※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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第2.1章 並盛黒江物語 ヴィアッジョ・エレヴァンテ ‐泥夜鷹は星に焦がれる‐


第2.1章 並盛黒江物語 ヴィアッジョ・エレヴァンテ ‐泥夜鷹は星に焦がれる‐
4月12日【あぁ! 黒江姉の座高の高さランキングを書こうと思ったのに~!】フゥ太


 

 ハイエナ。死肉を漁る者。残飯を貪り喰う者。富める者にとっては卑しい行為と見なされるが、ストイックな者ほど同じ努力家として畏敬の念を抱かれる行為とされる。

 

          †

 

 朝方。並盛町の旅館にて。黒江が家を出てから丸一日が経過した。

 

 濡れた髪をドライヤーで乾かす。バスローブ姿で風呂場から上がった黒江は椅子に座って姿勢を楽にし、首に巻いたタオルで頭を吹きながらリモコンを手に取ってテレビをつける。やっている番組はローカル放送。アイドルキャスター・菊桃桜がお天気お姉さんとして今日の天気を告げる。

 

『今日の並盛町の天気です。ご覧の通り大空が青く映える晴れ間が広がっておりますが、ゴロゴロと雷が鳴っていますね。黒曜方面の霧も濃くなっており、良くない雲が漂ってきています。これはゲリラ豪雨の前兆であり、大きな嵐が発生する前触れでもあります。並盛町に住んでいる皆さんは気を付けましょう。傘なんて差してもイギリスまで吹き飛ばされてしまうこと請け合いですので、不要不急の外出は控えた方が良いかもしれませんね! 以上、アイドルお天気お姉さん・菊桃桜の天気予報でした!』

 

 その天気予報を左から右に流す黒江は財布の中身を確認する。

 

「……ハァ。衝動的に家を出たから、貯金箱から財布にお金を移すの忘れてた……すごく細かく節約すれば、なんとか一週間は持つかな……食費だけの計算だけど……」

 

 少ないお金を節約するため、明日からは野宿となる。

 

(ホテルに泊まらなければ少しは贅沢できた気がするけど……魔法少女を辞めてから色々なことが起こりすぎて疲れが溜まっていたし、宝崎市から都内までの満員電車でさらにドッと疲れた……旅館にでも泊まらなきゃ、やってらんなかったかも……)

 

 ちょうど通勤ラッシュに巻き込まれたのだ。おかげで昨日は一日中、旅館の部屋の中でダウンしていた。家族からのメールや電話もひっきりなしに来るため、スマホの電源を落としてて死んだように倒れて爆睡。しかし家族の心配を見て見ぬふりするわけには行かないため、勇気を出してスマホを手に取り電源を付ける。

 

「うわ……すごい着信とメールの数……やっぱり怒ってるよね……」

 

 さてなんと言えばいいのか。今の自分の行動をどう伝えれば良いのか。勇気を出してメールを送るぞ、と決めたはいいものの、魔法少女や魔女のことを話すわけにも行かないため、ウンウンと唸って時計の針が数回まわる。

 

『まずは心配かけて本当にごめんなさい。特に不満があるわけではないけど家出しました。どうしてもやりたいことが沢山あって、気付いたら旅に出ていました。何も言わず家を出てしまい申し訳ありません。今は旅館に泊まっているので大丈夫です。安全に気を使って旅を満喫するので、あまり心配しないでください』

 

 やりたい事とは、本当に色々ある。見つけたいこと・探したいこと・守りたいもの・避けたいこと。

 自分とは何かを見つけたい。自分には何ができるのか探したい。自分に守れるものはない。その事実から逃げてきた。

 自分探しの旅と言ってしまえば陳腐だが、実際はその通り。何をすれば良いのかも分からぬまま外の世界に飛び出して放浪する滑稽な少女。それが現在の黒江の実態である。

 

 時刻は昼前。数時間かけて考えたメールを送信する。

 

「これでよし……かな? 我ながら無茶苦茶なこと言ってるなーとは思うけど……」

 

