※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【はひ!? 私、ツナさんになんてことを……!!】三浦ハル〔ウワサの複製体〕

 

 天地左右どこを見ても朱い橋が続く世界。音速に届く勢いでバトルグローブから死炎噴射する悪魔は高速で飛行する。その背後には三浦ハルの複製体が懸命に付いてきており、さらに下方には白赤羽根、黒赤羽根、黒青羽根、黒緑羽根の魔法少女、加えて口寄せ絵馬のウワサの大群が追ってくる。

 

 そこでウワサさんが現れては語り消えた。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 口寄せ絵馬のそのウワサ

 でっかい羽虫のようなこの絵馬は、マチビト馬への案内人?

 よく見りゃ誰かが書いた絵馬で、だれかの名前が書いてある

 実はこの絵馬つかまえて、誰かの体の一部を貼れば、

 絵馬が神馬、ボワンと変身、コブ付き王子が現れるって

 水名の女の子の間じゃもっぱらのウワサ

 ドンペリイッチョー!》

 

 絶交ルールのウワサにあった無数の弱い手下・絶交南京錠のウワサのようなものだろうと判断した悪魔は、思考を切り替えて戦闘考察を始める。

 

(敵が多いな。一度に四体のスタンドと戦闘か……。なぜかは知らないが、オレのスタンドは“像(ビジョン)”を持たない……つまりスタンドに直接ダメージを与える手段を持たないという事だ。ならば本体を狙うしかないが、こうも多勢に無勢だと一度の接近で取り囲まれて袋叩きに遭う。敵スタンドの能力によっては一瞬で完封される恐れもある。さて、どうするか────)

 

 距離を取って戦うなら中距離支援に特化した武器《嵐の髑髏型死炎放射器》がある。だが敵は多数。これだけだと一人しか攻撃できない。もっと攻撃回数を増やす必要がある。かといって全て雲の炎の増殖効果で攻撃していてもワンパターンで、いずれは軌道を読まれる。

 

「────恭弥が研究していたあ(・)れ(・)をやってみるか。ナッツ、チーズ、手を貸してくれ」

 

 開匣。悪魔の両肩に天空ライオンと雲ハリネズミが飛び乗る。

 

「ガフ!」

「キュ!」

 

 悪魔は嵐の熟練性質でチーズの体内を分析。構造を把握し、見よう見まねでナッツに《施術魔法》を掛けた。

 

「いいか。今から形(・)態(・)変(・)化(・)を執り行う。チーズは既に凪から《施術魔法》で改造を受けているから、オレが何をしようとしているのか分かるはずだ。ナッツにも同じような改造を見よう見まねで施したから、チーズの形態変化を見てやり方を理解しろ」

「────ガオッ!」

「────キュー!」

「……いい覚悟だ。行くぞ!」

 

 悪魔は空中で停止。ホバリング。追随するホバーシールドの上に立つ。構築効果で空洞のダイナマイトを作成。空洞の中に死ぬ気の炎を注いで晴の活性で嵩増し。ドクロの死炎放射器の弾倉に装填。雲の炎でダイナマイトを増殖し、発射口に装填。

 

(まずは試しだ。一気呵成に畳み掛ける! 《分裂・紫炎の矢(フレイムインフレーション)》ッ!!)

 

 一条の死炎矢は無数に分裂し、朱い橋や柱を破壊しつつ標的に差し迫る。敵勢力は大きく散開して回避。が、口寄せ絵馬はバカ正直に突き進んだ事で被弾。散り散りに吹き飛ばされる。そして悪魔は更なる攻撃を試す。

 

「雲ハリネズミ(チーズ)・形態変化(カンビオ・フォルマ)!

