アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
────死んだ。黒江という生命は一度、限界を迎えた。
故に生きていた頃、避けていた葛藤をようやく自覚する。
夢の中、
走馬灯のような光景を通過し、ついに現実と理想の狭間と向き合う
†
存在肯定。
死への恐怖。
やりたいこと。
問題は山積みだけど、いくつかに絞るならこの三つだろう。
…
その中でも、
私はもう《黒江》であって《黒江》じゃない。願いを叶えた時に、私は《
願い事は「クラスメイトの好きな男子と恋人になること」だった。
それを悪魔は年頃の少女らしい願いだと言った。
私はクラスメイトの好きな男子と恋人になれた。いや、なった。ならされた。なせてしまった。なれてしまった。ひどいことをしたと今でも後悔している。本当に願いが叶うなんて思ってなかった。それを差し引いても、問題は多かった。
私は思い出せない。願いを叶える前の私が
悪魔の知識によれば、願い事は言葉に出した内容の意味を拾うだけではなく、表層的無意識の願望も同時に拾って、まとめて願いを集約して叶えるという。そうすることで個体ごとに強い感情を持つ我々地球人類にとって悲惨な結果に陥りやすい効果が期待できるそうだ。インキュベーターは狙ってそういうシステムを作ったわけではないけど、結果的に悲劇が生まれやすいシステムになっていたことで“これならこれで問題ない。むしろ希望と絶望の相転移エネルギーを回収しやすい”と判断した。そうインキュベーターは悪魔に語っていた。
それが事実だと考えると、ひとつの仮説を導き出せそうな気がした。
────ずばり私は、自分に自信がなかった。
好きな人に告白する勇気は半々だったと思う。もしも友達とかに無理やり告白しろと茶化されて場を整えられたら勢い余って告白してしまい、成否に関わらず後悔することだろう。私のことだから目に見えている。だから勇気はさして問題ではない。それなら
けれど私は「好きな人と付き合いたい」と願った。その理由は、きっと、そもそも告白したところで付き合えるわけがないと、どこかで諦めていたから。としか思えない。だから以前の私は、きっと自分に自信がない……それもとことん自信がない女の子だったんだろう。ということが想像できる。
実際、今の自分も相当に自信がない。自己肯定感とやらが低い自覚はある。でもその原因が分からない。過去に大きな失敗はなかった。自信が湧きにくくなった原因、トラウマになるような出来事もない。あるいは思い出せないだけなのかもしれない。
そんな自分は常に漠然とした不安に襲われている。常に不安に苛まれている。それは私が空っぽだからだろう。
────ずばり私は、願い事によって《黒江》を失ってしまった。
本当に私は黒江という名前なのか? 苗字とも名前とも取れる名称。私にはもう一つ苗字か名前の名称があるはずだ。それが思い出せない。でも周りはそれを気にしない。それが当たり前かのように世界は平気で回っている。でも私にはそれが我慢ならない。
私はどこにいるの? 私は誰なの? 教えてよ。上の名前でも下の名前でもいいから誰か教えて。じゃないと気が狂いそうになる。地に足がつかない。現実感がない。生きている感覚がない。何かを成して「黒江よくやったねおめでとう」と褒められても自分のことのような気がしない。といっても嬉しい気持ちはある。それは自分がちゃんとあるからだ。でもその自分は《黒江》ではない。それが無性に怖くてたまらない。
思うに。悪魔の知識と、私の考察から考えるに……私は願い事によって、おそらく。
────ずばり私は、
悪魔でも制御できない“逆転勝利の呪い”のように。私には“存在肯定の呪い”が掛けられてしまったんじゃないか。
そう思えて、仕方がない。
私には自分がある。でも私はもう《黒江》になってしまった。《黒江◆◆◆》か《■くろえ》かは知らないけど、この虚空を埋めることはもう叶わぬ願いなんだろう。たとえ悪魔契約でも……叛逆できない
さようなら、願いを叶える前の誰かさん。
さようなら、黒江という名前だけは知っている誰かさん。
あらゆることから逃げ出したんだから当然の報いですよね。
本当にごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……ごめんなさい────ごめんなさい。
…
