのことを理解しようとし、インキュベーターは悪魔の言動に疑問しか抱けない。

 

 かくして悪魔は宝崎第三次駅に到着した。向かう先は大都市・神浜市。そこに目的の結界魔法の使い手がいる。その魔法少女を捜すため、悪魔とキュゥべえは列車に乗り込んだ。

 

   †

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。