アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
正午の水名城にて。水名区の神社を巡り、参拝して絵馬を飾ったが何も起きず、人づてに噂を聞き出しているうちに水名区の中央まで来てしまった環姉妹とリリス、万年桜は、昼休憩として露天で食べ物を買い、昼食をとっていた。
「なんだか観光に来たみたいで楽しいね、うい」
「うん」
「お土産屋さんもすごかったし、水名氏庭園も綺麗だった」
「そうだね」
環いろはは楽しかった名所を思い出して語るが、相変わらず環ういは無表情。まだ万年桜の方が感情豊かだ。リリスはたこ焼きを食べて口の中を火傷し、涙目となり水を口に含んで熱を冷ましている。
「それにしてもウワサの調査、なかなか進まないね……私が人見知りなせいで、最初はなかなか話しかけられなかったし……」
「そう? いつものお姉ちゃんにしては、よく頑張ってたと思うけど」
「え、ほんと? でもそうか……思えば絶交ルールのウワサの後から、ういを探すのに必死だったから……お姉ちゃんね、神浜市駅の駅前で通行人に声をかけて頑張ったんだよ。なんでもいいから噂について知りませんか、って」
「そうだったんだ」
「うん。そうだったの。……あ、口元、ノリが付いてる」
環いろははハンカチで妹の口を拭き取る。慈愛の笑み。だがどこか寂しさが感じられる。やはり環ういの感情喪失に複雑な心境なのだろう。それを見て察したリリスは俯いて考え込む。もし自分の中にある環ういの精神を返すことができれば、環いろはを悲しませることなく、環ういにも以前と違う自分に苦痛を感じさせることがないのに……と。
「モキュ……」
「│……いろは、うい、リリス。みんな元気ない。どうやったら元気出る?│
│私に出来ることがあるならなんでも言って。みんなのために頑張りたい│」
「万年桜さん……ありがとうございます。でも今は特に……その、ごめんなさい」
「│そう……分かった│」
「あ、万年桜さんもたこ焼き食べますか? ウワサだから要らないと言っていましたけど、みんなで食べると美味しいですよ?」
「│……それでいろはたちが元気になるなら食べる│」
万年桜は席についてたこ焼きを一口。
「美味しいですか?」
「│……味覚機能はあるから美味しさは分かる。でも初めて食べ物を口にしたから比較対象がない│」
「それならもっと色々なものを食べてみないとですね」
「│いろはが作る料理はヘルシー。栄養素で言うなら、このたこ焼きは高カロリー│」
「えっ……もしかして私の情報なら、なんでも入っているんですか?」
「│それが不思議。私は柊ねむがいろはとういのことを忘れたあとに作られたはず│
│それなのになぜ私にいろはとういの情報が残っているのか分からない│」
そこで環ういが口を開く。
「もしかしたら、それも宇宙の意思にとって都合のいい展開なのかも」
「│悪魔の言葉を借りるならそうなる。でも単に……ねむが実は覚えている可能性もある│」
「……! そうだよ、うい。万年桜さんはねむちゃんが作ったんだから。宇宙の意思とか、そんな難しく考えなくても……」
「…………?」
「│仮にねむが覚えていた場合、何かしらの理由でこちらに接触できない可能性があるのかも│」
「接触できない可能性……」
「────待って。万年桜。なんでねむちゃんのこと話せるようになってるの? たしかお姉ちゃんの話では、灯花ちゃんやねむちゃんの話になると無言になるって……それに今の話だと、やっぱりウワサはねむちゃんが────」
環ういの指摘。それに環いろはは「そういえば」と絶句して目を見張り、万年桜は無言で振り向く。
「│悪魔の叛逆魔法で、私の中のウワサルールが改変された│
│だから普通に話せている│」
ちなみに事故のようなものなので、創造主から責任を問われることがなかった。というよりルール改変に気が付いていないはず。さらに誰に対しても答えられるようになったわけではなく、環ういの質問にのみ答えられるようになった。つまり環ういは、