 当然。良しなわけがない。案の定、両親の心配メールと、兄からの『黒江おまえ小説家になるかと思ったら登山家にでもなるつもりかよ』という的外れなメールが即答で返ってきた。

 

「ふふっ……なに登山家って」

 

 思わず笑みがこぼれる。

 

(でも確かに、今までの自分ではありえないくらい行動的だ。それは命の危険を感じたから? いや、それは魔法少女になってからも同じことのはず。でも魔法少女には“魔法”がある。でも今の私にはリングしかない。身を守る方法を無くしてしまったというのは、魔法少女の時より結構重たいことだと思う。だからなのかな……)

 

 人間とは、とことんまで追い込まれると何をしでかすか分からない。

 そんなことを痛感する黒江であった。

 

「さて、そろそろ行かなきゃ。自分の行動に驚いている暇はない」

 

 チェックアウトの時間が迫っている。お昼は適当にコンビニで安いものでも買って済ませようと考えながら身支度を整える。最後に武装確認。右手の人差し指から薬指にかけて、雨・雲・霧のリングを嵌める。

 

「むっ……!」

 

 力を込めれば死ぬ気の炎が点火する。その時、そばに置いてあった水入りコップが少し青く変色した。

 

「……! これってもしかして、説明書に書いてあった……水見式ってやつ……?」

 

 コップを手に取る。その動きで普通は水が波を立たせるはずだが、固まったかのように水は不動を保つ。

 

「……これが鎮静効果。じゃあ雲の炎を当てれば……」

 

 みるみるとコップのサイズが大きくなり、ボコボコと水が溢れ出す。

 

「わ、わ! と、止まって……! あぁどうしよう……タオルタオル……」

 

 テーブルにこぼれた水をタオルで拭き取る。その時、霧の炎がコップに当たってしまい、水面に絹の糸くずのような不純物が生成された。気分を落ち着ければ死ぬ気の炎は鳴りを潜め、性質効果も消失していく。コップは元のサイズに戻り、水も元の水量に戻り、不純物も霧となって消えていく。しかし性質効果の名残なのか、透明な水は青と紫と藍色が混ざったような青みの深い黒に変色したままだった。

 

(ほかにも宇宙系リングとかあるけど……詳細が分からない上にすごく危険っぽいそうだから、これは懐にしまっておこう……)

 

 大空の七属性は魔力の七属性と似ている。故に使い勝手がなんとなく分かる。しかし未知数の部分が多い他シリーズの属性に関しては、今のところ触らぬ神に祟りなしと判断した。

 

 黒江はチェックアウトを済ませて旅館を後にする。

 ふと遠方から学校のチャイムが聴こえる。並盛中学校で昼休みの時刻が訪れたのだろうか。

 

          †

 

 並盛町の外観は、一言で言えば前時代的。新興都市である神浜市や、先進的都市設計により改築された宝崎市、パンフレットでしか読んだことがないがその街並みは時代の先を行く見滝原市と比べると、どうにも半世紀の遅れを感じる。

 

(都内なのに、こんなに田舎な場所があるんだな……)

 

 黒江が想像している田舎と、どこまでも田んぼ道が続く田舎の情景は必ずしも合致しない。それは2020年代建築と近未来的建築を比べて、前者を田舎と称するようなものだ。

 しかし現代の若者たる黒江にとって、並盛町の外観が少し古く感じるのも無理はない。新興都市たる神浜市近辺の宝崎市・見滝原市は、近未来化の都市計画の煽りを受けて、ここ二十年で大きく発展し、その街並みを劇的に様変わりさせた。今の若者にとってはそれが“都会”の認識であるため、他の従来的建築技法は全て“田舎”に見えてしまうのだ。故に現代の10代と30代の間には、たとえ同じ街に住んでいても、建築物に関してかなり遠大なジェネレーションギャップがあり、ちょっとした社会問題になっている。

 

(でもここは住宅街だし……並盛町の新都にでも行けば、宝崎市で見たような街並みが現れるかな……?)