正直、こういうことを考えるのはつらい。でも考えなければならない時もあると思う。特に自分を探すためには。思い出せない過去の自分を探すためには。でもそれは今ので一区切り。他人事だから切り替えも早い。他人事じゃないけど立ち止まってはいられないから次に進む。それだけのこと。ただの空元気と言われたら、その通りなんだけど。
それに自分を探すと言ったって、それは絶対に見つからない。彼女は理の向こう側に去ってしまったんだから。ならどうする? やっぱり諦めるしかないのかな……。
私は
……なんてロマンチックな言い方しても、現実はもっと現実的だ。
私は《黒江
リングを手に入れようとしたのは生きるため。合成をやってみたのも生きるため。
それは魔法少女時代から変わらない。私は理想のために命を燃やす覚悟はなかった。
自分の命欲しさに、自分よりか弱い魔法少女にグリーフシードを配らなかった事がある。
あらゆる逃避と悪行は、自分というものがあろうがなかろうが関係ない。
《生きる》────ただその一点が、今までの私をかろうじて生かしてくれた。戦いたくない。死にたくない。怖いことはしたくない。わがままばかりの未熟な少女は、ずっと本能を優先してきた罪滅しのつもりか、今は傲慢にも自分より弱い存在を侍らせて
思考はドン底に傾く。いつもはここで自己防衛本能が働くのかブレーキが掛かる。でも今は死んでいるのだから気楽なものだ。もう何もかもが終わってしまった。だからこそフラットに考えられることもある。悪魔のニヒルな部分が移ったのかもしれない。けれど少しだけ本音を言うと……開き直るようなことだけは、あんまりしたくないんだけど。
…
そこで黒江の意識は、闇の奥底に煌々と光る一番星に吸い寄せられて────深淵の大海から浮上した。
†
朝霧に包まれた黒曜ランドの地下施設。チュンチュンと鳴く小鳥の群れが飛び立つ。
その騒音で、黒江の両目は限界まで開かれた。
「ハッ────!!?」
苔むした天井。鬱屈とした空間。そこは黒曜ランドの地下広間。ソファの上で仰向けとなる黒江の傍らには、目尻に涙を浮かべて眠っているフゥ太とイーピンが引っ付いて離れない。
足音。物陰からランタンを持ってジュリー凪が現れる。
「……よかった。起きた」
「────…………凪、さん……私、どうなって……」
「……思い出せる?」
思い出す。何を。起きる前。眠る前。たしか魔女結界に囚われて使い魔に襲われ、苦難を切り抜けたと油断した瞬間────がぶりと目の前が真っ暗になった。明滅する赤と闇の視界は突として晴れ、森の中を歩く少女が言った。
────魔女に襲われている人を見て見ぬ振りすることができないなら、なぜ魔法少女をやめたのか。
そして世界は闇となり、自己は消失した。はずだった。
「……私、死んだん……ですか?」
「三十秒程度、首と胴が離れていただけ。私の《施術》魔法で縫い付けて、酸素不足で破壊された脳は魔力で再生して、足りない血液はアルケミーキットを使わせてもらった。心肺停止から蘇生したようなもの。死んだわけではない」
「……でもそれって、魔法少女ならではの話ですよね……普通の人は、首が離れたら繋いだ所で生き返れないですよ……」
黒江は自嘲気味に呟く。
「……でも、ということは……凪さんが助けてくれたんですか? ありがとうございます……命の恩人ですね……」
「気にしないで。あなたの言う通り、魔法少女ならこの程度の治療は当たり前」
凪は皮肉を理解していないのか純粋に返す。
その真っ直ぐさに調子を崩されて微笑んだ黒江は起き上がる。
「っ……! 首が……」
「まだ動かない方がいい。安静にしてて」
黒江の身動ぎでフゥ太とイーピンの目が覚める。それからは大変だった。フゥ太とイーピンは泣き喚いて黒江の体に擦り寄る。生きてて良かった、死ぬかと思った、と。
「あーよしよし……泣かないで……」
困ったように苦笑いする黒江は、フゥ太とイーピンの頭を撫でる。
「……それと、護石を四つ借りて、この広間に配置した。霧の炎も注入してある。魔女が現れても外に出る必要はない」
「凪さん……何から何まで、ありがとうございます」
「……見回りに行ってくる」
凪は地上に出る。
そうして一旦落ち着いた黒江は溜め息ひとつ。泣き止んできたフゥ太とイーピンに対して口を開くが、それはどこか独り言にも近い感じでポツポツと語りだした。
「私……今までずっと、自分が誰なのか分からないまま死にたくないって思ってた。でも一度死んだら、なんかそんなこと建前にしか過ぎなかったとすぐに気付かされたよ」
