アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
一方その頃。水名神社では口寄せ絵馬が飛び交っていた。それを迎撃する呉キリカ。美国織莉子は鹿目まどかたちをウワサ空間に入れまいと立ちはだかる。
「美国さん! お願い、そこをどいて! 中でみんなが戦っているの! 私も加勢しに行かなきゃ……!」
「鹿目まどか。今はまだその時ではありません。あともう少しだけ待っていてください」
†
ウワサ空間に侵入した鹿目まどか&美国織莉子。二人は、四人の仲間と連携して悪魔を襲おうとしていた黒藍羽根に近付いて注意を引く。
スタンド名は《
殴った物を開閉して内部のレコードボックス(プログラム)を操作する。人間を開閉した場合は、レコードを早回ししたり巻き戻したりすることで、直前の行動を再現させたり、将来的にやろうとしていた事を実行させたりする。
未来予知を使い、勝利法は把握しているため、快勝する。
中空にホバリングする《雨のキャノンレーダー》を搭載した《嵐雷空雨のホバーシールド》。その上に立つ悪魔は《天空霧のカモフラパーカー》を着込み《天空嵐雨のマジカルヘッドフォン》を装着。両目には《晴のコンタクトスコープ》をオプションとして取り付けた《嵐のコンタクトディスプレイ》を身につけている。要は
右腕には物々しい《嵐の髑髏型死炎放射器》が取り付けられ、左腰には一本の《
両手の全指には大空の七属性をコンプリートするハーフソウルリングが嵌められているが、それは《天空霧のバトルグローブver.R.S.C》に隠されて見えない。しかし全てのリングに死ぬ気の炎が点火した瞬間、悪魔の両手が轟々と虹色に燃え上がる。
さらにナッツとチーズを
これにて戦闘準備は万全。眉間にシワを寄せる悪魔は祈るように拳を握る。
「……何度見ても、あなたの炎はキレイね。混じり気のない透き通るような炎の揺らめき……その炎に当てられた者は、なんでも浄化されてしまいそう……たとえ、ソウルジェムの穢れでさえも……」
光り輝く巴マミは瞬間変身。白い魔法衣装を身に纏う。風にそよぐスカート。余裕さえ感じられる不敵な笑み。周囲に無数のマスケット銃を展開。百、千、万、十万、千万……巴マミの背景が高貴なる純白のマスケット銃で埋め尽くされる。
(……全魔法少女に通達。これよりウワサ空間を起点とする広域が戦場に変わる。流れ弾を喰らいたくなければ退避するか防御を固めろ)
それはマジカルヘッドフォンによる拡声念話。無差別に念話を飛ばすため内緒話には向かないが、今回ばかりは用途が合致した。敵味方関係なく身の安全を確保させるため、悪魔は警告を発する。
「安心して。地上に攻撃は加えないわ。あなたも空中戦がお望みのようだし……ずっと私の上に留まっているのは、そういうことでしょう?」
「買いかぶりすぎだ。魔法少女でも難しい空中戦で有利を取らなければ────マミには勝てない」
そこで悪魔はふと思う。共感覚によりハッキリと感じる。
────巴マミを前にすると、オーケストラのような荘厳な音楽が聴こえてくる。
対する自分はどうだ。巴マミの瞳に映る自分自身は随分と苦しそうで今にも泣きそうで非常にみっともない姿と言える。さらに左目は「愛を、愛を」と歌い、
「────そういえば……オレとマミの勝敗はどうだったか」
「忘れたの? とりあえず100戦して50勝50敗で引き分けているわ」
「そうか……なら51勝目はいただく」
「負けても“偽物だからノーカウント”はナシだからね」
一旦の郷愁は捨て置く。今は
(複製体のエミュレート精度は他の類を見ないほど高い。まさか願いの副産物である固有魔法さえ再現して使ってくるとは……本人監修であればその実力はオリジナルに近い……気を引き締めて行くぞ)
♪~Credens justitiam VS
かくして銃声は雷鳴の如く鳴り渡る。
巴マミの使用するライフル銃のような射撃武器。その仕組みは兵法から着想を得ている。極まった魔力操作は活性魔力による黄色いリボンを構築し、それを丸めた球体を硬化、鉛玉より硬い弾丸を作成する。それを機構内部の薬室に瞬間生成し装填。薬室の背後には活性魔力の黄色い結晶体が構築されており、それはL字型を描いて銃身の右側に露出。その手前に起こされた撃鉄にも同様の活性魔力の結晶体を構築。魔力操作により撃鉄を落とせば黄色い結晶体同士が激突し、光属性の熟練性質・脅威的転換力の作用によって衝撃力は倍加。晴れやかなる轟音火花が弾けて薬室が起爆し弾丸を著しいパワーで押し出す。銃口は螺旋状。回転を加えて物理的な貫通力を飛躍的に高める。さらには木属性の熟練性質・電磁的誘導力の作用によってレールガンの駆動原理を再現。高速は音速へ、音速は光に近付く。黄色と緑色が合わされば黄緑色となるが、巴マミは光属性の素質が高いため打ち出された弾丸は硬化コーティングの膜をすり抜けて黄色い閃光を放つ。それは黄金光弾の一斉射撃。毎秒千万発の蹂躙掃射。物質世界において最強の名を冠するは質量。蟻が像に膂力で勝てないのと同じく、あらゆる物質的存在は“無限・無量・無数・無尽”という概念の前に斃れる運命にある。
