アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
病院一階ロビーにて。抗争に際して一般人は避難しており、次々とガラの悪い負傷者が運び込まれてくる。
「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……これで、助かった……もう、嫌……」
「黒江。改めて助けてくれてありがとう。これ、お礼の品」
パンテーラは懐から一発の弾丸を取り出す。
「いや要らないですそんなの!!」
「いいから貰って。もちろんこれで恩を返したとは思わない。いつか必ず恩を返すわ」
「い、いえ……そんな気にしないでください……」
パンテーラから弾丸を貰ってしまった黒江は渋々ポケットにしまう。看護師に肩を貸されて診察室に向かうパンテーラ。それを見送った黒江はロビーの椅子に座り一息つく。この数分で体力的にも精神的にもやつれた。何よりずっと思っていることがある。それを心中で叫ぶことにした。
(いやほんと……何この街……治安、悪すぎでしょ……!)
こんな街で悪魔は育ったのか。そりゃあんなに眉間にシワを寄せるようになるよ、と黒江はボヤく。
「ねぇねぇ黒江姉! 僕もお礼が言いたいな! 助けてくれてありがとう!」
「……そうだった。フゥ太も居たんだった……ごめんけど、私が助けられるのはここまでだよ……あとは、そう……ほら、さっきのシャマルって人に助けてもらえば? 悪い人ではなさそうだし……」
「それは無理だよ。だってシャマルは女の人しか診ない医者なんだ。男の僕を助けてくれるわけないじゃん」
「あ、そう……」
「ということで黒江姉! お願いだから僕を匿ってよ! ランキングブックによれば、ツナ兄の次に頼れるのが黒江姉しか居ないんだ!」
「いやさっき頼りにならないランキングで私は最下位だって……」
「でも生存運の良さで僕を助けてくれたじゃん! 黒江姉のそばにいれば危険は来ても危険から逃れることができるってことが分かったから、それなら僕は怖いの我慢して黒江姉のそばにいたい! ねぇ……ダメ……?」
再びフゥ太は、かよわい小動物が見せるような愛くるしい上目遣いで黒江を下から覗き込む。
「っ……」
その可愛さに思わず赤らむ黒江だが、自分は子供の面倒を見る力も余裕も責任感もない。なんとかして断ろうとし、フゥ太を見るが……“くぅ~ん”と鳴くつぶらな瞳で断固拒否の意思が揺らいでしまう。
「うっ……な、なんで、私なの……?」
「だって黒江姉は僕のランキングブックに興味ないでしょ?」
「それは……だって、そもそも信じてないし……ランキング星とか何? って感じだし……」
黒江は目を逸らして腕を抱き、フゥ太の視線から逃れようと顔が泳ぐ。
それを見上げるフゥ太はいよいよ涙目となり、ぐすっと鼻をすすりながら言い出した。
「もしかして黒江姉は、命からがら助けを求めに来た小動物を、また肉食獣のいる草原に追い払う魔性の悪女なの……?」
「うっ……」
心の中で“ズキン”と罪悪感の針が刺す。
(そう言われると、たしかにかわいそうに見えるけど……)
「……わ、わかった……わかったから、その目やめて……」
「やったー!」
今までのは嘘泣きだったのか。もはや突っ込む気力すら失くした黒江はがくりとうなだれる。
しかし並盛町は黒江を休ませてはくれない。
突として屋上から爆撃音。病院は安全地帯のはずだが、なぜ爆音が鳴るのかと黒江は恐れおののく。
「まったく
「えっ……?」
いきなり声を掛けてきたのは黒髪の女子生徒。背丈や制服から並中の生徒だと分かる。
「私は黒川花」
「あ……黒江です」
「お、苗字に同じ“黒”が入ってんじゃん。よろしくねー!」
