※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【魔法少女という世界に未練たらったらや】リヴィア・メディロス

 

 黒曜ランドの正門前。そこには一台のトレーラーハウスが停車していた。青と紫を基調とした異国情緒感あふれる(エキゾチックな)キャンピングカーから降り立ち、夕暮れに反射する眼鏡をクイッと上げなおすは、黒髪紫眼の褐色美人。リヴィア・メディロス。

 

「なんや。ここが悪魔の言っていた黒曜ランドかいな。思ったより古ぼけててエエ感じやなぁ……」

 

 リヴィアは興味津々と行った様子で黒曜ランドを観察する。そこに凪と黒江、フゥ太が近付く。

 

「……あの……」

「おっ! マジで人がいよった! あんさんがジュリー凪か? ボンゴレ霧の守護者の代理……は悪魔が否定しとったが、呪いに近い願いを叶えて戦う力を失った魔法少女っちゅーんは」

「……! 悪魔様を知ってるの……?」

「あぁ知ってる。湯国市でちょっとな」

 

 そこでリヴィアの目は黒江の指に留まった。

 

「……なんやアンタ、なんでそないなもん持っとんのや」

「────え?」

「リングやリング! うわ、精製度ひっく! 見ただけで分かるわこんなもん簡易キットで作ったやつやろもったいない! ソウルジェムの無駄遣いやわ! まさかチェデフ仕様か? だがどう見ても兵隊さんには見えへん。あんさん何もんや?」

「え、あ……わ、私は……!」

 

 ちょっと怪しい関西弁でまくし立てられた黒江は萎縮してしまう。

 そこで「おっと申し訳」と眼鏡を直して落ち着いたリヴィアは仕切り直す。

 

「そういや名乗っておらんかったな。私はリヴィア・メディロス。世界を巡る調整屋ことピュエラケアや。よろしゅーな!」

「……調整屋?」

 

 その名前にあまり聞き覚えがない黒江は戸惑う。

 

(そういえば神浜市で“魔法少女のソウルジェムを強化してくれる調整屋のうわさ”は聞いたことがあるけど……)

 

「なんやアンタ、元魔法少女のくせに調整屋も知らんのかいな」

「────っ! なんで私が元魔法少女って分かって……!」

「なぜもなにもプールの匂いがプンプンや。悪魔契約交わしたんやろ? まぁこれも魔法少女を救うもうひとつの道か……下世話な事この上ないがな! ハッハッハッ!」

「えっと、あの……」

「で? どう見ても一般人に戻ったあんさんがチェデフの逸品をどういう経緯でちょろまかしたんか気になるが……そんなこと私らには関係ないことか。余計な詮索して申し訳ないな」

「い、いえ……」

 

 その舌の勢いたるや言葉を挟む余地もない。どうやらリヴィア・メディロスは興奮しているようだ。

 

「それより……この黒曜ランド。宝の山やのう……確かに持ち腐れや。────よし、まぁええやろ。悪魔の予言通りになんのが癪に障るが、代金は要らん。これは将来的な投資ってやつや。……ジュリー凪。今から私の弟子にならんか? 悪魔から頼まれてんのや。困窮した生活を送る魔法少女のみなしごを救うためにも、どうか調整の技術を教えてやってほしい────ってな具合にな!」

「────え……」

「嘘だと思うんなら悪魔に連絡取ってみーや。金銭には困ってないみたいやけど、生活態度に難有りすぎや。廃墟暮らしの趣味は人それぞれやけど、魔法少女だからって不潔な場所に暮らしてて何の影響もないってことはないんやで~?」

「…………」

 

 ふとジュリー凪は縮こまったように固まった。

 

「……私は……今のままで充分……です」

 

 そして彼女なりの強い拒絶の一言。言葉こそ強くないが、その体から発されるオーラで分かる。

 凪は踵を返して地下に去る。それを追い掛けようか迷った黒江だが、今は一人にした方が良いのだろうかと考え直した。

 

「あーらら。悪魔に聞いた通り、初っ端から断固拒否と来たか。なんでも思い出の場所らしいけど……流石に説得なんて面倒な真似を取ってまで救う義理もないしなぁ……悪魔も“拒絶されたらそれでいい”と言ってたし……ありゃ無理強いはしなくていいってことやろ。それなら帰るかね……いやでもホント、ここ宝の山で惜しいんやけどなぁ……豚が真珠の山の上で暮らしてるようなもんやって」

 

