※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【食うよな?】佐倉杏子〔ツンギレモード〕

 

 昼下がりの水名氏庭園。

 玄関口の上がり框を越えると中央に屏風。左は公衆便所、右は廊下が続き庭園を望める。

 

「砂場だ! ランボさんお城作るー!」

「だーこら! これは砂場じゃねぇっつーの!」

 

 佐倉杏子は庭園に飛び込もうとしたランボを捕まえておく。

 先に進むと広間に出て、水名氏に関する展示物が点々と配置されていた。

 

「……あ、スタンプ見っけ! キョーコ、抱っこ!」

「はいはい。……おい、そこの自害っ子。受け取れ」

「へ? うわわ!?」

 

 竜城明日香は投げ飛ばされたランボを受け取る。

 佐倉杏子に抱き上げられた千歳ゆまは、さゆさゆのサイン入りシートにスタンプ・赤い鯉の“な”をぺたりと押す。

 

「次はお土産屋だって!」

「面白いものあるといいな?」

 

 悪魔はとある展示物の前に立つ。それは水名氏の家系図。見つめていると目が滑る漢字の羅列。その傍らにある説明板には、水名氏の中で最も知名度がある武将について解説されていた。

 

          ◆

 

 水名正綱。戦国時代に水名の地を治めていた大名。

 氏(うじ)を水名、通称を広虎、諱(いみな)を正綱。故に“水名広虎正綱(みずな ひろとら まさつな)”という。

 

 水名正綱には露(つゆ)という娘がおり、お転婆ゆえ合戦に参加することが多々あった。

 そのことから水名露は“西の戦巫女”と称される。

 

:豆知識:

 水名正綱の“綱”の由来は、水名正綱より一世紀ほど前の人物・宇都宮成綱(うつのみや しげつな)にあるとされる。宇都宮という言葉から分かる通り、現在の栃木県あたりで活躍した武将で、戦国時代初期の頃に在った。弱体化し窮地に陥った宇都宮家を一代で立て直し、北関東の最大勢力に至るまで登り詰めた偉業から“稀代の切れ者”“中興(ちゅうこう)の祖(そ)”といった称号を誇る。

 

 その偉業に感銘を受けた広虎(水名正綱)は、宇都宮成綱の《綱》の字を貰い、正綱と名乗り始めたという。

 

 ちなみに宇都宮家は、主従の証として家臣となる者に《綱》の字を授ける慣習があった。例えば宇都宮家の一門でありながら関係が断絶していた塩谷(しおのや)家は、再び宇都宮家に臣従する際《綱》の字を授かり、その証として塩谷孝綱(しおのや たかつな)という武将が存在する。やがて塩谷家を含む各勢力は、北関東の覇者たる宇都宮成綱の死後、内訌(ないこう)(内紛)を起こして分裂を繰り返した。

 

 それから時は巡り。塩谷家の子孫とされる塩売り家が水名の地を訪れ、それを水名正綱が歓迎したという逸話がある。

 

 また、なぜ水名正綱が、地域も年代も遠く離れた人物(宇都宮成綱)に目を留めたのかは分かっていない。とある塩売り家が関係していると言われているが、それもあくまで噂である。

 

 さらに広虎という名前も、宇都宮成綱の孫であり、戦国時代の盛りに活躍して、分裂した宇都宮家を再び再興した“虎を連れた病弱ショタ領主”宇都宮広綱(ひろつな)に関係があるとも言われているが、こちらも眉唾・噂の域を出ないでいる。

 

          ◆

 

 解説を読み終えた悪魔は、もうここには用はないと思い来た道を戻る。縁側に座って茶でも飲めば、観る者を心豊かにさせる庭園。それを尻目にも置かず玄関口に戻った悪魔は、ふと庭園の管理人と女子高生の会話を耳にする。

 

