※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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4月13日【あの子に合成屋を勧めたんですか? ……やはり先生は血も涙もない人ですね】篠目ヨヅル

 

 早朝。白い霧が黒曜ランドを包む。

 

(うぅ……さむい……)

 

 黒江はギュッと暖かいものを抱き締める。

 

(……? そういえば……あったかいものなんてあったっけ……?)

 

 黒江は目を開く。首が下に向かない。それは首元にフゥ太の頭があるからだ。横向きに寝る黒江は抱き枕のようにフゥ太を抱き締めている。あまりにもぴったりとハマる密着の仕方は心地よいが、反面、黒江の羞恥心を強く刺激した。

 

「わっ!?」

 

 黒江は驚きのあまり声を発して手を放し距離を取る。その声によりフゥ太と凪の目が覚めた。

 

「……? 黒江姉どうしたのー?」

「い、いや……なんでもないよ?」

 

 妙に心臓がドキドキしている。寝ぼけ眼でまぶたをこするフゥ太に対し、振り返ってこっちを見るなと言いたげに背中を押す。

 

「……おはよう」

「あ、おはようございます……すみません、突然変な声出して……」

「ううん。ちょうど起きる時間……」

「ちょうど? えっと、今の時間は……」

 

 スマホを取り出すと現在時刻は朝の六時ごろ。と同時に充電が残り30%しかないことに気付く。

 

「えっ……もしかして寒い場所に居たから? しまった……電源を切っておけばよかった……」

「……充電できるよ」

「え! ホントですか!?」

「魔力を電力に変換する魔法系匣兵器……嵐の人と作ったから……」

 

 凪は懐から匣兵器を取り出す。

 

「死ぬ気の炎か魔力を注入すれば、電力に変換されて蓄積する。あとは接続端子をスマホと繋げればいい」

「す、すごい発明ですね……これも《施術》の魔法ですか?」

「うん」

 

 黒江は死ぬ気の炎を注入したあと、匣兵器とスマホを充電コードで繋ぐ。すると急速充電が開始されてみるみると充電されていく。

 その間に鎮静と構築で浄化した水で洗顔。水分補給を済ませると、フゥ太が「おなかすいたー」と言ってくる。

 

「それじゃあコンビニ行こうか」

「またパン一個?」

「おむすびでもいいよ。……それじゃあ凪さん。行ってきます」

 

 黒江とフゥ太は地上に上がる。そこで聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「あぁー! 霧の出る朝はなんでか気持ちがいい! これは私らが霧属性だからなんかね? いや関係ないか!」

「……リヴィアさん」

「おっ。黒江やないか。おはよう。これから朝飯か? 私らもや」

「えっと……勝手に黒曜ランドの敷地に入って何してるんです?」

「フィールドワークや。言ったやろ? ここは宝の山やって。どういう意味か知りたいか?」

「……いえ……その、私たちコンビニに行くので……」

「そうか。ほな行ってきやー」

 

 会釈した黒江はフゥ太を連れて黒曜町に足を運ぶ。そこでおにぎりを買ってカウンター席で食事を済ませ、再び黒曜ランドに戻る。その途中でフゥ太が聞いた。

 

「ねぇ黒江姉。あのリヴィアっていう人のこと、なんで避けてるの?」

「────え?」

「同じ魔法少女の仲間なんでしょ? なんで?」

 

 子供の純粋な疑問。それに答える前に黒江は疑問を得た。

 

「ま、待って……フゥ太は魔法少女って意味、分かって言ってる……?」

「うん。インキュベーターに魔法少女にさせられた人たちのことでしょ?」

 

 黒江は絶句した。なぜそんなことを知っているのかと。

 

「マフィア界じゃ魔法少女のことを知らない組織はあまりないよ? イタリア最大手マフィアのボンゴレはインキュベーターと事を構えた歴史があるから尚更ね。そもそも死ぬ気の炎を灯すリングだって、魔法少女の魂の欠片から作られた忌(・)避(・)す(・)べ(・)き(・)邪(・)法(・)の(・)兵(・)器(・)だし……なによりランキング星はインキュベーターが大嫌いなんだ。あいつらのせいでランキングが狂いまくるんだよ。魔法一つでランキングが改変されるから……たまに僕も困るんだ。きっとツナ兄が見つからないのもインキュベーターのせいだよ! そうに違いない!」

「……そう、なんだ……」

 

 黒江は驚く。最大手マフィアにとって魔法少女は既知の存在。思い返せばトマゾファミリーやトッドファミリーもリングを嵌めていた。リングを持っているなら、その由来を知っていても不思議ではないはずだ。

