アクマレコード 魔法少女ヒットマンDIAVOLO! 作:形のない者
昼というにはまだ早い頃。水名区の公園にて。悪魔と昴かずみが散策していると、何やら人だかりを発見する。
「あれなんだろ?」
「行ってみるか?」
昴かずみが興味を持って足を運び、人だかりの隙間を縫って奥を覗くと、そこには見覚えのある人物が立っていた。パシャパシャとカメラの音が鳴り、照明が忙しなく仕事する。
「あ、やちよさんだ!」ピョンピョンと飛び跳ねて人混みの向こうを見やる昴かずみ。
「ならこれは例のモデル業とその見物人か」悪魔は無差別に発動する超直感を逆用して、人混みの奥にいる七海やちよの存在を直感する。
どうやら七海やちよはモデルとして有名なようだ。おしゃれな服を着て様々なポーズを毎秒取る。カメラマンの方も毎秒二回以上シャッターを切る。早業のような仕事は長く、カメラマンがオーケーを出すと、七海やちよは衣装替えのためワゴン車の中に入っていった。
「あぁ見えなくなっちゃう! 悪魔さん、肩車してもいい!?」
「おい……こら……」
返答を待たず悪魔の背中からよじ登って肩車させた昴かずみは、手を傘に見立てて日光を遮るよう額に当て遠望する。
(活発な奴だな……まぁ緊張しているよりかはいいが……)
トランクから出てきた時は混乱と緊張のあまり萎縮していたが、今ではスライス秋山の料理教室大会を経て外の世界に対する自信が付いて来たのかオープンに動くようになっている。同時に遠慮も無くなってきたのが玉に瑕だが。
「……!」
そこで悪魔は強烈な感情を直感した。人混みの中に七海やちよへの対抗心と崇拝の念が入り混じった複雑な思いを持つ者がいると知る。辺りを見渡すと指をかじる金髪ツインテール青目の
「ぐぬぬ……かわいい────ではなく! この神浜随一の絶世的美少女・
「莉愛ちゃん。そんなに歯を食いしばっていたら奥歯が砕けちゃいますよ」
「ファンとライバルの間で板挟みにあっているんですねぇ……理屈は分かるかもですぅ」
そこで悪魔は声をかける。昴かずみを肩車したまま近付き挨拶。
「よぉ。久しぶりだな」
「……! 悪魔さん!」
「お久しぶりですぅ!」
「? こ、この方たちは……どちら様かしら?」
なぜに肩車? とツッコミたそうな顔で阿見莉愛はうろたえる。
「オレは悪魔だ。よろしく」
「チャオ! 昴かずみだよ! よろしくね!」
「それで、魔法少女のお前たちに聞きたいんだが……こいつ……昴かずみって子を知らないか?」
梢麻友、史乃沙優希、阿見莉愛は互いの顔を見て首を横に振る。
「いえ……初対面です」
「右に同じく。何かあったんですか?」
「私も知らないですわ」
「そうか。いや、気にしないでくれ」
悪魔は話を打ち切る。それならばと梢麻友が雑談を始めた。
「そういえばこの前、悪魔さんと出会った日の夜、きれいな流星群が流れたんですよ。知っていましたか?」
「あ、それ沙優希も見たのですぅ! 黄金に光り輝く嵐のような星が流れていて、ライブみたいに綺麗だったのですぅ!」
「それなら私も見ましたわ。ちょうどモデルの仕事をやっていましたので、流星群をバックに撮影させてもらいました」
その話を聞いた悪魔は思う。
(それはおそらく、オレと
どうやら流星群は三人にとって良い思い出になっているようで。特に真実を語る必要もないため悪魔は調子を合わせておく。
「たしかにアレは光景だけ見ればキレイだった」
「ですよね……!」
「ちなみに流星群といえば、流れ星すなわち隕石から造られた流星刀という代物があってですねぇ……」
「史乃さんは流れるように刀トークが出てきますのね……」
ふと群衆がわっと盛り上がる。新たな衣装に着替えた七海やちよが車から出てきたようだ。阿見莉愛は“ギュイン”と首を振り向けて七海やちよを注視。ファンである前にライバルとして、ポージングやウォーキングの観察に集中する。
そこで横合いから歓声が入る。聞き覚えのある声だ。
「やちよししょー! かっこいいよー!」
「モキュー!」
「つ、鶴乃ちゃん! リリス! こういうのってあんまり騒ぐと良くないんじゃ……」
「ねぇ、お姉ちゃん。本当にわたしを肩車して大丈夫なの?」
「│疲れたのなら、私が代わる│」
環いろはは「全然平気だよ!」と興奮気味で、環ういの重みを全身に感じていた。
「わぁ見てほむらちゃん。やちよさんカッコイイね!」
「うん。とてもかわいいわ……」