「今日も庭園周りのお掃除、ありがとうねぇ。塩屋(しおや)さん」

「いえいえ。ボランティアでやってることなので」

「これから箏曲(そうきょく)のお稽古? 頑張ってねぇ」

「はい。ありがとうございます!」

 

 深々とお辞儀した塩屋晴海は、着物姿の管理人を見送る。

 そこで悪魔が声を掛けた。

 

「ちょっとすまない。君は塩屋さんと言うのか?」

「……? はい。そうですが……」

「では水名正綱が歓迎した塩売り家についてはご存知で?」

「────! あぁ、そういうことですか。はい、私の家は代々塩を売っているお店なので“塩屋”という苗字なんですが、なんでもそれが水名区の大名のマイナーエピソードに由来している、か(・)も(・)しれなくて……私はあまり信じていないんですけどね。証拠となる物もありませんし……」

「そうか。少し気になったんだ。邪魔したな」

 

 会釈した悪魔は水名氏庭園を後にする。と、悪魔の不在に気付いた魔法少女たちがぞろぞろと付いてきた。

 

「悪魔殿! また勝手に居なくなって! 置いていかないでください!」

「置いていくも何も、私たちが勝手に付いて行ってるだけだけどね……暇だからとは言え」

 

 走る竜城明日香と小走りの美凪ささら。続いて佐倉杏子と千歳ゆま、百江なぎさとランボ、十咎ももこと水波レナがゆっくりと庭園を後にする。

 

 お土産屋までは近い。そこで千歳ゆまがシートを眺めながら首をかしげた。

 

「キョーコ! 悲恋の男女ってなに?」

「あん? スタンプラリーのシートに何か書いてあんのか。どれどれ……“悲恋の男女の足跡を辿ってスタンプを集めれば、水名区きっての縁結びのパワースポットがみつかるよ”……だぁ?」

「あとね! 水名神社のスタンプは小さな“ゃ”で、水名城は“じ”で、文化劇場は“ん”で、神浜美術館は“じ”で、水名氏庭園は“な”だよ!」

「……逆走してるから、読み直すと“なじんじゃ”……“な神社”……あとはお土産屋と元水名遊郭の二文字だから……なるほどな。結局そういうわけかい」

「え! キョーコ、もう分かったの!? すごーい! ゆまも考える!」

 

 お土産屋に到着。千歳ゆまはスタンプ・赤い招き猫の“ず”を押す。

 

「“ずなじんじゃ”……?」

「次で分かるさ」

「んー……んー……あ、そうだ! お土産屋さん見て回る!」

 

 あちこちと興味が移る千歳ゆま。ほかの者たちもすっかり観光気分でお土産屋を見て回る。

 悪魔は一足先に進み、お土産屋のすぐ近くに連なる元水名遊郭を散策する。

 

 そして川沿いを歩く。すると狭い敷地に小さな赤い鳥居が立ち、その奥に一つの供養塔が建っている光景を目にした。供養塔の両側は遊郭通りに挟まれた謎の供養塔。それが気になり足を踏み入れると、不意に老婆から声を掛けられる。

 

「若造。それが気になるかい?」

「……? はい。遊郭の間に供養塔……いったい何があったのかと」

「なら少し昔話をしてやろう」

 

 通りすがりの老婆は語る。

 

「むかしむかしあるところに、城があり、姫がおり、村があった。あるとき火事が起こり、村を火の手が包み込んだ。姫は身を呈して焼けた家に飛び込むことで火を鎮めた。どうやって? 姫は命と引き換えに川の水を氾濫させたのさ。おかげで村の建物は全て流されてしまったが、多くの村人の命は助かった。村人は姫の自己犠牲に感謝して、姫を供養する墓を建てた」

 

 そこで悪魔は直感する。この老婆は“鉄火塚のうわさ”について語ろうとしていることに。

 