 

「……もしかして魔法少女も一枚岩じゃないの? 僕あまり魔法界については詳しくないから……」

「……そうだね。でも別に嫌っているわけじゃないの。私が逃げてるだけ。……怖がって二の足を踏んでるだけなの」

「…………」

 

 フゥ太は手を取る。黒江と手をつなぐ。

 

「黒江姉。僕にできることがあるならなんでも言ってね! 黒江姉は僕をトッドファミリーから助けてくれたし、寝る時も抱き締めてあっためてくれた優しい人だから、僕も力になるよ!」

「うぇ!? だ、抱き締めたって……知ってたの!?」

「……? うん。深夜になるともっと寒くなってきたから、黒江姉ギュッと抱き締めてきて起きたんだ。あまりに強すぎたから一回押しのけちゃったよ」

「────そ、そうだったんだ……なんかごめんね……?」

 

 黒江は視線を逸らして頬をかく。

 

 そのまま手をつないで黒曜ランドに帰ると、まだ散策しているリヴィアと顔を合わせた。

 

「おぉ、おかえり。なんや手ぇつないで仲いいな。姉弟には見えんけど……」

「いえ! ただの友達です!」

「わぁ!」

 

 黒江はバッと手を放す。突然のことで驚いたフゥ太は首をかしげていた。

 

「ははは。なに恥ずかしがっとんねん。仲いいことはええことやで」

「……っ!」

「かわいいやっちゃなー! あ……そうだ。ほれ、ちょっとこっち来てみい」

「……?」

「建物が崩れて崖になってるから気ーつけよ。下になんや散らばっとるもん見えるやろ。魔法少女の素質があるなら見えるはずや」

「────、…………っ!?」

 

 崖の下を覗いた黒江は、最初そこにある物質がなんなのか分からなかった。だがよく目を凝らせば見覚えがある。

 主に赤い物体。蠢いている。血のように散逸した水滴。それは────

 

「魔女の、血肉……!?」

「ご名答! ほかにもここで倒された魔女やその手下の素(・)材(・)がぎょーさん転がっとる。きっと黒曜ランド全体がこうなんや」

「な、なんでそんなことに……!」

「そりゃ掃(・)除(・)す(・)る(・)奴(・)が居ないからやろなぁ……大抵の魔女やその手下は倒されると血肉や骨、特徴的な身体の一部を落とす。それをほかの魔女が喰うと瘴気で腹が膨れるから強くなり、ほかの手下が喰うと同じ原理で成長して魔女に育つ。だが、そうやって手下が魔女になった場合は人間を喰ってないからグリーフシードを孕んでない。これがハズレ魔女、もとい種無し魔女の正体のひとつやな」

「……掃除……」

「覚えないか? 掃除する瞬間を見たことがある魔法少女は滅多にいないが、魔女戦闘が終わった直後、多少の魔女の血肉がそこいらに散らばる程度は覚えがあるやろ。あれがどういう理屈でいつの間にか消えているのか考えたこと無かったか? ちゃんと掃除せんと魔女が育っちまうんやでー」

「……キュゥべえは、そんなこと一言も……」

「そりゃ当たり前やろ。魔法少女が殺されるんはデメリットやが、魔女が強くなることにはメリットしかない。勝てないと絶望した魔法少女がその場で魔女化することに期待してんのや、インキュベーターは」

 

 それにしても違和感がある。黒曜ランドの奥地はあ(・)ま(・)り(・)に(・)も(・)魔(・)女(・)の(・)血(・)肉(・)が(・)多(・)す(・)ぎ(・)る(・)。これはどういうことかとリヴィアに聞くと、その場にジュリー凪が現れた。

 

「それは、骸様のおかげ……」

「凪さん……!」

「一年前まで、ここは魔女の溜まり場だったの。でも骸様が黒曜ランドをアジトにすると決めた時、ここに集う全ての魔女を倒した。使い魔も一匹残らず始末した。でも骸様は魔法少女じゃないから辺りに散らばる魔女の残骸が見えなかった。でもそれが功を奏した。よその土地から集まってくる魔女たちは、黒曜ランドの有様を見ると怖がって近付かなくなったの」

 

「……なーるほどなぁ……要は、かの串刺し公の所業と似たような効果が期待できたっちゅーわけや。魔女の残骸を掃除するのは魔女の役目。だが屍山血河が築かれている場所に自ら近付く馬鹿な魔女は、まぁ少ないやろな。魔女にも色々あるっちゅーても、基本的には生存本能の塊なわけやし。ハイエナやハゲワシのような魔女しか近付かんやろ。こんな魔女も驚くおっそろしー場所は」

