アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
朝方。朝食を取る中で黒江は問いかける。
「凪さん。各属性のリングって持ってますか?」
「?」
「イーピンの波動属性を調べたいんです」
「……持ってる。ソウルジェムの欠片を拾ったら、施術魔法で加工してリングにしてるから……」
凪は、悪魔が持つソウルハーフリングを超える精製度のリングを作り、いつかそれを悪魔に献上しようと考えている。だが精製度の高いリングを作るのは難易度が高く難航している。そのため精製度は低いが大空の七属性のリングは大量に揃っている。
「あ、でも……雲系リングは少ない。雲の人がいつも砕いちゃうから……」
「砕く? ……でも一つあれば十分ですよ。ありがとうございます」
食後、凪は七つのリングを持ってくる。それを一つ一つイーピンが嵌めていくと、晴系リングの時に死ぬ気の炎が灯った。
「! イーピン、たいよう!」
「うん。でもイーピンの手はちっちゃいから嵌めてもすぐに外れちゃうね……そうだ!」
黒江はリング一式を凪に返すとアルケミーキットを取り出す。
「フゥ太。《光魂石の欠片》と《鉄板》をちょうだい。攻性があるならそれを」
「あるよ! はい!」
黒江は《腕輪》を合成し、続いて《
精製度はCランク。材質は刺々しい。攻性に優れたリングである。
「ぴったり! 謝謝!」
「そっか。よかった」
腕輪によって拳に重みが乗るようになったのか、イーピンは付け心地に慣れるため流れるような拳法の型を次々繰り出す。
「ハイヤー! 《一気通貫》!」
闘気に晴の炎を織り交ぜた突撃。それは瓦礫の山を一撃で粉砕した。
「それと……イーピンはド近眼だったよね。せっかくだからメガネも作っちゃおうか」
黒江はスマホからメガネの材料を検索。
落ちていたガラスと金属片をポッドに入れてレンズとフレームを作成する。
「でもイーピン、みみない!」
「え……あ、ほんとだ。じゃあ持ち運びに便利なネックレスタイプのメガネにしようか?」
ステンレスの金属片からネックレスを合成。組み合わせてメガネを合成する。
「イーピン、何が見える?」
「くろかみのおんなのこ!」
「僕は?」
「ちゃぱつのおとこのこ!」
「……」
「がんたいつけたおんなのこ!」
イーピンは感謝して黒江にお辞儀する。
「よし、今日も合成に使う集中力はバッチリ。ではこれから武器の合成に取り掛かります」
「わー! ようやくだ! 黒江姉、なに作るの?」
「それは出来てからのお楽しみ」
黒江はアルケミーブックとにらめっこして考えていた。
武器を作るなら何がいいか。自分に合った武器とは何か。今ある素材で何ができるか。アルケミーブックは無限のような選択肢を与えてきた。その中で黒江は、正直自信はないがこれと思ったものを作ってみることにした。
「まずは《木魂石の欠片》と《光魂石の欠片》を」
「はい!」
「それをポッドの中で磨り潰して粉末にする。二つ同時に入れても別々になって出てくるよう念じれば混ざることがない。ということを最近覚えた。けど今回は粉末同士を混ぜ合わせて、ソウルジェムのようなコアを合成する。するとイチゾーの時のように、残留思念が宿ったコアが合成できる。これで【風の妖精】の完成」
妖精とは名付けられているが、要するに複数人の霊魂の欠片を混ぜ合わせて造られた人造霊魂である。そして元になった木属性と光属性の魔法少女は、どちらも風に縁がある固有魔法を持っていたようで、その名残がソウルジェムの欠片に残されていた。故に風の力を持つ霊魂を合成できた。
「次は《砂場のシャベル》と《羊の角笛》をちょうだい」
