アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
4月22日【あなたのせいで
黒江が転がり込んで一日が過ぎた。
昼下がりのみかづき荘では、リビングのカウンター席を挟んで七海やちよと黒江が会話している。
「元魔法少女の錬金術師、悪魔の連れの魔法少女、世界中のマフィアに追われている少年、殺し屋の赤ん坊……何度聞いても頭が痛くなるメンツね。改めて聞くけど、厄介事は舞い込んでこないのよね?」
「フゥ太によれば、なんでも悪魔さんが居る限り、マフィアはフゥ太に手出しができないようなので……この家にマフィアが襲撃を仕掛けてくる心配はないと思います……たぶん。イーピンにも殺し屋稼業はやめてもらえるよう頼んだら“今は修業中だから分かった”とのことで……」
「そう。まぁ悪魔もその危険性があるなら連れ込んでこないでしょうし……それにしても相変わらず正体不明よね、彼」
「そう、ですね……」
悪魔の記憶を覗いたことがある黒江は、ほんの少しだが悪魔がイタリアンマフィアの関係者であることを知っている。だが詳しくは知らない。魔法界に関わった理由については、その悲劇を見たことがあるため語れるが、それは軽々と誰かに教えて良いことではないだろう。故に黒江は知らないふりを通す。
「七海さん。紅茶ありがとうございます。美味しかったです。それじゃあ私は、ちょっと用事があるので……」
「そう。いってらっしゃい。──ちなみにどこに行くのか聞いてもいいかしら?」
「あ、えっと、その……」
「……言いにくいことなら隠しても構わないのよ? その代わり保護対象ではなく監視対象に切り替わるだけだから」
「調整屋です! 調整屋に行ってきます! なので保護してもらえると助かります……」
「いってらっしゃい」
目を閉じた余裕の態度で七海やちよはカップを洗う。
それに会釈した黒江は、そそくさとみかづき荘を後にした。
(そうだよね……これからお世話になるんだから、せめて七海さんにだけは明かしておかないと……)
保険は多い方がいい。困った時に助けてくれる居場所を増やそうと考えていた黒江は、二番目の拠点候補に向かう。
†
夕刻の新西区・廃墟街の一角に佇む神浜ミレナ座。そこには八雲みたまが営む調整屋が存在する。
「おじゃましまーす……」
悪魔から教えてもらった場所。入店する前に深呼吸し、戦々恐々と扉を開けて薄暗闇のロビーを進む。再び鉄扉を前にして開くと、奥には幻想的な大広間があり、まばらに家具が置かれていた。
狐色のステンドグラスの手前に人影。魔法衣装に身を包む銀髪少女は気配を感じて振り返る。
「あらぁ。今日はレアなお客さんねぇ……どういうご用件かしら?」
「えっと……その、まず確認なんですが……ここは調整屋、なんですよね?」
「ピンポーン。そして私は調整屋を切り盛りする可憐な美少女、八雲みたまでぇす!」
「あ……私は黒江と言います。今日は
「あら。そんなビジネスマンみたいなこと初めて言われたわぁ。それじゃあお茶を出すべきかしら。そこの椅子に座ってちょっと待っててね」
通された黒江は椅子に座り待機。奥の部屋から戻ってきた八雲みたまは茶を配る。
その間、黒江の心臓は高鳴っていた。この商談がうまくいかなければ神浜市で活動することが難しくなる。仮に失敗してもみかづき荘という保険があるため、しばらくは問題ないだろう。だが問題が発生した時は大変なことになる。その時のために調停役が欲しい。だからこそ今日ここにやって来た。合成屋としての勇気を振り絞って。
「それで? 商談って、具体的に?」
「えっと……単刀直入に言いますと、合成屋の私を守ってほしいんです」
「────合成屋?」
八雲みたまは目を点にする。そこで気付いた。黒江の指に嵌められているリングはどれも死炎製リング。ソウルジェムが変形したものではない。魔力パターンも皆無。つまり目の前にいる女の子は
「……ちょ、ちょっとまって。あなた……魔法少女じゃないの?」
「え? あ、すみません。申し遅れました。私、その……なんというか、元・魔法少女と言いますか……これ以上は、その……悪魔さんから口止めされているので、すみません……」
「……!」
悪魔。その名を聞いた八雲みたまは目を見張り訝しむ。
(それじゃあやっぱり悪魔契約って本当だったのね……この前ももこたちの調整をした時、とんでもない記憶を覗いちゃって心底驚いたのよね……みんな一足先に
「……あなたの事情は大体わかったわ。でも合成屋って本気で言ってるの? 古代に存在した錬金術師たち……今ではその数は激減している。理由は様々だけど、語り継がれているものはどれも、その在り方が調整屋以上に呪われているからだとか」