「でも、そういった魔女は私が倒してる。だから黒曜ランドは依然としてこのまま」

 

 そこで黒江が問いかけた。

 

「でも……こんな血まみれな場所に住んでいて、気持ち悪くないんですか……?」

「……血の色は見慣れてる。でも居心地は良くない。だからよく使う場所は掃(・)除(・)してる。ほ(・)か(・)の(・)場(・)所(・)に(・)投(・)棄(・)す(・)る(・)って意味だけど」

「その投棄場所がこの崖か……おかげでやばいくらい瘴気が充満しとる。あ、間違っても落ちるなよ。毒ガス吸って昇天するようなもんやで。おそらくひと呼吸で意識を失って即死やな」

「えっ……」

 

 黒江はフゥ太を連れて下がる。

 

「しっかし、この死体の山。魔法少女の仕業じゃないと言ったか? まさか悪魔みたいな超戦士がほかにもいたとはなぁ……そりゃあマフィアがリングを使って魔女の手下と悪戦苦闘するのはよく聞く話やけど……魔女を殲滅ときたか。次元が違うなぁ……!」

「骸様は六道輪廻のスキルを使える」

「かぁーっ! それそのままの意味で受け取ってええんか? だとしたらバケモンってレベルやないな。それ倒した悪魔もヤバイが」

「えっ……悪魔さん、その骸っていう人と戦ったの?」

「うん。そのあと骸様と悪魔様は復讐者(ヴィンディチェ)に攻撃されて……共闘して迎え撃ったけど、それで黒曜のみんなは……」

「ヴィンディチェか……またけったいな名前が出てきたな……」

 

 リヴィアの顔が険しくなるが、よく分からない黒江は首をかしげる。

 

「黒江姉。ヴィンディチェっていうのはマフィア界の掟の番人みたいなものだよ。とんでもなく強いって言われてるんだ」

「まぁその話は今することやない。それより私は────この宝の山をさ(・)っ(・)さ(・)と(・)使(・)い(・)切(・)れ(・)って言いたいんや」

「……使う?」

「……どういうことですか?」

 

 凪と黒江の関心が向く。その瞬間を待っていましたと言わんばかりにニヤリと微笑んだリヴィア・メディロスは、ふたりの顔に指をさした。

 

「そうや! お前ら────《合成屋》に興味はないか?」

 

          †

 

 合成屋。それは“魔女素材”を集めて釜や鍋の中に放り込み、ぐるぐると掻き混ぜて魔法道具を作成する職業を指す。

 時代や地域によって呼び方は様々だが、一例を挙げるなら合成屋は“錬金術師”と呼ばれており、魔法道具は“アーティファクト”や“魔術礼装”と呼ばれている。

 

「単純に、魔女素材を集める“回収屋”なんて職業も昔はあったが、まぁそういうのを一緒くたにして現在では調整屋とまとめられている。というのも合成屋は今や絶滅危惧種でな……まぁそのワケは後で話すわ」

 

 リヴィア・メディロスはトランクと一冊の書物を取り出す。

 

「このトランクは“アルケミーキット”っちゅーもんで、合成に使用する必須アイテムや。でも勘違いすんなよ。チェデフの雑魚キットより遥かに上物や。────んで、こっちの本は“アルケミーブック”……まぁ不思議な不思議な魔法図鑑やな。宇宙の意思(アカシックレコード)と接続しており、何と何を混ぜれば何ができるかを100%に近い精度で予想してくれる超便利アイテムや。まぁ本当にそんなもんと接続してんのかは眉唾やけど、合成の助けになるのはホンマや。ちなみにこちらのお値段は百兆ドルを優に超えるが……今回ばかりは特別に、黒江はんが持っとる《CEDEF仕様お手軽リング精製キット》と交換と行こうや」

 

「えっ……」

「別にええやろ。アルケミーキットはリング精製キットの完全上位互換や。いいや超上位互換と言ってもええで。なんなら試してみるか? お試しにソウルジェムの欠片は無料で渡すから、アルケミー図鑑を開きつつ好きにリングを合成してみーや!」

「わ、ちょっと、そんな急に言われても……! それになんで私なんです……!?」

「まぁまぁ。物は試し言うやろ!」

 

 にっこにこのリヴィアは、黒江にトランクと図鑑を押し付ける。そして懐から七色のソウルジェムの欠片を取り出した。

 

「何属性がいい?」

「……じゃあ、霧で……」

「はっは! そこは雲やないんか! 意外と先を見てるやん! ほら、キット開きやー」

 