撥ね撒き散らす朱橋の残骸。ウワサ空間の天井隅と概念壁が純粋な暴力によって突破される。轟音を立ち上げて破壊される結界。無限魔力光弾の前に身を晒せば生きている者は一人とて居ない。もし生きている者がいれば、それは雨の雫を全て躱すが如き神懸かり的な才能が必要となる。だが、その認識に“否”を叩きつける猛者がいた。巴マミに狙われたが最期、誰も生き残ることができないはずの戦場にて、絶対の死という概念を覆す存在が、少年が────ただひとり飛んでいた。
敵は複製体。生物ではなく機械のような代物。故に超直感は発動しない。つまり彼は
虹霓の逆噴射。音の壁を分解し、高速飛行を阻害する余剰慣性を鎮静化、拳の打撃力を硬化で高めつつ、加速するため噴射力を活性化、逆噴射の炎を増殖することで更なる反作用の力を得、後方四方に散らばる逆噴射の出口を構築で絞ることで炎圧を収束し更なる加速を実現させる。
「────!」
巴マミの眼前に差し迫る虹色の悪魔。
「《
超圧縮した死炎を高速螺旋回転させた一撃。それに
対するは瞬間生成された巨大砲身。人の手では大きすぎる引き金を魔力操作で
「《
ジェットアクセルの炎圧を容易く打ち砕いた黄金閃光の巨大光弾。それは
有り余る力は自らの体をも壊してしまう。巴マミの生成する無限のマスケット銃は一度の射撃だけで銃身が木っ端微塵と砕かれて朽ち、巨大砲身もまた《
終わることのない光弾の嵐。諦めることのない不敬の創造。止むことのない天帝の落雷。
天帝は撃ち落とされ、バベルの塔は自らが撃ちだした究極の一射に耐え切れず自壊した。天空から堕落する天帝は思った。彼らが父を降し、自らの足で世界に旅立つと言うのなら、せめて父の教えを授けてから旅立つべきだと。子供はいつの日か家を出るもの。守られた世界から羽ばたくもの。ならばせめて親としての愛情を注がせてから見送らせて欲しいと。地に落ちた天帝は“父”という素性を隠し、諸国を巡って聖なる教えを“子ら”に広めた。その最期は磔にされて槍を刺され石を投げられるものだったが、天帝は中庸の面持ちで子らを見送ったと言われている。
────この異説は語り継がれない断片。異聞の御伽噺。されど魔法少女は知っている。地球文明の始まりはインキュベーターにあり、
ティロ・フィナーレを寸前で躱していた悪魔は天空を飛び交う。究極の一射による一撃はウワサ空間の天井を完全破壊し、その向こうに現実世界の夜空が見える。
星空に月が浮かぶ。七つの流星が南に落ちる。巴マミはリボンを伸ばしてマスケット銃に括りつけそれを思いっきり引っ張り空中を移動。マスケット銃を足場にして空を駆け、夜空を舞う悪魔を追いかける。
大気圏まで届かん勢いの黄金光弾。ウワサ空間を脱して現実世界の位相に戻り、満天の星空を舞台に無限のマスケット銃が並列展開。一斉掃射。自壊と生成を繰り返す。が、その全てを難なく躱す悪魔に対し、不意に巴マミは二丁のマスケット銃を手に取って肉薄。悪魔は右手に刀を抜刀し、左手に拳銃を引き抜いた。黄金の嵐の中、刀と銃が激突し剣戟を交わす。巴マミは銃身の取っ掛りに刀身を引っ掛けて絡め回し、銃口が胴体を捉えた瞬間射撃。対する悪魔は晴拳銃の照準を額に合わせて射撃し、弾丸を回避させた反動で弾道を逸らした。絡め取られた刀を持ち直すのにコンマ二秒掛かる。それをコンマ一秒に削るため逆手に持ち替えて肉薄。巴マミは柄での殴りを頬に掠らせ、お返しに蹴りを放つと悪魔の胴体が横一文字に分断された。
「!」
霧の炎。初めから幻像だった。(でもいつから?)タイミングはウワサ空間から現実空間に移動した際、僅かに発生した空間位相のゆらぎに紛れて姿を消したとしか考えられない。巴マミは手元にリボンを
「最初の頃は、それでよくやられていた」
既にリボンは刀で切り落としていたのか。巴マミは振り返らずマスケット銃を取り回して脇の下から背後に射撃。被弾音が聞こえるがサラサラとした霧の炎の音が聞こえるためそれも幻覚────なわけがない。
「最初の頃は、それでよく驚かされたわ」
後ろ回し蹴りがガントレットで防がれる。サラサラとした音は幻聴。聴き慣れているが故に騙される幻覚。騙されないためには全てに疑いを持ち、瞬時に確信を持って行動する。それが術士との戦い方である。決して幻術に対して負けを認めてはならない。認識上の敗北を認めるということは、幻術に意のままに操られることを意味するからだ。
悪魔のパイルバンカーが巴マミの胴体を貫く。鮮血の代わりに黄色いリボンが花開き、くるくると回るリボンは悪魔の体を拘束し、圧殺。だがその悪魔さえも霧の炎となって消え去った。ならば二人の本体はどこに?