 遠隔攻撃形態(モード・アタッコ)────《針竜巻(トルナード・デッラーゴ)》ッ!!」

 

 その場で高速スピンを始めたチーズは紫色の竜巻となりながら、全身の針を巨大化させつつ射出。巨大針が高速で旋回する大竜巻を形成する。その竜巻に巻き込まれた者は人間大の巨大針に串刺しにされて上空に巻き上げられるだろう。殺意しかない攻撃を前にした敵勢力は竜巻の手前で着地。一陣の風により激しく衣服がたなびき、破壊された朱い橋の木材が粉々に砕かれて巻き上げられる。

 

「ナッツ、やれるか?」

「ガ……ガウ?」

「大丈夫。お前ならやれるさ」

「────ガウ!」

「天空ライオン(ナッツ)・形態変化(カンビオ・フォルマ)!

 遠隔攻撃形態(モード・アタッコ)────《咆哮のガントレット(ミテーナ・ディ・ルージット)》ッ!!」

 

 ナッツの体躯が鈍い銀色を放つガントレットの武具に形を変える。バトルグローブの上に装着されたガントレットには噴射口があり、そこから超圧縮した死炎咆弾を二発射出する。その砲声は「GYAOOOOOOOO────!!」獅子の咆哮の如し。針竜巻に吸い込まれた死炎咆弾は、自らの速度で竜巻から脱出。さらに竜巻の脱出時に生まれた慣性を利用して変則的な軌道を描き、二名の黒羽根に着弾する。悲鳴。なおも悪魔の攻撃は止まらない。

 

「────《晴拳銃(ピストラ・ディ・セレーノ)》────」

 

 それは晴の炎を宿した改造拳銃。しかし肝心の弾丸は一発しかない。だが隼人や凪がそんなミスを犯すだろうか。思えば死炎放射器の弾丸にダイナマイトが必要という点からおかしいと感じていた。悪魔は魔法を使うと命の危機に瀕する。それを知っていながら《ダイナマイト生成》の魔法を使わなければ使用できない武器を寄越すだろうか?

 

(そもそも構築効果でダイナマイトの模型を作り、その中に任意の属性の死炎を注入して撃ち出すことを想定されていたのか……そういえば説明書があったけど、あまり読んでいなかったな。ならばこの《晴拳銃》も同様に────この一発しかない弾丸を雲の炎による増殖効果で増(・)や(・)し(・)て(・)撃(・)て(・)という事か────)

 

 ようやく悪魔は各種武具の使い方を直感した。さらに嵐の分析効果で特殊弾を調べると、弾丸の末端に二層構造の空洞が仕込まれている事が分かる。どうやらその空洞に晴の炎を注入するようだ。そうすると弾丸発射時、予め設定した晴の炎の炎量に合わせて、弾丸の速度や軌道が不規則に変化する仕組みになっている。

 

 悪魔は弾倉の最下部にあるリ(・)ロ(・)ー(・)ド(・)し(・)て(・)も(・)発(・)射(・)口(・)に(・)上(・)が(・)ら(・)な(・)い(・)固定弾丸に雲の炎を当てて増殖。増やした弾丸に晴の炎を注入し、撃てるだけ連射。計二十発の弾丸は針竜巻を避けて四方八方に飛んでいくが、その全てが多段式ロケットのように末端から晴の炎を噴射。活性効果によって加速し、軌道を直角に変更。横合いから飛んできた突然の弾丸を回避した敵勢力だが、二段目の晴の炎が炸裂して更に軌道を変えて加速。標的に命中する。

 

(……なるほど……)

 

 その間、約九秒の出来事。敵を壊滅させた悪魔は様子見に徹する。

 

「────《ザ・ストーム・ホライゾン(地平線の嵐)》────」

 

 その時だった。突然、九(・)秒(・)以(・)内(・)の(・)事(・)象(・)変(・)化(・)が(・)均(・)一(・)化(・)さ(・)れ(・)る(・)。

 

 針竜巻も、咆哮のガントレットや晴拳銃によるダメージも、全(・)て(・)が(・)無(・)か(・)っ(・)た(・)か(・)の(・)よ(・)う(・)な(・)こ(・)と(・)に(・)さ(・)れ(・)、敵勢力は五体満足でそこに立っていた。