 

 ふと黒江は足を止める。横手に正門と校舎。並盛中学校である。

 

「……ここが、悪魔さんが通っていた学校……」

 

 となれば彼と悪魔契約・第二書を交わした六人の魔法少女が居るはずである。たしか名前はシトピ隼人・水野むく・笹川了子・恭弥アーデルハイト。ほか、羅宇らんという子はまだ五歳児で住所不明、ジュリー凪という子は隣町の黒曜にある廃墟を根城にしていると、悪魔契約の際に夢で見た。

 

(正門が開いている……でも部外者が勝手に入るのはダメだよね……とりあえず散策を続けるか……)

 

 黒江は並盛観光を続ける。

 その時、前方のT字路から茶髪茶目の少年が現れた。息せき切って必死に走っており、まるで誰かから逃げているようだ。

 

「……え、ちょ────」

 

 少年は目をつむって走っていたせいで前方の黒江に気付かずぶつかってしまう。

 

「いたっ!」

「っ!?」

 

 互いに衝突して尻餅を搗く。「いてて……あれ、痛くない?」柔らかいものに当たったせいか痛みはないと分かるや否や、少年は面を上げる。そこで尻をさする黒江を見つけて、自分がぶつかってしまったことを理解した。

 

「わ、ご、ごめんなさい! 急いでて!」

「う、ううん……こっちもよけられなくてゴメン……いきなりだったからどうすればいいのか分からなくて……」

 

 そこで少年はビクッと反応し「あっ」と呟くと「さいなら!」と言って走り去っていく。直後、黒江の両隣を三人の男性が走り抜けていった。どれも強面で、明らかに堅気には見えない。

 

「……な、なんなの……?」

 

 立ち上がった黒江は状況がイマイチ掴めない。先ほどの少年は随分と焦っており、逃げるように走っていたが……まさか今の三人に追われているのだろうか。そんなことはないはずと思いたいが、黒江は漠然とした不安を抱く。

 

(今の子……9歳くらいだよね?)

 

 既に少年と三人の男性は見えないが、少し追い掛けてみようかと黒江は歩を進める。

 そうしてT字路を曲がると、眼前に一人の少女が座り込んでいた。見た目は外国人っぽく、ロリータ系の衣装を着ており、足首から血を流している。

 

(え……ケガしてる? 大変……なんとかしないと……でも私が行ったところで……)

 

 ふと黒江は住宅街の屋根の向こうに病院の屋上を発見する。あそこまで連れて行くことなら可能だと判断した黒江は即座に駆けつけた。

 

「あ、あの……大丈夫ですか……?」

「……」

「……? え、えっと……日本語、分かりますか……? エクスキューズミー?」

「…………」

 

 ロリータ少女は無視しているのか何も反応を示さない。黒江はどうしようかと右往左往する。

 まさか黒江も思わないだろう。目の前のロリータ少女は、黒江を敵マフィアの刺客と勘違いしており、さっさと殺せと思いながら死を覚悟しているとは。

 

「……あの……足首から血が……すぐそこに病院があるので、連れて行きましょうか……?」

「……!」

 

 初めて反応を示したロリータ少女はまさかと思う。

 もしかして目の前に立つ黒髪紫目の女の子は、まさかまさか、ただの一般人なのかと。

 

「…………。……逃げた方がいい」

「え?」

「ここは危ない。今すぐ逃げなさい」

 

 ロリータ少女は危惧を告げる。だが黒江はなんのことだがさっぱり分からない。

 その時、危惧していたことが現実となった。黒江の前方から角を曲がってぞろぞろと半裸集団が現れる。上半身に激しいイレズミ。“組長”と書かれた一張羅を纏い、顔は傷だらけ。頭にモヒカン。角刈りや坊主もいる。まさにザ・極道という輩の腰には日本刀。手には拳銃を持ち、肩にはマサカリを担いでおり、明白な殺気を放ってこちらを睨みつけている。

 

「────え゛」

「彼らは桃巨会(ももきょかい)……並盛町の暴力団。現在この近辺では、絶賛トマゾファミリーと抗争中の模様……」

 

 ……いったいロリータ少女は何を言っているのか。朝のお天気お姉さんのように淡々と状況を告げてくる。

 