典型的なギャルという感じだ。黒江は淡白な装いでやり過ごそうと考える。
「私はさー。学校の売店が売り切れだったから、ちょっと学校の外に足を運んで昼飯を買うつもりだったのよ……なのに帰り道で極道どもがドンパチやってるから、必死にここまで逃げてきたってわけ。全く迷惑な話よ……」
「そうですね……右を向いても左を向いても銃を持った人が居た時は、生きた心地がしませんでした……」
「うわ、私よりクレイジーな目に遭ってる……まぁでも生きてるんだから結果オーライよ! こんなこと中々ないし、スリリングでいい経験したんじゃない?」
「……」
あまりにも楽観的すぎる並盛町の住人。黒川花は今回のような抗争を中々ないとは言っていたが、比較的平和な宝崎市で暮らしてきた黒江にとっては、これを笑い飛ばすことは流石に難しかった。
「ほら、暗い顔しなーい。元気だしなさいって。私の焼きそばパンあげるから」
「え、いや……そんな悪いです……」
「いいのよ。人の善意はありがたく貰っときなさい。……もう嫌なのよ。昼飯を分け合う友達を失うのは」
「……?」
グイっと無理やり渡された焼きそばパン……は、なんとコロッケパンだった。よく分からないが、思えば昼飯はまだだった。とても疲れたせいか、お腹がぐーぐーと鳴る。確かに食べなきゃ色々とやってられない。黒江はモグモグと食べ始める。
「黒江姉! 僕もお腹すいた!」
「え……あ、じゃあ、半分こする……?」
「いいの? ありがとう!」
ふと黒川花は距離を取る。黒江はいったいどうしたのだろうと首をひねった。
「……あんた、子供好きなの?」
「え……いえ、別にそんなことは……」
「私、じんましんが出るほどの子供嫌いなのよね……」
「そ、そんなにですか……」
「ってーわけで、子連れとは一緒にいられないわ。じゃあねー」
黒川花はどこへなりと立ち去る。そこでフゥ太が聞いた。
「ねぇ黒江姉!」
「ん?」
「黒江姉はこれから何をするつもりだったの? この街の人なの?」
「私は……観光に来たというか、探しに来たというか、逃げてきたというか……」
これから何をするか。少なくとも並盛町は抗争中のため長居するべきではない。となれば次の目的地である黒曜に向かうべきだと判断する。
「そうだね……次は黒曜ランドかな……」
「隣町だね! お供するよ!」
黒江とフゥ太は病院を後にする。すると屋上から叫び声が聴こえてきた。
「うぉおおお! 並中3年! ボクシング部主将! 笹川了子! 悪魔に代わってオレが並盛町の平和を守る! 魔女は倒したから抗争は止まるはずだ! 結局極限、これで一件落着というやつだな!」
当然そんなことはなく。抗争の発端はフゥ太にあるため、病院の屋上にいたという魔女は恐らく関係ない。
(あれが
片道三十分。小一時間も経たず黒曜町にやって来た。目指すは黒曜ランドという廃墟。昔は大型ショッピングモールやテーマパークで賑わっていたようだが、当時の栄光は見る影もなく、今や鬱蒼と植物が生い茂る廃墟の敷地となっている。
「うわぁ……なんか秘密結社が縄張りにしていそうな場所だね!」
「まぁ……何か出そうというのは同感だけど……」
夜に訪れるのだけは勘弁したい。お化けでも出そうな陰鬱な雰囲気だ。
そう思いながら黒江とフゥ太は錆び付いた門を開き、草木を掻き分けて奥へ進む。
(この黒曜ランドのどこかにジュリー凪という魔法少女が居るはず……特に会って何かしたいわけでもないけど……悪魔さんの話とかは聞いてみたいかな……)
その時、爆発するような音が響いた。武器と武器が激突するような戦闘音。女性の悲鳴と雄叫び。その雰囲気、その感覚には覚えがある。────魔法戦闘だ。
(ウソ……何が起きてるの……!?)
