※この作品はR-18です。

アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO!   作:形のない者

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【なんで魔法少女やめたの?】恭弥アーデルハイト

 

 夕方。黒曜ランドの地下施設にて。凪は目をぱちくりとさせていた。

 

「いやぁ……はは。なんか増えちゃって……居候の身分なのに、ほんとすみません……」

「この子、黒江姉の用心棒! そして僕らの友達! イーピン!」

「よろしく! あなた凪いう? ともだち、なる?」

「…………」

 

 凪はどう反応すれば良いのか分からず固まっている。

 そこで黒江が目配せした。返答がないとイーピンが落ち込んでしまう。それを察した凪は我に返り、戸惑いつつ頷いた。

 

「う、うん……私なんかで、よければ……」

「────! やった! イーピン、ともだちいっぱい!」

「それじゃあカップラーメン食べよう!」

「アルケミーポッドに汚染した水と雨の炎を投入して、浄化とお湯にするのを一気に済ませるよ」

 

 数分後、アルケミーポッドの中で浄水のお湯が出来上がる。ポッドの差し出し口からカップラーメンに注ぎ込み、上にそこらへんの小石を置いて蓋をし、時を待つ。

 

「────!」

 

 その時、突如として凪が立ち上がる。

 

「……凪さん?」

 

 何事かと黒江が聞くと、凪は変身。

 

「魔女反応……みんなは逃げて」

「──え……」

 

 凪は颯爽と地上に駆け上がる。次の瞬間、黒曜ランド全体が揺れた。地響きにより天井から砂礫が降ってくる。下手したら地下施設が潰れるかも知れないと身の危険を感じた黒江は、フゥ太とイーピンを連れて階段を駆け上がり地上に出た。

 

「────っ!」

 

 上空に大いなる影が舞う。魔女だ。フゥ太とイーピンは魔女が見えないようで、周囲に巻き起こる風を目にしている。そこでイーピンの首元に魔女の口付けがされた。意識を失い、ゆらゆらと歩き始めるイーピンは魔女の下に向かう。

 

「え、イーピン!? しまった────待って!」

 

 黒江は走り、イーピンの体を捕まえる。まだ赤ん坊であるため抵抗されても楽に捕まえておくことができる。すぐに懐から護石を取り出してイーピンの体に当てるが、魔女の口付けは消えない。

 

(っ……! あくまで護石は予防……既に付けられた魔女の口付けを消す効果はないんだ……!)

 

 ならば仕方ない。黒江は、身をよじって腕の中から脱出しようとするイーピンを抑え、魔女とは反対の方向に走る。が、急激に視界が揺らぐ。それは現実空間から魔女結界へ誘われる時の感覚と似ていた。瞬く間に空間位相が切り替わり、奇天烈でファンシーな魔女結界が視界に広がる。それに黒江は身の毛が弥立つ。

 

(そんな……こんなことって……)

 

 後方で戦闘音。凪と魔女が戦っている。

 

「なにここ……僕たち、黒曜ランドにいたんじゃ……」

「っ────ここは魔女結界……フゥ太、イーピンをお願い。使い魔が出てきたら……私が、倒す……!」

 

 黒江は震える右手を握り締め、三つのリングを見つめる。

 

「蕗彌」レ蟹霊────!」

「……っ!」

 

 眼前に青いコマドリのような使い魔が現れる。

 咄嗟に黒江はクラブを取り出して覚悟を決めるが、一向に死ぬ気の炎が灯らない。

 

「え……なんで!?」

「蕗彌」レ────!!」

 

 使い魔の滑空突撃。「──っ!!」黒江は身が竦んで回避行動を取れない。差し迫るクチバシは胴体を貫く威力があるだろう。だとするなら黒江の背後に立つフゥ太やイーピンまでもを貫く可能性が高い。

 

(おねがい……! ふたりを守らなきゃ────!)