 どうしたものかと頭を掻くリヴィアは車の中に戻る。だがすぐに発車する素振りはなく、しばらくここに滞在するようだ。その証拠に扉は開きっぱなし。車外側の機械がウィーンと音を立てて稼働してテントを開いた。居座る気満々である。すると二人の少女が降りてきた。彼女たちは黒江とフゥ太に出くわすと会釈して街の方に向かう。

 

「失礼」

「ふむふむっ!」

「こんばんはと申しております」

「ふむっ!」

 

 そして車の中から折り畳み椅子を持ってきたリヴィアはテントの下に展開し、外付けテーブルも開いて優雅にお茶を始めた。

 

「……飲むか?」

「い、いえ……遠慮なく……」

「……黒江姉。黒曜ランドに戻らないの?」

 

 フゥ太の問い。それに黒江は答えられない。前門にはピュエラケア、後門には黒曜ランド。それはまるで黒江の今後を左右するかのような運命の立ち位置。なぜかは知らないが胸騒ぎがする。それは悪い予感ばかりを意味しない。むしろ何かしらの光明を見つけたかのような心地に近い。

 

「────ふぅん……なんや、ふわふわした奴やと思っていたが……本当にシュークリームみたく足元ふわっふわっやないか。あんさん名前は?」

「……く、黒江、です……」

「んじゃあ、なんでそこに突ったっとるん? 私らに興味でもあるんか?」

「それは……」

「当ててやろうか? 黒江は進(・)路(・)に(・)悩(・)め(・)る(・)若(・)人(・)や。魔法少女を辞めた自分は、これから何をして生きていけば良いのやろう。それにずーっとずーっと悩んでる。魔法少女という世界に未練たらったらや」

「いえ、それはないです。別に私のやりたいことは……魔法少女じゃなくても、できるから……」

「ならそれを言ってみ? なんや? そこまで断言できるってことは、もう答えなんて見えているようなもんやんけ。あとは勇気を出してチャレンジするだけや。飛び込んでみ、新しい世界に」

「────っ……」

 

 黒江は踵を返して町に向かう。それを追いかけるフゥ太。

 リヴィアは黙って見守り、静かに目を閉じた。

 

「今は逃げてもいい。人には歩き方の種類がある。逃げて逃げて一つの道を選ぶタイプと、あらゆる道を選んではやめて最後に自分だけの道を見つけるタイプや。今回は両者とも奥手みたいやから、どっちも前者極振りって感じやけどなぁ」

 

 世界中の魔法少女を調整し、その心の影を覗いてきたリヴィア・メディロス。年頃の少女の経験が豊富な彼女だからこそ一発で見抜ける心理がある。それは前途多難の魔法少女の心底懊悩(ゆくえ)。それは元・魔法少女であっても変わらない。

 

「しっかし、悪魔も罪な男やなぁ……まぁ、それを自覚しているからこそ、悪魔と名乗っているんやろうけど……。──人はどう足掻いても罪を背負う生き物だ。罪なき者のみ通れる道なぞ存在しない。それが悪魔の持論や。──必ず罪は贖えると信じる私らを否定こそしないが、理解も示してくれるが、協力もしてくれるが、なんというかまぁ…………────青いなぁ……」

 

 今日の空はやけに青い。

 

「たしかに悪魔の言う原罪はどうにもならん。だが余分な罪は濯げる。純粋無垢ゆえに願ってしまったどうしようもないすれ違いを。まっさらとはいかんが、原罪のみの真人間に戻ることも一つの純潔やと思うんや。その希望だけは捨てたらあかん。でなきゃ私らは、どの明日に向かえばええっちゅう話やん……」

 

 茜色のお天道様を拝んで、そう呟くリヴィアであった。

 

          †

 

 黒曜町の商店街。

 

「黒江姉? どうしたの?」

 

 フゥ太の案ずるような声にも返さず、黒江はコンビニに入店する。

 

「好きなパンひとつ買っていいよ」

 

 黒江は安くてお腹が膨れて美味しそうなハンバーガーを選ぶ。

 フゥ太もその隣にあるチーズバーガーを選び、レジで温めてもらって買い物を済ませ、黒曜ランドに帰る。

 

 途中、茶を嗜むリヴィアを目にしたが、それを避けて黒江は地下に戻る。

 暗闇の中で光るランタン。それは藍色の魔力光。淡い光の中でソファに寝そべる凪は足音を聞いて目を覚ます。

 

「あ、ごめん……起こしちゃったね」

「ううん。大丈夫……」

「……じゃあ、その……厚かましいとは思うけど……ソファ、座ってもいい?」

 

