アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
無数の青槍が降り注ぐ。それが黒橙羽根を包み込むトゲトゲの球体に命中すると、衝撃を受けた方向にトゲが伸びる。伸縮速度と距離は衝撃の威力に比例し、今は上方から降り注ぐ槍の雨に対し、上方へと突き刺すトゲの竹林が突き立ち続けている。
(完全カウンタータイプのスタンド……実質的に本体を倒すのは不可能。スタンドを倒す術を持たないこちらからしたら、厄介極まりない相手だけど……)
七海やちよは直感する。
(────魔力節約を考えればチャンスは一度きり。一撃で仕留める)
「
たった一本の槍を生成。それは細く細く、魔力を濃密凝縮し圧縮した手のひら大の小さな槍。だがその内部は増殖魔力によって密度は極限まで高まり、破裂しないよう硬化魔力で表面をコーティング。水属性の発散魔力を推進剤として────惑星一周の旅に立たせる。
「完璧な盾が矛となった時────あなたの命運はそこで尽きる!」
投擲。神速の槍がトゲの球体に激突した刹那、極小の槍は神速の勢いで伸びるスタンドのトゲに破壊される。そして槍の衝撃に比例して伸びるトゲは、瞬く間にウワサ結界の壁を破壊し、山を越え空を越え大海を越え大陸を越え海と陸を更に越え────対角線に位置するウワサ結界の壁が突き破られる。それは惑星を一周してきたスタンドのトゲ。神速の勢いでトゲトゲ球体に帰還激突をかました神速トゲは、次の瞬間、互いに相殺する形でスタンドが撃砕した。
「な……に……ッ!? 私の《
「最強無敵の矛と盾のスタンドがぶつかり合うとどうなるのか。結論は精神力による、と言ったところね。惑星一周の衝撃に耐え切れる強靭な精神力を持っていれば、この程度の
スタンドは破壊された。そのダメージは本体にフィードバックされ、矛盾によって死に等しい精神破壊を受けた黒橙羽根は死を認識して絶望しドッペル化。体内からペルソナカードが強制排出される。七海やちよはカードを回収。ドッペルは暴走をはじめて暴れまわるが、即座に雨のような槍によって瞬殺される。黒橙羽根は気絶したまま朱橋に落下。その傍らに寄り添うように梓みふゆの複製体が降り立った。
「やっぱり、やっちゃんは強いですね……」
「────っ! みふゆ……」
「魔法少女の力は祈りの力に比例する。魔法少女の素質を表す魔力係数は加齢によって減退していく。子供の頃はあんなに走り回れたのに、おばあちゃんになったら歩くことも出来なくなるように。大学生になった私の魔力は、ひどく衰えたものになってしまいました」
「……」
「私は独りでは生きていけなくなった」
「私が介護するわ。……でも、それが嫌だから出て行ったの? 私の前から居なくなったの……?」
「それもありますが……迷惑を掛けたくなかった、というのが本音でしょうか」
「それで? やってることは魔法少女の救済を謳った人殺しのオンパレード?」
「…………」
梓みふゆは顔色が読まれないよう俯き、話を変える。
「やっちゃんは……どうしてそんなに強いんですか? 他意はありません。純粋に気になっているんです」
「私の強さの理由……それは…………、────」
おそらく七海やちよの願いに起因している。だがそれを口に出すことは憚られた。
「……申し訳ないけど、時間稼ぎに付き合うのはここまでよ」
「逃がしませんよ。やっちゃんはここで、私と一緒に暮らすんです」
「断るわ。私には帰るべき場所がある。そこにあなたも連れて帰る……!」
七海やちよは傍らに生成した槍を射出。だがそれは梓みふゆの首元で急停止した。
「……やっちゃんに私は殺せません」
「っ……」
「それに……今更みかづき荘に帰ることなんてできませんよ。私は罪を犯しすぎた……」
「────! みふゆ、あなた……」
「やっちゃんには分からないですよ。希望に縋った先が誤りの渦で……流されるままに見殺しにして生き存えて……死にたくても死にたくなくて……私は結局、何一つ自分で選び取っていない……ただ与えられた罪を享受して、この命を無為に永らえさせているだけなんです」