 

「なん、だと……! どういうことだ……!?」

 

 範囲内のダメージを無効化するスタンドなのか。「ガオ!?」「キュ!?」気付けばナッツとチーズの形態変化も勝手に解かれていた。驚いた二匹は漠然とした危機感を察知して悪魔の両肩に戻る。

 

「……どんな嵐も、地平線を過ぎれば平(・)た(・)く(・)な(・)っ(・)て(・)消(・)え(・)る(・)」

「……っ!?」

「ど(・)ん(・)な(・)脅(・)威(・)も(・)、遠(・)ざ(・)け(・)れ(・)ば(・)無(・)意(・)味(・)だ(・)」

 

 白いフードに顔を隠し、ローブに身を包む白羽根が自慢げに口にする。

 

「それが私のスタンド……《ザ・ストーム・ホライゾン(地平線の嵐)》……」

 

 それは、なんて強力なスタンドだろうか。

 悪魔が目を見張る中、白羽根は脅すように口を開く。

 

「今頃……北の地平線では、針の竜巻が発生したかもしれない」

「っ!!」

「いや、南の地平線かも……そして東の地平線では光の弾丸が乱舞して、西の地平線では獅子の雄叫びの後、二つの炎が森を焼き焦がしてしまったかもしれない……」

「……っ」

「心が痛む? ならもう攻撃は止(よ)すことね。おとなしくしていれば、地平線の先のどこかに被害が及ぶことはない……」

 

 悪魔は直感した。

 

「……いや、攻撃は止めない」

「……!」

「なぜなら、お前は嘘をついている」

「……」

「お前は今、心の中で“事象変化の均一化”という単語を出した。均一化とは、例外的なものをなくして、どれも一様に同じく揃えることを意味する。例えばオレが百のダメージを与えて、それが均一化された場合、地平線は360度だから……百ダメージを360で割ったダメージが、地平線の彼方で影響を及ぼす。よって、そこまで大規模な出来事にはなっていないはずだ。針竜巻なら、少し突風が吹いた程度……ナッツの死炎咆弾なら、動物の遠吠えが聴こえたような気がした後、風が吹く程度……晴拳銃なら、小さな音が弾けて少しの風が吹いた程度だ……人的被害は少ない。……まぁ少ないだけで、大技を均一化されると少々まずいがな……」

「────ふふっ。あなた、すごいね。たった一回スタンドを見ただけで、そこまで細かく分かるなんて……でも無駄だよ。私たちのスタンドは合わせ技で無敵になる。心を読めたとしても弱点はない」

「それはど────」

 

 うかな。そう言おうとした矢先、口元からコップ一杯分の水がこぼれた。

 

「────、…………?」

 

 言葉を発すると口の中に水が生成される? そう思った矢先、無意識に呼吸するため息を吸い込んだ途端、コ(・)ッ(・)プ(・)一(・)杯(・)分(・)の(・)水(・)が(・)ご(・)く(・)ん(・)と(・)無(・)理(・)や(・)り(・)飲(・)ま(・)さ(・)れ(・)た(・)。

 

「……、────ッ!」

 

 息苦しい。息ができない。息を吸い込む。息を吸い込むたびコップ一杯分の水が飲み込まれる。

 

(なんだ、これは────っ!?)

 

 息を吐き出す。するとコップ一杯分の水が吐き出される。全ての息を吐き出すまで水が吐き出され続ける。そしてまた息を吸おうとしたら喉を圧迫するほどの水が滔々と流し込まれて酸(・)素(・)を(・)取(・)り(・)込(・)め(・)な(・)い(・)。

 

(まずい……! これは────呼(・)吸(・)を(・)で(・)き(・)な(・)く(・)さ(・)せ(・)る(・)ス(・)タ(・)ン(・)ド(・)か!!)