 凪は当然だと言うように、こくんと頷く。隣に座る黒江。その隣に座るフゥ太。

 

「黒江姉。もう夕飯?」

「そうだね。暗くなったら何もできなくなるし……今のうちに食べて、早いとこ寝ちゃおうか」

 

 黒江とフゥ太は熱いパンをモグモグと食べる。そこで凪のお腹が鳴った。少し赤らみながら凪は弁当の封を切り、お寿司を食べる。

 

「うわぁ! マグロだ! いいなぁ!」

「……食べる?」

「え、いいの!? なら僕のチーズバーガー少し上げる!」

「ありがとう……」

 

「黒江姉は?」

「え、私? いいよ……」

「……あなたは、お寿司嫌い?」

「いや、そんなことないけど……」

 

 何やら交換した方が良さそうな雰囲気。

 

「凪さんは、これ要らないってものある?」

「……特にない。でも強いて言うなら……巻き寿司が多いから、これ幾つか貰って」

「あ……じゃあ私のバーガー、どうぞ……」

 

 お寿司とバーガーという贅沢な食事を分け合って堪能する。

 そこで黒江は問いかけた。

 

「あの……凪さん。実は私たち寝床がなくて……こういうソファって、ほかにあるかな……?」

「……これしかない」

「あ、そっか……えっと、その……本当に厚かましくて申し訳ないんだけど……せめてフゥ太だけでも、一緒にソファ使わせてもらえないかな……? 二人までなら使えそうだし……私は壁際で寝るから……」

「……ダメ」

「────っですよね! なんかホントもうごめんなさい!」

 

 黒江は焦って頭を下げる。

 

「……あんなところで寝たら風邪引く。このソファなら大きいから三人でも寝れる」

「えっ……?」

「でも狭い。私は魔法少女だから風邪引かない。邪魔だから私が壁際で寝る」

「────だ、ダメですよ! そんなことされても嬉しくないというか、いや、思いっきり邪魔してるのはこっちだから何言ってんだってのはその通りなんですが……」

 

 黒江はなんとかして凪がソファで寝るよう説得する。

 それをボーッと眺めるフゥ太は、話の流れで背もたれが後ろに倒せることを知り、試してみる。

 

「うわぁ!?」

 

 すると古いソファだからかバキボキと音を鳴らしながら思いっきり倒れた。黒江は凪を押し倒す形となり、二人の体が重なる。

 

「ご、ごめんなさい! ちょっとフゥ太!」

「ごめーん!」

「……」

 

 三人はソファから起き上がる。そこでフゥ太が気付いた。

 

「ほら、三人で横並びに座れるんだから、ソファも倒せば三人で寝られるじゃん! 欲を言えば毛布も欲しいけど……ハックション!」

「え、フゥ太……寒いの?」

「……毛布はそこにある」

 

 凪は毛布を取ってきてフゥ太に渡す。

 

「ありがとう、凪姉(ねえ)!」

 

 にっこりと微笑むフゥ太は毛布を体に巻いてソファに倒れる。

 黒江も毛布を貰い、凪と同様、肩に掛けた。

 

 食事が終わる。水を買うのを忘れていたが、凪によれば水道が止まっていない場所があるらしく、そこから水が飲めるとのこと。しかし、あまり良い水とは言えなさそうだ。近くに公園もないため水を取れる手段がない。

 

(どうしよう……。────そうだ!)

 

 ピンときた黒江は黒曜ランドの水を汲む。予想通り少し汚い。蛇口から苔みたいな緑も混ざって流れてきた。それをバケツごと持ってくる。水をコップで掬った黒江は嗅いでみるが、やや変なにおいがする。そのまま飲むのはヤバそうだ。

 

「うぇえ……黒江姉。こんな水飲んだら体壊しちゃうよ」

「そうだね……だから……」

 

 黒江は雨の炎を灯す。鎮静効果で悪いものを沈殿できないか閃いたのだ。

 

「わ、すごい! 水が少し青くなったけど……汚いものが下に溜まっていく!」

「でもこのままだと飲むとき口に紛れちゃうから……そうだ!」

 

 今度は霧の炎を灯し、ドーム状の不純物を作成する。それで汚い物が昇ってこないよう蓋をすることに成功した。

 

「うわぁ! 黒江姉、あったまイイー!」

「……これ、雨と霧の炎を操る練習に便利かも……」

「……」

 

 凪は興味深そうに覗き込む。そんな彼女に黒江は綺麗な水のコップを渡す。

 