普通の女の子らしくモデルを見て目を輝かせる鹿目まどかと、そんな彼女を見て「かわいい」を連呼する暁美ほむら。どちらも見ている方向が違うのは平常運転か。
「あいつらもいたのか。さっきより人も多くなってきたし、そろそろ退散しよう。このままじゃ埋もれちまうぞ」
「そうだね。それにお腹もすいてきたし!」
「……待て。さっきゲストが作った料理を全て平らげたばかりだろ。まさに毒を食らわば皿までって感じで……」
「うーん……どうやら私、かなりの大食漢みたい……?」
人混みを抜け出た悪魔は昴かずみを肩から降ろし、再び霧の幻惑迷彩をまとってバスの天井に飛び乗る。
「次はどこに行くの?」
「さてな。それはバスの運転手のみぞ知る」
†
真上から燦々と日光が照りつける中央区の駅前広場。待ち合わせスポットして使われる噴水の周りには佇立する人が多く、老若男女問わず歩く人でごった返している。そんな場所にバスが停まり、悪魔と昴かずみは飛び降りる。
「中央区か」
「……! いい匂いがいっぱい!」
「繁華街が近いからな」
悪魔と昴かずみは散策を開始。
そこで見覚えのある少女たちと遭遇した。都ひなの・木崎衣美里・綾野梨花・五十鈴れんの四人組が前方から歩いてくる。
「ん? あれは……悪魔じゃないか?」
「え? おぉ! クマ吉じゃん! おっひさー!」
半月ぶりだろうか。都ひなのと木崎衣美里が手を振る。
悪魔は手を挙げて答え、昴かずみは元気よく挨拶する。
「チャオ! 昴かずみだよ!」
「────え、うそ。めっちゃかわいい……」
「!?」
ふとした綾野梨花のマジボイスに五十鈴れんは驚愕する。
「よろしくな。アタシは都ひなの。こっちのギャルは木崎衣美里」
「私は綾野梨花!」
「い……れんです……」
「みんなよろしく! ……ところで悪魔って、いっぱい友達がいるんだね?」
「ただの知り合いだ」
そこまで深い関係ではない。そう悪魔が答えると、木崎衣美里は背中をバシバシ叩いて腕を引っ張る。
「そう冷たいこと言わないでさ! あーしらこれからカラオケ行くんだよねー! クマ吉とかずみんも来ない?」
「金がない」
「あぁダイジョブグッジョブ! 今日はみゃーこ先輩のおごりなんだよねー!」
「悪魔……わたし、お腹すいた……」
昴かずみの腹がぐるぐると鳴る。
「……言っとくが、こいつ大食漢だぞ」
「いっぱい食べる君が好きってね! じゃあみんなで歌いまくって食べまくろー!」
「おい、一応アタシの財布も気遣ってくれよ……?」
戦々恐々とする都ひなのだが、悪魔と昴かずみへの奢りを拒否することはなく、一行はカラオケ店へ。
薄暗い個室。照り光るミラーボール。向かい合うソファには悪魔と都ひなのと木崎衣美里、昴かずみと綾野梨花と五十鈴れんが座る。いの一番にタッチパネルを手に取って料理のメニューを注視する昴かずみ。注文が終われば木崎衣美里が曲を選択し、今流行りの音楽が流れ始める。
「イェーイ! 手拍子タンバリンで盛り上げよろしくー!」
歌って踊って食べるギャルたち。姿勢を楽にして見守っていた悪魔は、木崎衣美里にタンバリンを渡されて盛り上げ役に任命される。
そして悪魔の番が回ってくる。木崎衣美里から手渡されるタッチパネル。
「へい次はクマ吉だぜ☆」
「オレはいいよ」
「そう遠慮すんなって! 好きな音楽とかある?」
「……まぁ、歌謡曲とか」
「それって
「どちらかというと昭和歌謡とか、演歌とかかな……」
「え、いーじゃんいーじゃん! そんじゃクマ吉のこぶしを利かせてもらおうか!」
仕方なしと悪魔は立ち上がり、マイクを受け取って台座に立つ。
「黙って聴いとけ」
それは手拍子やタンバリンは不要という意味か。よく歌詞を聴いてほしいと言いたげに、悪魔は人生とは何かを歌で示す。
♪~川の流れのように~♪
約五分の静寂のような川のせせらぎのような音楽が終了する。テレビに映される点数は80点。死ぬ気で歌った思いは届いただろうか。最初に拍手が上がったのは五十鈴れんの席からだった。
悪魔はマイクを返して席に戻る。
「やっぱり悪魔さんってクールだね」
「……!」
綾野梨花と五十鈴れんは互いに耳打ちする。
そこで昴かずみにマイクが渡った。
「ありがとう。でもわたし、知ってる歌がない……」
「デジマ? ならさっきあーしが歌ったの覚えてる?」
「うん」
「んじゃデュエットしよっ!」
それからは一人ずつ歌うのではなく、二人組や三人組で歌い合う曲が続いた。