 

 されどリングは鳴動しない。

 

(どうして!? 並盛町にいた時……フゥ太の時は灯ったでしょ!? 黒曜ランドにいた時も普通に使えていたのに……なんで! なんで戦う時だけ────)

 

「危ない、黒江姉!」

 

 魔女結界に囚われれば、一般人でも魔女や使い魔の姿を見ることができるのか。

 飛び込んだフゥ太は黒江の服を引っ張って倒し、使い魔の攻撃を躱す。

 

「痛っ……! フゥ太、イーピン!」

「黒江姉、逃げようよ! ここは危ない! イーピンも変になっちゃったし!」

「逃げるって言っても……」

「あ! あの森は?」

 

 フゥ太が指差す先には名も無き森が広がっていた。が、その手前には橋があり、猟犬のような使い魔が門番を勤めている。

 前に行っても猟犬、後ろに行けば魔女。その場に留まってもコマドリ。四面楚歌で万事休す。先ほどのコマドリも旋回して再びの滑空突撃を開始した。先ほど倒れた痛みで体は少しだけど動くようになった。ギリギリまで引きつけて横っ飛びすれば回避できる。しかしそれを繰り返すのは得策ではない。

 

「フゥ太、右!」

 

 右に飛び込んで使い魔の突撃を躱す。四方の上空には数匹のコマドリ。彼らに見つかれば袋叩きに遭う。今は一匹にしか目を付けられていないため躱せているが、もし仲間を呼ばれれば一巻の終わりだ。

 

「とにかく遮蔽物がある場所に移動しよう!」

 

 黒江はフゥ太の腕を引っ張って走る。周囲に降り始める粉雪。直後、黒江は透明の壁に頭を打った。

 

「うっ! な、なにこれ……!」

 

 コマドリのような使い魔。その役割はスノードーム。半球状の結界を作成し、その中に粉雪を降らせる。粉雪はあまり降っていないように見えるが、ほんの数秒で膝まで雪がみるみると積もっていく。このままでは雪の中に埋められて窒息死する。

 

(────大丈夫。雲の炎があれば脱出できる。なのに死ぬ気の炎が……どうして灯らないの……!?)

 

 歯噛みする黒江はフゥ太を見やる。フゥ太も不安げな面持ちで黒江の瞳をじっと見つめていた。

 

(……前は、家族を助けたいと思っても……死ぬ気の炎は灯らなかった)

 

 黒江の中で罪悪感が肥大化する。

 

(でも自分の命が危うくなれば……死ぬ気の炎は灯った。その意味は……分からない。でもきっと最悪なものだ。そうに決まってる)

 

 覚悟が炎を灯すなら、いったい自分の覚悟はなんなのか。

 フゥ太の喉元まで雪が積もる。フゥ太は頭上にイーピンを持ち上げることで埋められる時間を少しでも伸ばそうと必死である。対する黒江はまだ胸元。

 

「っ……!」

 

 黒江はフゥ太の両脇を抱っこして持ち上げる。無意味な行為だ。どうせ数秒後には全員生き埋めにされる。だが放っておけなかった。誰かを助けたい想いは本物だ。本物だと思いたい。それなら死ぬ気の炎はなぜ応えてくれないのか。何が足りないのか。

 

(わからない……わからないよ……!)

 

「黒江姉!?」

 

 黒江は無理な笑みを浮かべて粉雪に覆い尽くされる。黒江に持ち上げられた時、フゥ太はスノードームの頂点に頭をぶつけた。そして粉雪は今やフゥ太とイーピンの喉元まで積もっていく。

 

「っ……イーピン……!」

「…………」

 

 最後にフゥ太は、魔女の口付けを受けて物言わぬイーピンを抱き締めて生き埋めにされた。雪の中に埋められた場合、生存できる限界時間は五分以内とされている。

 

(────暗い。寒い。私、このまま死ぬのかな……)

 

 こんなことなら魔法少女、辞めなければ良かったかもしれない。

 

(……なんてことは、死んでも思いたくない。どうせ辞めなくても、いつかこうやって死んでいたんだ。生きるか死ぬかなんて、どのみち遅かれ早かれの話……)

 

 されど生存を叫ぶ本能は騒々しく心を掻き毟る。

 

(でも……諦めたくない。死ぬのは嫌だ。死ぬのは怖い! どうなろうと生き足掻きたい! それじゃあダメなの? 覚悟なんて言われても、やっぱりピンと来ないよ────!)

 

 微かにリングが鳴動する。

 寒さのせいか、恐ろしさのせいか、カチカチと歯が鳴る。ガクガクと体は凍え、ブルブルと瞳が震える。

 

(嫌だ────私、死にたくないっ!)