「その後、再建した村にやってきた旅人がこの話を聞いて、墓の前に立ってこう言った。“火事を鎮めるために水を操り、それで村を潰してしまうとは本末転倒、片腹痛し”……そう言ってバカにしたのさ。すると墓の下から真っ黒な手が土を破って這い出てきた。かつて火事で焼け死んだ村人たちの怒りの声が辺りに響き渡り、焼けた手は旅人の足を掴んで墓の下に引きずり込んだ。……供養された村人たちは、自分たちの家族や仲間を助けてくれた姫様を馬鹿にされたことが心底悔しかったのさ。これを目撃した村人たちは、二度と同じような犠牲者が現れないよう、このことを“鉄火塚のうわさ”として語り継ぐことにした────」

 

「……なるほど」

「水名では有名な怪談話さ。邪魔したね」

「いや、有意義な話を聞かせてもらった。礼を言う」

 

 老婆は立ち去る。周囲に人影なし。巻き込む心配はないと判断した悪魔は、供養塔の前に立って呟いた。

 

「────火事を鎮めるため洪水を起こし、それで村を潰すとは本末転倒、片腹痛し────」

 

 次の瞬間、悪魔の視界が奪われる。

 自らの体も見えない暗闇の中、足首にざらりとした手触りを感じる。

 

【バカニスルナ!!】 【バカニスルナ!!】   【バカニスルナ!!】   【バカニスルナ!!】

 

  【バカニスルナ!!】 【バカニスルナ!!】   【バカニスルナ!!】【バカニスルナ!!】

 

 【バカニスルナ!!】     【バカニスルナ!!】     【バカニスルナ!!】

 

   【バカニスルナ!!】【バカニスルナ!!】【バカニスルナ!!】   【バカニスルナ!!】

 

 脳天を響かせる怒号の連鎖。

 不意に怒涛となだれ込む水の音。顔面に大水を被って息ができなくなる。

 足首を握る力が強くなる。足首を掴む人の手の群れが高温になっていく。

 

 足首がヤケドするほど熱い。水底に落とされて今にも溺れ死そうだ。

 しかし悪魔は抵抗しない。毅然と耐え切る。なぜならこれは幻覚だ。超直感が死を伝えていない。身の危険は迫っていない。これは精神を摩耗する罠(トラップ)だ。

 

 次の瞬間、聞き覚えのあるくぐもった声が耳元で囁かれる。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 鉄火塚のそのウワサ

 供養された人をバカにすると焼けた手が襲ってくる

 塚の中に引きずり込み、バカにした人を溺れさせる

 でもでも安心ダイジョーブ

 “あなたのおかげで村が救われました”

 そう感謝するとパッと消えていなくなる!

 キャーコワーイ!》

 

(……“あなたのおかげで村は救われた。感謝する”……)

 

 刹那、視界が晴れる。眼前には供養塔。周囲にウワサさんの姿はない。

 

(……最終的に“ウワサさん”が助けてくれるような作りになっているのか。しかし分からない。このウワサの用途はなんだ? なんのためにこんなウワサを作った……)

 

 まさか“鉄火塚のうわさ”を信じて、試しにバカにした者に精神的圧力を掛ける。

 ただそれだけのために作られたウワサなのか。

 

(もし魔法少女なら死を身近に感じた恐怖のあまり、ソウルジェムが少し濁るだろうな……)

 

 そこまで考えたところで、悪魔はまさかと面を上げた。

 

「やはり────そういう使い方もあるのか。あえて穢れを溜めさせて半魔女化させる。そうやって穢れのエネルギーを回収し、純粋熱量に変換、具現化の工程を踏み、宇宙に熱量を送り出す。キュゥべえの目的は“エネルギーのロスの解消”だが、もし灯花とねむの目的がその更に先を行く“エネルギーの増幅”なら……むしろ穢(・)れ(・)は(・)欲(・)し(・)い(・)んだ」

 