かくして一時間の時が流れ、テーブルの上は白い皿が積み重なり、ギャルたちは歌いきったことで疲れ果てていた。
「ぜはー! 歌ったぜー!」背中からソファに倒れる木崎衣美里。
「サイッコーだったね!」ぜえぜえと息せき切る綾野梨花。
「喉が痛い……れん、のど飴いるか?」都ひなのはのど飴を配る。
「は……はい。ください……」常に小声で歌っていた五十鈴れんだが今回は楽しくて歌いすぎたようだ。
「わたしはまだ歌えるし食べられるよ!」昴かずみは台座の上で飛び跳ねる。
「少しは自重しろ」そんな彼女からマイクとタッチパネルを取り上げる悪魔。
終了時間が来たためカラオケボックスを出てレジに並ぶ。都ひなのは代金を聞くと「うげっ!?」と驚き、ちょっと後悔しつつ手痛い出費を財布から払う。
「サンキューみゃーこ先輩! 次はあーしらが奢るからさっ!」
「すまないな」
「いや、気にしないでくれ。今日は魔法少女の疲れを癒す会みたいなものだったんだ」
カラオケ店を出る。そこで綾野梨花が聞いた。
「悪魔とかずみはこれからどこ行くの? アタシたちゲーセン寄るつもりだけど」
「栄区に用事があってな。カラオケ楽しかった。ありがとうな」
「みんなチャオ! またカラオケやろうね! 超楽しかった!」
「アタシもチョー楽しかった! またね!」
魔法少女たちは笑顔で手を振り別れる。
それから悪魔と昴かずみはバスに飛び乗り、栄区に向かった。
†
昼過ぎの栄区・栄総合学園の廊下にて。美術部G室の戸を叩いて開けた悪魔は、昴かずみを連れて中にお邪魔する。
「よぉ。久しぶり」
「あ、デビ太郎なの! アリナ先輩、部員でもない幽霊部員がやって来たの! しかもガールフレンド連れなの! どう考えても常識がないの!」
「常識がないのはフールガールだヨネ。何があっても静かにしろって言ったのもう忘れたワケ?」
「ごめんなさいなの……」
アリナ・グレイの背中の圧に押しのけられた御園かりんは黙り込んで漫画を描き進める。
「相変わらずだな。──ところでアリナ、これを見てほしいんだ。感想と技術的な指南が欲しい。そんな偉そうなこと言えないような初心者であることは理解しているが」
開匣。カンバスが飛び出てくる。それに描かれているものは、都会の大通りに立つ巨大ロボ。両隣をビルに挟まれているが、頭部は屋上より高い位置にある。一般人が巨大ロボを見上げるような斜め下の視点から描かれたソレは、しかしランボの
アリナは立ち上がると振り返り、ふと昴かずみと目と目が合う。
「……ハ? なんでアンタがデビルボーイと一緒にいるワケ?」
「────っ!?」
その時、昴かずみの緊張が最高潮に高まったことを悪魔は直感する。それは警戒心。だが敵意は感じない。
一方、アリナの方は疑念を感じつつも急速的に興味が薄れていく情動を直感した。
「……待て。二人とも、互いを知っているのか?」
悪魔の問いに二人は答えない。ただ視線を交差させて昴かずみは固まっており、アリナ・グレイは興味なさそうに視線を逸らしてカンバスに目を向けた。
「まぁ別にイイケド。アリナは理想のアートワークさえできればそれで文句ないカラ。アナタがどこで何してようがアリナには関係ないワケ」
「……!」
悪魔の手からカンバスをぶんどったアリナは、不味そうなものを食べたように眉をひそめて腕を組む。
「待てアリナ。こいつは昴かずみって言うんだ。何か知っているなら教えてくれ。記憶喪失なんだ」
「アートと関係ない話題はアリナ興味ないんダヨネ。アートワークの邪魔するなら後ろ向いてゴー」
「感想を聞くか、かずみのことを聞くか、どちらか選べってことか? ならかずみ一択だ」
「あっそ。────まぁアリナも詳しいことは知らないんダヨネ。捕まえろって言うから捕まえたダケ。その後の行方はワカラナイ」
「捕まえた? かずみは黒いトランクの中から出てきたんだ。まさかアリナ────」
「黒いトランク? アリナが知ってるのはコレダケ。話は終わり。バイバイ」
嘘は付いていない。だが必要最低限の情報で済ませている雰囲気はある。それは興味がない故か、何かを隠しているからか。おそらく前者だろう。後者であれば悪魔が見抜けないはずがない。
「かずみ。アリナを知っているのか? しっかりしろ」
肩を揺さぶる。すると昴かずみは緊張が解けて頷いた。
「え……? あ、うん……その、なんか……わたしを捕まえた人の声と似ているなって思って……」