夜空を舞う悪魔が四人。夜空を駆ける巴マミが八人。どれが本物で分身か。突き詰めれば、そんなことはどうでもいい。結局は全て倒せばいい。結局はエネルギー切れを狙えばいい。実力は互角。勢力も伯仲。であれば戦いの終着点は、いかに出し抜くかよりも、いかに温存するかで勝敗が決まる。
「究極超直感・手中結界────《死ぬ気の零地点突破・
「ティロ・フィナーレ!」
故に、最速最善最高の一手で決める。のんびり戦うほど悠長に事を構える気はない。互いに出し尽くさねば戦いが終わらないというのなら、一気に出し尽くしてしまえばいい。確実に勝つなら魔力節約のできる巴マミの勝利で終わる。だが相手は悪魔。逆転勝利の作用と摂理叛逆の力を持つ森羅万象の大天敵なれば。
(彼は負けかかると、宇宙は彼が勝つ方向に誘導する。このまま温存しつつの戦闘で私の勝ちが確定するなら、それだけは回避しなければならない)
つまり一瞬で勝敗を決するのは賭けに等しい。だがそれは五分の賭けだ。巴マミの勝利が確定する温存戦法は、裏を返せば巴マミの完全敗北を意味する。物質世界では質量こそ正義だが、魔法世界では概念こそ正義である。互いに後先が分からない全力全開のぶつかり合い。全身全霊を振り絞った先にこそ、対等な条件による勝敗が待つ。
対する悪魔は、敵が本気を出してくるなら、それに本気で応えなければならない。逆転勝利の発動は強制的に
至近距離で巨大砲身が割れて黄金巨弾が────施術魔法により空気を固めて結界を作成した中に
「死ぬ気とは、肉体の安全装置を取り除いた状態。つまりギリギリまで命を削る代わり、すごい力を発揮することができる。そして、あなたが寿命を増やそうとして断食する理由は、少しでも長生きすることで、より多くの人に救いの手を差し伸べるため」
「それは二の次だ。オレはオレのやりたいことをやる。笹川京子、三浦ハル、青音すずを生き返らせ、インキュベーターの“やり方”を変えさせる」
再びティロ・フィナーレと死ぬ気の零地点突破・凍結エディションが激突する。
「
「それは違う。オレの死ぬ気は絶望からじゃない。
三度目のティロ・フィナーレと死ぬ気の零地点突破が激突する。至近距離での必殺の撃ち合いは、互いの体力を激しく消耗させた。巴マミの魔力は底をつき、悪魔の生命力が底を突く。だが唯一の違いは、巴マミはウワサが造り出した複製体であり、ソウルジェムに穢れが蓄積しない点。が、その代わり複製体としての肉体が崩壊を始める。
星空に包まれた中空にて、無限のマスケット銃が消滅する。衣服をたなびかせて自由落下する悪魔と巴マミは見つめ合い、地表まであともう少し。
「……おかしな話だ。魔法少女が一度も魔法を使わず戦い、一般人が何度も魔法を使って戦った」
「あら、魔力操作だって立派な魔法よ? 小難しい定義なんてどうでもいいじゃない」
「そうだな。マミはイタリア語さえ付ければそれで納得する奴だ」
「なに嫌味? まったくもう……皮肉屋な所は相変わらずね」
互いに魔力と死炎は出し尽くした。もう動く術を持たない。指先一本すら痙攣してままならない。
「……お前は複製体だから本当は動けるんだろう。なぜトドメを刺さない?」
「別に殺したいわけじゃないもの。それにトドメを刺そうとすれば相打ちでしょ? 私はまだウワサの複製体としてやることがある」
巴マミがトドメを刺そうとすれば、逆転勝利の呪いが働いて巴マミは敗北する。同時に生命力を出し尽くした状態で逆転勝利の呪いが発動すれば、いよいよ悪魔の命が燃え尽きてしまう。故に相打ち。それは巴マミの複製体にとっては望ましくない結末だった。
「……やること?」
「あなた以外にも倒すべき敵がいるということよ。これでも
「……やはり分からないな。上というのは、里見灯花や柊ねむが取り仕切る組織のことだろう? マミなら魔法少女の真実を知り、後輩を魔法少女にさせてしまった責任を感じていても、
「────、…………」
巴マミは目を細めて俯く。その表情はとても辛そうだった。複製体ゆえ心が読めない。だが読むまでもない。
「……何があった」
「…………別に。これは私の不手際。
「────?」
悪魔は眉をひそめて言葉の意味を考える。
「これでヒントは終わり。オリジナルからの言伝も終了。じゃあね、今回は引き分けということで」
「……殺すなよ。あいつらの命に手を掛ければ、オレは逆転勝利を発動させる」
「言われなくても。そんな愚は犯さないわ」
夜空に赤い閃光が駆け抜ける。現実空間からウワサ空間へ戻り、自由落下する悪魔は、地上に激突する直前、颯爽と駆けつけた赤い魔法少女に助けられた。
「チッ────! なんてザマだ! あたしがキャッチしなかったら今頃ミンチだぞ!」
「佐倉か……助かった」
佐倉杏子は乱暴に手を離し、足元に悪魔を落とす。そして空中で華麗に回転しつま先からふわりと降り立った巴マミを睨みつけていた。
「ご機嫌よう、佐倉さん」
「マミ……いや、マミじゃねぇな。魔力パターンがめっちゃ似てるが違う。テメェ、偽物か」
「一応オリジナル監修の複製体よ。ほぼ本物の偽物と言ってもいいわ」
「どうだか……と言いてぇが、今の空中バトルを見せられちゃあ……本物のマミに匹敵する強さを持っている。ってのは認めざるを得ないね……」
佐倉杏子は咥えていたROCKYを噛み砕き、落ちかかるROCKYをパクリと食べて、槍を構える。
対する巴マミは構えを取らず余裕の態度に見えるが、いつでも戦闘態勢に移れる。