「……?」
黒江はフゥ太とイーピンの体を抱き寄せる。こどもの体温はあたたかい。それは生きている証でもある。そのあたたかさを勝手ながら分けてもらい、体験した死の記憶に震える黒江はなんとか恐怖を抑え込もうとする。
「ねぇフゥ太。私ね……魔法少女だった頃は、ずっと
自分に正直になれる世界が欲しい。自分が正直でいられる世界が欲しい。魔法や魔女のことを隠す必要がなくて、同じ悩みに苦しむ人たちの中で必要とされる存在でいたい。そこに今、一番近い場所が
「独り立ち……したいな……でも、巣から飛び立った名も無き鳥は、いったいどこに向かえばいいんだろうね……」
黒江のまぶたが重くなる。重傷からの蘇生だ。半日寝っぱなしだったとは言え、疲弊は極度に高まっている。うつらうつらとする中、フゥ太とイーピンはまさかそのまま目覚めなくなるのではと心配しているのか顔を覗き込んで名前を呼んでくる。
「……だいじょうぶ。ちょっと寝るだけだから……そんな不安そうな顔しないで……」
フゥ太とイーピンを抱き締めて、黒江は夢現の思索に耽った。
それは夢かどうかも分からない意識と無意識の狭間。夢とは記憶を整理し、将来に備えるための思考を磨く準備期間。
(……私は魔法少女になりたくない。このまま一般人のままでいたい。でもそれは社会的に難しい。自分の心の問題だ。ほかにも問題は沢山ある)
悪魔契約。そのせいで魔法少女の素質が人より二倍ある。インキュベーターのしつこい勧誘。彼は「そこまで嫌がるなら手を引く」と口にしたが、それは真実だろうか。どこまで信じていいか分からない。また魔女を寄越したり、敵対する魔法少女を寄越したりして、魔法少女にならないと死に瀕する状況に追い込もうとしてくるのではないか。インキュベーターは嘘はつかないが本当のことも言わない。──手を引く。つまり自ら勧誘はしないと言ったが、そちらの気が変わって契約を申し出てくるなら仕方がない。そういう状況になったのはあくまでたまたまで、本当に僕らには予想し得ない偶然だった──なんてことを平然とのたまってくるかもしれない。そしてそれは本当に偶然なんだろう。ただチャンスがあれば偶然だろうが物にする。そういう貪欲さがインキュベーターにはある。故に依然として警戒対象であることに変わりはない。
(インキュベーターに対する恐怖が頭から離れない……どうにかして対策を考えないと……)
ではどうするか。インキュベーターや魔女、魔法少女から身を守るためには、現状最も役に立つものとして死ぬ気の炎と
(その考え方は……一度、死に目に遭ったからこそ思えることかな……半々の勇気が、一気に勢いを増した気分だ……)
しかしながら合成屋は、魔法少女や魔女に関する素材を集める必要がある。特にリングを作るためのソウルジェムは、そこらへんに転がっているものではない。死にそうな魔法少女に目をつけて後を付け、見殺しにして回収……なんてことは絶対にしたくない。それこそ先日のように「形見のリングを返せ」と魔法少女を敵に回す事態になりかねない。
魔女素材に関しても、魔女やその手下を倒す必要がある。だが既に魔法少女ではない黒江が倒せる敵ではない。使い魔……魔女の手下も同様だ。魔法を持たない者には荷が重すぎる強敵である。
(そもそも私は戦いが怖くて……死ぬのが怖くて……だから体を売ってまで魔法少女を辞めたんだ。それなのに、また魔女や使い魔と戦えと? もう魔法少女でもないのに? ふざけないで……それじゃあ魔法少女を辞めた意味がない……そもそも魔法少女でなければ勝ち目はないんだから挑もうと考えるのが下策だ。無謀の極み……)
であれば魔女素材はどうやって集めるのか。アルケミー図鑑の心得には、先人の教訓が記されていた。
────ハイエナになれ。他の魔法少女が倒した魔女や使い魔、その残骸を回収すれば、戦わずして素材が手に入る。
(それはダメ。誰かが魔女を倒したあと、その周辺をうろついて素材を集めていたら絶対に怪しまれる。合成屋であることは極力バレない方がいい。……それに魔女が倒れた近くには、散らばった魔女の血肉を食べようと使い魔が集まってくる。その使い魔と
賢い方法というものは、往々にして“バレなければ問題ない”“生きていれば何があっても大丈夫”という意味合いを含むことが多い。そういった賢い方法を吹聴するものは