 黒江は地面にトランクを置いてキットを開く。中には小さなツボと、中身をかき混ぜる杓子のようなものがあった。

 

「その小さなツボ、中の空間が魔法で拡大しとるからゾウさん百頭入れても平気やで。あとツボ自体に意思があるから間違っても黒江はんや杓子を吸い込むことはない。仮に中に吸い込まれても手を上に伸ばせば出られる。

 ……で、まずは炉を焚かんとな。ツボの中に無属性の魔力または霧の炎を注入するんや。まぁそれ特製の変換炉が内蔵してるから何属性でも勝手に純化してくれて炉が焚けるんやけどな。

 ……ほい、《闇魂石の凝晶》と《ただの指輪》! これをツボの中に入れたらイメージや。作りたいもんの形や出来栄えをイメージしながら杓子で掻き混ぜて待つ。途中で完成形が気になったら図鑑を開いてもええ。とにかくイメージの正確さが大事なんや。人にもよるが、イメージの良さは知識力に比例する。多くの知識を持つ者ほど、より自分が求める合成品が出来るものなんや。霧の炎の使い手なら、その程度お手の物やろ?」

 

 黒江は言われた通りの工程をこなす。闇属性のソウルジェムの欠片をツボの中に放り込み、高ランクのリングの精製をイメージしながら杓子で掻き混ぜる。

 

「イメージが固まらん限り合成品は出てこんからな。その調子やと……あと数分はイメージを維持しつつ掻き混ぜなあかん。意外と根気が必要なんやでー」

「……っ。あの……これ、杓子を掻き混ぜる必要あるんですか……?」

「ぶっちゃけない」

「!?」

「でも手持ち無沙汰やと集中できひんやろ? 無心で回せ。ガチャと一緒や。無心で回してればいつか出る」

「いやちょっと何を言ってるのか分からないです……」

「ええから集中や!」

 

 杓子で掻き混ぜる。その工程の繰り返しが集中力を増す。という事なのだろうか。一理あるかもしれないが、杓子が単なる集中力の底上げ方法だというのなら、ほかにも自分に合った方法があるのかもしれない。

 

「……私は、なんか、その……ヒーリングミュージックを聞きながらツボの前で寝ていた方が……眠っちゃうかもしれませんけど、やりやすいかもです……」

「ならそれもいいかもな。ただツボの中を杓子で掻き混ぜた方が……いいもんができやすい。Aボタン連打したら捕まえやすくなるくらいには」

「つまり意味ないってことですよね!?」

「心の問題や! 引き寄せの法則を知らんのか! 欲しいもんは心の底から掴み取れ! 人間の本質は欲望や!」

「尤もらしいこと言ってますけど意味ないっことですよね!? なんか私が掻き混ぜなくても勝手にツボの中でぐるぐる回ってる感じがしますし……!」

「せやけどイメージが大切なんは事実や。寝ながら作れたらそりゃもう仙人やで仙人! 人は一分すら集中できん生き物や。すぐに雑念が入る。下手なもん作りたくなかったらツッコミより回せ回せ! まぁ突っ込んでる方が無心になれるんならアンタはホンマモンの関西人や! 鼻が高いで!」

「リヴィアさんは外国人ですよね!?」

 

 そんな掛け合いをしているうちに“ボンッ”と音が鳴り、ツボの中から一個のリングが飛び出してきた。

 

「わっ!?」

「ナイスー! よーやった! 黒江はんは合成屋の才能あるでー!」

「黒江姉すごいや! ぼく錬金術なんて初めて見たよ!」

 

 宙を舞う藍色のリング。それをキャッチしようと三人はワタワタとするが、落ちてきたところを凪がキャッチした。

 

「私のところに落ちてきた。はい」

「ありがとう凪さん……!」

「ほれ、図鑑を見るんや! 色々と詳細が記されているはずやで……!」

「僕さっきから開いて読んでたけど、ずっと霧系リングDランクが精製されるって書いてあったよ! でも常に文字がグニャグニャと曲がってて、失敗するかもしれない時もあった! ちなみに今は完成したからなのか文字は動かなくなったよ!」

 

 黒江はフゥ太から図鑑を貰ってページを読む。

 そこには《霧系リング》という合成の完成品の名称が記されており、詳細には“精製度D”と記されていた。ほか炎圧や純度の高さなども記されており、事細かな情報が記載されている。

 

「これ、まさか本が自動的に……?」

「せやで! 魔女素材を図鑑にかざして見せれば、それの詳細を自動筆記で書き綴ってくれる。その詳細を見ながら何と何と掛け合わせるのか取捨選択して希望通りの合成品が作れるようになれば一人前や! ちなみに今のは“古風”材質のソウルジェムの欠片を使ったからDランクになったんやで!」