「はい、凪さん」

「えっ……私は、いい……魔法少女だから、毒を飲んでも大丈夫……」

「……えっと、たとえそうだとしても……飲んでほしいんです。やっぱりその、なんていうか……凪さんには、もっと健康的な生活をしてほしいから……」

「……それは……私の勝手」

「そう、なんですけど……こっちが嫌なんです。勝手でごめんなさい……」

「…………」

 

 黒江は受け取ってくれるかは分からないが、目をつむってコップを差し出す。

 しばらくすると、そのコップが受け取ってもらえた。凪はごくごくと飲んで一息つく。

 

「……きれいな水。おいしい」

「ほんとですか!? よかった……」

「雨みたいな匂いがする」

「えっ。それってコールタールのような……? もしかして雨の炎だから? いやでもコールタールの成分が入っているわけではないと思うし、たぶん大丈夫だと思うですけど……あれ……!?」

 

 黒江は水を飲んでみる。きれいな水だ。舌触りとのどごしで分かる。だが確かに雨のような匂いがした。不思議な感覚である。

 

「でもきれいだから大丈夫なんじゃない? 僕は何杯でも飲めるよ!」

「うん」

「ほ、ほんと? よかった……」

 

 最初は自分で味見しておくべきだったと黒江は反省する。

 そうして食事と水分補給を済ませた三人は毛布を体に巻いてソファに寝転がった。

 

「……………………この感じ、久しぶり」

「え?」

「誰かと寝るの……」

「……」

 

 凪の呟き。それを静かに聞き入る黒江。

 そのとき、再びフゥ太のくしゃみが飛んだ。

 

「はくしょん!」

「え……フゥ太、大丈夫?」

「ちょっと寒くなってきた……」

「……待って。さっき探検してたよね? 走ったりして汗かいた? ちゃんと拭かないとダメだよ……汗で体が冷えちゃう」

「そうなの? でも確かに走ったあと落ち着くと寒くなるよね! ────はっくしゅん!」

「か、風邪ひかないでよ……? ハンカチあるから、これで体を拭いて……」

 

 フゥ太は服をまくって体を拭くが、背中側がうまく拭えない。それを見ていられなかった黒江は「貸して」と言ってフゥ太の背中を拭く。

 

「黒江姉ありがとー」

「いいから、私と凪さんの間に入って。挟まってた方があったかいはずだし。私の毛布も半分使っていいから」

「いいの? ……やっぱり黒江姉ってやさしいんだね!」

「……! ……そんなことないよ……人として当たり前のことしてるだけ……」

 

 ソファの真ん中で寝付くフゥ太。その小さな体に身を寄せた黒江は、自らの毛布を半分フゥ太に掛ける。

 

(……なんか、ちょっといたたまれないな。恥ずかしいというか……年下とはいえ知らない男の子とこんな事したことないから……いや、変な意識はしてないけど……ぜんぜん……全然してない……)

 

 謎の煩悩に悩まされる黒江。それもこれもフゥ太の容姿が整っているのが悪い。だが黒江は薄々気付いている。フゥ太は意外と上目遣いを駆使することで、自分の希望通りの展開に持っていこうとする腹黒い一面があることを。

 

「おやすみなさーい」

「おやすみなさい」

「…………おやすみ……」

 

 フゥ太、黒江、凪の順で目を閉じる。

 

(…………明日のこと。今後のこと。将来のこと。すぐには決まらない心の問題は、今はあとでいい……焦る必要はない。確かに魔法少女を辞めて身を守る術がなくなって焦っていたけど……今はリングがあるし、凪さんもいる。魔法少女だった頃は毎日グリーフシードをどう工面するかで精一杯だったけど、今はそんなことないからまだ余裕がある……心の余裕がある。食べ物にもまだ困らないし、お金はあるから帰ろうと思えばいつでも家に帰れる。たとえお金がなくてもタクシーを拾えれば家まで直行して家族に払ってもらえばいいだけの話だし……少なくとも魔女と戦う必要がないっていうのが、一番の心の救い……なはずなのに……)

 

 黒江の胸の内がくすぶる。

 

(……魔女とはもう戦いたくない。でも、それじゃあ誰かが魔女に襲われていたら、私はどうするの? 見捨てることはできない……でも魔法少女じゃなくなった私にはどうすることもできない。何度も同じこと考えてる……なんで嫌なことばかり考えちゃうの……)

 

 ────魔法少女を辞めなければ良かったかもしれない。

 

(そんなこと……絶対にあるわけないのに……)

 

 やがて黒江の頭の中は、自然と眠りに誘われていった。

 

          †

 

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