(理想は、誰か一人だけでもいいから本当に信頼できる魔法少女と協力できれば……例えば、その子に魔女を倒してもらって素材を回収してもらい、私とその子が望むものを合成していく……ギブアンドテイクのような関係。でもそんな人、今は居ないし……これから先、見つけられるかどうかも……わからない)
先行きは暗い。加えて黒江はリングを主武装とする。つまり魔法少女の魂を武器にする禁忌に手を染めている。これを知って吐き気を催さない魔法少女は居るだろうか。その上でギブアンドテイクの関係を築いてくれる、お人好しな魔法少女は居るだろうか。世界のどこを探しても滅多に居ないだろう。
(真実を知る前なら関係は保たれる……でも真実を知った途端、関係は壊れる……初めから真実を知っている人なら感情と実利の折り合いを付けて考えてくれるかもしれないけど……そもそも、そういう人をどうやって探せばいいのか……)
そこで黒江はピンときた。
(そうだ……調整屋。調整屋なら理想の条件に当てはまる……加えて調整屋は情報屋でもあるし、守秘義務もしっかりしてるだろうから、私が合成屋であることを明かしてもバラさないだろうし、合成品の取引にも応じてくれるはず。魔法少女の心を覗くこともするわけだから、私が求める人材を紹介してくれるかも知れない……)
しかし宝崎市に調整屋は存在しない。隣の神浜市なら調整屋が居ると聞いたことがある。グリーフシードに余りができたことなんて一度もないため行ったことはないが、神浜市の調整屋がピュエラケアのような場所なら、ある程度は信用できる。
(神浜市……たしか悪魔さんも居る場所……)
そこで黒江は、もうひとつの名案も閃いた。
(そうだ……魔法少女にも怯えて暮らさなきゃいけないなら、悪魔さんは……? 悪魔さんも死ぬ気の炎を使って戦うんだし、リングは必要……と思ったけど、悪魔さんが持っているソウルハーフリングは、全て精製度がCランク以上の代物だったな……となるとリングに関する技術提供は、こちらの力不足のせいで出来ない。でも合成品は? 興味あるかな……でも悪魔さんはあちこち飛び回ってるみたいだし、用心棒としてもいいかもと思ったけど……そこまで頼るのは悪そうだな……取引先としても期待できそうにないし……だってあんなに強いし超直感で頭も回るんだから、かゆいところに手が届く合成品とかそもそも要らないよね……)
悪魔とのギブアンドテイクは、残念ながら諦めるしかない可能性が高い。
(ほかに私の知り合いと言えば……連絡帳には環さんしか魔法少女がいない……彼女はどうだろう。リングに関して環さんに軽蔑とかされたりすると……たぶん、いや結構かなり堪えるだろうなぁ……それでも私が生きていく為には必要なものって認めてくれるとありがたいけど……でもそればかりは人の考え方次第だから、期待しちゃダメだよね……たとえ軽蔑されても、軽蔑されて当然のことをしているわけだし……)
甘えは許されない。それは重々承知している。
ただ環いろはという女の子は、黒江にとって、ちょっとした憧れの存在でもあったのだ。
(環さんか……悪い人ではないと思うから、ギブアンドテイクの関係は行けると思う……けど、単独で魔女を狩れる存在かと言われると……それにやっぱり一人で戦わせて私だけ安全地帯にいるっていうのも気が咎めるし……霧の炎で身を隠せば結界の手前までは同行できる。だから魔女討伐後の周辺使い魔の掃討は任せて、回収は私がするっていうのもいいかも……それで環さんの魔女戦をサポートする合成品を作ってあげられたりしたら、もうベストだよね……)
そんなことを妄想するが、まだ環いろはに掛け合うと決めたわけではない。こればかりはじっくりと考えるべきだろう。そもそも彼女が今もまだ生きているかどうかも分からないのだ。希望的観測は程々にしておくに限る。
(ハァ……魔女や使い魔、さらには魔法少女にも気を遣わないといけない禁忌の合成屋とか……そりゃあ絶滅危惧種にもなるわけだよね……)
心中にて溜め息をつく。
そして夢見るような思考は、緩やかに、別の事柄へと流れていく。
────魔女に襲われている人を見て見ぬ振りすることができないなら、なぜ魔法少女をやめたのか。
何度も脳裏によぎる言葉。耳が痛い。でもしょうがないじゃないか。死にたくない。でも見捨てたくない。その二つの思いは矛盾しないはずだ。故にそのような強い言葉が使えるのは、ひとえにあなたが強者だからだ。弱者には二つに一つしか選べない。それでも二つとも選びたくて頑張っている。その努力を無視して、軽々と“わけがわからないよ”と言いたげな疑問を投げかけないでもらいたい。そんな幼稚な文句を言いたくなる。