 そして反対側の路地から曲がってぞろぞろと現れたスーツ集団。彼らも強面で拳銃やサブマシンガン、手榴弾やバズーカを担いでおり、ザ・マフィアという感じがする。しかし桃巨会の構成員と比べると半分くらい数が少ない。

 

「彼らはトマゾファミリー。現在内乱中なので半分くらいの構成員が抗争に気付いていない」

「え、ダメじゃん! なんかもう色々とダメじゃん!? あっちもこっちも!! え、なに!? もしかして私たちヤクザとマフィアの抗争に巻き込まれてるってこと!?」

「どちらかというと挟まれてる」

「物理的にね!」

 

 ふとトマゾファミリーの方から場の雰囲気に似合わない快活な声が叫ばれる。

 

「パンテーラ! 助けに来たぜ! 内藤ロンシャンだよー!」

「マングスタ参上! ルンガ、今こそ仲間の危機を救う時だ! 野郎ども、銃を構えろ!」

「ガハハハハハハ! ランボさんさんじょー!」

 

 トマゾファミリーは銃を構える。その矛先は桃巨会。

 対する桃巨会も銃を構える。その矛先は当然トマゾファミリー。

 それら二つの勢力に挟まれた謎の牛小僧と黒江とロリータ少女は────

 

「トマゾファミリーの底意地を見せる時だ! 撃てー!」

「桃巨会の恐ろしさを味あわせてやれ! 殺れー!」

「助太刀だー! ぜーいん吹っ飛べー!」

 

 ────両側からの一斉掃射。プラス頭上の塀から手榴弾の雨。一秒後には重爆に晒されてミンチにされると悟った黒江は、咄嗟にロリータ少女の体を持ち上げて裏路地に飛び込んだ。

 

「な、なにこれぇ────!?」

「ようこそ……並盛町(おとこ)の世界へ……」

 

 いつの間にか灯っていた霧の炎が両側に薄い壁を生成。数発の弾丸を弾き、爆風を凌いで事なきを得た黒江とロリータ少女は裏路地に転がり込む。

 

「────」

「……助けてくれてありがとう。私はパンテーラ……あなたは?」

「────────黒江、です」

 

 黒江は衝撃と恐怖のあまり固まっていた。普通に街を歩いていたはずなのに、いきなりヤクザとマフィアと変な子に挟まれたかと思ったらドンドンパラパラギャーギャーと銃撃戦が始まっていた。爆発音が聞こえる。誰かが手榴弾やバズーカをぶっぱなしたのだ。その爆音に総毛立った黒江は、即座にパンテーラをおぶさって駆け出す。路地裏の向こうに見える病院の屋上が目印だ。なんとしてでも今すぐそこに辿り着く必要がある。

 

(わけがわからない……訳が分からない……ワケがワカラナイ!)

 

 路地裏を出る。「オラァ!」「ギャー!」スキンヘッドの男が黒スーツの男を刀で斬り殺していた。

 

「ひぇええ……!!?」

「あそこに公園が見える。子供が楽しむ公園は安全地帯。一般人の安全地帯では争わないのがマフィアの掟。いいマフィアは一般人を巻き込まない」

「マフィアにい(・)い(・)も悪いもなくない!?」

 

 必死の形相で目を見開く黒江は思いの丈を吐き出して公園に駆け込む。「あっ!」コンクリートから柔らかい芝生に入って足元の感覚が狂ったのか、黒江は滑って転んでしまう。その勢いで黒江の背中から飛んでいったパンテーラは無言で地面をゴロゴロと転がった。

 

「あぁっ!? ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」

「いいの。黒江は私の命の恩人。いつかこの借りを返すわ」

「それってどっちの意味です!? やっぱり投げちゃったこと怒ってますか!? そっちの借りを返す感じですか!?」

 