まさか魔女でも現れたのか。だが魔女は人が多い所に現れる。こんな寂れた場所に魔女は現れにくい。それに声は複数人聴こえた。もう魔法少女ではないため正確な数は分からないが、爆発や剣戟の音などから分かる戦闘範囲で見積もるに、数十人ほどの魔法少女が争っている。それだけの魔法少女がひとつの場所に集結するなんて聞いたことがない。
「黒江姉……」
「静かに……! 見つかったらマズイかも……隠れるよ……!」
霧の炎を灯して身を隠す。死ぬ気の炎は魔力ではないため魔法少女や魔女には感知されない。黒江とフゥ太は霧の炎で体を覆い、周囲の草木と同化したように見せかける。その時、パリンと窓ガラスが割れて複数の魔法少女が建物の中から飛び降りてきた。黒江たちの近くに降り立ち、彼女たちは武器を構える。
「君たち、なに? ここは黒曜だけど……僕の縄張りだ。並盛の風紀を乱す奴は咬み殺すよ?」
「テメェが恭弥アーデルハイトか。悪魔がどこにいるかしらねぇか?」
「悪魔……あの小動物のことかい? 知らないな。興味ないね」
「そうかい。だがテメェの命が危険となれば、嫌でも悪魔は駆けつけてくるはずだ」
「……そうだね。彼はそういう男だ。でも僕の命が危険にさらされることはない。むしろ君たちのために来てくれるかもね」
風紀と記された学ランを両肩に羽織る女傑・恭弥アーデルハイトは仕込みトンファーを構えて不敵に笑う。
対する魔法少女の集団は何者なのか。黒江はじっと息を潜める。
「言うじゃねぇか。テメェはウェルダンに仕上げてやる。食卓に上がるのを楽しみにしてな」
「ワオ。竜の肉か……美味しそうだね。僕は生でも好みだけど」
それから壮絶な戦いが始まった。戦局は一方的。多勢
「ぐっ……! なんつー強さだ……!?」
「
「ここは撤退を……!」
直後、建物の中でダイナマイトの炸裂音がこだました。さらに激しい水しぶきと斬撃音も響き渡る。
「三倍ボム!」
「篠突く雨!」
それにより十数人の魔法少女が吹き飛ばされる。彼女たちは赤い服を揃って着ており、そのまとまりはカラーギャングを思わせる。
「チィ……撤退だ! 完全に当てが外れた……!」
大庭樹里と呼ばれた魔法少女は部下を引き連れて撤退する。そこで轟音が鳴り響いた。黒曜ランドの施設が音を立てて崩れ去る。長年放置されて雨風を受け老朽化していたところに激しい魔法戦闘だ。建物が限界を迎えて崩壊を始めたのである。
「やべぇ!」
「逃げるぞ!」
「きゃ……!」
二人の逞しい魔法少女は、一人の病弱そうな魔法少女を庇いながら建物から飛び降りる。轟音を立ち上げて崩れ去った建物から膨大な砂塵が巻き上がり、風に攫われていく。
「おい、怪我はねぇか!?」
「クローム!」
「っ……大丈夫。ありがとう、嵐の人、雨の人……あと、雲の人も……」
「僕は君を助けていない。ただ侵入者に相応の報いを与えただけだ」
黒江は察する。彼らはシトピ隼人・水野むく・ジュリー凪・恭弥アーデルハイトであると。
その時、黒江と恭弥の視線がバッチリと合った。
(────え)
「そこに隠れている二人は……二木市の魔法少女と関係があるのかな?」
黒江は悟った。今、自分たちの心臓は恭弥によって握られている。返答を誤れば即死。ただの一度も失敗は許されない。
「なに!? 逃げたと見せかけて伏兵か!」
「いや、それはねーんじゃねぇか?」
「……」
「怖がらずに出てきなよ。君たちが魔法少女ではないのは分かっている。それより死ぬ気の炎を感じるね……どこでそれを手に入れたのか興味深い……まさかとは思うけど、沢田綱吉の関係者だったりするのかな……?」
(────!)