「……罪の意識があるというの? それなら今すぐこんなこと────!」
「言ったでしょう? 私に選ぶ力はない。罰を受けたくても、罰はすなわち死を意味する。私は死にたくない。罪のために死にたくない。堂々巡りの葛藤。もう袋小路なんですよ。どうしようもない。……力のない弱者の生存戦略は、どの組織に寄生するかです。善に向かうためには力が必要。では、力がない人は────何もせず悪事の産物を享受する“怠惰”に身を沈めるしかないでしょう」
次の瞬間、七海やちよの背後から殺気。「っ……」振り返るとそこには、もう一人の梓みふゆが迫っていた。今まで話していた梓みふゆは幻覚だった。背後を取られた七海やちよは致命の攻撃を受けるが、その全てが青い魔力の発散によって完璧に弾かれる。
「────常時発動型の修得魔法が七種。それは主に
「……どうして……」
「そしてやっぱり私たちは相性がいいですね。まさに阿吽の呼吸。私が幻覚魔法を使って奇襲することはお見通し。だから《
七海やちよの意思に反して、青い槍が梓みふゆの心臓を貫いている。
「自分の意思では殺せないから、魔法の効果で目的を達成する。やっちゃんは固有魔法を持たないから、昔からこの手の魔法をたくさん開発して、状況に応じて使い分けていましたね。それは私しか知らないこと……つまりこれは私とやっちゃんだからこそ出来た────梓みふゆの唯一の自害方法なんですよ」
「……いいえ、違うわ。これは自殺じゃない。私が殺したの。なによりみふゆは言ってたじゃない。自分で死ぬ勇気はないって……」
「…………やっぱり、やっちゃんは優しいですね?」
梓みふゆの体が魔力の残滓となって崩れ去る。複製体は消滅した。七海やちよのソウルジェムが激しくまたたく。
「ッ……! ハァ、ハァ……っ!!」
親友を殺した指先が恐怖と絶望で震え上がる。懐から取り出したグリーフシードを橋の上に落としてしまい、膝から力が抜けてその場にへたり込む。魂の痛みに悶える苦い表情は、それに負けじと耐える毅然とした強かさも垣間見えた。しかしソウルジェムの穢れは急速的に溜まっていく。
「ま、まずい……このままじゃ、魔女に……」
魔女にはならずともドッペル化すれば暴走は免れない。今の精神状態では確実に暴走する。
「ぐっ……! っ……!! ────勝手に命張って死んで、言うこと聞かないから死んで、勝手に逃げて……どうしてみんな、私を置いていくの……?」
ソウルジェムの穢れが真っ黒と満ち足りる。
(いいえ、それは違う。彼女たちを殺したのは私……私の願いのせい────だから、こんなところで魔女になんかなって、八つ当たりするように周りに絶望を振りまく、そんな無責任な存在になんか、私は死んでもならない……ッ!!)
残り2%。穢れの侵食率が98%の瀬戸際で、三日月型のソウルジェムはその魂の輝きを守り抜いていた。星ひとつない夜空のように黒く焦げた魂だが、よくよく見れば嵐のように渦巻く純黒の向こうに、微かに光る双星が見える。そのたった二つの希望の星が、七海やちよのドッペル化をギリギリのところで防いでいた。
さらにソウルジェムから徐々に穢れが吸収されていく。
(……っ! この黒いオーラの粒の群れは……まさか、悪魔……!)
穢れが九割以上溜まると魂は激痛を感じ、まともに体が動かなくなる。だが穢れの吸収によりソウルジェムの濁りは八割まで低下。なんとか這って歩けるようになった七海やちよは立ち上がり、落としたグリーフシードを拾ってソウルジェムを浄化する。
(また半魔人化で暴走なんてされたら、この場に居る者は皆殺しよ……絶交ルールの時はうまくいったけど、今回もうまくいくとは限らない。私も戦いに参加しないと……)
前に前に進む気概。強烈な責任感と弛まぬ根性。強い希望は折れた時、深い絶望に囚われやすいが、七海やちよは強い希望を持ちながらも折れにくい希望を鍛え上げていた。その強靭な人生観が助かって、彼女は七年もの間、魔法少女として生存できている。
「待ってなさい、悪魔……この借りは、必ず返すから……」
七海やちよは気付かない。本当に彼女を救ってくれた希望の星が、緑と紫の色味をしていることに。
それでも良しと
†