 その場合、里見灯花と柊ねむは、とことん人道と倫理を排斥した超絶合理主義・効率主義の権化ということになる。だがそれも宇宙の意思に従っているだけなら納得できる。つまるところやっていることはインキュベーターと変わらない。インキュベーターの機能を奪った時に、インキュベーターの性格までも奪ってしまった。以前にもそう推理したが、そう考えれば一応の辻褄は合う。

 

 絶交ルールのウワサの場合は、神浜市では魔法少女同士の連携が肝要とされているため、もし仲間割れを起こした時にウワサ空間に閉じ込めやすい。だがそれだと説明が付かない現象があった。ウワサ空間の最奥部に行くと回収の力が届かず、半魔女化するどころか魔女化してしまっていた。これは単なる設計ミスなのか、はたまた何か理由があるのか、そもそもこの推理が間違っているのか。

 

 加えて、もうひとつ不明な点がある。魔法少女の半魔女化を呼び起こしたいなら、対象は魔法少女だけでいいはずだ。一般人まで巻き込む意図が分からない。絶交ルールのウワサ空間では、何人かの生徒の白骨死体が確認された。ウワサを倒したあと、天から降り注いできた白い骨の雨が、絶交ルールの餌食となった一般人の成れの果てである。

 

(なぜ一般人も巻き込む? まさか悪いことをして愉悦する邪悪な性格なのか? それともやはり必然性があるのか……? 一般人を巻き込むことで魔(・)法(・)少(・)女(・)側(・)に(・)得(・)が(・)あ(・)る(・)……? ならば“得”とはなんだ。穢れを欲しがっているのは確かだろうが────)

 

 ふと悪魔の左目に痛みが走る。さらに視界が真っ黒になった。目をこするが変化はない。ゴミでも入ったのだろうか。水を探すため供養塔を後にする。そこで悪魔を探しに来た魔法少女たちと合流した。

 

「おう悪魔、こんなところに────って、おい……その目……!」

 

 佐倉杏子は悪魔の左目を見て驚く。

 

「ちょっとアンタ、それって……!」

「おいおい! こんなところで魔人化はやめてくれよ!?」

「レナ、ももこ……魔人化だと? 特に変わりはないが……」

「だってアンタ、左目から穢れが……!」

「ほら、見てみろって!」

 

 十咎ももこはスマホを取り出してカメラモードを起動。悪魔の顔を映す。

 悪魔の左目から少量ずつ吸われていく黒いオーラの粒たち。それは黒い涙のように昇天していく。

 

「────! まさか……!」

 

 悪魔の左目の中に封印されている水泳の魔女は大量の穢れを蓄えている。それが回収の力で吸われているのだろう。だが今までこんなことはなかった。水泳の魔女は結界で外界とは隔絶されているため、外界から穢れが吸収されることは有り得ない。しかし吸われているのは事実だ。となれば悪魔が何らかの条件を満たしてしまった可能性が高い。

 

 例えば────いかなる防壁や障壁があろうと、一度ウワサに掛かった者は、その絶望エネルギーを回収されてしまう────などである。

 

(向こうは穢れが欲しい。そして穢れとは言い換えれば絶望熱量(マイナスエネルギー)だ。それなら魔法少女に限らず人間にも発生する。恨みつらみ・怒り悲しみ・恐怖……何より絶望などがそうだ。そして柊ねむは感情エネルギーを具現化する魔法を持つ。絶交ルールのウワサ、カラダ探しのウワサ、鉄火塚のウワサ……これらはどれも負の感情を煽る代物だった。つまり────)

 

「ウワサの製作者は、魔法少女だけではなく、一般人からも負の感情エネルギーを搾取するつもりなのか……!」

 

 絶交ルールのウワサに囚われた生徒は、さぞや恐怖し絶望したことだろう。バケモノに追われ、仲直りしなければ脱出できないと告げられ、心にもない仲直りをしても最後は裁判所で嘘を断罪される。