「はい……そこらへんの石ころを合成するだけで金塊ができるんですもんね……純粋な魔法界では、お金はさしたる物差しにはならないようですが……どうしても一般社会と繋がりの深い魔法少女の界隈となると、そうもいかないようで……いわば宝石店強盗に遭いまくりの憂き目に遭うとか、なんとか……」
故にこそ黒江は、合成屋として生き残る手段を求めてここに来た。
「となると、あなたの商談というのは……」
「はい。合成屋の私を守ってもらいたいんです。今はみかづき荘に身を寄せていて、周りの魔法少女は私を合成屋と知っても知らなくても守ってくれると言ってくれているんですが……それでも不測の事態が起きた時のために、中立の調整屋さんには頼っておきたくて……」
「……そうね。黒江さんの立場からしたら、調整屋はこれ以上ない安全地帯だものね」
技術あっての調整屋と、道具あっての合成屋。
調整屋を殺せば調整は不可能だが、合成屋を殺せば多少の合成は可能。
故に魔法少女は調整屋に手出しできないが、合成屋に手出しすることはできる。
そこで合成屋が用心棒といった後ろ盾を欲しがるのは当然の話だ。
「では私のプランを言います。──まず合成屋は、調整屋としか合成品を取引しません。その代わり調整屋は、合成屋の存在を秘匿してほしいんです。……私は誰かの役に立てればそれでいい。だから、もし調整屋以外の魔法少女が合成品を欲しがれば、合成品の売買も調整屋が行うことで、とにかく合成屋の存在を秘匿してほしいんです」
「でも合成品が出回れば、必ず出処を問われるわ」
「それはその、なんとか“企業秘密”ということで……誰も調整屋さんには強く出られないでしょうし……。さらに、合成屋に危害を加えれば、それが調整屋の不利益に働くため、合成屋にちょっかいをかけた魔法少女は永久調整不可とする……そういうルールを作ることができれば、身を守れるかなって……」
そこで八雲みたまは、可愛いものを見るような笑顔でにっこりと微笑んだ。
「黒江さんって、本当に純粋ね。こういう駆け引きにはとんと向いていないわぁ……」
「え? な、何かダメだったでしょうか!? も、もちろん調整屋さんの利益になるよう、私は頑張りますので! 今の条件を受け入れるためには、合成屋が調整屋の半身のように大事な存在にならなければいけないと思うので……!」
「そうねぇ。たしかにそうだわぁ」
「そ、それで、こちら……私が作ったものです……!」
黒江は魔女避けの護石・烈風の杖・冬狼剣などといった合成品を十数種類取り出す。
「わぁ……本当に色々なものを作れるのね。これ全部魔女の血肉から作ったんでしょう? 目玉が飛んだり、ランタンの灯りが綺麗だったり、面白いわねぇ……杖を振るったら風が出てくるのも、なんだか正統派の魔法少女っぽいわぁ」
「そ、そうですね……それで、どうでしょうか? 私のプラン、受け入れてもらえるでしょうか?」
商談というよりも懇願。そんな感じで黒江は冷や汗を流し佇む。
そのあまりにもいじらしい姿を見せられて、いじりたくならない調整屋はいなかった。
「そうねぇ……どうしようかしらねぇ……ここで何か実際に、私の役に立つものを合成してもらわないと、やる気になれないかもねぇ……」
「も……もちろんです! えっと、何をお作りしましょうか!?」
「それじゃあ……最近、大剣での戦闘を考えているの。ももこっていう魔法少女から大剣の振り方を教わったりしてね。つまり魔法戦闘に耐える武器を作ってほしいの。合成屋さん、できるかしら?」
「はい! ただいま! あらかじめ素材は集めてきておりますので!」
廃墟街に訪れた時、あちこちに散らばる廃材を全てアルケミーキットの中に吸い取っていた。図鑑をめくる黒江は魔法武器・大剣の合成法を検索し、
「色々細かく作れるのねぇ……でも今回はお試しだし、この無骨な大剣でいいわ。攻撃力はなくてもいいわ。頑丈だったらそれでいいの」
「分かりました。これの合成時間目安は三十分程度ですね。少々お待ち下さい!」
黒江は合成を開始する。
「まずは廃材の金属をキレイに錬成して……魔女の血肉を凝縮して頑丈な芯を合成して……金属と芯を合わせて剣状に伸ばして……」
そして予定時刻通り、黒江は《鉄塊大剣》を合成して八雲みたまに譲渡した。
「あら。霧の構築で作った大剣より、遥かに魔力が通りやすいわ……やっぱりレプリカより実物の方が効率的にイイのね。ありがとう、黒江さん」
「……! それでは……」
「えぇ。と言っても実は、最初から受けるつもりでいたのよ」
「?」
「調整屋ネットワークで、リヴィア先生から話は聞いていたの。名指しで頼まれたワケじゃないけど、もし黒江という女の子が居たら調整屋の総力を挙げて守ってあげてほしい……って」
「……! そんなことが……」