「はい! 砂場の魔女と羊の魔女が落とす魔女素材だね!」
「合成すると……なんの変哲もない【角ばった杖】が出来上がる」
砂場の魔女。その特性は没頭。その属性は火。
羊の魔女。その役割は羊飼い。その属性は水。
アルケミーブックを読んでいると、没頭の特性は念じる力と相性がよく、羊飼いの役割は気ままな風の妖精を従える力を持つことが推測できる。故に姿かたちこそ何の変哲もないが、風を操る為には最適な杖だったりする。
「三つ目に《雲の炎》と《闇の魔力》が必要なんだけど……凪さんって、増殖魔力は持っていますか?」
「……あまり。でも……死ぬ気の炎を魔力に変換する匣兵器なら、嵐の人の考案で作ってある……」
「それ……貸していただけますか?」
「構わない」
凪は雲の炎を闇属性の魔力に変換する匣兵器を持ってくる。それに死炎を注入した黒江は、変換されて放出される魔力を慌ててポッドの中に吸い込ませる。
「あとはガラスを入れて小瓶を合成して……小瓶の中に【風のチャクラ瓶】を合成する」
「え! 黒江姉……チャクラってなに?」
「私もよく分からない。アルケミーブックによれば、死ぬ気の炎と魔力を混ぜると
死ぬ気の炎は生命エネルギーを司り、魔力は精神エネルギーを司る。それら二つの心身エネルギーを練り合わせることでチャクラが生まれる。チャクラにも属性があり陽・火・水・雷・土・風・隠の基本属性・七種が確認されている。
「昔の忍者が使っていたみたいだけど……それ以上のことは書いてなかった」
「へぇー! 忍者かぁ! ってことは、そのくのいちは魔法少女なのに死ぬ気の炎も使えたってことだよね? なんかすごいや!」
「チャクラを練るには全く同じ配分で死炎と魔力を組み合わせる必要があるから、相当修行したんだろうね。なんか普通の魔法少女と比べて一段階上の実力者って感じがする」
黒江は集中して雲の炎と闇の魔力を混ぜ合わせる。配分が狂う分だけ損失が生まれるため、なるべくロスなく、必要量のチャクラの合成に成功する。
「ふぅ……これで下準備は整った。次でラスト……図鑑によれば半日は掛かる。気合を入れていこう」
「おでこの汗を拭くね!」
「黒江、おみず!」
「ありがとう、二人とも……」
フゥ太が汗をぬぐい、イーピンが水を飲ませる。
それから長い合成が始まった。
《風の妖精》《角ばった杖》《風のチャクラ瓶》……その三つを合成し、完成品が出来上がる頃には、朝焼けが夕焼けに変わっていた。
「────っ! ぷはぁ……! 完成したぁ……!」
完成して集中力が途切れた黒江は、汗だくの体で尻餅を搗く。それに付き合ったフゥ太とイーピンも──凪から貸してもらったトランプやボードゲームで暇を潰し遊びつつだったが──半日の作業を見届けてお疲れの黒江に抱きつく。
「何ができたの?」
「凪さん。見てください。これが────【
アルケミーポッドから飛び出したるは、風の妖精が宿る
ちなみにデュンファリとは、北欧の妖精境で知られる名であり、一陣の風に乗って八世界を旅する妖精のことである。
「ふぅ……今日は疲れた……続きはまた明日にしよう」
「え! 黒江姉、まだ武器を作るの?」
「うん。だって身を守れる方法は、たくさんあった方がいいでしょ?」
それから夕飯を終えた黒江たちは、ソファの上で団子になって眠りに就いた。
†
早朝。朝食を終えた黒江は、さっそく合成に取り掛かる。やや疲れが溜まっているが、それより財布の中身はカツカツだ。今日中に合成を終わらせて明日には帰らないと、空腹を癒すために電車代まで使ってしまうほどには金欠だ。
(まぁ朝に発てば夜には帰れないこともない距離だけど……いや、子供のフゥ太とイーピンには厳しいか。よし、がんばろう……!)