 カラダ探しのウワサに囚われた生徒は、さぞや恐怖し絶望したことだろう。毎晩毎晩バケモノに追われては殺され、必死にクリアして脱出しても、クリア時点での死人は記憶を消されるため、覚えている者は数少ない。今までの体験を共有できる仲間もなく、また巻き込まれるのではないかと恐れおののく。

 そうして発生した絶望をエネルギーとして変換し、具現化、回収している。

 

(なにより、この二つは学校に存在したウワサだ。明らかに思春期の少女を狙っている。第二次性徴期を迎える頃の少女は、特に膨大な感情エネルギーが発生しやすい)

 

 徐々にウワサの存在理由が見えてきた。ウワサが魔女と似ているなんてとんでもない。ウワサと魔女の必要性は対極に位置する。

 

 インキュベーターにとって魔女とは産業廃棄物だ。不要のゴミ。むしろ邪魔な存在。彼らが求めるのは魔女化の際に発生するエネルギー。希望から絶望へ相転移する際の熱量。エントロピーを凌駕する夢のエネルギーだ。その後に生まれた魔女は、ほかの魔法少女を魔女化に促すために利用し始めたに過ぎない。インキュベーターにとってはリサイクルに使っている、まだ少しは使えるゴミ程度の認識である。

 

 しかしウワサは違う。ウワサは存在そのものが有益だ。魔女化(相転移)の際に生まれるエネルギーよりは格段と劣るが、“噂話”に惹かれて訪れた者・巻き込まれた者に、負の感情を発生させて、それを毎日微量ずつ回収している。それもこれも、全ては宇宙の枠組みを拡大するためか。

 

「────とことんインキュベーターらしい所業だ。親近感は湧くか? キュゥべえ」

「親近感というのはよく分からないけど、宇宙の公益のために活動しているのが真実ならば賢(・)明(・)だ(・)とは思うよ。個の感情より全体を優先している。しかし君たちは、これを非人間的と糾弾し、いつも滅ぼしてきた。今回も同じ愚を繰り返すのだろう。だからあまり期待はしてない。自動浄化システムだっけ? こういう“人間の取り組み”は、今(・)ま(・)で(・)何(・)度(・)も(・)見(・)て(・)き(・)た(・)からね」

「ならばいつもとは違う歴史を見て驚くがいい。これからは自動浄化システムの争奪戦だ。最終目標は方針転換。滅ぼすのではなく倫理に沿って再運営する」

「君が船頭に立つのかい?」

「ほかに適任がいれば任せるさ。当てはある」

 

 悪魔は、環いろは・環うい・万年桜のウワサの顔を思い浮かべる。

 

「悪魔殿……いったいどうなされたので……?」

「なんでもない。ただ鉄火塚のウワサについて詳細が判明した。あとは覗き見城下町のうわさだけだ。よろしく頼む」

「なんと! 承知しました!」

 

 鉄火塚のウワサは破壊する方法が分からないため後回しにする。まさか供養塔を破壊するわけには行かない。あれはウワサとは関係なく本物の供養塔だ。もし壊せばバチが当たる。

 

 悪魔は元水名遊郭の通りを歩く。長々と続く石畳。やがてポツンと設けられたスタンプの台座を発見する。

 

「スタンプ! 最後はぁ……赤い鹿さんと猪さん? の“み”ー!」

「これで全部揃ったな。スタンプの文字を全部つなげたら何が読める?」

「えーっと……“みずなじんじゃ”……“水名神社”だ……!!」

「っつーわけで、グルッと回ってきたってことだな」

 

 スタンプラリーを完成させた千歳ゆまは万歳し、その両脇を抱えて佐倉杏子が高く抱き上げて回転する。

 

「これで口寄せ神社に入れるのですか?」

「いや……ウワサの存在理由が判明した以上、おそらくウワサに巻き込まれる条件は“簡単”でなくてはならない。でなければエネルギーを効率的に回収できないからな。よって単に夕方以降、水名神社に入り、絵馬に名前を書くだけでいいんだろう」