黒江は今しかないと察する。霧の炎を解いて木陰から姿を現し、無抵抗を示すため両手を挙げて降参のポーズ。その後ろにフゥ太も付いてきた。
「へぇ……これは意外だ。名前は?」
「────く、黒江、です……」
そこで水野むくが反応した。
「ん? 黒江? たしか黒江って名前、最近どこかで……」
「────悪魔契約の子」
「んなっ!? そうだテメェ、十代目の電話で出てきた奴か!」
「……なるほど。大体の事情は分かったよ。じゃあ僕は帰るね」
恭弥はスタスタと帰路に就く。そこで隼人が物申した。
「おい待てテメェ! こいつの宿はどうすんだ! 戦闘のせいで建物が全部崩れちまった!」
「そんなの僕の知ったことじゃない」
「なっ……散々こいつを利用しやがってその口ぶりかよ!」
「利用? 等価交換のつもりだったけど……なに? 文句あるならここでやるかい?」
「ちょ、待てって! 落ち着け隼人。俺たちが部屋を貸せばいいだけの話じゃねぇか」
「うるせぇ! こいつは前からムカつくんだよ!」
「嵐の人、雲の人、やめて……」
黒江を置いて揉め事が起きている。しかし凪の仲裁で、恭弥はやる気を失ったように立ち去った。隼人は「ケッ!」と不満そうに地面の石を蹴る。それに安堵する水野むくは、困ったような明るい笑顔で黒江に振り向いた。
「あー、それで? 黒江は何しにここに来たんだ?」
「……! え、えっと……それが、その……自分でも、よくわからなくて……」
「あぁ!?」
「おい、隼人!」
隼人はむしゃくしゃしているのか当たりが強い。八つ当たりは勘弁願いたいと思いつつ、黒江は脳裏によぎった言葉を衝く。
「……少し、悪魔さんの話とかを聞いてみたくて……」
「……!」
黒江と凪の視線が合う。それを見て察した水野むくは、隼人に目配せした。
「……チッ。そういうことならしゃーねーな。遠くから来たんだろ? 水野の家にでも泊めてもらえ」
「俺かよ。まぁいいけどよ!」
「ううん。私はここにいる」
「んなっ!? こんなボロボロの廃墟でか!? どうやって住むんだよ! もう建物は崩れちまってんだぞ!」
「そうだぜ。それとも雨風しのげる場所があるのか?」
「地下なら、まだある……」
「……ったく。強情な女だ。そんなにこんな場所がいいのかね……好きにしな!」
「……そっか。なんたって思い出の場所だもんな。あ、それならホイ、これ俺んちの寿司な! ロクなもん食ってねぇんだから、これで精をつけろよ!」
「……あ、ありがとう……嵐の人、雨の人……」
黒曜ランドを去る隼人とむく。それを見送った凪は立ち上がり、黒江とフゥ太に視線を運ぶ。
「……来る?」
「あ、はい! お邪魔します……!」
†
昼下がりの黒曜ランド。その地下施設はショッピングモールの廃墟。暗闇の隅に光る双眸は数匹のネズミ。鳥の巣でもあるのか小鳥がバサバサと羽ばたく音まで響き渡る。
「えっと……凪さんは、こんなところで暮らしているんですか……?」
「うん」
ガレキの中から引っ張ってきたソファを設置した凪は、ホコリを叩いて簡単に掃除。その上にお寿司の弁当を置くと、なぜか壁際に移動してちょこんと座った。
「え、ソファには座らないんですか……?」
「……端っこの方が、落ち着く……」
「僕はソファでもいい?」
凪は頷く。フゥ太はソファに飛び込むが、地下施設を探検したいのかワクワクとした表情で冒険を開始する。
「あまり遠くに行かないでね」
「うん!」
フゥ太が心配でその背中を目で追いかける黒江は、凪の傍らに座る。
「……」
「……あ、あの……お話、いいですか……?」
凪はこくんと頷く。しかし黒江は話したい事と言っても特にない。悪魔のことを聞こうかとも思っていたが、別に悪魔のことにも深く興味はない。では自分は何しにここに来たのか。なんのために家を出て並盛町まで足を運んだのか。それは黒江にすら分からないこと。それを知るために来たと言うべきでもある。
「……その、要領を得ない話になっちゃうんですか……私の話を、聞いてくれますか……?」
「……?」
黒江は語り始める。
願いを叶えて魔法少女になったこと。魔女との戦いで死を実感し、戦いが怖くなって魔法少女を辞めたいと思うようになったこと。そこで悪魔と出会い、契約を交わして魔法少女を辞められたこと。しかしインキュベーターが現れて再契約をしつこく迫り、ちょっとヤバイ魔法少女や魔女をけしかけられて、自分や家族の命が危険に晒されたこと。最終的に魔法少女になることなく生き延びられたが、それは死ぬ気の炎を灯すリングのおかげであること。そして────
────黒江の語りが止まる。凪は首をかしげて続きを待つが、なかなか黒江は話さない。