 

 スタンドには射程距離が存在する。即座に呼吸をやめて逆噴射。音速でかっ飛び距離を取る。無論、敵も全力で追い掛けてくる。今まで様子見の追跡だったが、今は必ず追い付かんと軽々と音速で跳んでくる。

 

(《迎撃・青炎の矢(フレイムペネトレーション)》ッ!!)

 

 左腕の死炎放射器を発射した直後、敵勢力の眼前で爆発させる。雨の熟練性質・発散により広がった鎮静効果で敵を足止め。その間に百メートル以上の距離を取った瞬間────

 

「……ッ! ぷはっ────!!?」

 

 酸素を取り込めた。大きく息を吸い込んだ悪魔は迅速に呼吸を整える。

 その後方では黒赤羽根が謝罪し、黒青羽根と黒緑羽根が張り切っていた。

 

「ごめん。《ザ・サウンドプール(風呂に口を半分浸けた気分)》の射程外に行かれた……」

「大丈夫。次は私たちが追い込む番……!」

「準備完了。いつでもオーケー」

 

 黒青羽根の足元にスタンド製のラジコンカーが出現。「《ローラーヴォロ(ころころ運転)》!」ギュイイイインとタイヤを回して爆走を始める。橋の手すりを走って跳躍滑走。その速度は音速を捕らえるほどで、悪魔の高速移動に追随してくる。やがて悪魔の斜め下に近付く距離に位置すると、カタンとトランクが開けられた。黒緑羽根がぼそりと呟く。

 

「《ミクロストーリエ(小さな小さな運動会)》……私のスタンドはあらゆるものを縮小する」

 

 トランクから大量の豆粒がばらまかれる。それは一瞬にして元の大きさに戻った。緑色の光球。硬化魔力を圧縮して捏ねたもの。解き放てば最後、誘爆して大放電を引き起こす連鎖爆弾罠(ボンバートラップ)。

 

「っ────!」

 

 悪魔の視界を閃光のように奪う漠々たる翠緑光輝。

 ウワサ空間の一角が、爆雷に次ぐ轟雷によって鳴り響き震撼する。

 

 倒壊する朱い橋と柱のガレキ雨。

 その中でホバーシールドの上にじっと佇む物陰があった。

 

「……雲ハリネズミ(チーズ)・形態変化(カンビオ・フォルマ)

 防御装備形態(モード・ディフェーザ)────《針地蔵(アルマドゥーラ・デッラーゴ)》……」

 

 絶対的遮断力を誇る雲ハリネズミの針毛皮。

 それを全身に巻くように纏った悪魔と三浦ハルは、大放電によるダメージを完璧に凌ぎ切った。

 

「そんな……!」

「慌てないで。これでようやく追いついた……」

 

 とっておきの作戦だったのか、黒青羽根と黒緑羽根が舌打ちする。

 そして悪魔が身を守るため停止した隙を突き包囲することに成功。

 

(さて……鼻呼吸は危険だな。鼻の奥に水が入るだけで激痛が起こり戦闘どころではなくなる。つまりさっきは運が良かった。そして殺意が感じられないことから、おそらく目的は生け捕り……だがそうやすやすと捕まる気はない。厄介な能力は呼吸妨害と均一化だ。一瞬でカタを付けるしかない……!)

 

 針地蔵を解いた悪魔は新たな技を試そうとする。

 ────直後“ズブリ”と音がして、背中に鋭利な痛みが走った。

 

「────…………」

 

 悪魔は目を見開いて振り返る。そこには三浦ハルの顔がある。手元には包丁。悪魔の背中に深々と突き刺さっている。

 

「────あ、あれ? はひ!? 私、ツナさんになんてことを……!!」

「…………すずは、ハルが大好きだからな。敵に回ることは我慢ならなかったんだろう。だから叛逆魔法を掛けた。しかしその効果がここで途切れたようだ。でも、本来はそ(・)れ(・)が(・)正(・)し(・)い(・)」