そして、今までの激闘の一部始終を目撃していた魔法少女たちは、次元の違いを思い知っていた。
朱橋から夜空を見上げていた環いろはは、悪魔と巴マミの戦いに割って入る余地がないと確信する。それは環ういも同様。リリスはじっと見上げており、魔法少女にも年季と才能の違いがあるのだと知る。それは由比鶴乃も同様であり、最強の魔法少女に最も近い存在を
「すごい……すごいよ……! 悪魔もすごいけど、あの黄色い人もすごい! これが敵ながらあっぱれって気持ちなのかな? 魔法少女ってあんなにドンパチできるものなんだ……!」
一方、口寄せ獄卒のウワサを倒した百江なぎさが呟いた。
「やはりマミは強いのです。しかし腑に落ちないのです。マミは治癒魔法を持っているのですから、クマ吉の逆転勝利なんか気にせずトドメを刺しても、マミはギリギリ生き残れるはずなのです。ではなぜマミはクマ吉にトドメを刺さなかったか……もしかしたらマミだけは、ほかの複製体とは違って、なぎさたちを
佐倉杏子と悪魔の傍らに暁美ほむらと七海やちよが降り立つ。
「悪魔さん、大丈夫ですか!?」
「加勢に来たわ。と言っても久々ね……強者との戦いは」
佐倉杏子は攻撃に徹する。暁美ほむらはサポートに徹する。ならば七海やちよは二人の間を取ってバランスよく連携をこなす。
「……佐倉。魔法陣形は必要か」
「要らねぇよ。あたしは誰にも指図されない。……ただまぁ、後ろの奴らには掛けてやってもいいんじゃねぇか?」
さらにウワサ結界の奥から鹿目まどかと美国織莉子が飛び降りてきた。
「ほむらちゃん! やちよさん! 悪魔さん! 遅れてごめん! ────っ! マミさん……!?」
「鹿目まどか。あの巴マミは偽物です。それより無様ですね、悪魔さん」
「……まさか、
鹿目まどかは魔法の弓杖を手に取り、美国織莉子は水晶を浮かべる。以前は命を狙い、狙われた者同士が、なぜ共に肩を並べているのか。暁美ほむらは動揺する。その視線を受け取った鹿目まどかは毅然とした口調で説明した。
「大丈夫だよ、ほむらちゃん! 今の美国さんは私の命を狙わない。今この時の目的は、複製体のマミさんによってみんなが全滅する未来を避けるため……って言ってたから!」
「厳密に言えば、巴マミによって心が折られた魔法少女たちがドッペルに頼り、揃ってドッペル症を引き起こす未来を防ぐため……と言うのが正しいですがね。もちろん未来の風向きが変われば、すぐに鹿目まどかの背中を刺す未来も有り得ますので悪しからず」
それのどこが大丈夫なのか。暁美ほむらは心配のあまり鼓動が高まる。
「おい、たしか美国織莉子っつったか。お前、ゆまを危険な目に遭わせた礼はいつか返させてもらうからな」
「あら怖い。その未来はチャラとなる予定ですので返品不可とさせていただきます」
佐倉杏子は舌打ちして巴マミに向き直る。
その時、巴マミを前にして敏感になっていた魔法少女たちは、急接近してくる三つの魔力パターンを感知した。
赤と青と秋色の三人が、七海やちよの前に降り立つ。
「チームももこ参上! やちよさん、加勢しに来た!」
「とんでもない魔力反応を感じたから心配になって来ちゃったわよ!」
「魔力の衝撃の余波が新西区まで届いたんだよ……? あれ、誰の
巴マミは内心傷つく。その精神的ゆらぎを見逃す佐倉杏子ではない。
誰もが不意を突かれた形で槍を突き出す。しかも初手から全力疾走。紅蓮の業火は閃光のように、橋の上を駆け抜けて心臓を付け狙う。
「《
「ティロ・フィナーレ!」
巨大砲身と巨大穂先が激突し相殺する。激しい魔力爆発が発生。強烈な閃光と爆風が周囲を襲い薙ぎ払う。
「チッ────! 普段なら開幕ぶっぱが安定だが、魔力が減った兆候が見えねぇ……! どっかから魔力を貰ってやがるな……!」
「……! そういうことならウワサの本体から魔力を供給している可能性が高いわ!」
七海やちよは口寄せ神社を見やる。その中には多くの人々から吸い上げたエネルギーが蓄えられているはずだ。
「ならマミはあたしが引きつけておく。
「……それが賢明そうね」
「あら、やらせないわよ? みすみす自らの背後にある弱点を晒すと思う?」
巴マミの背後にそびえる社殿。そこに辿り着くまでの道を塞ぐように数千万のマスケット銃が展開される。
「げっ……! さっき悪魔と戦った数より増えてないか……!?」
「? もしかして佐倉さんは、私と縁を切ったあの日から何も成長していないと言っているの?」
不意の煽り文句。自らの精神的ゆらぎを突かれた腹いせか、はたまた仕返しか。無論、その煽りを受けて油断する佐倉杏子ではない。不敵な笑みを浮かべて言葉を返す。
「────へぇ。言ってくれるじゃねぇか。いいぜ、奥の手……見せてやってもいいけど?」
「楽しみにしているわ。ちなみに出そうと思えば億も行けるけど……流石に力の差がありすぎると可哀想だから、イージーモードにしておきましょうか」
「なめんな! 怪物発言に傷ついたからって強がってんじゃねぇ!」
佐倉杏子の突貫。巴マミはマスケット銃を取り回して猛撃を捌ききる。
「別にあれは私のことじゃないかもしれないでしょう!?」
「いいや、どう考えてもマミのことだね! そのうち活性魔力で原子力でも作れるんじゃねぇのか!?」
「冗談はよして! そんな危険な代物は作りません!」
「あの大技の時点で充分危険だとは思うがね!」