「ウワサの存在理由とやらの話は後で詳しく聞くとして……それならなぎさたちは、ただスタンプラリーをやっただけなのですか?」

「そうなるな。なかなか悪くない観光だった。礼を言う、竜城明日香、美凪ささら」

 

「────っ! そんな! 恐れ多き言葉! こちらこそ楽しかったです!!」

「どちらかというと、明日香の時代劇遊びに付き合ってくれてありがとうございます……」

「ねぇねぇ! ランボさんまたお城にいきたーい!」

「なんと。それでは行きますか!」

「あーもう……また変なこと始めないでよねー?」

 

 そうは言いつつ楽しいのか、笑う美凪ささらは先行く竜城明日香とランボを追い掛ける。

 

「なぁ悪魔。やっぱりアンタたち、ウワサを調べてるのか?」

「いろはから聞いてるわ。妹さん見つかったみたいだけど、まだウワサに用があるわけ?」

「あぁ。結構おおごとになりそうだ」

「そうか……アタシにも手伝えることはあるか?」

「レナは面倒だからパス。まぁどうしてもって言うなら手伝ってあげてもいいけど?」

「そうだな……特にない。強いて言うなら夜の水名区の神社でウワサと交戦する予定だ。余裕があるなら魔力パターンの感知で様子を窺ってくれると助かる」

「分かった。気をつけろよ!」

「……もし何かあったら駆けつけるから。でも期待しないでよね!」

 

 手を振る十咎ももこと腕を組む水波レナは新西区に帰っていく。

 そうして水名神社の前で悪魔、百江なぎさ、佐倉杏子、千歳ゆまが残った。

 

「さて、オレは夜まで暇を潰してもいいと思っているんだが」

「本当に水名神社で合っているのです?」

「もし見当違いでも、そんときは叛逆魔法を使えば楽勝だろ。ウワサとやらがルール通りにしか動けないなら、ソイツの天敵は悪魔だからな」

 

 そこで百江なぎさが佐倉杏子の暴言を注意した。

 

「クマ吉は魔法を使えば使うほど瀕死に陥るのです。そう簡単には使わせないのですよ」

「別にいいじゃねぇか。他人の為に行動する奴は早死する。このバカはそれを承知した上でやってんだ。あたしやアンタが何を言おうが何をしようが、コイツは方針を変えねぇよ……」

 

 どこか寂しげに、そして苦々しい面持ちで、佐倉杏子は心情を吐き捨てる。

 一陣の風。舌打ち。俯く顔。両者の顔を見やる千歳ゆまは「けんか?」と不安がる。

 

「チッ。なんかシラケちまった。行くぞ、ゆま」

「あ、待って! キョーコ!」

 

 佐倉杏子が立ち去ろうとする。その直後、悪魔の腹がキュルキュルと鳴った。

 

「……」

「…………」

 

 悪魔の真顔。佐倉杏子の呆れ顔。二つの視線が交差する。

 

「……。……風に乗って飯の匂いがしてきたからな」

「…………────チッ。何日食ってない?」

「あまり数えてないから覚えていない。ちょうど一ヶ月は経過したんじゃないか?」

「なら黙って付いてこい。適当な店を探すぞ」

「オレは────」

「食うよな?」

 

 いつもの“食うかい?”ではなく、やや高圧的な命令口調。

 これに逆らえば後が怖いと直感した悪魔は、彼女のわがままに付き合う。

 

「……仕方ない。その代わり月に一度の食事だ。美味いメシを頼むぞ」

「任せろ。夜まで暇なんだろ? ならテキトーにブラブラして魔女がいればあたしが狩る。ゆまは任せたぜ」

「ゆま、キョーコと戦う!」

「ただの人間が敵う相手じゃないっつーの」

 

 そうして四人は目的のない散歩を始めた。

 

          †

 

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