「そんな……悪魔さん、魔法を掛けると熱が出るのに……でも、悪魔さんが叛逆魔法? を掛けてくれたおかげで、一歩真相に近付けたね……。でも実は、あんなウワサを作ったのがねむちゃんじゃなければ良かったのに、とは思っちゃったけど……」
「│……いろは。悪魔の魔法については、どちらかというと私が暴発させた。おかげでえらい目に遭った│」
「え────も、もしかして、それって……! っ……!?」
環いろはは顔が真っ赤になる。万年桜はその理由が分からず首をかしげた。
環ういは誰よりも早く食事を終えてごちそうさまと合掌。リリスも真似していただきましたと目を瞑る。
「お姉ちゃん。早く行こう。ねむちゃんがウワサを作っているなら、やっぱりこんなことやめさせなきゃ」
「あ、うん……そうだね! 絶交ルールのウワサだけで、既に何人か生徒が死んでいる……これ以上ねむちゃんの罪を増やすわけにはいかないよ……!」
「│それには同意。ねむは倫理的に暴走してる。大義名分があると人はとかく自他を蹂躙しがち│
│そう歴史書を呼んで判断した。私は将来的にねむが苦しむようなことはさせたくない│」
そうと決まれば即行動。聞き込みを繰り返して口寄せ神社の情報を集める。
しかし成果は芳しくない。それでも頑張る環姉妹とリリス、万年桜であった。
†
一方その頃。環姉妹たちと同じく数々の神社を巡っていたが収穫なしの鹿目まどかと暁美ほむらは、昼休憩としてお土産屋を回っていた。
かつて水名区のお嬢様が着ていたと言われる着物と同じ柄の和服。それを手に取って自分の体に当ててみた鹿目まどかは感想を問う。
「見て、ほむらちゃん。お姫様!」
「わぁ! まどか可愛い! 可愛いよ! すごく可愛い!」
「ほんと? ありがとう! 本当のお姫様は浅葱色の着物を着ていたみたいだけど、私はこの淡い赤色がいいかなぁ。ほむらちゃんなら、きっとこの淡いピンクが────」
「まどかがそれなら、私はこれかな」
かつて水名区の町人が着ていたと言われる着物と似た柄の和服。それを手に取って自分の体に当てた暁美ほむらは、やや照れながら鹿目まどかの隣に並ぶ。
「ほむらちゃん。それ男物だけど……」
「いいの、まどか。私は別に男でも……」
暁美ほむらは何を口走ろうとしたのか。
そのとき年老いた店員が微笑みながら近寄って会釈してきた。
「あらあら。似合っていますよ、お客様」
「あ……ありがとうございます!」
「……!」
遠慮がちだが快活に返事する鹿目まどか。
人見知り故か、はたまた似合うと言われて恥じらっているのか縮こまる暁美ほむら。
「ところで知っておられますか? そちらの着物、ある伝説が元になっているんです」
古い伝説です。と老婆は語る。
昔々、大名がこの辺りを治めていた時代。町人の男が水名城に住むお姫様に身分違いの恋をした。二人は強い絆で結ばれましたが、それに嫉妬した許嫁によって男は殺されてしまう。お姫様は毎日毎日泣き暮らし、毎晩毎晩神社へ通い、神様にお祈りした。どうか、あの人に会わせてください……と。
「────かくて千五百日の祈りのあと、願いは叶うに至りて、お姫様は死んだはずの男と再会した……という伝説です」
「わぁ……素敵ですね!」
「……神社……」
「えぇ。しかし今のお話は“悲恋の男女”の昔話として語り継がれているのです」
「え……再会できたのに、
「────」
悲恋。そう聞いた暁美ほむらは男物の着物を自分の体から剥ぎ取るように取り除いてハンガーに戻す。
「うふふ。まぁ色々なバージョンがありますので、もし気になるのでしたら神浜現代美術館に行くとよろしいですよ。郷土資料館の傍らに、水名区の昔話を絵本にした小さなコーナーがありますから」
老婆は会釈すると、それだけ言って店の奥に去る。
「……だって、ほむらちゃん。
「うん!」
「でも冷やかしになると少し申し訳ないから、何か安いもの買っていく?」
「あ、それなら……その……ずっと気になってるストラップがあって……」
「え、どれどれ?」
暁美ほむらは案内する。それはハートの形をした小石に“月か刀”の意匠が彫られた浅葱色のストラップ。
「……これ、月かな?」
「刀にも見えるよね。小さすぎてよく分からないけど、綺麗な青色だからいいなって思って」