もう二度と死ぬわけには行かない。逃げたところで戦わなきゃ殺される。
戦いや死への恐怖を咬み殺すことで絶望するが、同時に生きて誰かの役に立つため希望に渇く。
「フゥ太、イーピン、今日もよろしくね。まずは《魔魂石の欠片》を二個と《雪の終末時計》をちょうだい」
「はい! 《雪の終末時計》は、雪の魔女が落とす素材だね!」
「まずは欠片を磨り潰して粉末にして……時計を分解して終末と寒波の概念を抽出して……粉末と終末と寒波を合成して……コアを作る」
雪の魔女。その特性は寒波。その属性は魔。その性質は調和と噴射。
《魔魂石の粉末》と《雪の終末時計》を混ぜ合わせて【冬刻みの妖精】を合成。
「次は金属片を合成して普通の《ショートソード》を作る。そして《狼の牙》と《ショートソード》を混ぜ合わせることで【群れる狼の剣】を合成する」
「狼の牙は、狼の魔女の手下が落とす素材だね。もしかして狼の魔女って、元は魔法少女じゃなくて魔法生物だったのかな?」
狼の魔女の手下。その役割は威嚇。元々は絶滅したニホンオオカミの魔法生物であった。
「やっぱり最後の仕上げは半日かかる……すごいものを作ろうとすると、基本的に時間が掛かるものなんだね……」
「でも疲れたら中断できるんでしょ?」
「でも中断して時間が空くとイメージが崩れちゃうかも知れないし……できるなら一発通しで終わらせたいよね」
《冬刻みの妖精》と《群れる狼の剣》をポッドの中に投入する。
そして黒江は懐から“一発の弾丸”を取り出した。
「これはパンテーラさんから貰った弾丸。なんでこんなものくれたのかさっぱり分からないけど、試しにアルケミーブックに見せたら死炎系の特殊弾であることが判明した。通称“嘆き弾”……」
「わぁ! それってトマゾファミリー秘伝の特殊弾だ! それを合成に使うの? 冬刻みの妖精と? これはもしかするとスゴイものが出来上がるかもしれないね!」
嘆き弾。それは被弾者を“嘆き状態”にする特殊弾のこと。マイナスエネルギーの塊。ボンゴレ初代の奥義・死ぬ気の零地点突破を模倣して造られた兵器とされる。これにボンゴレ二代目は苦しめられたとも、アルケミーブックには記されていた。
そして時計の短針は一週し、朝の九時が夜の十時を回っていた。
「────…………できた……もうダメ……目の前に剣の幻覚が見える……幻覚なのに触れることもできる……それくらい強くイメージした……」
「黒江姉、もう休んだ方がいいよ! イーピン、餃子拳で黒江姉を寝かせて! ずっと座ってて体が凍りついたように凝り固まっちゃったみたいだ!」
「わかった! ハッ!」
餃子拳によって体が勝手に動き、ソファに倒れた黒江はそのまま爆睡した。
「……何を作ったの?」
凪が問いかける。フゥ太はアルケミーブックを開いて合成品の詳細を読み上げた。
「えーっと……【
ちなみにフィンブルとは、北欧の妖精境で知られる名であり、終末に近付く三度の冬を指折り数える冷酷妖精のことである。
「だって! かっこいいね!」
「……うん。ところでフゥ太。彼女が起きたら伝えてほしいことがあるの」
「なに?」
「たぶんアルケミーキットは万能。だから昨日、私の匣兵器を使って雲の炎を闇の魔力に変換したけど、たぶんポッドの中に雲の炎を注げば、念じるだけで闇の魔力に変換できるはず」
「……ポッド自体が変換炉の役割も果たすってこと? 言われてみればそうだね。盲点だったよ」
「それと匣兵器も仕組みさえ分かれば、たぶん作れる。私が施術魔法で作る匣兵器は、根本を見直すと二つのルールしかない。それは“エネルギーが切れたら匣兵器に自動的に戻る”“開匣者に危害を加えてはならない”という設定。この二つを意識すれば、私と同じような匣兵器が出来るはず」
「わかった! あした伝えておくよ!」
かくして彼らは眠りに就いた。大きな合成は一日がかりの作業となる。夜遅くまで頑張って起きていたイーピンは黒江の腕の中に潜り込んで毛布を被せ、フゥ太も黒江と背中合わせで寝付く。その体に毛布をかけた凪は、同じソファで就寝した。
†