巴マミと佐倉杏子の白兵戦。その間隙を突いて七海やちよが飛び出す。向かう先は社殿。だがそれを無限のマスケット銃が阻む。一斉掃射による光弾の蹂躙。驚愕の表情を浮かべた魔法少女たちは防御に回避と身を守る。
「うわわ、マジかよ!?」
「ちょ、これはないでしょ!!」
「ふゆぅ……!」
朱橋は一角を残して崩れ去る。四方八方に散っていった魔法少女たち。一方、身動きが取れない悪魔は、朱橋の手すりに身を寄せていた。どうやら魔力光弾は悪魔を避けて着弾している。おかげで悪魔を庇いながらの戦闘には発展していないが、悪魔は訝しむ。
(オレを殺すのが目的じゃない……そんなのマギウスが許すのか? 現実合理主義の里見灯花や柊ねむなら躊躇なく殺害を命じるはず。となると、もしオリジナル監修という意味が、マギウスの命令に逆らうような複製体を作っても良いという結果になっているなら……)
美国織莉子の予知内容では、やはり巴マミは魔法少女たちを生かさず殺さず、ドッペル症というもので戦闘不能に陥らせるつもりのようだ。
────今の私は危険。
────マギウスに立ち向かうつもりなら、巴マミに対する恐怖を持っていてはダメ。
(その発言から考えるに……マミは魔法少女に恐怖を植え付けて、二度とマギウスに逆らえないようにしよう……と考えていた? それはなぜだ。今の巴マミは“危険”と言ったが……まさか……まさかだが……)
悪魔は察する。巴マミの複製体は、やろうと思えば悪魔を殺せる実力を持つ。だが生来の優しさゆえ、敵に回っても命までは奪わなかった。しかし
やがて趨勢は決した。光弾の嵐は、ほとんどの魔法少女に為す術なく力の差を見せつけて屈服させていた。巴マミの周りで槍を松葉杖替わりに膝を突く佐倉杏子と七海やちよ。その近くに暁美ほむらが倒れている。足首にリボンが巻かれている事から時間停止魔法を封じられた状態で蹴り飛ばされたのだろう。その三人を囮に社殿へ向かった鹿目まどかと美国織莉子は、もうひとりの巴マミに倒されていた。佐倉杏子たちを倒したのはリボンで編み上げた分身。社殿に光弾を当てるわけには行かないため、社殿の守りは本体が向かったのだろう。裏を返せば佐倉杏子たちはマスケット銃の無限掃射のみで倒されたことになる。幾度もの
「────なるほどな。完膚なきまでに叩き潰す。それが巴マミの残した伝言か」
圧倒的な力の差。それを見せつけられた絶望は深い。ここまで束になって掛かっても敗北してしまうのか。それは認められないと佐倉杏子と七海やちよが立ち上がる。鹿目まどかは潜在能力は地球上で一番だが、チームももこと同様に戦闘経験が浅いためまだ頼りになるレベルではない。むしろ暁美ほむらの方が、ループによる経験の豊富さでまだ足掻くことが出来ている。
「っ……マミさん……」
「! 暁美さん……意外と根性あるのね。少し見くびっていたわ」
巴マミが暁美ほむらに視線を向けた瞬間、その視線を奪おうと佐倉杏子が槍を構える。
「オイ……勝利の気分に浸るのは、まだ早いんじゃないかい……?」
「……無意識に魔法を封じている今の佐倉さんじゃ、私には勝てないわ」
巴マミの言う通りだ。しかし、それをあえて口に出すということは、その無意識の封印を佐倉杏子に気付かせて解かせようとしているとも取れる。
(……マミ。今どこかにいる本物のお前は、もしかして
悪魔は歯を食いしばって立ち上がる。少しは体力を回復できた。しかしこれ以上の魔法行使は命に関わる。穢れも充分に吸収した。美国織莉子によって一箇所に魔法少女が集められて、巴マミの強さに絶望し、さらに穢れが吸収できたことで、思ったより準備が早く整った。
「────作戦変更だ。オレがマミを足止めする。その間に全魔法少女はウワサの本体を叩け」
「……! 悪魔、何を言って……今のあなたじゃ────、っ! まさか……!」
「やちよ。すまないがそのまさかだ。暴走の心配はない。ただし消耗が凄まじく長くは持たない。一撃で葬ってくれ」
悪魔は片目を抑えて封印結界の一部を解く。
「……? 何をして────」
巴マミは目を見張る。悪魔の周囲に漏れ出る瘴気。それは黒い勾玉のようなモノが鎖のように無数に連なり、やがて全身を真っ黒に染め上げた。
「────
ネメアーとはギリシャ神話における獅子の怪物。悪魔の頭髪が膨大に生え伸びて黒い炎となり燃え盛る。呪印は眼窩上部に集中し、眉毛を黒く燃やして隆起させた。おかげで眉間にシワを寄せる悪魔の面立ちが更に強面となる。
「────ウソでしょ……その姿、その気配は、まるで────」
「
「っ……! 今すぐやめなさい! 瘴気は人体に毒よ! それは魔法少女だから出来ることであって────!」
「悪いが、マミ。今は自分の心配をした方がいいと思うぞ?」
忽然と悪魔の姿が消え去る。否、それは目にも止まらぬ高速移動。否、ただの音速突破なら活性魔力で向上した動体視力で捉えきれたはず。それが出来なかったのは、ひとえに魔女が姿を消す原理と同じもの。逆噴射による高速移動と構築効果による幻術の合わせ技で、より高度な目くらましを使用したからにほかならない。
巴マミの背後に殺気。否、全方位から殺気を感じる。月夜に閃く刀身。抜刀していた悪魔は素首を落としに狙う。
「《
「夢現効果を織り交ぜた死炎分身……! ティロ・フィナーレ!」
分身は夜空の戦闘でも使用していたが、今回は半魔人化している事もあり性能が桁違いに上がっている。どれも
「こんなの、ただの化物だわ! ティロ・フィナーレ!」
「それはお互い様だろ。怪物」