 

 次の瞬間、豪快に噴き上げるように死ぬ気の炎がリングに灯った。雲の増殖効果によって粉雪を爆発的に倍増させる。すると一瞬、許容量を超えた雪の密度によって黒江たちの体が潰されそうになるが、雨の鎮静効果を流して周囲の雪密度を遅延させ、霧の構築効果で身を覆ったことにより守られる。その間、スノードームの結界に亀裂が迸る。直後、増え続ける雪の重さに耐え切れなくなった結界は砕け散り、黒江たちは雪崩に巻き込まれて外に排出された。

 

「ぐっ────ぷはっ! フゥ太、イーピン! 生きてる……?」

「うっ……げほっこほっ! う、うん……ちょっと雪、飲んじゃったけど……イーピンも無事だよ」

 

 黒江は俯く。誰のためでもなく、また己のために強く思ったら炎が灯った。やはり自分は最低な人間なんだろうかと納得を強める。だが今はその件で落ち込んでいる暇はない。コマドリのような使い魔の再三に渡る滑空突撃。これを迎撃するため黒江はクラブを取り出した。

 

「戦い方は────魔法少女時代を経験して知っている!」

 

 増殖して増やしたクラブ。それに更なる雲の炎を注入して投げ飛ばす。死炎許容量を超えたクラブは空中にて爆発。コマドリを撃ち落とす。だが今の爆発音で数匹のコマドリに索敵された。

 

「フゥ太、走れる!?」

「う、うん!」

 

 黒江とフゥ太は魔女結界を走り出す。だが行く手を遮るようにコマドリの使い魔が飛来。それを避けて進んでいくと、見慣れた構築物を目にした。

 

「あれは……黒曜ランドの遊園地の!」

「メリーゴーランドだ! 僕たちと一緒に、この変な空間に連れてこられたんだよ!」

 

 上空に霞かかって現れるはドクロの使い魔。その役割は怪物化。夢のある道具をクリーチャーと化す。

 メリーゴーランドの木馬に肥大化した眼球が生まれて独りでに動き出す。回る馬車に大きな口が生まれて動き出す。回るカップに牙が生まれて動き出す。それらは黒江たちにとって襲いかかる。

 

 踵を返して逃げる黒江たち。そこで思った。

 

(何かおかしい……追ってくるだけで攻撃してこない……もしかしてどこかに誘導されてる……?)

 

 知能が高いタイプの使い魔なのか。罠に掛かる危険性を考慮するが、だからと言って逃げる足を止めるわけにも行かない。

 やがて黒江たちはぐるりと一周してきてしまい、あの橋の前に戻ってきてしまった。

 

「橋の上の猟犬……」

「どうするの黒江姉! 囲まれちゃったよ!?」

 

 前方には橋と猟犬のような使い魔。後方にはコマドリやドクロのような使い魔と、元メリーゴーランドの怪物たち。

 

「……渡るしかない。じゃなきゃここで袋叩きだ」

「で、でも……あの猟犬、とても強そうだよ……?」

 

 だとしても一秒でも長く生きる道を選び続けなければいけないのだ。現状の希望は、凪が魔女を倒してくれる時まで生き残ること。魔女を倒せば結界は消滅し、主を失った使い魔は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 

 黒江たちは橋の先端に足を置く。するとコマドリのような使い魔や怪物たちは怯えているのかそれ以上近寄ってこなくなった。その代わり猟犬が唸り声を上げる。明らかな殺意は、その役割が橋を渡ろうとする者を食い殺すものであることを如実に知らせていた。

 

「────」

「窩丨ニ†ニ淆……」

 

 黒江の黒い瞳と、猟犬の禍々しい双眸が交差する。ゆっくりと前足を上げて数ミリ進み、そっと足をつける。間合いを調整するかのような慎重な足運びはプロのハンターを思わせる。

 

(────おそらく勝負は一瞬。一撃を凌いでも次の瞬間に噛み殺される。でも……その噛み殺される私が……本体であればの話だけど……)

 

 霧の炎が撒かれる。精製度が向上したことにより出来ることが増えたと黒江は実感していた。

 

 刹那、猟犬が駆ける。黒江は雨の炎を注入したクラブを投擲。それを腕で弾いた瞬間、クラブが爆発。鎮静効果を浴びた猟犬の動きがほんの少し鈍る。続けて鉤爪が黒江の顔面と胴体を袈裟斬りにした。が、それは霧の構築によって作られたハリボテの絵画。切り裂かれたハリボテの後ろには黒江が立っている。

 

「窩迩吒嘛────!!」

 