「す、すぐに治癒魔法を……!」

 

 三浦ハルの言葉とは裏腹に、さらに包丁がズブリと肉を切り裂いて奥にめり込む。

 

「オレに治癒は掛けるな。──それとハル、気にするな。別にオレは怒ってない。むしろ偽物とは言え、その顔をもう一度見ることができて嬉しかった。一時的とは言え、オレの味方になってくれたことも」

「……ツナさん……」

 

 ハルの腕を掴み力尽くで包丁を引き抜かせる。施術魔法で傷口を縫合。そうして右手に超圧縮した大空と嵐の死ぬ気の炎を灯して────

 

「────じゃあな」

 

 見送るような笑顔。大空と嵐を掛け合わせた破壊の炎で、眼前の複製体を一瞬にして消し去った。

 轟々と火を噴くバトルグローブは、三浦ハルの全身を跡形もなく焼却する。塵芥すら残さず焼き払う。

 

「……どうした? 今が絶好のチャンスだったと思うんだが」

 

 悪魔は挑発するように言う。

 次の瞬間、偽物とは言え友人を容赦なく始末した悪魔に戦慄していたスタンド使いたちが一斉に襲いかかった。

 

(脅しは成功。連携が乱れた────)

 

 背中を刺された悪魔は身動きが取れない。再び形態変化して針地蔵と化す。さらにホバーシールドで身を守りつつ霧の炎を灯した。

 

(────《天を騙す炎身(フレイムアバター)》────)

 

 それは雲の炎の熟練性質・有機的夢現力による幻覚作用。無(夢霧)から有(遊幽)を作る幻(現限)術。それにより質量を伴う死炎分身を四体作成する。

 

『続けて喰らえ! 《天を乱す連撃(フレイムラッシュ)》ッ!!』

『ッ!? オォラ! オラオラオラオラオラオラオラ────オラァ!!』

 

 分身体による怒涛のラッシュ攻撃。それに四人のスタンドが応戦。悪魔の分身体と四体のスタンドによる乱打は互角の勢いを見せて拳をぶつけ合わせる。その間に針地蔵を解除。敵四人の中央に向かって歩いた悪魔は────

 

(天空ライオン(ナッツ)・形態変化(カンビオ・フォルマ)……

 近接攻撃形態(モード・アタッコ)────《獅牙のガントレット(ミテーナ・ディ・ネメア・ザンナ)》!)

 

 ────銀色のガントレットを装着。床に向かって大炎量の一撃を叩き込んだ。

 

『っッ!!?』

 

 爆発的噴射力の一撃で吹き飛ばされる敵勢力。

 

「《ザ・ストーム・ホライゾン(地平線の嵐)》」

 

 が、それは瞬く間に均一化されて、この九秒間に生じた全ての現象が地平線の彼方に消え去った。

 羽根たちは無傷で立ち上がる。「ガフ!?」ナッツの形態変化も解除される。

 

「それを待っていた」

 

 悪魔は雷の炎を灯す。

 

(オレの針地蔵が解除されていない。これを使用したのは十数秒前だ。つまり均一化できる現象には秒数制限が存在する。おそらく十秒かそこいら────であれば、インターバルも同様に十秒程度と見た)

 

 再び均一化される前にカタをつける。制限時間を十秒と設けた悪魔は、念には念を入れて五秒で片付けると心中にて宣言。

 

「────《天を貫く蹴雷(フレイムボルト)》ッ!!」

 

 それは電光のような回し蹴りだった。近距離パワー型のスタンドですら捉えきれない雷速。稲妻のように走った悪魔は雷の炎により貫通力を増した足先によって、白赤羽根のアゴを蹴り砕く。

 

 魔法少女は痛覚を遮断しているため、痛みによる失神は不可能に近い。そこで悪魔は考えた。痛覚を遮断しても必ず失神する方法を。それは脳震盪。激しい一撃によって脳漿を掻き回された白赤羽根は糸の切れた人形のように目を上向けて膝をつき仰向けに倒れる。