「最悪な冗談言わないで! ティロ・フィナーレ!」
悪魔の姿にショックを受けているのか巴マミの顔色が険しくなる。
「精神的コンディションで実力が揺らぐところは、まだ人間的だな」
「最初から最後まで人間ですっ! ティロ・フィナーレ!」
「なぁマミ……連発する時は、わざわざ叫ばなくてもいいんじゃないか?」
ティロ・フィナーレと時雨蒼燕流の交差。互いに即死攻撃を繰り出しつつ決め手にならないのは、最強無敵の矛と完全無欠の矛の激突という矛盾を思わせる。
一方、戦線に復帰した環いろはと鹿目まどかの治癒魔法により回復した魔法少女たちは役割分担。巴マミの無限光弾に対し、魔力障壁を使える者はそれを張って掻い潜り、攻撃が得意な魔法少女たちは魔力を高速回転させて蓄積、社殿が射程圏内に入った瞬間、
「しまった────!」
「オレたちも、次の一撃で終わらせよう」
悪魔は刀を構えて身を屈める。その所作に並々ならぬ技の冴えを感じた巴マミは間髪を容れず攻撃した。
「ティロ・フィナーレ!」
最後の一人である悪魔の肉体が消し飛ばされる。が、それは肉体を瘴気として霧散させただけで瞬時に集合し、再び悪魔の肉体が目の前に現れた。
「今日は月が綺麗だな」
「っ────!?」
一瞬の間隙。死中に活を求めて作り出した刹那の好機。これを逃せば次はない。
「
一撃目、マスケット銃を構えた巴マミの右腕を切断。
二撃目、さらに左足を切断。
「最後の夜にその
三撃目、巴マミの左腕を切断。それは硬化リボンとなって悪魔の首を締め上げるが半魔人化に窒息はない。首を飛ばされるが瞬時に再生。
四撃目、巴マミが蹴りつけてきた右脚を蹴り飛ばす。すると治癒魔法で瞬時再生し巨大砲身を作成。
「ティロ・フィナーレ!」
「時雨蒼燕流」
五撃目、究極の一射を斬り飛ばし、巴マミの首にかすり傷を与える。
「……っッ!!?」
巴マミは信じられないと言いたげな目で訴える。
「剣式・呪印型秘奥義・二番目」
六撃目、斬撃と共に瘴気を注入し、巴マミの体内魔力循環を阻害。悪魔の四方八方を取り囲むように展開したマスケット銃は撃鉄を落とせない。落としたくても魔力操作が阻害されている。コンマ三秒後には治るが、その間にやられる。治癒魔法を行使。コンマ一秒掛かって撃鉄を落とす。だが時は疾うに過ぎていた。
「────《殲滅するべき白夜の雨》」
七撃目を加えながら巴マミの傍らを過ぎ去った悪魔は、月光を浴びつつ
「ガハッ────!!?」
五体が四散どころか爆散した巴マミは肉片となって散らばり、魔力の残滓となって消滅する────かと思われたが、地を転がった生首だけは消えず、まだ生き足掻いていた。
「────」
遠方でも大規模な魔力爆発が起こる。口寄せ神社のウワサが崩壊し、ウワサ空間が消滅。現実空間の位相に戻りかかる。その中でも役割を終えたはずの巴マミの生首は残り続けており、コロコロと転がってやがて止まる。
振り返った悪魔は、そこで目を疑った。一粒の涙を流す巴マミを目にして心臓が軋みを上げる。
「……おねがいが、あるの……あくま、くん……いえ、ツナくん……」
「────!」
「ウワサを着込んだ、わたしを倒して……それが、できるのは……」
「マミ……!」
悪魔は駆け寄ろうと一歩を踏み出す。
「────たすけて……」
直後、巴マミの複製体は最期の言葉を残して魔力の残滓となり消滅した。
今の言葉はいったいどういう意味なのか。ウワサを着込むと言っていたが、まさかウワサに囚われているのか。先日、助太刀魔法で巴マミの所に飛ぼうとしたら妨害された。あれはもしかしたらウワサに妨害されたのではないかと予想していたが、それは当たっていたのか。しかし細かい事情はまだ分からない。だが今の遺言のような懇願は、巴マミのメッセージと受け取った。
「あぁ。必ず助ける」
半魔人化を解除。ふと意識が明滅して膝を突く。後方から戦闘音。ウワサの本体は倒したはずだが、まだ何が居たのか。
「ちょ、うおわぁ!? ししょー! これ鉄火塚のウワサだよねー!?」
「本体を倒したら、合体していたウワサたちが解き放たれるなんて……本体と一緒に消えていればいいものを、とんだ後処理ね!」
鉄火姫のウワサは洪水を起こす能力を持っているのか、何もない所から大水の奔流を発生させる。水浸しになる水名神社。
鉄火塚の火の手のウワサは地面から無数に湧き出して魔法少女たちの足首を掴んでは燃やそうとしてくる。
覗き見城下町のウワサは、水名神社の上空に防壁を建造。それを崩すのは中々に難しいと誰もが歯噛みする。
見返り太夫のウワサは、単なる巨人として暴力を振るう。
それは捨てずアネマサのウワサも似たようなもので、姉妹の人形はチェーンソーを構えて魔法少女を斬り殺さんと迫り来る。
「
「《
その時、瀑布のような水竜巻の薙刀が鉄火姫のウワサを薙ぎ払い、角を付けた青年が緑の電撃を纏いながら跳躍し覗き見城下町のウワサの防壁を破壊した。
「悪魔殿! 助太刀に来ました!」
「ひぃ~! 誰か受け止めて~!?」
華麗に着地した竜城明日香とは対照的に、空中でバタバタとする青年。ちょうどその真下にいた暁美ほむらは青年をお姫様抱っこの形で受け止める。
「うおっ!?」
「おっとっと!」
「た、助かった……おや? あなたは……どう見ても若かりし頃のほむら
「え? あ、あの……どちら様ですか……?」
「あぁ、申し訳ございません。自己紹介が遅れました。僕です僕、ランボです」