「と言っても、いい人だなんて思っちゃダメよ? きっと先生はリスクなく合成品が欲しいだけなんだものぉ!」
かくして取引は成立した。
「最後に簡潔にまとめましょうか」
ルール1:調整屋はビジネスライクで合成屋の存在を秘匿・保護し、その活動を支援する。
ルール2:調整屋は合成屋と取引した合成品を、よその魔法少女と売買しても構わない。当然、売上の一部は合成屋に還元。
ルール3:
「こんな感じかしら? 正直ルール3については、かなり迷ったのだけれどね。私たちは中立存在だから誰かに味方することはない。でもそれは魔法少女の話。ただの一般人の女の子はその中立条件には含まれない……という解釈で通させてもらうわ。これを聞いたらリヴィア先生、怒るだろうけど」
「えっ……怒られちゃうんですか? なら、あの……別にルール3は……ちょっと強すぎるルールだとも思っていましたし……ルール1さえあるのなら、私はそれで十分なので……」
「──……ふふっ。こんなに都合のいい条件を自分でフイにする人、初めて見たわ。……でもいいの。これはここだけのローカルルール。そういうことにしておきましょう」
本来なら許されないことだ。中立存在に例外は認められない。調整屋の面汚し、調整屋としては失格。そう言われても仕方がない危険なルールと言える。それでも八雲みたまは自ら受け入れた。それは調整屋として、既に道を踏み外している自分を罪悪感ゆえにあえて追い込んだとも取れる。
それを知らない黒江は礼を言って踵を返す。
そこでベージュ色の髪の少女とすれ違った。
「こんにちは」
「こ、こんにちは……」
黒江は会釈して、そそくさとみかづき荘に立ち去る。
入れ替わりに調整屋に入ってきたベージュ髪の少女は、にこやかに挨拶した。
「こんにちは、調整屋さん。私は美国織莉子と申します。なにぶん初めてなので勝手が分からないのですが、調整……していただけるのですか?」
「もちろんよぉ。お客様が増えるのは嬉しいことだわぁ。いらっしゃ~い。さぁ、こちらの椅子に座って~」
八雲みたまは鉄塊大剣を家具に立て掛けて茶を片し掃除する。
そこで懐から一枚のペルソナカードを取り出した美国織莉子は、突然八雲みたまの背後から抱き着くように覆いかぶさった。
「っ!?」
「動かないで。これ、見覚えあるでしょう? 無属性のペルソナカード……」
八雲みたまの肩にアゴを置いて頬をすり合わせる美国織莉子は、艶かしい手を這わせて八雲みたまの左手の甲を触る。
「私の固有魔法は《未来予知》……抵抗したあなたは私のスタンドで倒される。すると一人の未来が閉ざされる。それだけは嫌でしょう?」
「…………お、脅しのつもり? 言っとくけど、調整屋に手を出したら……」
「────あなたのせいで
美国織莉子の吐息が八雲みたまの右耳に掛かり、八雲みたまの左手にペルソナカードが持たされる。
「────っ!」
振り返ると、そこに美国織莉子の姿はなかった。いくら魔法少女でも瞬間移動系の魔法なしで一瞬で消え去ることはできないはず。
「……《速度低下》魔法で、私が振り返るまでに数秒の時間が掛かった……そういうことね」
八雲みたまは知っていた。美国織莉子と呉キリカの素性を。
それはなぜか? 彼女が中立を破っているからにほかならない。
「……………………」
八雲みたまは手に持たされたペルソナカードを見やる。漠然とした不安感が心中に渦巻く。スマホを取り出して通話を掛けるが和泉十七夜に繋がらない。まさかと思うや否や、八雲みたまは大剣を手に取ると構築魔力で迷彩を施し、臨時休業の看板を掛けて駆け出した。
目指すは大東区。美国織莉子の目的は不明だが、罠だろうがなんだろうが友を見捨てることはできない。その一心で八雲みたまはビルの屋上から屋上を飛び越え、神浜市を横断していった。
†
時は遡り。
昼下がりの植物園にてマギウスの三巨頭が集う。会議内容は次の通り。
マギウスの傘下に入ることを拒否した東側の代表者・和泉十七夜は、将来的にマギウスの邪魔になる可能性を見越し、あらかじめ手を打つことにした。今回の作戦は成功すれば和泉十七夜を弱体化させるが、もし失敗すれば和泉十七夜を超強化させてしまう。だが、今回の作戦の成否はどちらでもよい。なぜなら成否に関わらずマギウスの有利に働く見積もりになっている。
協力者の情報によれば、和泉十七夜は神浜市の東西軋轢を無くしたいと願っている。そのため一度神浜という土地の歴史を焼却して滅ぼし、東西概念を消失させ、神浜の人間が一丸となって手を取り合う世界を夢想している。その計画は、くだんの協力者にだけ語った胸の内ということなので信ぴょう性は高いと思われる。
「わたくしたちとしても、神浜市が一度焼却されて
「ということで実行部隊。よろしく頼んだよ。作戦名は《
†