 トマゾファミリーはパンテーラを助けに来たと言っていた。そしてやけにマフィア事情に詳しい事から考えるに、どう見てもパンテーラはマフィア(そっち)側だろうと黒江は勘付く。だが怪我人を放ってはおけない。あそこで黒江が助けなければパンテーラは銃弾の雨に晒されて死んでいた。目の前で困っている人を見捨てることは人間としてできない。たとえどれだけ自分に自信がなくても、それだけは……誰かを見捨てることだけはやっちゃいけないことだと、黒江は信じている。

 ■■■■■■■■(でもあの子にはグリーフシードを)■■■■(隠しちゃったよね)。

 

「と、とりあえず、すぐに病院へ……!」

「病院も安全地帯。その判断は正しい。でも……気まぐれな星が紛れ込んだみたい」

「────へ?」

 

 パンテーラの視線の先。そこには先ほどの茶髪少年がいた。息せき切って公園の中に入り、ぜえぜえと汗を流している。「あっ!」そこで黒江と少年の目がバッチリと合った。駆け寄ってきた少年は黒江の前に膝をつくと両手を合わせて上目遣い。

 

「たすけて! 黒江お姉ちゃん!」

「────え?」

「彼はフータ・デッレ・ステッレ。別名“ランキングフゥ太”……マフィア界における最高の情報屋で、彼にランキングを作らせたら右に出るものはいないという。なぜなら彼のランキングの的中率は100%……それだけにマフィアの戦略データの価値が高く、最も多くのランキングを収録しているフゥ太のランキングブックを手に入れれば世界の覇権を握れると言われている」

「そうなんだ! そして今はトッドファミリーに追われているんだよ! たすけて、黒江姉(ねえ)!」

「────いや、もう何がなんだか……」

「ちなみに我らトマゾファミリーはランキングブックを回収……こほん。フゥ太を助けるためにトッドファミリーと事を構えた。そしたら流れ弾が桃巨会の事務所に当たってしまって……三つ巴の抗争に発展してしまった」

「あ、君はパンテーラ!」

「────待って。今この子(フゥ太)を助けるんじゃなくて、ランキングブックの方を回収したい的なこと言い漏らさなかった……?」

 

 フゥ太は懐から巨大な本を取り出すと、様々なランキングが記されたページをパラパラとめくっていく。

 

「パンテーラは、マフィア界の中で影の薄さランキングが951人中951位で最下位なんだ!」

「────いやなにその要らない情報……最下位ってことは影が薄くないってことだけど、そんなこと誰も知らないし……どうでもいいし……」

「私はミステリアスが売りの女なの」

「そしてパンテーラは、トマゾのバカ坊主である内藤ロンシャンを殺したいランキングでは1万2891人の中で堂々の一位だよ!」

「だから何それ! つまり自分のボスの命を狙ってるってこと!? どういうこと!?」

 

 そこで黒江は問いかけた。

 

「というか、ちょっと待って。本当に頭が痛くなってきた……なんで私の名前を知ってるの?」

「さっきぶつかったあと、ランキング星と更新して黒江姉のランキングを更新したんだ!」

 

 さらにフゥ太はランキングブックをめくる。

 

「黒江姉は、頼まれたら断れないランキングでは2位! そして頼りにならないランキングでは最下位の一個上! ギリギリ最下位は免れてるね!」

「いや、なにそれ……」

「でもそんな黒江姉だから頼めるんだ! 本当はツナ兄に匿ってもらおうと思って並盛町に来たんだけど、どこを探してもいないんだ……」

 

 ────ツナ兄。その名前にどこか覚えがある黒江は目を見張る。

 

「おい見つけたぞ! あそこだ!」「もう逃がすなよ!」「トマゾより先にランキングブックを奪い取れ!」

 

 公園の中に三人組のマフィア・トッドファミリーが入ってくる。

 

「え、ちょ! いいマフィアは安全地帯に入ってこないんじゃなかったの!?」

「どうやらトッドファミリーは悪いマフィアのようね」

「それは当然だよ! だってトッドファミリーはマフィアの中でも狂暴性が7位なんだ! その中でもひときわ背の高いリーダーのパオロ・ウルバーニの攻撃力は8万6千人中55位の超強者だよ!」

 