十年後のランボです。と付け加えて言ったランボだが、たしかランボは女の子だったはず。こんなチャラくてエロそうな男ではない。ましてやランボは五歳児。暁美ほむらと同じくらいの年齢のわけがない。
「う、うそ言わないでください!」
「あだっ!! お、お尻が……いきなり落とすなんてひどいじゃないですか……が・ま・ん……」
十年後ランボはお尻をさすって涙目。そこに覗き見城下町のウワサを半壊されて怒り心頭の見返り太夫が現れた。
「────ぎゃあああああ! お化けぇええええ!!」
「チッ────このナヨナヨ野郎が! ちったぁその泣き虫を直しやがれ!」
佐倉杏子の鋭い斬撃によって見返り太夫のウワサの首が飛び、消滅する。
「ひっ……! わわわ、若かりし頃の、さ、佐倉お姉さま……!? もっと怖いお化けが出た……!!」
「あぁ!? なんだってぇ!?」
「なな、なんでもありませんーっ!! お許し下さい……っ!!」
十年後ランボはバックしながらのスライディング土下座を披露する。
一方、チームももこは魔力の充填を完了し、一斉に
「せっかく助太刀に来たのに足でまといじゃ立つ瀬がないんでね! ここで決めるよ! レナ、かえで!」
「もちろん!」
「うん!」
朱色の閃光斬撃、蒼海の無限刺突、秋色の巨木打擲。魔力規模だけならティロ・フィナーレに匹敵する一撃を三発、捨てずアネマサのウワサに直撃させ、鉄火塚の火の手のウワサの残党を薙ぎ払い殲滅する。
「────あれ? そういえば、あの黒羽根たちは……」
環いろはの気付き。ウワサ空間の位相が消滅したなら、羽根たちは水名神社に戻ってきているはず。その認識は正しい。巴マミとの激闘の中で逃げ延びていた羽根たちは、現実空間に位相が戻されてから身を隠し、反撃の機会を窺っていた。
「今だ、掛かれ! ウワサ潰しの魔法少女たちを捕らえるんだ! 消耗している今ならやれる!」
「っ! お姉ちゃん……!!」
八人の羽根たちの襲撃。疲弊している今なら単純な白兵戦でも倒されてしまう。
「│そうはさせない│」
「《速度低下》!」
その時、呉キリカの魔法で動きが鈍った八人の羽根たちを、万年桜が一瞬にして片付けた。水名神社の外にたたき出された羽根たちは形勢不利と見て一目散に逃げ出す。
「万年桜さん!」
「│いろは、うい、無事で良かった。でも助けに行けなくてごめんなさい│
│ずっとこの呉キリカという魔法少女が、私の邪魔をしていた│」
「織莉子の話では、ウワサ空間に万年桜を入れると、複製体とはいえ環姉妹・里見灯花・柊ねむ・万年桜の五人が揃ってしまい、一つの幸福な
「そうね、キリカ。よくやってくれたわ。あなたのおかげで予知通りよ。ありがとう」
美国織莉子は呉キリカを抱き締めて頭を撫でる。
「それじゃあうるさい子供が帰ってくる前に去りましょうか」
「そうだな!」
美国織莉子と呉キリカが水名神社を後にすると同時、入れ替わるように千歳ゆまが駆けつけてきた。同時に十年後ランボの体が“ボフン”と音を立てて白い煙に包まれると、その中から五歳児のランボが指を咥えてスヤスヤと寝息を立てながら現れた。
「キョーコ!」
「ゆま……ホテルでおとなしくしとけって言ったろ。なんでここが分かったんだ……まったく」
「うーん……うーん……ほむら~子守唄が止まった~……うーん……」
「えっ……本当にランボちゃんに、なった……?」
愕然とする暁美ほむら。
対する佐倉杏子は、状況終了を判断して七海やちよに請求する。
「ま、なにはともあれ無事解決と。で、あたしはタダ働きはゴメンなんでね。当然の権利だ。報酬を要求させてもらうよ」
「……あなたは悪魔を助けに来たんでしょう? なら悪魔に請求しなさいよ」
「こいつが金持ってるわけねぇだろ? アンタの夕飯でもいいからさ、なんか食べさせてくれよ!」
「くれよ!」千歳ゆまが真似する。
「……はぁ。仕方ないわね……確かに今回は助けられたし……分かったわ。でも納得できないから、ひとつ条件を貸すわ」
「条件?」
「お手伝い? ゆまやるー!」
七海やちよと佐倉杏子たちの会話。
一方、地面に座り込んで動けない悪魔に鹿目まどかと竜城明日香が近付く。
「あの、悪魔さん。大丈夫ですか?」
「あぁ。治癒は要らない」
「悪魔殿! とんでもない魔力を感じたので助太刀に来ました!」
「ありがとう。……それと、たぶん明日香とランボの増援は、織莉子の予知内容には無かったことだな。十年バズーカは簡単に未来予知を狂わせるらしい」
「そうなんですか……あ、ほむらちゃん。ランボちゃんにまた髪の毛食べられてる……」
「ところで悪魔殿! 動けないのであればおんぶしましょうか!?」
「隼人みたいなこと言うな……別にいい。しばらくしたら動けるようになる……」
そこで環いろはの声が上がる。
「えっ……うい、精神が戻ったの……!?」
「うん……灯花ちゃんの変換魔法でリリスと精神が入れ替えられて……でも、そのせいでリリスが……」
「……! リリス……」
環姉妹は心配そうにリリスを見つめる。対するリリスはなんのことやらと首をかしげた。
「モキュ?」
そんなリリスを目にして悪魔は直感する。
(……リリスの精神構造がインキュベーターのそれに近くなっている。だが感情を失ったわけではない。インキュベーターとは明らかに違う思考と感情の明滅が、微かにだが感じられる……これはいわゆる“ごくまれにある精神疾患”を発症したというわけか……)