 

 一秒。

 

「っ────! 《ザ・サウンドプール(風呂に口を半分浸けた気分)》ッ!!」

 

 悪魔の口から水がこぼれる。そこで直感した。黒赤羽根は悪魔に対してスタンドを使用したのではない。なぜかは知らないが気絶した白赤羽根に対してスタンドを使用した。

 

「《天を撃つ双炎(ジェットガン)》ッ!!」

 

 最も出が早い炎拳の撃ち出しで二発の火球を飛ばす。それは黒赤羽根の顔面に命中……したかと思ったがスタンドの腕に防がれた。しかし吹き飛ばされた体は柱に激突。後頭部を強く打った……と思われたが、それもスタンドによって守られて、黒赤羽根は五体満足の状態で滑り降りる。そして────背後の白赤羽根が目を覚ました。

 

 三秒。

 

(────まさか……呼吸と共に生み出される水は、た(・)だ(・)の(・)水(・)で(・)は(・)な(・)い(・)のか……!)

 

 悪魔の直感通り《ザ・サウンドプール(風呂に口を半分浸けた気分)》の能力は、対象の呼吸を癒しの水に変えるという代物だ。息を呑むと癒しの水を飲むことになりダメージは回復するが窒息は免れない。息を吐くと水を吐くことになり、どのみち窒息は免れない。

 

 むくりと起き上がった白赤羽根は《ザ・ストーム・ホライゾン(地平線の嵐)》の準備を進める。

 

 四秒。

 

 悪魔は直感する。確かに彼女たちの合わせ技は無敵だ。白赤羽根(ザ・ストーム・ホライゾン)が気絶したら黒赤羽根(ザ・サウンド・プール)で回復すればいい。その逆もまた然り。誰がやられようと白赤羽根が健在なら九秒間のダメージは地平線の彼方に吹き飛ばせる。これを攻略するなら同時に倒すしかない。だが先ほど分身体を作って殴りかかったが、スタンドとのラッシュ戦となり結局倒せずに終わった。同時攻略するならスタンドにダメージを与える手段が欲しい。

 

(────頼む、ミュージコロジー(共感覚)……お前の力が必要だ……出てきてくれ────!)

 

 悪魔の懇願。臆病なスタンドは主の呼び声に応えるように……その姿を悪魔の傍らに現した。

 

(────ありがとう。お前は自(・)分(・)な(・)ん(・)か(・)大(・)し(・)て(・)役(・)に(・)立(・)た(・)な(・)い(・)と思っているようだが、そんなことはない。お前には力がある。お前は強い。その力を、オレに貸してくれ────)

 

 悪魔は霧の炎を灯す。

 

「────《天を巻く縛炎(フレイムバインド)》ッ!!」

 

 霧の炎の構築で作り上げた炎の鎖。それを四方に飛ばして敵勢力四人をスタンドもろとも縛り上げる。材質は金属のように硬く、ゴムのように柔らかい。しなやかな材質は魔法少女の馬鹿力やスタンドパワーでも簡単には破れない。次の瞬間、悪魔は天上に向かって音速を突破した。凄まじい勢いに引っ張られる四人のスタンド使いは互いの体をぶつけ合わせて重力加速度(G)が首に重くのしかかる。

 

 五秒。宣言の時間がやって来た。

 

 悪魔は急停止。ふわりと浮かんだ四人のスタンド使いの眼前に────とても矮小な人型スタンドが現れる。

 

「ミュ……ミュミュミュ……ミュー……っ!!」

 

 小動物のような弱々しい鳴き声を上げたスタンド・ミュージコロジー(共感覚)は、人を傷つけてしまうことに怯えつつ、悪魔(あるじ)の命令だからと拳を振るう。その拳が“ピト……”と四人の肩に順々に触れた瞬間。

 