(……魔女や使い魔が一般人を襲っている。それから助ける
それでも戦いは怖い。死ぬかもしれないと思うたび恐怖し逃げ出したくなる。それはもう性根だから是非もない。にっちもさっちもいかないこと。文字通り克服できない根源的な恐怖だ。それに一番辟易しているのが黒江自身でもある。
ずっと孤独に戦ってきた。誰かに寄り添う余裕なんて無かったから。
ずっと孤独に生きてきた。誰も彼もが私を
魔法界のことなんて誰ひとり知らない一般社会の中で、黒江はずっと孤独を感じていた。
(何者にも縛られない力を手に入れた孤高は、自由そうで楽だけど……実際はツライ。
誰もが私の一般的な立場に順応する。
誰もが私の魔法的な立場に順応する。
一般人の
宇宙の意思は、人間と魔法少女が寄り添い合うことを許さない。
宇宙の意思は、古代種オルツォと宇宙種ニンゲンが寄り添い合うことを許さない。
宇宙の意思は、別の知性と別の知性が分かり合うことを許さない。
たとえソレとソレが交配し、知と血を交わらせても、ならば今度は個体の中で知と血が分かり合うことを許さない。
宇宙の意思は“調和”を排斥する。無秩序なくして宇宙は生まれなかったが故に。秩序は存在崩壊を呼び起こす禁忌と認定した。それがこの宇宙のルールであるが故に。宇宙は存続を渇望する。存続するからには存在崩壊は許されない。許されない。絶対に決して許されない……。
(────? 今……私、何を、考えて……)
いずれ夜鷹の星となる運命から叛逆した者よ。
いずれ閃光のように眩しく燃える
(……魔女化、するところだったのかな……もし、今の私が魔法少女だったら……なんか、そんな感じがする……)
どこまでも沈んでいった黒江の意識が表層に浮き出る。
流れに流れる夢の話は、彼女の本音を語らせた。
(私も環さんや悪魔さんみたいに、誰かを助けられる人になりたい)
しかしそれは実力があるから出来ること。理想だけでは死に恥を晒すだけ。故に環いろはからは適切な距離を取った。彼女は自分の身も省みず他者を助けようとして無駄死にする。そんな人のように思えたから。同時にそれが眩しくもあり、結局は逃げてしまう自分なんかが一緒に居てはいけない存在だとも思う時があった。
(頑張って挑んで生き残れたとしても、そんな危険な生活……
故に救いを求める。誰か助けてほしい。自分はどうしたらよいのか。どうすれば自分は自分のなりたい自分になれるのか。それが分からない。頑張るのはもう疲れた。目の前で困っている人がいるなら助けるさ。見捨てることはできないから。
(でも私のことは? 私のことは誰が助けてくれるの? いつか限界が来る。いつまで魔法少女を続ければ良いのかと絶望し、何もかも諦めて希望を失ってしまう日がきっと来る。だから救いを求めて彷徨った。そして悪魔と出会って魔法少女を辞めた。でもそれは、いっときの救い。魔法少女を辞めても、私はどうしても
結末は変わらないのだ。
(私の運命は魔法少女だろうが一般人だろうが、結局は無力で脆弱な人間として最期を迎える。きっとそうなんだ)
虚しいうつつの思いが残響する。
(……強くないと死ぬ。当然のことだけど、改めて口に出すと悔しい思いが心を掻き乱す。強くなりたくても強くなれない人だっている。心が強くなっても物理的に強くならなくちゃどうしようもない時だってある。というかそういう時が多い。こと戦いにおいては。殺し合いに心の強さは大事だけど、結局は力がなければどうしようもない。リヴィアさんも言っていた。知と財があっても暴がなければ無意味だと)
ではどうするのか。何度も何度も考えたことだ。そのたび無理だと諦めてきた。でも今は違う。手段がある。
(────強くなりたい。アルケミーキットがあるなら、たぶんそれができる。今はその一点に集中するべきなのかな……戦いたくない、死にたくない、っていう自分の本心からは掛け離れて矛盾することだとは分かってるけど……強くならなければ今回のように呆気なく食べられて一瞬で死んじゃう時が、また来るかもしれないんだから)
────備えなければ。
魔法少女を辞めた分、余裕が出来たのだから。その
「…………、────」
覚醒した黒江は首の調子を確かめて無事だと判断すると起床。さっそく武器合成に着手した。
「黒江姉?」
「フゥ太、イーピン。ちょっと手伝ってほしいことがあるの。私……今度こそ二人を守るから」
†