リリスは自らの心を文字通り砕いて環ういの為に行動した。その行いは、たとえ文字通り心が砕かれてインキュベーターらしい模擬人格を打ち込まれても変わらない事実。その行いを、過去の行動を、どう感じるか、どう判断するかで、リリスのこれからの精神的な成長は変わってくるだろう。
「…………」
七海やちよは周囲を観察する。ウワサ空間に囚われていた人が境内の奥に放り出されて気絶している。つい最近ウワサに囚われたばかりの人は生きていたようだ。反対に、長らく囚われていた人々は腐乱死体や白骨化死体となってあちこちに散らばっている。ふと呻き声。気絶者はうなされており、今にも起きる気配がある。すぐ退散した方が良い。公衆電話から匿名で警察に通報をかける。一応、気絶している人の中で危篤状態の人はいないかと調べるが、特に問題はないと分かった。
そうして安否を確認した七海やちよは帰宅を提案する。
「それじゃあみんな、もう家に帰りましょう。ももこ、レナ、かえで、応援感謝するわ。でも二度と今回みたいな無茶はやめて。危うく全滅するところだったのよ。死ぬのはウワサに首を突っ込んだ者だけでいい。あなたたちが危険を冒す必要はなかった」
「やちよさん……」
「それは……でも、ももこは、あの……」
「やちよさんたちの助けになりたかったんです!」
「こっちはいい迷惑よ」
七海やちよは過去を守るため、過去を切り捨てようと冷たく吐き捨てる。それに水波レナと秋野かえでが言い返そうとしたが、十咎ももこによって止められた。
「それと、竜城明日香さんだったかしら。助けてくれて礼を言うわ。でもごめんなさい。今は持ち手がないの。この借りは────」
「いえ! 私は悪魔殿を助けに来たので!」
「……そう。あなたも随分と愉快な仲間が増えたものね」
「仲間を作らないお前よりはマシだ」
七海やちよの眉がピクリと痙攣する。
「おい、さっさと帰ろうぜ。今日はやちよがウワサを倒せた記念に豪勢な料理を作ってくれるんだとさ」
「何が出るんだろうね、キョーコ! カレーかな? シチューかな? ハンバーグかな?」
「やちよ。なぎさはチーズ以外認めないのです」
「わかったから……勝手に自分の金でチーズ買ってきなさい。適当に調理しておくから……」
七海やちよは水名神社を立ち去る。だが悪魔はまだ立ち上がれない。そこで佐倉杏子が悪魔の腕を取って強引に背中におぶさった。
「よっと」
「おい、やめろ……」
「恥ずかしいんなら自分の足で立って歩け。こっちはハラが減ってんだ」
「だったら置いていけばいいだけの話だろ」
「あっそ。ならいいや」
佐倉杏子はパッと手を離し、悪魔は地面に倒れて仰向けとなる。それに驚いた竜城明日香は拳を掲げる。
「わぁ! 何をするんですか、赤い人!」
「そいつが強情なのがいけないんだ。あたしは喰って生きようとしない奴は嫌いなんだよ」
悪魔はなるほどと頷く。先ほどおぶさったのは“食うかい?”という言葉と同じ意味を持っていたのだ。
(オレを食事に誘ったつもりだったのか……)
ならば落とされても仕方ない。佐倉杏子の信条に合わない奴はこうなって当然だ。
「あ、悪魔さん……大丈夫ですか?」
「あぁ。いろはたちはもう帰れ……」
「それで本当に置いていく奴は杏子くらいなのですよ、クマ吉。さすがに杏子の行動に慣れすぎなのです」
やれやれと鼻で笑った百江なぎさは悪魔を背中におぶさる。
「……待て。だったら佐倉におぶってもらった方がまだマシだ」
「いい年した青年が小学生におんぶされている光景は滑稽に映るのです。クマ吉の超直感は通行人の心を無差別に読むのです。誰にどう思われているか気にしまくって辱めを受けるがいいのです」
「……なぎさ、怒ってるのか?」
「偽物とは言えマミを首だけにした罰なのです」
悪魔はなるほどと頷く。こればかりは仕方ない罰だと受け入れた。
「えー! まってまって、やちよー! 私はー? 私は褒めてくれないのー?」
「あなたはウワサ空間に入る前から勝手に居たでしょ」
「ねぇねぇ、じゃあさ! 私もみかづき荘に行ってもいーい? まさかこんなに大所帯になっているとは思ってなかったよー! いつの間にって感じ!」
「…………好きにしなさい。どうせ言っても聞かないんだから」
やいのやいのと帰路に就く。途中の道でチームももこ・竜城明日香と別れ、そのまま一行はまっすぐ家に帰るのかと思いきや、先頭を歩く七海やちよは行き先を変える。そうして辿り着いた場所は《
「佐倉さん。ゆま。そしてみんな。今日は特売デーなのよ。ウワサを退治したら絶対に来ようと思っていたの。特売品は一名二点までだから、これから私が言うものをそれぞれ買ってきてね。佐倉さんとゆまは私に付いてきて。ひとつのカゴじゃ入りきらないから荷物持ち係よ」
「条件ってこれかー」
「ねぇねぇ、お菓子買ってもいい?」
「ひとつだけね。……佐倉さんはダメよ」
「へいへい」
「なんでー!? キョーコもお菓子大好きなんだよ!」
「佐倉さんはもう子供じゃないでしょ……」
ぞろぞろと入店。そこに百江なぎさも付いていこうとして悪魔が待ったを掛ける。
「待て。流石に店の中は目立つ」
「……ならば
「そんな隠語を使うな。……マミに殺される」
「ではなぎさはチーズを買わなければならないので」
「……」
小学生におんぶされる青年。当然それは客の目を引く。対する悪魔は瞑想することで難局を乗り切ろうとした。
かくして一行は、七海やちよの節約術により買い物を終え、みかづき荘に帰宅。豪勢な晩餐で戦いの疲れを癒すのであった。
第二章・完