『? ────ガハッ……ッッッ!!??』

 

 四人の魔法少女の肩がめり込み、血反吐を吐いて気絶した。

 

 六秒経過。ギリギリ宣言通り、スタンド使い四名の無力化に成功する。

 

「ミュ!? ミュー!!」

「大丈夫だ。死んではいない。お前は戦いが嫌いなんだな……辛い真似をさせて済まない。だが守ってくれてありがとう。お前がいなかったら手こずっていた」

「……ミュ……」

「……スタンドは自分の精神の具現化……そう考えるとお前はまるで……あの頃のオレ(ダメツナ)みたいだな……」

 

 悪魔は地表の朱い橋に降りて魔法少女四名を下ろす。体外に排出されるペルソナカードが四枚。それを回収した悪魔は懐にしまう。

 直後、傍らにウワサさんが出現した。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? 口寄せ獄卒のそのウワサ

 死人と会いたい話したい? ソレならアナタも死ぬしかない!

 地獄で亡者を責め苛み、義理も人情も介さない

 針千本の山を登らせ、マグマの海を泳がせる

 そんな獄卒たちの試練をクリアすれば

 死んじゃった人と会わせてくれるって

 水名の女の子の間じゃもっぱらのウワサ

 オイデマセー!》

 

 忽然と消えるウワサさん。悪魔は首をかしげる。

 

「……つまりハルと会うためには試練をクリアする必要があったのか? しかし試練なんて現れなかった。どうやら水泳の魔女(すず)の性質・叛逆は、口寄せ獄卒のウワサのルールを大きく捻じ曲げてしまったようだな……」

 

《ソウダヨー! マッタク! ナンテコトヲ シテクレタンダー!》

 

 神出鬼没のウワサさんは、ルールに叛逆しまくったせいでバグってしまったウワサを紹介する。

 

《アラもう聞いた? 誰から聞いた? ┏┃┏┳━┓ ★ ¶

 ばばばばばばばバグ再現体のソソソソソソソソソソそのウワサ》

 

「……これは水泳の魔女(すず)がハルの再現体を叛逆性質で従えたからだな……ウワサはルールを破られると怒る。となると……」

 

 社殿の障子が勢いよく開かれる。中から地獄の鬼もかくやの巨人が現れて、その手にはトゲ付き棍棒を肩に担ぐ。それは怒り心頭といった顔で悪魔を睨めつけており、どしどしと朱い橋を軋ませながら向かってきていた。その背後には口寄せ絵馬の大群を従えている。

 

「あれが口寄せ獄卒のウワサか……やはり目を付けられたな」

「────クマ吉!」

 

 傍らに百江なぎさが降り立つ。ウワサ空間に無理やり押し入って応援に駆けつけてくれたのだ。

 

「なぎさ。あの鬼みたいな巨人のウワサと絵馬の大群は任せた。オレはマミと戦いに行く」

「まだ状況が掴めていないのですが……要は雑魚を蹴散らせば良いのですね?」

「あぁ。オレとマミの戦いを邪魔しないようにな。後ろは任せたぜ」

 

 悪魔は飛び立つ。両肩にはナッツとチーズ。傍らにはスタンド(Mコロジー)。獄卒は頭上を飛び越えんとする悪魔を狙いすまして棍棒を打ち据えるが、百江なぎさのラッパ・モベホーンの魔力音響によって大きく弾かれる。同時に無数のシャボン玉が戦場を支配し、それに触れると爆風が発生。口寄せ絵馬のウワサが続々と吹き飛ばされていく。その怒涛のシャボン玉の嵐を潜り抜ける悪魔は、風のように鳥のように社殿の中空へ舞い戻った。

 

「……」

「…………」

 

 社殿の屋根に仁王立つ巴マミの複製体と、火花のような視線が交差する。

 

 かくして最強の魔法少女と最強の超戦士による激闘が火蓋を切ろうとしていた。

 

          †

 

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