 黒江の頭と目の中がグルグルと鍋をかき混ぜられるように回転する。

 パンテーラを病院に運ぶ。マフィアに追われているフゥ太を助ける。そもそもランキングブックの情報は本当に正しいのかどうか。トッドファミリーから逃げ切る方法はあるのか。そもそも抗争に巻き込まれないよう身を隠したい。逃げたい。一人なら逃げられる。でも二人を置いていけない。

 

「ようやく追いついたぞ、このクソガキめ!」

「うわぁ!」

 

 パオロ・ウルバーニによって胸ぐらを掴まれたフゥ太はランキングブックを落とす。それを仲間の二人が拾い、欲深い笑みをこぼす。

 

「黒江。ピンチね。でも私たちは関係ないから見逃されるはず」

「────っ!」

 

 パンテーラの言う通りだ。トッドファミリーは黒江たちを気にしていない。フゥ太のすぐそばにいるのに眼中にないのだ。

 

「よし、このままガキを攫って本国に帰るぞ!」『了解!!』

 

(────そんなことは、許容できない……でも私なんかが、攻撃力55位の相手に敵うわけがない……!)

 

 しかし黒江は無意識に死ぬ気の炎を灯していた。雨と雲と霧。それが右手の上で混ざり合おうとする。

 その時、不可思議な風が“ヒュ~”と舞い込んだ。徐々に体が軽くなる。

 

「え、え!? なに……!!」

 

 まるで無重力状態になったように黒江の体が浮く。それはパンテーラとトッドファミリーの三人組も同様だった。

 

「うわ、なんだこれ!?」「あ、兄貴! 体が浮いてるぜ!?」「なんだこりゃあ!?」

「落ち着いて黒江。よくフゥ太を見るの。これはフゥ太のランキングモードよ」

 

 パンテーラの言葉に導かれて、黒江はフゥ太を見やる。するとそこには一人だけ地に足をつけているフゥ太が立っていた。首に巻くマフラーや衣服も無重力状態で浮かび上がるが、フゥ太本人の様子が少しおかしい。その両目には宇宙の銀河を映しており、どこか遠い星を眺めるように虚空を見つめている。

 

「な、なにこれ……!」

「フゥ太は自分の脳をレッドゾーンまで追い込んで何かをランキングする時、彼の体内に凝縮された不思議なエネルギーが磁場を狂わせて周りの引力を無効化させるのよ」

「ちょっと何言ってるのかわからない!! 魔法ってこと!?」

「違うわ。遠い宇宙にあるランキングの星と交信しているのよ」

「ごめん本当にもう何が何だか理解も許容も難しい! これ夢だよね!! 私まだ旅館の中で居眠りしてるんだよね!?」

 

 黒江は相次ぐ展開について行けないと叫ぶ。それをフゥ太が柔らかく一喝した。

 

「ダメだよ黒江姉。そんなに取り乱しちゃ……」

「────フゥ太……?」

「黒江姉は、生存運の良さランキングでは5万4千人の中で964位とずば抜けて高いんだ。だからきっとどうにかなるはずだよ」

「いや……そんなことは……!」

 

 そんな楽天的では足をすくわれる。故に黒江は活路を探す。

 

(この無重力状態……何かに使えないかな……! ────ダメだ、何も思いつかない……なら別の……そうだ、トッドファミリーはフゥ太とそのランキングブックを狙っている……なら、霧の構築効果で隠してしまえば……!)

 

 黒江は霧の炎を灯してイメージする。フゥ太とランキングブックの姿が隠れるように。

 

「……っ! おい兄貴!」「あ?!」「急にこんなところに大木が!」

 

 しかしそれは不自然な現象として起きてしまった。先程までフゥ太が立っていた場所に木が生える。公園の木立は脇に沿って生えているのに、それがいきなり何もない場所に現れれば不信感を抱かれるのは当然のこと。

 

(しまった……! 透明みたいになればいいなと思ったのに……! 焦ったせいか、まだうまく使いこなせない……っ!)