「……?」

「まぁそこいらのことは、図鑑の末尾にある知識ページをめくればいい。アルケミー図鑑には古今東西の錬金知識が修まってんのや。先人の知恵はよく読めよー。読み凝らせ。研究し始めたら、もう合成の沼から抜けられんくなるでー!」

 

 リヴィアは笑う。そこで「あっ」と何かを思い出したように付け加えた。

 

「あとな! それ、料理もできんのや! ライスと野菜セットとスパイス入れて《カレーライス》イメージすれば出来上がるで!」

「え……それホントですか?」

「そりゃあ魔法の合成ツボやからな。逆になんで普通の調理工程が合成で短縮できないと思うんや?」

「短縮……。……ちなみにカレーライスを合成する場合は、どれくらいの時間が掛かるんです?」

「んー……私の場合は、一時間かな」

「それなら普通に作った方がいいじゃないですか! 一時間もツボの前で集中しなきゃ作れないとか逆に不便ですよ!?」

「まぁまぁ! 慣れれば秒で作れるようになるのが合成の醍醐味なんや! 何事も熟練が物を言う世界や。スキルなくして生きられる世の中やないで! そんな甘い認識で汁を啜れる世界やないんや! 分かったらもってけ泥棒!」

「尤もらしく締められた……まぁ言ってることは尤もなんだけど……」

 

 黒江は悩む。このアルケミーキットとリング精製キットを交換するのか否か。

 

「……あの、でもこれ……なんというか、その……ぶっちゃけ盗品というか……返すべき人がいるんですけど……でもその人、死んじゃってる可能性があって……」

「ほう。そういうことか。まぁ大丈夫やろ。別に返さん義理もないし。もしそいつが現れてどこやった言われたらピュエラケアが持ってった言うとけ。それで終わりや。逆にアンタがそれ持ち続けていたら、いつか必ず奪い返されるで。そうなった時はどうする?」

「それは……」

 

 これ以上うまい話はない。いつか取り返されるかもしれないリング精製キットを持ち続けるか、その心配がないアルケミーキットに交換しておくか。ただどうしても気になることがある。

 

「あの……リヴィアさんは、どうしてこのリング精製キットが欲しいんですか……?」

「奴らの鼻を明かすためや。ただの意地悪とも言うが。これは弱味を握ることにもなる。チェデフとの良い交渉材料になるんや。黒江はんがチェデフの胸ぐら掴んで取引したいなら持っていても構わんが、胸ぐら掴んだところで何もできひんやろ? なら私が持っていた方が有意義に使える。マフィア界が魔法界に手を出すな……ってな具合にな!」

「…………それが、はたしていいことなのかは私には分かりませんけど……その取引、応じます」

「よっし! まぁ別にチェデフと敵対してるわけやないから、そんな気にすることのもんでもない。それにどちらかというと合成屋が居てくれた方がこっちも商売儲かるからなー」

 

 リヴィアは《CEDEF仕様お手軽リング精製キット》を受け取り、黒江は《アルケミーキット》を受け取る。ちなみにアルケミーブックは元々キットの中に同梱されているものだ。

 

「交渉成立! そんじゃさっそく任務を与える!」

「え?」

「特別に合成屋のイロハを教えるってゆーとんのや。ここは黙って従っとき」

 

 ウインクしたリヴィアは黒曜ランドを見渡す。

 

「この黒曜ランドに散らばる魔女素材をひとつ残らず集めて合成に費やせ! それができたら任務クリアや! あとは合成品の売買をピュエラケアが請け負う。そんでさよならや。あとは自分の相場で商売したらええ。ただ合成屋には危険が付き物やからな……その危険から逃れる術もちゃんと教えたる。ただ知識を授けるだけで物理的な世話は一切焼かんからそのつもりで。魔女素材の回収も合成屋の本業やからな! そんなわけでー、今から始めっ!」

「え……えぇ!?」

 

 黒曜ランド全体の探索。それは中々に大変そうだ。

 

 かくして黒江の合成屋稼業が始まった。

 

 リヴィア・メディロスはキャンピングカーに戻る。そこで一部始終を見ていた篠目ヨヅルが言った。

 

「あの子に合成屋を勧めたんですか?」

「せやでー」

「……やはり先生は血も涙もない人ですね」

「せやでー」

 

 はたしてそれはどういう意味なのか。

 

 ずばり────調整屋ですら恐れる世界。

 

 その業界に足を踏み入れてしまったことに黒江が気付くのは、もう少し先のことである。

 

          †

 

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