「…………言いにくいこと?」
「…………、……」
黒江はざわつく胸を強く抑えて続きを話す。
リングは覚悟が炎を灯す。だが家族を守りたいという思いでは灯らず、ただ自分だけが生き残りたいという思いで炎が灯ったことに絶望したこと。それで居心地が悪くなって、つい家を出てしまったこと。正直目的なんて端から存在しない当てのない旅だった。つまり自分は逃げてきた。惨めにも逃げている自分を見て見ぬふりをして、ただただ逃げてきただけだった。
「……それで、ここへ?」
「……」
「……でも、逃げる場所があるのは、いいことだと思う。私には骸様と会うまで、そんな場所なかったから……」
「……!」
つまり凪にとっての骸がそうであるように、黒江にとっての悪魔がそうであったのか。
黒江がどこかに逃げ出したいと思った時、最初に悪魔の顔が浮かび、並盛町が頭に浮かんだ。
「……でも、だからなんだって話ですよね。なんかすみません、私なんかの話を長々と……」
凪は首を横に振る。そんなに自分を卑下する必要はないと目で物を言う。
「その……うまく言えないけど……誰かに言いにくいことを、私に話してくれたのは……なんで?」
「え? あ……なんで、でしょうかね……話しやすかった、のかな……? ほら、ほかの人はなんか、こんな暗い話、好きじゃなさそうだし……」
「……」
「あ……! だからって、あの、その、別に凪さんなら暗い話をしてもいいとか、そういうのじゃないですから……!」
「……?」
凪は何を慌てているのかと首をかしげる。しばらくの沈黙。やがて凪が口を開いた。
「……でも……あなたの話を聞いていたら、ひとつだけ気になったことがある……」
「……え?」
それは核心を突くような一言だった。
「あなたが居なかったら、誰があなたの家族を守るの?」
「────!」
「あなたが居たから、魔女の口づけを受けた家族を救い出せた。怖くても、見捨てておけないから、頑張った。でも……もしあなたが居ない今、あなたの家族が魔女の口づけを受けたら……」
いったい誰が助けるのか。
そんなことは言われなくても分かっているつもりだった。その上で目を逸らしていたことを痛感させられた。
「……でも、私は家族と一緒にいる資格なんて……」
「……それに関しては、私からは何も言えない。だって私は、自分の家族を守りたいと思ったことなんて一度もないから」
「……!」
その一言だけで、黒江は凪の家庭事情をある程度見抜くことができた。
ガリガリの体。家なき子。廃墟暮らし。家族より六道骸や悪魔という赤の他人を尊敬し、命を預けるほど信頼している。つまり六道翁や悪魔と会うまでは、ろくに人の優しさに触れてこなかったということ。
「…………」
「……凪さんは、ここで暮らしてて不便とか感じていないんですか……?」
「うん。前の暮らしよりマシ。誰も居ないし、静か。黒曜のみんなと居た時は、うるさかったけど楽しかった。でも、そんなみんなはもう居ない……」
「あ……」
「その代わり、嵐の人や雨の人、雷の子や晴の人、そして雲の人が、よく顔を出してくれるようになった」
「……それって、さっきの人たちのことですよね?」
「うん。特に雲の人は、よく仕事を頼みに来る。嵐の人も、悪魔様のために研究をいっぱいしてて、私に作成をお願いしてくる」
「作成?」
凪は自分のソウルジェムを見せる。それは藍色をしていた。
「私の固有魔法は《施術》……雲の人は、これで匣兵器の魔法版を作ろうとしてる。嵐の人は、これで武器を作って悪魔様の役に立とうとしている。二人とも頭がいいからすごい。研究者みたいに次々と発明していく。私はそれのお手伝いをしている。お手伝いすると雲の人は“報酬”、嵐の人は“給料”と言って、お金をくれる」
「……たぶん、それは凪さんのためだよ」
「……うん。たぶんそう。わかってる。みんな……やさしい」
初めて凪の顔が和らいだ。
それを目にした黒江は安堵する。状況の改善もなにも、凪は現状で満足しているのだ。と言っても流石に崩れている廃墟の地下で暮らすというのは、あまりにも危険だし衛生環境も悪い。どうにかできれば良いが、と黒江は考えるが……そんなことができる力は自分には無いと絶望する。
その時、黒曜ランドの正門方面からクラクションの音が鳴り響いた。誰かを呼ぶようなクラクションの鳴らし方は、明らかにこちらを呼ぶような音だった。
「え……凪さん?」
「…………」
凪は身に覚えがないと首を横に振る。では誰が訪問してきたのか。何かの勘違いかもしれないが、一応様子を見に行こうと凪は地上へ上がる。胸騒ぎを感じた黒江はフゥ太を呼び戻し、凪を追いかけて階段を駆け上がった。
†