「似ているんじゃなくて、アリナがアナタを捕まえたって言ったヨネ? そんなに怖がらなくても取って食ったりはしないんデスケド」
アリナ・グレイは事実を話している。そこに何かの意図は一切感じない。ただ思い返すままに話している。
(っ────厄介だな……本当はもっと情報を持っているはずだ。しかし本当にアートにしか興味がないから超直感でも読み取れない。あらゆることの興味関心が薄すぎるんだ。何かを隠す気が少しでもあれば、一気に全てを読み取れるのに……)
悪魔はマッドアーティストの感性を疑う。超直感があっても読心に手こずる人物は、インキュベーターを除けばアリナ・グレイが初めてだ。
(ここで問い詰めることもできる。だがそれは────何かマズイ気がする。もし戦闘に発展するようなことがあれば、アリナは容赦なく、かりんを巻き込むだろう。友情はあるが自らの目的達成のためには二の次という狂気がアリナにはある。ここで事を荒立てるような真似をすれば事態が急変しかねない……)
悪魔とアリナ・グレイは対極だ。目的達成よりも周りの安全を考慮する悪魔は、一旦この場を退くことを決める。
「……かずみ、帰るぞ」
悪魔はカンバスを匣に収納すると、昴かずみの腕を取って部室の戸に手をかける。
「あぁそれと────
「──……そうか。ありがとな」
なんだかんだ言って感想と指導をくれたアリナ・グレイは、無言でアートワークを再開する。
部室の戸を閉めて廊下を歩く。霧の構築によって制服を着ているように見せかけている悪魔と昴かずみは、生徒とすれ違っても怪しまれない。
「……ひとつのことに一途でひたむきな奴は怖いな。まさかマギウス関係者だったとは。オレとしたことが全く気付かなかった」
「……マギウス?」
「この街に巣食う魔法少女たちの秘密結社だ。おそらくかずみの記憶喪失と関係している。……なぁ、お前が見たものをもっと詳しく教えてくれないか?」
昴かずみは思い返す。見知らぬ研究所のような部屋。目覚めた時にはずぶ濡れで全裸だった。小さい女の子が二人、小難しい話をしてくる。危険を感じて逃げようとしたら、緑色の結界に閉じ込められて、黒いトランクに移された。
「ぶっちゃけその時のことは、あまりよく覚えてないんだ……すごく眠くて、体も思うように動かなかったし……」
「……みかづき荘の時もそうだったが……やけに話が抽象的に聞こえるのは、そのとき眠かったからか」
「うん。だからさっきのアリナって人も、わたしの勘違いかな? って思ったんだけど……」
「本人が自白したな。アリナからも詳しい話を聞きたかったが、あのまま踏み込んだ話をしていれば戦闘に発展していた可能性が高い。すまないな……」
「ううん! わたしもアホ毛センサーがビンビンに反応してたから、むしろ連れ出してくれて助かったよ! なんか体が怖がっちゃって、身動きが取れなかったから……」
昴かずみのアリナ・グレイに対する恐怖は、本能的なものか、それとも囚われたトラウマによるものか。おそらくどちらもだろうと悪魔は判断する。
「かずみは不思議だな」
「え?」
「記憶喪失とはいえ、あまりにも初体験の出来事に対する関心が高い。料理やモデル、カラオケに絵画、どれも真新しそうに見る。まさに
その違いはなんだろうか。そう悪魔は悩ましそうに呟く。
昴かずみも考えるように頭を悩ます。だが分からないことを考えても仕方がない。
「空っぽの中に手を突っ込んでも何も手に取れない。自然と湧いて出てくるのを待つしかない」
「……そうだね」
あまり考えすぎないように。そんな悪魔の言葉に昴かずみは礼を言って頷く。
やがて栄区の広場に到着。時計台から一時間に一回の音楽が流れ始め、人々が一斉に踊りだす。
「わぁ! 待って悪魔! わたし、あれ気になる!」
「初めて食べ物以外で強く興味を示したな……」
昴かずみは周囲の踊りを目にし、見よう見まねで体を揺らす。噴水の縁に座った悪魔はそれを眺めていたが、昴かずみに手を取られて「いっしょに踊ろ!」と引っ張り上げられる。仕方ないとため息をついた悪魔は、アリナから学んだ踊りで昴かずみをエスコート。栄区の通行人たちは踊り明かし、音楽の終わりと共に各々の目的地へ歩き去る。先程まで手を取って共に踊っていたカップルも、実は初対面だったようで会釈ひとつで別れていった。
かくして芸術の街・栄区の自由広場ダンスを楽しんだ二人は、次なる目的地に向かうためバスに飛び乗った。
†