「うん。見つめていると吸い込まれそうな奥深い海色だと思う……これ、買っちゃおっか?」
お代は百円。看板によれば髪を結う紐としても使えるそうだ。しかし髪留めは間に合っている。それぞれカバンに取り付けた二人はお土産屋を後にして、神浜現代美術館に急いだ。
†
正午過ぎの神浜現代美術館。梢麻友の案内で郷土資料館のコーナーに再び訪れた悪魔は、全員の食事が終わるまで上桐氏や水名区の神社にまつわる情報を調べていた。
「あのぅ……失礼ながら、お昼……食べないんですか?」
ふとした梢麻友の疑問。
「あぁ。……麻友も空腹なら戻っていいんだぞ。こうも往復すれば迷子にはならない。案内はもう必要ない」
「そうですか。……しかし請け負った仕事は最後まで責任を持ちますので、お供します! 何かお手伝いできることはありませんか?」
「それなら“口寄せ神社のうわさ”って知ってるか? 知らなければ神社にまつわる昔話を調べてほしい」
おそらくウワサは、実際のうわさをモデルにした代物と、架空のお話で作られた代物の二種類が存在する。環うい・里見灯花・柊ねむ・環いろはが作った神浜地図の虚実交えたスポット集。もしそれがウワサの元ネタになっているなら、少なくとも実際に記録されている伝説や神話を調べていけば、ウワサのモデルのうち一種類は突き止めることができる。
(おそらく絶交ルールは後者……架空のお話、柊ねむの頭の中だけで具現化されたウワサだ。しかし口寄せ神社は前者……実際にあるエピソードを元ネタにして具現化されたウワサである可能性が高い。神浜市の中でも水名区は最も神社の数が多い。そこにわざわざ神社に関連するウワサを設けたとなれば、何かしらの因果関係があると疑っても良いだろう)
「そういうことなら……こちら小さなスペースですが、水名区の昔話を絵本にしたコーナーがあるんです。お子様向けですが、お読みになられますか?」
梢麻友は“水名昔話集”という絵本を持ってくる。それを受け取った悪魔はパラパラとめくっていると、梢麻友が「あっ」と指差して止める。そのページには大きな神社がクレヨンで描かれていた。梢麻友が朗読する。
「むかしむかし、大名がこの辺りを治めていた時代。町人の男が水名城に住むお姫様に身分違いの恋をしました。お姫様と町人の男は強い絆で結ばれましたが、それに嫉妬した
────多くの心臓が欲しい。それだけあれば腹も膨れて、町人の男も生き返るだろう。
「お姫様は愛しい人ともう一度会うため、城下町に暮らす人々の命を悪い神様に捧げてしまいました。生き返った男は空っぽになった城下町に驚き、お姫様を罵って城下町を出て行きました。ショックを受けたお姫様は入水し、男は行脚に就きましたとさ……おしまい」
「……これを読んだ幼児は“ホラーならホラーとジャンルを書いてくれ”と言うだろうな」
「たしかに、お姫様が自殺してしまうのはショックですね……そして男の人は
「お姫様の罪を赦してもらうため、仏に縋って旅に出たんだろう。悲恋の男女という題名は付いているが、どちらも互いを思いやっての別離だったという締め方だ」
「……悲しいけど、やっぱり素敵ですね。でも二人には、ずっと一緒にいて欲しかったです……」
「奇跡には代償が付き物だ。生き返りを望むなら、二度とその人と会えないことも覚悟しておかなければならない。等価交換の法則という観点から見れば至極当然過ぎる
悪魔はパタンと閉じた絵本を梢麻友に返し、刀工に関する郷土資料を本棚に収める。
「もういいんですか?」
「上桐の所在地は掴んだ。しかしネットにすら一切の情報が載っていないとは余程の厭世家だな。それだけ金があって、その財を全て情報の秘匿に注いでいる証でもあるが」
「上桐さんは日本有数の刀工ですから。彼の作る刀はそれ一本でとんでもない額が付くそうです」
「まさしく名刀職人。だが妖刀職人になれるかどうか────」
そろそろ昼食も終わる頃だろうと、悪魔と梢麻友はフードコートに戻る。
そこでは佐倉杏子が伸びをしており、悪魔を見つけると出口に向かい出す。
「どこ行ってんだよ? もう行くぞ」
「あぁ。出発しよう。……じゃあな、麻友。案内ありがとう」
「はい! ご来館、ありがとうございました!」
†