 猟犬の牙が黒江の頭部を噛みちぎる。だがその先にも黒江が立っていた。首なし黒江は霧となって消える。再び猟犬は鉤爪を振るうが、それも手応えがなく、次の黒江が立っている。怒り心頭となったか。猟犬は咆哮を上げて突撃。何人もの黒江の体を蹂躙し続けていると、ぴたりと足を止める。橋の先端まで来てしまった。そこで鼻につく。後方から獲物の匂い。

 

「まずい、バレた! フゥ太、死ぬ気で走って!」

「ひゃー!」

 

 霧の構築効果で幻影を見せていた黒江は、猟犬のような使い魔が幻影に気を取られている間に自分とフゥ太の全身を霧の炎で包み、猟犬の傍らを忍び足で通り抜けていた。だがそれも橋の中頃に来た時に見抜かれてしまう。猟犬の咆哮。走る黒江たちだが猟犬の方が素早い。あっという間に追いつかれた黒江は最後の切り札を使う。

 

「爆破!」

 

 道中に落としていた数本のクラブ。その内部にはありったけの雲の炎を込めた。雨の炎でコーティングすることで膨らむ速度を鎮静化させていたが、もうその必要はない。構築効果で作っていた紐はクラブに括りつけられている。その紐を通して雲の炎を伝えた瞬間、雨の炎のコーティングが破られてクラブの密度は倍々となり爆発した。

 

「窩迩吒嘛────!!?」

 

 橋の中央が爆破されて猟犬が落下していく。ガラガラと崩れ去る橋に追われる黒江たちは跳躍し、フゥ太は崖の向こうに転がり込んで、黒江はギリギリ崖に掴まった。

 

「うっ……!」

「黒江姉!」

 

 両手のうち片方が外れて崖下に落下しそうになる。そんな黒江の腕を取ったフゥ太は歯を食いしばって引っ張り上げた。

 

「っ……危なかった……ありがとう、フゥ太……」

「ふぅ……肝が冷えたよ……でも黒江姉すごいね! あの猟犬に一杯食わせたよ!」

「そうだね……」

 

 後方にはコマドリや怪物の群れ。こちらに来る気配はない。

 前方には立ち入らない方が良さそうな森が広がっている。

 

「……しばらくここで休憩しよう。森に入るのは危険そうだから、凪さんが魔女を倒してくれるのを待つしかない……」

 

 次の瞬間、黒江たちの前方に影が飛び上がった。それは崖下から跳躍してきたのか、黒江たちの背後に着地する。

 

「────────え?」

「窩迩吒嘛────!!!!」

 

 大口開けてヨダレを撒き散らす猟犬は、黒江の頭を上から包み込むように鋭い牙を噛み合わせた。

 

 鮮血が舞う。

 

 フゥ太は目を見張り、両足が竦み上がって尻餅を搗いた。

 

「──……黒江、姉……?」

 

 首のない死体は崩れ落ちる。

 そして森の奥から足音一つ。

 

「ふぅん……小動物から聞いた通りだ。確かにおかしいね」

「……? 窩迩吒嘛────!!」

「うるさいよ。死んで」

 

 猟犬の牙をトンファーで折り、蹴りの一撃で猟犬が木っ端微塵と粉砕される。飛び散る肉片と内臓。その中から一人の少女の頭部が吹き飛んでコロコロと草地を転がった。

 

 偶然その頭部と目が合った魔法少女は興味本位で問いかける。

 

「……ねぇ君、悪魔と契約した子だよね。それならさ────な(・)ん(・)で(・)魔(・)法(・)少(・)女(・)や(・)め(・)た(・)の(・)? 魔女に襲われてる人を見て見ぬふりすることができないなら、魔法少女、やめなくても良かったんじゃない?」

 

 血まみれ頭部は起きあがりこぼしのように揺れて、もはや動かぬ目を張り詰めるように開き続けている。

 

「……まぁ、僕にはどうでもいいことだけど。──それより凪。選手交代だ。この魔女は強い。君では勝ち目がない。それに小動物の契約者が死んでるよ。一分以内に施術魔法で縫合すれば、まだ生き返る余地はあるかもね」

 

 その念話を受けた凪は即座に駆けつけてくる。反対に猟犬のような使い魔を一撃で殺した才(・)能(・)最(・)強(・)の魔法少女は跳躍し、不敵な笑みを浮かべて舌なめずりしながら大型魔女に立ち向かった。

 

          †

 

 






余談的あとがき:黒江死亡時、悪魔は魔力発作で気絶して万年桜と寝ていたため《助太刀》できなかった。
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