 

 そこでパオロ・ウルバーニは、黒江のリングに灯る霧の炎を見て愕然とした。

 

「なっ……! テメェ、それは死ぬ気の炎を灯すリングじゃねぇか! さてはトマゾファミリーの構成員だな! ガキだと思って油断したぜ!」

「えっ────」

 

 パオロ・ウルバーニは懐から拳銃を取り出して黒江の額に照準を当てる。その手にはリングが嵌められており、赤い炎を灯した。

 

「痛みすら感じさせず逝かせてやる。死ね!」

 

 引き金が引かれる。

 そこで黒江は思った。自らの失敗ひとつで命が奪われるのかと。こんなところで死ぬのかと。一秒後の死が間延びして走馬灯のように感じられる。だが現実は一瞬で迫り来る。

 

 “バンッ!”という発砲音。それが黒江の額に差し迫る瞬間、銀色の三叉槍が視界を通り過ぎた。“ガギィン!”という音を立てて弾丸が弾かれる。続けて────

 

「トライデント・モスキート!」

 

 赤緑色の電撃が三人組を貫き、内臓まで焼け焦げたトッドファミリーは糸の切れた人形のように白目を剥いて崩れ落ちた。

 

「────────」

 

 黒江は放心していた。なぜ自分は生きているのか信じられないといった様子で、少しずつ強ばった首を傾ける。

 

「やれやれ……女の子の死に顔だけは、医者として診ないと決めてんだ。オレは」

「……! 彼はまさか……女好きでキス魔のDr.(ドクター)シャマル! とある国の王妃に手を出したことで国際指名手配を受けた、最高記録2062股の最低セクハラ詐欺師のクズ男……!」

「おやおやトマゾの豹っ娘(パンテーラ)ちゃん。そんなにお喋りだったとは知らなかった。あとオレは詐欺師じゃない! オレはいつだって純愛だ! みんな平等に愛してんだ!!」

「……まさか、あなたもランキングブックを狙いに……」

「いやいや! オレはただの並中の養護教諭……通りすがりに困っている女の子が居たから助けただけさ。今回の抗争に関わるつもりはない。じゃあな」

 

 黒江の眼前に突き刺さる三叉槍を引き抜くと、シャマルは鼻歌を歌いながら立ち去る。

 

「────、…………」

 

 我に返った黒江は、目の前で大きな本を開いて何かを書き込むフゥ太の姿を目にする。

 

「…………なに、してるの?」

「ランキング星との交信で新しく分かった情報を書き込んでいるんだ! ちなみにマフィア界の最高二股ランキングでは、シャマルが堂々の1位だけど……2位は悪魔? って人らしいね! すごいや! 悪魔より数が多いなんて、シャマルは本当に人でなしだね!」

「同感だわ。でも3位は内藤ロンシャンでしょう? ……違う? 振られたランキングでは1位? そう……」

 

 ……。なぜフゥ太もパンテーラも、この状況で普段通りに過ごせているのか。もしやいちいち驚いている自分がおかしいのかと黒江は思うが、そんなことはないはずだ絶対に、と気を強く持つ。

 

 そこで三人組が呻き声を上げる。いま目を覚ましてまた襲われたら困る。逃げるなら今のうちだ。

 

「と、とにかく……逃げよう……!」

 

 腰の力が抜けている黒江は雲の炎を腰に当てることで、なんとか筋肉を増量させる。少し体が重くなったが気にしてはいられない。不格好でもなんでも生き残ることが先決だ。

 

「パンテーラ、私の背に! ほら、フゥ太も行くよ!」

「でも……まだランキングが書き終わってないよ……」

「そんなの後でいい!」

「でも忘れちゃうよ……」

 

 フゥ太は上目遣いで“くぅ~ん”と子犬が甘えるように見つめる。それに心の中で何かがグッときた黒江だが、今は心を鬼にしてフゥ太の手を取り病院に走った。

 

「あぁ! 黒江姉の座高の高さランキングを書こうと思ったのに~!」

「そんなランキング要らないでしょ!」

 

 ちょっとキレ気味に白目を向いて叫んだ黒江は、てんやわんやと並盛総合病院に駆け込んだ。

 

          †

 

 

 

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